大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京地方裁判所 昭和41年(合わ)96号 判決

主文

1  被告人を懲役一年六月に処する。

2  ただし、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

3  被告人を右猶予の期間中、保護観察に付する。

4  押収してある運転免許証一通(昭和四一年押五六一号の2)の偽造部分を没収する。

理由

(認定事実)

被告人は、

第一  (一) 昭和三九年五月四日ごろ、東京都港区芝高輪南町三〇番地そば店「栄亀庵」こと斎藤みよ方の早乙女昌雄ほか五名の居室で、右早乙女所有のカメラ(タナックスV3)一台に窃取し、

(二) 昭和四〇年七月上旬ごろ、同都渋谷区神宮通り一丁目一八番地東京明治牛乳販売株式会社渋谷出張所寮守部伸夫ほか二名の居室で、右守部所有の自動車運転免許証一通(昭和四〇年三月二日宮崎県公安委員会交付B九四〇〇五八号)および免許証入れ一個を窃取し、

(三) 同年八月中旬ごろ、同都台東区金杉下町四六番地竹下乳業株式会社三輪営業所で、日比キナ所有の現金約八、〇〇〇円を窃取し、

(四) 昭和四一年三月一八日、同都目黒区下目黒四丁目九一八番地中川和子方の自室内で、右中川所有の和たんすから、同女の管理にかかる最上久美子所有の女物お召単衣ほか衣類七点(時価合計約八、一〇〇円相当)を窃取し、

第二  昭和四〇年七月上旬ごろ、同都新宿区歌舞伎町二〇番地映画館「グランド・オデオン座」便所内で、行使の目的で、ほしいままに前記第一(二)の窃取にかかる自動車運転免許証(宮崎県公安委員会の記名押印がある)に貼付してあった前記守部の写真をはがして、同欄に被告人の写真を貼付し、もって同委員会の記名押印を使用して、被告人が右免許証の交付を受けた守部伸夫であるかのように見える同委員会作成名義の自動車運転免許証一通(主文4の免許証)を作成してこれを偽造し、昭和四一年三月一二日午後六時三五分ごろ、同都千代田区代官町二番地先、首都高速道路で、交通違反取締中の警視庁第一交通機動隊司法巡査寺師正義、同岡沢乗夫から運転免許証の提示を求められた際、右偽造にかかる運転免許証をあたかも真正に成立したもののように装って提示して行使し、

第三  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四一年三月一二日午後六時三五分ごろ、同区代官町二番地先、前記首都高速道路で、普通乗用自動車を運転したものである。

(証拠)≪省略≫

(第一(四)の事実の認定について)

弁護人は、第一(四)の事実について、被害品である衣類の占有は、前記中川にはなく、被告人に属していたのであるから、被告人の行為は窃盗罪ではなく、横領罪を構成するものであると主張する。

ところで、前掲1、13、15、16の各証拠によれば、右衣類の保管されていた和だんすは被告人の居室に置かれてあり、しかもそれに施錠がなされていなかったことが認められるけれども、他方、被告人の右居室は、同室のあるアパートの所有者である前記中川が右たんすのほか、三面鏡、冷蔵庫、レストラン用の器具などを置くために使用していたところを、本件の五日ほど前に、被告人がこれらの物品が置かれたままの状態で借り受け入居したものであって、被告人は入居に際し右中川から「これらの物品は近く搬出する予定である。右のうち三面鏡だけは使用してよい」旨を告げられており、他の物品の使用は許されておらず、被告人としては、当然、これらの物品の使用や搬出のための右中川の入室を特段の事情がない限り拒み得ない立場にあったこと、同都千代田区麹町に住む右中川およびその補助者たる最上久美子は月に数回管理などのため右アパートを訪れていることなどの各事実が明らかである。

右の事情のもとでは、右中川は右のたんすをけっして全面的に被告人の保管に委ねたというのではなく、必要なときは何時でもこれに実力を行使しうる立場にあったといいうるのみならず、特にその在中物に対しては、たんすという比較的貴重な衣類等をしまっておく入れ物に納めて、関係のない他者は施錠の有無にかかわらずみだりに内容物に手をふれてはならないという右容器のもつ社会生活上の性質にも訴えつつ、その支配を維持していたものと認められるから、右たんすが施錠されておらず、従って被告人の事実的支配がたんすはもとよりある限度で在中物にも及んでいたことは否定しえないとしても、これと並んで、少くともその在中物たる前記衣類に対し右中川が実質的な事実的支配を有していたこともまた否定できないところであって、結局、被告人の行為は、右中川の占有を侵したものとして、やはり窃盗罪の構成要件に該当するものといわなければならない。

(法令の適用)

第一の(一)ないし(四)の各事実は、いずれも刑法二三五条に、第二の事実のうち公文書偽造の点は同法一五五条一項に、その行使の点は同法一五八条一項、一五五条一項に、第三の事実は道路交通法一一八条一項一号、六四条に該当する(第三の事実については懲役刑を選択)。右公文書偽造とその行使との間には手段結果の関係があるので、刑法五四条一項後段、一〇条により第二の事実を一罪として犯情の重い行使罪の刑に従う。以上につき、同法四五条前段、四七条本文、一〇条により最も重い第二の罪の刑について併合罪の加重をする。

同法二五条一項(主文2)。同法二五条の二第一項前段(主文3)。同法一九条一項一項、二項(主文4)。刑訴一八一条一項但書(訴訟費用は負担させない)

(量刑について)

被告人は、運転技術が未熟であると判断され、三度の普通自動車の運転免許試験に不合格となったにもかかわらず、窃取した他人の運転免許証を偽造し、約六ヵ月間にわたって無免許運転を継続していたもので、その行為は危険このうえないものであったといわなければならない。そのうえさして生活に困窮したわけでもないのに、窃取行為を重ねた罪責は、けっして軽いものではない。

しかし、幸いなことに、無免許運転中に人身事故を起こすこともなくてすみ、窃盗についてもほとんど実害を残していない(第一(四)の衣類は全部被害者のもとに返っているほか、実兄から早乙女昌雄に対して金一万円、日比キナに対して金八、〇〇〇円の弁償がなされ、右両名はいずれも寛大な処分を望む旨を記載した示談書に調印している)。また、被告人は幼くして両親と死別し、成長期の大半を保護施設で過ごさなければならなかったという生い立ちにも注目しなければならない。さらに、被告人には前科はなく、まだ年も若いし、ただ一人の肉身でまじめな勤労の生活を送っている実兄が、法廷で今後十分に被告人の保護監督にあたると誓っていること、未決勾留も二ヵ月を越え、被告人に改悛の情が認められることなど諸般の情状を考え合わせ、被告人に対し、今回に限ってその刑の執行を猶予し、実兄と手をとり合って更生の道を進むよう期待することとした。

(裁判長裁判官 戸田弘 裁判官 新谷一信 永山忠彦)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

本サイトは報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること)を事業としており,掲載された全ての情報は報道等に活用することを目的としています。

©daihanrei.com