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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)8640号 判決

原告 杉田弥之助

右訴訟代理人弁護士 木村恒

被告 石井良助

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 居森義知

主文

被告石井良助は原告に対し別紙目録記載(二)の建物を収去し昭和四五年七月七日以降別紙目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)および(ロ)三三四・〇八平方米(一〇一・〇四坪)明渡済に至るまで月額金三万円の割合による金員を支払え。

被告石井とみは原告に対し別紙目録記載(三)の建物を収去し、右目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)七七・一五平方米(二三・三四坪)を明渡せ。

被告会社は原告に対し別紙目録記載(二)の建物と同(三)の建物の階下および二階東側五畳、二階西側板の間八畳の二室を明渡し、かつ、同目録記載(四)の(1)ないし(5)の各工作物を収去して同目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)および(ロ)三三四・〇八平方米(一〇一・〇四坪)を明渡せ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一  原告訴訟代理人は「被告石井良助は原告に対し別紙目録記載(二)の建物を収去し昭和四五年七月三日以降別紙目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)、および(ロ)三三四・〇八平方米(一〇一・〇四坪)明渡済に至るまで月額金三万円の割合による金員を支払え。被告石井とみは原告に対し別紙目録記載(三)の建物を収去し同目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)七七・一五平方米(二三・三四坪)を明渡せ。被告会社は原告に対し別紙目録記載(二)の建物と右目録記載(三)の建物の階下および二階東側五畳西側板の間八畳の二室を明渡し、かつ右目録記載(四)の(1)ないし(5)の各工作物を収去して右目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)および(ロ)三三四・〇八平方米(一〇一・〇四坪)を明渡せ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

(一)  原告は被告石井良助に対し昭和二三年五月二四日原告所有の別紙目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)および(ロ)三三四・〇八平方米(一〇一・〇四坪)を一〇〇坪として賃料月額坪当り一〇円毎月末日払の約で期間を定めず賃貸し、権利金として金六五万円の支払を受けた。

(二)  その後、原告は被告良助に対し、地代増額の申入れをしたが協議が難航したので、昭和二九年台東簡易裁判所に地代協定の調停申立をしたが不調となり、昭和三〇年東京地方裁判所に地代値上の訴を提起し、昭和三三年四月四日言渡された判決により昭和三〇年一月一日以降月額坪当り金一一〇円とする増額が確定した。

(三)  次いで、右月額賃料は協定により昭和三六年四月一日より金一三〇円、同三九年四月一日より金一六〇円、同四一年四月一日より金二〇〇円に増額されたが、その後地代改定の申入れに対し被告石井良助はこれに応ぜず、昭和四二年一一月以降の地代を支払わないので原告は昭和四三年葛飾簡易裁判所に延滞地代請求の調停申立をなし、同四四年六月二〇日次の要旨をもって調停成立した。

(1)  昭和四二年一一月から同四三年三月まで従来通り一ヶ月金二万円宛、同四三年四月から同四四年三月まで一ヶ月金二万四〇〇〇円宛、同四四年四月以降一ヶ月金三万円の割合にて、毎月末日限り原告方に持参して支払うことに改める。

(2)  昭和四二年一一月以降同四四年六月までの前項所定の割合による延滞賃料合計金四七万八〇〇〇円は同四四年七月末日限り原告方に持参して支払う。

(3)  被告良助が前項の支払を滞ったとき、又は毎月の賃料の支払を怠り、その額六ヶ月分に達したときは、原告は何等の通知、催告を要せず本件賃貸借契約を解除することができる。この場合被告良助は原告に対し本件宅地上に存在する木造瓦葺二階店舗兼住宅一棟床面積六六・一一平方米(二〇坪)、二階六六・一一平方米(二〇坪)を収去して本件宅地を明渡す。

(四)  ところが、被告石井良助は昭和四五年一月分以降同年六月分までの賃料を支払わずその額六ヶ月分に達したので、原告は昭和四五年七月二日付書面をもって、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右書面は同月六日被告石井良助に到達し、本件賃貸借契約は終了した。

