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東京地方裁判所 昭和31年(行モ)25号 決定

青梅市千ケ瀬六百九番地

申立人

川口スギ

右訴訟代理人弁護士

増岡章太郎

市青梅千二百三十九番地

相手方

青梅税務署長

酒井洋

右指定代理人

岡本拓

那須輝雄

原田諄二郎

嶋本秀秋

右申立人は、当裁判所に相手方が申立外多摩機械株式会社の戦時補償特別税につき申立人に対する滞納処分として昭和二十六年十一月三十日別紙物件目録(三)の物件につき、昭和二十七年七月三日同物件目録(一)及び(二)につきそれぞれなした差押処分がいずれも違法であるとして、その取消の訴(当庁昭和三十一年(行)第一一八号事件)を提起し、且つ右差押処分に基く公売の停止を申し立てた。当裁判所は相手方の意見をきいたうえ、右本案訴訟が適法な再調査の請求及び審査の請求を経ておらず、且つその請求をなし得る期間を徒過した後の不適法な訴であるから、右申立は不適法であると認め、次のように決定する。

主文

本件申立を却下する。

(裁判長裁判官 飯山悦治 裁判官 松尾巌 裁判官 井関浩)

物件目録

(一)青梅市千ケ瀬字西平六百九番ノ一

一、宅地 百四十八坪九合二勺

(二)同所六百九番ノ二

一、宅地 九十九坪八合五勺

(三)同所六百九番の一、六百九番ノ二所在

家屋番号同所一一四番

一、木造瓦葺二階建居宅一棟

建坪四十四坪 二階十九坪二合五勺

付属

一、木造亜鉛葺平家建工場 一棟

建坪百五十三坪

一、木造亜鉛葺平家建物置 一棟

建坪 三坪

一、木造杉皮葺平家建物置 一棟

建坪 五坪

以上

(参考)

執行停止命令申請

青梅市千ケ瀬六〇九番地

申請人 川口スギ

東京都新宿区大京町四番地一

右代理人 弁護士 増岡章太郎

青梅市青梅一二三九番地

被申請人 青梅税務署長

申請の趣旨

被申請人が原告所有の別紙目録記載の物件に対する公売処分はこれを停止する。

申請の理由

一、申請人は本日御庁に被申請人を被告として別紙目録記載の物件につき公売してはならないとの訴を提起したが、被申請人は昭和三十一年十一月二十六日申請人に対し公売期日を同年十二月七日午前十時と定めた旨通知して来たので、右訴訟の解決迄公売処分の執行を停止しないと申請人に於て償うことのできない損害を蒙るから、本申請に及ぶものである。

附属書類

一、訴訟委任状 一通

右申請する。

昭和三十一年十二月三日

右申請人代理人

弁護士 増岡章太郎

東京地方裁判所 御中

目録

(一)青梅市千ケ瀬字西平六百九番ノ壱

一、宅地百五拾坪弐合

(二)青梅市千ケ瀬字西平六百九番ノ壱、六百九番ノ弐所在

家屋番号同所第壱壱四番

一、木造瓦葺弐階建居宅壱棟

建坪四拾四坪弐階拾九坪弐合五勺

付属

一、木造亜鉛葺平家建工場壱棟

建坪壱百五拾参坪

一、木造亜鉛葺平家建物置壱棟

建坪参坪

一、木造杉皮葺平家建物置壱棟

建坪五坪

以上

昭和三十一年(行モ)第二五号

申請人 川口スギ

被申請人 青梅税務署長

昭和三十一年十二月十日

被申請人指定代理人 岡本拓

那須輝雄

原田諄次郎

嶋本秀秋

東京地方裁判所民事第三部

御中

意見書

意見の趣旨

本件申立は、これを却下する

との決定をすべきものと思料する。

理由

一、本件申立は、不適法である。

行政処分の執行停止の申立は、行政処分の取消又は変更を求める訴の提起があつた場合において、法定の条件を充たした場合にのみ認められるのであるが、右処分の取消又は変更を求める訴が適法なものであることを要することは、いうまでもあるまい。

申請人は、本件差押処分(昭和二十六年十一月三十日、昭和二十七年七月十二日)を不服なりとして、被申請人に対し、昭和三十一年十一月二十二日再調査の申立をなしたが、右は国税徴収法第三十一条の二所定の期間を徒過した不適法申立である。被申請人は同月二十六日右申立を却下する決定をなしたが、右決定中申請人の申立について実体的に判断しているとはいえ訴願法を適用しない国税徴収法の手続については、右をもつて宥恕があり、従つて再調査の請求自体が適法なものとなり得ないことはいうまでもあるまい。

