大判例

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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)1984号 判決

原告 富士プリンス自動車株式会社

被告 須田堅太郎

主文

被告は、原告に対し金四〇万円及びこれに対する昭和四〇年三月二七日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し金八一〇、二九四円及びこれに対する昭和四〇年三月二七日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求めた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二、原告の請求原因

(一)  原告は、自動車の販売業を営む者で、昭和三八年一〇月末頃訴外杉山正夫をセールスマンとして雇傭したが、そのことについて被告は、同月原告に対し右訴外人が右勤務に関して原告に債務(損害賠償を含む)を負担するに至ったときはその債務について支払の責を負う旨の身元保証をした。

(二)  ところで、右杉山は、原告会社の販売業務に従事中昭和三八年一二月原告のため顧客である訴外森下産業から受領した二〇、一七〇円及び訴外成田与平から受領した二四、九一〇円を横領した外(〈省略〉杉山の支払等で消滅〈省略〉)、次のとおり原告会社の顧客である訴外田口光枝外三名から原告に支払うべき自動車買受代金として受領した合計八一〇、二九四円を原告に引渡すことなく横領し、そのため原告は同額の損害を蒙った。

(三)  よって、原告は、被告に対し前記身元保証契約に基き右損害額八一〇、二九四円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四〇年三月二七日以降支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、被告の答弁

請求原因(一)の事実のうち、原告が自動車の販売業を営むこと、原告が昭和三八年一〇月頃杉山正夫をセールスマンとして雇傭したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告は、昭和三八年一〇月頃右杉山からこのたび原告会社のセールスマンとして入社することになったから連帯保証人になってくれないかと言われ同人からその旨の契約書を示されこれに捺印したことはあるが、右杉山は被告と身元保証契約を締結することについて原告から代理権を与えられていないから、原告と被告間に身元保証契約が成立するいわれない。請求原因(二)の事実は不知。同(三)は争う。

四、仮りに原告と被告との間に原告主張のように身元保証契約が成立していて、しかも右杉山が原告主張のような不法行為としているとしても、被告の責任額は次の事情を斟酌して軽減されるべきである。

(一)  被告は、昭和三八年一〇月頃右杉山が被告に対し、このたび原告会社のセールスマンとして入社することになったから連帯保証人になってくれないかと言ってその趣旨の契約書を示し、自分は現金をとり扱うわけではないから被告は迷惑がかからない旨述べたので、被告は右契約書に捺印したのであるが、身元保証人に対し本訴請求額のような多額の損害額の負担を求めるためには身元保証契約を結ぶに当って、原告は直接被告に原告会社の内容、右杉山の職務内容を明示し、発生を予測し得る損害の種類、程度等について詳細な説明をすべきである。ところが、原告は、これらの点について何ら説明していない。

(二)  原告の主張によると、右杉山は昭和三八年一二月に既に横領しているのであるから、原告に遅滞なく被告に対しそのことを通知すべきであるが、原告が右杉山の不法行為について被告に通知したのは右横領の時期から一年後の昭和三九年一二月二四日である。そのため、被告は、身元保証契約を解除する等適宜な処置を構ずることができなかった。

(三)  原告の主張によると、右杉山は既に昭和三八年一二月に不法行為をしているのであるが、原告は、販売を主体とする会社であるから、帳簿伝票等日常取引に関する帳簿は整備されている筈であり、したがって、右杉山の集金状態を帳簿と照合すれば早期にその不法行為の発生を止め得たわけであり、また、その当時において監督を怠らなければ損害額の増大をとどめ得たわけである。ところが、原告の右杉山に対する監督は杜撰を極めていたから原告主張の損害額を生じてきたわけで、その責任は一に原告にあるというべきである。〈以下省略〉。

