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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)2554号 判決

原告

株式会社太平洋テレビ

右代表者代表取締役

清水昭

右訴訟代理人弁護士

筒井信隆

嶋田喜久雄

原告

清水昭

右原告両名訴訟代理人弁護士

馬場東作

浅岡輝彦

平井博也

鶴田晃三

森田武男

竹内康二

三羽正人

後藤昌次郎

被告

右代表者法務大臣

遠藤要

右指定代理人

宮崎直見

小見山道有

浦野正幸

菅谷久男

坂元左

前田昌男

一杉直

磯部喜久男

渡部康

山口義夫

本間昭平

和田八代枝

藤河学

下田正文

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

(請求の趣旨)

一  被告は、原告らに対し、各金一五億円及びこれに対する昭和五〇年四月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告らに対し、別紙一記載の文案の謝罪文を、東京都において発行する別紙一記載の各新聞紙に、題字は初号活字、その他は六号活字をもつて各二回掲載する謝罪広告をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  一項につき仮執行の宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

一  主文と同旨

二  担保を条件とする仮執行免脱宣言

(請求原因)

第一  原告らの業務等

一  原告会社

1 原告株式会社太平洋テレビ(以下「原告会社」という。)は、昭和三二年九月二〇日資本金二〇〇万円で設立され、その定款に目的として、テレビジョン番組の製作と提供等を掲げていた。

2 原告会社は、設立以来、外国のテレビ映画の製作者又は配給業者(以下「外国会社」という。)の代理店として、国内放送事業者に対する外国テレビ映画フィルムの放映権(以下「外国フィルム」という。)の利用の有償許諾に関する業務を代行してきた。

二  原告清水

原告清水昭(以下「原告清水」という。)は、原告会社を設立し、以来今日まで原告会社の代表取締役としてその経営全般を総括してきた者である。

第二  事件の経過

一  昭和三六年八月期の確定申告

原告会社は、昭和三五年九月一日から昭和三六年八月三一日までの第四事業年度(以下「昭和三六年八月期」といい、他の事業年度についても同様の略称を用いる。)の法人税について、昭和三六年一〇月三一日、京橋税務署長に対し、別紙二、一(一)の確定申告の項記載のとおり、所得金額三二一万三九四三円の欠損、法人税額〇円とする確定申告を行つた。

二  更正決定等

京橋税務署長は、昭和三七年一月ころ、所部係官を延六日間にわたり原告会社へ派遣し、帳簿書類の調査、経理課員に対する質問などを行わせて右法人税の調査を行い、同年二月二八日、別紙二、一(一)の決定の項記載のとおり、所得金額二七万五五〇九円、法人税額九万〇九一〇円とする更正決定及び過少申告加算税賦課決定を行つた。

原告会社は、右の本税及び加算税を納付した。

三  強制調査の実施

東京国税局国税査察官(照沼利雄、吉田善作、木村一夫等)は、右法人税につき原告会社に逋脱の疑いがあるとして、昭和三七年四月一七日、原告会社及びその関連先に対し、国税犯則取締法(以下「国犯法」という。)二条の臨検・捜索・差押許可状によるいわゆる強制調査を実施し、原告会社の帳簿類、業務文書、各種契約書、外国会社との往復書簡等一一一四点を押収した。

四  強制捜査等

東京国税局長(泉美之松)は、昭和三七年四月二〇日、東京地方検察庁(以下「東京地検」という。)特別捜査部(以下「特捜部」という。)の部長(河井信太郎)に対し、右強制捜査の実施を連絡した。

同部検察官(佐藤佐治右衛門)は、同日、原告会社には昭和三六年八月期において少なくとも六八〇〇万円以上の所得があつたにもかかわらず、過少申告して約二四四〇万円以上の法人税を逋脱した法人税法違反の容疑があるとして、原告清水の逮捕状を請求してその発付を受け、翌日、右逮捕状を執行し、同年五月一二日に別件の外国為替及び外国貿易管理法(以下「外為法」という。)違反被告事件(以下「外為事件」という。)で原告らを起訴するまで原告清水を勾留したが、右逮捕勾留に係る法人税法違反被疑事件については処分保留のまま同日原告清水を釈放した(原告清水は、同日外為法違反の罪で起訴及び勾留され、同月一九日保釈となつた。)。

原告清水の逮捕の経緯は、同年四月二一日及び二二日の新聞各紙並びに同年五月七日号の週刊文春の報ずるところとなり、原告会社が多額の脱税をしている旨報道された。

五  東京国税局の所管指定

東京国税局長(谷川宏)は、昭和三八年一二月一三日、調査査察部等の所掌事務の範囲を定める省令(昭和二四年大蔵省令第四九号)の規定に基づき、原告会社の法人税の調査を東京国税局の所管とする旨の指定を行つた。

六  東京国税局長らの記者会見

東京国税局長(谷川宏)、東京国税局調査査察部長(村井国彦)らは、昭和三九年二月二四日の定例日刊紙記者会見の席上、原告会社の昭和三六年八月期の犯則所得金額は約八六〇〇万円であること、同期の原告会社の申告所得金額は三二一万円の欠損であり、逋脱税額は法人税約三五〇〇万円、重加算税約一七〇〇万円であること、右法人税法違反嫌疑事件で同月二六日東京地検に原告らを告発することが決定していること、原告会社の経理には多くの不正、誤謬があることを公表した。

七  告発等

東京国税局国税査察官(吉田善作)は、昭和三九年二月二六日、原告らを法人税法違反の罪で東京地検に告発した。

右告発の事実は、六の記者会見における東京国税局長等のコメントとともに新聞各紙(ジャパン・タイムズを含む。)で報道された。

八  再更正等

京橋税務署長は、東京国税局国税調査官の調査結果に基づき、昭和三九年五月三〇日、原告会社の昭和三六年八月期の法人税について、別紙二、一(一)の再更正の項記載のとおり、再更正並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を行つた。

九  納税告知等

京橋税務署長は、昭和三九年六月三〇日、原告会社の昭和三五年四月分から昭和三七年二月分までの各月分(昭和三五年五月分、八月分及び昭和三六年八月分を除く。)の非居住者国内源泉所得に係る源泉徴収所得税について、別紙二、二の納税告知の項記載のとおり、納税告知並びに源泉徴収加算税及び重加算税の各賦課決定を行つた。

一〇  公訴の提起及び第一審公判

東京地検検察官(川島興)は、昭和三九年九月一六日、原告らに対する別紙三記載の公訴事実に基づく法人税法違反の罪で東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に公訴を提起した。

右法人税法違反被告事件の第一回公判期日は、起訴から一年一か月を経た昭和四〇年一〇月一一日であり、第二回公判期日は、更に二年三か月を経た昭和四三年一月一七日であり、検察官が国内放送事業者の番組担当者等を多数証人申請したため、全国各地の放送局所在地の裁判所において、出張による証人尋問が実施された。

一一  昭和三七年八月期についての決定等

京橋税務署長は、東京国税局国税調査官(渡辺俊彦等)の調査結果に基づき、昭和四二年七月三一日、原告会社の昭和三七年八月期の法人税について、別紙二、一(二)の決定の項記載のとおり、決定及び無申告加算税賦課決定を行つた。

一二  昭和三八年八月期についての更正等

また、原告会社は昭和三八年八月期の法人税について、昭和四三年一〇月一九日、別紙二、一(三)の確定申告の項記載のとおり、所得金額一〇一万八〇八三円の欠損、法人税額〇円とする確定申告を行つたところ、京橋税務署長は、東京国税局国税調査官(広瀬義一等)の調査結果に基づき、同月二五日、同別紙の更正の項記載のとおり、更正及び無申告加算税賦課決定を行つた。

一三  滞納処分

東京国税局長(吉国二郎ら)及び東京国税局国税徴収官(柳沢直二ら)は、原告会社の滞納税額を徴収するため、昭和四二年三月二三日以降、別紙四記載のとおり、原告会社のフジテレビその他国内放送事業者に対する支払請求債権、第一銀行等に対する預金債権、貸ビル保証金返還請求債権等、総額一億円を超える資産に対し、滞納処分としての差押えを行つた。

一四  刑事第一、第二審判決

東京地裁は、昭和四六年一二月二一日、原告らに係る右法人税法違反被告事件について無罪の判決を言渡した。

この判決につき、東京地検検察官(田村秀策)は、事実誤認及び法令違反を理由に控訴を申し立てた(控訴趣意書作成検察官は高瀬禮二)。

しかし、東京高等裁判所(以下「東京高裁」という。)は、昭和四九年三月二九日、控訴棄却の判決を言渡し、同判決は、上告期間の経過により同年四月一三日確定した。

一五  裁決

原告会社は、京橋税務署長が行つた右一連の課税処分について、別紙二の各審査請求の項記載のとおりその都度審査請求を行つたが(ただし、源泉徴収所得税の納税告知並びに源泉徴収加算税及び重加算税の各賦課決定に対しては、異議申立てを行い、その棄却決定を経たうえで、審査請求を行つた。)、国税不服審判所長は、昭和五〇年一月一六日、同別紙の各裁決の項記載のとおり原処分をすべて取り消す旨の裁決を行つた。

一六  還付

東京国税局長(金子知太郎)は、昭和五〇年三月八日、原告会社に対し、強制徴収した九二一万六二六一円を還付した。

第三  故意又は過失による違法な職務行為

一  強制調査

1 原告会社の手数料収入

原告会社は、外国会社の代理店として、国内放送事業者に対する外国フィルム(著作物)の利用(放映)の有償許諾に関する業務を代行し、国内放送事業者が外国会社に支払う放映料の約一〇パーセントを手数料として収受していた。

2 京橋税務署長の判断

京橋税務署長は、原告会社の昭和三五年八月期の確定申告に対し、昭和三六年になつてから、原告会社が「ナショナル・ブロードキャスティング・カンパニー外八社の日本総代理店として権利金に計上すべきもの三、八三五、二五〇」円との理由で更正していた。

前記第二、二の昭和三六年八月期の更正決定は、京橋税務署長が所部係官の延六日間にわたる調査結果に基づき、原告会社が外国会社の代理店であるとの従前からの判断に従つて行われたものである。

3 査察官の違法行為

東京国税局国税査察官は、京橋税務署長の右判断を知つていたのに、同署長らに何らの説明を求めることもなく、また、原告会社の取引形態、外国フィルム(放映権)の性格及び外国為替管理上の取扱い、国際取引上の慣行等について調査を行うことなく、国内では新しい事業分野に属する原告会社の取引形態等に関する知見を欠いたまま、原告会社を外国フィルムの輸入販売会社であると独断的、恣意的に認定し、外国フィルムの国内売上円はすべて原告会社の収入であると断定し、これらに基づき、原告会社が輸入販売業者として多額の所得を得ながらこれを隠して法人税逋脱をした旨裁判官を誤信させて、裁判官から臨検・捜索・差押許可状を得たうえ、第二、三の強制調査を行つた。

二  強制捜査等

1 原告清水の説明

原告清水は、昭和三七年四月一七日及び一九日の両日、東京国税局に赴き、国税査察官(吉田善作)の質問に対し、おおむね、次の(一)ないし(四)のような説明をして、右の突然の強制調査について抗議した。

(一) 原告会社は、売上高の一〇パーセント程度の手数料を収益とする外国会社の代理店にすぎないこと。

(二) 外国為替管理の所管者である大蔵大臣も、外国フィルムの放映契約(著作物の利用の有償許諾契約)を「非居住者との役務契約」と分類しており、右放映契約の締結履行は「貿易外取引」に属するものであつて、「貨物の輸入」とは全く異なるものであり、かつ、行政上外国会社と右放映契約を締結する資格を有し外貨の割当てを受けられる者は、国から免許を与えられた放送事業者に限られており、原告会社には外貨の割当ては行われていないこと。

(三) 原告会社と国内放送事業者との間の外国フィルムに関するすべての放映契約書には、原告会社が外国会社の代理人として契約を締結するものであることが明記されていること。

(四) 原告清水は、ナショナル・ブロードキャスティング・カンパニー・インコーポレイテッド(以下「NBC」という。)の国際会議に日本代表として出席を求められており、同月二一日渡米の予定であること。

2 検察官の違法行為

しかるに、東京地検検察官において、第二、四のとおり、同月二〇日原告清水の逮捕状を入手し、翌二一日これを執行するに至つたものであるが、この段階では、国税査察官においても、押収した帳簿書類を十分精査するだけの時間的余裕がなく、検察官も、自らは何の捜査も行つていないのである。

そのうえ、検察官は、国税査察官から原告清水がした右1の説明を聞いているにもかかわらず、逮捕に十分な証拠を入手しないまま、裁判官を誤信させて逮捕状の発付を受け逮捕に踏み切つてしまつたのである。

それまで公に認定維持されていた原告会社が「代理店」であるという事実について、調査不尽、知見の欠如のままこれを否認・無視し、「輸入販売業者」と特定記載して令状を入手したことは、「故意に近い過失」を犯したものにほかならない。

3 国税局職員らの守秘義務違反

同年五月七日号の週刊文春には、東京国税局査察部第一課長が「原告会社を悪質な脱税犯としてマークし、内偵していたところ、このたび東京地検特捜部に告発した。」旨語つたと記載されており、同課長らは、守秘義務に反し、右週刊文春及び第二、四の新聞紙上で、原告会社が多額の脱税を行つている旨の誤つた事実を発表してしまつたのである。

三  ホロウイッツ・レター

1 ホロウイッツ・レターの入手

東京国税局国税査察官は、原告清水が勾留中の昭和三七年五月一三日ころ、NBCの経理部長デイヴィッド・ホロウイッツ(以下「ホロウイッツ」という。)からNBCの公認会計士であるエリック・J・V・ハット(以下「ハット」という。)あての同月九日付け書簡の写し(以下「ホロウイッツ・レター」という。)を入手した。

2 ホロウイッツ・レターの内容

ホロウイッツ・レターには、次のような事項が記載されている。

(一) 原告会社は、NBCの日本におけるフィルム販売の代理人であること。

(二) 原告会社が収受する手数料は、フィルム売上高の一〇パーセントであり、この手数料はドルでは支払われないこと。

(三) フィルム売上高からダビング(吹替え)費用を控除させないことになつていること。

3 ホロウイッツ・レターの隠匿

しかし、東京国税局国税査察官は、この重要な書簡を恣意的に無視し続けた。

ちなみに、ホロウイッツ・レターが原告らの法人税法違反被告事件で検察官から裁判所に証拠として初めて提出されたのは、東京高裁の審理も最終段階に入つた昭和四八年であり、しかも裁判所に命じられて提出されたものであつて、それまで東京国税局国税査察官は正当な理由なくホロウイッツ・レターを隠匿していたものである。

四  外国フィルムの国内売上円に関する通達

1 通達の発出

原告会社の同業者である服部数政(以下「服部」という。)は、昭和三七年七月、東京国税局に対し、外国フィルムの国内売上円に関する税務当局の課税見解について問合せを行つたところ、東京国税局は次のような統一見解を示した。

(一) 外国フィルムの国内売上円は、フィルムの著作権者である外国会社に帰属する。

(二) 右円貨を外国会社に支払うときは、非居住者の国内源泉所得に係る所得税を源泉徴収すべきである。

(三) 右の源泉徴収義務者は、右円貨の支払者である国内放送事業者である。

そして、右統一見解に基づく税務通達が、同年八月、東京国税局長名をもつて全国国税局に、東京国税局直税部長名をもつて全国税務署長に、それぞれ発出された。

2 通達の不適用

右通達に従えば、原告会社が国内放送事業者から受け取つた外国フィルムの売上円も外国会社に帰属するものとして税務処理がされるべきであり、右売上円が原告会社に帰属するとの誤つた見解の下にされた帳簿等の押収処分は撤回されるべきであつた。

