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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)2033号 判決

原告 大和証券株式会社

被告 尾高喜勝

主文

原告の請求は何れも之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は

(一)(イ)、被告は原告に対し別紙第一目録記載の株券及び投資信託受益証券を引渡せ。

(ロ)、もし右請求が理由ないときは、

被告は原告に対し被告が原告より金百七十万円の支払を受けるのと引換に別紙第一目録記載の株券及び投資信託受益証券を引渡せ。

(二)、右株券中、別紙第一目録1、2記載の株券については譲渡裏書をした上又は譲渡証書を添付して引渡せ。

(三)、被告は原告に対し別紙第二目録記載の株券を、譲渡裏書をした上又は譲渡証書を添付して引渡せ。

(四)、被告は原告に対し別紙第三目録記載の株券を、被告が原告より一株につき金三十七円五十銭の割合による金員の支払を受けるのと引換に譲渡裏書をした上又は譲渡証書を添付して引渡せ。

(五)、前各項の株券及び投資信託受益証券の引渡が不能の時は、被告は原告に対しその引渡不能のものにつき別紙第一乃至第三目録中各時価欄記載の金員及び之に対する引渡不能の日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(六)、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並に仮執行の宣言を求め

二、その請求の原因として、

(一)、(別紙第一目録記載の株券等の引渡について)

(1)、被告は別紙第一目録1乃至5記載の記名株券及び6記載の無記名式投資信託受益証券を所持している。

(2)、原告は株券その他の有価証券の売買取次を業とする株式会社であるが、前記株券及び証券は原告会社新宿支店がその顧客から寄託を受けて保管占有していたものであるが、原告会社新宿支店の従業員たる訴外林一雄に昭和二十九年七月頃から同三十年四月頃までの間に窃取されたものである。

(3)、原告は右株券及び証券の占有を侵奪されたものであるから民法第百九十三条に謂う被害者に該るから同条に基き被告に対し右株券及び証券の引渡を求める。尚同目録1、2記載の各株券は従来訴外岡市太郎名義であつたが現在被告名義となつているから右株券については原告に対し譲渡裏書をした上又は譲渡証書を添付して引渡を求める。尚民法第百九十三条により請求する場合は原状回復の手段としてかゝる請求を為しうるものと解すべきである。

(4)、仮に原告の右主張にして理由なしとしても、原告は昭和三十年九月中に、右株券の寄託者たる岡市太郎及び証券の寄託者たる佐藤こと及び大山元に対し夫々代替品を交付するとともに右株券及び証券の所有権並に之に基く一切の請求権の譲渡を受けたものであるから右株券及び証券の所有者と謂うべきである。よつて民法第百九十三条に謂う被害者に該るから同条に基き前記二、(一)の(3) と同一の請求をする。

(5)、仮に被告が訴外林一雄に対し金員を貸与し、右株券及び証券を担保として取得したものであり、右が公の市場において善意取得した場合に該当するものとすれば被告が右林に貸与した金員は金二百七十万円であり、内金百万円はその返還を受けているものであるから原告はその差額金百七十万円を被告に支払えば民法第百九十四条により右株券等の返還を求めうるものであるから原告は被告に対し右金百七十万円の支払と引換に右株券及び証券の引渡を求める。尚記名株券については前同様譲渡裏書をした上又は譲渡証書を添付して引渡を求める。

(6)、尚右株券及び証券は何れも動産と解すべきであるから、動産に関する民法第百九十三条の規定の適用ありと謂うべきである。即ち

(イ)、第一目録1乃至5記載の各株券は何れも記名株券であるけれども、昭和十三年法律第七十二号による商法改正において、a、第二百五条を以て裏書譲渡の方法を定め、b、第二百二十九条の善意取得の規定を設け、c、第二百三十条の公示催告手続を設けたが、これ等一連の改正規定をみれば、同改正により、株券は有価証券性を強め、裏書又は譲渡証書添付による流通が可能となつたことから考え記名株券は無記名債権と同視しうるに至つた。

