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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)3627号 判決

原告 竹内孝吉 外一名

被告 国 外三名

主文

一、(一)横浜市戸塚区瀬谷町字相沢原四千五百八十一番の一畑一反一畝五歩

(二)同所同番の二畑一反七歩

(三)同所四千五百八十番山林八畝二十五歩

の各土地が原告らの所有であることを確認する。

二、神奈川県知事が右各土地につき買収の時期をいずれも昭和二十五年十二月二日としてなした買収処分および右(一)および(三)の土地については被告石川義徳に対し、右(二)の土地については被告福岡松太郎に対しそれぞれ売渡期日を昭和二十五年十二月二日としてなした売渡処分はいずれも無効であることを確認する。

三、被告石川義徳は右(一)の土地に対する横浜地方法務局戸塚出張所昭和二十七年四月十一日受付第六七三号による所有権取得登記および(三)の土地に対する同出張所昭和二十七年五月八日受付第八七三号による所有権取得登記の各抹消登記手続をせよ。

四、被告福岡松太郎は右(二)の土地に対する横浜地方法務局戸塚出張所昭和二十七年四月十一日受付第六七四号による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

五、被告金子喜代秀は右(一)および(三)の土地に対する横浜地方法務局戸塚出張所昭和三十年九月十三日受付第二、七四三号による売買予約による所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をせよ。

六、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

一、主文第一項記載の(一)ないし(三)の土地(以下本件(一)ないし(三)の土地という。)はいずれももと訴外竹内正吾が昭和十八年十月二十六日訴外吉田一郎から買い受けて所有権を取得し、同日その旨の登記がなされた(本件(一)および(二)の土地は右買受当時横浜市戸塚区瀬谷町字相沢原四千五百八十一番山林二反一畝十二歩の一筆の土地であつたが、後本件売渡処分がなされた際分筆登記された。)ところ、右正吾は昭和二十年八月八日死亡したので訴外竹内市太郎および原告竹内ゆ起において共同相続し、右両名が本件(一)ないし(三)の土地の所有権を取得し、さらに右市太郎は昭和二十一年八月五日死亡したので原告竹内孝吉が右市太郎の本件(一)ないし(三)の土地に対する所有権の持分を相続した。そして原告らは右各相続登記をしなかつたが、現在本件(一)ないし(三)の土地はいずれも原告らの所有に属する。

二、然るところ、神奈川県知事は本件(一)ないし(三)の土地につきいずれも前記訴外吉田一郎を所有者とし、かつ、右土地がいずれも山林であるのにかゝわらず旧自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第三条に規定するいわゆる農地にあたるものとして、昭和二十五年十二月二日を買収時期として買収処分をし、同日を売渡時期として自創法第十六条に基き、本件(一)および(三)の土地を被告石川に、本件(二)の土地を被告福岡に売渡処分をし、同被告らはそれぞれ右土地につき主文第三、四項記載のとおりの所有権取得登記を了している。

三、然し乍ら、前記のように本件(一)ないし(三)の土地の所有者はいずれも原告らであつて吉田一郎ではない。また、いずれも農地ではない。故に神奈川県知事がその所有者を誤認し、また農地でないのに農地であるとしてなした本件買収処分は違法であつて、そのかしは明白かつ重大であるから無効である。

したがつて本件各売渡処分も無効である。さらに又右無効の売渡処分に基いてなされた被告石川の本件(一)および(三)の土地に対する所有権取得登記ならびに被告福岡の本件(三)の土地に対する所有権取得登記は登記原因を欠く無効の登記であるので、被告石川および福岡は原告に対し右各登記を抹消する義務がある。

四、しかして、被告金子は本件(一)および(三)の土地につき横浜地方法務局戸塚出張所昭和三十年九月十三日受付第二、七四三号をもつて被告石川との売買予約を原因として所有権移転請求権保全の仮登記をしたが、前記のように被告石川は右土地の所有権を取得することなくその所有権取得登記は無効であるので、右仮登記は無権利者との売買予約を登記原因とするものというべく、無効である。

五、よつて、本件(一)ないし(三)の土地に対し原告らが所有権を有していることの確認および前記買収および売渡処分の無効確認ならびに前記各登記の抹消を求めるため本訴請求に及んだ。

右のように述べ、被告国の主張は争うと述べた。

第二、一、被告国指定代理人らは、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求め、答弁として次のように述べた。

(一)、原告主張事実中本件(一)ないし(三)の土地につき所有者をいずれも訴外吉田一郎として原告主張のような買収処分および被告石川、同福岡に対しその主張のような売渡処分がなされたこと、本件(一)および(三)の土地が原告主張のように一筆の土地であつたのを売渡処分をする際分筆登記されたこと、本件(一)ないし(三)の土地につき被告石川、同福岡のためにそれぞれ原告主張のように所有権取得登記がなされていることは認めるが、本件(一)ないし(三)の土地がもと竹内正吾の所有土地であつたこと、原告らがその主張のように相続によつて右土地の所有権を取得し本件買収処分当時その所有権者であつたこと、本件土地が山林であつて農地でないことは否認する。その余の主張事実は知らない。

(二)、本件買収処分がその所有者を誤つたことおよび本件(一)ないし(三)の土地が農地でないとの原告らの主張について。

昭和二十五年十一月十一日当時本件(一)および(三)の土地は被告石川が、同(三)の土地は被告福岡がそれぞれ耕作していた。そこで当時の訴外瀬谷町農地委員会は本件(一)ないし(三)の土地が自創法第三条第一項第一号もしくは同条第五項第六号にあたるものとして買収計画を樹立し、神奈川県知事は右計画に基き本件買収処分をしたのである。

