大判例

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東京地方裁判所 昭和46年(レ)24号 判決

控訴人 小林薬品工業株式会社

右代表者代表取締役 小林勘次郎

右訴訟代理人弁護士 下条正夫

被控訴人 宍倉一郎

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。本件を岐阜地方裁判所に移送する。

2  (本案につき)原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却。

第二当事者の主張

一  次の点を除く外当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示と同一であるからここに引用する。

二  控訴人の主張

1  専属管轄違背の主張

本訴における被控訴人の請求の趣旨は、控訴人に対して直接別紙目録記載の土地(以下本件土地という)に対する仮差押登記の抹消登記手続を求めるものであるが、右仮差押登記は国家機関である岐阜地方裁判所の執行行為としてなされたものである。従って同仮差押登記は同裁判所が職権をもって嘱託したものであり、抹消も同じく裁判所の嘱託によらなければならない。被控訴人は控訴人に対し通常の給付訴訟によりその抹消を求めることはできず、第三者異議の訴を提起し、その確定判決に基づく裁判所の嘱託によるべきものである。従って被控訴人の請求の趣旨の文言に拘らずその真意は第三者異議の訴であり本件土地に対する仮差押の執行を許さずという判決を求めるものと解すべきである。すると本件訴訟は執行裁判所たる岐阜地方裁判所の専属管轄に属することは民訴法第五六三条等に規定するところであるから、原判決を取消し、本件を岐阜地方裁判所に移送すべきものである。

≪以下事実省略≫

理由

第一  管轄について

一  本件土地について被控訴人主張の如き各所有権移転登記ならびに仮差押登記がなされている事実は当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫を総合すると、本件土地はもと被控訴人の所有であったが、右土地について静岡地方法務局松崎出張所昭和四四年五月六日受付第一五九一号、原因同年同月二日売買とする訴外梅田伍郎に対する所有権移転登記、ついで同法務局同出張所昭和四四年七月一八日受付第二七〇七号、原因同年同月一七日売買とする訴外阿部幸次郎に対する所有権移転登記がなされたこと、そこで被控訴人は右訴外梅田、同阿部を被告として右各所有権移転登記の抹消登記手続請求の訴を市川簡易裁判所に提起し昭和四四年(ハ)第九二号事件として係属したこと、そしてその際本件土地について昭和四四年一〇月六日予告登記がなされたこと、ところが、右予告登記後同年一〇月二七日に、同年一〇月二五日付岐阜地方裁判所の仮差押命令を原因とし前同法務局同出張所同年一〇月二七日受付第四〇三二号債権者を控訴人とする仮差押登記がなされたこと、その後前記事件につき被控訴人勝訴の判決があり、同判決は昭和四五年一月五日の経過により確定したこと、そして右確定判決に基づき前記各所有権移転登記の抹消登記手続の申請をしたが、右申請の際仮差押名義人である控訴人の承諾書又は控訴人に対抗することができる裁判の謄本を添付しなかったにも拘らず登記官はこれを受理し、右各所有権移転登記を抹消し、本件仮差押登記は抹消せずに残したこと等の事実が認められ(各登記のあることについては当事者間に争いがない)、同認定に反する証拠はない。

そこで被控訴人は右残った仮差押登記の抹消を求めるため仮差押名義人である控訴人に対し本件訴を提起したものである。

三  不動産登記法第一四六条によると、登記の抹消を申請する場合においてその抹消につき登記上利害の関係を有する第三者があるときは申請書にその承諾書又は之に対抗することを得べき裁判の謄本を添付することを要するとされている。そしてここにいう利害の関係を有する第三者とは登記簿に自己の権利を登記した者にして登記簿によれば登記の抹消によりて権利上の損害を受けまたは受くべき虞ある者(大審院昭和二年三月九日決定、民集六巻二号六五頁参照)と解すべきであり、しかも右の権利は実体上の権利のみならず、当該物件に対する差押債権者の如く、登記の対抗力によりその法律的地位を対抗し得る権利も含むものと解すべきである。従って所有権移転登記を、第三者に対抗することのできる無効原因をもって抹消する場合において、右移転登記後に登記された仮差押の登記名義人は右にいわゆる第三者に当る(昭和三〇年一二月二〇日民事甲二六九三号民事局長回答、先例集追Ⅰ五一〇頁参照)と解するのが相当である。そして右所有権移転登記抹消登記手続申請の際かかる第三者の承諾書等の添付がなされなかったときは、登記官は仮差押登記は職権抹消し得るものとして、右申請を受理することなく同申請を要件なきものとして却下すべき(同法第四九条八号)であり、誤って受理され所有権移転登記が抹消されても同抹消登記手続は違法なものであって無効のものといわねばならない。

四  このように抹消登記の対象となっている所有権移転登記後の仮差押名義人は利害関係ある第三者に該当し、不動産登記法上保護を受ける反面右抹消登記権利者より抹消登記についての承諾を求められ、任意に承諾をしないときは承諾義務の有無に関し訴を提起され、義務あるときは判決によって承諾すべき旨が命ぜられる立場に置かれているものである。従ってかかる承諾義務ある第三者に対しては抹消登記権利者は訴により右承諾を求め、または、その第三者に対抗することができる裁判を得た上、右裁判の謄本を添付して右抹消登記手続申請をすればよく、同申請を受理した登記官は申請に基づき該当の所有権移転登記を抹消すると共に、職権で第三者のなした仮差押登記を抹消し、その旨を仮差押裁判所に通知し(昭和三六年二月七日民事甲三五五号民事局長回答、先例集追Ⅲ四六三頁)、ここに仮差押執行は、目的不動産の所有権が仮差押債務者に帰属しなくなったことを原因として当然に終了するのである。従って抹消登記権利者としては仮差押の登記が執行行為であるからといって、目的物件が自己の所有にかかるものであることを理由として強制執行の取消を求める第三者異議の訴を提起し、同事件についての勝訴判決を得なければ、右仮差押登記を抹消することができないと解すべきではない。従って真実の所有権者が、その後になされた所有権移転登記を前提としてなされた仮差押登記を排除するには第三者異議の訴の方法によるほかはないとする控訴人のこの点の主張は肯認することができない。