(五)  被告石井良助は前記賃借地上に別紙目録記載(二)の建物を所有しており、被告石井とみは同目録記載(三)の建物を所有して右土地のうち、別紙図面斜線部分(イ)を敷地として占有し、被告会社は、別紙目録記載(二)の建物と、同目録記載(三)の建物の階下を被告石井とみと共同で、同建物二階東側五畳と西側板の間八畳の二室を単独で占有し、前記別紙図面斜線部分(イ)および(ロ)の土地上に別紙目録記載(四)の(1)ないし(5)の工作物を所有して右土地部分を占有している。

(六)  よって本件土地所有権に基き原告は被告石井良助に対し、その所有建物を収去し、賃借地明渡済に至るまで月額金三万円の割合による賃料相当損害金の支払を求め、被告石井とみに対し別紙目録記載(三)の建物を収去して右目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)を明渡すべきことを求め、被告会社に対し別紙目録記載(二)の建物と同(三)の建物のうち占有部分の明渡と右目録記載(四)の(1)ないし(5)の工作物を収去して右目録記載(一)の土地のうち斜線部分(イ)および(ロ)を明渡すべきことを求める。

二  被告ら訴訟代理人は「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。

(一)  請求原因(一)の事実は賃料支払時期に関する約定を除きその余は認める。賃料は後述のとおり盆、暮に支払う特約である。

(二)  請求原因(二)の事実は認める。但し、被告石井良助は原告からさきに賃料増額について協定のあった後一年六ヶ月で倍額に増額する請求があったが到底協定成立の見込がないから、原告に通告して賃料支払を停止したのである。

(三)  請求原因(三)の事実は認める。

(四)  請求原因(四)について

被告石井良助が昭和四五年一月分以降同年六月分までの賃料を同年六月末日までに支払をしなかったこと、原告が原告主張の書面をもって本件賃貸借契約解除の通知をなし、右通知が同月四日被告石井良助に到達したことは認めるが、右賃貸借契約が終了したとの主張は争う。

(五)  請求原因(五)の事実は認める。

次いで被告ら訴訟代理人は抗弁として次のとおり陳述した。

(一)  被告石井良助には賃料支払遅滞の責任はない。

本件賃貸借契約においては、賃料を盆暮に六ヶ月分宛支払う特約があり、被告石井良助は毎年一月分から六月分まではその年の七月一〇日に、七月分から一二月分まではその年の一二月末日に支払い原告も異議なくこれを受領してきたところ、昭和四二年葛飾簡易裁判所で行われた調停にあっても、折衝の主たる事項は賃料の増額であって、賃料の支払時期については殆んど従前の契約をそのまま踏襲して調停成立したのである。そして、右調停において賃料は毎月末日限り原告方に持参して支払うべきものとされているが、被告石井良助の代理人として賃料を従前支払っていた被告石井とみは従前どおりに盆暮に持参支払えば足ると信じておったところ、原告主張の書面が到達したので直ちに六ヶ月分の賃料支払のためこれを持参し提供した。しかるにその受領を拒絶されたので被告石井良助はこれを翌七日弁済のため供託した。

(二)  本件契約の解除は権利の乱用である。

原告は被告石井とみの隣家で丸金商店という商号で煙草土産品の販売をなしており、被告石井とみは原告の店舗から被告会社の顧客のサーヴィス用として煙草を月末払で購入し、原告は集金に来ていて親密な交際をしており、被告石井良助も昭和四四年六月分までの従前の賃料金四七万八〇〇〇円は前記調停で定められたとおり同年七月三一日に原告方に持参して支払っている。ところが、昭和四五年一月分からの賃料の支払については一言の通知もなく、従来原被告間において毎日数回の往復があり、従来の慣行によれば、原告としては被告石井良助から七月一〇日までには支払あることを知りながら、最終支払期日より二日後に本件契約解除の意思表示をしたのであって、これによって時価数千万円の建物工作物を取毀させ、数千万円に上る借地権を無償で取得しようとするのは信義則に反し権利の乱用である。

(三)  被告石井とみおよび被告会社の占有は不法ではない。

被告石井良助は本件土地賃貸借に当り、賃借地でガソリン販売等を経営し、実妹である被告石井とみのために家屋を建設して分家させ、将来の生活の安定をはかってやるものであることを述べて、その承諾を得ておった。

