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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)5262号 判決

原告 安藤定治 外二名

被告 遠山啓 外一名

主文

1、別紙中物件目録〈省略〉記載1ないし3の各土地について同記載11ないし13の各土地のため通行のための地役権が設定されていることを確認する。

2、被告遠山啓は原告らに対し、別紙中物件目録記載4の建物部分、同記載5のコンクリートブロツク塀、同記載6の木戸及び同記載7の板塀を収去しなければならない。

3、被告中村達は原告らに対し、別紙中物件目録記載8の板塀、同記載9の木戸及び同記載10の板塀を収去しなければならない。

4、被告らは原告らが別紙中物件目録記載1ないし3の各土地を通行することを妨害してはならない。

5、訴訟費用は被告らの負担とする。

6、この判決は第二、第三項にかぎり仮に執行することができる。

7、被告らが各自一五万円の担保を供するときは、それぞれの被告に関する前項の仮執行を免れることができる。

事実

1  原告の請求の趣旨は主文第一ないし第五項と同旨(表現方法及び列挙の収去物件について多少異なるが同旨と認めることは後記理由中の記載のとおり)の判決及び仮執行の宣言を求めることであり、請求の原因は別紙中のその記載のとおり。

2  被告らの答弁は別紙中のその記載のとおり。

3  証拠関係は別紙中〈省略〉のその記載のとおり。

理由

1、原告原田至康を除くその余の原告ら及び被告らがそれぞれ原告ら主張のとおり各土地について所有権を取得したこと、原告原田が原告ら主張のとおりの土地上の家屋貸借人であることは当事者間に争がなく、その各土地が別紙中の物件目録添附図面(一)(二)記載のとおりの位置、形状をなしていることは被告らにおいて明に争わないので、これを自白したものとみなす。

2、本件における唯一の争いは被告ら所有の別紙中物件目録記載1ないし3の各土地について原告ら主張の地役権が設定されているか否かであるが、当裁判所は次の理由で右地役権が設定されているものと認定する。すなわち

(1)、前記争のない右物件目録記載1ないし3、11ないし13の各土地及びそれら土地に隣接または近接して存在する各土地の位置形状及び検証の結果からすれば、右1ないし3の各土地は正に洗足町一、二九二番地の一三、一二、一一、一七の各土地とともに幅一間半の細長く曲折した土地部分の一部をなし、一見して私道の形態となつている土地の一部となつていること

(2)、成立に争のない甲第二号証の一ないし一〇、乙第一、第二号証、原告安藤定治本人尋問の結果によれば、前出一見して私道の形態にみえる各土地が、そのように細長く細分して分筆されたのは、前記争のない被告ら及び原告山岸への土地売買前の昭和二六年一〇月中、原告安藤の先代作太郎がもと一筆であつた右土地を含む一帯の約五百七十余坪の土地を分譲するため、分筆によつて生じた洗足町一、二九二番の三、四、五の各土地への出入を便利にし、各分譲地の価値をほぼ同価値とするため、とくに私道を設ける趣旨で、私道に相当する部分をとくに細分して登記したものであること、その私道を設けたことをとくに買受人らに承知させ、その隣接の分譲地譲受人に右私道分をほゞ折半して買受けさせ、その代りに、私道分の附随している分譲地の価格をその附随していない分譲地のそれよりも坪当り三〇〇円程度安値(その結果坪約七二〇円程度)にしたこと、そのようにして私道が設けられる結果公道に直接面しない分譲地も公道に直接面する土地と通行上差して変りがないのでそれら各土地の価格をほぼ同一値段としたこと(私道分の附随しない土地は別として)、各分譲地には分譲前予め境界石または境界杭を設置したが、それらは私道分を除き、いずれも私道分の土地との境界に設置され、その境界石または境界杭のみをもつてしても私道分が区分されるようにしてあつたこと(したがつて、各分譲者が所有すべき私道分の中心の所有権分界点には境界の標識がない)などが認められること

