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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)12740号 判決

第一事件原告・第二事件被告(反訴原告)

薫静

第一事件被告

東和運輸倉庫株式会社

ほか一名

第二事件原告(反訴被告)

根岸平八

ほか二名

主文

壱 第壱事件被告らは各自、同事件原告に対し金百参拾六万千弐百七拾円およびこれに対する昭和四拾弐年九月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

弐 第弐事件原告(反訴被告)らは、同事件被告(反訴原告)に対し別紙第弐目録記載の債務を負担しないことを確認する。

参 第壱事件原告の同事件被告らに対するその余の請求ならびに第弐事件反訴原告(被告)の同事件反訴被告(原告)に対する反訴請求をいずれも棄却する。

四 訴訟費用は、第壱事件原告と同事件被告らとの間においては、これを拾分し、その壱を同事件被告らの負担とし、その余を同事件原告の負担とし、第弐事件原告(反訴被告)らと同事件被告(反訴原告)との間においては、本訴反訴を通じ同事件被告(反訴原告)の負担とする。

五 この判決は、第壱項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  第一事件原告

(一)  第一事件被告らは各自、同事件原告に対し金一一、五一〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年九月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は、同事件被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言。

二  第一事件被告ら

(一)  第一事件原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、同事件原告の負担とする。

との判決。

三  第二事件原告(反訴被告)ら

(本訴につき)

(一) 主文第二項と同旨。

(二) 訴訟費用は、第二事件被告(反訴原告)の負担とする。

との判決。

(反訴につき)

(一) 第二事件反訴原告(被告)の反訴請求を棄却する。

との判決。

四  第二事件被告(反訴原告)

(本訴につき)

(一) 第二事件原告(反訴被告)らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、同事件原告(反訴被告)らの負担とする。

との判決。

(反訴につき)

(一) 第二事件反訴被告(原告)らは各自、同事件反訴原告(被告)に対し金一一、五一〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年九月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、同事件反訴被告(原告)らの負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  第一事件原告

(請求原因)

(一) 事故の発生

第一事件原告(以下本判決を通じ原告ともいう。)は、別紙第一目録記載の交通事故(以下本件事故という。)により受傷した。

(二) 責任原因

1 第一事件被告(以下本判決を通じ被告ともいう。)日下

被告日下は、加害車を運転して国電大崎駅方面から大崎広小路方面に向けて進行中前記交差点にさしかかり、そこで方向転換のため一且停車したうえ後退を開始したが、このような場合、後方に横断歩道の有無、停止信号か否か、歩行者の有無等安全を確認のうえ後退すべき義務があるのに、これを怠り、漫然と加害車を後退させた過失によつて、加害車を原告に接触させて転倒させたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

2 被告東和運輸倉庫株式会社(以下本判決を通じ被告会社という。)

被告会社は、運輸等の事業を営み、その被用者である被告日下をして業務執行中本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条一項に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。また被告会社は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条によつても本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

(三) 損害

1 治療費等 金八七二、五七二円

(1) 根岸接骨院 金一六六、八〇〇円

(2) 医療法人本間外科 金一〇、五五〇円

(3) 東京慈恵会医科大学付属病院 金八八〇円

(4) 桜井病院 金一二四、〇六一円

(5) 関東労災病院 金五四八、二八一円

(6) コルセツト代および診断書料 金二二、〇〇〇円

2 入院雑費(入院四八三日間、一日金三〇〇円あて) 金一四四、九〇〇円

3 付添看護費用 金六八、四八〇円

4 交通通信費 金三〇、一六〇円

5 休業損害 金三、六五〇、〇〇〇円

原告は、本件事故当時洋裁業を営み、一か月金五〇、〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故によりその翌日である昭和四二年九月八日から現在まで入院ないし通院をして治療を受けているため休業を余儀なくされている。よつて原告はその休業損害として同日以降昭和四八年九月末日まで七三か月分、計金三、六五〇、〇〇〇円を請求する。

6 過失利益 金一、八〇〇、〇〇〇円

原告は、未だに通院して治療を受けているが、たとえ前記症状が固定したとしても前記傷害の部位、程度より考慮すれば、本件事故前の労働能力が二五パーセント程度喪失するというべきである。そこで、次のとおり計算すれば、その逸失利益は金一、八一一、五五〇円となるが、その内金一、八〇〇、〇〇〇円を請求する。

(年令) 大正一三年一〇月一六日生(事故時四二才)

(年収) 金六〇〇、〇〇〇円

(労働能力喪失率) 二五パーセント

(就労可能年数) 昭和四八年一〇月以降一七年間

(年五分の中間利息の控除) ホフマン方式(係数一七・〇七七)

7 慰藉料 金四、九〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故に基づく傷害に対する慰藉料として、入通院分金三、九〇〇、〇〇〇円、後遺障害分金一、〇〇〇、〇〇〇円、計金四、九〇〇、〇〇〇円を請求する。

8 弁護士費用 金一、一五〇、〇〇〇円

原告は、本訴提起のため弁護士に訴訟委任したが、当初財団法人法律扶助協会より弁護士費用金五〇、〇〇〇円の立替えを受けた後、これを返済し別に金五〇、〇〇〇円の報酬を支払つた。その後、本訴を維持するため弁護士に着手金として金三五〇、〇〇〇円を支払い、成功報酬として金七〇〇、〇〇〇円を支払う旨約した。原告はこの合計額一、一五〇、〇〇〇円を請求する。

9 損害の填補 金一、一〇〇、〇〇〇円

原告は、自賠責保険から傷害分として金五〇〇、〇〇〇円、後遺障害分として金六〇〇、〇〇〇円合計金一、一〇〇、〇〇〇円を受領した。

(四) 結論

よつて、原告は、被告日下、被告会社各自に対し、本件事故に基づく損害賠償として金一一、五一〇、〇〇〇円(一〇、〇〇〇円未満切捨て)およびこれに対する本件事故発生日の翌日である昭和四二年九月八日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告日下、被告会社の主張、抗弁に対する答弁)

(一) 因果関係についての主張に対し

1 右被告ら主張の原告に過失があつた点は否認するが、第二事件原告(反訴被告、以下本判決を通じ被告ともいう。)根岸平八、訴外根岸孫七(以下孫七という。)同事件原告(以下被告という。)本間五郎に過失があつた点は認める。ただし、原告の損害は、右三名の過失および被告日下の過失が競合する共同不法行為により生じたものであるから、被告日下、被告会社は、原告との関係で全損害を賠償すべき義務がある。