しかるに、東京国税局長らは、自分らの面子の失墜を嫌つて何らの回復措置もとらなかつた。

五  外為事件判決等

1 外為事件判決による原告会社の業務内容の認定

原告らに係る別件の外為事件を審理していた東京地裁は、判決言渡日の昭和三九年二月四日、立会検察官に対し、同事件の起訴状中の、原告会社は外国テレビ映画の輸入とその提供の業務を営んでいる者である旨の記載を、原告会社は外国テレビ映画会社の代理店として、これらの会社のためその製作に係るテレビ映画の日本国内のテレビ放送局に対する放映権の有償提供の斡旋等の業務を営んでいる者である旨の記載に変更するよう、訴因変更命令を発した。検察官はこれに応じて、そのとおり訴因変更を行い、東京地裁はその判決において、原告会社の業務内容を右変更された訴因のとおり認定した。

2 外為事件判決の無視

東京国税局長(谷川宏)は、その前任者(泉美之松)が発した、外国会社の代理店が扱つた外国フィルムの売上円は外国会社に帰属する旨の前記通達の存在を知つていたこと、及び、原告会社が外国会社の代理店である旨の訴因変更命令及び判決があつたことにより、原告会社が外国フィルムを輸入販売する者であつて、原告会社の扱つた外国フィルムの売上円がすべて原告会社の収入となるとの当初の認定が誤りであることを認識したものである。

しかるに、東京国税局長らは、自らの面子を保持し、原告らの社会的生命を葬るため、右の誤つた認定をあくまでも維持し、原告会社に対する課税処分を行うとともに、原告らに対する刑事訴追を要請することを決意し、守秘義務に違反して第二、六の記者会見を行い、また、国税査察官をして第二、七の告発を行わしめた。

六  再更正及び納税告知等

1 内容証明郵便による抗議

原告清水は、昭和三九年三月三日、東京国税局長あて内容証明郵便を送り、右二、1の抗議と同内容の抗議を行うとともに、見解の是正及び告発の撤回を求めた。

2 公開抗議

原告清水は、週刊サンケイ同月二三日号に「『ララミー牧場』は逆襲する」と題する右と同内容の公開抗議文を掲載させた。

3 本訴の提起

原告らは、同月二五日、東京地裁に、租税債務不存在確認、謝罪広告掲載及び慰謝料支払いを求める本訴(訴え変更前のもの)を提起した。

4 請願の採択

原告清水は、同月三〇日、衆議院議長あて、税務職員の守秘義務違反に対する罰則の国税通則法に統一、明記等に関する請願を行い、同請願は、衆議院において採択された。

5 抗議を無視した再更正等

右一連の抗議にかかわらず、東京国税局国税調査官は、原告会社が外国フィルムを輸入販売する者であり、原告会社の扱つた外国フィルムの売上円はすべて原告会社の収入になるとの見解に立つた調査報告を行い、京橋税務署長は、この調査結果に基づき、第二、八の再更正等の処分を行い、更に、原告会社がテレビジョン技術株式会社(以下「TGKK」という。)等に預り円を引き渡した行為を、非居住者である外国会社に対する外国フィルムの輸入代金の支払と認定し、第二、九の納税告知等の処分を行つた。

七  公訴の提起及び第一審における公訴の追行

1 公訴の提起の違法

東京地検検察官は、別件の外為事件において、原告会社が外国会社の代理店である旨の訴因変更命令に応じていながら、原告会社が外国フィルムを輸入販売する者であり、原告会社の扱つた外国フィルムの売上円のすべてが原告会社の収入になるとの誤つた認定をなおも維持し、第二、一〇のとおり、逮捕の時から二年以上を経過し、時効完成の直前になつて原告らにつき法人税法違反の罪で公訴の提起をした。

2 第一審における公訴の追行の違法

検察官は右の自家撞着を認識し、別件の外為事件と本件の法人税法違反被告事件を同時に進行させることが不合理であることを認め、外為事件の上級審の審理が終了するまで法人税法違反被告事件の追行を見合わせ、徹底した訴訟引延しを策した。そして、そのために国内放送事業者の番組担当者等、無用の証人を多数申請する一方、原告会社と外国会社との関係を解明するのに重要なホロウイッツ・レター等を隠匿し、右の証人らに対し、外国会社に円貨支払をすれば外為法違反になるとあからさまに告げ、原告会社が外国フィルムの輸入業者である旨の誤つた証言を誘導することを企てた。

なお、検察官が、国内放送事業者から原告会社へ支払われた円貨が原告会社の所得として支払われた趣旨の国内放送事業者作成の文書を裁判所に提出せんとしたのに対し、原告らが、右支払事実及び数字については争わないが、それが契約書に基づく外国会社あてのものであることが明記されていないから同意できない旨を述べたところ、検察官は、右の証人を多数申請するに至つたものである。原告らは、大阪地方裁判所における第一回の出張証人尋問の際、右支払事実及び数字は認めているのであるから、証人申請の立証趣旨が不明で、不必要である旨を申し立てたが、検察官は、証人申請は刑訴法に基づく権限であるとして、右証人申請の撤回を拒否し、そのため無用の出張証人尋問が続けられることになつた。

3 まとめ

以上、要するに、東京地検検察官は、有罪判決を得るための合理的根拠がないことを知りながら、原告らが提起した本訴により、自分らが当初犯した重大な過失が発覚するのをおそれ、事態を糊塗せんとして、公訴権を濫用し、不当な公訴の提起及び追行を行つたものである。

八  課税処分及び滞納処分

1 課税処分の反覆

東京国税局国税調査官及び京橋税務署長は、原告らの度重なる陳情を無視して、それまでの認定を固持し、原告会社の昭和三七年八月期及び同三八年八月期の法人税についても、第二、一一及び一二の各課税処分を行つた。

なお、右各課税処分においては、原告会社の円売上は外国会社への報告の有無を問わず、すべて益金とされており、また、昭和三七年八月期の課税処分においては、原告会社が右事業年度にエルヴィン・ファラガー(以下「ファラガー」という。)を通じてNBCに支払つた金員及びホロウイッツ・レターによる精算額が損金に計上されていない違法がある。

2 差押えの違法

東京国税局長及び東京国税局国税徴収官は、原告会社の存立が危殆に瀕することになることを明らかに認識しながら、原告らの陳情を退け、第二、一三の滞納処分としての差押えを強行した。

九  違法性の確定等

1 刑事第一審判決の内容

東京地裁は、原告らに係る法人税法違反被告事件について、第二、一四のとおり無罪の判決を言渡したが、同判決の要旨は、原告会社は外国会社の代理店であり、原告会社が外国フィルムの放映契約によつて国内放送事業者から受領した円貨は、すべて外国会社に帰属するから、原告会社には昭和三六年八月期において所得は発生しておらず、法人税の逋脱はないという趣旨のものであり、原告らが当初主張していたところと同一内容のものである。

2 控訴の提起及び第二審における公訴の追行

(一) 控訴の提起の違法

刑事第一審判決によつて、原告らの主張が認められたのにもかかわらず、検察官はその体面のみを考慮して東京高裁に控訴の提起をした。

(二) 第二審における証拠提出の懈怠

刑事第二審において東京高等検察庁(以下「東京高検」という。)検察官は何ら新たな証拠を提出しなかつた。

しかし、右審理の過程において、東京高裁が検察官に対し、外国会社と原告会社との関係を示す文書が一切提出されていないが、外国会社が何の取決めもしないで取引をするはずがない。翻訳をつけてかかる文書を提出せよ、との趣旨の命令を出した。検察官は、この時になつて初めて、ホロウイッツ・レターを始めとする原告会社と外国会社との代理関係を明示した英文書類を裁判所に提出した。

(三) 支離滅裂な主張内容

刑事第二審における検察官の主張内容は次に掲げるとおり、刑事第一審における検察官のそれと全く相反するもので、支離滅裂であつた。

(1) 第一審における検察官の冒頭陳述は、NTA円勘定の決済につき、「差額はNTAの重役が来日した時に直接円を渡して決済した」と主張したが、控訴趣意書においては、第一審判決が、「NTA、フリーマントル等においてはその社員が来日した際被告会社から右円を受け取る等していたことが認められる」と判示したことについて、「右認定は(中略)事実誤認もはなはだしい。」との主張であつた。

(2) 第一審における検察官の冒頭陳述は、原告会社とNTAとの関係につき、「文書による代理店契約は締結していない。」と主張したが、第二審における検察官の弁論要旨においては、原告会社がNTAの代理人として契約を締結する権限が与えられていたことの証拠として、NTA副社長シドニー・クレイマー(以下「クレイマー」という。)作成の、原告会社は日本国内における独占的な代理人であることを証明する旨記載した書面を引用した。

(3) 第一審における検察官の論告は、テレビ映画フィルムの外貨割当が定額制であつた理由として天野可人の証言を引用し、同フィルムの輸入が買切制であつたと主張したが、第二審における検察官の弁論要旨においては、同証言を引用しながら、「ファストランの場合だけでなく、再放送の場合であつても、外為法上の役務に関する契約に該当する」との主張であつた。

(4) 第一審における検察官の冒頭陳述は、「NHKを除く民放キイ局は、被告会社を取引の相手方と考える傾向が強かつたので、日本文契約書の外に、更に英文契約書にサインすることに煩わしさを感じ、或いは取引の単純性を希望して、英文契約書にサインせず」と主張したが、第二審における検察官の弁論要旨においては、「ファストランの場合には、外国会社とテレビ局との間にオリジナルフィルムについての役務に関する契約が英文契約の形で締結され、該契約については大蔵大臣の許可も得られており、従つて、オリジナルセールスに関する限りにおいては、あらためて、その点のセールスを被告会社とテレビ局との間で締結する必要は認められない」との主張であつた。

3 刑事第二審判決の内容

東京高裁は、結局、第二、一四のとおり控訴棄却の判決を言渡したが、同判決においては、原告会社は、外国会社の代理店であつて、外国フィルムを輸入販売するものではないから、検察官の主張するような所得は発生しておらず、経済的利益を享受したものとは認め難い、との趣旨の判示がされていた。

4 裁決の内容

国税不服審判所長は、第二、一五のとおり原処分をすべて取り消す旨の裁決を行つたが、同裁決の内容は、原告会社は、外国フィルムを輸入販売する者ではなく、外国会社の代理店であつて、外国会社に対する売上円の未報告ということも、外国会社との合意に基づいたものにすぎず、所得根拠とはならないという趣旨のものであつた。

5 判決の既判力及び裁決の拘束力

前記五1の外為事件の第一審判決、右1及び3の法人税法違反被告事件の第一、第二審判決は、右のとおり、いずれも原告会社が外国会社の代理店であると認定し、これらの判決は確定した。確定した判決の既判力は内容的に同一の事件についての事実認定及び法令の適用に及ぶものであるから、被告が本訴において、原告会社が外国会社の代理店でないと主張することは既判力、禁反言の原則に違反し、許されない。

また、国税不服審判所長は、右のとおり、裁決により原告会社に対する各課税処分等を違法として取り消した。裁決の拘束力は、被告を拘束するものであるから、被告が本訴において、各課税処分等の適法性を主張することも許されない。

一〇  故意又は過失の存在等

以上の経過に照らせば、税務職員及び検察官が原告らに対し行つた一連の強制調査(第二、三の臨検・捜索・差押)、原告らに脱税の汚名を着せた新聞発表(第二、四及び六)、法人税法違反とする告発(第二、七)、昭和三九年五月三〇日以降の課税処分(第二、八、九、一一及び一二)、滞納処分(第二、一三)、法人税法違反の罪による強制捜査(第二、四の逮捕・勾留)、公訴の提起及び追行(第二、一〇及び一四)は、いずれも違法な職務行為であり、税務職員及び検察官に右違法な職務行為を行うについて、当初は故意ないし故意に近い過失、告発以後は故意が存したことは明らかというべきである。

なお、右一連の違法な職務行為の前提となつたものは、原告会社の業務を輸入業者であるとあえて認定し、右認定を長年にわたり維持したことにある。

第四  損害

一  違法な職務行為による損害の発生

1 業務妨害による原告会社の休業

原告会社は、東京国税局国税査察官の強制調査により、帳簿書類等を多数押収されて営業継続の面で大きな打撃を受けただけでなく、東京国税局長らが原告会社が多額の脱税をしていると公表し、東京地検検察官が原告らを法人税法違反の罪で起訴したうえ、原告会社の取引先である国内放送事業者全部の番組担当者を証人として申請したため、国内放送事業者は係争に巻き込まれることを警戒して原告会社との取引を避けるようになり、原告会社の外国フィルム取扱高は激減することとなつた。そのうえ、東京国税局長らは、原告会社に対する課税処分、滞納処分を反復継続したのであるが、本来、原告会社が国内放送事業者から受領した金員は円貨を含め、すべて本人たる外国会社に帰属するのであり、原告会社は代理手数料として外国会社よりそのうち一〇パーセント内外を受領するのみであつて、その余については事後に生ずべき原告会社の代理販売手数料に充当すべきもの(その後の販売役務による手数料と相殺される)である。したがつて、総売上高の一〇パーセントが代理業者としての原告会社の企業収益であるにもかかわらず、東京国税局長らはファーストランの売上高の一〇パーセント、その余の売上高の一〇〇パーセントを収益と認定した。そうすると、その余の売上高(そのうち一〇パーセントは手数料であるから)の九〇パーセントが余計に課税所得として不当に認定されるのであるから、法人税率四〇パーセントを乗ずると、(90%×40%=36%)の数式によつてその余の売上高の三六パーセントが不当徴収されることに帰する。その余の売上高は総売上高の約二分の一に相当するから、結局、総売上高の一八パーセントが不当損失になる。すなわち、東京国税局長らによる誤つた業務認定は、法人税法上の税率に照らし、巨額の潜在的租税債務負担の危険を現実のものとし、売上げの増大に伴い損失の増加を招くものであつて、右の認定自体並びにこれに基づき行われる課税処分及び強制徴収は、完全かつ明白な営業妨害となり、無限の強制力を有する公権力による威力業務妨害であつて、東京国税局長らは重大な不法行為を原告らに敢行したのである。

このように、昭和三七年以来、日本のテレビ産業が本格的に急成長を始めた直後から今日まで、公訴の提起を含む違法な諸処分等の継続により、取引先からは取引を回避され、外国会社からは業績の低下、送金の不履行及び脱税の汚名の流布により代理店契約をキャンセルされ、原告らの社会的信用は全くなくなり、原告会社はその営業の発展はおろか、その存続さえも事実上不能となり、休業状態に追い込まれるに至つた。

2 損害の発生

原告会社は、昭和三七年当時、日本における外国フィルムの約三割を取り扱い、同業他社に比して圧倒的なシェアを誇つており、最盛期には二〇〇名を超える社員を雇用していた。したがつて、テレビ産業の急成長とともに、莫大な収益を掲げ得たはずである。また、原告清水も、原告会社を基盤にして、国際的企業家として大きな飛躍をなし得たはずである。

しかるに、第三の違法行為により、原告らは莫大な得べかりし利益を失い、納付すべきいわれのない税金相当額を強制徴収されたほか、精神的にも著しい苦痛を与えられ、また、かかる国の行政下において正常な事業を遂行する自信をも喪失させられ、その社会的評価を失墜せしめられた。

