大判例

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東京地方裁判所 昭和29年(タ)94号 判決

原告 佐脇みつ

被告 渡辺養雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

公文書であるから真正に成立したものと推認する甲第二号証(戸籍謄本)によれば原告と被告とは昭和二十三年二月十七日戸籍管掌者に対する届出により婚姻して、夫婦となつた事実が明瞭である。

そして右甲第二号証によれば原告と被告とが昭和二十八年二月十九日〔甲第一号証には同年同月十八日と記載されているが、これは右甲第二号証と甲第三号証(原告と被告との離婚届書)との記載に対比すれば誤記と認める。〕戸籍管掌者東京都大田区長に対し協議離婚の届出をしたことになつている事実が明かである。

ところが、原告は被告と離婚する意思はなく、従つて被告との離婚を承諾したことも該離婚届書に署名捺印をしたこともないから、右届出による離婚は無効である、と主張し、被告は右離婚は原告と被告とが合意の上該協議離婚の届出をしたことに基づくものである、と抗争するから考えるに証人大沢甚造、同森史郎の各証言、並びに同証言により真正に成立したものと認める甲第三号証(離婚届書)乙第一号証(覚書)乙第二号証(領収書)乙第四号証(誓約書)を綜合すれば原告と被告とは性格の相違等から夫婦が不和の間柄であつたところ、原告は昭和二十七年十一月頃予て知合の訴外大沢甚造に対し被告との離婚並びに被告に対する手切金の請求の斡旋を依頼したので、右訴外人は原被告の間を斡旋した結果昭和二十八年一月三十一日頃原告と被告とは訴外大沢甚造、同森史郎が立会の上、協議離婚をすること並びにその離婚の届出手続を右大沢甚造に一任することを合意し、且つ被告は原告に対し手切金その他として金百九十万円を支払うことを約した。そこで右大沢甚造は同日附で後日原被告間に紛争の生ずることを避けるため、原被告は合意の上離婚を決定し、被告は原告に金百九十万円を手切金その他として支払つた。これにより原告は被告に対し何等の要求もしない旨の覚書を作成した上、特に原告をして、署名拇印せしめ、更に原告から原被告の離婚届に使用するため印章を預つた。そして被告は原告に対し右約旨に基き現金百三十万円、約束手形六枚(各金額十万円)計百九十万円を交付し、原告は被告と離婚するため同日自己の所持品一切を持ち原告方を立ち去つた。そこで右訴外大沢甚造は原被告からの前記依頼に基き、昭和二十八年二月十九日附で原告と被告との離婚届書を作成して、原告名下に予て預つていた印章を押捺し、同訴外人及び訴外森史郎が右離婚の証人となりてそれぞれ署名捺印して、これを完成した上東京都世田谷区長に対しこれを提出し、そしてこれが受理された事実を肯認することができる。右認定に反する原告本人尋問の結果は措信し難いし、その他に右認定を左右する資料はない。

元来書面による離婚の届出は、その当事者が署名した書面で、これをしなければならないことは民法第七百六十四条、第七百三十九条第二項、戸籍法第二十九条、第七十六条の定めるところである。ただし、届出人が署名することができないときは、氏名は代書させて、印を押さしめ、そしてその書面にその事由を記載することによつて、これをすることができることは戸籍法施行規則第六十二条の定めるところである。ところで本件離婚の届出は前記認定のとおり原告の届出人氏名は訴外大沢甚造が記入したものであり、甲第三号証によれば、原告の氏名を代書した事由の記載を欠いていることを認め得るので、一応違法のものと認められるけれども、前認定のとおり本件当事者は協議離婚を合意し、且つその離婚の届出をする意思を有しており、これに基いてその届出がなされ、そしてこれが受理せられたものであるから、結局その効力を生ずるものと解する。よつて前記届出による原告と被告との離婚が無効であることの確認を求める原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中宗雄)

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