2 原告に脊椎カリエスが生じたとの点は否認する。すなわち、原告は本件事故により第一二胸椎、第一腰椎に圧迫骨折を受け、両下肢不全麻痺を生じたものである。たとえ脊椎カリエスが生じたとしても、原告は、本件事故により脊椎に外傷を受けこの部位に結核菌が付着して脊椎カリエスを発生させられたか、あるいは既に発生していた初期の脊椎カリエスの部位に本件事故による外傷が加わつてこれを悪化させられたかにより、いずれにしても本件事故が主因となつて脊椎カリエスを発生ないし悪化させたものであるから、本件事故と脊椎カリエスとの間に相当因果関係がある。

(二) 被告日下、同会社主張の過失相殺の抗弁事実は否認する。

二  第一事件被告ら

(請求原因に対する答弁)

(一) 請求原因(一)(事故の発生)中、別紙第一目録1(日時)、2(場所)、3(加害車)、4(被害者)、5(態様)の各事実は認める。同6(傷害の部位、程度、治療の経過)のうち(1)ないし(6)記載の病院で原告が治療を受けたこと、桜井病院で原告が第一二胸椎第一腰椎圧迫骨折(併両下肢不全麻痺)と診断されたことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同(二)(責任原因)の各事実はいずれも認める。

(三) 同(三)(損害)中、1(治療費等)、2(入院雑費)、3(付添看護費用)、4(交通通信費)、5(休業損害)、6(逸失利益)、7(慰藉料)、8(弁護士費用)の各事実は不知。同9(損害の填補)の事実は認める。

(主張、抗弁)

(一) 因果関係についての主張

本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害は、原告の蒙つた全損害の三分の一の部分に限られ、これを超える部分は本件事故と相当因果関係にないから、被告日下、同会社らは、右三分の一を超える部分の損害を賠償する義務を負わない。すなわち、

1 原告に両下肢不全麻痺が生じた原因は次のとおりである。

(1) 原告は、本件事故による受傷後直ちに専門の整形外科医の適切な治療を受けるべきであつたにもかかわらず、安易に医師ではない根岸接骨院の柔道整復師である被告根岸、孫七の両名のマツサージ等に依存した。

(2) 右根岸両名は、柔道整復師として患者の症状に適応する治療をなすべき義務があるが、原告が本件事故により受傷したことを知つていたにもかかわらず、専門医とくに整形外科医の診察を経ることなく軽々にマツサージ等をくり返し、かつ事故後二週間も経過した後に原告の症状に疑問をもつたものの、単に知合いの本間外科を紹介して診察を受けるよう指示するにとどまつたうえ、本間外科の外科医である被告本間のマツサージ等の治療のみでよい旨の意見を盲信し、マツサージ等の治療を継続するのみで事故後約一年三か月間他の専門医の診察を受けるよう指示しなかつた。

(3) 被告本間は、とくに根岸両名からマツサージ等の方法によつては症状が好転しないために、原告の精密検査をするよう依頼されたのであるから、十分注意して精密検査をすべき義務があつたにもかかわらず、原告に対し症状を訴える部位を中心としたレントゲンによる写真撮影をしながらも第一二胸椎、第一腰椎の変形の事実を見逃した。

したがつて右(1)ないし(3)のような原告らの重大な過失がなかつたとすれば、桜井病院で右脊椎の変形の事実が発見される以前に専門医の適切な治療を受けて本件事故による傷害は治療していたはずであるから、本件事故と相当因果関係にあるのは原告の両下肢不全麻痺が発生する以前のものに限られ、それは原告主張の全損害のうち少くとも三分の一を超えるものではない。

2 また原告は昭和四四年二月一三日脊椎カリエスに罹患したが、これは本件事故とは因果関係がないから、この点からも被告日下、同会社らは、原告主張の全損害のうち三分の一を超える部分を賠償する義務がない。

(二) 抗弁(過失相殺)

仮に原告主張の全損害が本件事故と相当因果関係に立つとしても、原告には前記(主張、抗弁)中(一)1(1)のとおり損害を増大させた過失があるから、原告の損害額を算定するにあたり右過失が斟酌されるべきである。

三  第二事件原告(反訴被告)ら―被告ら

(本訴につき請求原因)

(一) 第二事件被告(反訴原告、以下本判決を通じ原告という。)は、別紙第二目録記載の債権があると主張している。

(二) しかし、同事件原告(反訴被告、以下本判決を通じ被告という。)根岸、同本間、同医療法人社団体整会(以下被告社団という。)は、右のような債務を負つていない。

(三) よつて、右債務の存在しないことの確認を求める。

(反訴請求原因に対する答弁)

(一) 反訴請求原因(一)(事故の発生)中、別紙第一目録1(日時)、2(場所)、3(加害車)、4(被害者)、5(態様)の各事実は不知。同6(傷害の部位、程度、治療経過)のうち(1)、(2)欄記載事実は認めるが、その余は不知。

(二)1 同(二)(責任原因)中、1(被告根岸)の事実のうち、(1)の被告根岸、孫七の両名が柔道整復師であり、原告を別紙第一目録6(1)欄記載のとおり治療・診断したことは認めるが、その余は不知。同(2)中治療の委任を受けたことは認め、その余は否認する。同(3)は認める。

2 同(二)中、2(被告本間)の事実のうち、(1)の被告本間が外科医であり、原告を別紙第一目録6(2)欄記載のとおり治療・診断し、レントゲン写真撮影をしたことは認めるが、その余は否認する。同(2)中治療の委任を受けたことは認め、その余は否認する。

3 同(二)中、3(被告社団)の事実のうち、(1)の被告社団が被告本間の使用者であることは認めるが、その余は否認する。同(2)は否認する。

(三) 同(三)(損害)中、原告が根岸接骨院に金一六六、八〇〇円、本間外科に金一〇、五五〇円を支払つたことは認めるが、その余はいずれも否認する。

(反訴請求原因に対する抗弁、反論)

