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東京地方裁判所 昭和37年(レ)593号 判決

判   決

東京都調布市金子町一、一五四番地

控訴人

藤田国蔵

右訴訟代理人弁護士

岡田実五郎

佐々木熈

同都杉並区方南町八四番地

被控訴人

山内弘久

右訴訟代理人弁護士

松本乃武雄

建物収去土地明渡請求控訴事件

昭和三八年六月八日口頭弁論終結

主文

原判決を取消す。

被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴の棄却の判決及び仮執行の宣言を求めた。

被控訴代理人は、請求の原因として、「別紙目録(一)に記載の一筆の土地四九坪(以下本件土地と称する)は、被控訴人が昭和二八年四月訴外本間正吉から交換によつて所有権を取得したものであるが、同訴外人は昭和一五年三月六日控訴人に対し本件土地を非堅固建物所有を目的として、期間二〇年、賃料一ケ月金二円毎月二八日限り支払う約で賃貸し、被控訴人において右賃貸借契約における賃貸人たる地位を承継したが、控訴人は地上に別紙目録(二)に記載の建物(以下本件建物と称する)を所有し本件土地を占有しているものである。併し、右賃貸借契約は、昭和三五年三月六日をもつて二〇年の期間満了して消滅した。仮りに控訴人より契約更新の請求があつたとしても、被控訴人は、地上に病院を建築して医業を経営する自己使用の必要により、昭和三四年三月三日付、同月四日到達の書面により、更新を拒絶したことによつて、更新はされなかつた。仮りに、更新されたとしても、控訴人は、昭和三六年二月頃、当時の賃貸人であつた本間正吾の承諾を得ないで、本件土地のうち東南隅九坪を、原審相被告本多ムメに転貸したので、被控訴人は原審昭和三六年二月八日の口頭弁論期日において、控訴人に対し、賃貸借契約解除の意思表示をなし、これにより賃貸借契約は終了するに至つた。そこで被控訴人はその所有権に基き、予備的に賃貸借契約終了に基く原状回復義務を原因として、本件建物を収去し本件土地のうち別紙目録(一)記載の土地四〇坪を明渡すよう求める。」と述べ、

控訴人主張の抗弁に対し、「控訴人の主張事実中、本件土地が本間正吾の所有であつた以前訴外鈴木泰一の所有であり、右両名の間で本件土地所有権の譲渡があつたこと、は認めるが、その余の事実は全部争う。控訴人が原審弁論において、本件土地を昭和一五年三月六日本間正吉より期間二〇年の約で賃借した旨の自白を、撤回して、別異に事実の陳述をするには、異議がある」。と述べ、

控訴代理人は、本案前の抗弁として、管轄違を主張し、本件訴訟物の価額は一〇万円を遙に超過する約三九二万円以上である。と述べ、

本案につき、「被控訴人主張の請求原因事実中、本件土地が訴外本間正吉との交換により被控訴人の所有に帰したこと、控訴人が地上に本件建物を所有して本件土地を占有していること、控訴人が本間正吉より期間の点を除き被控訴人主張の約定で本件土地を賃借していたこと、被控訴人が右賃貸人の地位を承継したことは認め、その余の主張事実は否認する。控訴人は原審において、右賃貸借期間につき、被控訴人の主張事実を認めたが、これは、賃貸借契約中の「最初のときより」なる条項の解釈を誤つたがために、事実に反し、錯誤に基いてなしたものであるから、その陳述は撤回する。」と述べ、

抗弁として、

「(一)、そもそも本件土地は、もと、訴外鈴木泰一の所有であつたもので、且つ同人は本件建物の所有者でもあつたのであるが、昭和四年四月頃本件建物は控訴人の父亡宇田川旭に譲渡され、同時に、建物所有のため、本件土地につき、期間を二〇年として、賃貸借契約が締結された。右宇田川は、本件建物買受後間もなくこれを控訴人に贈与した。そこで、控訴人は、鈴木泰一との間の賃貸借契約をも承継したのであるが、鈴木泰一は昭和一四年三月二九日本件土地を本間正吉に譲渡した。そして本間正吉は昭和一五年三月初頃控訴人に対し、本件土地につき同人が地主となつた旨を告げ、前地主の権利をそのまま引継いだのであるから、その旨の契約書を差入れて貰いたい旨申入れたので、控訴人はこれを諒承し、その申入の趣旨で、賃貸借契約書を同人との間に取交した。右賃貸借契約書によれば賃貸借期間については、「最初のときより」二〇年、即ち前記の事情で控訴人の父宇田川が賃借したときより二〇年で、昭和二四年四月までの定めであることを確認したのである。その後、右賃貸借契約は、法定更新とされ、昭和四四年四月まで有効に存続している。

(二)、仮りに被控訴人主張のように、本件土地の賃貸借契約が、昭和三五年三月六日に期間満了するものであつたとしても、控訴人は、同年同月一日付及び同月三一日付各内容証明郵便によつて、被控訴人に対し、契約更新の請求をした。そして右更新の請求に対して、被控訴人がこれを拒絶し得る正当の事由は全くなかつた。殊に、被控訴人は、都内文京区小石川柳町の病院に勤務し、医学博士の称号を有し生活は中流以上であるのに反し、控訴人は、本門経王宗日広寺の小使兼自動車運転手で、家族六人を抱え、月収僅に金一万円であつて、本件土地明渡による損害苦痛は、経済的精神的に甚大である。賃貸借契約は更新されて現に存続するものといわねばならない。

(三)、仮りに、控訴人が、被控訴人主張のごとく、原審相被告本多ムメに対して、本件土地の一部九坪を転貸したものであつたとしても、当時の賃貸人であつた前記本間正吉は、昭和二六年二月頃、右転貸につき、暗黙の承諾を与えたものである。

