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東京地方裁判所 昭和33年(ヨ)5328号 決定

申請人 全国金属労働組合東京地方本部小糸製作所品川支部

被申請人 株式会社小糸製作所

主文

被申請人は醍醐利郎、宮城秀夫および根岸敏文が別紙目録の建物部分を組合用務のため使用することを妨げることにより、申請人の右建物部分に対する占有を妨害してはならない。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、保証金二万円)

理由

第一申請の趣旨

申請代理人は

「被申請人は申請人が別紙目録の建物部分を占有するのを妨害してはならない。」

との仮処分命令を求めた。

第二申請理由の要旨

一、申請人は、被申請人(以下、会社という。)の従業員であるものおよび会社から昭和三一年一一月一二日解雇の意思表示を受けた醍醐利郎、宮城秀夫および根岸敏文とで組織する労働組合である。

二、申請人は昭和三二年一一月会社から別紙目録の建物部分を賃借し、爾来これを組合事務所として占有中である。

三、しかるに会社は昭和三三年一一月二五日右三名の提起した地位保全の仮処分申請が東京地方裁判所より却下されたのを機会に申請人に対し右三名は従業員でなく組合規約により当然組合員たる資格を失つたから、右三名が会社の許可なく会社施設内に立ち入ることを禁止するから、組合としても右三名に対し適切な処置をとるようにとの通告をして来た。

更に会社は翌二六日生産協議会において組合に対し本件建物の明渡を求め、書面で同年一一月二七日午後四時をもつて明け渡すよう催告して来た。

なお、会社森常務取締役は組合が明渡をしなければ、実力をもつて明渡を断行してみせる旨言明した。

四、以上のとおり会社は申請人の別紙目録の組合事務所の占有を妨害しているので、申請人はこの占有権確認、占有妨害排除の訴を提起する準備をしているが、本案判決確定をまつていては申請人の組合活動上又はその組織、運営上著しい損害をこうむるので申請のとおりの仮処分を求める。

第三当裁判所の判断の要旨

一  疎明によれば、

1  会社はかねて申請人に対し別紙目録の建物部分約二坪外階段、通路、湯呑場、便所の利用を認め、申請人は右建物部分を組合事務所として使用し、この使用に関して会社に金五〇〇円(申請人はこれを賃料と主張し、会社は電燈、水道、電話等の料金の支払にあてる金員と主張する。)を支払つて来たこと

2  醍醐利郎、宮城秀夫、根岸敏文の三名は昭和三一年一一月一二日会社から解雇されたが、右解雇は無効であるとして東京地方裁判所にいわゆる地位本全の仮処分の申請をし、または雇用関係存在確認の訴を提起し、申請人も同月二七日第五回臨時大会において右三名に対する解雇は無効であり、組合員としての資格および権利義務を保有する旨の決議をし、また昭和三三年一一月二八日臨時大会において右三名が申請人の組合員であることを再確認したこと

現在申請人から醍醐は申請人組合の調査部長、宮城は同執行委員、渉外部長、根岸は同教宣部長の地位にあるものとされていること

3  右三名は解雇後も会社の守衛所に届出をして組合用務のため前記組合事務所を利用して来たこと

4  会社は昭和三三年一一月二五日前記仮処分申請が東京地方裁判所において却下されたことを契機に申請人に対し「右三名の者は本日以後従業員でないことが明確になつたから、組合規約により当然組合員たる資格を喪失した。従つて右三名の会社施設内の出入を禁止する」と通告したこと

5  翌二六日午前八時半頃右三名が組合事務所に入室のため会社守衛所に赴いたところ、守衛より会社人事係の許可を受けるから待つようにいわれて約一時間待たされた末、残務整理のためならば入室を許可するという人事係からの回答を受けたが、右三名は来合せた人事係長等に残務整理のためではないが組合事務所に入ると告げて組合事務所に入つたこと

6  同日申請人役員が右三名は組合員であることを会社森常務取締役に説明したところ、同取締役は「組合事務所は会社従業員だけで組織されていた組合に貸したものであるから、従業員でない者を組合員としているような組合には貸すわけにはいかない。早速組合事務所を明け渡して貰いたい。申請人が明渡を拒否すれば会社は実力でやつてみせる」といつたこと