(一) 反訴請求原因(二)1(1)に対する反論、同(2)に対する抗弁

被告根岸および孫七の両名は、原告に対し、柔道整復師として、その訴える症状や診察した結果ならびに昭和四三年九月二〇日外科医である被告本間を紹介しその診察の結果の報告を受け、これに照らし、原告の傷害の部位、程度に適応する軽擦法、揉擦法、湿布等の整復施術を主とする治療行為をなしたから、この治療等をするにあたり不法行為上の過失に該当する注意義務違反はなく、また、準委任契約上の注意義務を尽した。

(二) 同(二)2、3の各(1)に対する反論、同2、3の各(2)に対する抗弁

被告本間が、原告を診察したのはわずか二回であるけれどもそれぞれの時点で症状に適応する治療行為等をなした。同被告はまず、第一回目(昭和四二年九月二〇日)には、一応別紙第一目録6(2)欄(イ)記載のとおり診断したが、その際、原告に対し経過観察を要すると判断し、そのため一週間ないし一〇日毎に通院することをすすめたが、原告がこれに応じなかつたため、それ以上の検査、治療は下可能であつた。同被告はその後約一か年経過した第二回目(昭和四三年九月一三日)には、原告の訴える症状の部位に対しレントゲン写真撮影等の検査をしたものの、そこには骨折等の異常はなく、たまたま自覚症状のない第一二胸椎、第一腰椎に病変の疑いがあつたが、明確ではなく、一応同目録同欄(ロ)記載のとおり診断し、注射等の治療をした。同被告はその際にも、治療、経過観察等のための継続的通院をすすめたが、原告がこれに応じなかつたため、以後の検査・治療は不可能であつた。また、原告主張の両下肢不全麻痺の原因は、本件事故による右脊椎の圧迫骨折ではなく、これとは無関係な脊椎カリエスによる椎体の圧潰に基づく病的骨折である。右の脊椎カリエスは、本件事故後の相当期間経過した後に発生したもので、その後徐々に進行した結果両下肢不全麻痺に至つたものである。したがつて、被告本間は、医師として原告を治療等するにあたり不法行為上の過失に該当する注意義務違反はなく、また、準委任契約上の注意義務を尽くした。

四  第二事件被告(反訴原告)―原告

(本訴につき答弁)

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(反訴につき請求原因と本訴につき反対主張)

(一) 事故の発生

原告は、別紙第一目録記載の本件事故により同目録記載のとおり受傷した。

(二) 責任原因

1 被告根岸

(1) 原告は、本件事故後、別紙第一目録6(1)欄記載のとおり根岸接骨院に通院し、柔道整復師である被告根岸および孫七の両名の治療を受けた。右両名は、柔道整復師として原告の(一)記載の症状の原因を究明し、右症状は概ね本件事故による第一二胸椎等の圧迫骨折に起因するものであつたから、絶対安静と体力増強を図つたうえで、適切な治療を施すべき義務があつたにもかかわらず、この原因に気づかず、その治療を怠り、漫然と継続して右骨折部位等に対して指圧等を行なつた過失により、右骨折による症状を逆に増悪させ、また両下肢不全麻痺等を発生させた。

よつて、被告根岸および孫七の両名は、原告に対し本件事故の加害者とともに共同不法行為者として民法七〇九条、七一九条により本件事故により発生した全損害を賠償すべき義務がある。

(2) 仮に、被告根岸ならびに孫七の両名は、共同不法行為者として損害賠償義務を負わないとしても、原告から本件事故による傷害に対する治療を委任されたのであるから、柔道整復師として右傷害の部位、程度から判断し原告を安静にし、その体力を増強したうえで適切な治療方法等を講ずる準委任契約上の義務があつた。しかるに右両名は、前(二)1(1)の治療方法を講じたのみで右契約上の義務を尽さず原告に対し両下肢不全麻痺を発生させるなどしたから、債務不履行として民法四一五条に基づき本件事故により発生した全損害を賠償すべき義務がある。

(3) 孫七は、昭和四八年一月三一日死亡したが、被告根岸が相続人として右損害賠償義務を含むその権利義務を包括承継した。

2 被告本間

(1) 被告本間は、外科医であつて、原告を別紙第一目録6(2)欄記載のとおり治療・診断をしたが、それらをするにあたり精密検査を十分にすることなく第一二胸椎等圧迫骨折を見逃した過失により、右骨折に起因する症状を悪化させ、ついに両下肢不全麻痺を発生させるに至つた。

すなわち、被告本間は、まず、被告根岸の依頼により昭和四二年九月二〇日原告につき精密検査をし、同目録6(2)欄(イ)に記載のとおり治療・診断したものの、それ以上検査をすることなく、原告に対し、単に従来どおり根岸接骨院で治療を継続するよう指示するにとどまつた。そのため、原告は、同目録同6(1)欄のとおり根岸接骨院に通院して治療を受けていたが、右骨折に起因する症状が軽快することなく、かえつて悪化してきた。

そこで原告は、昭和四三年九月一三日再度被告本間から精密検査を受けたものの、その際本件事故後約一か年も経過していたにもかかわらず、同被告は、レントゲン写真撮影をしながらも右骨折を見逃し、同目録6(2)欄(ロ)の診断病名を付し、かつ、治癒と診断したにとどまり、原告に対し、症状に適応する治療を施すことはなく、また今後治療を受ける方法を説示するのでもなく、そのまま治療、検査を打切り、前記のように原告に対し両下肢不全麻痺を発生させた。

よつて、被告本間は、本件事故の加害者、同根岸、根岸孫七らとの共同不法行為者として民法七〇九条、七一九条に基づき、本件事故により生じた全損害を賠償すべき義務がある。

(2) 仮に、被告本間は、共同不法行為者としての損害賠償義務がないとしても、本件事故により受傷した原告から検査、治療を委任されたので、医師として右傷害の部位、程度に適応する治療行為等をすべき準委任契約上の義務があつた。しかるに同被告は、右(二)2(1)のとおりの検査、治療をしたのみで右契約上の義務を尽くさず原告に両下肢不全麻痺を発生させたから、債務不履行として民法四一五条に基づき本件事故により発生した全損害を賠償すべき義務がある。

3 被告社団

(1) 被告社団は、被告本間の使用者であるが、同被告はその業務を執行するに際し、右過失により原告に損害を加えたものであるから、民法七一五条一項に基づき本件事故後生じた全損害を賠償すべき義務がある。

