大判例

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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)7350号 判決

原告 今井多一郎

右訴訟代理人弁護士 栗原勝

被告 明石茂治

右訴訟代理人弁護士 滝口稔

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告が求めた裁判)

一  東京地方裁判所昭和四一年(ワ)第一二一七五号純金返還請求事件の判決に基いて、純金地金一一、二五キログラムの引渡不能のとき、原告が被告に対して支払うべき七四七万九、五九〇円の債務が存在しないことを確認する。

二  被告は原告に対し、一六六万九、三二五円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四四年七月二〇日以降完済までの年五分の割合による金員の支払並びに株式会社明石商店の株式一、二〇〇株(一株の額面五〇〇円)の引渡をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び第二項について仮執行の宣言

(被告が求めた裁判)

主文と同旨の判決

第二主張

(請求原因)

一  原告は被告に対し、東京地方裁判所昭和四一年(ワ)第一二一七五号純金返還請求事件の判決に基く純金地金一一、二五キログラムの引渡不能による代償金の残額七四七万九、五九〇円の債務を負担している。

二  ところで原告は、被告が昭和三二年二月四日の設立以来代表取締役として主宰している株式会社明石商店に、右の設立当初から昭和三九年九月一日まで専務取締役として勤務し、主として同社の貴金属、宝飾品類の製作加工部門を担当していた者であるが、昭和三五年の一月初旬頃、被告から、爾後継続的に被告の個人所有もしくは被告個人の顧客から被告が依頼された貴金属、宝飾品類の加工をするように依頼され、この加工を明石商店の工場でおこなってよく、しかも、これらの加工によって得た利益金の半額を一定の時期に原告に分配するということであったので、当時この申込を承諾し、同年二月から昭和三九年七月までの間に、会社業務の手がすいた折や時間外に、別紙明細表記載のとおり総額一、八二五万七、八五〇円に相当する加工をした。従って被告は、前記約定に基き右の半額九一四万八、九二五円を原告に分配する義務がある。

なお、右加工の都度作成された作業伝票や地金出納帳が税金対策の必要から被告の指示により毎月一回焼却されてしまったので、現在では個々の加工品とそれについての加工料を具体的に明らかにすることはできないが、別紙明細表記載の数額は、右焼却の際被告が確認していた金額をその都度工場の壁に記録しておいたものを書き写した充分根拠のあるものである。

三  そこで原告は被告に対し、昭和四四年六月二四日到達の書面でもって、原告の被告に対する第一項記載の残債務と前項掲記の分配金債権とを対当額で相殺する旨の意思表示及び残余の一六六万九、三二五円を五日以内に支払うように催告した。

四  又原告は昭和三三年八月頃、被告から株式会社明石商店の株式一、二〇〇株(一株の額面五〇〇円)を買受ける旨の契約を被告との間で締結した。因みにこの譲受代金六〇万円は昭和三三年八月二七日から昭和三五年五月二三日までの間に七回にわたり全額支払済である。

五  よって原告は被告に対し、第一項記載の債務が存在しないことの確認並びに一六六万九、三二五円及びこれに対する催告による支払期の後で本訴状送達の翌日である昭和四四年七月二〇日以降完済までの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払と前記の株式一、二〇〇株の引渡を求める。

(答弁)

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実中、原告と被告の株式会社明石商店における地位の点は認めるが、その余の事実は否認する。

三  同第三項記載の書面が原告主張の日に到達したことは認めるが、利益分配請求権の存在を前提とする主張は争う。

四  同第四項の事実は全部争う。

(仮定抗弁)

一  仮に、原告主張のごとき加工料分配請求債権なるものが発生したことがあったとしても、これは民法第一七三条第二号所定の債権として二年の短期消滅時効が完成している(商事債権としても五年を経過した分について同様)ので、被告はこれを援用する。

二  又株式の引渡請求についても、被告は、遅くも原告が最後に買受代金を支払った時であると主張する昭和三五年五月二三日から五年を経過した時に完成した消滅時効(商法第五〇一条第四号、第五二二条)を本訴で援用する。

(仮定抗弁に対する反論)

一 原告が本訴で主張しているのは、貴金属類の加工料そのものではなくて、被告との約定に基く利益金の分配請求権であるから、民法第一七三条第二号の適用はない。

二 本件の株式売買契約は絶対的商行為には該当しないから、商事時効も未完成である。

第三証拠≪省略≫

理由

被告主張の消滅時効についてまず判断する。

原告が請求原因第二、三項で主張する「加工」が民法第一七三条第二号所定の仕事に該当することは主張自体からして疑いをいれないところである。原告は、本訴で主張している債権がこの仕事に関する債権そのものではなくて、被告との約定に基く利益金の分配請求権であるから同条項所定の債権に該当しないと反論するが、用語もしくは表現にのみ力点を置いた議論であって左祖できない(因みに、いわゆる元請人に対する下請業者の債権は、当該の仕事によって生じた利益の分配請求権たる実質をも兼有すると解されないでもないが、このような表現なり構成をとると、実体の一部にのみ拘泥し、全体を見失った議論となる)。それ故、原告主張の債権は、主張そのものから明かなように二年の消滅時効が完成したものといわなければならない。しかるところ、この時効を被告が本訴において援用していること当裁判所に明らかであるから、右の利益金分配請求権の存在を前提とする原告の請求は、いずれも理由なきに帰することになる。

ところが、商法第五〇一条第四号所定の「商業証券ニ関スル行為」とは、かかる証券を目的とする売買等の実質的行為ではなく、証券の発行、裏書等の証券的行為のことであるから、この点に関する被告の主張は妥当しない。

そこで、最初に遡って原告主張の株式売買契約の成否について検討すると、≪証拠省略≫には、右主張に副うかのごとき供述と記載がみられるが、これを≪証拠省略≫と対比するときは、結局のところ右の主張を肯認すべき的確な心証をとることができず、他にこの主張を裏付ける証拠もないので、原告の右主張は採用できない。

よって、原告の請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林啓二)

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