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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)13615号 判決

原告

長谷川行枝

ほか三名

被告

川村修

主文

被告は、原告長谷川行枝に対し一七五万五一五八円、原告長谷川泰男に対し一四四万〇七八八円、原告長谷川寛治に対し一四一万五一五九円、原告三須照雄に対し八一万五一四〇円及びこれらに対する昭和四四年六月二三日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を各棄却する。

訴訟費用は、原告長谷川行枝、同長谷川泰男、同長谷川寛治の請求にかかる分の六三%を同原告らの、原告三須照雄の請求にかかる分の五六%を同原告の、その余を被告の、各負担とする。

この判決第一項は仮執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「被告は、原告長谷川行枝(以下原告行枝という)に対し四七一万八、〇五三円、原告長谷川泰男(以下原告泰男という)に対し四四八万五二二〇円、原告長谷川寛治(以下原告寛治という)に対し三七七万一四六三円、原告三須照雄(以下原告三須という)に対し一八九万四三三七円およびそれぞれこれに対する昭和四四年六月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行宣言

二  被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

第二当事者の主張

一  原告ら――請求原因

1  本件事故

昭和四四年六月二三日午後五時三〇分ごろ、原告泰男は、亡長谷川五郎(以下五郎又は亡五郎という。)、原告三須を同乗させ軽四輪トラツク(六千葉そ七四七七、以下原告車という)を運転して千葉県印旛郡八街町八街い八二番地先の道路を千葉市方面から八街町(市街地)西村十字路方面に向けて、道路中央線から右車輪がはみだす程度で進行中、被告が普通乗用車(足立五も二一七八、以下被告車という。)を運転し反対方向から進行して来て、両車が衝突し、そのため、五郎は同日午後八時三五分ごろ死亡し、原告泰男、同三須はそれぞれ後記の障害を負うに至つた。

2  被告の責任

被告は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により本件事故による損害を賠償する義務がある。

3  原告泰男、同三須の受傷

(一) 原告泰男は、本件事故により下顎骨骨折、顔面左示指背部切創打撲傷等の傷害を受け、昭和四四年六月二三日から同年七月二四日まで海保病院に入院し、同月二六日から三五日間千葉大学医学部附属病院に入院し、その後同年一〇月二二日まで右両病院に通院(実日数計一一日)して治療を受けたが、その間当初三日間は意識不明であり、なお四歯欠損のため架歯補綴治療を要する。

(二) 原告三須は、本件事故により、右第七胸骨骨折等の傷害を受けた。

4  損害

(一) 原告行枝、同泰男、同寛治の承継分

(1) 亡五郎の逸失利益

亡五郎は、事故当時四六才の男子であつて、自ら左官職を営むかたわら、非行少年の補導を目的とする八街友の会から委託されて非行少年に職業訓練を行なつていたもので、その収入は一ケ月六万円であり、亡五郎が本件事故に遇わなければ、六六才に達するまで二四〇ケ月間労働可能であつて、この間の総収入を事故時に一時に請求するとすれば九九六万六三三三円となる。(ホフマン月別係数一六六・一〇五五八三七五)ところで、亡五郎は、原告行枝及び同寛治を扶養していたので亡五郎の収入から控除すべき生活費は、三一五万一九四三円((イ)原告寛治が中学校を卒業して自活し得るに至る昭和四八年六月二二日までは右収入の四〇%が生活費にあてられるから一〇四万八一七四円―四八ケ月間この係数四三・六七三九四六三九―(ロ)それ以降は右収入の三〇%が生活費にあてられるから二一〇万三七六九円―一六年間この係数一二二・四三一六三七三六)となる。よつて亡五郎の逸失利益としての損害額は死亡時における現価で六八一万四三九〇円である。