(2) 仮に、被告社団は、右使用者責任を負わないとしても、原告との間には被告本間と同様な準委任契約上の義務があつたが、履行補助者である被告本間において右契約上の義務を尽くさずに原告に前記のように損害を加えたものであるから、債務不履行として民法四一五条に基づき本件事故により発生した全損害を賠償すべき義務がある。

(三) 損害

前記一(三)と同一である。

(四) 結論

よつて、原告は、被告根岸、同本間、同社団各自に対し、以上の損害賠償金一一、五一〇、〇〇〇円(一〇、〇〇〇円未満切捨て)およびこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和四三年九月八日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(反訴につき被告ら主張の抗弁に対する答弁)

被告ら主張の各事実は否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  第一事件

(一)  原告主張の事故の発生のうち、別紙第一目録記載の日時、場所、加害車、被害者、態様については、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件事故と原告の傷害との因果関係について検討する。

1  前記当事者間に争いのない事実および〔証拠略〕を総合すると、次の各事実が認められる。以下の認定に反する原告本人尋問の結果は採用できず、その他この認定を左右すべき証拠はない。

(1) 原告の右手右肩が、昭和四二年九月七日午後四時三五分頃加害車の右後部に接触し、その衝撃で原告は路上に転倒した。

(2) 原告は、加害車に接触した後帰宅し夕食後の同日午後九時頃自宅近くの根岸接骨院に行つたのを初め、同日から昭和四三年一二月一二日までの間、別紙第一目録6(1)欄記載のとおり同接骨院に通院し(原告が同接骨院で治療を受けたことは当事者間に争いがない。)、そこの柔道整復師である被告根岸および孫七の治療を受けた。

(3) 原告は、事故当日である昭和四二年九月七日、根岸接骨院で頸部、右肩部、右第四指中節部、左臀部、左膝関節部の疼痛などを訴え、診察の結果、同目録同欄記載のとおり診断され、それ以降右各部位に対しマツサージ、湿布などの方法により治療を受け、かつ、事故の直後より被告根岸から、その知り合いである外科、整形外科医の被告本間の診察を受けるようすすめられた。

(4) そこで原告は、昭和四二年九月二〇日、本間外科すなわち被告本間のもとに通院し(原告が本間外科で治療を受けたことは当事者間に争いがない。)、右第四指、左臀部の疼痛、とくに左臀部のそれが強いことを、訴え、診察の結果、別紙第一目録6(2)欄(イ)記載のとおり診断された。同本間は、原告に対し、右各部位の傷病に対しては(ただし、脳震盪に関しては除く。)、従来どおり根岸接骨院での治療を継続することと、これと並行して経過観察をする必要があるため本間外科にも一週間か一〇日おき位に通院して診察を受けるようすすめ、被告根岸に対しても以上の点を通知した。他方原告は、その後根岸接骨院には通院して治療を受けていたが、本間外科には約一年後の昭和四三年九月一三日までの間一度も通院したことはなかつた。なお、右本間外科での診察の際、原告が脊椎に関し疼痛ないし激痛等の異常を訴えたことはなかつた。

(5) 原告は、昭和四二年一一月頃には、頸部に関して軽い肩こりの症状が残つている程度に、左膝関節部に関しても歩行時に軽い疼痛がある程度に、左臀部に関しても多少の疼痛がある程度にそれぞれ軽快に向い、右肩部に関してはその頃完治し、右第四指に関しては依然として疼痛などの症状が継続していた。

(6) 原告は、別紙第一目録6(3)欄記載のとおり東京慈恵会医科大学付属病院に通院し(原告が同病院で治療を受けたことは当事者間に争いがない。)、主として右第四指、左足先の疼痛などを訴え、かつ、脳波検査をしてほしい旨依頼したことにより、右第四指、左足、胸部に対しレントゲンによる写真撮影(丙第九号証の一ないし三)、脳波検査および投薬等の検査、治療を受け、同目録同欄記載のとおり診断された。原告は右通院中に咽喉部、心臓部の異常を訴えた以外に、とくに腰臀部に関する疼痛などの異常を訴えたことは一度もなかつた。また担当医師も胸椎腰椎に異状ありとの疑いをもたなかつた。そして左足先の疼痛が昭和四三年三月頃には消失したし、レントゲン写真撮影の結果や脳波検査の結果も異常がないことが判明したため、原告は同月六日を最後に右通院を中止したが、その際、原告の治療等にあたつた医師から、従来どおり根岸接骨院での治療を継続するようすすめられたほか、特別の指示などはなかつた。

(7) その後原告は、根岸接骨院での治療を継続していたものの、依然として右第四指の疼痛が継続し、かつ、腰臀部の疼痛があつたためにその検査を受けることと、今後も継続して治療を受けなければならないと予想されるため、治療費に関する保険金の請求について医師の診断書を要することとなり、再び被告根岸の紹介で昭和四三年九月一三日別紙第一目録6(2)欄(ロ)記載のとおり本間外科に通院し、被告本間から右手部、腰臀部に対しレントゲン写真撮影(丙第七号証の一、二)などの検査を受け、同目録同欄記載のとおり診断され、投薬と注射による治療を受けた。被告本間は、同日、右のように一応診断を下したものの、なお継続して観察する必要があると認め、そのため原告に対し継続して通院して検査を受けるようすすめ、根岸接骨院にもその旨通知し、その翌日、右のレントゲン写真を見たところ、原告が訴える症状の部位には骨折などの異常はなく、たまたま腰臀部を撮影した写真に第一二胸椎、第一腰椎の部位に病変らしきものを発見したが、診断を下すまでの明確なものではなかつた。他方原告は、右注射のとき、何らかの原因でシヨツクを受けたため同病院のベツドに臥し手当を受け、さらにそのまま入院するようすすめられたにもかかわらず、同日中に帰宅した。原告は以後、被告根岸、孫七らのすすめもあつたにもかかわらず、注射や薬物の服用をきらい本間外科に通院したことはなかつた。

(8) 原告は、前記のとおり昭和四三年一二月一二日まで根岸接骨院での治療を受けてきたが、そのころから両下肢の麻痺と腰痛のため歩行困難となり、同月一七日から別紙第一目録6(4)欄記載のとおり桜井病院に入院し検査、治療を受けた(原告が同病院で治療を受けたことは当事者間に争いがない。)。原告は、右入院当日からレントゲン写真撮影(丙第六号証の一、二)などの検査を受け、同目録同欄記載のとおり第一二胸椎、第一腰椎圧迫骨折(併両下肢不全麻痺)と診断された(原告がこのように診断されたことは当事者間に争いがない。)。同病院の整形外科医は、右レントゲン写真に現われた右両椎体の変形を一応圧迫骨折とし、これにより両下肢不全麻痺が生じていると判断し右のように診断したが、右両椎体の変形の原因が外傷によるか脊椎カリエスによるかの最終的な判断を留保し、原告に、右の点の精密検査と治療を受けさせるため、原告の症状が改善されない状態で関東労災病院の整形外科に転医させた。

