大判例

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東京地方裁判所 昭和32年(レ)497号 判決

控訴人 野田達子

外三名

右四名代理人弁護士 成田哲雄

被控訴人 根岸波江

右代理人弁護士 金田賢三

被控訴人 永井迪夫

主文

1原判決を取り消す。

2被控訴人らは控訴人らに対し東京都港区芝新橋一丁目八番地五木造トタン葺二階建店舗一棟建坪六坪八合八勺、二階五坪八合五勺のうち二階五坪八合五勺を明渡し、且つ、金二十一万八千八百八十円及び昭和三十三年一月一日からその明渡の済むまで一ヵ月金二千百二十七円の割合による金員の支払をせよ。

3訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4この判決は控訴人らにおいて被控訴人らに対する共同の担保として金十万円を供するときは、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、控訴人主張の第一、二項の事実は根岸和加が本件家屋を戦前から賃借していたかどうかは別として、当事者間に争がない。そして、根岸和加が少くとも昭和二十年九月ごろから本件家屋のうち階下の店舗において喫茶店テルを経営していたこと、昭和二十三年六月頃店名をバー・シヤロンと変更し、飯田勝太郎に対しバーの経営を委任したこと、その経営主名義が根岸和加であつたこと、飯田は爾来店舗でバーを経営していたが、その後根岸和加と飯田との間に紛争が起り昭和二十八年十二月十四日東京簡易裁判所同年(ユ)第二三一号調停事件として両者の間に被控訴人ら主張のとおりの内容の本件調停が成立したことも、また当事者の間で争がない。

二、そこで、委任経営の実態を考察すると、原審証人古本信雄、小森寅蔵、原審及び当審証人飯田実の各証言と原審及び当審における七瀬葉那の供述の一部を総合すれば、次の事実が認められる。

バー・シヤロンの経営は一切飯田勝太郎に任かせられ、飯田は前記店舗をもつぱらバーの営業に使用し、その店内の設備、模様替、酒類等の仕入、販売並びに雇人の給料、諸税、電気、ガス、水道料等の諸払はすべて飯田が同人の負担において行つた。営業上の損益はすべて同人に帰属していた。

一方根岸和加は前記営業については一切関与せず、ただ歩合金名義で当初は一ヵ月金五万円、本件調停成立後は一ヵ月金六万五千円を受け取つていた。

前記七瀬葉那の供述中この認定に反する部分はたやすく信用し難く他にこの認定を妨げる証拠はない。

三、してみると根岸和加はバー・シヤロンの営業名義人にすぎず飯田は、和加の支配人その他の従属的地位にあるものでなくてバーの実質上の経営者であるといわなければならない。従つて飯田の前記店舗に対する占有使用は根岸和加から独立したものであることはもちろんであつて、このことは本件調停において飯田が店舗を他に転貸することを禁じられてこれに違反した場合は店舗から退去してこれを根岸和加に明渡すことが定められていることが当事者間に争がないことからしても明白なことである。

ところで、民法第六百十二条にいわゆる転貸とは、賃借人が自己の有する権利の範囲内において第三者をして独立してその物を使用収益させることを約する契約を指すのであつて、その契約がこのような実質を供える以上、その法律関係が賃貸借であると、経営委任契約であると、その他の法律関係であるとを問わないと解するのが相当である。従つて、前記経営委任契約に基く飯田の前記店舗に対する使用占有は、転貸借にあたるものといわなければならない。

原審証人増田伝吉、原田茂の証言中この認定に反する部分は信用しない。

四、被控訴人らは、根岸和加が昭和二十三年六月前記店舗を飯田に転貸した当初から、賃貸人である岩井その、ないし岩井信夫らがこのことを知りながら異議を述べなかつたと主張するけれども、この点に関する七瀬葉那の供述は当審における控訴本人岩井フク子尋問の結果を対比し、たやすく信用し難く、他にこの主張を認めるに足りる証拠はない。

五、そして岩井信夫及び控訴人野田達子が根岸和加に対し昭和三十年九月二十二日に翌日到達の書面を以て、前記店舗の無断転貸を理由として本件家屋の賃貸借契約を解除する意思表示をしたことは当事者間に争がないから、前記賃貸借契約は同年九月二十三日限り解除されて終了したということができる。