(3)、その後当事者間に争のない前記所有権移転経過によつて、被告ら及び原告山岸がそれぞれ原告主張のとおり分譲を受けたが、証人阿部富雄、原田節子の各証言、原告安藤定治、山岸作各本人尋問の結果によれば、その後も引き続き昭和三五年八月初め頃までは、被告らはいずれも前記私道分に属する前出1ないし3の各土地を開放し、その土地と各自が買い受けた洗足町一、二九二番の六、七、八の各土地との境目に板塀を設置し、同1ないし3の各土地を私道として原告らはもちろん附近の人達の通行の用に供していたことが認められること

などを綜合すれば、前記分譲に当つて地主の安藤作太郎は明かに前出1ないし3の各土地を他の前出番地の13、12、11、17の土地とともに同番地の3、4、5の各土地その他隣接地のための通行に供する私道とする意図であり、それら私道予定地の譲受人にはそれらを私道として、少くとも右番地の3ないし5の土地のために地役権を設定することを条件として、右1ないし3の細長い分筆地をそれぞれ被告らに譲り渡したものであり、被告らはそれを了承の上それらを買い受けたもの、すなわち、その買受の際に右地役権を設定したものであり、かつ、その後昭和三五年八月初まで右地役権の設定に基づく義務を承認し、履行していたものというベきである。

3、もつとも、被告ら各本人尋問の結果によると、被告らが訴外安藤作太郎からその現各所有地を買い受けるに当つて、前認定のような私道設置の条件をつけられず、もちろん前記地役権設定の話などなかつた旨及び昭和三五年八月初頃まで前記1ないし3の各土地を開放して原告らその他の者の通行に委せたのは好意によるものであつて別段私道または地役権設定の結果ではない旨の供述はあるが、前認定のとおりの分筆による地番の設定状況、境界標識の設置、昭和三五年八月初頃までの板塀の設置及び土地の使用状況等からすれば、被告等が慢然と何の疑もなくその買受土地全部を自己の専用使用地として買い受けたとは思われず、また単に原告らに対する個人的な好意で右1ないし3の各土地を無対価で原告らに使用させていたものとは解されず、買受時から右1ないし3の各土地は少くとも原告らが所有または使用している前出一、二九二番の三、四、五の各土地のために利用される私道に提供すべき土地であることを認識し、かつ、それに供していたものと思われ、右被告ら各本人尋問における供述部分を採用し得ず、前記各認定事実に照すと、その私道への提供について明確な口頭契約または契約書のとりかわしなどがなくとも、その各土地買受時において当時の右一、二九二番の三、四、五の各土地所有者安藤作太郎に対し、その後昭和三五年八月初頃までに所有者となつた原告安藤定治及び山岸作に対し暗默に私道設置を承認していたものというべきであり、その私道設置の趣旨はすなわち、単なる対人的な関係でなく、その私道によつて利用価値を増すべき前記一、二九二番地の三、四、五の各土地のための地役権設定の趣旨と解すべきである。

4、原告原田至康は前記争のない事実のとおり右番地の四の土地上にある家屋の賃借人であつて、それ自身としては右地役権確認を求める資格があるか否か疑問であるが、同原告もまた同家屋賃借人としてその敷地とともにこれに附随する地役権を利用する権利を有するのであるから、他の原告らとともに右地役権の確認を求め得るものと解し、原告らの同地役権確認の請求はいずれもこれを正当として認容すべきである。

5、次に被告らがそれぞれ、原告ら主張のとおりに右1ないし3の各土地上に建物を建築し、または塀、木戸などの工作物を設置していることは被告らのみずから認めるところであるから、原告らがこれによつて右1ないし3の各土地を通行することを妨害されていることは明かであり、したがつて、原告らにおいて被告らそれぞれに対し、右各土地上の建物部分、塀、木戸などの工作物収去を求め、かつ、今後原告らの同土地通行妨害を禁ずべきことを求めるのは正当であり(なお、原告らの請求中には別紙中物件目録記載8の塀部分の収去を求める旨明瞭には表示されていないが他の工作物の収去、通行妨害の禁止等の請求の趣旨からすれば、その収去請求も当然に含まれていることと解する)、これを認容すべきである。