五  本件において控訴人は本件土地についての訴外阿部の所有権移転登記の抹消をするにつき利害関係を有する第三者というべきである。尤も本件ではすでに訴外梅田、同阿部の所有権移転登記はいずれも抹消されているが、同抹消は登記官の過誤によるものであり、無効とみられることは前記のとおりであるから、右抹消の事実があるからといって、控訴人の右利害関係を有する第三者としての地位または義務に変動はない。

被控訴人は本訴において請求の趣旨として控訴人に対し本件仮差押登記の抹消登記手続を求める旨を表現しているが、被控訴人の請求原因その他の主張、前記認定にかかる従来の経過についての諸事情その他弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人の本訴請求の趣旨は、控訴人が主張する如く本件土地につきなされた仮差押執行に対し所有権を理由として第三者異議の訴を提起したものと解するよりもむしろ、前記の如く本件土地につきなされた訴外阿部の所有権移転登記の抹消をするについての承諾に代る「これに対抗し得べき裁判」を求めたものと解するのが相当である。

そして右裁判を求める訴の管轄裁判所は被告である控訴人の住居地を管轄する東京簡易裁判所(訴額は金二、四九九円)であることが明らかであるから本件訴について管轄違いの点は認められない。

控訴人のこの点の主張は理由がない。

第二  本案について

一  ≪証拠省略≫を総合すると、被控訴人は訴外玉田一栄を代理人として訴外梅田伍郎との間で昭和四四年五月二日本件土地を訴外梅田に売渡す旨の売買契約を締結し、同年同月六日所有権移転登記をしたが、同契約は間もなく当事者間で合意解除されたこと、しかし訴外梅田に対する所有権移転登記は抹消せず、同訴外人より所有権移転登記をするに必要な一切の書類の交付を受けたこと、その後被控訴人は再び訴外玉田を代理人として本件土地を他に売却しようとし前記登記に必要な書類を訴外玉田に交付したこと、訴外玉田はこれを訴外皆川に交付し、訴外皆川が被控訴人の代理人となって訴外阿部幸次郎との間で昭和四四年七月一七日本件土地を訴外阿部に売渡す旨売買契約を締結し同年同月一八日訴外梅田より訴外阿部にという経路で所有権移転登記がなされたこと、ところが訴外阿部は期日までに代金の支払をしなかったため被控訴人は訴外皆川を代理人として訴外阿部に代金の支払を催告したが依然として代金の支払をしないため、その頃右代理人を通じ訴外阿部に対し右売買契約を解除する旨意思表示をし、それはその頃訴外阿部に到達したこと等の事実が認められる。≪証拠判断省略≫

右認定事実によると被控訴人と訴外阿部間の本件土地についての売買契約は訴外阿部の代金支払債務不履行によって解除されたものというべく、右契約解除によって本件土地の所有権は被控訴人に復帰したものといわねばならない。

二  控訴人は右契約解除による所有権復帰について善意の第三者である旨主張するが、本件土地については仮差押当時被控訴人からの訴提起による予告登記がなされていたことは前記認定のとおりであり、また≪証拠省略≫によると、訴外阿部は控訴人に対し金一四八万円にのぼる債務を負担し、訴外阿部の経営する訴外千葉屋産業株式会社も経営不振であったこと等の事実が認められ、これら諸事情によれば控訴人は前記の点について善意であったものとみるには疑問があり、その他本件各証拠を検討するも控訴人が善意であった事実を認定するに足る証拠はないから、控訴人のこの点の主張は採用できない。

三  すると本件土地の所有権は前記契約解除により被控訴人に復帰し、債務者である訴外阿部の責任財産に属しないことになったものというべく、控訴人は右土地に対する仮差押は許されないことが明らかである。すると控訴人としてはもはや右土地に対する本件仮差押登記を維持存続させる理由は存しないものというべく、したがって勿論被控訴人に対し訴外阿部の所有権移転登記の抹消について承諾する義務があるものといわねばならない。また控訴人の右義務はすでに訴外阿部の所有権移転登記が違法に抹消されたことによって消長を来さないことは前記のとおりであるから、被控訴人の本訴請求は理由がある。

なお控訴人は、本件土地の所有権が右契約解除により被控訴人に復帰したとしても被控訴人は昭和四五年四月一〇日本件土地を訴外成瀬一に売渡しその所有権を失った旨主張するが、≪証拠省略≫によると、被控訴人は右主張の如く本件土地所有権を訴外成瀬一に移転した後、昭和四六年六月九日右成瀬一より本件土地を買受け同年同月二四日その旨所有権移転登記をし再び本件土地を所有するに至った事実が認められるから右主張は結局理由がない。

第三  以上説示したとおりであるから被控訴人の本訴請求を全部認容した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小河八十次 裁判官 井上孝一 松岡靖光)

〈以下省略〉

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