(ロ)、同目録6記載の証券は無記名債権である。

よつて右株券及び証券は何れも無記名債権として動産と解すべきであるから、動産に関する民法第百九十三条の規定の適用があるものと謂うべきである。

(7)、仮に右株券及び証券につき民法第百九十三条の適用がないとしても、原告が昭和三十年九月中に右株券及び証券の所有権を取得したことは前記二、(一)の(4) 記載の通りであるから、原告は右所有権に基き前記二、(一)、(3) と同一の請求をする。尚原告は右譲受につき株券については裏書及び株券の交付を、投資信託受益証券については証券の交付を何れも受けていないが、本件の場合は右の様な対抗要件を備える要はないと解すべきである。

(二)、(別紙第二、第三目録記載の株券の引渡について)

(1)、被告は第二目録記載の株券を訴外旭化成工業株式会社に直接占有せしめて間接に之を占有し、又第三目録記載の株券を直接に占有している。、

(2)、右各株券は第一目録1、2記載の株式に対する新株として第二目録記載の株券は無償で、第三目録記載の株券は一株につき金三十七円五十銭で(無償部分金十二円五十銭)、夫々割当を受けたものである。

(3)、併しながら右各新株割当の基本となつた親株たる第一目録1、2記載の株式は何れも原告の所有に属することは前述の通りであるから会社が新株を割当発行すると同時に右各新株は当然に親株の所有者たる原告の所有に帰したものであつて、会社が親株の権利者を被告と誤認し被告に対して右各新株を発行したことによつて原告の権利には何らの影響はない。よつて原告は被告に対し右新株についての所有権に基きその引渡を請求する。尚第三目録記載の株券については被告は一株につき金三十七円五十銭の金員を支出しているから原告は被告に対し被告が原告より右金員の支払を受けるのと引換に右株券の引渡を請求する。尚右引渡を請求する株券は何れも株主名義が被告になつているから譲渡裏書をした上又は譲渡証書を添付して引渡すことを求める。

(三)、(代償請求について)

被告が原告に対し前記第一乃至第三目録記載の各株券及び証券の引渡ができない時はその引渡不能のものにつき、その時価である別紙第一乃至第三目録各時価欄記載の各金員及び引渡不能の日から右金員完済の日まで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。

(四)、(被告の四、の(三)の主張に対して)

(1)、被告主張の四、(三)、(1) の事実中原告会社が東京証券取引所の取引員であること、林一雄が原告の社員として新宿支店に勤務し、株券・投資信託受益証券等に関する受渡、代金手数料その他の金銭の授受等一切の業務を担当していたこと、原被告間に一回の取引高数万円の取引のあつたこと、林が使者として盆暮の贈答をしたことは認めるが、その余の事実を否認する。林が職務に関連して顧客のためサービスとして株券等を担保とする金融の斡旋等をしたことはない。

同四、(三)、(1) の(イ)乃至(ト)の事実中、被告主張の株券等を被告が収受したことは認めるが、その主張の金融関係について金額、条件、場所は不知、その余の事実は否認する。被告主張の金融関係は林個人と被告との間に成立したものであつて、訴外岡は林に対し金融の依頼をしたことはない。その上本件の投資信託受益証券は訴外佐藤こと、大山元のものを原告会社において預り保管していたもので、岡のものではない。

(2)、被告主張の四、(三)、(2) の事実中、本件投資信託受益証券が無記名であり持参人払式であること、本件株券が記名株式であること、第一目録1、2記載の株券に岡の記名・捺印があること・同目録3記載の株券に岡の捺印があること、同目録45記載の株券に岡の記名捺印のないことは認める。右岡の記名捺印は何れも偽造である。その余の主張事実を否認する。尚、被告は本件株券については商法第二百二十九条の適用がある旨の主張をするが、同条は流通市場において偽造裏書にかゝる株券を善意取得した場合の規定であるが、本件の如く窃取者から闇金融に附随して株券を担保として取得した場合には同条の適用はないものと解すべきである。