(9) 原告は、桜井病院を転医のため退院した当日である昭和四四年三月一二日から、別紙第一目録6(5)欄記載のとおり関東労災病院に入院して検査、治療を受けた(原告が同病院で治療を受けたことは当事者間に争いがない。)。同病院の整形外科医は、原告を、入院当日、同年七月三日、同年一〇月二九日にそれぞれレントゲン写真撮影(丙第三号証の一ないし四、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三)、その他の検査をし、結局、同目録同欄記載のとおり両下肢麻痺、脊椎変形であると診断し、かつ、右各レントゲン写真や臨床所見などを総合して、この原因は第一二胸椎、第一腰椎に関し、外傷による圧迫骨折ではなく、脊椎カリエスであると判断した。

原告は、昭和四四年六月頃から同病院の理学診療科でリハビリテーシヨンを受け始め、昭和四五年一月末頃には外泊が可能な程度に回復に向い、同年四月一二日には整形外科の治療を終了して同病院を退院し、以後、引きつゞき昭和四八年五月現在においても理学診療科のリハビリテーシヨンのため同病院に通院した。

2(1)  右認定の各事実によると、原告は本件事故により、(イ)頸部捻挫、(ロ)右第四指中節部捻挫ないし挫傷、(ハ)左臀部筋打撲挫傷、(ニ)右肩胛関節打撲、(ホ)左膝関節捻挫の各傷害を受け、これらが本件事故と因果関係があると認められる。

(2)  そこで、原告の第一二胸椎、第一腰椎の傷病として、あるいは第一二胸椎、第一腰椎圧迫骨折(併両下肢不全麻痺)、あるいは脊椎カリエスによる両下肢麻痺、脊椎変形、あるいは成立に争いがない甲第二六号証により認められる東京大学医学部付属病院物療内科での圧迫性脊髄炎(第一二胸椎、第一腰椎)との各診断名があるが、これらが本件事故と因果関係があるか否か検討する。

(3)  まず、原告の右両椎体に変形が存在し、これにより両下肢麻痺ないし不全麻痺が生じたことは、以上の各証拠により明らかである。

〔証拠略〕によると、前示各レントゲン写真を日時順に検討すれば、右両椎体間の椎間板が破壊され、両椎体が圧壊されて、結局一つのかたまりとなる過程を示しているが、これが脊椎カリエスの進行形態と一致していること、外傷性の圧迫骨折であれば、椎間板自身には右のような大きな破壊が生じないし、椎体が楔状の変形となり、その骨折線が生じ、骨折の際には激痛が生ずるのに、本件ではこれらが否定されていること、その他これまでの臨床所見などから、右脊椎変形の原因は本件事故による外傷性の圧迫骨折ではなく、むしろ脊椎カリエスであると認められる。

そうすると、本件事故に基づき右両椎体に圧迫骨折を受けたとの原告の主張は採用できない。

〔証拠略〕によれば、桜井病院の医師は、第一二胸椎、第一腰椎圧迫骨折との診断をしたことが明らかである。〔証拠略〕によれば、整形外科は、一般に圧迫骨折なる用語を脊椎カリエスによる脊椎の病変には用いないことが認められる。しかし証人兼鑑定人桜井秀雄の証言および鑑定の結果によると、医師桜井秀雄は、第一二胸椎、第一腰椎とくに第一二胸椎がつぶれているので、脊椎カリエスの可能性もあると判断しつゝ診断書〔証拠略〕にこれを圧迫骨折と記したにすぎず、直接外傷によつてのみ右部分がつぶれたと確定的に診断した趣旨ではないことが認められる。従つて右各書証は前記判断の妨げとならない。

(4)  ところで、〔証拠略〕によると、脊椎カリエスは、結核菌が脊椎に付着繁殖して椎間板が壊れ、ついに椎体の亀背形成、麻痺、膿瘍等を見るに至る病気であること、このような点から外傷により直接脊椎カリエスに罹患することはありえないことが明らかであるから、本件事故により直接原告の脊椎カリエスが発生したと解することはできない。

(5)  一般に、脊椎に外傷を受けた場合、この部位が結核菌に対して抵抗力の減弱を来たすために、ここに結核菌が付着すると繁殖して脊椎カリエスを発生させる点で、外傷が脊椎カリエスの誘因となるものであるとか、あるいは、既に脊椎カリエスが発生している部位に外傷が加わるとこれを増悪させるものであるとか仮定しても、前記の原告の傷害の部位、程度、治療経過などに照らせば、原告の前記両椎体に抵抗力の減弱を来すような外傷が加えられたと認めるに足りる証拠はない。

もつとも〔証拠略〕の結果は、いずれも本件事故と原告の脊椎カリエスとの間に因果関係がある可能性が考えられるとか、因果関係を否定することができないとか、誘因となつたことは充分に理解できるとかいうのであるが、これはあくまで一般的な可能性を指摘する以上のものではなく、これをもつて本件事故と脊椎カリエスとの間に法律上因果関係ありとは判定できない。

そうすると、原告の本件事故と脊椎カリエスが因果関係があるとの主張は採用できない。

(6)  右のとおり、原告の本件事故と因果関係のある傷害は、前記一(二)2(1)(イ)ないし(ホ)の各傷害に限られるところ、前記認定のとおり原告が別紙第一目録6(1)ないし(3)記載の各病院に通院して治療を受けたのは、いずれも右各傷害に対するものであるが、右以外の桜井病院、関東労災病院に入通院して治療を受けたのは、専ら脊椎カリエスに対するものであることが明らかである。なお、原告が桜井病院に入院した前後には、右本件事故と因果関係のある右各傷害は治癒したものと推認される。

(三)  責任原因

被告日下が加害車を運転していた間その過失によつて本件事故を発生させたこと、被告会社が加害車を所有し、自己のため運行の用に供していたことはいずれも当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告日下、同会社はそれぞれ民法七〇九条、自賠法三条によつて原告の後記損害を賠償する義務を負う。

