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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)248号 判決

東京都杉並区浜田山一丁目三番二号

原告

竹井光治

右訴訟代理人弁護士

山本嘉盛

向山隆

東京都杉並区成田東四丁目一五番八号

被告

杉並税務署長

内藤近義

右指定代理人

藤原嘉民

大道友彦

片桐潤一

沼田十寸穂

日野照夫

村山文彦

鈴木祺一

山口憲弥

右当事者間の所得税更正処分等取消請求事件について、当裁判所は、左のとおり判決する。

主文

原告の第一次的請求をいずれも却下し、予備的請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)

「被告が原告に対し昭和四三年三月一四日付でした原告の昭和三七年分所得税更正処分および重加算税賦課決定ならびに昭和四三年一一月一九日した別紙目録記載の動産に対する差押処分を取消す。若し右差押処分取消しの請求が容れられないときは、同処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

(被告)

主文と同旨の判決。右申立てが容れられないときは、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二原告主張の請求原因

原告は、昭和四三年四月二四日、被告より、原告の昭和三七年分所得税に関する昭和四三年三月一四日付の更正処分および賦課決定に係る本税一七三万一、〇〇〇円、重加算税五一万九、三〇〇円を納付すべき旨の督促状の送達を受けた。しかし、右昭和四三年三月一四日は、原告および家族全員不在であり、また、玄関のドアーの内側には板が打ちつけられていて、ドアーの隙間を利用して本件更正処分等の通知書を玄関内に差し入れるがごときことは、物理的に不可能であつたのであるから、右更正処分および賦課決定が当該三月一四日までに原告に通知された事実は、ないものというべく、仮りに通知の事実はあつたとしても、当時は、昭和三七年分所得税の法定申告期限である昭和三八年三月一五日から起算して三年の除斥期間を徒過していたのはもとより、五年の除斥期間満了の日の前日で、しかも、前叙のごとく原告および家族全員が不在であつたという事情のもとにおいては、当該差置送達は、適法有効なものとはいえない。また、たとえ、督促をもつて更正処分および賦課決定の通知に代えうるとしても、原告が督促を受けた右昭和四三年四月二四日当時は、すでに原告の昭和三七年分所得税に対する課税権が消滅していたのであるから、もとより右の督促によつて本件更正処分および賦課決定の通知がなされたものとはいえない。

そこで、原告は、処分のあつたことを知つた右昭和四三年四月二四日の翌日より一か月以内である同年五月二三日被告に本件更正処分および賦課決定ならびに督促による徴収処分に対する異議申立てをしたが、課税処分に対する異議申立ては却下され、徴収処分に対する異議申立ては棄却され、さらに、右各異議決定に対し東京国税局長に審査の請求をしたが、いずれも排斥された。そして、これに伴い、同年一一月一九日別紙目録記載の動産について差押処分がなされるにいたつた。

しかし、本件更正処分および賦課決定は、前叙のごとく、その有効な通知を欠いている以上、当然無効であるというべきである。また、仮りに右の主張にして理由がないとしても、本件更正処分および賦課決定に係る原告の昭和三七年分の所得と目されている金五〇〇万円は、原告が小田島良二に対し同人が東京都港区芝白金台町一丁目六六番地宅地三九〇・四七平方メートル(二八・一二坪)を他より買い受けるにあたつて融資した金八〇〇万円の利息に相当する謝礼金として受領したものであるが、これについては、同人と原告との間に、同人がそれを譲渡の費用に計上しないことにより、同人の昭和三七年分の所得としてその税金を納付する旨の話合いができているのであるから、原告には納税義務はなく、本件更正処分および賦課決定は、納税義務者を誤認してなされた意味において、当然無効の処分というべきである。

さらに、本件差押処分も、その前提たる有効な租税債権の存在を欠き、また、五年の徴収時効が完成した後になされたものであるから、当然無効であることを明らかである。

よつて、原告は、本件更正処分および賦課決定ならびに差押処分の取消しを求め、仮りに右差押処分の取消しを求める第一次的請求にして容れられないときは、同処分が無効であることの確認を予備的に請求する。