二  財産的損害の額の算定

1 原告会社

(一) テレビ局の収入から推定した場合

(1) 原告会社の昭和三六年八月期の収支は、裁決を基礎とすると、民間テレビ局との取引により生じた収入が一億〇六四一万一七八三円(日本語版テープ製作によるもの八五七三万一七五〇円に受取手数料二〇六八万〇〇三三円の合計額)、日本放送協会(以下「NHK」という。)との取引により生じた収入が一〇二八万三五三二円(日本語版テープ製作によるもの七三二万八九二二円と受取手数料二九五万四六一〇円の合計額)、損金が一億二〇六八万三五六五円であつた。

(2) 電通広告年鑑によれば、民間テレビ局に支払われた広告費の総額は、昭和三五年が三八八億円、同四八年が三五二二億円である。

(3) 原告会社が民間テレビ局との取引により得た昭和三六年八月期の収入が民間テレビ局の同三五年の広告費に占める割合は〇・二七四二五パーセントである。

民間テレビ局の昭和四八年の広告費三五二二億円の右パーセントに相当する額は九億六五九〇万円である。

原告会社の民間テレビ局との取引により生じる収入が昭和三六年八月期から同四九年八月期まで、直線的に伸びたと仮定し、同五〇年八月期の上半期は同四九年八月期の半額とすると、原告会社が民間テレビ局との取引により得る収入は、別紙五の一のとおり、昭和三七年八月期から同五〇年八月期の上半期までに合計七八億八二五九万円となる。

(4) NHKの収入は、昭和三五年度が三二四億円、同四八年度が△一八七億円である。

(5) 原告会社がNHKとの取引により得た昭和三六年八月期の収入がNHKの同三五年度の収入に対して占める割合により、原告会社が同四九年八月期にNHKとの取引により得る収入をNHKの同四八年度の収入から計算すると三七六三万円を下らない。

原告会社のNHKとの取引により生じる収入が昭和三六年八月期から同四九年八月期まで、直線的に伸びたと仮定し、同五〇年八月期の上半期は同四九年八月期の半額とすると、原告会社がNHKとの取引により得る収入は、別紙五の一のとおり、昭和三七年八月期から同五〇年八月期の上半期までに合計三億四三八四万円となる。

(6) 卸売物価指数は、昭和三五年を一とすると、同四八年は一・三一である。

(7) 右卸売物価指数によつて、原告会社の損金額が昭和三六年八月期から同四九年八月期まで、直線的に伸びたと仮定し、同五〇年八月期の上半期は同四九年八月期の半額とすると、原告会社の損金額は、別紙五の一のとおり、昭和三七年八月期から同五〇年八月期の上半期までに合計一九億〇九七〇万円となる。

(8) 従業員数三〇人以上の事業所における賃金の指数は、昭和三五年を一とすると、同四八年は五・〇二である。

(9) 右賃金指数によつて、原告会社の損金額が同三六年八月期から同四九年八月期まで、直線的に伸びたと仮定し、同五〇年八月期の上半期は同四九年八月期の半額とすると、原告会社の損金額は、別紙五の一のとおり、昭和三七年八月期から同五〇年八月期の上半期までに合計五二億六七六〇万円となる。

(10) 以上によれば、原告会社の昭和三七年八月期から同五〇年八月期の上半期までの間の逸失利益は、別紙五の一のとおり、経費を卸売物価指数によつて計算した場合は六三億一六七三万円、賃金指数によつて計算した場合は二九億五八八三万円と算出できる。

(11) なお、原告会社は、少なくとも、それ以降昭和六九年末までの間、同四九年八月期と同程度の利益を毎期失うものである。

(二) 日本テレビの版権費等から推定した場合

(1) 原告会社の昭和三六年八月期における放映権取引の対価の総額は、被告の調査額によれば、約二億三〇一七万円であり、そのうち日本テレビ放送網株式会社(以下「日本テレビ」という。)との取引額は六四八〇万円で、二八パーセントを占めていた。

(2) 日本テレビが負担した映画版権費は、昭和三五年一〇月から同三六年九月までの一年間で四億八二六〇万円、同三八年一〇月から同三九年三月までの半年間で七億四五二七万円(一年間に換算すると一四億九〇五四万円)、同五〇年四月から同五一年三月までの一年間で八〇億四七一六万円であつた。

右の版権費の伸びが昭和三五年から同三九年の間及び同三九年から同五〇年の間、それぞれ一定の上昇率で伸びたと仮定すると、右の上昇率は前者が約一・四五倍、後者が約一・一五倍となり、この上昇率で日本テレビの各事業年度の版権費の指数を算定すると、次のとおりである。

昭和三六年九月期 一〇〇

同 三七年九月期 一四五

同 三八年九月期 二一〇

同 三九年九月期 三〇五

同 四〇年九月期 三五一

同 四一年九月期 四〇三

同 四二年九月期 四六四

同 四三年九月期 五三三

同 四四年九月期 六一三

同 四五年九月期 七〇五

同 四六年九月期 八一一

同 四七年九月期 九三三

同 四八年九月期 一〇七三

同 四九年九月期 一二三四

同 五〇年九月期 一四一九

同 五一年九月期 一六三二

(3) 原告会社の放映権取引の対価の総額は、日本テレビの版権費の上昇率に比例して上昇したと考えるのが合理的であり、原告会社の受取手数料はそのおよそ一〇パーセントであるから、昭和三六年八月期の右取引の対価の総額二億三〇一七万円に伴う原告会社の受取手数料二三〇一万七〇〇〇円を基準として、昭和三七年八月期ないし同五〇年八月期の受取手数料を前記の指数から算出すれば、別紙五の二のとおり、合計二一億一四〇七万円となる。

(4) 原告会社の昭和三六年八月期における日本語版テープ製作による収入(以下「ダビング料」という。)は九三〇七万円であつた。

(5) 昭和五五年版通信白書によれば、民間放送事業者の各年のテレビ収入の額は次のとおりであつた(括弧内に昭和三五年を一〇〇とする指数を示す。)。

昭和三五年 四〇六億円 (一〇〇)

同 三六年 五八九億円 (一四五)

同 三七年 六九八億円 (一七二)

同 三八年 八九八億円 (二二一)

同 三九年 一〇四二億円 (二五七)

同 四〇年 一〇八三億円 (二六七)

同 四一年 一二五七億円 (三一〇)

同 四二年 一五三二億円 (三七七)

同 四三年 一七二八億円 (四二六)

同 四四年 二一八五億円 (五三八)

同 四五年 二六六〇億円 (六五五)

同 四六年 二八五八億円 (七〇四)

同 四七年 三三〇七億円 (八一五)

同 四八年 四〇一八億円 (九九〇)

同 四九年 四四一三億円 (一〇八七)

(6) 原告会社のダビング料の総額は、右民間放送事業者のテレビ収入に比例して上昇したと考えるのが合理的であるから、昭和三六年八月期のダビング料九三〇七万円を基準として、昭和三七年八月期ないし同五〇年八月期のダビング料を前記の指数(事業年度開始時点のものを適用する。)から推計すれば、別紙五の二のとおり、合計六四億八〇〇四万円となる。

(7) 原告会社が昭和三七年八月期ないし同四九年八月期の間、前記の受取手数料及びダビング料を得るために要する経費の額は別紙五の一のc欄のとおりであり、昭和五〇年八月期の経費の額は前事業年度までの上昇率によつて、六億四九九八万円と推定できる。

しかし、原告会社は被告の違法行為にもかかわらず、昭和四五年ころまでは営業を継続し、経費を支弁してきたのであるから、損益相殺の法理により、収入から控除すべき経費の額は右のうち、昭和三七年八月期ないし同四二年八月期までの間はそれぞれ二〇パーセント、同四三年八月期ないし同四五年八月期までの間はそれぞれ六〇パーセント、同四六年八月期以降はそれぞれ一〇〇パーセントとするのが合理的である。

そうすると、昭和三七年八月期ないし同五〇年八月期までの間の控除すべき経費の額は別紙五の二のとおり、合計三九億〇五四四万円となる。

(8) 以上によれば、原告会社の昭和三七年八月期から同五〇年八月期までの間の逸失利益は、別紙五の二のとおり、四六億八八六七万円と算出できる。

(三) 同業他社の収益から推定した場合

(1) 外国フィルムの配給業者である株式会社東北新社(以下「東北新社」という。)は昭和三六年に資本金五〇万円で、同業者のトランスグローバル株式会社(以下「トランスグローバル」という。)は同三八年に資本金三〇〇万円で設立され、いずれもその後増資されている。

(2) 東北新社の昭和五〇年一月期の利益金は二億一〇〇〇万円、トランスグローバルの同四九年における利益金は四七〇〇万円である。

(3) 原告会社の実績、社会的評価、従業員数は、同業者間でもずば抜けて高く、昭和三七年ころの収益力は東北新社とトランスグローバルの両者のそれの二倍を下らない。

(4) そうすると、原告会社は、昭和四五年五月から同五〇年四月までの間は一年間に五億一四〇〇万円(右両社の利益金の合計額の二倍である。)、違法行為が開始された同三七年五月から同四五年四月までの間は一年間にその半額の二億五七〇〇万円の収益をあげ得たはずであり、その総額は四六億二六〇〇万円となる。

(四) 懲罰的損害賠償の場合

(1) 法益均衡の原則によれば、他人の財産権を侵害する行為の価値と賠償額は同等でなければならない。このことは、租税法が契約法的性格を有するとみられること(所得税法二三八条二項、二四〇条二項、法人税法一五九条二項は脱税額と罰金額とを同額まで引き上げている。)からも裏付けられる。損害賠償とは、加害者に対する懲罰的填補義務にほかならない。

なお、課税権の行使は無限の強行性が担保されているので、その宣言によつて被害者が受ける危険はそのまま実現と同等の効果が生ずることに留意すべきである。

(2) 原告会社の昭和三六年八月期における円売上総額は一億九八六一万円であり、被告は前記一1のとおり、右総売上高の一八パーセントである三五七四万円を違法に徴収しようとした。

(3) テレビ番組の売上の増加率は昭和三六年から同六二年の二七年間で約三〇倍となつている。

(4) そうすると、被告は、次の算式により、潜在課税額合計三五一億七九三九万円を原告会社に対して賠償すべきものである。

1/2×(3574万円+3574万円×30)×27年×(1+0.05×27年)≒351億4939万円

(五) まとめ

以上のいずれの計算によつても、本件一連の違法行為による原告会社の財産的損害は、少なくとも一四億九五〇〇万円を下らない。

2 原告清水

(一) 原告清水の逸失利益

原告清水は卓抜した能力と実行力を有する企業家であり、原告会社の収益力の大半は原告清水の個人的な力に負うていた。本件の一連の違法行為がなければ、原告清水は原告会社や他の企業体を用い、又は個人で多種多様な事業分野において多面的な経済活動を大々的に展開し、その結果、莫大な利益を享受していたことが確実である。

したがつて、原告会社の前記の損害のほかに、これに比肩し、又はこれを上回る額の原告清水の損害が存在することは明白である。

(二) 収益還元方式による場合

(1) 原告清水は、原告会社の資本金を全額出資し、代表取締役としてその経営を支配している。

(2) 原告会社は、別紙五の二のとおり、昭和四九年八月期には五億九九二九万円、同五〇年八月期には六億八八二五万円の利益をあげ得たはずであり、その単純平均値は六億四三七七万円である。

(3) 右平均値を年々取得し得る経済的利益、還元利回りを市場一般の利子率である年八パーセントとして元本を求めると、次の算式により、八〇億四七一三万円となる。

6億4377万円÷0.08≒80億4713万円

(三) まとめ

以上のいずれの考え方によつても、本件の一連の違法行為による原告清水の財産的損害は、少なくとも一四億九〇〇〇万円を下らない。

三  無形的・精神的損害

1 原告会社

本件一連の違法行為により原告会社が受けた無形的損害の額は五〇〇万円を下らず、かつ、その財産的損害の額との合計額は一五億円を下らない。

2 原告清水

本件一連の違法行為により原告清水が受けた精神的損害の額は一〇〇〇万円を下らず、かつ、財産的損害の額との合計額は一五億円を下らない。

四  謝罪広告の必要性

右違法行為によつて毀損された原告らの名誉及び信用を回復するためには、請求の趣旨二項のとおり別紙一記載の文言の謝罪広告が必要である。

第五  被告の損害賠償責任

第三に述べた違法行為は、公権力の行使に当たる国家公務員がその職務として行つた行為であるから、被告は、国家賠償法一条の規定に基づき第四の損害を賠償する責任を負う。

第六  結 論

よつて、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、原告会社は財産的損害一四億九五〇〇万円、無形的損害五〇〇万円の合計一五億円(財産的損害の一部が認められない場合には、予備的に無形的損害をもつて補完する。)、原告清水は財産的損害一四億九〇〇〇万円、精神的損害一〇〇〇万円の合計一五億円(財産的損害の一部が認められない場合には予備的に精神的損害をもつて補完する。)及びそれぞれ各金額に対する違法行為後の昭和五〇年四月二六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、請求の趣旨二項記載の謝罪広告による謝罪の意思表示を求める。

(請求原因に対する認否)〈以下省略〉

理由

第一書証の成立等に関する判断〈省略〉

第二事件の経過について〈省略〉

第三原告会社の取引及び経理処理等について〈省略〉

第四本件各刑事司法行為の違法性の有無

一刑事判決と国家賠償請求訴訟

1  無罪判決の確定と刑事司法行為の違法性

刑事事件において無罪判決が確定したからといつて、そのことだけに直ちに、当該刑事事件に係る収税官吏による強制調査(租税犯則調査)・告発、検察官による起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行(上訴の提起及び上訴審における公訴の維持を含む。)といつた刑事司法行為が国家賠償法上違法となるということはない。なぜなら、右の各刑事司法行為は、段階的、発展的に進められていく刑事手続の中で行われるものであつて、その目的に応じ、当該刑事司法行為を適法に行い得る要件が各別に存在するものであるが、その要件のうち当該行為者がその行為時に犯罪につき職務上抱くべき心証の程度についてみても、それは、裁判官が刑事手続の最終段階に位置する刑事事件の判決をする時に犯罪につき職務上抱くべき心証の程度までをも要しないものと解するのが相当だからである。

そして、当該刑事司法行為を行う場合において、当該行為者が行為時に犯罪につき職務上抱くべき心証を抱くに至つておらず、又はこれを抱いていても合理的根拠を欠いているときには、当該行為は国家賠償法上違法との評価を免れないが、当該行為者が行為時に右の心証を抱き、それが合理的根拠を有するときには、結果的には無実の者を対象としていたとしても、当該行為は、それを適法に行い得る他の要件を欠くことのない限り、国家賠償法上違法と評価することはできないものと解されるのである。

2  各刑事司法行為の違法性判断の基準

(一) 強制調査(臨検・捜索・差押え)

租税犯則調査である強制調査としての臨検・捜索・差押え(国犯法二条)は、爾後の犯則(犯罪)調査を進め、犯則(犯罪)事実の存否を判断する資料を得ることを目的とするものであるから、それを行う収税官吏(査察官等)が犯則(犯罪)につき抱くべき心証は、当該強制調査の時点において、犯則(犯罪)が一応存在するとの嫌疑で足りるものと解される。したがつて、強制調査の違法性の判断は、これを行つた収税官吏(査察官等)がその行為時に右の程度の犯則(犯罪)の嫌疑とそれに加えて右調査の必要とについて、合理的な根拠すなわちこれを担保するに足りる資料を有していたか否かにより決定されるものと解するのが相当である。