(3)、被告主張の四、(四)の事実を否認する。

(4)、被告の四、(五)の主張に対して。被告の右主張は争う。本件新株は「株式会社の再評価積立金の資本組入に関する法律」に準拠して発行されたものであり、商法上一般の引受によつて発行されたものではない。同法による無償交付新株については引受を要せず新株は之に対応する旧株に帰属し(同法第三条第一項、第五条第一項)、又同法第四条第一項により新株の発行価格の一部を払込ませる場合は例外的に引受行為を要するが、その引受をしなかつた場合は同法第十条の規定により該新株の株金中無償交付部分に相当する金額はその割当を受けた旧株に帰属するものである。以上の事実から考えれば、本件新株は親株の権利者たる原告に当然に帰属するものと解すべきである。

(五)、仮に被告主張の通り、本件株券及び証券につき、商法の適用があり、被告が右株券等を取得したとしても、被告には右取得について悪意又は重大な過失があつたから、被告は原告に対し右株券等を返還すべき義務がある。即ち

(1)、林一雄は二十才代の若年で原告会社の一社員に過ぎず、同人が本件の如く、二、三百万円に及ぶ証券を担保とする金融を依頼されるような地位にないに不拘、かつその依頼者たる藤沢市の某についてその氏名・資産等について調査もせず林の言を盲信して、高利の金融を行つたものであつて、林と共謀と言えないまでも右株券等の出所に疑を存しつつ商業証券流通保護の制度を悪用して之を取得したものであるから悪意の取得者に該る。

(2)、仮に右悪意が認められないとしても被告は右株券及び証券が何人に帰属するか、又金融の依頼人を調査することなくその代理人と自称する右林を相手とし、又右林の勤務先である原告会社新宿支店の責任者に対し林の取引の正常性について何ら照会の手続をも経ず右株券等を取得したものであるから、被告には右取得について重大な過失があつたものと謂うべきである。

と述べ、

三、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め

四、答弁として

(一)  原告主張事実中、

一、(一)、(1) の事実中、第一目録3記載の株券中東京紡績株式会社十株券五枚、記号番号「戊は目一七八二四乃至一七八二六、一七九五六、一七九五七」を被告が所持している事実を否認する。その余の記名式株券及び無記名式投資信託受益証券を被告が所持している事実は認める。

一、(一)、(2) の事実中原告会社の業務内容及び訴外林一雄が原告会社の従業員であつた事実は認めるが、その余の事実は不知。

一、(一)の(3) 及び(4) の事実中、第一目録の1、2記載の株券はもと訴外岡市太郎の名義であつたが、現在被告名義となつている事実は認めるが、その余の事実は否認する。

一、(一)、(5) の事実は否認する。

一、(一)、(6) の事実中第一目録1乃至5記載の株券が何れも記名株券であること、同目録6記載の投資信託受益証券が無記名証券であることは認めるが、その余の主張は争う。

一、(一)、(7) の事実を否認する。

一、(二)、(1) の事実中、第三目録記載の株券を被告が所持していることは認めるが、第二目録記載の株券を被告は所持していない右株券は株主を被告として発行されたが、訴外旭化成工業株式会社において、右株式につき原、被告間に紛争のあることを知りその解決を待つため同会社が所持しているものである。

一、(二)、(2) の事実は認める。

一、(二)、(3) の事実中、第二、第三目録記載の各株券が何れも被告名義となつていることは認めるが、その余の事実は否認する。

一、(三)の事実は否認する。

(二)、原告は先ず民法第百九十三条に基き第一目録記載の株券及び投資信託受益証券の引渡を請求する。(二、(一)の(3) 、(4) 及び(5) の主張)併しながら本件株券は何れも記名株券であるから民法第百九十三条を適用する余地なく、商法第二百二十九条により準用される小切手法第二十一条に従うべきであり、又本件投資信託受益証券は商法第五百十九条の「遊戯其他ノ物又ハ有価証券ノ給付ヲ目的トスル有価証券」に該るから同条により準用される小切手法第二十一条に従うべきであつて、民法第百九十三条を適用すべきではない。

