大判例

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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)170号 判決

主文

被告会社株式会社甲社を罰金七〇〇万円に、

被告人乙を懲役六月に、

それぞれ処する。

ただし、被告人乙に対し、この裁判の確定した日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都品川区に本店を置き、競馬新聞等の販売を営業目的とする資本金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社であり被告人は同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九九、九四五、二七二円(別紙(一)修正貸借対照表参照)あつたのにかかわらず、昭和四九年二月二八日、所轄品川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五七、九七五、一〇九円で、これに対する法人税額が二〇、八七六、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額三六、三〇〇、三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額一五、四二四、〇〇〇円を免れ

第二  昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一二〇、二五九、二二三円(別紙(二)修正貸借対照表参照)あつたのにかかわらず、昭和五〇年二月二八日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七二、二三七、三三二円で、これに対する法人税額が二七、八二三、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額四七、〇三二、三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額一九、二〇八、八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目) 〈省略〉

(本件逋脱所得の算定につき、いわゆる財産増減法によつたことについて)

本件逋脱犯における所得隠ぺい行為は、売上の一部除外であるところ、被告会社の経理担当者は、検察官に対し、売上除外分の観点からすると逋脱所得とされた金額がやや多すぎているとの印象を受ける旨供述し、被告人も、売上除外額については正確な数字はつかんでいないが、年間の売上除外に対応する配付部数を推計し、これに一紙当りの単価を乗ずると、各昭和四八、四九年におけるおおよそ一年間の売上除外金額は約三、六〇〇万円位である旨供述しており、しかして本件における逋脱所得の金額は、昭和四八年一二月期につき約四、二〇〇万円、昭和四九年一二月期につき約四、八〇〇万円であるところから、両者の金額に相当の開差があり、しかも本件逋脱所得の算定がいわゆる損益計算法によつて収支を明らかにせず、公表された貸借対照表に、前記売上除外金によつて構成された簿外の預貯金、有価証券や役員賞与を加算した修正貸借対照表によつてなされているところから、とくにこの点につき当裁判所の判断を示すこととする。

現行法人税法は、所得金額の計算につき法二二条において損益法計算原理を採用しているものと解されるが、従来から、企業会計上の公正妥当な会計処理として(法二二条四項参照)、貸借対照表による計算が併せ行なわれており、右両者によつて得られた数値は理論上一致するものとされるところから、税法上は、所得金額の正確な計算方法は、損益計算法によつて行ない、かつ貸借対照法によつて験算するのが妥当と解される。

しかしながら、税法は損益計算法によつて所得金額を正確に計算することができない事情が存すれば、推計課税をなし得る旨規定(法一三一条)されているので、従つて、かかる事情があれば、右推計課税によつて得られる数値よりも、より一層正確な所得金額を計算し得る方法によつて所得金額を立証できれば、それ自体、税法の趣旨に反しないということができる。そこで、叙上の貸借対照表の方法により、または、それと基礎を同じくするいわゆる財産増減法によつて所得を立証することも法の許容するところと解されるが、しかし、それは刑事裁判の本質上、個々の財産項目の算定も実額によることを要し、一応の立証で足りる単なる推計では許容されないといわねばならない。

これを本件についてみるに、検察官は競馬新聞の印刷会社の発行部数に売上率をかけて売上を算出することも考えられるが、売上率が一定していないため売上額を確定することができず、本件で所得の立証方法につき財産増減法によつたのは伝票等がそろつていなかつたためである旨釈明し、被告人も当公判廷において、これにそう供述をなし、売上除外にかかる伝票等も破棄されていることが認められるので損益計算法によつて所得金額も正確に計算しえない事情を認めることができる。

次に、本件修正貸借対照表の各財産項目は、いずれも実際の金額を把握したものであり、しかして預貯金や有価証券等は、被告会社の代表者たる被告人が、母親に対し、売上除外金の管理、運用を任せ、同女において会社簿外資金の運用として預貯金や株式投資を行なつていたものと認められるので、従つて、これらの資産はすべて被告会社に帰属する簿外資産であると認められる。

ところで、被告人の収税官吏に対し供述した売上除外とされる約三、六〇〇万円の金額について検討するに、それは、昭和四九年五月及び六月の二箇月分の印刷会社から被告会社へ納入された印刷枚数をもとに売上除外の配付部数を推計し一部当りの単価を乗じて得た一応の推計にすぎず、また、売上額も毎月変動することが窺われることからも、被告会社の一年分の実際額を表わすものではない。また、簿外預貯金にかかる相当額の利息収入等が存在することから、これを加算すれば、前記開差部分に近似することとなり、他からの持込み資産の混入も考えられないので、本件逋脱所得算定につきいわゆる財産増減法による立証は妥当なものと認めることができる。

(法令の適用)

被告会社につき

法人税法一五九条、一六四条一項、刑法四五条前段、四八条二項。

被告人につき

法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第二の罪の刑に加重)、二五条一項。

よつて、主文のとおり判決する。

(松澤智)

別紙〈省略〉

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