(二) 起訴前の逮捕・勾留

起訴前の逮捕(同法一九九条一項)・勾留(同法二〇七条、六〇条)は、当該逮捕・勾留の時点において、犯罪の嫌疑につき相当な理由があり、逮捕・勾留の必要性が認められる限り適法であつて、これを行う検察官等が犯罪につき職務上抱くべき心証は、公訴提起の際に要求される嫌疑より低いものであり、右の犯罪の嫌疑についての相当な理由とは、具体的根拠に基づいて犯罪が行われたと認められる程度の嫌疑を指すものと解される。したがつて、逮捕・勾留の違法性の判断は、これを行つた検察官等がその行為時に右の程度の犯罪の嫌疑とそれに加えて逮捕・勾留の必要とについて、合理的な根拠、すなわちこれを担保するに足りる資料を有していたか否かにより決すべきものと解するのが相当である。

(三) 告発

間接国税以外の国税犯則事件において、収税官吏は「犯則アリト思料スルトキ」に告発(国犯法一二条の二)するものとされている。この場合の告発は訴訟条件となつておらず、それ自体は直ちに被告発者に不利益をもたらすものではないが、収税官吏による犯則事件の最終的な判断であることに鑑みると、これを行う収税官吏が犯則(犯罪)につき職務上抱くべき心証は、当該告発の時点において、犯則(犯罪)が一応存在するとの嫌疑、すなわち右(一)の強制調査におけると同程度の嫌疑では足りず、具体的な根拠に基づいて犯罪が行われたと認められる程度の嫌疑すなわち右(二)の逮捕・勾留におけると同程度の嫌疑を要するものと解される。したがつて、告発の違法性の判断は、これを行つた収税官吏がその行為時に右の程度の嫌疑について、合理的な根拠、すなわちこれを担保するに足りる資料を有していたか否かにより決せられるものと解するのが相当である。

(四) 公訴の提起

公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないから、これを行う検察官が犯罪につき職務上抱くべき心証は、当該公訴の提起の時点において、有罪と認められる嫌疑で足りるものと解するのが相当であり、裁判官が有罪判決をするに当たり抱くべき心証まではこれを必要としないことすでに述べたとおりである。すなわち、公訴の提起の違法性の判断は、これを行つた検察官がその行為時に有罪と認められる嫌疑について、合理的根拠、すなわちこれを担保するに足りる資料を有していたか否かにより決せられるものと解するのが相当である。

(五) 第一審における公訴の追行

第一審における公訴の追行にあつても、これを行う検察官が犯罪につき職務上抱くべき心証は、公訴の提起の場合と同様、その当該公訴の追行の時点において、有罪と認められる嫌疑で足り、その違法性の判断も、公訴の提起の場合と同様であると解するのが相当である。そして、公訴の提起が違法と認められない場合においては、公判における新たな証拠等により、右の程度の犯罪の嫌疑が存在するとは到底認め難くなつたときは格別、そうでない限り、公訴の追行は違法ということはできないというべきである。また、証拠の証明力を争うなどの訴訟追行行為は合理的な範囲であれば、当事者の権利の行使に過ぎず、これをもつて直ちに国家賠償法上、違法ということはできないのは当然である。

(六) 控訴の提起及び第二審における公訴の追行

検察官の控訴の提起及び第二審における公訴の追行についても、これを行う検察官が犯罪につき職務上抱くべき心証は、公訴の提起の場合と同様、当該控訴の提起又は公訴の追行の時点において、有罪と認められる嫌疑で足り、その違法性の判断も、公訴の提起の場合と同様であると解するのが相当である。もつとも、第一審判決の事実認定及び法令の解釈と検察官の心証及び法令の解釈とが異なつたとしても、訴訟において審級制度がとられ、当事者が第一審判決の証拠の評価及び法令解釈につき上級審の判断を求め得ることとされていることに鑑みれば、第一審判決に対する控訴の提起及び第二審における公訴の追行は、公訴の提起が違法と認められない場合においては、その時から当該控訴の提起又は公訴の追行までの時点において右の程度の犯罪の嫌疑が存在するとは到底認め難くなつたときは格別、そうでない限り、違法ということはできないというべきである。

3  刑事判決の既判力等に関する原告らの主張について

原告らは、外為事件の第一審判決及び法人税法違反被告事件の第一、第二審判決がいずれも原告会社を外国会社の代理人であると認定し、右各判決が確定したことから、本訴において、被告が原告会社を外国会社の代理人でないと主張することは、既判力、禁反言の原則に違反し、許されないと主張する(請求原因第三、九5)。

刑事判決の既判力は、これを一事不再理の効力と考えるにせよ、実体的(内容的)確定力と考えるにせよ、いずれにしても訴訟物である刑罰権の存否について生ずるものであるから、右の外為事件及び法人税法違反被告事件の各判決の事実認定の一部について、本件訴訟に効力を及ぼす既判力が生ずるいわれはない。また、被告が右認定に反する主張をしたからといつて、そのことだけで当然に禁反言の原則に違反することになるというものではない。

よつて、原告らの右主張は採用できない。

二本件強制調査について

1  自白の撤回に対する異議について

原告らは、査察官の違法行為として、外国フィルムの国内売上円をすべて原告会社の収入であると断定した旨主張しており(請求原因第三、一3)、この点に関し、被告がその準備書面(六)(本件の第六六回準備手続において陳述された。)九丁裏において、国内の円貨による売上げの全額を原告会社の収入と認定したことは認めるとして自白しながら、その後これを撤回したことに異議がある旨主張する。

ところで、被告が、原告会社において国内で収受された円貨の全額を売上げと主張する趣旨ではなく、無報告円のみを売上げと主張する趣旨で右準備書面(六)を陳述したことは、本件訴訟の経過に照らし明らかである(殊に、右準備書面(六)が陳述されるより早く、本件の第六一回準備手続において陳述された被告の準備書面(一八)の二三頁において、被告が、「原告会社が国内放送局等から収受した円貨のうち、原告会社の収益に計上したのは、いわゆる『無報告円』の部分のみであつて、『売上円貨のすべてを原告会社の輸入収益として計上することとした』との原告主張は事実と反する」と主張していることは重視されてよい。)。したがつて、被告が原告ら主張のような趣旨の自白をした事実は存しないというべきであるから、自白の撤回についての原告らの異議はその前提を欠き、失当である。

なお、原告らは、告発(請求原因第三、五2)、公訴提起(同七1)及び課税処分(同八1)に関しても同様の異議を述べているが、いずれも、右同様の理由で失当である。

2  本件強制調査の違法性の有無

強制調査としての臨検・捜索・差押えについての国家賠償法上の違法性の判断が、当該強制調査の時点において、犯罪が一応存在したとの嫌疑と調査の必要とを担保するに足りる証拠資料があつたか否かにより決せられるべきものであることは先に述べたところである(前記一2(一))。

ところで、本件強制調査の経緯については、前記第二、二において認定したとおりである。要するに、本件強制調査は、原告会社の従業員とみられるものからの査察官に対する詳細な通報を端緒としているが、この通報の中に、売上除外による約一億円の簿外預金の設定、同預金による鎌倉市における四〇〇〇万円の土地取得の企図、架空経費の計上、帳簿等の疎開事実等といつた情報が含まれており(第二、二2)、査察官が内偵により、右通報の裏付け調査を行い、それに相応する裏付け資料を得て、通報が確度の高いものであると判断したうえで、これら資料に基づき裁判官から、原告会社の事務所、原告清水宅、社員宅等一八か所における臨検捜索差押許可状を得て行われたものである(同3、4)。

このような事実によれば、査察官が右の時点において、原告らに法人税法違反の罪が一応存在したとの嫌疑と一八か所における強制調査の必要とを担保するに足りる証拠資料を有していたことは明らかということができるから、本件強制調査は国家賠償法上違法であつたことは認めるわけにはいかない。

原告らは、京橋税務署長が昭和三五年八月期の原告会社の法人税の確定申告に対し、外国会社に対する日本総代理店として権利金に計上すべきもの三八三万五二五〇円を更正理由としたこと(右更正が実際には昭和三四年八月期について行われたことは、前記第二、四4(三)で述べた。)を知つていたのに、査察官は、同署長らに何らの説明を求めなかつたと主張する(請求原因第三、一3)。しかしながら、原告会社が外国会社に対して日本総代理店として権利金を支払つたことと法人税を逋脱したか否か(原告会社が、外国フィルムの取引において、すべて外国会社の代理人として行動したか否か等)とは直接の関係があるとはいえないから、原告ら主張のように査察官が同署長に説明を求めなかつたとしても、そのことだけで本件強制調査が違法となるものではない。

また、原告らは、査察官が原告会社の取引形態、外国フィルム放映権の性格及び外国為替管理上の取扱い、国際取引上の慣行等について調査を行うことなく、その知見を欠いたまま、原告会社を外国フィルムの輸入販売会社と認定した旨主張する(同)。しかし、査察官は内偵調査によつて原告会社による架空経費の計上及び簿外預金の存在を一応裏付ける資料を得ていたのであり、このような経理操作等が通常税逋脱の手段となつていることは公知の事実であるし、査察官がその段階で必要とされる程度の知見をも欠いていたことを認めるに足りる証拠はないから、その得た資料により、原告会社が法人税を逋脱していることが一応認められると判断したことをもつて違法とするわけにはいかず、原告らの右主張は採用できない。

三本件強制捜査について

1  本件逮捕の違法性の有無

起訴前の逮捕・勾留についての国家賠償法上の違法性の判断が、当該逮捕・勾留の時点において、具体的な根拠に基づいて犯罪が行われたと認められる程度の嫌疑と逮捕・勾留の必要とを担保するに足りる証拠資料があつたか否かにより決せられるべきものであることは先に述べたところである(前記一2(二))。

ところで、本件逮捕の経緯については、前記第二、三2、3のとおりである。要するに、原告清水に対する本件逮捕が東京国税局長から東京地検特捜部長に対する連絡(第二、二5)を契機とし、担当検事が査察官らから証拠資料多数の呈示を受け、それに基づき事案、強制調査の経緯等の説明を受けて、逮捕状を請求し、その発付を受けたこと(同三2)、同検事が原告清水の弁解を聴取した後に、これをも考慮のうえ、逮捕状執行の可否について検討した結果、原告らに法人税法違反の嫌疑が充分にあり、原告清水の逮捕の必要もあるとして、逮捕状を執行したものであること等(同3)が認められるのである。そして、査察官の検察官に対する説明には、原告会社の従業員及び関係者らが、原告会社の架空経費の計上等の決算操作及び簿外預金の設定を裏付ける供述をしていること、原告会社の監査役兼経理課員で原告清水のいとこの井上が、地方テレビ局との契約に関し、NBCがタッチせず、原告会社への入金についてNBCに対する債務は発生しないと述べていること、原告会社が査察を予知し、帳簿類等を従業員の居宅に分散疎開するとともに、「査察に関して」と題する文書により官憲に対する応答要領を準備していたと認められること、強制調査の際、原告清水の居宅から高額の宝石類が発見されたこと、しかも、原告清水がその直後にこれを処分したと述べていること、原告清水が単身であり、近い将来において訪米を予定していることなどが含まれていた(同二4(二)、(三)(1)、(2)及び三3)。なお、原告清水は、担当検事による弁解聴取の際に、ファーストランの場合、国内放送局から受け取る放映料のうち、外国会社に支払われる額以外は日本語版テープの使用料として原告会社の収入になるとも述べていたのである(同三3)。

このような事実関係によれば、本件逮捕は、その時点において、具体的な根拠に基づいて原告らが法人税法違反の罪を犯したと認められる程度の嫌疑と逮捕の必要とにつきこれを担保するに足りる証拠資料があるものといえるから、国家賠償法上違法であつたということはできない。

原告清水は、査察官に対し、原告会社は売上高の一〇パーセントの手数料を収益とする代理店に過ぎないと供述していたが(前記第二、二4(三)(1))、右に指摘したように、原告らが法人税法違反の罪を犯したことにつき右の程度の嫌疑を支える証拠があり、これと対比すると、右の原告の供述をそのまま全部は信用できないと考えたとしても、合理性を欠くとはいえず、したがつて、右の供述が存在するからといつて、これにより、本件逮捕が違法になるということはできない。

また、原告清水がNBCの国際会議に参加のため渡米の予定であることを査察官に述べたこと(前記第二、二4(三)(1))についても、このことにより、本件逮捕を直ちに差し控えなければならないということにはならず、却つて、当時の事実関係のもとでは、原告清水の渡米の予定は、同原告の逮捕の必要を支えるとも考え得るのである。

次に、原告らは、検察官が何の捜査も行わず、原告会社が「代理店」であるという事実について知見を欠如し、「輸入販売業者」と特定記載して令状を入手した旨主張する(請求原因第三、二2)。しかし、前示のように、検察官は、査察官らから証拠資料の呈示を受け、事案等の説明を受け、その後、原告清水から弁解も聴取し、右のように犯罪につき右の程度の嫌疑ありとの心証のもとに、逮捕状を執行したのであり、当時の事実関係からすれば、それ以外に新たな捜査をしなかつたからといつて、本件逮捕が違法となるものではない。更に、原告清水自身、査察官に対し、原告会社の業務は「主としてアメリカの会社のフィルムを輸入してこれに合わせて翻訳テープを製作し、これを各放送局へ貸し付ける」ことと供述しているのであり(前記第二、二4(三)(1))、本件逮捕後ではあるが、ファーストランの場合のテレビ番組の輸入者は規則上は輸入の許可を得た国内放送局ではあるが、事実上は原告会社が輸入している旨供述する関係者もいた程であるから(前記第二、三5(四)(2)イ)、逮捕状請求書中に原告会社について「輸入販売業者」と記載したとしても、その正確性はともかく、これをもつて、本件逮捕が国家賠償法上違法となることを基礎づけることはできない。

2  本件勾留の違法性の有無

原告清水が担当検察官に対し、同原告が経理課員らに「この会社はまだ黒字になつていないから間違わないように」と指示し、赤字の確定申告をすることの報告を受けてこれを承認した旨供述したことを含む本件逮捕から本件勾留までの捜査の経緯は、前記第二、三4のとおりであり、これに右1に述べた本件逮捕の経緯に係る事実関係を合せ考えると、原告清水に対する本件勾留は、その時点において、同原告が法人税法違反の罪を犯したことにつき具体的な根拠に基づく嫌疑と勾留の必要とを担保するに足りる証拠資料があつたといえるから、国家賠償法上違法であつたとはいえない。

また、右に述べたところ及び前記第二、三5(二)で述べた当初の勾留期間内の捜査状況によると、右の法人税法違反被疑事件の事案が複雑であるということができ、当時の状況のもとでは、勾留期間の延長は、やむを得ない事由があるといい得るから、国家賠償法上違法であつたとはいえない。

四本件の告発及び公訴の提起について

1  はじめに

査察官の告発及び検察官の公訴の提起についての国家賠償法上の違法性の判断が、査察官の告発にあつては、当該告発時において、具体的根拠に基づき犯罪が行われたと認められる程度の嫌疑について、これを担保するに足りる資料があつたか否かにより(前記一2(三))、検察官の公訴の提起にあつては、当該公訴の提起の時点において、有罪と認められる嫌疑について、これを担保するに足りる資料があつたか否かにより(同(四))、それぞれ決せられるべきことは、先に述べたところである。