さらに、申請人は著るしい損害を生ずる等正当の事由がないにかゝわらず被申請人の決定に対し、審査の申立をしていない。

国税徴収法の処分については、再調査、審査の決定を経た後でなければ訴を提起することはできない。

以上いずれの点よりするも申請人の本案訴訟は、訴願前置の要件を充たさない不適法の訴であるから、それに基いてなされた本件申請もまた不適法であることを免れない。

二、本件滞納処分の執行によつて生じる損害は償うことのできないものではない。

本件滞納処分の目的となつている宅地及び家屋が仮りに処分の執行によつて所有権が移転したとしても、これによつて生ずる損害は、いづれも金銭により容易に賠償することができるものである。

三、本件滞納処分の執行の停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞がある。

租税の徴収が国家財政上の見地よりして適時適切になされなければならないことは、いうまでもない。いまもし、本件処分が裁判所の命令によつてその執行が停止されるに至るならば、ひいては租税の徴収が困難となり、国家財産の円滑な運営は、到底期待できない結果を招来するやも計り難い。かくては、本件処分の執行の停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすものといわざるを得ない。

四、本件滞納処分には、違法の点はない。

行政処分の執行停止を求めるには、その本案の請求について理由がなければならないところ、本件滞納処分には、申請人の主張される如き違法はないから、その本案の請求は理由がない。

(1) 本件滞納処分をなすに至つた経緯

申請外多摩機械株式会社は、戦時補償特別税一、一四四、〇六四円を滞納し、督促にもかゝわらず納付しない。一方同会社は、昭和二十年九月十五日解散し、申請人の夫川口彌重郎が清算人となつたが、本件不動産を申請人(株主)に分配又は引渡し、昭和二十六年十一月二十九日にそれぞれ登記手続を了したものである。よつて、被申請人は、国税徴収法第四条の四に基き、申請人に対しその連帯納付義務の履行を求め、家屋は昭和二十六年十一月三十日差押、同日登記、昭和二十七年七月三日差押、登記は十二日それぞれ本件不動産に対して差押処分をなしたものである。

(2) 本件租税債権は、時効により消滅していない。

戦時補償特別措置法第十四条第一項、同法施行規則第二十五条により一般申告期限が昭和二十一年十二月十四日と定められ同期日が納期限とされているから、少くとも翌月から時効が進行するといえる。

しかるに被申請人は、申請外多摩機械株式会社あて、昭和二十六年二月二十八日付で納税告知書を発し又同年四月六日付で督促をなし、右はいずれもその頃同会社に送達されているから、本件租税債権は時効により消滅していない。

(3) 国税徴収法第四条の四により連帯納付義務者に対する滞納処分は、再調査請求等によりその続行を停止しない。

申請人の主張される国税徴収法第四条の七第二項は、同法第四条の四には準用されていない。したがつて、同条に基く処分は、再調査の請求、審査請求により、その続行を停止しない(同法第三十一条の二、第三項、第三十一条の三、第二項)。

なお、同法第四条の四に基き連帯納付義務者に対し、納付を求めるには同法四条の六、四条の七におけるが如き納付通知書を発する要はない。さらに督促状を発することも要しない(たゞ本件においては、口頭により納付の通知をした)。

いずれの点よりするも、本件処分に違法の点はない。

以上申請人は、本件処分により償うことのできない損害を受けることなく、又本件処分の執行を停止すべき緊急の必要がないばかりでなく、本件処分には何ら違法の点はないから、本件申請は速かに却下さるべきものと思料する。

昭和三十一年(行モ)第二十五号

申請人 川口スギ

被申請人 青梅税務署長

昭和三十一年十二月十一日

被申請人指定代理人

岡本拓

那須輝雄

原田諄次郎

嶋本秀秋

東京地方裁判所民事第三部

御中

意見書訂正申立書

昭和三十一年十二月十日付意見書記載の第四項の(2)をつぎのとおり訂正する。

本件租税債権は時効により消滅していない。

申請外多摩機械株式会社は戦時補償特別措置法に基く納税義務があるに拘らず、同法第十四条所定の申告を行わなかつたので、被申請人は、同法第二十七条第二項及び第四項により、昭和二十六年二月二十八日、その課税価格を決定して同日付をもつて同会社に対し納税告知書を発し(同法第二十八条第一項)、かつまた、同年四月六日付書面で納税の督促を行い、これらの書面はいずれもその頃同会社に送達されているのである。しかして同法第二十七条第二項及び第四項の規定自体よりして、同法施行の昭和二十一年十月三十日(昭和二十一年十月二十八日同年勅令第四百九十六号)より五年間すなわち昭和二十六年十月二十九日までは右の課税価格の決定を行い得ることが明らかであるから、同日以前である同年二月二十八日の課税価格の決定は所定期間内に行われた適法な処分であり、したがつて右決定により定められた納期限後、時効期間の五年を経過しないでなされた本件差押は有効に存在する戦時補償特別税の徴収権に基く適法な手続である。

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