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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)7085号 判決

原告(反訴被告) 株式会社高橋羅紗店 外一名

被告(反訴原告) 瀬川吉次

主文

本訴原告両名が本訴被告に対し、別紙記載約束手形の手形金支払義務を負つていないことを確認する。

本訴被告は本訴原告株式会社高橋羅紗店に別紙記載の約束手形を引渡さなければならない。

反訴原告の請求を棄却する。

訴訟費用は本訴反訴を通じ、本訴被告(反訴原告)の負担とする。

事実

本訴原告(反訴被告、以下単に原告という)両名訴訟代理人は、本訴につき「主文第一、二項同旨および訴訟費用は本訴被告(反訴原告、以下単に被告という)の負担とする」との判決を求め、次のように述べた。

「被告は別紙記載約束手形三通を所持し、これを各その支払日、支払場所に呈示したが、不払となつたので、原告両名にその支払義務があると主張している。然し、次に述べる理由により、原告等には、その支払義務がない。

(一)  別紙記載(三)の約束手形は、手形要件である振出日の記載を欠いているので、無効な手形である。すなわち、原告等は右手形金を支払う義務を負担しない。

被告が、その補充権を有し、これを補充記載したところで、その呈示は補充されることなくしてされているので、有効な手形の呈示がなされたことにはならない。従つて、少くとも、その裏書人である原告高橋に関する限り、右手形金支払義務を負担するものではない。

(二)  本件手形の原因関係が、次のとおり無効であるから、原告等は本件手形金支払義務がない。

すなわち、被告は原告会社に対し、昭和二七年一一月二三日七五万円を、同年一二月一二日には三一九、一二五円を、利息は日歩二〇銭と定めて貸付け、原告高橋はその連帯保証人となつた。その債務支払の方法として、原告会社は、約束手形を原告高橋にあてて振出し、原告高橋から被告に裏書交付した。その手形を書替えたのが本件手形である。

ところが、被告は、昭和二六年五月原告会社設立の当初から、原告会社の取締役であつたのであるから、原告会社取締役会の承認がなければ、原告会社と有効に取引をすることはできない。(商法第二六五条)前記の被告と原告会社間の消費貸借契約は、取締役会の承認なくしてなされたものであるから、無効である。従つて、原告会社は被告に対し消費貸借上の債務を負うことなく、保証人の原告高橋としても、主債務が存在しない以上、被告に対しなんら債務を負担しない。

右消費貸借契約が当然無効でなく、取消し得るに止るものであるならば、原告会社は本訴でその取消の意思表示をする。

(三)  次に、原告会社は被告に対し、次のとおり合計一、六〇〇、九一四円の債権を有するから、これを以て右手形金債務と対当額において相殺する旨、昭和二八年八月一五日被告に対し相殺の意思表示をした。従つて、仮に、原告等が本件手形金支払義務を負担していたとしても、それはすでに右相殺により消滅している。

右反対債権の内容は次のとおりである。

(イ)被告は、前記のように、原告会社の取締役でありながら、取締役会の承認を受けることなく、原告会社に左のとおり金銭を貸付け、原告会社に日歩一五銭ないし二〇銭の約定利率による利息金の支払として、次のとおり金員を交付せしめた。