ところで、原告清水の強制調査当時及び強制捜査の初期段階における弁解によれば、外国会社の代理店である原告会社の収益は、原告会社が国内放送局等から収受した放送料金のうちの約一〇パーセントの手数料(ただし、ファーストランの場合には、外国会社に支払われる額以外は日本語版テープ使用料として原告会社の収入となる。しかし、同額の費用を要するので、収入には挙げない。)のみであるというものであり(前記第二、二4(三)(1)、三3、5(二)(1))、これに対し、告発をした査察官及び公訴の提起をした検察官の判断は、原告会社に帰属する収益は、原告会社が国内放送局等から収受した放送料金のうち外国会社に報告した分(ドル相当円及び上乗せドルを含む。)についての原告ら主張のような手数料のほか、右放送料金のうち外国会社に報告されなかつた分(無報告円)そのものも含まれるというものであつた(前記第二、四4(三)、七2)。そして、右の点、すなわち、無報告円は外国会社に帰属するものであつて、原告会社にはそれに対応する手数料のみが帰属するのか(原告ら。もつとも、原告らは、無報告円のうち、ファーストランの日本語版テープに関する売上げと認められるとして前記第二、九1(七)(2)の裁決が原告会社の収入と認めた九三〇六万〇六七二円については、原告会社に帰属することを認めているものと解されることは、第三、二1(一)(5)で述べたとおりである。)、無報告円はすべて原告会社に帰属するのか(被告)がまさに本件訴訟の争点であり、また本件法人税法違反被告事件における中心争点もここにあつたのである。

そうすると、本件の告発又は公訴の提起の違法性の判断は、査察官又は検察官が、本件の告発時又は公訴の提起時において、無報告円が原告会社に帰属する収益(益金)であるとした判断について、先に述べた告発又は公訴の提起に当たり職務上必要とされる心証の程度に応じた相当の資料に基づく合理的な根拠があるか否かにより決せられるものというべきである。

2  本件無報告円の帰属について

(一) 原告清水の弁解に沿うと見られる事実関係について

原告清水の前記1の弁解に沿うと見られる事実関係としては、

① 原告会社と外国会社との間に、その形式及び内容はともかくとして、何らかの代理店契約が存在したものと見られること(前記第三、五)、

② 国内放送局等と原告会社間の日本文契約書の大部分において、「外国会社Aが海外使用に関して一切の権利を有し、原告会社が日本国内の総代理権を有するフィルムB」との文言又はこれと同趣旨の文言が記載され、その点はいずれの形態のフィルム取引においても同様であつたこと(同二1(二)(2)、2ないし5の各(二))、

③ 本件当時、外国テレビフィルムに関する役務契約・決済の許可申請資格者につき、所管の大蔵大臣が国内放送局にこれを限定していたこと(同一、2)、

の各事実が存在していた。

しかし、まず、①の代理店契約の点については、原告会社と外国会社との間に代理店契約があつたからといつて、直ちに、当該外国会社の外国フィルムに関する国内放送局等と原告会社との間の個々の取引において、原告会社が当該外国会社を法律上代理しているとは限らないのであつて(商行為の代理の場合においても、顕名までは要しないにしても、代理人において各取引時に本人のためにする意思を有していたことを要するものである。)、右代理店契約の存在だけから、直ちに本件無報告円が原告会社に帰属するものではなく、外国会社に帰属すると認めなければならないということにはならない。

次に、②の日本文契約書上の「総代理権を有する」旨の文言も、文理上、単に原告会社が当該フィルムについて権限を保有していることを示しているに過ぎないと解する余地も充分にあるのであつて、右の文言があるからといつて、当然に放送権の承認を外国会社の代理人として行つていることを表わす趣旨と認めなければならないものではないし、取引の相手方である国内放送局関係者らが少なくとも無報告円に関し原告会社を本人とする取引であつて、それを原告会社に対し支払うものであると認識していたという事実(前記第二、三5(五)。告発後において、同七1(三)(1))がある本件では、なおさらである。

のみならず、日本文契約書には、右と同旨の文言が全くないもの(前記第三、二3及び4の各(二))や当該取引の対象となつた外国会社とは別の外国会社名を記載したもの(同3(二))があること、原告会社とNFBとの間で作成されたフィルム配給契約によると、原告会社は、NFBにフィルムのロイヤルティを支払い、そのフィルムを配給する独占的な権利を得るものとされていたのであるが(前記第三、五4(一))、NFBのフィルムのローカルセールスに係る国内放送局との間の契約書にも、他の外国会社のフィルムのセールスの場合と同様、「総代理権」との文言があつたこと(同二3(二))、原告清水自身も「総代理店」とは外国フィルムの放映権を外国会社に代わつて国内で与えることができる地位と権限を持つているという意味であると述べ(前記第二、三5(四)(1))、ハットも「総代理人」とは法律的に見て代理人であるというのではなく、一般的、常識的な用語として使われている旨述べていたこと(同(2)、イ)などに照らすと、右「総代理権」といつた用語は、必ずしも原告会社が外国会社の代理人であることを表示する趣旨と理解しなければ合理性を損うとはいい難かつた。

なお、許可用英文契約書に原告会社が外国会社の代理人である旨の表示がされていたこと、しかし、右契約書が外貨割当申請手続のためにのみ作成された案文であつて、実際に締結された契約書とは別のものであつたことは、いずれも前述したとおりである(前記第三、一2及び同二1(四)(1))。

更に、③の外為規制との関係については、そもそも原告会社は、当時外為法上保有することが許されていなかつた外貨債権を沖縄の放送局に対して有していると見る方が合理的な契約条項を含む契約を結んでおり(前記第三、二5(二)。なお、その支払いについて、同(三)参照)、また、外貨預金口座であるレオ・プレスコット口座を保有し、外貨を事実上自由に外国会社に送金できる立場に立つとともに、現実に同口座を通じて外貨を外国会社に支払つていると見られる事実があつた(同四3(二))から、原告会社に役務契約・決済の許可申請資格がないからといつて、原告会社は、外国会社から外国フィルム(放映権)を有償で取得することは一切不可能であつて、国内放送局等に対する外国フィルムの取引は外国会社の代理人としてのみ可能である、としなければ、合理性を欠くものとはいい難かつた。

また、原告清水は、検察官に対し、国内放送局との契約は原告会社が外国フィルムの賃貸を行うことであるが、外貨規制のため、放映権の輸入ないし設定契約の斡旋をしたような形になつていると述べてもおり(前記第二、三5(四)(1))、放送局関係者ら多数がこれを裏付ける供述をしていたことは前述したとおりである(同(五)(4))。

したがつて、右外貨規制の点も無報告円に係る売上げが外国会社に帰属することの証左としなければならない決定的な理由とはなし難かつた。

ところで、以上のほかに、原告らは、重要な証拠として、いずれもダビング・テープ等がNBCインターナショナル又はNBCの財産である旨記載されたNBCインターナショナルから原告会社宛の昭和三二年一二月二〇日付け英文書簡(甲第一号証)及び同月二四日付けNBCのファラガーから原告会社宛の英文書簡(同第二号証)を提出している。

右各書証が検察官らによつて押収されていた旨の原告清水の供述がそれを裏付ける証拠を欠いていることについては、前述(第三、二1(三)(1))したところであるが、仮にこれらを検察官が押収し、又は容易に押収し得たとしても、右ダビング・テープがNBC等に帰属することが当然にはその使用収益の権限が原告会社に帰属しないことを意味するものではないこと、また、後記(三)で述べるように、法人税法上の所得の概念を経済的に把握すべきであるとする見解に立てば、そもそも右テープの法律上の帰属関係は原告会社に所得が帰属しないこととは、必ずしも直接の関係がないことなどの点を考慮すると、右各書証を無報告円が外国会社に帰属することの証拠としなければ合理性を損うものということはできないというべきである(なお、ハットが検察官に対し、日本語版テープによる収入が原告会社のものであることは原告清水とNBCのファラガーとの間で意見が一致していた旨供述していたことは前記第二、三5(三)(2)アで述べたところである。)。

(二) 原告清水の弁解に反する事実関係について

(1) 原告会社と国内放送局等との取引の実情

原告会社と国内放送局等とのフィルム取引の実情は、前述(第三、二)したとおりであるが、そのうちでも、次のアないしオの各事実が原告清水の前記1の弁解に反し、むしろ告発事実ないし公訴事実を裏付けるものと見られた。

ア 価格の決定

原告会社が国内放送局等と取引をする際、セールス価格の決定につき、ファーストランのうちのフィルム使用に関する部分のみに関しては外国会社から指値が指定されていたが、ファーストランのうちのその余の部分及びファーストラン以外の取引については原告清水が独自に取引価額を指定していた(第三、二1(一)(1)、(2)、2ないし5の各(二))。

イ 契約書の当事者の表示

原告会社は、国内放送局等との間の日本文契約書において、契約当事者を表示し、記名捺印する欄では、独立した当事者として表示され、外国会社の代理人である旨の表示はされていなかつた(同1(二)(6)、同2ないし5の各(二))。

ちなみに、日本の代理店に対し、国内放送局等との間の契約書に記名捺印をさせなかつた外国会社として、服部を代理店とするITC(前記第三、六1(一)(2))、日本国際エンタープライズを代理店とするスクリーン・ジェムズ(同(二)(2)。ただし、ファーストランのうちのフィルム使用料についてのみ)、内外商事を代理店とするMGM(同(三)(2))があり、NBCのファラガーから原告会社あて昭和三二年一二月二四日付け英文書簡にも同様趣旨と解される記載があつた(前記第三、五1(五)。ただし、右書簡が押収されていたとの証拠がないことは右(一)で述べたとおりである。)。また、右のような契約書に代理人としての表示をすべきことを求めた外国会社として、原告会社を代理店とするフリーマントル(同五3(二))、関谷産業を代理店とするCBSがあつた(同六1(三)(2))。

ウ 外国会社に対する報告等

ファーストランのうちフィルム使用以外の取引及びファーストラン以外の取引の大部分について、原告会社から外国会社に報告されず、したがつて、それが英文契約書に記載されないか、その取引について英文契約書が作成されなかつた(前記第三、二1(三)(2)、2ないし4の各(三)、5(四))。

ところで、原告会社を代理店とする外国会社が原告会社に対して、セールス状況を文書等により報告することを求めていたことは前述のとおりであり(前記第三、二1(三))、外国会社との間で文書による報告は不要との合意があつたとの原告らの主張については(被告の主張に対する認否第一、四1(二))、原告清水の供述以外にこれを裏付ける証拠が存在しないが、右供述は、原告会社がフリーマントルに自社フィルムの配給権を与えた契約において、文書による報告を義務付けていること(前記第三、五3(二))に照らし容易に措信できないから、右主張事実を肯認し難い。また、原告会社が報告しなかつたことについて、外国会社から非難されたことはないとの原告らの主張(被告らの主張に対する認否第一、四1(二))については、前述のファラガーからの昭和三六年五月一八日付け英文書簡によりフジテレビでの「デインジャラス・アサインメント」のリピートについて報告がなかつたとの指摘があつたこと(前記第三、二2(三))、また、前述のファラガー請求において、「正確に報告されず又は全く報告されなかつた」として、別紙一八「ファラガー請求に係る取引整理表」記載の各番組の指摘があつたこと(同五1(四)(1)ア)を除いては、弁論の全趣旨に徴すると、右のような非難はなかつたものと認められるが、このことは、外国会社が日本国内の事情や原告会社のセールスの状況について情報を有していなかつたことによるものとも考えられ、これをもつて、外国会社が報告を不要としていたことの証左とはなし難い。

要するに、原告会社は、外国会社から報告を求められ、しかも、その報告を不要とされていたわけではなかつたが、それにもかかわらず、ファーストランのうちフィルム使用以外の取引及びファーストラン以外の取引の大部分について報告をしなかつたのは、①原告会社の報告義務違反によるものと解する余地のほか、②外国会社の報告の要求がファーストランのフィルム使用の取引を中心とするもので、右に述べた取引については単に形式上のものに過ぎなかつた、すなわち原告会社の自由に委ね報告を義務としていなかつたことによるものと解する余地も充分にあつたものということができる。

エ 対価の支払い等

日本文契約書において、円貨及び沖縄の放送局における日本語版テープ使用料としてのドル貨の支払先は原告会社又はその指定する口座と定められ(前記第三、二1(二)(4)、2ないし5の各(二))、それが外国会社への支払いであれば定められてしかるべき非居住者の国内源泉所得に係る源泉徴収所得税の負担(放送局等とするか、原告会社とするか)に関する定めは存在しなかつた(同。なお、沖縄の放送局の支払に係る日本語版使用料としてのドル貨、扱手数料としての円貨について、沖縄の放送局が我が国の所得税法上、源泉徴収義務を負うことはなかつたと解される。)。

オ 込み契約の存在

原告会社のローカルセールス、広告代理店及び沖縄の放送局に対する各セールスにおいて、外国会社二社以上又は外国会社と原告会社のフィルムの放映権を込みで承認し、その対価をフィルム別の単価を決めずに、一括してパッケージ使用料又はフィルム使用料を定めていたものが見られた(前記第三、二3及び4の各(四)、5(五))。

(2) 原告会社の経理処理の状況

放送料金についての原告会社の経理処理の状況は、前述(第三、三)のとおりであるが、そのうちでも、次のアないしカの各事実は原告清水の前記1の弁解に反し、告発事実ないし公訴事実を裏付けるものと見られた。

ア 円貨の売上計上

原告会社では、円貨で支払われた放送料金について、相手方勘定科目を「フィルム売上金」又は「未上映前受金」とする振替伝票を作成し、収受した手形等を添えて原告清水の決裁を受けており、そのうち簿外処理(前記第三、三3)をしたものを除き(その分の振替伝票は別途保管された。)公表帳簿において、自己の「フィルム売上金」又は「未上映前受金」として計上し、「未上映前受金」に計上したもののうち、その後放送済みとなつた分については半期毎に「フィルム売上金」に振替計上していた(同三2(一))。

なお、原告らは、原告会社の職員が原告清水の意に反して右のとおり計上した旨主張するが(被告の主張に対する認否第一、四1(三))、原告清水が原告会社の経理に深く関与し(第三、三1(二))、右に述べた振替伝票に自ら決裁していたことに鑑みると、右主張事実は到底これを肯認するわけにはいかない。

イ 報告円等の預り金計上

原告会社においては、原告会社から外国会社に支払うべきものとして報告したドル相当円及び上乗せドルについて、外国会社別、フィルム別に整理された非公表の仕入先送金元帳でこれを管理し、決算時には、その未決済額(上乗せドルは円換算したもの)を公表帳簿のフィルム売上勘定から減算して預り金勘定に振り替えたうえ、公表の貸借対照表の負債の部に、右預り金勘定の合計額を外国会社からの「預り金」と表示してこれを計上していた(同三2(三))。

ウ ドル貨の経理処理状況

原告会社はドル貨で支払われた放送料金については、いずれもこれを公表帳簿には計上せず、そのうち、外国会社にセールスを報告した分に限つて、これを非公表の仕入先送金元帳で管理していた(同三2(二)、(三)、四1(一)ないし(三)の各(1))。

エ 受取手数料の計算方法

原告会社は外国会社からの受取手数料を公表帳簿に記載せず、仕入先送金元帳及び外国会社への報告文書に記載していたが、その計算は、外国会社に報告された円及びドルのみに一定の手数料率を乗じて算出し、無報告円はその基礎とされていなかつた(同三4)。

オ 経理処理の一貫性

原告会社は、以上のとおり、その公表及び非公表の経理処理において、外国会社が収受すべき放送料金及びこれに関する外国会社に対する債務と自己が収受すべき放送料金とを整然と区分し、後者を自らの収入として取り扱つていたが、このような経理処理は、昭和三三年以降一貫して行われ、昭和三六年八月期においても、架空製作費の計上はされたものの、無報告円を自らの収入と取り扱う経理処理はそのままで、これを外国会社のための預り金に振り替えるといつた経理処理はされなかつた(同三2(一)、5)。