(2) 原告らの相続

原告行枝は亡五郎の妻、原告泰男、同寛治はその子であるが、五郎の死亡により、同人の前記逸失利益をそれぞれの法定相続分(各1/3)に応じ承継した。

原告行枝、同泰男、同寛治の取得額はそれぞれ二二七万一四六三円である。

(二) 原告行枝の出費 二〇万六五九〇円

原告行枝は、本件事故による五郎の死亡によつて、次の支出を余儀なくされた。

(イ) 葬式に伴う諸費用 二〇万円

(ロ) 五郎の治療費、死亡診断書料 六五九〇円

(三) 原告泰男の財産上の損害

(1) 治療費 九万三七五七円

既に支出した分(前記両病院―昭和四四年一〇月二二日まで)七万三七五七円

今後の分二万円

(2) 休業損害一二万円

原告泰男は、左官職見習であるが、本件事故による負傷のため、昭和四四年六月二三日から同年一〇月二二日まで、その職を休業せざるを得なくなり、事故当時の得ていた収入は一ケ月三万円であつた。

(四) 原告三須の財産上の損害

(1) 治療費 五万三五四〇円

(2) 休業損害 七一万四八四二円

原告三須は本件事故による受傷により、事故後一ケ年(昭和四五年六月二二日頃まで)休業を要するところ、事故当時、月額六万円の収入があつたから休業による損害額は次のとおりである。

(イ) 昭和四四年一二月二二日まで 三六万円

(ロ) 昭和四四年一二月二三日から昭和四五年六月二二日まで(中間利息控除―係数五・九一四〇四八六三) 三五万四八四二円

(五) 慰藉料

原告行枝 二〇〇万円

原告泰男 二〇〇万円

(内訳五郎死亡分一五〇万円、自己受傷分五〇万円)

原告寛治 一五〇万円

原告三須 一〇〇万円

原告行枝、同泰男、同寛治の一家は、世帯主五郎の死亡により生活困窮を極めている。にも拘らず、被告は一片の誠意なく、全く損害賠償をしない。

(六) 弁護士費用

手数料、謝金いずれも一六万円(計三二万円)

原告行枝が右の3/4、原告三須が右の1/4を負担する。

5  結論

よつて、被告に対し、原告行枝は以上合計四七一万八〇五三円を求める。

二  被告―答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実中、原告泰男がその主張(一)のとおり入通院して加療したことは認めるが、その余は知らない。

4  同4の事実について

(一)(1) (一)(1)の事実は争う。

亡五郎の月収は四万二三〇〇円程度である(事故前八ケ月の平均による)。同人の労働可能期間は六三才まで、生活費は収入の四割とみるべきである。逸失利益現価はライプニツツ方式により中間利息を控除して計算すべきである。以上によれば、逸失利益現価は、三四三万三六〇九円となる。

(2) 同(2)の事実は知らない。

(二) (二)の事実は認める。

(三)(1) (三)(1)の事実中、既払分は認めるが、将来分は争う。

(2) 同(2)の事実中、収入については争うが、その余は認める。

原告泰男の月収は一万八二三三円である(事故前八ケ月の平均による)。同原告は当時定時制高校四年生在学中である。

(四)(1) (四)(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実は争う。

原告三須の月収は五万八六〇〇円である(事故前三ケ月の平均による)。休業期間は傷害の程度、実通院日数のすくないことを考慮して四ケ月とみるべきである。

(五) (五)の事実は争う。

慰藉料は次の額(過失相殺前)が相当である。

五郎死亡分(原告行枝、同泰男、同寛治の分)合計三〇〇万円

原告泰男 自己受傷分 二五万円

原告三須 二五万円

(六) (六)の事実は争う。

三  被告―抗弁

1  過失相殺

(仮に被告に被告車の運行につき過失があつたとしても、)

