大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京地方裁判所 昭和32年(行モ)9号 決定

申立人 福島市蔵

相手方 東京都知事

主文

相手方が申立外山本敏三に対し昭和二十七年六月六日及び昭和二十八年八月二十二日別紙第一物件目録記載の土地につきなした換地予定地の指定通知及び昭和三十一年五月十二日右地上に存在する建物につきなした移転の通知照会の執行(但し別紙第二物件目録記載の建物に対する部分を除く)はこれを停止する。

理由

本件申立の趣旨が当庁昭和三十一年(行モ)第一〇号と同一であることは明らかであるが、元来行政事件訴訟特例法第十条に基く執行停止の申立についてなされた決定には既判力に類する効力を認めることはできないものであり先に申立し理由がないとして却下の決定があつたとしても本案訴訟の進行に伴い、前決定の際提出しえた理由及び疎明資料を新に追加して再度同趣旨の申立をすることも妨げられないと解すべきである。

また本件申立に対する本案訴訟としては前記当庁昭和三十一年(行)第六三号事件を以て足りると解すべきであつて右事件は現に当裁判所に係属中であるから本件申立は適法である。

更に本件申立は既に昭和三十二年二月十五日執行に着手し三月五日執行を完了した別紙第二物件目録記載の建物八棟を除く残余の建物に対する関係において前記行政処分の執行の停止を求めるものであるから申立の利益はあるというべきである。

よつて申立の理由の有無について判断するに、本件行政処分の執行により申立人は償うことのできない損害を蒙るものと認められるから、本件申立は理由があるものと認め、主文のように決定する。

(裁判官 飯山悦治 松尾巖 越山安久)

(別紙省略)

行政処分執行停止命令申請

申請人  福島市蔵

被申請人 東京都知事

申請の趣旨

被申請人が左記土地に付申請訴外山本敏三に対し昭和二十六年六月六日及同二十八年八月二十日為したる換地予定地の指定並同三十一年五月十二日左記地上の移転について為したる行政処分の効力の発生及執行は之を停止するとの御命令を求める。

左記

東京都墨田区江東橋三丁目五番ノ一

一宅地 三百四坪八合

同所同番ノ二

一宅地 七十八坪八合五勺

申請の原因たる事実

一 申請人は本件土地の所有者であつて明治年代から其一部に建物を所有して自ら居住し其他の部分を他に賃貸しこれらの者が建物を所有し居住していたところ昭和十九年六月中これらの建物は強制疎開により取毀され本件土地は駅前広場として被申請人は賃借占有したところ昭和廿一年四月廿日右疎開解除となり双方右賃貸借契約を解約して申請人に之を返還した。

二 之より先終戦直後申請訴外山本敏三は本件土地にヨシズ張りの仮露店を作りこゝに第三者をして営業せしめていたところ前記疎開解となつたが被申請人は右仮露店を退去せしめることが出来ず無責任にも其まゝ申請人に返還したので已むなく申請人は申請外山本に対し被申請人が右土地に付既に其施行が決定せられていた区画整理事業に着手するまで又は申請人の必要により明渡の通知を受けた場合は直ちに本件土地を申請人に明渡すべき旨の一時使用賃借契約を結び引続き申請外山本は前記露店を取毀し其跡に約二十棟のバラツク建物を築造し之を第三者に賃貸した。

三 本件土地は総武線綿糸町駅前に位し本件土地を含む一帯の地域は昭和二十一年四月廿五日内閣及戦災復興院告示により戦災焼失区域を含む区画整理区域に指定せられ同年十月一日被申請人はその整理施行地域を告示したかくて右告示と同時に被申請人は特別都市計画法に基く区画整理に着手施行し現在に至つている。

四 前項被申請人の告示後同年十月廿日申請人は被申請人に対し本件土地に付所有権申告を為し之につき賃借権等のなき旨を届出で其後同廿四年十一月卅日申請人は本件土地の内同番の一ノ一部を自用地として他の一部を申請外那須武に其残部及同番ノ二を申請外株式会社江東楽天地に賃借し書面以て被申請人に其旨を届出た(其後江東楽天地との契約は消滅したが其旨は未届)

五 かくて右整理は進行したのであるが昭和廿六年六月六日本件土地の一部に対し同廿八年八月廿日他の残部に対し被申請人は其所有権に付申請人に対し換地予定地の指定を為し之を通知すると共に其賃借権に付之を繋争中とし一部を申請人の自用地とし其他を前記申請外山本敏三株式会社江東楽天地同那須武双方に対し之を指定し其通知をした。

六 元来換地予定地の指定は行政庁が従前の土地につき其登記及届出の書面に基き将来換地となるべき土地に付権限の有無を厳格に調査し其権限のある者にのみ指定すべきことは都市計画法により準用せらるゝ耕地整理法第三十三条の明文明かであり且其届出の書面により容易に認定し得べきにも拘らず故意に其内容を審査せずして前項のような関係者全部に其指定をしたことは右法条の規定に違反することは明白であつて無効の処分と言わなければならない。