カ 原告清水の供述

なお、原告清水は、外為事件で勾留されている間に、佐藤検事に対し、ファーストラン以外のセールスによる代金については全部原告会社のものにして、外国会社には支払わないつもりでいた旨供述していた(前記第二、三(四)(1))。

また、原告清水の前記1の弁解によれば、原告会社のファーストランセールスに係る放送料金は、外国会社に支払うべきものを除くと、日本語版テープの使用料として原告会社の収入となるが、同額の費用を要するので、収入には挙げないというのであるが、査察官が原告会社の昭和三六年八月期の売上金として認定した金額のうち、約五九・八パーセントを占める一億一八七〇万五三九二円が国内放送局とのファーストラン取引に係るものであり(前記第三、二1(一)(5))、この額すべてが、日本語版テープの製作費等の費用に相当するものとは考え難いこと、原告会社においては、フィルム等の国内セールス価格を決定するに当たり、日本語版テープの製作費とは別に原告会社のセールス益を計算していたこと(同(2))、右の製作費は、同社の公表帳簿において、種々の経費として計上され、公表決算において収入から控除していたこと(同(五))などに照らすと、ファーストランによる収益と費用とが同額であるから除外した趣旨の原告清水の前記弁解には、それ自体に疑問があつた(もつとも、原告らが、右金額のうち九三〇六万〇六七二円については、原告会社に帰属することを認めていることは第三、二1(一)(5)において述べたとおりである。)。

(3) 放送料金の管理処分の状況

放送料金についての原告会社の管理処分の状況は、前述(第三、四)したとおりであるが、そのうちでも、次のア及びイの各事実は原告清水の前記1の弁解に反し、告発ないし公訴事実を裏付けるものと見られた。

ア 報告分の管理処分の状況

原告会社は、外国会社にセールスの報告をしたドル貨(上乗せドルを含む。)及びドル相当円については、仕入先送金元帳の内容をドル勘定書及び円勘定書として送付するなどの方法により、相互に債権・債務を確認し(同1(一)ないし(三)の各(1)、(2))、放送局が外国会社に送金するドル(同二1(四)(1))以外に、その決済が外為法に違反することが明らかであつた上乗せドルについて、これを無報告の沖縄ドル、レオ・プレスコット口座の小切手及びヤミドルの各送金などの方法により決済し(同四1(一)ないし(三)の各(3))、また、その決済が外為法に違反することが明らかであつたドル相当円について、これを円勘定(NBCの場合には、TGKK勘定)に貸記したうえ、その円貨債務を原告会社が収受すべき手数料や外国会社役員等の滞日費用の立替金などとの各相殺等(NBCの場合におけるTGKK預金口座への入金等)の方法によつて決済していた(同(一)及び(二)の各(4))。

なお、原告会社からTGKK預金口座への入金は、ドル相当円の発生に対応せず、原告清水の裁量により行われていた(同五1(三)(2))。

イ 無報告円の管理処分の状況

原告会社には、フィルム取引に係る無報告円の収支及び残高を管理するための帳簿は存在していなかつた(同四2(一)(1))。

原告会社は、無報告円を公表預金に入金をし、又は簿外預金に入金した後にその一部を随時公表預金に振替入金し、これらを払戻しをして原告会社の諸経費にあて(同(一)及び(二))、また、簿外預金に入金し、これを適宜払戻しをして公表資金と併せて簿外の宝石類を購入したり、原告清水の自宅兼用の外人向き大邸宅建設のための簿外の土地を購入しようとしていた(同(二))。

原告会社が外国会社に報告しなかつた沖縄のドル貨は、他のフィルムの取引による上乗せドルの決済に充てたり、レオ・プレスコット口座に入金するなど、原告会社において自由に管理処分していた(同3)。

宝石類の購入がNTAとの話合いに基づいたものである旨の原告清水の強制調査及び強制捜査当時の供述並びに本件訴訟における供述がいずれも措信できないものであること(同2(二)(2))、右土地の取得がNBCの助言又は要請に基づいたものである旨の強制捜査当時及び本件訴訟における原告清水の供述がいずれも措信できないものであること(同(3))は、いずれも前述したとおりである。

(4) 原告会社の事業内容

原告らの主張全般を通覧すると、原告らは、原告会社が外国会社の代理店以外の業務は全く行つていなかつたと主張しているようにもみえるので、念のためこの点につき判断するに、原告会社が自己の負担において、外国テレビフィルムの取引に関連して日本語版テープを製作し(前記第三、二1(五))、送金手続及び通関手続の代行(同(四))を行つていたほか、外国フィルムの取引とは無関係に、日本語版テープ(同6(一))やテレビフィルム(同5(五))を製作し、外国会社に自社フィルムの配給権を与え(同五3(二))、国内の出版者らと版権取引を行い(同二6(二))、タレントを斡旋する(同(三))などの事業を営んでいたことは、いずれも先に認定したとおりであり、原告会社が外国会社を代理する業務のみを行つていたものでないことは明らかである。

(5) 外国会社側の事情

外国会社側の事情にも、告発事実及び公訴事実を裏付けるものがあつた。

すなわち、原告会社の昭和三六年八月期当時、既にアメリカにおいて放映されたフィルムが多数蓄積され、外国会社においては、我が国に放映権をセールスするのに低額のプリント費用を要するのみであつた(前記第三、一1)。

他方、外為法による外貨割当制度のため、割当外貨以外の金員を収受することは禁止されており(同2)、外国会社においてもその点を十分に認識していたので、そのフィルムの日本におけるセールス価格(指値)を外貨割当基準単価の限度額を踏まえて決定するなど、右限度額のもとで最大のドル貨を得ることを目的として、我が国におけるフィルムセールスを展開していた(同二1(一)(1))。

そして、NBCのファラガーは、検察官に対し、NBCが原告清水から円を受け取れば、NBCが他のプロダクションに何十パーセントかを支払い、税金も支払わなければならないことになるので、円貨は受け取れない旨(前記第二、三(四)(2)イ)、NBCの会計顧問のハットも、検察官に対し、NBCには二度目以降の放映について原告会社に請求する権利はない旨(同)、それぞれ述べていた。

NBCは、同社に支払われるべき円貨を管理するためにTGKKを設立したのであつたが(前記第三、五1(三))、TGKKが、その設立時に既に発生していたドル相当円の管理を考慮して昭和三三年四月に設立されたものであり、その際、リピート・リランやローカルセールス等の取り扱いについて協議されなかつたこと(同(1))、放送料金の総額を円貨で定めたリピート・リランやローカルセールスが激増したのが昭和三六年ころであること(同二2及び3の各(一))、公認会計士宇佐美元が、本件告発後で本件公訴の提起前において、検察官に対し、原告清水がNBCのフィルムを売つて得た金をTGKKにいくら払い込むかということは全くの紳士協定であり、原告清水が金を払い込んでくるのを黙つて待つているほかは仕方がなかつた旨述べたこと(前記第二、七1(三)(2))等の事実は、右ファラガー及びハットの供述内容を裏付けるものであつた。

(三) 税法上の「所得」概念について

法人税法上の法人税は、法人の所得に対し課される租税であり、この「所得」とは本来は担税力の増加という経済的な概念である(この点は、原告らに対する法人税法違反被告事件の第一審判決も、「所得は経済的概念であつて、一般にある利得が所得を構成する収入となるかどうかは、その利得が法律上利得者に帰属しているかどうかという法律的観点からではなく、むしろ利得者がその経済的効果を事実上享受しているかどうかという経済的観点から認められるべきものである。」と判示している。(前記第二、八2(四))。

そして、「所得」は、一般的に権利の取得又は移転に伴つて生ずることが多く、したがつて、通常は権利の取得又は移転が所得の発生を認識するための徴憑としての機能を有するということができるが、常にそれが絶対的なものではなく、法律上権利の取得又は移転があるとは認め難い場合であつても、納税者が現に経済的利益を享受していると認めるに足る事実があれば、原則として所得は発生するものということができる。

ところで、右刑事第一審判決は、原告会社が、「未報告円についてこれを被告会社の収入と考え、かつそのように取り扱つていたことが明らかであるから、本件事業年度において少なくとも経済的、事実的にはこれを利得していたものと認めるのが相当である。」と認定したのであつて、税法上の所得概念を右のように経済的に把握するのであれば、本件に現われた事実関係(その要約が前記(一)、(二))のもとでは、告発をした査察官及び公訴の提起をした検察官の判断したとおり、本件無報告円を原告会社が収受したことが、法人税法上原告会社の「所得」を構成する収益となるものと解することは合理的かつ相当な判断であり、しかも、法人税法上の「所得」を右のように経済的に把握すべきものとする見解は、法人税法の解釈として相当な根拠があるものということができる。

もつとも、右刑事第一審判決は、更に、所得を構成するためには、「その利得の享受が社会一般人ないし法律上の権利者から通常是認されうるものであることが必要であると解すべきである。……強・窃盗、横領などによる利得の場合には、これらは社会的にも当然返還されるべきものと認識されるであろうし、法律上の権利者である被害者も、その利得の原因が明らかとなれば当然返還を要求するであろうから、これらは所得を構成する収入とはいえ」ない、との見解を加え、本件無報告円は、右に例示した犯罪等による利得と同種のもので、これにつき法律上の権利者である外国会社が返還請求をするはずであるから、原告会社の所得を構成する収益とはなりえないとしたのである(同)。もとより、利益の享受を課税の対象とするのであるから、その利得が極めて不安定であつて、社会通念上利得者の支配下にあるとはいい難い場合には、これを所得から除外して考えるのが相当である。このような観点からすれば、強・窃盗、横領等といつた犯罪等による利得については、そのうち犯罪によるものでそれが犯罪であることが明白なもの(その犯罪について、刑事有罪判決がある場合のほか、被害者が告訴し、官憲による捜査が開始され、嫌疑が濃厚と認められる場合などが含まれよう。)は、これを所得から除外するのが相当であるが、そうでないものは、右判決のように所得であることを否定する見解がないとはいえないものの、これを所得に含まれるとする見解も合理的かつ相当な根拠を有するものとして成立し得るものと解されるのである。

本件に現われた事実関係のもとでは、本件の無報告円の収受は、そもそも原告会社に法律上帰属する債権の回収と見る方が合理的であると考える余地が十分にあり(殊に、ファーストランに係る無報告円の大部分を占める九三〇六万〇六七二円が原告会社に帰属することは、前記第三、二1(一)(5)のとおり原告らにおいて自認していると解されるところであるし、また、英文契約書において原告会社が被許諾者又は賃借人とされている前記第三、五2(三)、3(二)の契約や原告会社が期間を定めて配給する権利を取得した前記第三、五4(二)、5の取引に係る外国フィルムにつき、原告会社が国内放送局等から収受した分のうち無報告円に相当するものが原告会社に法律上帰属すると見ることは合理的な判断と考えられるし、更に、原告会社の製作したフィルムに係る別紙二四の取引番号一〇四、一二四に係る取引による収入が原告会社に法律上帰属すると見ることは合理的な判断であると考えられる。)、仮にそのように見ることができないとしても、右無報告円の収受につき、横領等といつた犯罪によるものでそれが犯罪であることが明白なものといえないことは明らかであるから、これを原告会社の所得を構成する収益であるとした査察官及び検察官の判断は、合理的かつ相当の根拠があると認められる右の後者の見解に立つ限り、合理的かつ相当な判断であつたということができる。

3  原告らの主張について

(一) ホロウイッツ・レターを隠匿したとの主張について

原告らは、査察官がホロウィッツ・レターを原告らの法人税法違反被告事件の第二審の最終段階に至るまで正当な理由がなく隠匿していた旨主張する(請求原因第三、三3)。

しかし、ホロウイッツ・レターの写が右事件の第一審の公判期日における住田に対する証人尋問の際に裁判所に提出され、その際、同レターの内容についての尋問が行われたこと等は前述したとおりであつて(前記第二、八2(二))、これによれば、査察官が同レターを第二審まで隠匿していたとの原告らの右主張は前提を欠くというべきである。

(二) 通達の不適用が違法であるとの主張について

原告らは、服部が東京国税局に対して問合わせを行つた結果出された外国フィルムの国内売上円に関する通達を原告会社に適用せず、帳簿等の押収処分を撤回しなかつたのは違法である旨主張する(請求原因第三、四)。

しかし、右通達(二通)が服部のみに適用される個別通達であり(前記第三、六1(一)(1))、しかも、原告会社と服部との間では、代理店業務の実態において大いに異なるものがあつたこと(同2)はいずれも前述したとおりであるから、原告会社につき、右通達を適用せず、又は服部と同じ取扱いをしなかつたことは違法とはいえず、原告らの右主張は理由がない。

(三) 外為事件判決を無視した告発であるとの主張について

原告らは、原告会社の業務を外国会社の代理店として放映権の有償提供の斡旋等を営んでいたとする外為事件判決の判断を本件告発が無視したことは違法である旨主張する(請求原因第三、五2)。

しかし、外為事件判決の中の原告会社の業務についての判断が当然に査察官の判断を拘束するものでないことは当然であるから、同判決後に、たとえその内容を知りながら告発をしたとしても、そのことだけで、右告発が違法となるものではない。

(四) 外為事件の訴因変更に反する等の公訴の提起との主張について

原告らは、検察官が外為事件において原告会社が外国会社の代理店であるとすべき旨の訴因変更命令に応じていながら、本件公訴の提起において原告会社が外国フィルムを輸入販売するものであるなどといつた誤つた認定をなお維持し、また、公訴時効完成の直前になつて公訴の提起したことは違法である旨主張する(請求原因第三、七1)。

しかし、前段の主張については、外為事件と法人税法違反被告事件とは、審理の対象及び法的視点が異なる別個の事件であるから、前者の事件において検察官が訴因変更命令に応じて訴因を変更したからといつて、そのことにより後に公訴の提起をした後者の事件において、当然に、右の訴因変更と反する事実を主張し得なくなるとか、そのような主張をすれば違法になるとかいつたことは考えられない。

後段の主張については、検察官が公訴時効期間内の何時の時点において、公訴の提起をするかは、検察官の合理的裁量に委ねられているところであるが、本件の公訴の提起が右の裁量を逸脱していることを認めるに足る証拠はないから、公訴の提起の時期の点でこれを違法とすることはできない。

4  本件の告発及び公訴の提起の違法性の有無

以上の1ないし3に述べたところに照らせば、本件公訴の提起の当時、検察官が、本件無報告円が原告会社の所得を構成すると判断したことには、相当な資料に基づく合理的な根拠があるということができるものであつて、原告らが法人税法違反の罪を犯したことにつき有罪と認められる嫌疑があり、これを担保するに足りる証拠資料があつたものということができる。また、本件公訴提起の約七か月前にされた査察官の告発について、具体的な根拠に基づき犯則(犯罪)が行われたと認められる程度の嫌疑があり、これを担保するに足りる証拠資料があつたことも明らかである。

したがつて、本件告発及び公訴の提起が国家賠償法上違法であつたということはできない。

五刑事第一審における公訴の追行について

1  はじめに

公訴の追行についての国家賠償法上の違法性の判断の基準が公訴の提起のそれと同様であり、公訴の提起が違法と認められない場合においては、その後の公訴の追行時に、右の程度の犯罪の嫌疑が存在するとは到底認め難くなつたときは格別、そうでない限り、公訴の追行は違法ということができず、また証拠の証明力を争うなどの訴訟追行行為は、合理的な範囲であれば、違法とすることができないことは先に述べたところである(前記一2(五))。

2  刑事第一審の公訴の追行時における嫌疑の有無

本件公訴の提起が違法と認められないことは先にみたとおりである(前記四4)。

刑事第一審公判の経過は、前述(第二、八2)したとおりであるが、右の経過の概要からも、本件全証拠(ただし、クラインの証言については、次に述べる。)からも、刑事第一審公判において新たな証拠が出てきた等のために、公訴の提起の際の犯罪の嫌疑(各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑)が低減したものとは認め難いところである。