(四)  損害

1  治療費 金六八〇、〇五〇円

〔証拠略〕によると、原告は、本件事故と因果関係ある前記傷害の治療費として根岸接骨院に対し金六四五、六〇〇円、本間外科に対し金一五、五五〇円、東京慈恵会医科大学付属病院に対し金一八、九〇〇円、計金六八〇、〇五〇円を支払つたことが認められる。原告がこれを超えて右傷害治療のため治療費を支払つたことを認めるに足りる証拠はない。なお、原告主張の桜井病院、関東労災病院に対する治療費、コルセツト代は一(二)2のとおり脊椎カリエスに対する治療のための費用であると認められるから、本件事故と因果関係があるとはいえない。

2  交通費 金一、二二〇円

〔証拠略〕によると、原告は、本間外科の通院交通費として金四二〇円、東京慈恵会医科大学付属病院のそれとして金八〇〇円、計一、二二〇円を支出したことが認められる。右各病院ならびに根岸接骨院に通院したことによるこれを超える交通費を支出したことを認めるに足りる証拠はない。

なお、原告主張の桜井病院、関東労災病院に入通院したことによる交通費ならびに通信費、入院雑費、付添看護費用に関する損害は、前記のとおり本件事故と因果関係があるとはいえない。

3  休業損害 金七五〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は、本件事故当時自宅で洋裁業を営み、収入から必要経費を控除した純益として一か月金五〇、〇〇〇円程度を得ていたこと、本件事故後、少くとも関東労災病院を退院した昭和四五年四月一二日頃までの間、入通院による治療のため洋裁業に従事することが不可能であつたことが認められる。これに一部反するがごとき前示丙第二号証の記載部分は右各証拠に照らしこれを左右するに足りるものではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかし、前記のとおり原告の本件事故と因果関係のある傷害に対する治療必要日数は、本件事故当日である昭和四二年九月七日から原告が根岸接骨院の通院を中止した昭和四三年一二月一二日前後までの約一五か月間である。よつて本件事故と因果関係のある休業損害の昭和四二年九月七日における現価は、一か月金五〇、〇〇〇円の割合による一五か月間の収益から月別ホフマン法により年五分の中間利息を控除した額たる金七二〇、〇〇〇円(これは営業収益であつて不確定要素を含むから端数を切捨てた。)と認めるのが相当である。したがつて、これを超える休業損害ならびにその後の後遺症の存在を前提とする逸失利益についての賠償請求は、損害額を認定するまでもなく理由がない。

4  慰藉料 金八六〇、〇〇〇円

前記認定の原告の本件事故に基づく傷害の部位、程度、治療の経過などを考慮すると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては金八六〇、〇〇〇円が相当である。

5  損害の填補 金一、一〇〇、〇〇〇円

原告が自賠責保険から傷害に対する保険金として金五〇〇、〇〇〇円、後遺障害に対する保険金として金六〇〇、〇〇〇円、計金一、一〇〇、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがない。

6  弁護士費用 金二〇〇、〇〇〇円

以上によると、原告は被告日下、同会社の各自に対し、一、一六一、二七〇円の損害賠償債権を有するところ、成立に争いがない甲第四二、第四三号証ならびに弁論の全趣旨によると、原告は、右被告らから任意の弁済を受けられず、右債権取立のため本件訴訟の追行(第一事件の提起、第二事件の本訴、反訴の抗争、提起を含む。)を原告訴訟代理人らに委任し、その報酬として財団法人法律扶助協会に対し金一〇〇、〇〇〇円、着手金として右代理人に対し金三五〇、〇〇〇円を既に支払い、成功報酬として金七〇〇、〇〇〇円を支払う旨約したことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。しかし、本件事案の難易、原告の損害額、第一事件と第二事件との関係、本件全体の審理経過その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と因果関係のある弁護士費用損害は、右の合計金一、一五〇、〇〇〇円のうち金二〇〇、〇〇〇円であると認めるのが相当である。

(五)  過失相殺

被告らは、要するに、原告が本件事故による受傷後、専門医の適切な診療を受けず、傷害を増悪させ、損害増大防止のための注意を尽さなかつたから、この事情を損害算定にあたつて斟酌すべきであると主張する。そこで検討するに、原告が事故当日から約一五か月間、根岸接骨院の柔道整復師による治療を継続してきたことは前記一(二)での認定のとおりであるが、既述のとおり(一(二)2)本件事故と因果関係がある原告の傷害は主として捻挫および打撲傷であり、柔道整復師はこれらに対する治療機関として法認されているところであるし、被告根岸らにおいて捻挫などについて特に不適切な施術を行なうなどの事情も認められないから、右事実をもつて直ちに原告の不注意があつたということはできず、他に、本件全証拠資料によるも過失相殺をするに足りる事実は認められない。そうすると、被告らの過失相殺の抗弁は理由がない。

(六)  以上認定のとおり、原告が本件事故により被つた損害は、前一(四)1ないし4の合計金二、二六一、二七〇円から同5の金一、一〇〇、〇〇〇円を控除した金一、一六一、二七〇円に同6の金二〇〇、〇〇〇円を加算した金一、三六一、二七〇円であり、原告の被告らに対する本訴請求は、右金員とこれに対する主文第一項記載の遅延損害金の限度で理由がありその余は理由がないといわなければならない。

二  第二事件

(一)  〔証拠略〕によると、原告主張の事故の発生のうち、別紙第一目録記載の日時、場所、加害車、被害者、態様の各事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。また、被告の傷害の部位、程度、治療経過等は、前一(二)掲記の各証拠(その成立等の関係は前一(二)と同様である。ただし、乙第一号証の成立は争いがない。)によりその内容どおりの各事実が認められる(ただし、別紙第一目録6(1)、(2)各欄の記載事実、第二事件原告((反訴被告、これを被告という。))根岸、孫七の両名が柔道整復師であり、被告を同目録6(1)欄記載のとおり治療、診断したこと、被告本間が外科医であり、原告を同目録6(2)欄記載のとおり治療、診断し、レントゲンによる写真撮影したことは当事者間に争いがない。)。

(二)  まず、被告らの原告に対する治療行為等に要求される注意義務の内容は、原告ら主張のような不法行為又は準委任契約上の債務不履行のいずれの場合でも同様であると解されるので、以下この点につき検討する。

