大判例

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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)1201号 判決

原告

工藤良孝

ほか一名

被告

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一請求の趣旨

一  被告は、原告工藤良孝に対し一七六万九一一六円およびうち金一四五万〇一一六円に対する、原告工藤千代子に対し七三万五五一二円およびこれに対する、それぞれ昭和四五年二月二〇日以降完済まで、年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決を求める。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

原告らは、次の交通事故によつて傷害を受け、同時に原告良孝はその所有にかかる被害車を破損された。

(一)  発生時 昭和四二年三月二二日午後一〇時五〇分頃

(二)  発生場所 神奈川県高座郡座間町四ツ谷四三二番地先路上

(三)  加害車 自家用乗用自動車(五五神奈川三E一八三二号)

運転者 訴外ジエイム・ロドリゲス・ハイミー(以下、ハイミーという)

(四)  被害者 普通貨物自動車(相模四さ七三六一号)

運転者 原田良孝

同乗者 原告千代子

(五)  態様 加害者が進路前方に駐車中の大型貨物自動車に追突して、そのはずみでセンターラインを越え、対向中の被害車右前都ドア部分に衝突した。

二  (責任原因)

(一)  訴外ハイミーは、事故当時、在日米国海軍厚木航空基地航空機メンテナンス部所属の米国海軍二等兵曹であり、同人がその職務上加害車を運転中、飲酒に基づく無謀運転および前方不注視の過失によつて駐車中の貨物自動車に追突した結果、本件事故を惹起するに至つたものである。

従つて、被告は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法」(以下、民事特別法という)一条に基づき、本件事故によつて原告らが蒙つた損害を賠償する責任がある。

(二)  訴外ハイミーが、被告主張のように、クラブに遊びに行つた帰途本件事故を発生させたのであるとしても、同人は、平素加害車を厚木基地への通勤に使用して同基地に乗入れ、基地管理者もこれを認容していたのであるから、加害者による基地への出入りは外形的には職務に付随してなされる行為というべきである。また右クラブは、米軍人の職務の円滑を期する目的でその慰安のために設けられたものであるから、そのクラブと厚木基地との間を自動車を運転して往復する行為は私用に当らず、民事特別法一条にいう「職務を行うについて」に該当する。

(三)  さらに、駐日米軍人は、日本に在留すること自体が職務というべく、在日中になされるすべての行為は、それ自体職務ないし職務に付随する行為というべきである。すなわち、在日米軍人が公務外において不法行為を犯した場合は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下、地位協定という)一八条六項によつて、合衆国の任意的な賠償処理に委ねられており、合衆国が賠償しないときは加害者たる米軍人個人に対して賠償請求するほかないものの如くである。しかしながら加害者たる米軍人は、本人の意思にかかわらず、合衆国の命令で本国に帰国させられることもあり(本件加害者ハイミーの場合もそうである)、この場合には、被害者である日本人は、当該軍人個人に実質上その責任を追及できなくなるという不都合を生ずる。そして、この不都合は、憲法一四条の法の下の平等に反し、しかもこの不平等は日本国の責任による日米安保条約そのものから派生しているというべく、このような不合理を現行法制下において解決するためには、米軍人が日本国内で行う行為はすべて米軍の軍務およびそれに付随する行為と解し、国がその賠償の責任に任するとするほか救済の道がないというべきだからである。

三  (損害)

(一)  原告良孝

同原告は、本件事故によつて右第九ないし一一筋骨骨折、右肩打撲、右足挫傷(皮下出血)の傷害を受け近藤病院に昭和四二年三月二二日から翌四月三日まで一三日間入院治療を受け、さらに退院後同月二四日まで通院したほか、松川医院に同月二七日から翌五月四日まで、相模台病院に同四五年一月二七日・二九日と通院してそれぞれ治療を受けた。

右受傷および前記被害車破損による同原告の損害の数額は次のとおりである。

1 治療費等 一〇万四〇八六円

2 被害車全損による損害 五七万五四五〇円

3 腕時計修理費 一四〇〇円

4 衣服クリーニング代 二三〇〇円

5 休業損害 一九万一八八〇円

原告は家庭用金物を主とする雑貨販売業を営み、一日平均六三九六円の収益をあげていたが、本件事故のため三〇日間の休業を余儀なくされたから、これによる損害は、右金額となる。

6 慰藉料 五七万五〇〇〇円

7 弁護士費用 三一万九〇〇〇円

(二)  原告千代子

同原告は、本件事故によつて右膝蓋部挫創、左大腿挫傷の損害を受けて歩行困難となり、近藤病院に昭和四二年三月二二日から翌四月三日まで入院治療を受け、さらに一日通院したほか、松川医院に同月一三日から翌五月二一日まで、国立相模原病院に同年四月二四日から一二月二一日まで、相模台病院に同四五年一月二七日・二九日とそれぞれ通院治療を受けた。