(一) 原告泰男にも本件事故発生につき過失がある。

現場附近では道路は、センターラインの表示があり、アスフアルト舗装されているが、有効幅員は六・三メートル(片側三・一五メートル)である。そのうえ、原告車進行方向左側には、自動車(以下D車という。)が駐車し、道路左隅から一・四メートルの幅を占めていた。従つて同車右側面からセンターラインまでは一・七五メートルを残すのみであつた。原告泰男は、原告車(幅は一・二九メートル)を運転し、時速約五〇キロメートルで現場にさしかかり、前方約七九メートルの地点に対向してくる被告車(時速約四五キロメートル)を発見したが、センターラインをオーバーしてD車右側を通過した後、被告車とすれちがいができると判断し、センターラインをオーバーしたまま走行したところ、自車右前輪がセンターラインから二五センチメートルはみ出た状態で、原告車前面右側及び右ドア附近と被告車右ドア附近が衝突した。

原告車がD車右側を走行するには、同車右側面と原告車左側面との間に若干の間隙を置かねばならないから、当然センターラインをオーバーすることが予想されるところ、前方約七九メートルの地点に対向車(被告車)の走行を認めているのであるから、この場合D車右側をセンターラインをオーバーして走行すれば、被告車と衝突する危険を予想し、減速してD車の手前で、被告車を待つべき注意義務があるところ、原告泰男は右義務を怠り被告車が避けるであろうと安易に考え、センターラインをオーバーして走行した過失がある。

同原告の右過失がなければ、本件事故は発生しなかつたから、右過失は重大であつて、その割合は同原告七対被告三とみるべきである。

(二) 亡五郎は、左官工事請負現場より同工事を終えて帰宅のために使用人である原告泰男に原告車を運転させて同車に同乗していた。よつて同原告の過失は五郎の損害額確定にあたり、同原告の損害に対すると同様斟酌されるべきである。

(三) 原告三須は左官工事請負現場から帰宅の途中原告車にいわゆる無償同乗したものであるから、右事実は過失相殺の対象とされ、被告の賠償すべき額は同原告の損害の1/2を相当とする。

2  弁済

原告行枝、同泰男、同寛治は、五郎死亡の損害填補のために自動車損害賠償責任保険から三〇〇万円を受領した。

四  原告ら――三に対する答弁

1(一)  1(一)の事実中、原告車進行左側に駐車車両のあつたこと、同車右側を原告車右前輪がセンターラインを右へはみ出して走行し、その直後、被告車と衝突したことは認めるが、その余は争う。

被告車は時速八〇キロメートルで走行し、原告車はこれを認めて急停車したが、被告車は全くブレーキもかけないで衝突した。

本件事故は、被告の泥酔、速度違反、前方不注視、車両通行帯通行方法違反によるものである。

(二)  同(二)の事実は認める。

(三)  同(三)の事実中、原告三須が無償で同乗したことは認めるが、その余は争う。

2  2の事実は認める。

第三〔証拠関係略〕

理由

第一本件事故の発生と被告の責任

一  請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがないから、被告は自賠法三条により本件事故による五郎の死亡、原告泰男、同三須の受傷によつて生じた損害を賠償する責任がある。

二1  〔証拠略〕によれば、本件事故は、千葉市方面と八街町市街地とを結ぶ県道上で発生したものであるが、事故現場附近では、道路は有効幅員約六・三メートル、歩車道の区別がなく、センターラインの表示のある舗装道路で、現場附近から西方はほぼ直線で見とおしがよく、東方は半径約五〇メートルの右カーブ(八街町市街地に向う場合)で見とおし距離は約九〇メートルであること、事故発生当時は降雨のため路面が湿つており、八街町市街地に向け左側に駐車車両(D車)があつて(争がない)、道路左端から一~一・四メートルの幅を占めていたことが認められる。