よつて原告の民法第百九十三条に基く請求は何れも失当である。

(三)、次に原告は、第一目録記載の株券及び証券は原告の所有に関するから右所有権に基き引渡を請求する旨主張をするが、(二、(1) 、(7) の主張)、右株券及び証券は被告の所有である。即ち

(1)  原告会社は会員組織の東京証券取引所における取引員であつて、訴外山一証券等とともに四大証券と称せられているものであり、訴外林一雄は原告会社の社員として外務員の業務をも兼ね、当初は本社に、その後は新宿支店に勤務し直接顧客に接し株券、投資信託受益証券等の受渡及びその代金手数料その他の金銭の授受等の一切の業務を担当し、尚同業務に関連もしくは附随して自己又はその所属する証券業者に属する営業成績向上又は利潤追及のためのサービスとして顧客に対する金融斡旋をも行つていたものであるところ、被告は従前より原告との間に右林一雄等を通じて株券、投資信託受益証券等の売買委託取引をなし一回に数十万円から百万円近くの取引を為したこともあり、林一雄は原告会社新宿支店長代理として被告に対し贈答等をなし来つたものであるが、

(イ)、被告は右林から昭和二十八年十二月下旬頃、原告会社新宿支店において、同支店の顧客たる藤沢市の某(後に訴外岡市太郎と判明した。)に対し株券を担保とする金員の貸与方を依頼され、その頃三菱銀行本店において岡市太郎の代理人である林一雄に対し金六十万円を弁済期を一ケ月、利息を月三分五厘と定めて貸与し、右債権担保のため岡市太郎名義の日本郵船株式会社株券等合計六千六百株の交付を受け之につき質権の設定を受けた。

(ロ)、被告は昭和二十九年三月二十日、前記新宿支店において前記岡市太郎の代理人である林一雄から前同様の依頼を受け、その頃三菱銀行本店において同人に対し金七十万円を前同様の約定で貸与し、その担保として大和証券投資信託受益証券十八回九十六口同二十二回八十口、同二十五回五十口の交付を受け之について質権の設定を受けた。

(ハ)、被告は昭和二十九年七月二十一日同支店において岡市太郎の代理人林一雄から前同様の依頼を受け、その頃三菱銀行本店において同人に対し金六十万円を前同様の約定で貸与し、その担保として第一目録-記載の東京海上火災保険会社株券合計二千株、同目録2記載の旭化成工業株式会社株券千株の交付を受け之につき質権の設定を受けた。

(ニ)、昭和二十九年七月二十四日同支店において被告と岡市太郎の代理人である右林一雄との間に前記(イ)、(ロ)、(ハ)の貸金について元利合計金百八十万円の支払義務あることを認め、これを新な消費貸借の目的として弁済期を一ケ月、利息を月三分五厘と定め、前記(イ)の日本郵船株式会社株券等六千六百株、同(ロ)の大和証券投資信託受益証券を夫々返還するとともに代り担保として新に第一目録3記載の東洋紡績株式会社株券千株、同目録4記載の日本麦酒株式会社株券千株、同目録5記載の株式会社高島屋の株券三千六百株、同目録6、ヌ記載の大和証券投資信託受益証券十三回百口、同目録6、ル記載の同二十一回二百口の交付を受け之につき質権の設定を受けた。

(ホ)、被告は昭和二十九年十二月二十日同支店において岡市太郎の代理人林一雄から前同様の依頼を受け、被告はその頃同人に対し、金六十万円を前同様の約定で貸付け、その担保として、第一目録6イ記載の大和証券投資信託受益証券十二回五十口、同目録6、ホ記載の同十四回六十口、同目録6のロ及びへ記載の同十五回三十口、同目録6、ト記載の同十六回二十口、同目録6、ハ記載の同十八回十口、同目録6、ニ記載の同二十回十口の交付を受け之につき質権の設定を受けた。

