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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)10386号 判決

原告

建部容保

原告

株式会社建部青州堂

右代表者

建部容保

右両名訴訟代理人弁護士

小堀樹

外二名

被告

シヤープ株式会社

右代表者

佐伯旭

右訴訟代理人弁護士

吉井参也

外四名

右輔佐人弁理士

福士愛彦

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈略〉

第二  請求原因

一  原告Tの差止請求

(一)  原告Tは、訴外亡Kから、昭和四七年七月二二日、次の実用新案権を相続により承継取得した実用新案権者である。

考案の名称 噴流併用の超音波装置

出願日 昭和四一年五月三〇日

(実用新案登録願昭四一―五〇九一七号)

公告日 昭和四五年八月四日

(実用新案出願公告昭四五―一九一六六号)

登録日 昭和四七年一月二八日

登録番号 第九五一九七八号

(二)  本件考案の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の項の記載は、次のとおりである。

「超音波処理室の開口底部周縁にて支持固着される基板裏面に、複数個の超音波発振子と、これら発振子を挾み、超音波の進行方向に処理室内の液を移動させる噴流パイプを配設し、かつ処理室の上部内面には処理液を吸込ませるパイプを設けてこれら両パイプを電動の循環ポンプに連結してなる噴流併用の超音波装置。」〈以下略〉

理由

一原告建部の差止請求について

(一)  原告建部が本件実用新案権の実用新案権者であること、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の項の記載が請求原因一の(二)の項のとおりであること及び被告が別紙第一、第二目録記載の各超音波洗滌装置(被告第一、第二製品)を製造販売していることは当事者間に争いがない。

(二)  右争いがない実用新案登録請求の範囲の項の記載によれば、本件考案は次の構成要件に区分説明することができる。

(A)  超音波処理室の開口底部周縁にて支持固着される基板を有すること。

(B)  右基板裏面に複数個の超音波発振子を配設すること。

(C)  右基板裏面に超音波発振子を挾み、超音波の進行方向に処理室内の液を移動させる噴流パイプを配設すること。

(D)  処理室の上部内面には処理液を吸込ませるパイプを設けること。

(E)  右噴流パイプと吸込パイプとを電動の循環ポンプに連結すること。

(F)  噴流併用の超音波装置であること。

(三)  前認定の本件考案の構成要件及び被告第一、第二製品の構造に基づき、本件考案と被告第一、第二製品とを対比する。

1  本件考案では、基板裏面に、超音波発振子を挾み、超音波の進行方向に処理室内の液を移動させる噴流パイプが配設されている(構成要件(C))のに対し、被告第一製品では、本件考案の噴流パイプに対応するものと認められる噴出ノズルは、本件考案の超音波発振子に対応するものと認められる振動子間の中間位置に配設されていて、振動子を挾んで配設されておらず、且つ本件考案の基板に対応するものと認められる振動板の裏面に配設されていないし、また被告第二製品では、本件考案の噴流パイプに対応すると認められる噴出ノズルは、本件考案の超音波発振子に対応するものと認められる振動子に平行に配設されていて、振動子を挾んで配設されておらず、且つ本件考案の基板に対応するものと認められる振動板の裏面に配設されていない。