貸付日      貸金額 原告会社の支払つた利息金

1  昭二七、四、一七     五〇万円  二二、五〇〇円

2  〃   〃 二三 二九三、〇六〇円  一四、五〇六円

3  〃   〃 三〇     五〇万円  二二、五〇〇円

4  〃   五、一〇     五〇万円  二二、五〇〇円

5  〃   四、二三 二九三、〇六〇円  二七、六九四円

6  〃   五、二三     五〇万円  二三、二五〇円

7  〃   〃 二九     五〇万円  二二、五〇〇円

8  〃   〃 三一     五〇万円  二三、二五〇円

9  〃   六、 八     五〇万円  二二、五〇〇円

10  〃   〃 二三     五〇万円  二二、五〇〇円

11  昭二七、四、二三 二九三、〇六〇円  四〇、八八一円

12  〃   四、三〇 二九三、〇六〇円  五一、八七一円

13  〃   六、 七     三〇万円  二八、三五〇円

14  〃   〃  五    一二〇万円 一一七、〇〇〇円

15  〃   〃  〃    一五〇万円  二〇、二五〇円

16  〃   〃 一〇     五〇万円  五三、二五〇円

17  〃   〃 一四     五〇万円  五〇、二五〇円

18  〃   七、二一     五〇万円  二二、五〇〇円

19  〃   〃 一五     三〇万円  一六、二〇〇円

20  〃   四、三〇 二九三、〇六〇円  六五、四九八円

21  〃   八、二〇     三〇万円  一四、四〇〇円

22  〃  一〇、二二     五〇万円  二四、〇〇〇円

23  〃  一二、一二     五〇万円  六〇、〇〇〇円

24  〃   〃 二五     五〇万円  六二、〇〇〇円

25  〃   〃 一二     一〇万円  一三、六〇〇円

26  〃   〃  〃     一〇万円  一五、六〇〇円

27  〃   〃  〃      六万円  一〇、三二〇円

28  〃   〃  〃 四二〇、八七五円  七九、九六六円

29  〃   〃  〃 三一九、一二五円  五四、二五一円

30  〃  一〇、一八    一〇〇万円 一〇八、〇〇〇円

合計    一、一三一、八八七円

右消費貸借契約は、前記のとおり無効である。従つて原告会社が右契約上の利息金として、被告に支払つた右一、一三一、八八七円は、これを支払うべき原因なくして支払われたことになり、被告は原告会社の損失において右額の利得をしたのであるから、これを原告会社に返還する義務がある。(ロ)被告は原告会社の金融部門を担当する取締役であつたが、原告会社のため、原告会社の権利に属する後記一覧表記載の約束手形を割引し金融を受けるべく、株式会社東京相互銀行に右手形を差入れ、原告のため借入金を受取つた。その際同銀行が徴した割引料は後記一覧表記載のとおり日歩三銭五厘の割合によるものであつたのに、被告は、原告会社に対しては他から日歩一五銭ないし二〇銭の利息金を払つて借りたと称して、後記一覧表記載の金額を差引いた残金のみを交付し、右両者の差額合計四六九、〇二七円は、これを原告に渡さないで、領得してしまつた。原告会社は同額の損失を受けたことになる。

これは、被告が、取締役として原告会社に対し負う忠実義務に違反した債務不履行、または不法行為の結果であるから、被告は原告会社に対し、右損害を賠償する義務がある。

被告に、右損害賠償義務がないとしても、被告は原告会社からたのまれて右割引に当つたのであるから、銀行から受けた割引金全部を即時原告会社に引渡さなければならないのに、そのうち四六九、〇二七円の引渡しをしないから、原告会社は被告にその支払を求め得る。

仮に、右請求権がないとすれば、後記一覧表記載(被告が支払つたと称する割引料)日歩一五銭ないし二〇銭の割合による割引料計五六六、七二〇円は、原告会社が委任事務処理費用として被告に交付した結果になるが、被告が実際にその費用、すなわち割引料として銀行に支払つたのは、右一覧表の銀行が実際にとつた割引料らんに記載の九七、六九三円に止まり、その差額四六九、〇二七円は、処理費用として残つたわけであるから、被告はこれを原告に返還する義務がある。