2  〔証拠略〕によれば、原告車と被告車は道路中央部で衝突したこと、八街町市街地方面に向け原告車を運転していた原告泰男は、D車右側を通過するためセンターライン附近を時速約五〇キロメートルで走行中、D車手前二〇メートル位の地点で約九〇メートル先道路右側(原告車からみて左側)部分を走行してくる対向車(被告車)を認めたが、同車が原告車進路から避けるものと思い、そのまま進行したところ、同車がなお同側を走行してくるので危険を感じ急制動かけたが衝突に至つたこと、原告車は、衝突直前センターライン上を進行しており、車幅約一・二九メートル中〇・二~〇・三メートル位がセンターライン右側にはみ出る状態で走行していたこと、被告は酩酊して被告車を運転し、時速四五~八〇キロメートル(これ以上に速度を詳かにできない。)で道路右側部分を走行し、事故発生直前原告車を発見して左に転把した(制動を施した事実は明らかでない。)が右衝突に至つたことが認められる。

〔証拠略〕中被告の立会人としての説明部分は、〔証拠略〕に照らしにわかに措信できないし、原告車がほぼセンターラインに平行して走行している事実(前掲乙第一号証のスリツプ痕により明らかである。)や被告車の右ドア附近が破損の最も著しいこと(前掲乙第二号証の四~七)に徴し、真実に合致したものとみることができない。

三1  二の事実によれば、原告泰男は、原告車がD車の駐車によりセンターライン左側を通行することがかなり困難であつたというべきである。とはいえ、センターライン右側にはみ出して走行する場合、他の車両の走行状態などに十分注意し、適切な速度で進行して、対向車との衝突の危険を未然に防ぐべき注意義務があるのに、対向車が自車進路(左側)を走行してくるのを認めながら、慢然前記速度でセンターライン上を走行したもので、この点につき過失の責は免れず、この過失が本件事故の一因となつたことは明らかである。もとより、被告が酩酊して、道路右側部分を、時速八〇キロメートル位の高速で(証拠上明らかでない以上過失相殺の関係では加害者(被告)の不利益に解するほかはない)被告車を進行させた過失はより重大である。前記二の諸事情を考慮すれば、被告は原告泰男に生じた損害の七割を賠償するのが相当である。

2  被告の抗弁2(二)の事実は争がない。よつて、亡五郎の損害についても、被害者側の原告泰男の過失を斟酌し、その七割を被告が賠償するのが相当である。

3  原告三須が事故の際原告車に無償で同乗していたことは当事者間に争がない。

しかし、右事実だけでは、同原告の受けるべき賠償額を斟酌する事由にならないし、斟酌すべき事由の存在を認めるに足る証拠はない(〔証拠略〕によれば、同原告は事故当日亡五郎に雇われて仕事に赴きその帰途雇主五郎の自動車に同乗したことが認められる。このような場合、実質的に無償の同乗というべきかは疑わしく、同原告の損害賠償額の算定にあたつて斟酌すべきではない。)。

第二原告泰男、同三須の受傷

一  原告泰男

〔証拠略〕によれば、原告泰男は本件事故によりその主張(請求原因3(一))のとおりの傷害を受け、当初三日間意識が回復せず、約一ケ月間は高度の安静を要する状態であり、加療の後昭和四四年一一月頃下顎骨骨折に基く開口不全、咬合のずれによる咀嚼機能障害(自賠法施行令別表に掲げる程度の後遺症と認める証拠はない。)を残したまま症状固定をみたことが認められる。同原告の入通院経過が請求原因3(一)のとおりであることは当事者間に争がない。

二  原告三須

〔証拠略〕によれば、原告三須は、本件事故により右第七肋骨骨折を伴う右胸部打撲傷等の傷害を受け、事故当日から昭和四四年八月一一日までの間(実日数三五日)海保病院に、同月一四日以降昭和四六年一二月までの間(実日数四五日)佐倉厚生園に各通院加療し、現在に至るまで右胸、右上肢に頑固な痛みが持続していることが認められる。