7  会社は翌二六日付書面で翌二七日申請人に対し同日午後四時までに組合事務所を完全に明け渡すことを求め、なお、会社は明渡について岩崎、七尾両係長を立ち会わすから、申請人も副執行委員長を立ち会わすよう要求したが、申請人は明渡を拒否し、右副執行委員長も立会をしなかつたが、右両係長は書面で右副執行委員長に対し貴殿は明渡に立ち会わないから、本日午後四時以降明渡を完了したものとして処理する旨申し入れたこと

の諸事情が認められる。

右諸事情と会社の主張とを総合してみれば、会社は右三名が従業員ではなく、従つて組合員でないから組合事務所を使用することはできない、従つて、会社は右三名に対しては私物持出などの残務整理以外の目的で組合事務所を使用することを拒否できるものと考え、右三名に対しては今後も組合用務のための使用を拒否して行くものと認めるのが相当である。

なお、申請人は会社は人夫をやとつて組合事務所の明渡を実力で行うおそれがあるとの疎明を提出しているが、これは申請人の思いすごしと思われ、会社が実力で申請人の組合事務所の占有を全面的に妨害しまたは排除するおそれはないものと認められる。

二  会社は右三名は組合員たる資格を喪失したから、組合事務所を利用することができないと主張する。

しかし、会社がその従業員だけで組織する労働組合に組合事務所を貸与した場合であつても、右契約に特別の留保条項が存するためなどにより非組合員の組合事務所の利用不能など組合の事務所に対する利用が事実上制約された状態で継続したという特段の事情の存する場合を除いて、その労働組合はその目的達成のために行う組合活動のため社会観念上通常必要と認められる場合においては、外部団体員その他の第三者に対しても組合事務所を利用させることもできる占有権を取得しているものと認めるのが相当である。

そして申請人がその大会における決議により執行委員等の地位に選出することにより、又は組合員と確認することにより自己の組合活動上の事務の処理を委託し、或いは自己の組合活動のなかに事実上包摂している右宮城外二名に対し、同人らの解雇後も右事務処理等のため組合事務所を利用させて来た疎明があり、かつ、かかる地位にある右三名に組合活動上組合事務所を利用させていることが組合の組合事務所の使用として社会観念上異常な事例とは認められないから、申請人は別紙目録の組合事務所に対し右宮城外二名についても右事務所を組合活動のため利用させることができる占有権を有しているものと認めるのが一応相当である。

従つて会社が右三名に対し組合用務のため組合事務所を使用することができないようにすることは、申請人の右事務所に対する占有権の円満な行使をさまたげることに該当する。

なお、会社は申請人は人格がないから権利主体となり得ないと主張する。

しかし、疎明によれば、申請人はその組合員の脱退、加入にかかわらず独自の存在を保つ組織体であつて社団と認められるから、組合員がそれぞれ組合事務所に対し別個の占有権を有していると考えることが実体に即したものとは考えられない。

更に会社は右三名が職場に立ち入り不作法な行為をして会社の得意先に迷惑をかけたり、或いは組合事務所を自己のアルバイトに利用するなどの行為をすると主張する。

当裁判所ももとより右三名のかような行為を保護するものではないが、右三名にかような行為があつたからといつて、右三名が申請人の有する占有権に基き、本来の組合用務のため組合事務所を使用することを不可能にすることは許されないものというべきである。

三  そして疎明によれば右三名は現在前記のとおり申請人組合の役員とされている上、宮城秀夫は申請人の前書記長、醍醐利郎は元執行委員長、根岸敏文も元執行委員長、元書記長の地位にあつたことが認められるので、右三名は組合のための重要な働き手と認められるから、右三名が組合事務所を利用し得ないことは申請人にとつて重大な損害と認められる。

よつて、申請人に金二万円の保証を立てさせた上主文の限度において本件申請を認容するのを相当と認め申請費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九五条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原正憲 大塚正夫 伊藤和男)

(別紙)

物件目録

東京都品川区東品川四丁目二六番地

株式会社小糸製作所内

全国金属労働組合東京地方本部小糸製作所品川支部

組合事務所

約二坪

(別紙図面省略)

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