1  被告根岸関係

(1) 柔道整復師は、被告根岸が原告を治療した当時、「あん摩師、マツサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師等に関する法律」により免許を受けなければ営業できないような、柔道整復という特殊な技能を要求されているが、反面、同法により、外科手術、薬品投与、その指示を禁ぜられ、また脱臼と骨折との患部の施術を制限されている点からみて、患者に対する治療等にあたつて柔道整復師に必要な治療技術水準をもつてその傷病に対する適切な診断と柔道整復による治療方法とを講ずるのは勿論、場合によつては専門医の診断等の協力を求め、あるいは専門の病院に患者を送つてその治療に委ねたり、よりよい治療方法等があればその旨患者に確認したり勧告したりすべき注意義務があると解される。

(2) そこで、本件事実関係に基づき検討するに、前記のとおり、被告根岸ならびに孫七の両名は、本件事故当初、原告の傷害の部位は頸部、右第四指、左臀部、左膝関節・右肩部であり、その程度は捻挫、打撲である旨診断を下し、治療方法として右各部位に対しマツサージ、湿布等によつたこと、その頃、被告根岸および孫七は原告に対し知り合いの外科、整形外科医である被告本間を紹介し、その診察を受けるようすすめ、かつこれにより原告を二回にわたり検査、治療した被告本間と連絡をとり、その勧告や指示に格別反する治療方法をとつたことがないこと、また、原告は八回にわたり検査、治療を受けた東京慈恵会医科大学付属病院の医師から従来どおり根岸接骨院で治療を受けるよう云われていたこと、他方原告は、被告本間から検査を継続するため通院するようすすめられたのに、これを拒否したことにより、自ら症状の原因、病名などを十分究明する途を断つたことなどの諸事情を考慮すると、被告根岸ならびに孫七は、原告を診断、治療をするにあたり要求される前記柔道整復師としての注意義務を尽したと解するほかない。

(3) 原告は、右両名が、原告に第一二胸椎、第一腰椎の変形があつたにもかかわらず、マツサージによる治療行為をしたことにより、かえつて症状を悪化させた旨の主張をしている。よつて検討するに、右脊椎の変形すなわち脊椎カリエスが生じた時期は原告が被告本間の第二回目の検査を受けた以前であると推認されるから、その前後に被告根岸および孫七による右マツサージが継続されていたことになるが、しかしそれは結果にすぎず、当時専門医によつても右椎体の変形が発見されていなかつた以上、この点で柔道整復師たる被告根岸ならびに孫七が注意義務を尽さなかつたと解することはできない。

(4) そうすると、他の主張、立証がない以上、被告根岸ならびに孫七の両名の前記治療行為等に関して、不法行為上の過失は認められず、また、治療を目的とした準委任契約関係が存するとしても、受任者として要求される民法第六四四条に規定する善良なる管理者の注意をもつて債務の本旨に従つた右治療行為等の履行がなされたと認められる。

2  被告本間関係

(1) 医師は、業務の性質上患者を診断、治療するに当り、善良な管理者の注意をもつてしなければならない。すなわち、医師は当時の医学の水準に従い、必要と認められる診察を行ない、診察の結果を精密に検討し、病変の疑いあるときはさらに必要な診察を続け、この間症状に応じ、当時の医学水準に従い加療の必要性の有無を定め、必要な場合には適正と思われる加療方法を選択し、これを施術するとの注意義務を負うのである。医師がこの義務を尽するに当り患者の協力を前提とする場合に、もし協力を得られないため、その義務を尽せなければ、信義則に照らし、医師に対しその法的責任を問いえないこともあるといわなければならない。

症状の次第に変化する傷病に対し、医師のとるべき注意義務の内容は個別的かつ流動的である。後日ある病変の存在が確認されたからとて、さきになされた右病変を確認できない旨の診断が誤りであり、担当医師に注意義務を尽さなかつた過失ありと即断はできない。

(2) 本件の事実関係に基づき検討する。

(イ) 被告本間は昭和四二年九月二〇日原告をはじめて診察し、原告から必要な事項を聴取したのであるが、右第四指、左臀部の疼痛の訴えのみで、脊椎自体の傷病を疑うに足りる症状の訴えを聞かなかつたので、前記のように右部分に挫傷、打撲挫傷ありとの診断をとげ、根岸接骨院での柔道整復術による継続的治療、ならびに被告本間方への一週間か一〇日後の再度の来院を求めるなど、原告の受けた前記挫傷、打撲につき当時の医学の水準に照らし適切な措置をとつたこと、これに対し原告が右のような再来院をしなかつたことが明らかであるから、同被告は前記注意義務を尽したといえる。

原告は本件事故により第一二胸椎、第一腰椎に圧迫骨折を受けたわけではなく、また後日脊椎カリエスに罹つたが、当時はまだその発病をみず、かつ右部分に後日脊椎カリエス発病の誘因となるべき外傷を受けたとは認められないのであるから、被告本間が当時かような診断をしなかつたからとて、注意義務を尽さなかつたとはいえない。

(ロ) 被告本間は、昭和四三年九月一三日原告を第二回目に診察し、原告から右第四指、腰臀部の疼痛の訴えを聞き、レントゲン写真(〔証拠略〕)に第一二胸椎、第一腰椎の変形らしきものを発見したが、原告が第一回目と同様に継続して検査を受けることを拒否したために爾後の検査、治療が不可能であつたこと、これらの事実とその後の他の医師による右脊椎の変形の発見と原因、病名の究明、治療の経過などの諸事情とを考慮すると、被告本間は、医師として当時の医学水準に従い適切な問診、レントゲン写真撮影、通院指示をしており、かつ当時すでに脊椎カリエスの発病をみていたのに被告本間がその旨の確定的診断をしなかつたことも、レントゲン写真を含む一度の前記診察所見だけを資料とする以上、当時の医学水準に照らし当然であつて被告本間は前記注意義務を尽くしたものといわざるを得ない。原告が当時すでに脊椎カリエスに罹つていたことが後日他の医師の継続的な診察により判明したのであるが、もとよりそれだけでさかのぼつて被告本間が注意義務を尽さなかつたとはいえない。そういうためには、原告が被告本間の指示に従い第二回目の診察後継続して通院し、診察に応じたにもかかわらず、被告本間が、右脊椎の変形に関し、その存在を見逃したとか、漫然と検査を打切つたとか、適切な治療をなさなかつたとか、今後の治療方法、とくに根岸接骨院での治療を中止すべき旨指示しなかつたとかいう事実が存しなければならないのである。しかしそのような事実の認められないことは前述したとおりである。

