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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)6475号 判決

原告

豊田いくゑ

ほか三名

右原告四名訴訟代理人弁護士

斎藤直一

右訴訟代理人弁護士

酒井亨

右原告四名訴訟代理人弁護士

山田徳治

被告

塚本建設株式会社

右訴訟代理人弁護士

寺坂銀之輔

寺坂吉郎

中田真之助

主文

(1)  被告は、原告豊田いくゑに対し金四五九、三三三円、原告豊田和雄に対し金三七七、二五八円、原告豊田節子及び原告森田信子に対し金二七二、八八九円と右各金に対する昭和三八年二月一日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え。

(2)  原告等のその余の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の、その余を原告等の負担とする。

(4)  この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、「(1) 被告は、原告豊田いくゑに対し、金一、三二三、八一〇円、原告豊田一雄に対し金一、四〇九、〇七四円、原告豊田節子及び原告森田節子に対し各金一、二一五、八八〇円及び右各金員に対する昭和三八年二月一日から右支払済に至るまでの年五分の割合の金品を支払え。(2)訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因及び被告の抗弁に対する答弁等として次のとおり陳述した。

一(1)  昭和三七年一二月二〇日午後零時二〇分頃、埼玉県川口市栄町三丁目一三一番地国電川口駅前路上において、歩行中の訴外豊田浅一は、訴外堀克二運転の大型貨物自動車(登録番号足一せ一二四〇、本件事故当時は足一れ〇三七四)に接触され、よつて訴外浅一は、頭蓋骨々折等のため即死し、同行していた訴外肇は、全治四一間を要する頭部顔面挫傷の傷害を受けた。

(2)  本件事故現場は、交通が頻繁で附近には横断歩道もあり且つ訴外堀の運転した前記自動車(以下単に被告車という)は制動機が片効きで急制動をかけると車体を右方へ急角度に変えて横すべりする危険のある自動車であつたから、運転者としては予め減速徐行し、歩行者との接触事故を防止すべき義務があるのに訴外堀は、これを怠り、漫然時速五〇粁の速度で進行したため、本件事故を発生させるに至つたものである。なお、被告は、制動機の故障に関する原告等の主張を当初認めながら後これを否認するに至つたが、右自白の撤回には異議がある。

二、本件事故は、被告の従業員である訴外堀が、被告所有の被告車を運転して業務に従事中、訴外人の前記過失により発生したものであるから、被告は、本件事故によつて生じた後記各損害を賠償すべき義務がある。

三、損害は、次のとおりである。

(一)  得べかりし利益の喪失による損害

(1)  訴外浅一は、本件事故当時訴外豊和商事株式会社の監査役として月額金一〇、〇〇〇の監査役手当を得ていた外恩給として年額金九八、〇〇〇円を得ていたところ、同訴外人の生活費は、右恩給年額に相当する金九八、〇〇〇円であつたから結局年額金一二〇、〇〇〇円の純収入を得ていたことになる。また訴外浅一は、本件事故当時満六八才(明治二七年六月二日生)の健康な男子で、厚生省発表の生命表によると満六八才の男子の平均余命は一〇年であるから、訴外浅一は、本件事故がなかつたとすればなお一〇年間は生存し且この間前記の純収入を挙げ得た筈である。したがつて同訴外人は、本件事故のため一〇年間の純収入の合計金一、二〇〇、〇〇〇円の得べかりし利益を失つたものというべきところ、これを年五分の割合による中間利息を控除して事故当時の金額に換算すると金九七一、四五〇円となる。よつて訴外浅一は、本件事故により右金額の損害賠償請求権を取得したものということができる。

(2)  原告いくゑは、訴外浅一の妻、その余の原告等は、いずれも同訴外人の子であり唯一の相続人であるから、原告等は、同訴外人の死亡により各自の相続分に応じ、すなわち原告いくゑは金三二三、八一〇円、その余の原告等は各金二一五、八八〇円をそれぞれ相続によつて取得した。

(二)  葬式費用

原告和雄は、訴外浅一の葬式費用として金一八八、八二五円を支出し同額の損害を被つた。

(三)  訴外肇の治療費

訴外肇の父である原告和雄は本件事故により同訴外人の受けた前記負傷を治療するため金四、三六九円の支出を余儀なくされ、同額の損害を被つた。

(四)  原告等の慰藉料

原告等は、前記のとおり訴外浅一の妻及び子であるが、いずれも本件事故による同訴外人の死亡により多大の精神的打撃を受けた。原告等のこの精神的打撃に対する慰藉料の額は訴外浅一及び原告等の経歴、年令、職業、収入、本件事故の態用その他諸般の事情によると各金一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

