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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)907号 判決

判  決

横浜市戸塚区戸塚町四、〇三八番地

原告

片山信平

右訴訟代理人弁護士

柴田勝

東京都中央区日本橋小網町二丁目一〇番地の二

被告

日栄証券株式会社

右代表者代表取締役

上西康之

右訴訟代理人弁護士

高瀬太郎

右当事者間の昭和三四年(ワ)第九〇七号株券返還請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告は原告に対し金一、〇三五、五〇〇円及びこれに対する昭和三五年一二月三日から宗済するまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りにこれを執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

「一 被告は有価証券の売買及びその取次を業とする株式会社である。

二 原告は被告に対し昭和三三年四月から同年六月下旬ころまでの間別紙目録記載のとおり株式の買付を委託して株券の引渡を受けたが、その受渡の都度名義書換手続を委託して被告に寄託した。

三 右株式の買付及び右株券の名義書換のための寄託は、当時被告の外務員であつた訴外佐藤喜代治を介してなされたものであるが、同人は株式売買の委託及び株券の名義書換手続の委託を受けることについて被告を代理する権限を有している。

四 仮りに、訴外佐藤喜代治が、株式の名義書換手続の委託を受けその株券を受託する代理権限を有しなかつたとしても、同人は、少くとも、株式売買の受託、代金の集金、株券の一時保管等について被告を代理する権限があつたのであるから、原告は、同人が株券の名義書換手続の委託を受け、これを寄託することについても、また、被告を代理する権限があると信ずるについて正当の事由がある。従つて被告は民法第一一〇条によつて本件寄託の責任を免れない。

五 然るところ、訴外佐藤喜代治は被告のため寄託を受けた本件株券を昭和三三年七月下旬までに擅に他に売却した。よつて被告は本件株券の寄託契約にもとづく返還義務が履行不能となつた。右売却行為は原告が寄託した時より昭和三三年七月下旬までの間に行われたものであるから、原告は少なくともその間における各株式の最低の時価(別紙目録記載のとおり)合計一、〇三五、五〇〇円に相当する損害を受けた。

六 右損害は、仮りに被告の債務不履行にもとつくものでないとしても、被告の被用者である外務員訴外佐藤喜代治が被告の附随業務である名義書換手続の受託の執行について原告に加えた損害である。即ち被告の外務員である訴外佐藤喜代治が被告の附随業務である名義書換手続の受託のため原告より本件株券の引渡を受け保管中これを前記のとおり他に売却したのであるから、前記損害は民法第七一五条第一項によつて被告はこれを原告に賠償する責任がある。

七 よつて、原告は被告に対し債務不履行による、然らずとするも不法行為による損害の賠償として金一、〇三五、五〇〇円及びこれに対する返還請求をした日の翌日である昭和三五年一二月三日から完済するまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

なお、抗弁に対し、被告主張の広告が新聞に掲載されたこと及び被告主張の文言が売買報告書等に記載されていることは認めるが、その余の事実は否認すると述べた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

「一 請求原因事実一は認める。

二 請求原因事実二のうち、被告が本件株券を名義書換のため寄託を受けたことは否認し、その余は認める。

三 請求原因事実三のうち訴外佐藤喜代治が当時被告の外務員であつたこと及び同人が原告主張の如く本件株券の引渡を受けたことは認めるが、その余は否認する。

四 請求原因事実四は否認する。

五 請求原因事実五のうち訴外佐藤喜代治が本件株式を原告主張のとおり他に売却したこと及び本件株式の原告主張の時期における最低時価は原告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

六 請求原因事実六のうち訴外佐藤喜代治が本件株券の引渡を受け保管中他に売却したことは認めるが、その余は否認する。」

次いで抗弁として次のとおり述べた。

「一 被告その他の証券業者は法令により有価証券の売買、受託等について遅滞なく売買報告書、預り証を顧客に交付するよう命ぜられ、これを忠実に実行しているとともに、東京証券取引所及び東京証券業協会は連名にて「現金又は株券を証券業者に預ける際は、必ず会社の捺印ある正式の預り証を受取ること、社員、外務員その他の個人の仮預り証等に対しては証券業者は責任を持たない。」及び「売買報告書等は、売買成立の都度証券会社が作成して顧客に届けるから、未着の場合や内容に相違のあるとき、直ちに証券会社に申出ること」などを各新聞に常に広告し、各証券業者は右の趣旨を店頭に掲示し、又は売買報告書その他の文書に印刷記載し、顧客に周知徹底させるとともに注意を促して来た。