そして、右買収計画樹立当時、役場に備付の土地台帳副本には本件(一)ないし(三)の土地の所有者は吉田一郎と記載されており、耕作者である被告石川、同福岡も右吉田一郎を所有者として行動していたのみならず、右農地委員会が吉田を所有者として買収に関する種々の手続をとつたが、これに対し吉田からは異議の申立その他の意思表示もなく、吉田において買収令書および買収対価を受領しているのである。それであるから本件(一)ないし(三)の土地は吉田一郎がその所有者である。

かりに本件(一)ないし(三)の土地が本件買収処分当時原告らの所有土地であつたとしても右に述べたような土地台帳の記載を信頼してなした本件買収には明白なかしがあるとは考えられない。

それであるから本件買収処分は無効ではない。

二、被告石川、同福岡、同金子ら訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として次のように述べた。

本件(一)ないし(三)の土地につき所有者をいずれも訴外吉田一郎として原告主張のような買収処分および被告石川、同福岡に対しその主張のような売渡処分がなされたこと、本件(一)および(三)の土地が原告主張のように一筆の土地があつたのを売渡処分をする際分筆登記されたこと、本件(一)ないし(三)の土地につき被告石川、同福岡のためにそれぞれ原告主張のように所有権取得登記がなされていること、本件(一)および(三)の土地につき被告金子のために原告主張のように所有権移転請求権保全の仮登記がなされていることは認めるが、本件(一)ないし(三)の土地がいずれももと竹内正吾の所有土地であつたこと、原告らがその主張のように相続によつて右土地の所有権を取得し本件買収処分当時その所有権者であつたこと、本件(一)ないし(三)の土地が山林であつて農地でないことは否認する。その余の主張事実は争う。

三、(立証省略)

理由

一、神奈川県知事が本件(一)ないし(三)の土地につきいずれも訴外吉田一郎をその所有者とし昭和二十五年十二月二日を買収時期として買収処分をしたことおよび同日を売渡時期として本件(一)および(三)の土地を被告石川に、本件(二)の土地を被告福岡に売渡処分をしたことは当事者間に争がない。

二、原告らは、本件(一)ないし(三)の土地はいずれも原告らの所有土地であるのにその所有者を誤認してなした無効な買収処分であると主張するので、まずこの点について判断する。

成立に争のない甲第一ないし第三号証、同第四号証の一ないし三、同第五号証の一、二、証人吉田一郎の証言を総合すれば、訴外竹内正吾(原告孝吉の兄)が昭和十八年十月二十六日訴外吉田一郎から横浜市戸塚区瀬谷町相沢原四千五百八十一番山林二反一畝十二歩(のち、本件売渡処分がなされた際本件(一)および(三)の土地に分筆されたことは当事者間に争がない。)と本件(二)の土地とを買い受け、同日売買を原因とする所有権取得登記がなされたが、その後右正吾は昭和二十年八月八日死亡したので同人の父訴外竹内市太郎と毋原告ゆ起とが共同して相続し、同人らにおいて右各土地の所有権を取得し、さらに右市太郎も昭和二十一年八月五日死亡したので、原告孝吉が、右各土地に対する市太郎の所有権の持分を相続したことが認められる。それであるから本件(一)ないし(三)の土地は同日以降原告らの所有に属する土地である。

被告国は、昭和二十五年十一月十一日当時の瀬谷町農地委員会が買収計画を樹立した当時役場備付の土地台帳副本には本件(一)ないし(三)の土地は吉田一郎が所有者である旨記載され、耕作者であつた被告石川、同福岡らも吉田一郎を所有者として行動していたし、同人において異議申立もなさず本件買収令書および買収対価を受領していると主張するが、それらの事実が存在することは、右認定を妨げるものではないし、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

被告国は、仮りに本件(一)ないし(三)の土地が原告らの所有土地であるとしても右に述べたように役場備付の台帳副本には所有者が吉田一郎である旨の記載があつたから、右記載を信じて瀬谷町農地委員会が買収計画を樹立し、右計画に基き本件買収処分をしたから無効ではない旨主張するが、同委員会が専ら土地台帳副本に頼つた結果吉田一郎をその所有者と誤り、(同委員会がもし横浜地方法務局戸塚出張所備付の登記簿および土地台帳を調査したならば少くとも吉田一郎が所有者でないことは当然これを知ることができたわけである。)買収計画を樹立し、同計画に基いて神奈川県知事が本件買収処分をなしたことは重大かつ明白なかしであつて、右買収処分の無効を招来するものといわなければならない。故に本件(一)ないし(三)の土地が訴外吉田一郎の所有土地であるとして同訴外人に対し買収令書を交付してなした本件買収処分は、原告その余の主張について判断するまでもなく無効である。したがつて又本件売渡処分も当然無効と解するのほかない。

三、しかして本件(一)および(三)の土地につき被告石川のために、また本件(二)の土地につき被告福岡のためにそれぞれ主文第三、四項記載のとおりの所有権取得登記がなされていることは当事者間に争がないところ、右各登記は本件売渡処分を適法な処分としてこれに基きなされたものであつていずれも登記原因を欠く無効な登記であるといわざるを得ないから、同被告らは原告に対し右登記の抹消登記手続をしなければならない。

四、しかしてまた、被告金子が本件(一)および(三)の土地につき原告主張のような仮登記をしていることは被告国においては明らかに争わないから自白したものとみなし、原告とその余の被告との間には争がないところ、被告石川が右土地の所有権を取得するいわれはないし、その所有権取得登記は前記のように無効であるので、右仮登記は無権利者との売買予約を登記原因とする無効な登記であるといわざるを得ない。したがつて、被告金子は原告に対し右仮登記の抹消登記手続をしなければならない。

五、以上の次第で、原告の請求はいずれもその理由があるから、すべてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条および同第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 入山実 秋吉稔弘)

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