そうすると、被告第一、第二製品ともに、本件考案の構成要件(C)を充足しないものといわなければならない。

原告Tは、噴流パイプが基板に設けられているか否かは、超音波による洗滌において噴流を併用するという本件考案の技術的思想を前提とすれば、特に取立てて論ずべき問題ではなく、また同様に噴流パイプの配設位置が発振子を挾んでいるか、発振子に挾まれているかといつたことも作用効果の上からいつて全く問題とならず、従つて噴流パイプの配設位置に差異があるとしても、それは全くの微差というべきであつて、両者は均等の構造といわれるものであると主張する。そこで考究するに、考案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(実用新案法第二六条により準用される特許法第七〇条参照)、本件考案の実用新案登録請求の範囲の項には、「基板裏面に、複数個の超音波発振子と、これら発振子を挾み、超音波の進行方向に処理室内の液を移動させる噴流パイプを配設し」と噴流パイプが基板裏面に超音波発振子を挾んで配設されることが明記されており、また本件明細書の考案の詳細な説明の項にも、実施例に即して、「10は各発振子4を挾んで、その発生する超音波の進行方向に洗滌液を噴流させるように基板6に複数本取付けた噴流パイプ」と実用新案登録請求の範囲の右構成と同様の構成が説明されており、次いで右の点を含む実施例の説明を受けて、このような装置であるから奏するという本件考案の作用効果が説明されており、反面本件明細書には噴流パイプが基板裏面でない個所に超音波発振子を挾まないで配設されているものまで本件考案の構成要件(C)を充足するものであることを示唆するような記載は全く存しないことが認められ、更に本件考案の出願審査の経過において、出願人は登録異議の申立に対する答弁書で、本件考案の要旨は実用新案登録請求の範囲の項の記載のとおりであることを主張し、審査官は登録異議申立人の引用した証拠(実用新案公告昭三四―一九七一四号公報)には本件考案の構成要件である「超音波処理室の開口底部周縁にて支持固着される基板裏面に、複数個の超音波発振子とこれら発振子を挾み、超音波の進行方向に処理室内の液を移動させる噴流パイプを配設した点」が記載されていないこと、そして右構成要件により本件考案は本件明細書記載の作用効果を生ずるものと認められ、従つて本件考案は右証拠に記載されたものとも、また右証拠記載のものから極めて容易に考案することができるものとも認められないことを理由として、登録異議の申立は理由がないとの決定をすると共に本件考案の登録出願について登録査定したことが認められ、以上の事実によれば、本件考案においては、基板裏面に超音波発振子を挾んで噴流パイプを配設するとの構成が必須の要件の一つであることが明らかである。なお、原告Tは、前記主張の結論を導く理由として、「超音波による洗滌において噴流を併用するという本件考案の技術的思想を前提とすれば」というが、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、「本考案においては……気泡が超音波を吸収し被処理物に作用する超音波を減衰させていることに着眼し、噴流を併用することにより被処理物表面に附着する気泡を追払い外部に放出させて、超音波を有効に被処理物に作用させるようになしたものである。」(本件公報一頁1欄二四行目ないし三三行目)と記載されていることが認められ、右記載及び本件考案の実用新案登録請求の範囲の項の記載によれば、噴流を併用するということは本件考案の目的で、この目的のために実用新案登録請求の範囲の構成を採用したものであることが認められるところであつて、かかる目的自体に考案性が認められたものでないことは明らかであり、本件考案と被告第一、第二製品とが噴流を併用するという点で一致するからといつて、そのことから被告第一、第二製品が本件考案の技術的範囲に属するものといえないことはいうまでもないことであり、更に昭和三九年四月刑行のサクラ精機株式会社のカタログ、昭和三九年八月刊行の臨床病理第一二巻第八号別冊、昭和四〇年二月四日特許庁資料館受入れのフランス特許第一、三六四、二八一号明細書及び図面によれば、本件考案の登録出願前既に噴流併用の超音波洗滌装置が公知公用であつたことが認められ、右事実によれば、本件考案の特徴は単に噴流を併用したところにあるのではなく、実用新案登録請求の範囲の項に記載された具体的構成にあることは明らかであり、これと構成を異にする被告第一、第二製品は本件考案とは技術的思想を異にするものであることは明らかであるから、被告第一、第二製品が噴流を併用し液を下方から上方に移動せしめる構造を具備するものであるとしても、そのことから被告第一、第二製品が本件考案の装置と均等の構造であるということができないこともまた明らかである。原告建部の主張は理由がない。

2  右のとおりであるから、その余の点について検討を加えるまでもなく、被告第一、第二製品は本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。

(四)  そうすると、原告建部の差止請求は、理由がないことに帰着し、棄却を免れない。

二原告会社の損害賠償請求について〈略〉

三よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を各適用して主文のとおり判決する。

(高林克己 清永利亮 塚田渥)

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