(証拠関係)〈全部省略〉

理由

一、原告が自動車の販売業を営んでいること、原告が昭和三八年一〇月頃訴外杉山正夫をセールスマンとして雇傭したことは当事者間に争がないところ、まず原告主張の身元保証契約の成否について争があるので、その点について判断する。成立に争ない甲第三号証、甲第一号証の被告の署名が自署であり被告名下の印章によるものであることは被告の認めるところであるから全部真正に成立したものと推定すべき同号証、証人皆川光男、同浦禎一の各証言及び弁論の全趣旨を綜合すると、右杉山はその頃被告に対し、原告が右杉山に原告の販売する自動車の販売業務を委託するについての原告、杉山間の約定及び連帯保証人は右杉山がその約定に基いて負担する一切の債務について連帯保証する旨の記載のある車輛販売委託契約書(甲第一号論)及び右杉山が原告会社に勤務中原告会社に及ぼした一切の損害について保証人が連帯して損害賠償の責を負い、原告に一切迷惑をかけない等の趣旨の記載された誓約書(甲第三号証)を示し捺印を求めたので、被告はこれを承諾し、右契約書及び誓約書の各連帯保証人欄に署名捺印して右杉山に交付し、同人はこれらの書面を原告に提出し、これによって原告は右契約書及び誓約書記載のとおりの契約が成立したものとしてとり扱っていたことが認められ、この認定に反する証拠はない。しかして、これらの事実と一般に保証契約においては保証人が何人であるかの点が重視されることを考え合わせると、原告が保証契約を成立させるための申込をしたのではなく、被告が右杉山を使者として右契約書及び誓約書記載どおりの契約を成立さるべく原告に申込み、原告がその契約書及び誓約書を受領してこれらの書面記載どおりの契約が成立したものととり扱ったことによって右申込を承諾したものと認めるのが相当であるから、原告被告間には右誓約書記載どおりの身元保証契約が成立したものということができる。なお、被告は、右杉山には原告が被告と身元保証契約を締結することについて原告から代理権を与えられていないから、原、被告間に身元保証契約が成立するいわれはない旨述べているが、前説示したところに照らし、右杉山にそうした代理権があったかどうかは身元保証契約の成否に関係がない。

二、次に〈省略〉証言を綜合すると、右杉山は原告が自動車を販売した代金として、昭和三九年三月訴外田口光枝から三〇万円を、同年六月訴外山下よし子から一六万円を、同年一〇月訴外周玉清から一九七、三二〇円及び額面一三二、二七〇円の手形を、同月訴外鎌田光二から二一、一二〇円をそれぞれ受領し、その受領の頃右訴外人から受領した金員及び手形を原告のため預かり保管中原告に引渡すことなく横領しそのため原告に右金員及び手形額面額合計八一〇、二九四円の損害を与えたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

三、ところで、被告は、被告の責任は軽減されるべきである旨の主張をしているので、その点について判断する。

(一)  まず、被告の主張(一)の事実は被告において何ら立証しないところである。また、〈省略〉証言及び弁論の全趣旨によると、右杉山は、昭和三八年一二月から原告のため顧客から自動車の販売代金を受領して保管中これを原告に引渡すことなく横領していたが、原告は、そのことを昭和三九年九月に知り、同月中に被告に通知したことが認められ、この認定に反する証拠はないから、原告が身元保証ニ関スル法律第三条に基く通知義務を怠ったものということはできない。

(二)  しかしながら、前記二及び右(一)における認定事実によると、原告は、右杉山が昭和三八年一二月から既に顧客から受領した自動車販売代金を横領しているのにその事実を漸く一〇ケ月後の昭和三九年九月に知り、しかもその後も右杉山に顧客から受領した自動車売却代金を横領されていることになるのであって、これらの事実と原告の業種が自動車の販売業であるところから、自動車の販売代金の回収について多大の関心をもつのが当然であることを考え合わせると、原告の右杉山に対する監督については原告に過失があったものという外ない。

(三)  そこで、原告の監督上の過失及び右杉山の行為により原告が受けた損害額で原告の請求している額八一〇、二九四円のうち三五〇、二九四円(訴外周玉清及び鎌田光二からの受領分の合計の内原告主張額)は、原告において右杉山が既に顧客から受領した販売代金を横領していることを知った後の同人の行為に基く損害額であること等一切の事情を斟酌して被告が身元保証人として賠償すべき金額は四〇万円が相当であると認める。

四、してみると、被告は、原告に対し四〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四〇年三月二七日以降支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告の本訴請求は、右の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却する。〈以下省略〉。

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