(四)、仮りに、右承諾の事実が認められないとしても、控訴人が、右本多ムメに転貸したのは、昭和二六年二月初頃であるところ、賃貸借契約の解除権についても、時効による消滅があり、解除権の存在を賃貸人において知ると否とに関せず、解除の原因となつた情務不履行の事実があつて、解除権を行使し得るときより、時効期間は進行し、且つ解除権の消滅時効期間は一〇年と解せられるから、一〇年を経過した昭和三六年二月初頃、右時効は完成し、被控訴人は、これにより、無断転貸の事由をもつては、控訴人に対し、契約解除をなし、本件明渡請求をすることができなくなつた。よつて、被控訴人が、同月八日になした解除は、無効である。

(五)、仮りに、以上の抗弁が、すべて認められないとしても、被控訴人は、本件土地の所有権を取得するに際し、測量をしたり現場に赴いたりして地上建物の存在を確認していたのにも拘らず、これより後約八年の久しきにわたり、前記解除権の行使をなさずに経過し、解除などのことはないという信頼感を生ぜしめていたのに、本訴において初めてこれを主張するのは、信義誠実の原則に反する。従つて、たとい、解除原因に当る事由があつたとしても、解除権の行使は許されるべきでない。」と述べた。

証拠(省略)

理由

控訴人主張の本案前の抗弁についての判断は、原審判断と全く同一であるから、これをここに引用する。

本案について検討するのに、本件土地が被控訴人の所有であること、控訴人が右地上に本件建物を所有して土地を占有していること、控訴人が被控訴人の前主訴外本間正吉より本件土地を賃借していたこと、その賃貸借契約の目的が非堅固建物所有のためであり、賃料については被控訴人主張のとおりであつたこと、及び被控訴人が昭和二八年四月本間正吉より本件土地の所有権を取得するとともに賃貸人たる地位を承継したこと、については、当事者間に争がない。

まず、本件土地の賃貸借期間について検討する。

本件土地がもと訴外鈴木泰一の所有であり、本間正吉が右鈴木より本件土地所有権の譲渡を受けたものであることについては、被訴人も認めるところであるが、(証拠―省略)各結果を綜合すれば、本件土地の所有者であつた前記鈴木泰一はもと本件建物の所有者でもあつたが、控訴人の義父亡宇田川旭が昭和四年中鈴木泰一より本件建物を買受け同時に本件土地を賃借したところ、右宇田川は昭和一〇年八月二七日死亡し、控訴人が本件建物の所有権及び本件土地の賃借権を承継したこと、前記のように鈴木泰一より本件土地を譲受け賃貸人たる地位を承継した本間正吉は、控訴人との間で新に契約書を取交すことを希望する旨申入れ、本件土地に関する賃貸借契約書類(甲第二号証)が作成されたが、その契約期間に関する第二項「存続期間は右土地に対する最初の賃借人に於て賃借したる時より………二十ケ年」との定めは、本件土地に関する賃貸借契約が右のとおり当初昭和四年鈴木・宇田川間に成立した時期を起算点とし、それより二〇年の約旨で、控訴人も後日契約更新のあるべきことを期待してこれを承諾したこと、従つて、当初の契約期間は、昭和二四年中に終了するべきものであつたところ、その頃当事者間に更新については何ら異議の生じたことはなく、賃料の授受も継続され、賃貸借契約は法定更新されて現に存続中であることを認めることができる。(中略)その他右認定を履すに足りる証拠はない。なお、右認定事実、原審及び当審における控訴人本人尋問の各結果によれば、控訴人の自白は、錯誤に基き事実に反することが認められるから、その撤回を許すべきものと認める。

被控訴人の更新拒絶の主張は、賃貸借期間が昭和三五年三月六日に終了する旨の主張を前提とするものであつて、既にその前提において認められないから、判断を加えるまでもなく、理由のないことが明らかである。そこで、被控訴人の無断転貸による賃貸借契約解除の主張について判断する。

(証拠―省略)によれば、控訴人が昭和二六年一月頃、被控訴人に無断で、本件土地のうち東南隅九坪を、信仰上の友で夫に死別し落着先のない原審相被告本多ムメに、同情の念から暫時ということで賃料も取決めず転貸し、本多ムメはバラックを建築して右九坪の土地を占有するに至つたことを認めることができ、右認定を履すに足りる証拠はない。

控訴人は、当時の賃貸人本間正吉の暗黙の承諾があつた旨主張するから、この点について検討するのに、(証拠―省略)によれば、昭和二六年四月頃、本多ムメの長男である訴外本多篤は、控訴人の依頼で本間正吉方に賃料を届けに行つたが、その際控訴人の賃借地上に本多ムメがバラックを建てて土地を使用させて貰つていることを正吉の妻うんに告げ、宣しく願う旨述べて挨拶したこと、その頃本間正吉は控訴人方に来て、右バラックの建てられたこと、控訴人家族以外の者が同所に居住するのを知つたが、同人は昭和二八年四月被控訴人に対し本件土地を交換するまでの間、別に異議を述べたことはなかつたこと、を認めることができる。以上の事実に徴すれば、控訴人の前記無断転貸については、本間正吉において暗黙に承諾したと認めるのが相当であり、(中略)他に右認定を左右するべき証拠はない。そうであつて見れば、無断転貸を理由とする契約解除の主張も理由がない。

以上認定のとおり、被控訴人の控訴人に対する本訴請求はすべて理由がないので、これを認容した原判決は失当であるから、これを取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九六条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第一六部

裁判長裁判官 立 岡 安 正

裁判官 岡 山   宏

裁判官 三 宅 弘 人

目 録(省略)

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