大判例

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東京地方裁判所 昭和51年(特わ)2675号 判決

本店所在地

東京都文京区千駄木一丁目一八番二号

株式会社 ユタカ商事

(右代表者代表取締役 松田幸子)

国籍

韓国

住居

東京都文京区千駄木一丁目一八番二号

会社役員

岡野豊三郎、金鐘夏こと金鍾夏

一九二五年月二月三日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について当裁判所は検察官清水勇男、弁護人垣鍔繁出席のうえ審理し次のとおり判決する。

主文

被告法人株式会社ユタカ商事を罰金五〇〇万円に、被告人金鍾夏を罰金三〇〇万円に処する。

被告人金鍾夏において右罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告法人株式会社ユタカ商事(以下単に被告会社という)は、東京都文京区千駄木一丁目一八番二号に本店を置き、特殊浴場経営等を目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人岡野豊三郎、金鐘夏こと金鍾夏は、同会社の取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人金鍾夏は、被告会社の代表取締役であり被告人金鍾夏の内縁の妻である松田幸子と共謀のうえ、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、入浴料収入の一部を除外して簿外預金を設定する等の方法により所得を秘匿したうえ

第一、昭和四七年七月一日から同四八年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八一八万二二一一円あつたのにかかわらず、同四八年八月三一日東京都文京区本郷四丁目一五番一一号所在の所轄本郷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三五八三万二〇四四円でこれに対する法人税額が一二八六万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二一〇八万一八〇〇円と右申告税額との差額八二一万三六〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(一)(三)のとおり)

第二、同四八年七月一日から同四九年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三五五一万八五一一円あつたのにかかわらず、同四九年八月二九日前記本郷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一六六万七八三八円でこれに対する法人税額が三九四万四〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一三四八万四四〇〇円と右申告税額との差額九五四万〇四〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(二)(三)のとおり)

たものである。

(証拠の標目)

判示全般の事実につき

一、被告人の検察官に対する各供述調書(二通)

一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年四月一日付、六月一一日付、八月二九日付各質問てん末書

一、松田幸子の検察官に対する供述調書

一、松田幸子の収税官吏に対する昭和五〇年二月一三日付、三月一〇日付各質問てん末書

一、登記官作成の登記簿謄本

一、押収してある法人税決議書綴一綴(当庁昭和五一年押第七八四号の四)

別紙(一)(二)の各勘定科目につき

一、大蔵事務官作成のトルコ収入除外額調査書、各店別公表売上等検討調査書および「物証による収入除外額の検討」調査書

(別紙(一)(二)の各番号〈1〉トルコ収入につき)

一、大蔵事務官作成の個人勘定(貸付金)調査書

(別紙(一)(二)の各番号〈2〉給料につき)

一、大蔵事務官作成の消耗品費調査書および消耗品中タオル費簿外割合調査書

(別紙(一)(二)の各番号〈15〉消耗品費につき)

一、大蔵事務官作成の「預金等各期残高及び受取利息等」調査書、「利子所得の源泉徴収税額にかかる過不足税額」調査書および個人勘定(貸付金)調査書

(別紙(一)(二)の各番号〈20〉受取利息につき)

一、大蔵事務官作成の「預金等各期残高及び受取利息等」調査書および押収してある総勘定元帳一冊(当庁昭和五一年押第七八四号の二)

(別紙(一)の番号〈22〉支払利息につき)

一、大蔵事務官作成の未納事業税調査書

(別紙(一)の番号〈32〉事業税認容、別紙(二)の番号〈28〉事業税認容につき)

(法令の適用)

一、該当罰条と刑種の選択

被告会社の判示第一、第二の各所為……各法人税法一六四条一項、一五九条

被告人の判示第一、第二の所為……刑法六〇条、各法人税法一五九条(いずれも罰金刑選択)

一、併合罪加重

被告会社および被告人につき……刑法四五条前段、四八条二項、

一、換刑処分

被告人につき……刑法一八条

(量刑の事情)

被告人金鍾夏は昭和四七年一二月二五日東京高等裁判所において業務上過失傷害、道路交通法違反により懲役六月に処せられ、昭和四八年一一月一五日右刑の執行を受け終つたものであり、右事実は被告人の当公判廷における供述および検察事務官作成の判決書謄本(三通)、捜査報告書により認められるところ、当裁判所が被告人金鍾夏の今回の罪の刑につき罰金刑を選択した理由は左のとおりである。

一、被告人はタクシー運転手、米軍物資の取引などの職歴を経て昭和四二年ごろから特殊公衆浴場、いわゆるトルコ風呂を内妻松田幸子と共に経営し、次第に規模を拡大していつたものであるが、事業規模拡大のための資金確保を主たる動機として本件脱税を企図したもので、そのほ脱税額は両年度合計で一七七五万円余にのぼつている。

二、もつともそのほ脱手段は現金売上の一部を簿外としあるいはタオルの架空仕入を計上するもので、特に悪質巧妙というほどのものではなく、正規税額に対する申告税額の割合も四割強であつて、刑事事件となるほ脱事犯としては、その額とともに極端に悪質な事例とは評価できず、本件摘発後は反省してほ脱額については修正申告により昭和四七年八月申告期限分を含め二八〇〇万円余りを完納し、重加算税等についても抵当権を設定し、約束手形を差入れて完納の見込であり、改悛の情が認められることなど被告人に有利な情状も少なくない。

三、ところで、被告人には前記の累犯となる前科があり懲役刑の選択をして実刑に処すべきか、罰金刑を選択すべきかが問題となるが、近時納税倫理の向上が叫ばれほ脱犯における個人の責任については懲役刑の選択がなされるのが通常であるところ、他方我国の納税倫理の向上の現時点での到達点に合わせて、特に悪質な事実を除いてほ脱額を納付し、三割の重加算税を納付したような場合には懲役刑につき執行猶予が付されるのが通例であることは当裁判所に顕著であつて、被告人に前記異質の前科があるからといつてただちに本件法人税法違反につき実刑をもつて臨むべきか否かは十分慎重に検討を要するものである。

被告人の前記前科の内容は酒酔い運転中の追突事故であつて交通事犯としては悪質であるとはいえ、一応刑を終え、その後同種事犯に累行するといつた反社会的態度も表われておらず、他の前科もすべて昭和四三年以前のもので特に現在留意すべきほどのものはなく、また被告人は右実刑の執行による反省を事業経営に十分関連させて考えていなかつたふしもうかがえ交通事犯と法人税というまつたく異質な事実であつてみれば右態度もただちに強い非難を加えることもできないと言わなければならない。

従つて当裁判所は右前科を本件の量刑に強く反映させるべきではなく、また前記の如く本件事案が他と比して極めて悪質と評価できない以上被告人には今回限り今後の税務処理にあたり強い警告を与えるにとどめ、重い罰金刑に処するのが相当であり、右量刑によつても他の同種事案との実質的均衡は十分保たれるものと思料する次第である。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社ユタカ商事

自 昭和47年7月1日

至 昭和48年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社ユタカ商事

自 昭和48年7月1日

至 昭和49年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)

ほ脱税額計算書

株式会社ユタカ商事

昭和47年7月1日

昭和48年6月30日事業年度分

昭和48年7月1日

昭和49年6月30日事業年度分

〈省略〉

〈省略〉

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