第三被告の答弁

本件更正処分および賦課決定が五年の除斥期間満了の日の前日たる昭和四三年三月一四日、しかも、差置送達の方法によつて通知されるに至つたのは、次のような事情によるものである。すなわち、さきに、品川税務署長は、東京都港区芝白金台町一丁目六六番地宅地三九〇・四七平方メートルの転売に係る所得の帰属者がその所有名義人であつた小田島良二であると認定して同人に対して所得税の賦課決定をしたが、その後の調査により、昭和四三年三月ごろまでに、同人は原告に頼まれて所得名義人になつたにすぎず、その実質上の所有者は原告であつて、原告がその所得の帰属者である事実が判明し、同月一一日右税務署長から被告にその旨の連絡があつたので、被告は、原告に対し早急に修正申告書を提出するよう勧奨したが、原告においてこれに応じなかつた。そこで、被告は、一四日本件更正処分および賦課決定を行ない、即日所部職員がその通知書をもつて原告方に赴いたが、原告および家族全員不在でそれを交付することができないので、やむを得ず、封筒に入れた右通知書を玄関のドアーの隙間から玄関内に差し入れて差置送達をした。したがつて、本件更正処分および賦課決定は、右差置送達によつて過去に同日原告に通知されたのであるから、これら処分に対する異議申立ての期間は、同日の翌日より起算して一か月後たる昭和四三年四月一四日までであるところ、それより二か月余も経過した後になされた原告の異議申立ては、不適法であるというべく、また、本件差押処分に対しては、なんらの異議申立てもなされていないので、本件更正処分および賦課決定ならびに差押処分の各取消しを求める原告の第一次的申立ては、却下を免かれないというべきである。

また、原告の予備的申立ても、原告において主張するところはすべて理由がないので、これを棄却すべきである。

第四証拠関係

(原告)

甲第一ないし第八号証提出、証人竹井治子、雨宮みつ子の各証言、原告本人尋問および検証(但し、第一、第二回)の各結果援用、乙第六号証の一ないし五、第七、第八号証の成立肯認、その余の乙号各証の成立不知。

(被告)

乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一、二、第四、第五号証、第六号証の一ないし五、第七、第八号証提出、証人村山義直(但し、第一、第二回)、内田武子、横山弘、赤松秀一の各証言援用、甲号証の成立肯認。