第三損害

一  原告行枝、同泰男、同寛治の承継分

1  亡五郎の逸失利益

〔証拠略〕によれば、五郎は死亡当時四六才で左官を職としていたこと、左官職として通常一日三五〇〇円の収入を得ていたこと、ただ近時少年法二五条二項三号に定める補導委託施設である八街友の会代表者斉藤竹重のもとで受託少年の職業指導に当る日がすくなくなく(月平均一七日程度)、この場合日給二二〇〇円を受けていたこと、八街町における左官の協定日当額は二五〇〇円であることが認められる。

以上の事実によれば、亡五郎は月平均六万円程度の労働収入を得る能力を有したところ、本件事故によりこれを失つたものというべきである。すなわち、左官職は通常月間二四日程度の就労が可能とみられるところ、前記協定日当額により計算すれば、月収は六万円となる(また、五郎が少年の指導員として月一七日就労して一日当り二二〇〇円、計三万七四〇〇円を得るほか、月七日間左官として三五〇〇円の収入を得るとみれば、月間収入はこれを上廻ることになる。)。

(このように、通常の就労により一定の収入を得る能力を有するが、その意思により、或種事業の意義を認めて、これを下廻る収入に甘んじている場合、そのことの故をもつて、労働能力を下廻る実収を基礎として賠償額を算定するのは相当ではない。この場合に実収を基礎に逸失利益を算出し、そのうえに労働能力に見合う逸失利益との差額を慰藉料をもつて考慮するのも一つの方法である。なぜなら、被害者は、すくなくとも、当該事業に関与することに右差額以上の意義を認めていたものというべきところ、それが事故のため不可能となつたのであるから、被害者にとつては主観的にみてそれだけの精神的損害があつたとすべきであり、そのことが社会的に認容されるのであるから、右損害は慰藉料をもつて償われるべきである。しかし、将来に向つて、従前どおり右のような事業に関与し、その限度で通常の就労をしないことが確定的でない限り、労働能力の喪失を基礎として、財産上の損害を算定し、もつて、この点に関しては慰藉料によらないで賠償額を定めるのが、より妥当な賠償額を見出し得ることになるので、前記のとおり判断する。)

そして、亡五郎は、事故にあわなければ、なお一七年間(六三才まで)就労することができ、その間右収入を維持することができるものと推認することができる。

〔証拠略〕によれば、亡五郎は右収入により原告行枝(妻)、同寛治(未成年の子)等とともに生計を維持していることが認められるので、右収入の三割を諸税、自己の生活費等に充てるものと推認することができる(家族の生活費は逸失利益算出に際し控除すべきいわれはない)。

したがつて、亡五郎は事故の翌日から毎月四万二〇〇〇円の純利益を一七年間にわたり挙げるものというべきであつて、その事故当日における現在価は、ホフマン、ライプニツツ各複式月別係数を用いて、本判決言渡の日まで単利、その翌日以降複利で年五分の割合による中間利息を控除すれば、五八五万八三七六円となる。

右逸失利益中、過失相殺(第一の三2)により被告の負担すべき金額は、四一〇万〇八六三円である。

2  亡五郎の相続人が原告行枝(妻)、同泰男(子)、同寛治(子)であることは〔証拠略〕により明らかであるから、右原告らは、それぞれ民法所定の法定相続分である1/3にあたる一三六万六九五四円の賠償請求権を相続により取得したものということができる。

二  原告行枝の出費

原告行枝が五郎の死亡により葬式に伴う諸費用、治療費死亡診断書料として二〇万六五九〇円の支出を余儀なくされたことは当事者間に争がなく、右は本件事故による損害というべきところ、過失相殺(第一の三2)により被告の負担すべき金額は一四万四六一三円である。

三  原告泰男の財産上の損害

1  治療費

原告泰男が前掲傷害のため、治療費として七万三七五七円の支出を余儀なくされたことは当事者間に争がない。同原告が昭和四四年一〇月二三日以降において治療費の支出を要する点については証拠がない。