四、よつて、被告に対し、原告いくゑは、前記(一)及び(四)の合計金一、三二三、八一〇円、原告和雄は、同(一)乃至(四)の合計金一、四〇九、〇七四円、原告節子及び原告森田信子は、同(一)及び(四)の合計各金一、二一五、八八〇円及び右各金員に対する本件事故による損害発生の後である昭和三八年二月一日から右支払済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五、責任保険金の受領及びその充当に関する被告の主張は認める。被告訴訟代理人は「(1) 原告等の請求を棄却する。(2) 訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、答弁及び抗弁等として次のとおり述べた。

一、原告の請求原因中第一項(1)の本件事故の発生とこれによる訴外浅一の死亡及び訴外肇の負傷の事実は認める、同訴外人の負傷の部位程度は不知、(2)の本件事故現場が交通頻繁であることは認めるが、被告車に制動機の故障があつたこと及び訴外堀の過失の点は否認する、被告車はいくらかハンドルを右に取られる癖があつたが制動機に故障はなかつた、なお制動機の故障の点については当初これを認める旨の陳述をしたが、右は事実に反するからその自白を撤回する、同第二項の訴外堀が被告の従業員であること被告車が被告の所有であること及び本件事故当時訴外堀が被告の業務に従事中であつたことは認める、同第三項中の原告等の身分関係、原告等が訴外浅一の唯一の相続人であること及び原告和雄が訴外浅一の葬式費用として金一〇〇、〇〇〇円、訴外肇の治療費として金四、三六九円を支出したことは認めるが、訴外浅一の生活費年額が金九八、〇〇〇円であつたことは否認する、その余は不知。

二、過失相殺の主張

訴外堀は、本件事故当日被告車を運転して川口駅前ロータリー附近を時速四二、三粁の速度で進行中、約二〇米前方に道路を右から左に横断中の訴外浅一を発見したが、同訴外人が被告車を見て道路中央附近に立止まりその通過を待つようであつたのでそのままの速度で進行を続けたところ、九米乃至一〇米に接近した地点で突然駈け出し、被告車の直前を横切ろうとしたので直ちに急停車の措置を採ると共にハンドルを右に切つたが間に合わず、被告車の荷台の左側を訴外浅一に接触させて本件事故となつたものである。

右のような事実からすれば、本件事故について訴外堀に過失があつたにせよ、訴外浅一にはそれ以上の過失があつたものといわなければならないから、本件事故による損害賠償の算定については、訴外浅一の右過失を考慮すべきである。

三、原告等は、昭和三八年一月一八日自動車損害賠償保障法に基く責任保険により金一二二、〇〇〇円の仮渡を受けこれを各自の相続分に応じて充当したので、損害賠償額のうちから右金額を控除すべきである。

立証≪省略≫

理由

一、請求原因一 (1)の本件事故の発生とこれによる訴外浅一の死亡及び訴外肇の受傷の事実は、当事者間に争いがない。

二、被告車が被告の所有であること及び被告の従業員である訴外堀が被告車を運転して業務に従事中本件事故が発生したものであることは当事者間に争いがないから、被告は本件事故当時被告車を自己のために運行の用に供したものというべきところ、自動車損害賠償保障法第三条所定の免責要件は、被告の主張するところでないばかりでなく、本件事故に関する後記認定事実に徴すると訴外堀に少くとも減速除行を怠つた過失があつたことは明らかであるから、(従つて制動機に故障がなかつたとの被告の主張が同条所定の免責要件すなわち被告車に構造上の欠陥機能の障害がなかつたことの主張と解し得るにしても、この点については判断するまでもなく)被告は、本件事故によつて生じた後記各損害を賠償すべき義務がある。

三、損害

(一)  得べかりし利益の喪失による損害

原告等は、訴外浅一が本件事故当時恩給として年額金九八、〇〇〇円を得ていた外、訴外豊和商事株式会社の監査役として月額金一〇、〇〇〇円の手当を受けていたと主張し、原告和雄及び同いくゑの各本人尋問の結果によると、訴外浅一が、本件事故当時恩給として年額九万円を得ていた外、死亡の少し前まで訴外豊和商事株式会社の監査役として月額金一〇、〇〇〇円の監査役手当を受けていたことを認めることができるが、一方原告いくゑの本人尋問の結果によると、右訴外会社は、原告等の親戚等が出資して設立した金融を目的とする株式会社であつて、和歌山県田辺市に所在し、同地に居住する原告森田信子の夫が経営の衝にあたつていたが、訴外浅一の死亡の少し前頃営業不振のため出資金を返還して事実上解散したことを認めることができるのであるから、訴外浅一が生存していたならば取得したであろう利益について、外に何ら主張立証のない本件においては、この点に関する原告の主張は採用の限りではなく、訴外浅一の生活費がその恩給相当額であることは原告等の自ら主張するところであるから、結局浅一の得べかりし利益の喪失による損害はなかつたものといわなければならない。

