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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)103号 判決

原告 渡辺寿

被告 原田力 外一名

主文

被告原田力は原告に対し、金二〇万円およびこれに対する昭和三二年一二月二八日から支払ずみまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

被告両名は各自原告に対し、金七五万円およびこれに対する昭和三三年一月一九日から支払ずみまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は、昭和三三年(ワ)第一〇三号約束手形金請求事件につき昭和三三年一二月四日以前に生じた部分は被告原田力の、その余の部分は被告両名の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として

「一 被告原田力は原告に宛て昭和三一年三月一四日次の二通の約束手形を振出し交付し、原告は現にその所持人である。

(1)  金額一〇万円、満期昭和三一年五月一五日、支払地および振出地東京都、支払場所株式会社北海道拓殖銀行築地支店(以下この手形を一号手形という)。

(2)  金額一〇万円、満期昭和三一年五月三一日、支払地および振出地東京都、支払場所株式会社北海道拓殖銀行築地支店(以下この手形を二号手形という)。

二 被告両名は原告に宛て昭和三一年四月一四日次の二通の約束手形を振出し交付し、原告は現にその所持人である。

(1)  金額二〇万円、満期昭和三一年四月三〇日、支払地および振出地東京都、支払場所自宅(以下この手形を三号手形という)。

(2)  金額五五万円、満期昭和三一年五月一三日、支払地および振出地東京都、支払場所自宅(以下この手形を四号手形という)。」

とのべ、「よつて原告は、被告原田力に対し約束手形金金二〇万円およびこれに対する支払命令送達の日の翌日である昭和三二年一二月二八日から支払ずみまで商法所定年六分の率による遅延損害金の、被告両名に対し各自約束手形金金七五万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和三三年一月一九日から支払ずみまで商法所定年六分の率による遅延損害金の、各支払を求めるため本訴におよんだ。」とのべ、被告等の主張に対し次のとおりのべた。

「本件各手形の支払地および振出地が東京都と記載されているにすぎなくとも、振出人の名称に附記した地(以下これを振出人の肩書地という)の記載があるから、その振出人の肩書地が支払地および振出地となる。また、三、四号手形は振出人が二名あつてその肩書地が違つても、そのような記載は手形所持人に選択権のある選択的記載と推定すべきか、又は筆頭に記載された者をもつて振出人と解すべきであるから、手形が無効となるものではない。次に、一、二号手形は受取人であり所持人である原告が裏面記載を抹消した。」

証拠として原告訴訟代理人は、甲第一ないし第四号証および第五号証の一ないし四を提出し、証人原田立也の証言を援用した。

被告等は「原告の請求は棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告の請求原因に対し、「原告の請求原因中被告原田力が一、二号手形を、被告両名が三、四号手形を振出し交付したとの点は否認し、同第二項中振出以外の点は不知」と答え、更に次のように主張した。

「一 本件各手形は、いずれも訴外原田立也が勝手に被告名称を冒用偽造したものである。

二 本件各手形は、原告主張によるといずれも支払地および振出地が東京都と記載されているのであるから、約束手形の必要的記載事項の記載を欠く無効のものであり、振出人の肩書地の記載があつても手形法による救済が認められないものである。また、特に三、四号手形は振出人が二名であるから、いずれの振出人の肩書地をもつて補充すべきか不明である。

三 原告は一、二号手形について裏書の連続を欠く所持人である。」

証拠として被告等は、証人原田立也の証言を援用し、甲第一および第二号証中被告原田力に関する部分は成立を否認その余の部分の成立は不知、甲第三および第四号証中振出人名下の印影が各被告両名の印章によるものであることは認めるがその他の成立は否認するとのべた。

理由

原告主張の被告等が本件各手形を振出したか否かの点について判断する。証人原田立也の証言によれば、被告原田力は本件一、二号手形の振出日である昭和三一年三月一四日ごろは、病気のため築地中央市場仲買人としての自己の営業上の諸行為を自からすることができないので、その長男である訴外原田立也が、銀行取引や手形取引を含む右営業に関する諸行為を力名義で代理していたこと、本件一、二号手形も立也が力を代理する目的で振出人としての力の記名捺印を代行し、これを原告に交付した事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。以上の事実からすれば、他に特段の事情のないかぎり右一、二号手形につき被告力は振出人としての責に任ずべきものと観ぜざるを得ない。次に、甲第三および第四号証の各振出人名下の印影は各々被告両名の印章によるものであることが当事者間に争がないので、全部真正に成立したものと推定すべき甲第三および第四号証によれば、本件三、四号手形は被告両名が共同して振出し原告に交付したものであることが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