(ヘ)、被告は昭和三十年四月三十日同支店において岡市太郎の代理人である林一雄に対し金三十万円を前同様の約定で貸与し、その担保として第一目録6、リ記載の大和証券投資信託受益証券二十一回二十口同目録6、チ記載の同二十二回六十口の交付を受け之につき質権の設定を受けた。

(ト)、然るに最後の弁済期が来ても右債務の返済がなかつたので昭和三十年六月二十四日、被告と岡市太郎の代理人林一雄との間に前記貸金合計二百七十一万円及び約定利息の支払に代えて前記の質権設定を受けた各株券及び証券を被告に譲渡する旨の代物弁済契約が成立し、被告は即日右株券及び証券に対する権利を取得した。

(2)  ところで右株券及び証券についての質権の設定及び権利の取得は前述の通り民法第百九十二条以下の適用はなく、商法第二百二十九条、第五百十九条の適用があり、同条により準用される小切手法第二十一条によれば証券の所持人は、その証券が持参人払式のものであるとき、又は裏書し得べきものでその所持人が裏書の連続により権利を証明する時は之を返還すべき義務がないものであるが、

(イ)、本件投資信託受益証券は無記名であり、持参人払式であるから右証券の交付を受けその権利を取得した被告は之を返還する義務がない。

(ロ)、本件株式は何れも記名式であるが、

(a)、第一目録1、2記載の株券はその引渡を受けた当時右株式の名義人であつた岡市太郎の裏書譲渡のための記名捺印を得ている。同目録(3) 記載の株券については岡市太郎の捺印を得ている。同目録4、5、記載の株券は捺印なく交付されたものであるが、訴外林一雄からその裏書譲渡についての捺印等の補充方を委任されたものである。

(b)、元来新商法施行後の証券業者及び顧客間等における記名株式の譲渡については多く株券の裏書欄にその所有者の捺印だけ為され記名は譲受人又は証券業者に補充権を付与して取引され、更に捺印も適宜有り合せ印の押捺方を委任して取引されている商慣習が存在する。従つて第一目録1、2の株券は裏書の連続があり、同目録3、4、5の株券についても右商慣習の存在により裏書の連続あるものと解すべきである。

(ハ)、以上の如く被告は本件投資信託受益証券及び株券の権利者であつて本件投資信託受益証券については之を所持することにより、本件株券については裏書の連続によりその権利を証明したものであるから、之を返還する義務を負うことはない。

(四)、仮に右主張が理由なしとするも前述の通り被告は右株式については商法第二百七条により、右証券については同法第五百十九条小切手法第二十一条により正当な質権を取得したものであるから、右質権の担保する債権たる左の金員の支払を受けるまで質物たる右株券及び証券を留置する。

(1)  貸付元金百八十万円及び之に対する昭和二十九年七月二十四日以降完済まで年一割五分の割合の利息及び遅延損害金

(2)  貸付元金六十万円及び之に対する昭和二十九年十二月二十日以降完済まで年一割八分の割合の利息及び遅延損害金

(3)  貸付元金三十万円及び之に対する昭和三十年四月三十日以降完済まで年一割八分の利息及び遅延損害金

(五)、次に原告は第二、第三目録記載の各株券の引渡を請求する併しながら、被告は第一目録2の旭化成工業株式会社における昭和三十一年三月三十一日現在の株主名簿に登載された株主として旧株十株について新株五株の割合を以て新株式の無償割当を受け、被告は之を引受けて第二目録記載の株券の交付を受けたものであり、第一目録の東京海上火災保険株式会社における昭和三十一年十月一日現在の株主名簿に登載された株主として同社より旧株一株について一株の割合を以て新株を発行し、かつ一株金五十円の中三十七円五十銭を同年十一月三十日までに払込むこと、右払込を遅延した時は右新株の引受権を喪失する旨の条件付で割当を受け、之を引受け期日に金員の払込をして第三目録記載の株券の交付を受けたものである。

