大判例

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東京地方裁判所 昭和33年(ヨ)2551号 判決

債権者 外山恒男

右代理人弁護士 白木義明

同 広瀬松夫

債務者 鬼怒川護謨工事株式会社

右代表者 杉田信

右代理人弁護士 円山田作

外二名

主文

本件仮処分申請は却下する。

訴訟費用は、債権者の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

債権者がその主張の日に金杉三郎の昭和二十八年七月八日附出願にかかる本件実用新案権を猪原二佐久より譲り受け、その登録を了していること及び債務者が本件実用新案権の範囲に属する水泳補助具を現に業として製造、販売していることは、いずれも当事者間に争いがないところであるから、債務者において右水泳補助具を製造販売することができる法律上の権限について明確な主張と疏明のない限り、債務者はその製造販売により債権者の本件実用新案権を侵害するものといわざるをえないが、仮に本件被保全請求権の存在に関する債権者の主張が正当であるとしても、本件仮処分の必要性の存在については、多分に疑いなしとしないので、本件においては、債務者の製造販売の権限に関する判断をしばらく措き、まず、保全の必要性の点について考察することとする。蓋し、本件仮処分の必要性が肯定されない限り、債権者の本件仮処分申請は、結局、却下を免れないからである。

しかして、債務者会社代表者本人尋問の結果によりその成立を認めうる乙第九号証、証人須藤久次郎の証言並びに債権者及び債務者会社代表者の各本人尋問の結果によれば、債権者は従前から債務者と水中銃などの取引関係にあつたことから、本件実用新案権を取得した当時、債務者がすでに本権実用新案権の構造と同一ないし類似の水泳補助具を製造、販売していたことをあらかじめ承知していたことが一応認められる。はたしてしからば、債権者がたとえ、債務者には債権者に対抗しうべき何らの権限がないものと考えて、本件実用新案権を譲り受けたとしても、少くともその権利関係が裁判などによつて確定されるまでは、債務者との間に権利関係の紛争あるいは営業上の競争関係を生じ、ある程度の財産的損害を蒙るに至るであろうことは、当然これを予知しえたところであると推認されるばかりでなく、前顕各疏明によれば、むしろ債権者は、このような事態になることを覚悟のうえで本件実用新案権を譲り受けたことが窺われるから、結局債権者が債務者の行為によつて、債権者の主張するように、経済的にある程度の損害を蒙り、あるいは、そのおそれがあるとしても、これは、いわば債権者がみずから招いたものというほかはなく、このように、みずから招いた不利益を他に転嫁し仮処分によつてその救済を求めることは、保全の必要性を欠くものとして許されないものと解するのが、保全処分の本質に鑑み、相当である。

のみならず、前掲乙第九号証及び債務者会社代表者本人の供述(第一回)によれば、債務者はこの種の事業としては比較的大規模の製造設備によつて数年に亘つて本件水泳補助具を量産しており、その販路も国内のみでなく、海外にも輸出して少からぬ信用を博していることが一応認められるのに反し、債権者は本件実用新案権を取得してまだ日も浅く、債権者本人の供述によつても明らかなように債権者には製造設備すらなく、下請による製造量も、もとより債務者に及ばず、両者の業界における信用にも格段の差があることが推認される。したがつて、本件仮処分によつて債務者が本件水泳補助具の製造、販売等を禁止せられるときは重大な財産的損害を受け、本件仮処分の申立が許されないことによつて債権者の蒙るべき損害は債務者のそれとは比較にならぬ程度のものということができることが一応明らかである。

以上説示したような双方の利害を比較衡量し、かつ前段掲記の事情をも併せ考えると債権者の本件仮処分申請は、保全の必要性を欠くものというべく、到底認容することはできない。

よつて、債権者の本件仮処分申請は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべく、もとより保証をもつてこれに代えることも、本件事案の性質から適当とは認められないので、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅正雄 裁判官 片桐英才 中村修三)

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