次に、原告主張の原告が本件各手形の所持人であるか否かの点について判断する。原告が本訴において甲第一ないし第四号証を提出したことによつて、原告が本件各手形の所持人であることが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。また、原告主張の原告が本件一、二号手形の各裏面記載の裏書を抹消したとの事実は、被告原田力が明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。従つて、原告は他に特段の事情なきかぎり本件各手形上の権利行使の資格あるものと認められる。

更に、本件一、二号手形金の支払を請求する東京簡易裁判所昭和三二年(ロ)第九一四号支払命令申立事件の支払命令が、昭和三二年一二月二七日被告原田力に送達された事実、および本件三、四号手形金の支払を請求する当庁昭和三三年(ワ)第一七八号約束手形金請求事件の訴状が、昭和三三年一月一八日被告両名に送達された事実は、いずれも本件記録上明らかである。従つて、右の各送達の翌日以後それぞれにつき被告両名は遅滞の責を負うべきである。

最後に、被告等の本件各手形は約束手形の必要的記載事項の記載がない要件欠缺の無効なものであるとの主張について判断する。約束手形は手形法七六条四項により振出地の記載がなくても、振出人の肩書地の記載があればその地において振出したものとみなされるのであり、また同法同条三項により振出地は特別の表示なきかぎり支払地にしてかつ振出人の住居地とみなされるのである。従つて、振出人の肩書地の記載があれば、支払地および振出地の記載がなくても、その手形が直ちに無効となるものではないのである。そして右の特別の表示とは、支払地および振出人の住居地の一方又は双方が振出地と異なる地である旨の記載がある場合をいうものであるから、振出地および支払地として振出人の肩書地と同一の都道府県名の記載があるだけでは特別の表示がある場合にはあたらないと解すべきである。また、振出人が二名以上あつてその肩書地が異なり支払地および振出地の記載がないときは、振出人はその肩書地のいずれか一方をもつて手形の支払地とし、これを所持人をして選択せしめる意思をもつて振出したものと推定すべきで、手形が要件の記載を欠き無効なものとみるべきでない。けだし、約束手形の振出人が手形振出という行為を共同してなす以上、各自手形債務を負担する意思をもつてこれをなしたものと解すべきこと約束手形の振出という行為の性質上明らかというべきであつて、特に支払地および振出地を不明確なものとし振出を無効ならしめる意思があつたものとみるべきでないから、満期の日に手形金の支払請求を受けることは各振出人の予期するところといわなければならないし、更に手形所持人についてこれをみれば自己の選択によりいずれか一方に支払を求めることができるのであるから、その支払が特に不確実となるおそれがない、従つて手形取引の敏速安全を害するおそれがないからである。いまこれを本件各手形についてみるに、支払地および振出地が各手形とも東京都とのみ記載されていること、一、二号手形の振出人の肩書地が港区以下の記載があること、三、四号手形の振出人の肩書地が原田力につき芝南佐久間町以下の記載があり竹内十三郎につき中央区以下の記載があることは、甲第一ないし第四号証により認めることができる。従つて、本件各手形の必要的記載要件の記載がない部分は、振出人の肩書地の記載があることにより手形法による救済が認められるから、すべて有効な手形なのである。

結局、被告原田力は原告の請求する一、二号手形の約束手形金金二〇万円およびこれに対する昭和三二年一二月二八日から支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を原告に支払う義務があり、更に被告両名は原告が請求する三、四号手形の約束手形金金七五万円およびこれに対する昭和三三年一月一九日から支払ずみまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を各自原告に支払う義務があること明らかである。

よつて原告の被告両名に対する本訴請求はいずれも理由があるものと認めてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柳川真佐夫)

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