従つて、売買報告書又は預り証によらない限り証券業者は株式の売買取引、株券の寄託等について責任を負けないことは東京において商慣習として確立している。

二 原告は本件株券の寄託について何ら被告の正規の預り証を受領していないから、被告はその責任を負わない。

三 仮りに被告が寄託上の責任を負うとしても、被告ら証券業者が前記の如く正規の預り証によるべき旨絶えず広告し注意しているにもかかわらず、原告は漫然訴外佐藤喜代治に株券を引渡し、正規の預り証によらなかつたことは、被告の寄託契約上の債務不履行に関し原告に過失があるものであるから、損害賠償の責任及びその額について右過失を斟酌すべきである。

四 仮りに原告が被告の被用者訴外佐藤喜代治の業務執行行為によつて損害を受けたとしても、被告は監督官庁、東京証券取引所、東京証券業協会の指示に従い、外務員の選任及び監督に厳重な注意をしていたから損害賠償の責任はない。

五 仮りに然らずとするも、原告は前述のとおり正規の預り証を受取らないで買付けた株券を引渡していた過失があり、これは不法行為に関するものでもあるから、損害賠償の額について斟酌されるべきものである。

立証(省略)

理由

一、被告は有価証券の売買及びその取次を業とする株式会社であること、及び原告は被告に対し昭和三三年四月から同年六月下旬ころまでの間別紙目録記載のとおり株式の買付を委託し、株券の引渡を受けたことは当事者間に争がない。

二、原告は右株券を告被より引渡を受けた都度被告の代理人訴外佐藤喜代治を介して被告に対し名義書換のため寄託した旨主張するから、この点について判断する。まず訴外佐藤喜代治が当時被告の外務員であつたこと及び原告が右株券を受渡の都度右佐藤に対し交付したことは当事者間に争がない。

よつて、佐藤が右株券の交付を受けたのは、被告の代理人として名義書換手続の委託を受けこの寄託を受けたかどうかが問題となる。(証拠省略)被告は顧客に対するサービスとしてその依頼により名義書換手続をすることが認められるから、被告外務員である佐藤は被告のため株式の売買取引の委託を受ける代理権のみならず株式の名義書換手続の委託従つてその手続のため株券の寄託を受ける代理権を有するものと解するのが相当である。従つて原告が被告の外務員である佐藤に前記株券の受渡の都度名義書換を依頼してこれを交付したことが原告本人訊問の結果により認められる以上特に佐藤個人に名義書換を依頼する旨又は原告の代理人とする旨の明示の意思表示を認めるに足る証拠のない本件においては、原告は右株券を名義書換のため被告代理人佐藤を通じて被告に寄託したと認めるのが相当である。

(中略)

三、被告は、東京都における証券取引男においては証券業者の発行する正規の預り証によらない限り株券の寄託について責任を負わないとする商慣習がある旨主張するが、これを認めるに足りる証拠なく、かえつて証人二宮志夫は、正規の預り証がなくとも預託の事実が証明されれば証券業者はその責任を負う旨供述しており、右預り証は単なる証拠証券ないしは免責証券にすぎないものと認められるから、被告の右主張は採用することができない。

四、訴外佐藤喜代治が本件株券を預り保管中昭和三三年七月下旬までの間に他に売却したこと及びその期間における本件株式の最低時価がそれぞれ別紙目録記載のとおりで合計一、〇三五、五〇〇円であることは、当事者間に争がなく、前記認定のとおり本件株券は被告が原告より名義書換手続を依頼されて寄託を受けたものであるから、右佐藤の売却により被告は原告に対し右寄託契約にもとづく本件株券の返還債務の履行を不能ならしめ、よつて金一、〇三五、五〇〇円の損害を被らしめたものといわなければならない。

