大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京地方裁判所 昭和41年(ワ)3885号 判決

原告

千代田運輸株式会社

右代表者

水野勉

右訴訟代理人

万谷亀吉

伊藤芳生

被告

本橋秋二郎

<他一名>

右訴訟代理人

藤川成郎

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(請求の趣旨)

被告らは原告に対し、連帯して金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年五月一五日から支払いずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨。

(請求の原因)

一、原告と被告本橋秋次郎、同亀井久との間の身元保証契約

被告本橋および同亀井は、原告が昭和三六年四月一二日訴外本橋重治(以下たんに重治という。)を雇傭するに当り、重治が被傭中雇主たる原告に蒙らせることあるべき一切の損害につき、これを連帯して賠償する旨の身元保証契約を結んだ。

二、事故の発生

重治は、昭和三六年一〇月二五日原告が訴外日本配送株式会社(以下たんに訴外会社という。)の下請人として請負つた自動車搬送の業務に従事し、同日午後九時二〇分ごろ訴外会社保有の大型貨物自動車(仮ナンバー神第二二九三号)を三島方面から沼津方面へ向けて、沼津市横瀬川三六五番地先国道一号線上を運転中、反対方向から進行してきた訴外鈴木芳幸運転の原動機付自転車(沼津市七八一三号)に衝突し、よつて同人を即死させた。

三、重治の過失

前記事故は重治がスピード制限に違反し高速度で車を運転するという過失により発生したものである。

四、訴外鈴木幸市および同鈴木あや子と訴外会社間の和解の成立および和解金の支払い。

訴外会社は、被害者の相続人である訴外鈴木幸市、同鈴木あや子の両名から横浜地方裁判所川崎支部に提起された右事故に基づく損害賠償請求訴訟事件において、昭和四〇年一〇月二九日裁判上の和解をなし、右交通事故に基づく損害賠償として金六〇〇、〇〇〇円の支払義務のあることを認め、昭和四一年三月一〇日までにその支払を完了した。

五、ついで原告は昭和四一年一一月一〇日訴外会社の求償請求に応じ金六〇〇、〇〇〇円を訴外会社に支払つた。

六、よつて結局原告は重治の過失による(かりに過失なしとしても同じ)自動車事故により右同額の損害を蒙るに至つたので、被告らに対し前述の身元保証契約に基づき連帯してうち金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四一年五月一五日から支払いずみにいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因事実に対する認否)

一、請求原因事実のうち、被告らが原告との間において身元保証契約をしたことは認める。但しその趣旨は原告が重治を雇傭することによつて生すべき一切の損害につきこれを賠償するというのではなく、重治が雇傭契約上の義務に違反した結果生じた損害のみにつきこれを賠償するというにある。

二、同二は認める。

三、同三は否認する。同四、五は不知

(抗弁)

仮に本件事故につき重治に過失があつたと認められたとしても次の事実により重治は原告に対して求償義務を負わない。すなわち

一、本件交通事故発生時の昭和三六年当時、原告とその労働組合との間には事故発生防止およびその処理に関し、

陸送従業員がその陸送業務に従事中惹起した人身事故の場合にそなえ陸送員は毎月金二〇〇円宛の積立をなすとともに、万一死亡事故が発生したときは、当該陸送員は加重負担金(罰則金)として金三、〇〇〇円を原告に支払うこと、原告としては被害者に対し右事故による損害賠償をなしたときでも当該陸送員に対して右の積立金および加重負担金以上には請求をしないこと、との定めがある。

一、同規約は労働協約の一種として原告と重治との間の雇傭関係を規制するものであり、現に重治は右規約の定めに従い、原告に対し入社以来毎月金二〇〇円を支払い、かつ本件交通事故発生に基因して前記加重負担金として金三、〇〇〇円をも支払ずみである。

三、従つてもはや重治には本件交通事故について原告に対し求償に応ずる義務は存しないものであり、ひいて被告らも原告に対し本訴請求にかかる金員支払の義務は存しない。

(抗弁事実に対する認否)

抗弁一、二の事実は認める。三は争う。被告ら主張の規約が適用される結果、重治に対して原告が損害賠償を請求しないこととなつたとしても、当初の身元保証契約の趣旨が、被告らは原告が重治を雇傭したことによつて蒙るべき一切の損害を担保するというにあるのであるから、被告らはその債務を免れない。

(証拠)<略>

理由

一、昭和三六年四月一二日原告と被告らとの間において原告が重治を雇傭するについて被告らが原告に対し重治の身元保証をする旨の契約が成立し、被告らは重治が原告に被傭されている間に雇傭契約上の義務に違反した結果原告に生じた損害につきその支払の責に任ずることを約したことは、当事者間に争いがない。

原告はさらに被告らの義務は原告が重治を雇傭することによつて原告が蒙るべき一切の損害にまで及ぶと主張するけれども、そのように重治の責に帰すべからざる事由によつて原告に生じ、従つて重治が原告に対し賠償義務を有しない損害についても被告らは原告に対し賠償義務を負うとの趣旨であるためには、特段の約定が存することを必要とすると解すべきところ、成立に争いのない甲第一号証および証人布川武の証言によつてもそのような特約の成立を認めることはできずその他これを認めるに足る証拠は存しない。

二、つぎに請求原因二の事実および抗弁一、二の事実は当事者間に争いがない。そうとすれば、本件事故の被害者の遺族に対し損害賠償をしたとする元請人の訴外会社の求償に応じ、原告が訴外会社に金六〇〇、〇〇〇円の賠償金を支払い同額の損害を蒙つたとしても、本件事故が重治の過失に基づかないとすればもちろんのこと、そうでないときでも、原告とその労働組合との間の規約の適用により、いずれにしても重治は原告の右損害に対し賠償義務はないと認められ、主債務者たるべき重治に右のとおり賠償義務が存しなければ、被告らもまた原告に対し損害賠償義務を負うものではないと認めるのが相当である。

三、よつて、その他の点について判断するまでもなく、被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(吉岡 進)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com