また、被告会社はもと被告石井良助の個人の企業を有限会社組織としたもので、被告石井良助が代表取締役となり、被告石井とみほか一名を社員としたものである。その後、経営を任せておいた被告石井とみは結婚したので代表取締役とした。そして、原告は被告会社が本件賃借地上に工作物を設置して別紙目録記載(三)の建物に従業員を起居させていることを知りながら異議を述べないばかりか、これを承認していたものである。

三  原告訴訟代理人は被告らの主張および抗弁について次のとおり反論した。

(一)  被告が昭和四二年九月頃坪当り月額賃料を倍額に増額する請求をしたことはなく、賃料値上協定が難航したのは原告の要求額が高額であったからではない。

(二)  被告が盆暮に賃料を支払いこれを異議なく原告が受領していたとの被告ら主張事実は否認する。被告石井良助は三ヶ月ないし一二ヶ月分の賃料を一括して支払っており、原告が被告石井良助の住所まで取立にいっても約定期日に支払を受けることは殆んどなく、これがために右のように延滞して支払のなされる結果となったのである。

それ故、原告は前記葛飾簡易裁判所での調停においても、賃料支払を確実にするため、懈怠条件を附することを提案し、前述のとおりの調停が成立したのである。

(三)  被告石井良助が被告ら主張の弁済供託をした事実は認めるが、契約解除の意思表示後になされた弁済供託は契約解除の効果発生に影響はない。

(四)  被告石井とみが原告の隣家に居住し、原告が煙草土産品の販売をしていたこと、煙草を後払いで原告が販売していたこと、被告石井良助が調停で定める延滞賃料を支払ったこと、原告が本件契約解除の意思表示以前に一言の通知もしなかったことはいずれも認めるが、以上の事実があるからといって、右契約の解除は権利の乱用というべきものではない。その余の抗弁(二)の事実は否認する。

(五)  被告石井とみと被告石井良助が兄妹であり、被告石井良助がガソリンスタンドを本件賃借地上で経営していたことは認めるが、被告石井とみが別紙目録記載(三)の建物を建築し、被告会社が工作物を設置してガソリンスタンドを経営していることを原告が知ったのは本件契約解除の意思表示をした後であって、原告においてこれを予め承諾していたとの被告ら主張の事実は否認する。

四  立証≪省略≫

理由

一  別紙目録記載(一)の土地が原告の所有であり、原告が右土地のうち別紙図面斜線部分(イ)および(ロ)三三四・〇八平方米を昭和二三年五月二四日被告石井良助に賃貸したこと、右賃貸借契約につき昭和四四年六月二〇日葛飾簡易裁判所において原告主張の要旨の条項をもって調停成立したこと、被告石井良助は右条項に定める賃料昭和四五年一月分以降同年六月分までを同年六月末日までに支払わなかったので、原告は同年七月二日付書面をもって右賃料不払を理由として右賃貸借契約解除の意思表示をなし、右書面は同月六日被告石井良助に到達したことは当事者間に争いがない。

二  しかるところ、被告らは、右契約解除の意思表示の効果を争うのでこの点について判断する。

(一)  よって、まず、右契約解除の意思表示のなされるに至った経過について検討するに、

≪証拠省略≫を綜合すると、

本件賃貸借契約においては当初賃料月額を借地坪数を一〇〇坪として坪当り一〇円毎月末払の約とされていた(支払時期を除き当事者間に争いがない。)ところ、被告石井良助は賃料を各月末に支払うことなく、三ヶ月分、一二ヶ月分を一括して支払ってきた。そして、その後右賃料は屡々増額されたが、その間増額について協定がととのわず訴によって増額されたこともあった(このことは当事者間に争いがない。)のであるが、昭和四二年七月分以降は従来被告石井とみが被告石井良助に代り持参して支払っていたのにもってこなくなり、原告の養子杉田弘が被告石井良助方に取立てにいき同年一〇月分までは支払ってもらった。ところが同年一一月分からは被告石井とみは被告石井良助から取立ててくれといい、被告石井良助に取立てにいっても支払がないので、葛飾簡易裁判所に遅滞地代請求の調停申立をなし、前述のとおり調停成立し、昭和四四年六月までの延滞地代は定められた期日迄に支払われたが、昭和四四年七月分から同年一二月分までは同年一二月三一日に一括して支払がなされ、昭和四五年一月分以降は前述のとおり同年六月末に至るまで支払がなかったので原告は前記賃貸借契約解除の意思表示をなすに至った。

