大判例

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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)1597号 判決

原告 西村金属株式会社

右代表者 西村寅吉

右代理人弁護士 江波戸文夫

被告 島藤建設株式会社

右代表者 佐藤菊雄

同 島田正

右代理人弁護士 戸田宗孝

同 小林庸男

主文

被告は原告に対し、金九十四万六千九百九十四円及び右に対する昭和二十九年四月十一日から昭和三十一年八月三日までの年六分の割合による金員につき、被告の申立にかかる東京地方裁判所昭和三十一年(ヨ)第六号和議申立事件の別紙和議条件による支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、先ず、本訴における客観的利益の有無について、判断する。

被告会社について、昭和三十一年八月四日和議開始決定があり、同年十月二日別紙和議条件による和議認可決定がなされ、右決定が同年十一月一日に確定したこと、原告会社が右和議事件につき本訴債権の届出をなし、和議管財人及び和議債権者集会によつて全額承認されたことは、当事者間に争いない。而して原告は本訴債権が右のように、和議管財人及び和議債権者集会によつて全額承認されたにもかかわらず、被告は一貫してその存在を争つているので、右債権の確認を求める利益があると主張し、更に右のような被告の態度と現在のような経済上の変動期にあつては、長期にわたる別紙和議条件による本訴債権の履行を期待し得ないので将来の給付をも請求すると主張する。

さて、確認の訴が、給付の訴に対して、補充的従属的なものでなく、独立の訴の類型として存在することは言うまでもないところである。しかし、元来確認の訴は権利の観念的形成をなすに止まり、その事実的形成を直接予想するものでない。一方、給付の訴は、将来の給付の訴も勿論そうであるが、訴訟物たる権利の観念的形成に止まらず、更に事実的形成を直接前提とするものである。従つて、より抜本的紛争解決の手段として権利の事実的形成を予想する将来の給付請求をする場合には、権利の観念的形成をなすに止まり、終局的に紛争を解決させる現実的方法を伴わない確認請求の如きは、特別の事情のない限り、確認の利益を欠くものというべきである。

これを本件についてみても、原告の本訴債権の確認を求める請求部分が、以上説示の理由により、失当であることは明らかであるから、これを棄却すべきものとする。

次に、将来の給付請求に対する被告の本案前の抗弁について考える。

被告は、仮りに本件債務が存在したとしても、その履行方法につき別紙和議条件のとおりの契約が当事者間に成立したと解されるところ、右によれば、履行期は未到来であり、而も将来の給付請求をなすべき必要もないから、原告の右請求は訴の利益を欠くものとして却下されるべきと主張する。しかし、原告の本訴債権について、(その存否は論外として、)被告が従来一貫してその存在を争つている以上、別紙和議条件による以上、別紙和議条件により被告がその給付をなすべき時期が到来しても、これをなさない虞れがあるものと認められるので、原告としては、本訴債権につき別紙和議条件による将来の給付請求をすべき必要があるものと認め、この点に関する被告の抗弁を排斥する。

二、よつて進んで本案について判断する。

原告会社及び被告会社がそれぞれ原告主張のような業務を営む株式会社であること、当事者間に原告主張のような鉄材の取引がなされたこと、右取引より生じた代金総額金百三十二万四千八百七十八円のうち金百八十七万七千八百八十四円が支払われたことは、いずれも当事者間に争いない。

被告は右金百八十七万七千八百八十四円のほかに原告会社の代理人である訴外戸原震一を通じて原告会社に対し、昭和二十八年十二月二日金八十四万五千九百円、同月二十日金十五万四千百円、昭和二十九年一月十九日金四十四万六千九百五十四円、合計金百四十四万六千九百五十四円を支払つたと主張するので、証拠を調べてみると、被告主張の日時に、被告主張の金額が被告と右戸原との間に授受されたことは、証人戸原震一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証乃至第三号証及び証人戸原震一、同五百住清之進の各証言により認められないわけではない。しかしながら、右金員授受の趣旨については、原本の存在及びその成立に争いない甲第二号証、甲第三号証及び証人戸原震一の証言を綜合すると、右金員は、被告会社が、東京電力株式会社又は電源開発株式会社から土木工事の発注を受けるための運動資金として、当八雲商事株式会社の代表取締役として他の会社間に介在しブローカー的な仕事に携つていた右戸原に支払われたものであること、従つて、本件売買代金の支払に充てられたものではないこと、而もこの事情は被告会社においても諒承していたこと、以上の事実を認めることができる。なるほど、前記の乙第一、二号証の各領収書は、いずれも、原告会社名義となつており、乙第三号証の領収書も、右戸原が原告会社の代理人名義で作成したものであるけれども、証人戸原震一、同西村勝太郎、同中村金太郎、同鈴木康雄の各証言にかんがみると、本件売買代金の受領を証するために、原告会社において作成交付したものと認めることはできない。以上、諸認定に反する証人五百住清之進の証言は当裁判所の措信しないところであり、他に右認定を左右するに足る証拠もない。そうだとすると、被告の前記抗弁及び原告会社が右戸原に対し本件売買代金の受領についての代理権付与の表示をしたと主張する仮定的抗弁は、いずれも、その前提を欠くものとして、失当たるを免かれない。

そこで最後に被告の主張する原告の請求抛棄に関する特約の有無につき判断する。

原告の本訴提起前、原告、被告会社の重役達が、本件売買残代金の支払につき会見、交渉をしたことは、当事者間に争いがない。而して、被告はこの交渉において、原告会社は、被告会社の昭和二十九年三月二十六日振出にかかる額面金五十万円の約束手形を受領することによつて、本件売買代金に関する一切の請求を抛棄する旨約諾したと主張し、証人五百住清之進の証言中には、右主張にそうような部分があるけれども、右証言部分は、証人西村勝太郎、同中村金太郎の各証言と対比して、にわかに措信し難く、反つて、これらの証言によると、被告会社の右未払代金債務の弁済については、将来の取引において徐々に決済する旨の約定が成立したに止まること、従つて、右金五十万円の約束手形も、本件売買代金の一部として原告に支払われたものであることを認めることができる。

以上の次第であるから原告の本訴請求中、本件売買残代金債務金九十四万六千九百九十四円及びこれに対するその支払期日であること当事者間に争いのない昭和二十九年四月十日の翌日から前記和議開始決定があつた日の前日である昭和三十一年八月三日までの商法所定の年六分の割合による遅延損害金債務について、別紙和議条件による支払を求める原告の請求部分だけを正当として、認容し、その余の請求は、前記のとおり、訴の客観的利益を欠くものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤井一雄)

〈以下省略〉

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