なお、クラインの証言(前記第二、八2(二))について述べると、同証言のうち原告会社がNBCインターナショナルの代理店であつたこと(同②)、ダビング・テープがフィルムの製作者に帰属すること(同③)は、いずれも、この事実だけから当然に本件の無報告円が原告会社の所得を構成しないことになるものではない。また、リピート・リランに関する円貨収入が原告会社に帰属し、外貨制限が解除されてから送金してもらう建前である旨の証言(同④)については、その趣旨が必ずしも明らかでないうえ、同人は本件強制調査及び強制捜査後にNBCインターナショナルに関係した者であつて(同①参照)、それ以前のことについては直接経験した事実でないなど右証言の証明力を争う余地があつたものである。その後、ファラガーを解雇したとの証言(同⑥)は、ファラガーの昭和三七年七月三日の検察官に対する供述(前記第二、三5(四)(2)イ。なお、右供述を録取した供述調書が刑事第一審公判において取り調べられたことは、弁論の全趣旨によりこれを認める。)の証明力を争うものと推認されるが、右証言だけで右ファラガー供述の証明力が当然に消滅するわけではない。そうすると、クラインの右証言により、犯罪の嫌疑が低減したとはいえないのである。

3  原告らの主張について

(一) 検察官が訴訟を遅延させたとの主張について

原告らは、刑事第一審において、検察官が無用の証人多数を申請し、証人らに誤つた証言を誘導することを企てたことが違法である旨主張する(請求原因第三、七2)。

しかし、検察官が刑事第一審において取調べを申請した大半の質問顛末書及び検察官調書の各全項について弁護人が証拠とすることに不同意との意見を述べたので、検察官がこれに代えて証人一〇一名の取調べを申請し、弁護人がその全部について「然るべく」との意見を述べた経過を踏え、裁判所の判断によつて、右証人全員の採用決定があつたことは前述(第二、八2(一))したとおりであつて、検察官の右証人申請を目して国家賠償法上違法な訴訟引延し策であつたということはできない。

検察官が証人らに誤つた証言を誘導することを企てたとの原告らの主張(請求原因第三、七2)事実については、これを認定し難いことは前述(第二、八2(二))したとおりである。

(二) ホロウイッツ・レター等を隠匿したとの主張について

原告らは、刑事第一審において、検察官がホロウイッツ・レター等を隠匿した旨主張する(請求原因第三、七2)。

しかし、刑事第一審における住田に対する証人尋問の際に、ホロウイッツ・レター及びその同封書類の各写が裁判所に提出されたことは前述(第二、八2(二))したとおりであり、これによれば、検察官がこれをことさらに隠匿したとは認め難いところである。

その他、検察官が重要な証拠等を隠匿したことが認定し難いことは前述(同)したとおりである。

4  刑事第一審における公訴の追行の違法性の有無

以上に述べたところによれば、刑事第一審における検察官の公訴の追行には、国家賠償法上違法があつたものとは認められない。

六控訴の提起について

1  はじめに

控訴の提起についての国家賠償法上の違法性の判断の基準が公訴の提起のそれと同様であり、後に、右の程度の犯罪の嫌疑が存在するとは到底認め難くなつた場合は格別、そうでない限り、第一審判決の証拠の評価及び法令解釈について上級審裁判所の判断を求めるため控訴の提起をすることは、同法上違法とすることができないことは先に述べたところである(前記一2(六))。

2  本件控訴の提起の違法性の有無

刑事第一審判決の内容は前述(第二、八2(四))したとおりであるが、要するに、原告会社がすべて外国会社の代理人としてフィルムセールスを行つていたとの事実認定及び所得を構成するためには、利益の享受が社会一般人ないし法律上の権利者から通常是認されうるようなものであることが必要であるとの法律解釈の二点を前提に原告らを無罪としたものである。

これに対し、検察官の控訴の提起の経緯及び控訴理由の概要は前述(同八3(一)及び(二))したとおりであつて、要するに、原判決には事実誤認及び法令の解釈、適用の誤りがあるというものであつた。

ところで、原告会社が外国会社の代理人としてフィルムセールスをしていたとの原判決の理由とされた諸点については、証拠の評価を異にすべきものがあつて、反対に、告発事実及びこれと同趣旨の公訴事実を裏付ける証拠があつたことはいずれも前述(第四、四2(一)及び(二))したとおりであり、また、原判決の法令の解釈と異なる検察官の解釈にも相当の根拠があることも前述(同(三))したとおりである。

そうすると、無罪とする刑事第一審判決の内容にもかかわらず、原告らについて検察官が公訴の提起の際に有していたと同程度の嫌疑が同判決により低減し、右嫌疑が存在するとは到底認め難くなつたものとはいえず、検察官が上級審裁判所に証拠の評価及び法令の解釈につき判断を求めるためにした本件控訴は、国家賠償法上違法であつたとは認められない。

七刑事第二審における公訴の追行について

1  はじめに

検察官の刑事第二審における公訴の追行についての国家賠償法上の違法性の判断の基準が、公訴の提起のそれと同様であり、後に、右の程度の犯罪の嫌疑が存在するとは到底認め難くなつた場合は格別、そうでない限り、右の公訴の追行は、違法ということができないことは先に述べたとおりである(前記一2(六))。

2  刑事第二審の公訴の追行時における嫌疑の有無

本件控訴の提起が違法と認められないことは先にみたとおりである(前記六2)。

しかして、刑事第二審公判の経過及び検察官の弁論要旨は、前述(第二、八3(三)及び(四))したとおりであるが、右の経過の概要からも本件全証拠からも、本件控訴の提起の際の犯罪の嫌疑がその後の公訴の追行時に低減したものとは認め難いところである。

3  原告らの主張について

(一) 証拠提出を懈怠したとの主張について

原告らは、検察官が刑事第二審において、提出命令があるまで、なんら新たな証拠を提出しなかつたことが違法である旨主張する(請求原因第三、九2(二))。

しかし、刑事第二審において、検察官が証人数名及び各種外国文書の翻訳文の取調べを請求したことは前述(第二、八3(三))のとおりであり、また、右各翻訳文の提出に関して裁判所からの示唆ないし釈明があつた可能性は否定できないが、裁判所から検察官に対し証拠の提出命令があつたことについてこれを認定することができないことは前述(同)したとおりであるから原告らの主張はその前提を欠くものである。

のみならず、刑事訴訟においても原則として当事者主義がとられているのであるから、証拠の取調べを請求する時期は当事者に委ねられているのであつて、その提出時期が著しく不相当と認められる特段の事実がない限り、その提出ないしそれまでの不提出を違法とすることはできないと解されるところ、本件全証拠によるも右の特段の事情の存在を認定することはできない。

したがつて、原告の右主張は採用することができない。

(二) 支離滅裂な主張をしたとの主張について

(1) 原告らは、第一審における検察官の冒頭陳述が、NTA勘定の決済につき、「差額はNTAの重役が来日した際に直接円を渡して決済した」と主張したのに対し、控訴趣意書においては、第一審判決が、「NTA、フリーマントル等においてはその社員が来日した際被告会社から右円を受取る等していたことが認められる」と判示したことについて、「右認定は(中略)事実誤認もはなはだしい。」との主張であつた旨主張する(請求原因第三、九2(三)(1))。

しかし、右の点に関する検察官の控訴趣意の内容は前述(第二、八3(二)(1))したとおりであつて、検察官が事実誤認であるとしたのは、文脈上、原判決中の「外国会社においては、被告会社が取得した円について、(中略)すべて外国会社に帰属するものと考えていたものといわざるを得ない」と認定した点であることが明らかであるから、原告らの右主張は、その前提を欠くものであつて、失当である。

(2) 原告らは、第一審における検察官の冒頭陳述は、原告会社とNTAとの関係につき、「文書による代理店契約は締結していない。」と主張したが、第二審における検察官の弁論要旨においては、原告会社がNTAの代理人として契約を締結する権限が与えられていたことの証拠として、NTA副社長クレイマー作成の、原告会社は日本国内における独占的な代理人であることを証明する旨記載した書面を引用した旨主張する(請求原因第三、九2(三)(2))。

しかし、右クレイマー作成に係る書面が単なる証明文書に過ぎず、代理店契約書でないことは原告らの主張自体から明らかであつて、検察官の第一審における主張中の「文書」とは、契約書等処分文書を指すものと解されるから、右主張は失当である。

(3) 原告らは、第一審における検察官の論告が、テレビ映画フィルムの外貨割当が定額制であつた理由として天野可人の証言を引用し、同フィルムの輸入が買切制であつたと主張したが、第二審における弁論要旨では、同証言を引用しながら、「ファーストランの場合だけでなく、再放送の場合であつても、外為法上の役務に関する契約に該当する」との主張であつた旨主張する(請求原因第三、九2(三)(3))。

しかし、検察官の第一審における右の論告が、外国テレビ映画フィルムの放映権に関する取引についての外貨割当が定額制をとつた理由として、歩合制と対比する意味において、買切制であつたと主張するものであつたことは弁論の全趣旨から明らかであり、これと再放送の場合であつても、外為法上の役務に関する契約に該当する旨主張することとは何ら矛盾するところはないと解されるから、原告らの右主張は失当である。

(4) 原告らは、第一審における検察官の冒頭陳述は、「NHKを除く民放キー局は、被告会社を取引の相手方と考える傾向が強かつたので、日本文契約書の外に、更に英文契約書にサインすることに煩わしさを感じ、或いは取引の単純性を希望して、英文契約書にサインせず」と主張したが、第二審における弁論要旨においては、「ファーストランの場合には、外国会社とテレビ局との間にオリジナルフィルムについての役務に関する契約が英文契約書の形で締結され、該契約については大蔵大臣の許可も得られており、従つて、オリジナルセールスに関する限りにおいては、あらためて、その点のセールスを被告会社とテレビ局との間で締結する必要は認められない」との主張であつた旨主張する(請求原因第三、九2(三)(4))。

しかし、刑事第一審における右冒頭陳述が、日本文契約書が重視されていたことの証左として英文契約書を作成しないことすらあつたとの事実(第三、二1(三)(1)参照)を述べたものであることは明らかであり、これに対し、刑事第二審における右弁論要旨が原告らの引用する部分に引き続いて、「実際は、ファーストランの場合の日本文契約書は、(中略)右オリジナルフィルムのセールスをも含めて契約されているのが実情である」旨主張したものであることは前述(第二、八3(四)(1))したとおりであつて、やはり日本文契約書が重視されていたことを述べており、全体としてみれば、二つの主張はその趣旨が同じであるということができるのみならず、当事者の主張のごく一部分について差異があつたからといつて、主張全体が支離滅裂で違法となるとは到底解し難いから、原告らの右主張は失当である。

4  刑事第二審における公訴の追行の違法性の有無

以上に述べたところによれば、刑事第二審における検察官の公訴の追行には、国家賠償法上違法があつたものとは認められない。

第五本件各課税処分等の違法性の有無

一裁決と国家賠償請求訴訟

1  取消し裁決と国家賠償法との関係

課税処分(源泉徴収所得税の納税告知及び滞納処分を含む。以下同じ。)を取り消す旨の裁決があつたからといつて、直ちに当該課税処分及びこれに基づいて行われた滞納処分が国家賠償法上違法であつたということになるものではない。なぜなら、裁決の判断が裁判所を拘束しないものであることは明らかであるのみならず、取消し裁決は課税処分が税法の定める実体的又は手続的要件(以下「処分要件」という。)を欠きその効力を発生させるべきでないとするに過ぎず、課税処分を行つた公務員が職務を行うについて違法な行為をしたか否かについては判断しているわけではないからである。

そして、課税処分の国家賠償法上の違法性は、課税処分を行う公務員が職務上の法的義務に違反したかどうかという観点から考察すべきものである。

2  違法性判断の基準

課税処分は、公権力により税負担を課す等国民の財産権に関わるものであるから、課税処分を行う税務職員は、その職務上、その時点において、課税処分につきその処分要件を充足することが確実と認められる程度の心証を有することを要するものと解するのが相当である。したがつて、課税処分の違法性の判断は、これを行う税務職員がその行為時に右の程度の心証につき合理的な根拠、すなわちこれを担保するに足りる資料を有していたか否かにより決すべきものと解するのが相当である。

しかして、本件訴訟における争点が、前記第四、四1に述べたとおりのものであることからすれば、本件課税処分の違法性の判断は、税務職員が本件課税処分時において、無報告円が原告会社に帰属する収益(益金)であるとした判断について、右に述べた課税処分に当たり職務上必要とされる心証の程度に応じた相当の資料に基づく合理的な根拠があるか否かにより決せられるものというべきである。

3  裁決の拘束力に関する原告らの主張について

原告らは、原告会社に対する課税処分等を違法とする裁決が関係行政庁である被告を拘束するものであるから、本訴において、被告が各課税処分等の適法性を主張することは許されない旨主張する(請求原因第三、九5)。

裁決の拘束力は、関係行政庁に対し、当該処分と同一の事情のもとで、同一の内容の処分を反復することを禁ずる趣旨のものであり、当然に国家賠償請求訴訟において、当該行政庁が所属する国等の行政主体が行う行動を制限するものとは解されない。したがつて、原告らの右主張は失当である。

二法人税に関する各課税処分について

1  昭和三六年八月期の再更正等の違法性の有無

原告会社の昭和三六年八月期についての再更正等が行われた経緯等については前述(第二、九1(三))したとおりであつて、右再更正等は、査察官らによる本件強制調査等の結果(第二、二4。なお、第四、四参照)を基礎としているものであるが、これによると、右再更正等は、無報告円が原告に帰属する収益であるとの点について、右一2で述べたような相当な資料に基づく合理的な根拠に基づく判断を前提とするものということができるのであつて、それにつきその処分要件の充足が確実であるとの心証とそれを担保するに足りる資料とに基づいて行われたものということができるから、国家賠償法上違法であつたとは認められない。

なお、再更正に係る原告会社の所得金額が、告発に係る犯則所得金額に対して加算項目があつたことについての理由は前述(第二、九1(三))のとおりであるが、これが違法であることにつき具体的な主張がない。

原告らは、原告らによる本訴の提起を含む一連の抗議にもかかわらずこれを無視して右再更正等の処分をしたことが違法である旨主張する(請求原因第三、六)。原告ら主張の抗議については、おおむねこれを認め得ることは前述(第二、九1(二))のとおりであるが、右再更正等がこれら抗議をことさらに無視してされたことを認めるに足る証拠はないし、また、右再更正等が右抗議に従わなければならないとする根拠は見いだし難いから、原告らの右主張は失当である。

なお、原告らは、源泉徴収所得税の納税告知等の処分(同)並びに原告会社の昭和三七年及び同三八年の各八月期の各課税処分等についても右と同様の抗議無視の主張をしていると解されるが(請求原因第三、八1)、いずれも右に判断したと同様の理由により、失当である。

2  昭和三七年八月期の決定等の違法性の有無

原告会社の昭和三七年八月期についての決定等が行われた経緯等については前述(第二、九1(四))のとおりであるが、それによると、原告らが確定申告もせず、税務調査にも応じなかつたため、東京国税局の調査部所属職員の調査に基づき、京橋税務署長が同期の売上金額に前期の所得率を乗じ、所得金額を推計して右決定等を行つたものであり、右決定等は、その当時において、それにつきその処分要件の充足が確実であるとの心証とそれを担保するに足りる資料とに基づいて行われたものということができるから、国家賠償法上違法であつたとは認められない。