仮に、前記各請求権がなかつたとしても、被告は右金員を領得する法律上の理由がないから、原告会社としては、不当利得として前記金額の返還請求権を有する。

一覧表

割引年月日

割引手形の振出人

額面金額

被告が支払つたと称する割引料

銀行が実際にとつた割引料

上二者の差

1二七、七、一五

矢口商店

九三二、〇〇〇円

一四九、二八〇円

三四、八三二円

一一四、四四八円

2〃 〃 〃

田中商店

六二三、五〇〇円

3〃 〃 二五

興亜被服

六二〇、〇〇〇円

四三、七一〇円

七、八一二円

三八、八九八円

4〃 〃 三〇

緑屋

五三〇、〇〇〇円

四六、九〇五円

八、七一九円

三八、一八六円

5〃 八、一四

丸井

三〇〇、〇〇〇円

二二、九五〇円

一一、七六〇円

四七、一九〇円

6〃 〃 〃

五〇〇、〇〇〇円

三六、〇〇〇円

7〃 九、三

共同印刷

二五三、五五〇円

四五、三七五円

一四、七七〇円

四三、一〇五円

8〃 〃 〃

小川産業

五〇〇、〇〇〇円

三二、五〇〇円

9〃 一〇、六

緑屋

一、〇〇〇、〇〇〇円

一九〇、〇〇〇円

一九、八〇〇円

一七〇、二〇〇円

五六六、七二〇円

九七、六九三円

四六九、〇二七円

以上、(イ)(ロ)合計一、六〇〇、九一四円が前記相殺につき原告会社のもつていた債権である。

(四)  右相殺によつて、本件手形金債権が消滅しなかつたとしても、原告会社はさらに、昭和三一年一〇月二二日被告に対し有する一三二、五〇〇円の債権を以て、本件手形金債務と対当額において相殺する旨相殺の意思表示をした。その範囲で本件手形金債務は消滅した。右債権とは、原告会社が被告に対して有する株金払込債権とその遅延利息金債権である。すなわち、原告会社は原告高橋外六名が発起人となり、資本金一〇〇万円、一株の金額五〇〇円、総株数二、〇〇〇株の株式会社として、昭和二六年五月九日設立した。被告は昭和二六年四月二六日原告会社の株式二〇〇株を引受けた。その株金払込期日は同年五月四日であつたが、被告はその払込をしなかつた。すなわち、原告会社は被告に対し右株金一〇万円とこれにつき払込日翌日の昭和二六年五月五日から昭和三一年一〇月四日まで年六分の割合による遅延利息金三二、五〇〇円との合計一三二、五〇〇円の支払請求権を右相殺当時有していたのである。

(五)  仮に、以上の主張に理由がないとしても、本件手形はいずれも原告会社からその代表取締役である原告高橋に対して振出し交付されたものであるところ、その振出交付について原告会社取締役会の承認がないから、右振出は無効である。従つて、原告会社としては、被告が右手形取得の際前記振出無効の事情を知つていたか、否かにかかわらず、本件手形金支払義務を負うものではないが、被告は右無効の事情を知つて取得したものである。

このような無効の手形の裏書人である原告高橋としても、被告に本件手形金支払義務を負わないものと解するのが正しいと思うからそう主張する。

以上の理由で、原告等は、被告に対し本件手形金債務を負うものでないのに、被告はこれありと主張しているから、その不存在確認を求めるとともに、そのように支払義務のない原告会社振出手形を被告が所持している理由はないから、その返還を求める。」

被告訴訟代理人は、本訴につき、「原告の請求を棄却する」との判決を求め、次のように述べた。

「被告は原告主張の約束手形の所持人であり、従つて原告等に対し右手形に基く請求権を有する。

原告主張(一)(二)の事実は認める。然し、(二)の事実があるからといつて、原告会社と被告との間の消費貸借契約が無効となるものではない。すなわち、商法第二六五条にいう「取引」とは、会社の利益を害するおそれのある行為ないし会社と取締役との利害が衝突するおそれある行為に限られるのであつて、すべての行為が右取引に含まれるわけではない。同条に明示されている「取締役が会社から金銭の貸付を受け」る場合と反対に、会社が取締役から金銭の貸付を受けるのは、会社にとつて利益でこそあれ、損害をおよぼすおそれがあることなく、利害関係の衝突を来すべきおそれもないのであつてこのような行為は同条所定の取引に当らないものというべく、従つて取締役会の承認がなくとも有効になされ得るものである。

同様にして、原告主張(五)の事実も認めるが、手形の振出行為自体は前記の条文所定の取引に当らないのであつて、右(二)(五)の事実があるからといつて、原告等に本件手形金の支払義務がないということにはならない。