なお、右原告の主張の一部にそうがごとき〔証拠略〕によると、被告本間自らが右脊椎の変形を見逃した旨記載した書面が存在するが、他方〔証拠略〕によると、原告が関東労災病院に入院中、前記のとおり同病院で脊椎カリエスであると診断され、本件事故と因果関係のない傷病として取扱われるために自動車保険から治療費の支弁がなされなくなる結果、その治療費の支弁に窮した原告の弟から被告本間に懇請したこと、そのため被告本間が、同病院の医師あてに、「原告の脊椎の変形が外傷すなわち本件事故による骨折であると解する余地もないではない。結果的にみれば、本件事故後この傷病に対する適切な治療がなされなかつたことにより両下肢麻痺が生じたものであると解することもできるから、これまでのように原告を本件事故と因果関係のある傷害に対する治療を要する患者として扱つてほしい。」旨要請し、その際、原告の脊椎の変形が右のように外傷によるものであるとすれば、結果的にこれまで見逃したことになるという趣旨のことを付加して右書面を作成したものにすぎないことがいずれも認められるから、右書面は、被告本間の原告に対するいわば善意に基づき作成されたというべきである。したがつて、右書証の存在をもつて被告本間に注意義務違反の事実ありとは解されない。

(3) そうすると、他に主張、立証がない以上、被告本間の前記治療行為等に関して不法行為上の過失があるとは認められない。また、原告主張のように、被告本間と原告との間に治療を目的とした準委任契約が締結されたとしても、被告本間は、受任者として要求される民法第六四四条に規定する善良なる管理者の注意をもつて右治療行為等をし、すなわち、債務の本旨に従い履行をしたと認められる。

3  被告医療法人社団体整会(被告社団ともいう。)関係

被告社団が同本間の使用者であることは当事者間に争いがないが、前記のとおり、被用者である被告本間の原告に対する治療行為等に関し不法行為上の過失が認められない。また、原告主張のように、被告社団と原告との間に治療を目的とした準委任契約が締結されたとしても、前記のとおり、被告社団は、被用者である被告本間をして右契約上の債務の本旨に従い履行をさせたと認められる。

(三)  原告が被告らに対し、別紙第二目録記載の債権を有していると主張していることは当事者間に争いがない。

(四)  そこで、被告らの原告に対する本訴請求について検討してみるに、以上の認定のとおり、別紙第二目録記載の債権のうち、不法行為上の債権については、その発生原因である過失が認められず、また、準委任契約上の債権については、この契約関係の存在を前提としても、その債務の本旨に従い履行がなされたと認められる以上、いずれにしても被告らの原告に対する右債務の負担の点について立証がないから、被告らの右本訴請求は、いずれも理由があるといわなければならない。したがつて、原告の被告らに対する反訴請求は、右のとおり、原告主張の不法行為の点については過失が認められず、また、準委任契約の点については、この契約関係を前提としても、被告ら主張の債務の本旨に従い履行がなされた旨の抗弁が理由があるから、原告の右反訴請求は、いずれも理由がないといわなければならない。

三  結論

以上のとおりであるから、第一事件原告の同事件被告らに対する請求は、以上の損害賠償金一、三六一、二七〇円およびこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和四二年九月八日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余を失当であるから棄却し、第二事件原告(反訴被告)らの同事件被告(反訴原告)に対する本訴請求は正当であるから認容し、同事件被告(反訴原告)の同事件原告(反訴被告)らに対する反訴請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条、第八九条、仮執行宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 沖野威 大出晃之 中條秀雄)

第一目録(交通事故)

1 日時 昭和四二年九月七日午後四時三五分頃

2 場所 東京都品川市大崎三丁目一番二号先交差点横断歩道上

3 加害車 大型貨物自動車(品川一い三七一二号)

運転者 日下正義(第一事件被告)

4 被害者 黛静(第一事件原告兼第二事件被告反訴原告)

5 態様

被害者は、青信号に従い前記交差点の横断歩道上をその南東側(ガソリンスタンド側)から南西側(大崎警察署側)へ向け歩行中、加害車が後進して右歩道上に侵入したうえ、その後部右角を被害者に接触させ路上に転倒させた。

6 傷害の部位、程度、治療の経過

〈省略〉

7 後遺症

被害者は、関東労災病院に通院してリハビリテーシヨンを受けているが、依然として脊椎が変形している状態で今後完全に治癒することは望めない旨診断されている。

第二目録(債権の表示)

1 債権者 黛静(第一事件原告兼第二事件被告、反訴原告)

2 債務者 根岸平八(第二事件原告、反訴被告)

同 本間五郎(右同)

同 医療法人社団体整会(右同)

3 発生原因

(1) 債務者根岸平八

(イ) 不法行為

債務者根岸平八は、債権者を別紙第一目録6(1)欄記載のとおり柔道整復師として治療した際、適切な治療をしなかつた等による注意義務に反した過失によつて、債権者に対し後記金額の損害を与えた。

(ロ) 債務不履行

同債務者の右(イ)の治療は、同債務者、債権者間の治療を目的とした準委任契約にもとづくものであり、同債務者は、この契約上の債務を履行しなかつたことによつて、債権者に(イ)同様の損害を与えた。

(2) 債務者本間五郎、同医療法人社団体整会

(イ) 不法行為

債務者本間五郎は、債権者を別紙第一目録6(2)欄記載のとおり医師として治療した際、適切な治療をしなかつた等の過失によつて、債権者に(1)(イ)同様の損害を与えた。

債務者医療法人社団体整会は、同本間五郎の使用者であり、その業務執行として、右本間が右債権者を治療するにあたりその過失によつて債権者に(1)(イ)同様の損害を与えた。

(ロ) 債務不履行

債務者本間五郎の右(イ)の治療は、同債務者あるいは債務者医療法人社団体整会と債権者間の治療を目的とした準委任契約に基づくものであり、同債務者らは、この契約上の債務を履行しなかつたことにより、債権者に(1)(イ)同様の損害を与えた。

4 損害額 金七、三四〇、〇〇〇円

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