以上のとおり認めることができ、右認定を左右できる証拠はない。被告らは本件賃貸借にあっては賃料支払時期を盆暮の二回とする特約があり、原告も異議なく受領してきたというけれども、この点に関する被告石井良助本人尋問の結果は容易に措信しがたく、≪証拠省略≫も右認定を左右するものとはならない。また、証人金子嘉勇の証言中には前記調停において定められた条項に拘らず、賃料支払時期を従前どおり盆暮でよいとする合意が原告と被告石井良助の代理人金子嘉男との間でなされている、とする部分があるけれども、容易に措信するわけにはいかない。

してみれば、被告石井良助の賃料支払を代行していた被告石井とみが、賃料支払を盆暮でよいと信じ、昭和四五年六月までの賃料を盆前に支払ったからといって被告石井良助において賃料支払遅滞の責を免れるものではない。

(二)  しかるところ、被告らは前記契約解除の意思表示は権利の乱用であるという。なるほど、本件借地に隣接して原告が煙草土産品商を営んでおり、被告石井とみは原告方から煙草を月末払で購入していたことは原告の認めるところであり、前述のとおり被告石井とみは原告方へ賃料を持参して支払っていたのであるから、賃料支払を怠ったことを理由として賃貸借契約を解除するならば事前に一言の通告があってしかるべきであるといえよう。それにも拘らず原告が一言の通告もせずに前記契約解除の意思表示をしたものであることは原告の争わないところである。しかしながら前記調停において賃料支払を怠りその額六ヶ月分に達したときは通知催告を要せず契約解除をなすことができるものとされていたことは前述のとおり当事者間に争いなく、かかる条項を含めて調停成立するに至った前認定の経過からすれば、寧ろ、調停条項を軽視し安易に盆暮の支払をもって足るものとしていた被告石井良助が責められるべきであって、原告が何ら通知催告をしないで賃借人に多大の不利益を及ぼす契約解除の挙に出たからといってこれを権利の乱用というべきではない。

しからば他に主張なき本件においては、本件賃貸借契約は昭和四五年七月六日をもって解除により終了したものとしなければならない。

三  しかるところ、被告らが原告主張のとおりそれぞれ本件賃借地上に建物あるいは工作物を所有し、ないし右建物を占有して賃借地を占有していることは当事者間に争いないところ、被告石井良助の賃借権は消滅して占有権原を失ない、その余の被告らは被告石井良助の占有権原を援用するほか他に権原の主張立証をしないのであるから、その占有もまた無権原といわなければならない。

しからば被告石井良助は原告に対しその所有する別紙目録記載(二)の建物を収去し、昭和四五年七月七日以降別紙目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)および(ロ)三三四・〇八平方米(一〇一・〇四坪)明渡に至るまで賃料相当の損害金月額金三万円を支払うべき義務があり被告石井とみは原告に対しその所有する別紙目録記載(三)の建物を収去して右土地のうち別紙図面斜線部分(イ)七七・一五平方米(二三・三四坪)を明渡すべき義務があり被告会社は原告に対し別紙目録記載(二)の建物と、同(三)の建物のうち階下および二階東側五畳二階西側板の間八畳を明渡し、かつ、その所有する同(四)の(1)ないし(5)の各工作物を収去して同(一)の土地のうち別紙図面斜線部分(イ)および(ロ)三三四・〇八平方米(一〇一・〇四坪)を明渡すべき義務があるものというべきである。

よって右義務の履行を求める限度において原告の本訴請求は理由あるをもって正当として認容し、その余は理由がないから失当として棄却し、民事訴訟法第八九条、第九二条により訴訟費用の負担を定め、仮執行の宣言は相当でないから申立を却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引末男)

〈以下省略〉

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