元来新株の割当は一定日時における株主名簿に登載された株主にのみ割当引受けしめるものであつて、新株の割当引受は別個独立の新たな法律行為であり、右株主に対し新株を割当て引受けさせて発行された以上、株主名簿に登載された株主が真正の株主であるか否かによつて新株の権利に消長を来さないと解すべきである。従つて原告の右請求は理由がない。

(六)、原告は被告の本件株券及び証券の取得につき悪意又は重大な過失があつた旨の主張をするが、被告は林一雄が原告会社保管に係る他人の株券及び証券を窃取したものとは全く夢想だにせず、真に岡市太郎の委任に基くものと信じ、前記貸金の担保として右株券等の交付を受けて之に質権の設定を受け、後に之を代物弁済により取得したものであるから、その取得につき善意無過失である。即ち

(1)  原告会社は前記の通り四大証券と称せられる有価証券等の売買取次を営業する有力会社である。

(2)  林一雄は原告会社の社員として前記の如き業務に従事して居り、殊に同人は昭和二十五年二月頃から同三十年八月六日までの間、事実上原告会社の金庫内の株券その他の有価証券の出納をなして居り、原告は之を黙認乃至放任していた。

(3)  右林は前記の通り被告に対し原告会社新宿支店長代理として盆暮の贈答を為していた。

(4)  証券会社の外務員には自己又は所属する証券業者に対する営業成績向上若くは利潤追及の為サービスとして顧客に対する金融斡旋を為す者少からず、林もこの種の目的を以て社員たる個人として被告に対し金融又はその斡旋をしたものであり、殊に本件の場合は前記の本件の金融並担保提供の申込金員の授受等は全て原告会社新宿支店又は三菱銀行において勤務中に電話又は口頭を以て為され、昭和三十年四月三十日の担保物件の授受は同支店において為されたものである。

(5)  本件株券等の授受について、投資信託受益証券は無記名であり又株券についてはその一部には岡市太郎の記名捺印があり他は同人の捺印のみあるものと記名捺印の全くないものとがあつたけれども、株券の売買については前記の商慣習がある為、被告は安んじて之を取得したものである。

(6)  株券投資信託受益証券の流通につき証券の占有の喪失は概ねその権利の喪失を招来し、証券の占有の取得はその権利の取得となることは一般証券取引者間に一般的に認識されている実情にあり、かつ記名株式の譲渡については裏書の連続があれば足り、その真正なることを要しないからその真正を調査する義務はない。

(7)  又本件株券等は原告が新宿支店において保護預りしていたものであるが、証券業者に対するこの種寄託は投機取引のためにする寄託であり、換言すれば随時寄託者から電話又は口頭によつて売買委託に附せらるべき寄託株券であつたものであるから、寄託者の使用人が権限外の行為によつて善意の第三者をして取得せしめたときは第三者に対しその返還を求め得ないものである。

以上の事情を綜合して考えれば被告は本件株券等の取得につき善意無過失であることは明らかである、と述べ

五、立証として、原告訴訟代理人は、甲第一号証、第二、第三号証の各一、二、第四乃至第六号証、第七号証の一、二を提出し、証人新田鉄一郎、同岡市太郎の各証言を援用し、乙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四号証の一乃至五、第九号証の二、第十四号証の二の成立は不知、乙第十四号証の一郵便官署作成部分の成立は認めるがその余の部分は不知、その余の乙号各証の成立を認めると述べ

被告訴訟代理人は、乙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四号証の一乃至五、第五号証の一、二、第六乃至第八号証、第九号証の一、二、第十、十一号証、第十二号証の一、二、第十三号証、第十四号証の一、二を提出し、証人森田次吉の証言及び被告本人尋問の結果を援用し、甲第七号証の一の成立は不知その余の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

