大判例

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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)10055号 判決

破産者株式会社久須美屋本店破産管財人

原告 植田八郎

被告 喜田行雄

右訴訟代理人弁護士 木島繁雄

同 山口幸三

参加人 有限会社田中商店

右代表者代表取締役 田中友治

右訴訟代理人弁護士 信部高雄

主文

一、参加人と原告との間において別紙目録記載の建物が参加人の所有であることを確認する。

二、参加人の被告に対する請求および原告の請求はいずれもこれを棄却する。

三、訴訟費用は原告および参加人の負担とする。

事実

一、請求の趣旨および答弁

(原告)

「被告は原告に対し別紙物件目録記載の家屋を明渡し、昭和三九年一〇月一日から明渡済みまで一か月金一万八〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言。

(参加人)

「原告との間において別紙物件目録記載の建物が参加人の所有であることを確認する。被告は参加人に対し別紙物件目録記載の建物を明渡し、昭和三九年一〇月一日から明渡済みまで一か月金一万八〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は原、被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言。

(被告)

主文同旨の判決。

二、請求の原因

(原告)

1、訴外株式会社久須美屋本店は昭和三九年五月二五日、破産宣告を受け、同時に原告が破産管財人に選任された。

2、訴外株式会社久須美屋本店は昭和三三年五月三一日、その所有の別紙物件目録記載の家屋(以下本件家屋という)を亡喜田俊行に対して賃料一か月金一万三〇〇〇円(後に金一万八〇〇〇円に増額)、賃料の支払を一回でも怠ったときは催告を要しないで右賃貸借契約を解除できる約で賃貸した。

3、右賃貸借契約後喜田俊行は死亡し、被告が本件家屋賃貸借契約における賃借人の地位を承継した。

4、被告は昭和三九年七、八月分の賃料支払期日である同年七、八月の各末日を徒過したので、原告は被告に対し同年九月二五日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

5、よって、原告は被告に対し、所有権に基き本件家屋の明渡及び昭和三九年一〇月一日から明渡済みまで一か月金一万八〇〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

(参加人)

1、前記1ないし4のとおり。

2、参加人は昭和四一年二月八日、本件家屋を競落した。

3、よって、原告に対し本件家屋が参加人の所有であることの確認、被告に対し本件家屋の明渡しおよび昭和三九年一〇月一日から明渡済みまで一か月金一万八、〇〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

三、請求原因に対する被告の認否

原告および参加人主張の請求原因事実のうち本件家屋賃貸借契約を催告を要しないで解除できるとの特約のあることは否認し、その余は認める。

四、抗弁

1、原告は被告に対し本件家屋の賃料の支払いを猶予した。

2、被告は昭和三九年六月一一日原告に対し同年六月分の賃料につき弁済の提供をしたところ原告は、いずれ受領するといったまま、その後被告と数度面談しているにもかかわらず、なんらの請求もしないでいながら、わずか二か月分の延滞を理由に突如、催告をしないで解除の意思表示をしたものであり、かつ被告には賃料支払の資力も意思もあるものであるから、原告の右解除権の行使は権利の濫用というべきである。

五、抗弁に対する原告、参加人の認否

いずれも否認する。

六、証拠≪省略≫

理由

一、参加人が主張の日時、競落によって本件家屋の所有権を取得したことは当事者間に争いがない。したがって、参加人の原告に対する所有権確認の請求は正当であり、原告の被告に対する明渡請求は失当である。

二、請求原因1、ないし4、のうち、賃料の支払を怠ったときは催告を要しないで本件家屋賃貸借契約を解除できる特約のあることを除き、その余は当事者間に争いがなく≪証拠省略≫を総合すれば、本件家屋は亡喜田俊行が昭和二九年六月一日、被告から期間一年、賃料の支払を怠ったときは催告を要しないで解除できる約でこれを賃借し、その後一年毎に合意で更新されている事実が認められるから、本件家屋賃貸借契約には右の特約が存するものというべきである。

三、抗弁について判断する。

1、抗弁1、については、これを認めるに足りる証拠がないのみならず、かえって、後記認定の事実に徴すれば右主張は容認できないものというべきである。

2、≪証拠省略≫を総合すれば、被告は昭和三九年六月初旬、株式会社久須美屋本店の破産宣告を知って、同月一一日に従業員菊地繁が東京弁護士会館において原告に対し右六月分の賃料につき弁済の提供をしたのであるが、原告はいずれ受領するといったままその後なんらの連絡もないので、菊地は同年七月中旬頃右六月分の賃料を破産会社の代表者に対して支払い、同月二九日付で原告がこれを領収した。

ところが、その頃原、被告間においては、本件家屋の敷地の借地権を原告が他に処分するために本件家屋の明渡について示談交渉されており、右交渉は四度ぐらいにわたって行われたすえ、けっきょく条件が折合わずに同年八月一〇日頃打ち切られたのであるが、菊地および被告は、右のような情況の際でもあり、かつは、賃料の支払について、その間、原告からなんらの請求も指示もなかったことから同年七、八月分の賃料についてはその支払いを失念していたところ、原告は右二か月分の賃料の支払遅滞を理由として同年九月二五日、前記のとおり解除の意思表示をしたものであることおよび被告は本件建物等においてパチンコ店、喫茶店等を経営し、盛業中でもあって、従来賃料の支払いを遅滞したことがなく、また前記解除の意思表示を受けて、直ちに原告に対し右賃料を提供したうえ、同月二八日、供託し、爾来毎月供託を継続していることが認定できる。原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用できなく他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、賃料の支払いを怠ったときは催告を要しないで賃貸借契約を解除できるとの前記特約の趣旨は、賃料の支払いを期日に一回でも怠れば、それだけで直ちに解除できるというのではなく、賃料の支払いを怠って、そのため賃貸借契約の継続を期待することができないような状態となった場合に限り、催告を要しないで解除できる趣旨と解するのを相当とするところ、被告が前記二か月分の賃料の支払いを遅滞したのは、前記認定事実に徴すると、賃料支払いの誠意や能力を欠いたことによるものとはいえなく、前記認定のような事情によるものであることによってみれば、右二か月分の賃料の支払遅滞をもってしては、いまだ催告を要しないで解除できる場合に該ると解するには足りないものというべきである。

してみれば、原告の催告をしないでした前記解除の意思表示は、その効力を生じないといわなければならない。

四、よって、原告及び参加人の前記一で判断した部分を除くその余の請求はいずれも失当であるから、これを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内藤正久)

〈以下省略〉

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