七 又右申請外山本に対する指定については最近の調査によれば右山本は特別都市計画法施行令第四十五条に基く未登記権利者の申告を為すに当り申請人の署名捺印を偽造したことが判明したがこの理由により右申告が無効のものであり仮りに被申請人がこの事実を知らなかつたとしても先に述べた申請人の所有権申告書及其後三度に亘り申請人が被申請人に上申した書類には右一時使用の内容は本件整理に着手する迄である旨並申請外山本に指定すべからざることを明記し又其後換地に対する賃借権が申請外江東楽天地外一名に存することを届出たにも拘らず被申請人は之を全然無視して申請外山本に対して右指定を為したもので本来換地の指定は耕地整理法第三十三条に基き既登記の権利者についてのみなすべきところ前記施行令が特に未登記の権利者につき其届出をしたものゝみを保護する趣旨に出でたもので土地区画整理法第八十五条第一項は所有権以外の権利で登記のないものゝ申告を規定して其第五項はこの申告のないものは之を存しないものとみなして法律上絶対の擬制をなし換地計画仮換地の指定換地処分其他同法第三章土地区画整理事業の殆ど全般に亘り之を適用すべきことを規定して其前記連署の偽造は届出の効力なく右指定の要素を欠き無効のものであり又法律上為すべからざる者に其指定をしたものであつて違法の処分たること明白である。

八 かくて被申請人は申請外山本に対し昭和卅一年五月十二日本件地上の建物の移転につき土地区画整理法第七十七条第二項に基く通知照会の書面を送付したが右通知照会は前記のように違法の換地予定地の指定に基き発せられたものであつて亦違法の処分である。

九 右の次第で申請外山本に対する本件指定は違法のものであり仮に同人が本件土地上建物の建築に当りては当時既に前述の内閣等の告示もあり被申請人は其許可に条件を付して其存続期間を道路工事着手までとし右整理実施の際は無償を以て移転又は除却することを定めたものである。仍つて右建物は右の条件の履行として若しくは耕地整理法第二十七条の規定又は土地区画整理法除却の法条に基き之を除却すべきものであるのにも拘らず敢て之を為さず不法に申請人の権利を侵害するものである。

十 かくする内昭和三十一年十二月中本件仮地上の従来の占有者が退去し空地となつたところ本年二月十五日被申請人は本件土地の内五番ノ一の南部内西北部約二百坪の地上に在る建物八棟を土地区画整理法第七十七条第一項による直接施行のため取毀し同月二十七日仮換地の北部に其移築を開始した。

十一 元来被申請人が為すべき建物移転の直接施行は建物を解体若しくは曳方の方法により為すべきところ被申請人は従前の土地の建物の解体に当り其材料を使用不能の状態に取毀し其材料の大部分を処分したかくて右移築を開始したのであるがこれは殆ど新築であつて従前の地上建物を全然別箇の新築を為し従前の材料と認めらる古材料は一割程度に過ぎない。而も従前の建物は全部平家建であつたものを其約半数の新築建物を二階建とした。

十二 従前の地上建物は直接施行を為すことが出来ないものであつた換言すれば従前の地上建物は曳方の方法によるも解体移築の方法によるも移転不可能のものであつたにも拘らず右施行を強行したものである。移転不能の建物は除却すべきことは法文に明言するところであり右新築による移転も直接施行の本質に反する違法のものであることは論ずるまでもない。

十三 本件建物は昭和二十一年八月十四日勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する件に違反し右令施行後同年九月廿三日之を無視して建築を許可したものであつて違法のものであり又被申請人が仮換地の上に築造しつゝある建物は建築基準法による建築の申請を為さず本件仮換地は甲種防火地区にあり仮りに右申請をしても確認を得られない違反建築であつて被申請人の右行為は防火公安の立場からも黙視すべからざる暴挙といわなければならない。

十四 被申請人が前記施行を強行するときは狭あいなる地域に約八十世帯の人口を収容し一朝火災等の場合は其災害の危険計り難く又不衛生極まる状態であつてこの種マーケツトの公共の福祉に及ぼす弊害は甚大であつて既に其存在を許さない時期に到達しているものである。

十五 又申請人は其先代から本件従前の土地上に石鹸販売業を営み疎開後現住所に営業するのであるが其場所が前記場所に劣り業態振はず破産に瀕し本件土地の固定資産税を昭和二十七年度分より滞納しために本件土地を差押えられている次第で更に本件土地の明渡について申請人は本件建物の所有者に対し建物収去土地明渡の訴を提起し現に第二審に繋属中であるが右建物内の居住者八十名に対し仮処分を為し本訴の手続に出づることは不可能に近く実際に為さんとして為し得ず今日に至つたものである。まして前記直接施行による建物を新築されるに於ては償うことのできない損害を蒙るものである。

十六 曩に昭和三十一年七月中申請人は被申請人に対し御庁に換地予定地指定等無効確認の訴を提起し御庁昭和三十一年行第六三号事件として繋属中であるが申請人は右事件の請求の趣旨を拡張し右直接施行の無効確認を求める考えであるが前記の理由により申請の趣旨記載のような御命令を得たく本申請に及んだ。

添附書類

一 疎明書類 十七通

一 委任状   一通

昭和三十一年三月四日

右代理人 吉田正一

東京地方裁判所 御中

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com