6、そこで原告らの請求を全部認容し、仮執行は右建物部分及び塀、木戸など工作物の収去を求める部分についてはこれを付する必要はあるが、それ以外の部分についてはこれを許す必要がないので却下し、被告らの上訴の場合の便益、原告らがこうむるであろう損害(弁護士に上訴審訴訟について代理委任をする場合の報酬も含め)を考慮して仮執行免脱宣言を付し、その場合の保証の額を定め、民事訴訟法第八九条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治)

別紙

請求の原因

一、別紙物件目録1乃至3記載の土地を含む東京都目黒区洗足町一、二九二番地の一乃至十七の宅地合計五百七拾七坪はもと同番の一の一筆の土地として原告安藤定治の先代安藤作太郎(昭和二十七年十二月二十七日亡)の所有であつたが、同人は昭和二十六年十二月十三日別紙添附図面(一)の通り同番の三乃至十七の土地に分筆の登記手続をなした上、

イ 同年十二月十九日同番ノ六及十四(別紙目録1記載土地)の二筆を被告遠山啓に、

ロ 同月同日同番ノ七、八、十五(同目録2記載土地)及十六(同目録3記載土地)の四筆を被告中村達に、

ハ 同月二十六日同番ノ五及十三の二筆の土地を原告山岸作の亡夫山岸精実(昭和三十一年四月二十五日亡)に、

それぞれ分譲して、売買に因る所有権移転登記手続を終えた。

二、而して右洗足町一、二九二番地の土地は原告定治の先代作太郎が大正十五年頃より住宅地として開発しその地上に貸家十数軒を建築所有しこれを賃貸していたものであり、当時より別紙添附図面A、D、H、L、M、K、G、C、Aを順次結ぶ線内の土地部分(分筆後の同番ノ一二、一三、一四、一五、一六の土地)は私道としてこれに接する宅地上の建物賃借人の通行の用に供せられ爾来昭和二十年三月地上建物がすべて強制疎開により取払われるまで道路として使用せられ、建物除去後も附近住民の通行のため開放されていた。

三、かような事情の下に、安藤作太郎は一、二九二番地の宅地を分譲するに当つては同番ノ四、五、八等の土地が袋地となつて利用価値を喪失することを防止するため、前記道路として通行の用に供せられていた部分を特に建物敷地とすべき土地部分と明瞭に区別し、その境界点の要所には境界杭を打込み、登記簿上も分筆手続を了した上で、同番ノ十一乃至十七の七筆の土地はこれに接する宅地同番の三乃至九の土地譲受人の相互の通行のための承役地、すなわち私道として維持することを条件として、譲受人の承諾を得た上土地を分譲したものであつてその頃被告遠山は同番の十四の土地につき、被告中村は同番の十五及十六の土地につき、いずれも右作太郎に対し、これを承役地として要役地たる同番の三乃至九の土地の所有者、譲受人又はその借地人、借家人の通行のための地役権を設定した。

四、其の後昭和二十七年中、被告遠山は同番ノ六の宅地上に、被告中村は同番ノ七及八の宅地に跨り相次いで住居を建築して、爾来その家族と共に居住し、同番ノ十四、十五及十六の各土地は私道として一般通行の用に供していたところ、昭和三十五年八月二十日頃に至り、遽に被告遠山は別紙目録5記載の土地上に同目録4記載の建物部分を侵入せしめて住居の増築工事を行つたのみか、同目録5、6、7記載の木戸及塀を設置し、被告中村は同目録2及3記載の土地上に同目録8、9、10記載の木戸及塀を設置し以て相諮つて右私道を閉鎖し、原告等がこれを通行することを不可能ならしめた。