よつて被告の過去相殺の主張について判断するに、東京証券取引所及び東京証券業協会の連名で被告主張のような新聞広告文が掲載されていること並びに被告発行の買付報告書にその主張のような文言が記載されていることは、いずれも当事者間に争がなく、原告が被告を介して本件株券を買いつけた当時、被告から交付された買付報告書に被告主張のような文言の記載があることを知了しながら被告発行の預り証を受領せず、また、その後の問い合せもその請求もしなかつたことは、原告本人の供述により明らかである。しかし、右の新聞広告文及び買付報告書における記載は、必ずしもこれをもつて外務員の代理権に制限を加えたものと考えることはできない。外務員はその仕事の性質上通常機動的に顧客の需めに応じて事を処置する必要があるのであつて、正規の預り証と引換えでなければ株券の寄託を受けえないということでは、仕事の実績をあげることができず、これを使用する証券業者にとつても決して有利といえないからである。成立に争がない甲第一号証ないし第六号証、乙第二号証の一ないし八(いずれも買付報告書)に、「有価証券等を証券会社に御預けの節は必ずその会社の押印がある正規の預り証を御受取下さい。若しこれと異る預り証を受取られたときは遅帯なく正規の預り証と御引換え下さい。正規の預り証がないときは証券会社はその責を負い兼ねる場合があります」と記載され、正規の預り証を受領しない場合の株券の預託もこれを無効とせず、また、証券会社において常にその責任を負担しないものとはしていないのも、右の事情によるものと察せられ、現に被告会社においても、店頭外で外務員が顧客から株券を預かる等やむをえない場合には、外務員が自己の名刺に預り文言を書いてこれを顧客に交付し、後日これと正規の預り証とを引き換えることを認めていることは、証人二宮志夫の供述するところである。とすれば、右の広告文および買付報告書における記載は、単に外務員らの権限濫用を防止するため顧客に対し成るべく正規の預り証を受領されたい旨の一応の要望を表明したものにすぎないものであつて、これによつて外務員の代理権の行使に制肘を加えたものではないと解するを至当とする。

もとより、証券取引に関して証券業者らが右のように一般顧客の注意を喚起し、これによつて外務員らの不正行為を防止しようとする気持は理解できないこともなく、顧客もできるだけこれに協力して証券取引の円滑化をはかるべきであることは、信義則からいつて一応当然のことといつて差し支えなく、したがつて、風客は、外務員に株券を預託する際正規の預り証を受領しえなかつたとしても、その後できるだけ早い期間内にその交付を求め、株券が確実に証券業者の手許に保管された事実を確めるべきであつて、株券寄託後相当期間内に正規の預り証の交付がないにかかわらず、漫然とさらに株券を寄託のため当該外務員に交付することは軽卒であるとも考えられないことはない。しかし、元来、顧客に対し株券の受託につき証券業者を代理する権限のある外務員に対して株券を寄託するにあたり、証券業者の正規の預り証の受領を求めること自体、必ずしも適切な措置とはいい難い。このような措置はその実質において外務員の代理権を制限するにありながらこれに徹底せず、顧客をして帰趨に迷わしめるにすぎないからである。証券業者にして、もし、外務員に株券受託の代理権を与えず、またこれを制限する意図を表明しようとするときは、もつと単的にその趣旨を明示すべきであつて、右の程度の広告文または記載内容の程度では足りないものといわなければならない。ひつきよう、顧客がかかる広告または記載を無視し、預り証の交付を受けないで外務員に株券を寄託したとしても、いまだ、これをもつて顧客の過失とするに足りないものと認むべきである。従つて、被告のこの点に関する主張は採用できない。

五、以上判示したところによれば、被告は原告に対し本件寄託契約にもとづく返還義務の履行が不能になり、少くとも当時の最低時価金一、〇三五、五〇〇円の損害を与えたことが明らかである。

従つて原告は被告に対し右損害額金一、〇三五、五〇〇円及びこれに対する返還請求の日の翌日であること一件記録に徴し明白である昭和三五年一二月三日から完済するまで年五分の遅延損害金を求むる本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部茂吉

裁判官 上 野  宏

裁判官 玉 置 久 弥

(目録省略)

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