原告等主張(三)の(イ)について。そのうち1 3 6 7 10 16 は原告会社がその振出しないし所持する約束手形、小切手を武新十郎から割引を受けるに当り、原告会社が武に支払つた割引料、2 5 8 11 22 23 24 30 は同様西郷保平に支払つた割引料であり被告はその一部について割引の仲介をしたにすぎず、12 20 21 25 26 27 28 29 については被告は全く関知していない。すなわち、被告は、右各項の貸金をしたことなく従つてそこで原告主張の利息金なるものの支払を受けたこともないまた同4 9 13 14 15 17 18は被告が原告会社のため手形等を割引くに当り、受けた割引料であるが、右割引が商法第二六五条所定の取引に当らないことは前述のところから明かであり、被告は原告会社にその主張金員を返還する義務を負うものではない。

原告等主張(三)の(ロ)について。被告は原告会社の金融部門担当取締役であつたと原告等はいうが、事実に反する。被告は、原告高橋にたのまれて、名義だけ取締役となつていたもので、原告会社取締役としては全く仕事をしていない。個人的に、原告会社役員からたのまれて、原告会社のため、金融の便を計つてやつたことがあるだけである。以下原告等主張の各手形割引について述べる。

その12について。被告は、原告会社代表者の原告高橋、専務取締役高島与八から、12記載手形により原告会社のため金融してもらいたい、その利息は日歩一五銭か二〇銭程度でとのたのみをうけ東京相互銀行でこれを割引いてもらい、原告会社にその金を交付したのであるが、当時原告会社は同銀行から限度以上の借入れをしていたため、被告が同銀行と交渉した結果、被告個人として同銀行に当座預金をする(その額は常に二〇万円以上あること)ほか、さらに右割引手形金額の一割に当る金額の定期預金をすることなどの条件でようやく被告が代表者をしている大栄繊維株式会社名で割引貸出をうけることを同銀行に承諾させた。従つて、被告が同銀行から受取つたのは、三銭五厘の率により割引金利三四、八三二円と、右定期預金にあてられる一五五、〇〇〇円とを差引いた一、三六五、一六八円であつたが、原告会社に対しては、初めの話しに従つて、日歩一五銭計算した一四九、二八〇円のみを差引いた一、四〇六、三〇〇円を交付したのである。すなわち、これにより原告は金融上の急場をようやく切りぬけられたのに反し、被告は前記のとおり原告会社のため多大の経済的なぎせいを負担したのである。

3について。同様原告会社からの依頼で、その六二万円の手形を武新十郎に割引いてもらい、日歩一五銭の割合による割引料四三、七一〇円を差引かれた金額を受取つたので、これをそのまま原告会社に交付した。たゞし、同年八月になつて、武から急に現金がいるので右手形で金を作つてもらいたいといわれ、同月六日東京相互銀行でさらに割引いてもらい、日歩三銭五厘の率による割引料七、八一二円のほか、前約による定期預金分六二、〇〇〇円を差引かれた五五〇、一八八円を受とり、これに被告が不足分を加えて武に返金したしだいで、原告会社の主張は失当である。

4について。原告会社は高木某から借りていた五〇万円の返済期が、七月三〇日になつていたので、同日被告に対し、本件五三万円の手形の割引をたのんで来た。被告から西郷保平にたのんだところ一〇日間ほどならば融通するとのことであつたので、一応同人に日歩一五銭の割引料を支払つて割引いてもらい、その割引金を原告会社にわたした。西郷との間では約により、八月一一日右手形を前記銀行で割引いてもらい、その金で西郷に返済した。

56について。同様原告会社から本件手形による融資をたのまれ三〇万円分は被告が自ら、五〇万円分は武から融通を受け、(いずれも日歩一五銭の金利)原告会社に交付した。八月二〇日右両手形は前同様東京相互銀行でさらに割引いてもらつて、武から借りた分は清算返金した。

78について。原告等主張の九月三日でなく、同月二七日原告会社は共同印刷振出二五万円(原告主張二五三、五五〇円の手形ではない)と小川産業振出しの五〇万円手形とを持つて、融資をたのんで来たので、日歩一五銭の金利を差引いた金をわたし、融資した。