(二)  訴外浅一の葬式費用及び(三)訴外肇の治療費

原告和雄が訴外浅一の葬式費用として金一〇〇、〇〇〇円、訴外肇の治療費として金四、三六九円を支出したことは当事者間に争いがなく、訴外浅一の葬式費用中右金額を超える部分についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

(三)  慰藉料

原告等が訴外浅一の死亡によつて多大の精神的打撃を受けたことは、原告いくゑ、同和雄、同節子の各本人尋問の結果によつてこれを認めることができる。よつてその数額につき判断する。<証拠―省略>によると、(1)訴外浅一は、明治二七年六月二日出生し大正二年関西大学を中退した後、刑務所看守、裁判所書記兼司法属等を経て油脂統制会等に勤務し、昭和三四年頃から前記のように豊和商事株式会社の監査役として月額金一〇、〇〇〇円の手当を受け、本件事故当時年額金九八、〇〇〇円の恩給を得ていたこと (2) 原告いくゑは高等女学校を卒業し、昭和九年一二月訴外浅一と婚姻し、先妻の子であるその余の原告等とともに平和な家庭を営んでいたこと (3) 原告和雄は、慶応義塾大学医学部を卒業し医学博士の学位を得、現に紡績会社の診療所長の職にあり、月額約五〇、〇〇〇円の給与の外若干の収入を得ていること (4) 原告節子は、高等女学校を卒業し、会社員として勤務していること (5) 原告森田信子は、高等女学校を卒業し、会社員等を経て他に嫁していることを認定することができる。右のような訴外浅一及び原告等の経歴、年令、職業収入等と本件事故の態様及び後に認定する本件事故の態様及び双方の過失の程度等を総合して考えると、原告等に対する慰藉料としては、原告いくゑが金五〇〇、〇〇〇円、その余の原告等が各金三〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

四、<証拠―省略>を総合すると次のような事実を認定することができる。

(一)  本件事故現場は、国電川口駅北側広場で、中央にロータリーバス発着所等が存在し、周辺は商店等が立ち並び、交通がひんぱんであること。

(二)  訴外浅一は、本件事故当日右駅前広場北側の車道部分(巾員一七、五米)を北側から南側に向い、訴外肇(当時三才)を伴つて横断しようとしたところ、左斜前方を進行中の被告車を発見し、瞬時ためらつた後駈け足でその前方を横断しようとしたこと。

(三)  訴外堀は、右広場を時速四二、三粁の速度で前記のように西進中、右斜前方約二〇米の地点を横断歩行中の訴外浅一を発見したが、訴外浅一が車道のほぼ中央附近で停止したところ前記のように訴外浅一が駈け足で前方を横断しようとするのを約一〇米右斜前方の地点に認め、直ちに急停車の措置を採るとともに右にハンドルを切つたが及ばず、被告車の左側部分(左後輪のフエンダーの附近)を訴外人に接触させるに至つたこと。

右認定の事実に徴すると、訴外堀の暴走が本件事故の主要な原因であることは否定し得ないが、訴外浅一としても交通ひんぱんな駅前広場を幼児を伴つて横断しようとする際であるから、時速四〇粁余りの速度で進行する車の前を横断するようなことは慎しむべきであつた。しかし訴外浅一の右過失は僅少であるから、前記財産上の損害についてはこれをしんしやくせず、前記のように慰藉料算定の一事情として考慮すれば足りると考える。

五、よつて原告いくゑは金五〇〇、〇〇〇円、原告和雄は金四〇四、三六九円、原告節子及び同信子は各金三〇〇、〇〇〇円の損害賠償請求権を取得したものというべきところ、原告等が自動車損害賠償保障法に基く責任保険により金一二二、〇〇〇円を受領し、これを原告等の相続分に応じて充当したことは当事者間に争いがないから、右金一二二、〇〇〇円を各自の相続分に応じて案分した額、すなわち原告いくゑは金四〇、六六七円(円位未満四捨五入)、その余の原告等は各金二七、一一一円(円位未満同上)を原告等の前記債権額から控除すると、原告いくゑが金四五九、三三三円、原告和雄が金三七七、二五八円、原告節子及び同信子が各金二七二、八八九円となる。

六、よつて原告の本訴請求の中、被告に対し原告いくゑが金四五九、三三三円、原告和雄が金三七七、二五八円、原告節子及び同森田信子が各金二七二、八八九円及び右各金員に対する損害発生の後である昭和三八年二月一日から右支払済に至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条の各規定を適用して主文のとおり判決する。(裁判官茅沼英一)

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