一、原告は「別紙第一目録記載の株券及び投資信託受益証券は盗品であるところ原告はその占有者又は所有者として民法第百九十三条に謂う被害者に該るから同条に基き被告に対し右株券等の返還を請求する。仮に被告が右株券等を公の市場において善意にて買受けたものとすれば被告の支払つた代価と引換に右株券等の返還を請求する。」旨の主張をするからこの点を考える。

(1)  第一目録1乃至5記載の各株券が何れも記名株券であることは当事者間に争いがない。原告は「記名株券も有価証券性を強め裏書又は譲渡証書を添付することにより流通しうる様になつたから無記名証券と同視しうるに至つた。従つてその権利の得喪に関しては民法の動産に関する規定を適用すべく同法第百九十三条は記名株券についても適用がある。」旨の主張をするが、記名株券を動産と同視し、その得喪につき民法第百九十三条を適用すべきであると解すべき根拠は全くないばかりか、却つて商法第二百五条、第二百二十九条によると、記名株券の譲渡は専ら裏書又は譲渡を証する書面の交付によつて之を為すべく、この場合小切手法第二十一条の規定を準用していることから考えると、株券が盗難に会つた場合は民法第百九十三条を適用すべきものでなく小切手法第二十一条に従うべきものと解するのが相当である。

(2)  第一目録6記載の投資信託受益証券が無記名証券であることは当事者間に争いがない。所で無記名債権は民法第八十六条第三項により動産と看做されるべきものであるが、無記名債権が商法第五百十九条に謂う「金銭其他物又ハ有価証券ノ給付ヲ目的トスル有価証券」である場合には、その盗難に会つた時に民法第百九十三条を適用すべきものではなく専ら商法第五百十九条によつて準用される小切手法第二十一条に従うべきものと解すべきである。而して本件投資信託受益証券は商法第五百十九条所定の有価証券と解するのが相当である。

以上の通り本件株券及び証券につき民法第百九十三条の適用はないのであるから、同条に基く原告の請求はその余の争点を判断するまでもなく何れも失当である。

二、次に原告は「原告は第一目録記載の株券及び証券の所有者であるから右所有権に基き右株券等の返還を請求する。」旨の主張をするからこの点を考えるに、記名株券や無記名有価証券について所有権なる概念を容れるべきか否かは暫く置き、記名株券の譲渡に当つては裏書又は譲渡を証する書面の交付を受けた上株券の交付を受けなければその権利取得を第三者に対抗することはできず、又無記名有価証券の譲渡に当つては証券の交付を受けなければその権利取得を第三者に対抗することはできない。然るに原告が本件株券及び証券について右の如き対抗要件を経ていないことは原告の自陳する所であるから、仮に原告がその主張の通りに本件株券及び証券についての権利を取得したとしても、原告は右権利取得を被告に対抗することはできない。尚原告は本件の場合右の如き対抗要件は不要である旨の主張をするが、右主張は採用することが出来ない。

以上の通り原告は右株券等の権利取得を以て被告に対抗できないのであるから之を前提とする原告の請求はその余の争点の判断を俟つまでもなく失当である。

三、次に原告は第二、第三目録記載の株券の引渡を請求するが、右請求は何れも第一目録1、2記載の株券につき原告がその権利を取得したことを前提とするものであるがこの点に関する主張が前記の通り理由がない以上、その余の争点を判断するまでもなく右請求は失当である。

四、右の通り原告の第一乃至第三目録記載の株券等の引渡請求が失当である以上、その引渡不能の場合の金員の支払の請求も当然失当である。

五、以上の通り原告の請求は何れも失当であるから之を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して原告をして負担させることとし主文の通り判決する。

(裁判官 花渕精一 浜田正義 小中信幸)

第一目録〈省略〉

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