五、原告安藤定治は、昭和二十七年十二月二十七日父作太郎が死亡したので要役地たる同番ノ三宅地八四坪六合七勺及び同番ノ四宅地四拾六坪六合弐勺を相続により取得した者、原告原田至康は右土地上の建物賃借人で昭和二十七年九月以降右私道を通行使用していたもの、原告山岸作は昭和三十一年四月二十五日夫山岸精実が死亡したので要役地たる同番ノ五宅地三拾壱坪九合壱勺を相続により取得したものであるが、原告等は、右閉塞後被告等に対し再三に亘つて右私道を原状に復すべきことを申入れ折衝を重ねたけれども、原告等は理不尽にもこれに応じないのでやむなく本訴を以て請求の趣旨掲記の判決を求める。

被告の答弁

答弁の趣旨

原告等の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因に対する答弁

第一、原告等の請求の原因に関する主張中

第一項は之を認める

第二項は之を否認する

第三項は之を否認する

第四項中塀設置の事実は認めるが他は否認す

第五項中原告安藤並山岸の相続の事実及原告原田の建物賃借の事実は之を認むるも他は否認す

第二、被告遠山は訴状請求の原因第一項(イ)記載の土地を被告中村は同項(ロ)記載の土地を夫々買受け其所有権を取得し夫々其登記手続を了し、其後其所有地に居宅を建設或は増築して居住して居るものである。

第三、被告等両名の所有土地の隣接部分は其各居宅の中間に空地を残し居り、公道に面して塀が設置してなかつた為めに附近の人や原告等が此処を勝手に通り抜けることがあつたが被告等両名は別に大した支障もなかつたので之を默認して居た、然るに昭和三十五年八月頃被告遠山は右空地に向つて居宅を拡張増築の必要があつたし、一方同所を公道に向つて塀なしに明けて居る為め、附近の不良が此処を通過して原告山岸所有の空地を遊び場所とし、又被告中村方は二回に亘り盗難に罹り、被告遠山方も一回盗難未遂の件あり、警察の注意もあり、公道に面した部分に共同して塀を設置するの余儀なきに至つたものである。尚被告中村は被告等両名の境界線並に原告山岸との境界線を明確ならしめる為め、其境界に沿つて木塀を設置したものである、被告等両名の叙上の処置は土地所有権に基く当然の行為であつて、他から干渉を受ける筋合のものではない。

第四、被告等両名は原告主張の様に原告等が通行の為めの地役権を設定したこともなく、又其登記もないこと勿論である、更に原告等から地役権に伴う償金を受取つたことも一度もない。

原告等が右土地を従来通行して居たのは被告等の好意に基くもので決して原告等の正当な権限に基くものではないのである。

第五、原告等の土地が所謂袋地であることは事実であるが原告等の為めには原告提出の附図にも明な通り、本件係争土地を通行せずとも他に公路に通ずる通路があり、之を以つて充分とするものである。被告中村はこの通路の為めに一、二九二番の一六の土地の半分を提供して居るもので、之に対しても原告等から何等の償金を支払つて居らぬのである。

民法二一一条によれば「通行の場所及び方法は囲繞地の為めに損害最も少きものを選ぶことを要する」旨の強行規定があるが、この通路の半分は本件の原告であり又旧分譲地全部の所有者でもあつた原告安藤の所有地であるので、同人が原告等全部の通行に便する土地の一部を提供して居る右通路を原告等の通行権の対象とすることこそ最も右法条の趣旨に適合するものと思料する。然らざれば被告中村は最も損害を多く負担する立場にあると言はねばならない。

第六、叙上の様な次第で原告等の主張は何れの点よりするも失当で理由がないから請求棄却の判決然るべきものと思料する。

図面一〈省略〉

図面二〈省略〉

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