そして、その損害の数額は次のとおりである。

1 治療費等 八万五五一二円

2 慰藉料 六五万円

四  (結論)

よつて、被告に対し、原告良孝は、一七六万九一一六円および弁護士費用を除いた内金一四五万〇一一六円に対する、原告千代子は七三万五五一二円およびこれに対する、それぞれ訴状送達の翌日である昭和四五年二月二〇日以降完済まで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四請求原因に対する答弁

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項中、訴外ハイミーの地位身分は認めるが、その余の事実はすべて争う。

訴外ハイミーは、事故当日の勤務終了後、自己所有の加害車に友人を同乗させてこれを運転し、陸軍病院座間基地のクラブに遊びに行つたところ、会員でないため断わられてやむなく厚木航空基地に帰る途上、本件事故を発生させたもので、しかも同人は当時私服を着用していた。従つて、同人の右運転行為は職務行為でないのはもちろん、職務行為に付随してなされたものでもなく、また客観的に職務行為の外形を備える行為にも該当しないから、本件について民事特別法一条の適用はない。

三  同第三項の事実は知らない。

第五証拠関係〔略〕

理由

在日米海軍厚木航空基地所属の米国海軍二等兵曹ハイミーの運転する加害車によつて本件傷害事故が惹起されたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、訴外ハイミーは、事故当日の勤務終了後、私服着用のうえその所有にかかる本件加害車を運転して陸軍病院座間基地のクラブに遊びに行つたところ、会員でなかつたため入場を断わられ、厚木航空基地への帰途、前方不注視の過失によつて進路前方に駐車中の大型貨物自動車に追突し、その衝撃でセンターラインを越えたため本件事故に至つたことが認められる。

そこで、本件では、訴外ハイミーの右運転行為が民事特別法一条にいう「その職務を行うについて」に該当するか否かが争点であるので、この点につき検討する。

民事特別法一条にいう「その職務を行うについて」とは、国家賠償法一条一項におけると同様、職務行為のみならず、その手段としてなされる行為およびこれに関連し、付随してなされる行為をも含み、また客観的に職務行為の外形を備える行為であれば足りるものと解すべきである。ところで本件においては、訴外ハイミーは、勤務時間外である午後一〇時三〇分項、私服着用のうえ、私有の自動車を運転してクラブに遊びに行き、その帰途本件事故を起したというのであるから、それが職務行為ないしそれに関連・付随する行為に当らないのみならず、右行為を客観的外形的に観察しても職務行為との何等の関連性をも見出すことはできないというほかない。

本件事故は自動車による基地間の往復途上に生じた事故であるところ、その自動車を同人が日項通勤車として基地への出入りに使用していたものであつたとしても、具体的な事故時における自動車の使用およびクラブへの往復が本人の全くの自由意思にまかされた本人のためのみの行為である以上、右運転行為を職務との関連において把えることはできない。

また、原告らは、在日米軍人の職務外の行為に関する地位協定一八条六項による救済の不備を理由としてその駐留中の行為のすべてを民事特別法一条の「その職務を行うについて」に該当するものと解すべき旨主張する。

しかしながら、民事特別法一条は、在日米軍人が日本国内において不法行為をした場合のうち、それが「職務を行うについて」なされた場合に限定して国の賠償責任を規定しているのであるから、在日米軍人の日本国内においてする行為のすべてを「職務を行うについて」なされたものと解することは、右限定自体を全く無意味にすることとなり、文理に反することが明らかである。在日米軍人の公務外の不法行為につき、在日米軍の特殊性に照らして、その損害の賠償に国または合衆国がどのような方法および程度において関与するかは、専ら立法政策上の問題であつて、これに関する地位協定の規定がどうであるかは、民事特別法の解釈に直接影響を及ぼすものでもない。さらに、不法行為者である米軍軍人が本国に帰還することによつて、事実上それに対する権利の行使が困難になることは首肯しうるが、権利行使の方途が絶たれるわけではない。しかも外国人に対する権利行使が事実上困難なことは、なにも右の場合に限つたことではない。ただ、日米安保条約がそのような機会を多くしたというだけにすぎないのであつて、しかもそれによる不利益の機会は日本国民に等しく与えられるのみである。従つて、このことは法の下の平等に直接関係する事柄ではなく、原告の所論は結局右の不利益に対する国の施策の不備をいうに過ぎない。なお、国家賠償法においても、公務員の職務上の不法行為に限り国が賠償責任を負担する旨規定していることを顧みれば、民事特別法一条の規定をもつて不合理といえないことは明らかである。

よつて原告の右主張も理由がない。

以上の次第であるから、原告らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井芳雄 浜崎恭生 鷲岡康雄)

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