六、被控訴人らは控訴人らの明渡請求は権利の濫用であると抗争し、飯田勝太郎が岩井信夫と結託して根岸和加を本件家屋から追い出そうと画策したと主張するけれども、かような事実を認定するに足りる証拠はない。

また岩井信夫が昭和三十一年七月十七日飯田勝太郎に対し前記店舗を賃貸したこと、飯田の死亡後同年十月十一日古本信雄に対してこれを賃貸したことは、控訴人らの認めるところであるが、これらはいずれも根岸和加に対する賃貸借契約が解除されてから相当の期間経過した後のことであつて、契約解除の効力に影響を及ぼすものではない。

七、そうすると、根岸和加が昭和三十年十二月十二日死亡し、被控訴人らが共同して相続したことが当事者間に争のない以上、被控訴人らは控訴人らに対して本件家屋のうち二階の部分を明け渡す義務があるわけである。

八、そこで、賃料及び損害金の額について考えてみると本件家屋の約定賃料が昭和三十年六月分から一ヵ月金一万五千円であることは当事者間に争がない。そして本件家屋の店舗となつているけれども、この店舗におけるバー・シヤロンの経営主が借主の根岸和加でないことは、さきに認定したとおりであるから、地代家賃統制令施行規則第十一条の規定により本件家屋は同令第二十三条にいわゆる併用住宅にあたらないことが明らかである。従つて、前記約定賃料については同令の規制を受けないわけである。

もつとも、昭和三十一年七月十七日、岩井信夫らが店舗を直接飯田勝太郎に賃貸してからは、根岸は本件家屋の二階だけを居住の用に供するため占有していることになるわけであるから、この部分については同令の適用があることになる。そして、成立に争のない甲第十一号証の一、二によれば、本件家屋の固定資産税評価額は昭和三十一、二年度は、金十七万七千三百円、昭和三十三年度は金十七万四千七百円であり、本件家屋敷地たる港区芝新橋一丁目八番地宅地百七十三坪九合の固定資産税評価額は昭和三十一、二年度は金二千四百五十五万二千九百四十一円であり、昭和三十二年度は、金三千九十八万八千八百九十八円であることが認められる。これを基準として本件家屋の二階五坪八合五勺の統制賃料を算出すると、昭和三十一、二年は月額金千七百八十一円、昭和三十三年度は月額金二千百二十七円となることは算数上明かである。

ところで賃貸借が解除により終了した場合において賃借人がいぜんとして賃家屋を不法に占拠している場合は、通常賃貸人は毎月約定賃料相当額(若し統制令の適用を受ける場合は統制賃料相当額)の損害を被つているとみるのが相当である。

そうすると昭和三十年七月一日から前記賃貸借契約解除の日である同年九月二十三日までの約定賃料の延滞分と、翌九月二十四日から岩井信夫らが飯田に店舗部分を賃貸した日の前日である昭和三十一年七月十六日までの約定賃料と同額の割合による損害金の合計は金十八万七千七百四十一円九十四銭となり、飯田に対し店舗部分を賃貸した日である昭和三十一年七月十七日から昭和三十二年十二月末日までの前記二階五坪八合五勺に対する一ヵ月金千七百八十一円の割合による統制賃料相当額の損害金は金三万千百三十八円七十七銭となり、以上の合計は控訴人ら主張のとおり金二十一万八千八百八十円(円未満切捨)となることは算数上明らかである。

九、よつて被控訴人らに対し本件家屋のうち二階五坪八合五勺の明渡と前記約定賃料延滞分及び昭和三十年九月二十四日から昭和三十二年十二月末日までの約定賃料ないし統制賃料相当額の損害金の合計金二十一万八千八百八十円並びに昭和三十三年一月一日からその明渡のすむまで一ヵ月金二千百二十七円の割合による統制賃料相当額の損害金の支払を求める控訴人らの本訴請求は正当であるから、これを認容すべきであるのに、これと異り控訴人らの請求を棄却した原判決は失当であるからこれを取り消し、民事訴訟法第三百八十六条、第八十九条、第九十六条、第九十三条第一項本文、第百九十六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤隆司 裁判官 松本武 裁判官山本卓は転任のため署名出来ない。裁判長裁判官 加藤隆司)

〈以下省略〉

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