大判例

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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)3873号 判決

原告 大八木喜代次

被告 浦部キヨノ

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、別紙物件目録記載(一)の建物部分から退去して、別紙物件目録記載(二)の土地を明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言とを求め、請求原因として、つぎのとおり述べた。

「原告は東京都大田区入新井六丁目五八番の一宅地三六〇坪二合三勺(分筆前の表示)の所有者である。しかるに右土地は土地区画整理を受けることゝなり、昭和二五年八月二一日別紙添付図面ABCDEFGHAの各点を結ぶ線内の二六五坪五合五勺が仮換地として指定を受けたので、原告は右の仮換地につき所有権と同様の使用収益権を有するところ、被告はそのうち別紙添付図面表示の部分六坪(以下本件土地という。)上に建築されてある別紙物件目録記載の建物部分(以下本件建物という。)を使用し、もつて本件土地を占有している。よつて被告に対し本件建物から退去して本件土地を明渡すことを求める。」

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、つぎのとおり述べた。

「原告主張事実中、原告が本件土地を含む東京都大田区入新井六丁目五八番の一宅地三六〇坪二合三勺の所有者であつたこと、被告が本件建物を使用して本件土地を占有していることは認める。仮換地指定に関する事実は不知、本件土地の現在の表示は前同所五八番の三であるが、この土地については、昭和三四年一一月三〇日税金滞納処分による公売により訴外豊田政一郎が競落してその所有権を取得し、原告はその所有権を失つた。そして豊田は地上にある本件建物をも元所有者であつた訴外斎藤長五郎から譲受け、昭和三五年一月一九日所有権移転登記手続を経由しており、被告は豊田から本件建物を賃借しているのである。」

原告訴訟代理人は、被告の抗弁に対し、つぎのとおり述べた。

「被告主張事実中、本件土地につき公売処分がなされて豊田がこれを競落したとのことは否認する。すなわち東京都知事は昭和三四年九月一一日原告所有の前述宅地三六〇坪二合三勺(仮換地地積二六五坪五合五勺)全部につき都税徴収金の滞納処分による差押をなし、ついで同年一〇月二〇日債権者代位権により右土地をつぎのとおり四筆に分筆した。

(イ)  五八番の一 二一七坪四〇

(ロ)  五八番の三 七五坪七〇

(ハ)  五八番の四 三六坪九四

(ニ)  五八番の五 三〇坪一九

そして右五八番の三の土地につき、本件土地を含む五三坪二一がその仮換地に相当する部分であるとして境界標識を付し、同年一一月三〇日公売が行われ、豊田政一郎が競落して同年一二月三日同人への所有権移転の登記がなされたものであるけれども、右の分筆された五八番の三、七五坪七〇については未だ仮換地の指定がされていないのであるから、分筆前の三六〇坪二合三勺の仮換地である二六五坪五合五勺のうち、どの部分が右の分筆された五八番の三、七五坪七〇の土地の仮換地に該当するかは未定のまゝである。よつて五八番の三の土地について公売処分が行われたといつても、直ちに本件土地が公売処分の対象となつていたとはいうことができない。被告が本件建物を豊田から賃借していることおよび右建物は元斎藤長五郎の所有であつて、斎藤から豊田に譲渡され、その旨の登記手続がなされたことは認めるが、右豊田への建物譲渡は、原告を害することのみを目的として仮装した虚偽表示であつて無効である。

被告訴訟代理人は、「原告の右主張事実は不知」と述べた。

証拠〈省略〉

理由

原告が東京都大田区入新井六丁目五八番の一宅地三六〇坪二合三勺(分筆前の表示)の所有者であつたことは当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第八号証、証人長野輝次の証言および弁論の全趣旨によれば、右土地については土地区画整理が施行され、昭和二五年八月二五日仮換地二六五坪五合五勺の指定があり、本件土地はその一部であることが認められ、被告が本件土地の上に建てられた本件建物を使用して、本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

つぎに前出甲第八号証、成立に争いのない乙第二ないし第四号証、証人長野輝次、同豊田政一郎の各証言によれば、前出五八番の一宅地三六〇坪二合三勺については、昭和三四年九月一四日東京都から都税滞納処分により差押がなされ、ついで同年一〇月一九日その一部七五坪七合について東京都が債権者代位権により分筆登記をしたこと(その結果その部分は同所五八番の三と表示されるに至つた。)そして右の五八番の三の土地に対し前示滞納処分による公売処分がなされ、同年一一月三〇日訴外豊田政一郎がこれを競落して、同年一二月三日所有権移転登記手続を経由したことがそれぞれ認められる。

以上によれば、五八番の三宅地七五坪七合は豊田の所有となり、原告はその所有権を失つたということができる。もつとも前出甲第八号証によれば、右の分筆後の五八番の三宅地七五坪七合については仮換地の指定がなされていないことが認められ従つて分筆前の五八番の一宅地三六〇坪二合三勺に対応する仮換地二六五坪五合五勺のうち、どの部分につき豊田が使用収益権を取得し、これに応じ原告が使用収益権を失うかは、未決定の状態にあるべきであるけれども、(この点に関する証人長野輝次の証言は直ちに採用し難い。)それが未決定の間は、原告と豊田とは右の仮換地全体につきその所有土地の坪数の割合に応じた使用収益をすることができ、両者の土地使用についての関係は共有者相互の関係に準ずるものと解するのが相当である。従つて原告は豊田が、全体の土地に対するその買受土地の割合をこえない程度で仮換地を使用する場合、これに対して妨害排除の請求をすることはできないものと解される。

ところが、被告は訴外豊田政一郎から本件建物を賃借しているものであり、豊田は本件建物を前所有者の斎藤長五郎から譲受け、所有権移転登記手続を経由していることは当事者間に争いがなく、右斎藤から豊田への譲渡が虚偽表示であるとのことは、これを認むべき証拠が存しない。

そうとすれば、原告は少くとも僅か六坪の本件土地につき、豊田の所有権もしくはこれに基く使用収益権を援用する被告に対しては、被告の本件土地占有が、原告の有する土地使用収益権を妨害するものとして、その明渡を求めることは許されないものというの外ない。

よつて本訴請求は、理由なしとして棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉岡進)

別紙

(一) 東京都大田区入新井六丁目五八番

家屋番号同町五八番の七

一、木造瓦葺二階建店舗一棟

建坪三七坪 一階二七坪五合

のうち

道路に向つて右側より五軒目の部分

建坪六坪 二階五坪

(二) 東京都大田区入新井六丁目五八番の一(分筆前の表示)

一、宅地三六〇坪二合三勺

の仮換地として指定された

一、宅地二六五坪五合五勺

(添付図面ABCDEFGHAの各点を順次直線で結んだ範囲内)

のうち

六坪

(添付図面ホの部分)

図〈省略〉

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