9について。原告からこの手形による融資方依頼をうけ、被告は原告高橋、高島取締役とともに西郷保平にあつてたのんだ。西郷は一月間だけなら融通するといつたが、右手形支払日は九五日先であつたので、一月後は被告が肩がわりすることとして、日歩二〇銭の割合による金利一九万円を差引いた割引金を西郷から直接原告高橋等が交付をうけた。約により、被告は一一月四日右手形を東京相互銀行で再び割引いてもらい、西郷に返金し、肩替りの約をはたしたのである。

以上のように、原告等主張の割引等は、被告が原告等のたのみで定められた利率によつて金融を計つてやつたものであり、その財源をどこに求めようと、あるいは手形をどこで割引しようと、原告会社に口をいれられるべきところはなく、その間被告が利得をうけたとしても、これを原告会社にひきわたすべき理由はなく、またこの場合の被告の行為は、原告会社取締役としてでなく、被告個人としてのことなのであるから、忠実義務違反などといわれるべきところなく、その間何のうそいつわりも不法なところもないのであるから不法行為の責任のとわれるべきものもない。

原告会社から何らかの委任をうけたわけでもない。また右割引、金融が商法第二六五条で無効になるわけでないから、不当利得ということはないし、仮に無効であつても、原告会社の払つた金利などは非債弁済であるから原告会社はその返還を請求する権利はない。

原告等主張の(四)について。昭和二六年三月ころ原告高橋は、被告に対し原告会社を設立するについて発起人となつてもらいたいとの話を持つて来たが、被告は各人現実に払込をする会社なら同意するが、形式だけの会社ならことわると答えた。ところが、原告高橋は現実に株金の払込をすることもなく、原告会社を設立し、さらに、被告に対し株式二〇〇株をわりあて、取締役の名義を借りたからよろしくたのむといつて来た。被告は、各人現実に払込むならば、被告も割当株式に対する払込金を提供すると主張したが、誰も払込をせず、そのうちに払込むと称してそのままになつてしまつた。会社設立後払込未済の株式は発起人が連帯してその払込をする義務があるから、その責任は発起人である原告高橋等にある。

以上のように、原告等の本訴請求は失当であるが、仮に原告等主張(二)(五)の理由により、原告会社と被告との間の取引が無効であるとするならば、被告は本件手形を原告会社に返すが、同時に、原告会社はこの手形交付によつて受けた対価を不当利得として被告に返還すべきであるから、被告は本件手形返還につき同時履行の抗弁を主張する。」

被告訴訟代理人は、反訴につき「原告等は、被告に対し一、〇六九、一二五円およびうち五六、九一二五円については昭和二八年三月六日から、五〇万円について同月二五日から、昭和二九年六月一四日までは年一割、同月一五日から支払済までは年一割八分の割合による会員とを各支払わなければならない。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決と仮執行の宣言とを求め、請求原因として次のように述べた。

「本訴答弁において述べたとおり、被告は原告会社に対し、昭和二七年一一月二三日五〇万円および二五万円、同年一二月一二日三一九、一二五円を弁済期六〇日後、利息日歩二〇銭の約で貸付け、原告高橋は右債務につき連帯保証人となつた。その支払日はその後右二五万円と三一九、一二五円とについては、昭和二八年三月五日に、五〇万円については同月二四日に改められた。その支払のため振出され、裏書されたのが、原告等主張の約束手形である。

原告等は、右期日をすぎても、右借金の返済をしないから、被告は原告等に対し右元金合計一、〇六九、一二五円とこれにつき各支払日翌日から遅延利息金として利息制限法所定限度内の年一割(昭和二九年六月一四日まで)、六月一五日からは新法により年一割八分の率による金員の連帯支払を求める。その他の主張は本訴におけるのと同一である。」

原告等訴訟代理人は「反訴請求を棄却する」との判決を求め、次のように述べた。

「原告等が本訴を提起したのは、昭和一八年八月二一日、すでに結審も近い昭和三一年六月に至つて提起された被告の反訴は、故意または重大な過失によつて時機におくれた攻撃防禦方法の提出であり、その審理のため訴訟の完結をおくらせるものであるから、まずその却下の決定を求める。

被告主張貸金の事実は認めるが、原告等にその支払義務がないことは本訴について述べたとおりである。」

証拠として、原告等訴訟代理人は甲第一ないし第三四号証、第三五号証の一、二、第三七号証の一、二、第三八ないし第五〇号証を提出し、証人中村重男、栗原完、高橋房治郎の証言を援用し、

