大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(借チ)1014号 決定

申立人

宮川忠久

右代理人弁護士

金綱正己

相手方

出井三雄

右代理人弁護士

渡辺伝次郎

主文

本件申立ての要旨を却下する。

理由

一  本件申立ての要旨は、次のとおりである。

申立人は、昭和二八年一月一日別紙目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を相手方から賃借し、その地上に別紙目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、これに居住しているものであるが、子供の成長に伴ない建物の増築を必要とするにいたつたので、昭和四二年七月二日相手方に対して増改築の承諾を求めたところ、同年同月四日付の書面でこれを拒絶された、よつて、別紙目録(三)記載の増改築計画について、相手方の承諾に代わる許可の裁判を求める。

二  相手方の主張は、次のとおりである。

(1)本件賃貸借契約は、一時使用を目的とするものであり、かつ、本件建物の増改築について制限をする特約は存在しないのであるから、本件申立ては不適法として却下されるべきである。

(2)仮りに本件賃貸借契約が期間の定めのないものであるとすれば、相手方は、本件建物が朽廃したときは、土地の明渡を求める予定でいる。従つて建物の朽廃の時期を著しく遅らせることとなる本件増改築について許可を求める申立ては、不当として棄却されるべきである。

三  本件において調査した資料(当事者双方の陳述、その提出した書証並びに職権で取り調べた東京地方裁判所昭和三七年(ワ)第九七二号及び東京高等裁判所昭和四〇年(ネ)第二、〇九〇号の各訴訟記録)によれば、本件土地の賃貸借契約は、昭和二八年二月頃、その存続期間の始期を同年一月一日として、非堅固建物所有を目的とする期間の定めのないものとして成立したと認めるのが相当である。

ところで、前記資料によれば、本件賃貸借契約に際して、申立人と相手方との間で、本件建物の増改築を制限する趣旨の特約が明示的になされたことは認められない。また、申立人が本件申立てに先立ち、その増改築計画について相手方の承諾を求めたのに対して、相手方が拒絶の回答をしている事実があるにしても、相手方が申立人の借地権の存在そのものを争つてきた従前の経緯にかんがみると、この事実をもつて直ちに黙示による右特約の成立を推認すること困難であり、その他右特約の存在を積極的に認めるに足りる資料はない。

しかしながら、借地法第八条の二に規定する許可の裁判の制度は、借地に伴なう土地所有者又は賃貸人との間の紛争を予防することを目的として創設されたものであり、その趣旨からみて、同条第二項に定める「増改築ヲ制限スル旨ノ借地条件ガ存スル場合ニ於テ」との文言は、有効な特約の存在を申立ての厳格な適法要件として定めたものと解する必要はなく、増築をめぐる紛争を予防する上で利益のある定型的な場合を特に掲げたものと解する余地がないではない。すなわち、増改築制限の特約の存在が積極的に認められないとき、もしくは特約が有効といえないときであつても、借地人の具体的な増改築計画について、土地所有者又は賃貸人が反対しその間に紛争が発生するおそれがあつて、紛争を予防するためには許可の裁判を受ける必要があり、しかも、裁判によつて承諾に代わる許可をすることが、当事者に著しい不利益を与えることにならない限りは、申立ての利益があるものとして無条件で許可の裁判をすることもできないものではないと解する。

本件においては、前示のとおり申立人の増改築計画に対して、相手方は反対の意思を表明しているのであるが、前記資料によれば、相手方は申立人に対して、本件借地契約は一時使用を目的とするものであり、既に解約によつて終了したという理由で、建物収去、土地明渡の訴訟を提起し、第一、二審とも期限の定めのない、非堅固建物の所有を目的とする賃貸借契約が成立しているとの認定のもとに敗訴しており、右判決は本年五月上旬確定しているのである。

しかも、相手方自ら特約がないことを主張しているのであるから、申立人が増改築にあたり契約及び建築基準法等法令に違反しない増改築を行なうことに対して、相手方として法律上これを争そう実質的理由をもたないものということができる。しかも本件増改築計画によれば現存建物の規模に比し、増改築部分が大きく、新築に近いものといえ、申立人がこの計画を実施するとすれば、借地法第七条にいう「建物ノ滅失」にあたると解する余地があり、無条件で増改築を許可する裁判をすることによつて、同条による異議権を相手方から奪うことが適当といえるか否かは、にわかに断定しがたいところである。終りとすれば、本件申立てについて、利益があるとすることができないから、申立てを不適法として却下することとする。

なお、前示のとおり、増改築制限の特約は存在しないのであるから、申立人は本件借地契約の趣旨(非堅固建物の所有目的)及び法令に違反ない限度で、自由に増改築を実施できるものであることを念のため附記する。(西村 宏一)

(別 紙)

(一)目的土地の表示

東京都渋谷区本町三丁目二一番地一二

宅地 六四・八二平方米(一九・六一坪)

(二)現存建物の表示

東京都渋谷区本町三丁目二一番地

家屋番号二四

木造スレート葺平家建居宅 一棟

床面積二九・七五平方米(九坪)

(三)増改築計画

増改築面積 一階一部の改築及び増築(一六・五四平方米)

二階増築(一九・八三平方米)

構   造 軽量鉄骨又は木造瓦葺モルタル塗居宅

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