大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8549号 判決

原告 日本建設新聞社こと 上野俊男

右訴訟代理人弁護士 黒田隆雄

右訴訟復代理人弁護士 岩石行二

被告 合資会社芝マツダ

右代表者無限責任社員 神山千秋

右訴訟代理人弁護士 潁原徹郎

同 矢野義宏

主文

一、原告と被告間の東京地方裁判所昭和四六年(ワ)第六八一七号建物明渡請求事件の和解調書に基く被告の原告に対する強制執行はこれを許さない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、本件につき、当裁判所が昭和四七年一〇月九日にした強制執行停止決定はこれを認可する。

四、前項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文第一、二項同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告と被告間の東京地方裁判所昭和四六年(ワ)第六八一七号建物明渡請求事件につき、昭和四七年七月一九日裁判上の和解が成立し、その和解調書(以下「本件和解調書」という。)には次のような条項がある。

(一) 被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件建物」という。)を引き続き賃貸する。

(二) 原告は本件建物の賃料が昭和四五年六月分から一か月金一〇万円に増額されたことを認め、毎月末日にかぎり翌月分を被告方に持参して支払う。

(三) 原告は被告に対し、昭和四七年七月分までの未払賃料合計金一三一万円の支払義務あることを認め右金員のうち金一一七万円を次のとおり分割して被告代理人潁原徹郎弁護士の事務所に持参または送金して支払う。

(1) 昭和四七年七月末日かぎり金四〇万円

(2) 同年八月末日かぎり金二〇万円

(3) 同年九月末かぎり金二〇万円

(4) 同年一〇月末日かぎり金三七万円

(四) 原告が右(三)の(1)乃至(4)の規定による割賦金の支払を遅滞することなく支払ったときは、被告は原告に対し、その余の金員を支払う債務を免除する。

(五) 原告が右(二)の規定による賃料を二回分以上遅滞したとき、または右(三)の(1)乃至(4)の規定による支払を一回分以上遅滞したときは、期限の利益を失い、直ちに右(三)の規定による金一三一万円から既に支払った金員をさしひいた残額全部を支払う。

この場合被告は原告に対し本件賃貸借契約を解除することができる。

(六) 右(五)により被告が本件賃貸借を解除したときは、原告は被告に対し、直ちに本件建物を明け渡す。

2  被告は原告が前項(三)の(3)所定の金二〇万円(以下「本件割賦金」という。)の支払を遅滞したとして昭和四七年一〇月三日本件賃貸借契約の解除の意思表示をなし、本件建物に対し、明渡の強制執行をしようとしている。

3  しかし原告代理人弁護士黒田隆雄は昭和四七年九月三〇日本件割賦金を被告代理人潁原徹郎弁護士の事務所に持参し支払うべく、同人に対し電話で問い合わせたが、同人が不在であったため、同日原告代理人の事務員である片山護一郎をして被告会社に金三〇万円(うち金一〇万円は第一項(二)に所定の同年一〇月賃料)を持参させ、現実に提供したが受領を拒絶されたものであって、右弁済の提供は債務の本旨に従ってなされたものであるから本件割賦金については原告には遅滞の責はなく、したがってこれが遅滞があるとする被告の前記賃貸借契約の解除の意思表示は効力を生ずるに由ないものである。

4  よって、原告は本件割賦金の支払遅滞を理由とする前記和解調書に基づく強制執行の不許の裁判を求めるため本訴に及んだ。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第一、二項の事実は認める。

2  同第三項のうち、原告主張の日に原告代理人黒田隆雄弁護士の事務員が被告会社に赴いて来たことは認めるが、被告会社において原告主張の金員が現実に提供されたとの事実は否認する。同項のその余の事実は知らない。本件割賦金の履行場所は被告代理人潁原徹郎弁護士の事務所であるからそれ以外の場所での弁済の提供は債務の本旨に従った提供にはならない。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫を総合すれば、次の各事実を認めることができる。