理由

まず、原告の第一次的請求について判断する。

成立に争いのない乙第七号証、証人村山直義の証言(但し第一回)によつて真正に成立したものと認める乙第一号証の一、二、証人横山弘の証言によつて真正に成立したものと認める乙第二号証、証人赤松秀一の証言によつて真正に成立したものと認める乙第三号証の一、二、証人村山直義(但し、第一、第二回)内田武子、横山弘、赤松秀一の各証言および検証の結果(但し第二回)によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、品川税務署長は、昭和三七年中に一村幸人に対してなされた東京都港区芝白金台一丁目六六番地宅地三九〇・四七平方メートルの譲渡に係る所得の帰属者が、該不動産の所有名義人であつた小田島良二であると認定し、同人に対して所得税の賦課決定を行なつたところ、滞納処分の段階になつて同人より、右所得の真の帰属者は、宅地建物取引業者であつて当該不動産の実質上の所有者たる原告であり、自分は原告に頼まれてその名義人となつたにすぎない旨異議の申立てがあつたので、関係人に当つて一応の調査をしたうえで、昭和四二年一一月三〇日、そのころまでにようやく突き止めた原告の転居先である肩書住所の居宅に臨場し、本人に面接することができなかつたので、その妻治子に臨場の趣旨を説明して税務署に電話するなり出頭するべき旨を伝達するよう依頼して帰庁したが、原告からは何らの連絡もなかつた。そこで、さらに調査を進める一方、昭和四三年二月二二日早朝、所部職員が小田島良二を同道して原告宅に赴き、本人に面接して事情聴取を行なつたところ、前記不動産の譲渡は、小田島良二の取引に係るものであり、原告としては、同人にその資金を貸し付け、昭和三七年一〇月一〇日ころ利息兼謝礼として四八〇万円ないし五〇〇万円を受領したにすぎない旨の申立てがあり、また、同年三月九日原告よりその旨をしたため申立書と題する書面の提出があつた。同月一一日、品川税務署長より以上のような経過の報告と課税の連絡を受けた被告税務署長は、翌一二日原告に対して電話で早急に出頭することを求めたが、原告がこれに応ぜず、また、同月一四日原告宅に電話したが、全員不在のため通じなかつたので、前記原告の申立てに係る収入金額を原告の昭和三七年分の雑所得と認定して、本件更正処分および賦課決定を行ない、同日午後四時ころ、その所部職員の村山義直および赤松秀一の両名が、所定の封筒に入れた右各処分の通知書を持参して原告宅に赴き、玄関のドアの左側上方にあるわずかばかりの隙間を利用し、右封筒を折り曲げてその隙間に差し込み、斜めに少しずつ下ろしながらこれを玄関に投入し、差置送達を了したことを認めることができ、右認定に反する証人竹井治子および原告本人の各供述部分は、前提各証拠に照らして措信できず、他に該認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、右認定に係る諸事実、および原告と小田島良二との間に、原告の前記収入金額について、小田島がこれを当該不動産の譲渡費用に計上しないことによつて同人の昭和三七年分所得として税金を納付し、原告をしてその租税負担を免がれしめる旨の話合いがあたつという原告本人尋問の結果に徴すれば、本件更正処分は、国税通則法七〇条二項四号にいう「不正の行為によりその一部の税額の負担を免がれた国税についての更正」であるから、その除斥期間が法定申告期限である昭和三八年三月一五日から起算して五年であり、その期間内に通知書を原告に送達することによつてなされた適法な処分であるといわなければならない。

されば、本件更正処分および賦課決定に対する異議申立ての期間は、原告において右各処分の通知を受けた昭和四三年三月一四日の翌日から起算して一か月以内であるところ、原告が右期間をはるかに徒過した同年五月三日に至つてその異議申立てをしたことは、原告の主張自体に徴して明らかである。また、督促は、納税者が租税を納期限までに完納しない場合にその納税者に対してなされる納付の催告であつて、租税の強制徴収手続たる滞納処分を実施するための前提要件ではあるが、差押えに始まり換価を経て配当に終る滞納処分そのものの一環をなす行為ではない、それ故、督促は、国税通則法七六条にいう処分ではないから、不服申立ての対象となりえないものというべきであるばかりでなく、原告が督促に対して異議の申立てをした昭和四三年五月二三日当時はまだ本件差押処分のなされていなかつたことは、原告の自認するところであるから、右の督促に対する異議申立てをもつて本件差押処分に対する異議の申立てと解する余地もなく、他に本件差押処分そのものに対して適法な不服審査の申立てがなされたことについては、原告の主張、立証しないところである。したがつて、本件更正処分および賦課決定ならびに差押処分の取消しを求める原告の第一次的請求は、不適法であるというべきである。

次に、原告の予備的請求について判断する。

本件更正処分および賦課決定が除斥期間経過後になされた無効のものであるとの原告の主張が理由ないことは、前段説示のとおりであり、また、これらの処分が私人間の租税負担契約に違背してなされた故をもつて当然無効であるとする原告の主張も、主張自体理由なきものであるというべく、しかも、前叙のごとくこれら各処分の通知書が原告に適法に送達されたことによつて、その徴収権の時効が中断され、有効な納期限内に本件差押処分がなされたことは、記録上明らかである。

されば、本件差押処分の無効確認を求める原告の予備的請求もまた、その理由がない。

よつて、原告の第一次的請求は、いずれもこれを却下し、予備的請求も棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 渡辺昭 裁判官 竹田穣)

(別紙)

物件目録

名称 数量 形状等

一、ヤマハピアノ (八八鍵) 一 たて型

二、ステレオ 一 ビクターFMステレオ

三、応接セツト

長椅子 一 青茶色

肘付椅子 一 青茶色

テーブル 二 デコラ大型

デコラ小型

(以上)

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