被告訴訟代理人は、乙第一ないし第五号証を提出し、証人高島与八の証言を援用し、甲第二四ないし第三五号証の成立は不知、その他の甲号各証の成立を認めると述べ、

原告等訴訟代理人は、乙号各証の成立を認めると述べた。

理由

一、別紙記載(三)の約束手形(額面五〇万円のもの)は、その振出日の記載表示を欠いていること当事者間に争がない。すなわち、右手形はその要件を欠くもので無効である。その振出人、裏書人である原告両名は、右手形による支払義務を負担しない。

二、別紙記載手形は、被告が原告会社に利率日歩二〇銭、支払日六月后の約で昭和二七年一一月および一二月に貸付けた金員返済のため原告会社が振出し、その連帯保証人となつた原告高橋が裏書し、被告に交付した手形の書替えられたものであること、被告は、原告会社の当時取締役であつたが、右貸付について原告会社取締役会の承認がなかつたことは当事者間に争がない。そうすると右の被告と原告会社との間の金銭消費貸借契約は商法第二六五条の規定に反するもので、無効である。同条が、取締役と会社との間の利害相反するおそれがある取引、会社に損失を与えるおそれある取引を禁じた規定であることは被告の主張するとおりであるが、取締役から会社に金銭を貸付ける契約も、会社に対し、所定の時期に借受けた金銭、さらに利息金、損害金を支払うべき債務を負担させることになるのであり、その内容いかんによつては、必しも常に会社にとつて利益であるとは限らず、あるいは、貸主である取締役と利害相反するおそれがないとはいいきれないから、かかる契約も同条所定の取引として、取締役会の承認がなければ、有効になし得ないものと解すべきである。

そうすると、原告会社は、右消費貸借契約上の債務を負担せず、従つてその連帯保証人である原告高橋としても被告に対し右借受金の返済義務を負担しない。従つて、その債務支払のため振出され、あるいは裏書交付された本件約束手形金についても、原告両名は被告に対しその支払義務を負担するものではない。

すなわち、別紙記載約束手形につき、その支払義務がないことの確認を求める原告等の本訴請求は、他の点を判断するまでもなく、理由があるからこれを認容する。

また、右のように、無効な原因関係に基き振出しあるいは裏書され、従つてその手形上の義務者の何人も支払義務を負わない本件手形を所持する被告は、その振出人である原告会社の請求に応じ、右手形を返還すべきものと解されるから、その返還を求める原告会社の請求も正当として認容する。

前記のように、被告と原告会社との間の消費貸借契約が無効である以上、原告会社は右契約に際し借受金として受取つた金銭は、これを不当利得として被告に返済すべきものと解されるが、それだからといつて本件手形金を手形金として支払わなければならないものでないし、また、右不当利得金の返還と本件約束手形(それは、そこに表示されている手形金の支払を何人にも求められない以上、一片の紙として、価値なきに等しい)返還とは対価関係に立つものとは認められないから、被告主張の同時履行の抗弁は採用しない。

被告の反訴請求について、反訴の提起は民事訴訟法第一三九条にいう攻撃または防禦の方法に当らないし、その他被告の反訴提起を妨げるべき理由は何も見当らないから、原告等がその却下を求めるのは、全く理由がない。

然しながら、被告が反訴において主張する消費貸借契約が無効であると解すべきことは前示のとおりであるから、被告の反訴請求は理由がない。

以上のように、原告等の本訴請求は、理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求はこれを棄却する。訴訟費用は本訴反訴を通じ敗訴した被告の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判官 西川正世)

目録

(一) 振出日昭和二八年二月五日、振出人原告株式会社高橋羅紗店額面二五万円、振出地支払地東京都千代田区、支払場所株式会社三和銀行神田支店、支払日昭和二八年三月五日、受取人(裏書人)原告高橋久雄、

(二) 額面三一九、一二五円、その他右(一)に同じ

(三) 額面五〇万円、支払日昭和二八年三月二四日、振出日の記載なしその他(一)に同じ

の約束手形

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