(一)  原告は本件割賦金のほか本件和解調書に定める昭和四七年一〇月分の賃料債務の支払等にあてるため青森在住の弟から銀行送金の方法で金五〇万円の融資をうけることとし、昭和四七年九月三〇日午前九時ごろその妻が入金先である富士銀行青山支店に赴き支払を受けようとしたところ、すでに右金員は同支店の入金になっていたものの、予金口座名義の事務手続上のことから支払を受けるのに手間どり結局同日正午直前になってこれが支払を受けるに至り、やむなく原告代理人黒田隆雄弁護士に同日午後二時ごろまでに右債務金三〇万円を持参する旨連絡したこと。

(二)  一方黒田弁護士は右のような連絡を受けるや前記債務金三〇万円を原告が持参してくれば、これを本件和解調書上の義務履行地である被告代理人潁原徹郎弁護士の事務所において支払うべく同日午後〇時三〇分ころ同弁護士の事務所に電話を掛けたところ、その日がたまたま土曜日であったことから、既に同弁護士がその直前に事務所を退出しており連絡をつけることができず、さらに不在電話の指示に従い、伊東にある同弁護士の自宅に電話をしたが、右同様不在であったため、その旨被告会社に電話連絡をしたところ、その社員より前記金三〇万円については被告会社に持参するよう回答があったこと。

(三)  そこで黒田弁護士は、同日が右金三〇万円の弁済期限でもあり、やむなく被告会社に於てこれが履行をなさんとし、事務員片山護一郎をして原告の妻が届けてきた金三〇万円を被告会社に持参させ、右片山は同日午後二時三〇分ころ、被告会社において同会社営業部長向井辰郎に対し右金三〇万円の受領方を懇請したが、同人よりこれが履行地が被告代理人である潁原弁護士の事務所になっていることを理由に受領を拒絶されたこと。

(四)  しかし、黒田弁護士は、なおも同日中に右金三〇万円の支払を潁原弁護士のもとになすべく、その自宅への電報送金の方法をも利用しようとして郵便局に連絡したところ、同日は土曜日であり送金先への配達が翌々日たる月曜日になる旨の回答があったことからこれも断念し、その後も再三にわたり潁原弁護士の所在をつかむべく尽力したが能わず、結局同年一〇月二日になって漸く同弁護士と連絡がとれ、以上の経緯を説明するとともに弁済を受領すべく申し入れたが同弁護士より前記金三〇万円については既に弁済期を二日もすぎているなどを理由に弁済の受領を拒絶されたため、やむなく同月三日金三〇万円を東京法務局に弁済供託するに至ったこと

以上の事実を認めることができるのであって他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

三  ところで、右事実によれば、原告は本件割賦金につき、本件和解条項所定の弁済期である昭和四七年九月三〇日、被告会社において現実の提供をなしたものというべきであるが、本件和解調書における本件割賦金の支払義務履行地は被告会社ではなく、被告の代理人である潁原弁護士の事務所であるから、右現実の提供が債務の本旨に従うものかについてさらに検討を要すべきところ、本件割賦金につき被告が特に右債務の履行を被告代理人の事務所ではなく、被告会社において受けても格別の不利益が認められない本件にあっては、前記認定のような原告代理人である黒田弁護士がやむなく被告会社において現実の提供をせざるをえなかった経緯をもあわせ総合すると、右現実の提供は債務の本旨に従ったものというべきであるから、本件割賦金の支払については原告には遅滞の責はなく、したがって右遅滞を理由としてなされた被告の賃貸借契約解除の意思表示は効力を有しないものというべきであり、これが解除の意思表示が有効であることを前提とする本件和解調書に基づく本件建物に対する明渡の強制執行は許さるべくものではない。

四  そうすると、右のような理由により本件和解調書に基づく強制執行の不許の裁判を求める原告の本訴請求はすべて理由があるから正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を、強制執行停止決定の認可およびその仮執行宣言につき同法五四八条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村利教)

〈以下省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com