なお、右決定等の根拠となつた売上金額には、外国会社に報告の無いものだけでなく、報告の有るものも含まれている旨の原告らの主張(請求原因第三、八1)についてみると、放送局から外国会社に対し直接送金された放送料金が右売上金額に含まれていないことは前述(第二、九1(四))のとおりである。そして、ドル相当円及び上乗せドルにつき、これらがどれだけありどのように扱われたかを認めるに足りる証拠がない以上(同)、右決定等に当たつた公務員にいかなる違法があつたかを確定し難いのであり、原告らの右主張も、右決定等を違法とするに足りないと解される。

ところで、原告らは、原告会社が同期にファラガーを通じてNBCに支払つた金員及びホロウィッツ・レターによる精算額が損金に計上されていないのは違法である旨主張する(請求原因第三、八1)。

しかし、そもそも推計課税は、所得又は損失金額の実額が把握できない場合に、推計により得た近似値をもつて一応の所得又は損失金額と認定して課税する制度であるから、損金の総額が不明であつた同期の場合に、判明した一部の損金を考慮することは必要とはいえず、それを考慮しなかつたことが国家賠償法上違法となるとは考え難い。

3  昭和三八年八月期の更正等の違法性の有無

原告会社の昭和三八年八月期についての更正等が行われた経緯等については前述(第二、九1(五))したとおりであるが、それによると、原告会社の取引の実態及び経理処理方法は同三六年八月期と特に異なるところはなかつたのであるから、その調査に基づく無報告円を原告会社に帰属するとした判断は、相当な資料に基づく合理的な根拠を有するものであつて、これを前提としてされた右更正等は、その当時において、それにつきその処分要件の充足が確実であるとの心証とそれを担保するに足りる資料とに基づいて行われたものということができるから、国家賠償法上違法であつたとは認められない。

なお、右更正等の根拠となつた売上金額の中には、外国会社に報告の無いものだけでなく、報告の有るものも含まれている旨の原告らの主張(請求原因第三、八1)は、原告会社提出の期限後申告書には、NBC預り金として五三六万六〇〇〇円が計上され、その額は、外国会社に報告が有つたものとして、右更正等においても売上金額から除外されており、ドル相当円及び上乗せドルが右金額を超えることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと、右更正等を違法とするに充分なものではない。

三本件納税告知等の違法性の有無

原告会社に対する源泉徴収所得税の納税告知等が行われた経緯等(第二、九1(六))及びこれらを取り消した裁決の理由(同(七)(3))はいずれも前述したとおりであるところ、原告会社の外国会社に対する直接又はTGKKを介しての金銭の支払いを、実質的には代理人としてでなく、取引当事者としての立場でフィルム使用の対価としてしたものとみる余地があつたことは、原告会社と国内放送局との取引について前述(第四、四2(一))したところと同様であり、また、TGKKがNBCの円貨を受領する機関であつたことは前述(第三、五1(三)(1))したとおりである。したがつて、右納税告知等は、その当時において、それにつきその処分要件の充足が確実であるとの心証とそれを担保するに足りる資料とに基づいて行われたものといえるから、国家賠償法上違法であつたとは認められない。

四本件滞納処分の違法性の有無

原告会社に対して行われた滞納処分が法定の要件を具備していたこと(第二、九2)及び原告会社に対する課税処分等が国家賠償法上違法と認められないこと(二及び三)は、いずれも前述したとおりであり、原告会社の上申書により代替財産として敷金及び保証金の提供があつたこと等により、預金債権及び放映料債権の各差押えが解除された事実もあつたのである(第二、九2(二))。

そうすると、右課税処分等を前提として行われた本件滞納処分は、その当時において、それにつきその処分要件の充足が確実であるとの心証とそれを担保するに足りる資料とに基づいて行われたものということができるから、国家賠償法上、違法であつたとは認められない。

なお、原告会社が危殆に瀕することを知りながら、その陳情を退けて差押えを強行したとの原告らの主張(請求原因第三、八2)は、差押え自体が国家賠償法上違法であることを前提とするものと解されるが、その前提を欠くことは右に述べたとおりであるから、失当である。

第六名誉毀損に係る不法行為の成否

一名誉毀損に係る不法行為の成否についての判断基準

民事上の不法行為たる名誉毀損については、①その行為が公共の利害に関する事実に係り、②もつぱら公益を図る目的に出た場合において、③摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、④仮に、右事実の真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときは、右行為には故意又は過失がなく、いずれにせよ、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四一年六月二三日第一小法廷判決・民集二〇巻五号一一一八頁)。

原告らは、国税局職員らにおいて守秘義務違反があつた旨主張するが(請求原因第三、二3及び同五2)、そもそも、法定の守秘義務違反があつたというだけでは、当然に原告らに対する不法行為になるとはいえないと解されるが、仮に原告らのいう守秘義務がもつぱら原告らの利益のために存在し、かつ、それにもかかわらず原告らに関する名誉毀損となる事実を開示したとしても、右に述べた要件を充足して名誉毀損の成立が阻却される場合には、その守秘義務違反もまた成立を阻却されるものと解するのが相当である。

二週刊文春等の記事について

原告らは、東京国税局の職員らが、守秘義務に違反し、昭和三七年四月二一日及び二二日の新聞紙上及び週刊文春同年五月七日号上に、原告会社が多額の脱税を行つている旨の誤つた事実を発表した旨主張(請求原因第三、二3)するが、右週刊誌及び新聞等の記事について、同局職員が取材に応じた事実を認めるに足りる証拠がないことは前述(第二、三1)したとおりである。

したがつて、右主張はその前提を欠くものである。

三本件公表について

1  公共の利害に関する事実であるか否かについて

昭和三九年二月二四日の本件公表において公表された事項は、前述(第二、五3(四))のとおり、法人税法違反という犯則(犯罪)の嫌疑による検察官への告発に関する事項という、未だ公訴が提起されてはいないものの、人の犯罪行為に関する事実であること、これに加えて原告らがマスコミから注目されていたこと(同五2(一))、原告らの右の罪についての帰趨が社会的関心を集めていたこと(同(二))に照らすと、公表された事項は公共の利害に関する事実であつたと解するのが相当である。

2  もつぱら公益を図る目的によるものであるか否かについて

本件公表に至る経緯(前記第二、五2)、記者会見の状況(同3(一)及び(二))、谷川局長、村井部長の公表の意図(同(三))及び村井部長の応答の内容(同(四))はいずれも前述したとおりであつて、これらによれば、本件公表の目的は、脱税の防止と納税道義の高揚という公益上の目的を図り、併せて、間違つた報道によつて税務行政の円滑な運営に支障を来さないようにすることにあつたもので、その目的がもつぱら公益を図ることにあつたものと認めるのが相当である。

本件公表が原告らの社会的生命を葬る等の目的で行われた旨の原告らの主張事実(請求原因第三、五2)が認められないことは前述(第二、五3(三))したとおりである。

3  公表された事実が真実であるか否かについて

村井部長の新聞記者に対する公表事項は、前述(第二、五3(四))したとおりである。

ところで、強制調査の結果により犯則ありとして検察官に告発する旨の事実を公表する場合において、告発に係る犯則(犯罪)事実は、それがその時点において嫌疑があるとするものであることは明瞭であるから、真実性の証明の対象となる事実は当該犯則(犯罪)事実そのものの存在でなく、その嫌疑の存在であるとする被告の見解も、充分に考慮に値するが、税務当局の幹部が犯則(犯罪)ありと公表する場合には、社会一般から右公表に係る犯則(犯罪)事実が公表どおり真実存在するものと受け取られるのが自然であると解されるから、やはり、右の場合における真実性の証明の対象は、犯則(犯罪)事実そのものと解するのが相当である。

そこで、本件公表における告発に係る法人税法違反の犯則(犯罪)事実の点(同②の事項)について検討するに、右の公表した犯則(犯罪)事実が客観的に真実であつたかどうかはともかく、本件強制調査の経緯(第二、二)とその後の調査及び告発の経緯(同(四))を踏えた前述(第四、四2)の判断に照らすと、少なくとも、公表者側において、右の犯則(犯罪)事実が真実であると信ずるについて相当な理由があつたものと認められる。

本件公表におけるそれ以外の事項について考えるに、まず、昭和三九年二月二六日法人税法違反の嫌疑で原告らを東京地検に告発することが決定しているとの事項(第二、五3(四)①の事項)は、前述(同四4)した告発の経緯から真実と認められる。次に、右事業年度の原告会社の申告額が三二一万円の欠損であるとの事項(同五3(四)③の事項)は、前述(第二、二1)のとおり真実と認められる。また、前記第二、五3(四)④の事項に関しては、調査に長期間かかつた根拠として挙げられた点のうち、原告会社の経理に多くの不正(前記第三、三5)、誤謬(前記第二、四(三))があり、経理課長(これを名乗るものを含む。)がたびたび交替したこと(前記第三、三1(一))、国内銀行に原告会社の仮名、簿外預金があつたこと(前記第三、四2(一))、外国に原告会社の簿外預金があつたこと(同四3(2))といつた点にいずれも前述のとおり真実と認められる。

英文レターの翻訳に大変な手数を要したとの点、国の内外における仮名、簿外預金の調査及びそれらの取引関係の解明に手間取つたとの点は、必ずしも原告らの名誉を毀損するものとはいえないが、いずれの点も前述(第二、四1(一)及び(二))したところから、真実と認められる。

なお、右公表事項以外に東京国税局において公表ないしコメントした事実が認められないことは前述(第二、五3(五))したとおりである。

4  まとめ

右1ないし3の各事実によれば、本件公表については、違法性を欠くか、又は、故意若しくは過失を欠くものとして名誉毀損に係る不法行為が成立しないものであることが明らかである。

第七結論

以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官太田幸夫 裁判官塚本伊平は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官鈴木康之)

別記 書証の成立等に関する判断〈省略〉

(別紙一)謝罪広告

国は貴社並びに貴殿両名に対し、故意または重大な過失により左記不法行為をなした結果、貴社並びに貴殿らの名誉および信用を大いに毀損し、事業継続を不可能ならしめる結果を招きました。

国は、貴社並びに貴殿らに対し茲に深く陳謝の意を表明します。

一 東京国税局長は、テレビフィルム業界の実務を何ら調査・研究せずして実情のわからないまま、貴社が実際は外国テレビフィルム配給会社の単なる代理店であるにも不拘、外国テレビフィルム輸入会社と極めつけ、貴社が国内放送局から代理受領した金員を貴社の所得とみなし所轄京橋税務署長の決定を無視して、貴社が脱税したとの見解の下に、

1 昭和三七年四月一七日貴社本社一一ケ所らを違法に臨検捜索し七一五点に及ぶ営業遂行に不可欠な動産を差し押え、

2 同年四月二〇日に、公務員の守秘義務にも違背して貴社が大々的に脱税していた旨新聞発表し、

3 翌二一日、司法当局をして、貴殿を法人税法違反容疑で逮捕し、さらに二〇日間勾留させ、

二 東京国税局長は、貴殿が不起訴釈放後貴社の営業形態(輸入業者ではなく代理店であること)の確認を再三再四求めたことに対して、以後二年間一切の返答をせず、貴社の決算時の確定申告は勿論、営業行為を事実上なし得ぬ状態を現出し、この間、貴殿らが税務行政に正当な批判をなしたことを嫌悪し自己の面子、威信を回復し、誤つた処分を糊塗するため、

1 昭和三九年二月二六日、貴社と同業他社が全く同様の営業形態であることを理解しつつ、貴社のみを差別扱いして社会的生命を喪失させることとし、貴殿ら両名を法人税法容疑で告発する際、多数の新聞に、貴社が第四事業年度に巨額の法人税等を逋脱し、悪質の脱税者であり、二重三重の帳簿を作成し、あるいは帳簿を破棄し経理担当者を取りかえ、所得金額をヤミドルに交換して外国の銀行へ預金した等虚偽の事項を開示発表し、

2 同年五月三〇日、貴社の第四事業年度の所得に関し、実際は金三四九万一〇一七円の欠損であるにも不拘、金九四〇九万四八六九円の所得があつた旨再更正処分並びに過少申告加算税額金一万〇四〇〇円及び重加算税額金一七六七万八〇〇〇円とする決定処分をし、

3 同年九月一六日、これより先三月二五日貴殿らが国を被告として提起した名誉毀損を原因とする損害賠償請求および第四事業年度における法人税債務不存在確認請求の訴訟進行をはばむため、検察当局をして貴殿らを法人税法違反被告事件として公訴提起させ、

4 右公訴審理において、貴社と取引のあつた国内各テレビ局の職員等をその必要がないにも不拘、司法当局をして証人として取調べさせ、貴社との取引に圧力をかけ、

5 本項2記載の賦課処分に引続いて、貴社の他事業年度等における営業に対して、誤つた見解の下に継続して違法な賦課処分をなすとともに、貴社の財産を金一億円以上に亘つて滞納処分名義で取立て執行し、貴社に破滅的打撃を与え、

三 東京国税局長は、昭和四六年一二月二一日に前記被告事件に無罪の判決が宣告されたにも不拘、あえて、検察当局をして控訴させ、さらに、同四九年三月二九日控訴棄却の判決が宣告され、もはやこれ以上争う余地がないにも不拘、貴社が申立てていた一連の賦課処分に対する審査請求に対して、結局、同五〇年一月一七日に至るまで国税不服審判所長をして裁決をなさない不作為の違法を継続させ

たものである。

掲載すべき新聞紙名

朝日新聞、日本経済新聞、ジャパンタイムズ

(別紙三)本件公訴事実

被告会社は、東京都中央区銀座五丁目三番地ダイヤモンドビルに本店を置き(昭和三八年八月二九日以前は同区八重洲五丁目五番地)テレビジョンの番組の製作と提供等を営業目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人清水昭は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人清水昭は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て売上の脱漏架空製作費の計上等の不正な方法により、昭和三五年九月一日より昭和三六年八月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が九〇〇七万九〇八二円あつたのにかかわらず、昭和三六年一〇月三一日東京都中央区新富町三丁目三番地所在京橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額はなく、納付すべき法人税もない旨虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額三四一三万〇〇二〇円を逋脱したものである。

別紙

二 課税処分等の経緯

四 差押え一覧表

五の一 逸失利益の計算(その一)

五の二 逸失利益の計算(その二)

六 国内放送局等の開局日等一覧表

七 日本文契約書と英文契約書等の記載内容対照表

八 ドル相当円及び上乗せドルに係る取引整理表(本件事業年度分)

九 販売報告額と外貨割当基準単価比較表

一〇 込み契約一覧表(ローカルセールス分)

一一 沖縄の放送局との取引整理表

一二 外国債務の経理処理状況一覧表

一三 簿外処理状況一覧表

一四 決算改ざん状況

一五 国内簿外預金一覧表

一六の一 放送局別入金推移表

一六の二 取引別入金内訳表

一七 レオ・プレスコット当座預金入出金整理表

一八 ファラガー請求に係る取引整理表

一九 NFBとの取引整理表

二〇 国内放送局等との取引の実態のまとめ

二一 経理処理のまとめ

二二 管理処分のまとめ

二三 国内放送局等との取引に係る無報告円及び取引件数整理表(本件事業年度分)

二四 各フィルム別放映料収入内訳表

二五 損金否認額の内訳表

二六 受取手数料推計表

二七 源泉徴収所得税額の内訳表

二八 源泉徴収所得税課税原因一覧表

二九 預金通帳等差押一覧表

三〇 質問調査一覧表

三一 検察官取調べ一覧表Ⅰ

三二 検察官取調べ一覧表Ⅱ

〈以上省略〉

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