2  休業損害

原告泰男が左官職見習であること、本件事故による負傷のため事故後四ケ月間休業を余儀なくされたことは当事者間に争がない。

〔証拠略〕によれば、原告泰男は、事故前父五郎同様(前記一ノ参照)八街友の会において受託少年の指導にある日がすくなくなく(月平均一七日位)、この場合日給一〇〇〇円を受けていたこと、八街町における左官見習の協定日当額は一八〇〇円であること、同原告は前記傷害の症状固定後昭和四四年一一月初頭から八街町の左官中村春夫のもとで左官見習として就労し日給一八〇〇円を得ていることが認められる。

したがつて、同原告は事故にあわなければ、事故の日から四ケ月間、毎月すくなくとも三万円の収入を得たはずのところ、事故による受傷のためこれを失つたというべきであつて、右期間の損害合計は、一二万円である。

3  以上1、2の損害中、過失相殺(第一の三1)により被告の負担すべき額は一三万五六三〇円である。

四  原告三須の財産上の損害

1  治療費

原告三須が前掲傷害のため、治療費として五万三五四〇円の支出を余儀なくされたことは当事者間に争がない。

2  休業損害

〔証拠略〕によれば、原告三須は事故前水道工事配管工として就労していたところ、事故後一年余にわたり就労しなかつたことが認められる。

同原告の配管工としての収入については月額五万八六〇〇〇円の限度において被告の認めるところであり、それを上廻る点については証拠がない(原告三須の主張に副う同本人尋問の結果は〔証拠略〕に比し信用できない。)。

同原告が休業を要した期間は傷害の程度、治療経過(第二の二)に照らし、六ケ月とみるのが相当である。

したがつて、同原告が事故による受傷のため失つた収入額は三五万一六〇〇円である。

五  慰藉料

五郎の死亡に関しては、同人の年齢、職業や世帯の中心である地位(前記第三の一1)、原告行枝、同泰男、同寛治の相続人としての地位(同2)被害者側の過失(前記第一の三2)等の諸事情、原告泰男の受傷に関しては、前記第二の一、第一の三1の事実等の諸事情、原告三須の受傷に関して前記第二の二の事実等の諸事情を各考慮し、次の金額が相当である。

原告行枝 一一〇万円(五郎の死亡につき)

原告泰男 八九万円

(うち五郎の死亡によるもの七〇万円、自己の受傷によるもの一九万円)

原告寛治 一〇〇万円(五郎の死亡につき)

原告三須 三三万円

六  弁済

被告主張の弁済の事実(抗弁2)は当事者間に争がないところ、右金員は、原告行枝の蒙つた損害(前記二)のうち被告の負担すべき一四万四六一三円の弁済に充てられるほか、原告行枝、同泰男に対しそれぞれ九五万一七九六円、原告寛治に対し九五万一七九五円の弁済に充てられたものというべきである。

七  まとめ(一~六)

原告らにつき、それぞれ一~五の損害賠償を受けるべき金額から六の弁済額を控除すれば、原告行枝は一五一万五一五八円、同泰男は一四四万〇七八八円、同寛治は一四一万五一五九円、同三須は七三万五一四〇円となる。

八  弁護士費用

〔証拠略〕によれば、原告ら主張(請求原因4(六))のとおり支払及びその約定がされたことが認められるところ、本件訴訟の経緯、認容額(七参照、なお原告行枝の負担した分は同原告のほか原告泰男、同寛治請求分をも対象とするとみるのが相当である。)に照らし、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

第四結論

そうすると、原告行枝は一七五万五一五八円(第三の七、八の合計)、原告泰男は一四四万〇七八八円(第三の七)、原告寛治は一四一万五一五九円(第三の七)、原告三須は八一万五一四〇円(第三の七、八の合計)及びこれらに対する事故発生の日である昭和四四年六月二三日以降支払済みまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金の支払を求め得るので、原告らの本訴請求は右限度で各認容し、その余は失当であるから各棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高山晨)

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