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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)7180号 判決

原告

有限会社平商事

右代表者

平庄市

原告

平庄市

原告ら訴訟代理人

圓山潔

阿部博道

被告

山形県

右代表者知事

板垣清一郎

右訴訟代理人

古澤茂堂

浜田敏

外五名

被告

右代表者法務大臣

住栄作

右指定代理人

須藤典明

外一名

主文

一  被告山形県は、原告有限会社平商事に対して金一六八八万一五五一円、原告平庄市に対して金一一〇万円、及び右各金員に対する昭和五三年八月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告山形県に対するその余の請求及び被告国に対する請求は、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告有限会社平商事に生じた費用の二分の一と被告山形県に生じた費用の二分の一については、これを一〇分し、その九を同原告の負担とし、その余は同被告の負担とし、同原告に生じたその余の費用と被告国に生じた費用の二分の一は同原告の負担とし、原告平庄市に生じた費用の二分の一と被告山形県に生じたその余の費用については、これを一〇分し、その九を原告平庄市の負担とし、その余は被告山形県の負担とし、原告平庄市に生じたその余の費用と被告国に生じたその余の費用は原告平庄市の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告山形県が、それぞれ、原告有限会社平商事に対して金五五〇万円、原告平庄市に対して金三〇万円の担保を供するときは、各原告による右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告有限会社平商事(以下「原告会社」という。)に対し、金二億〇五三一万一八五九円、原告平庄市(以下「原告庄市」という。)に対し、金一一〇〇万円及び右各金員に対する昭和五三年八月三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告らの請求はいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  事実の経過

(一) 原告庄市は、肩書住所地(以下「本件土地」という。)において、浴場業の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する、いわゆる個室付浴場業(以下「トルコ風呂営業」という。)を営むことを企図し、昭和四三年五月一一日、建築主事に対し、本件土地上に建築するトルコ風呂営業用建物の建築確認申請を行うとともに、山形県知事に対し、トルコ風呂営業のため浴場業の許可を申請した。

当時、余目町の区域は、風俗営業等取締法(以下「風営法」という。)四条の四第二項の規定に基づく条例によるトルコ風呂営業の指定禁止地域ではなかつたし、本件土地については、トルコ風呂営業に関し、何ら地域的規制は存しなかつた。

(二) このように、本件土地においては、トルコ風呂営業を適法に営むことができたのに、山形県行政当局及び県警察当局は、原告庄市による右営業を阻止する方針を打ち出した。

そこで、まず、本件土地から約134.5メートルの距離にある山形県東田川郡余目町大字常万字常岡所在の児童遊園(以下「本件児童遊園」という。)に目を付け、これに対し、山形県知事において、児童福祉法七条にいう児童福祉施設として、同法三五条三項所定の認可を与えれば、風営法四条の四第一項によつて、本件土地においてはトルコ風呂営業を営むことができなくなることから、余目町当局に対し、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請をするよう働きかけた。右県行政当局及び県警察当局の意を受けた余目町当局は、当時早急に本件児童遊園を認可施設とする格別の必要はなかつたのに、もつぱら原告庄市によるトルコ風呂営業を阻止するため、知事に対して右認可の申請をすることとし、同年五月二七日、臨時町議会を開いて、「余目町児童遊園設置条例」を制定し、本件児童遊園を「余目町立若竹児童遊園」として町営に移管したうえ、同年六月四日、知事に対し、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請をした。これを受けた山形県知事は、同月一〇日、その旨認可した(以下「本件認可処分」という。)。

(三) 一方、同年五月二三日には、前記建物について建築確認がおりた。その後、原告庄市は、トルコ風呂営業を会社組織で営むこととし、同年六月六日、右営業を目的として原告会社を設立し(資本金 金一〇〇万円、取締役 原告庄市他一名、代表取締役 同原告)、右同日、山形県知事に対し、改めて原告会社名義で浴場業の許可を申請した。右建物は、同年六月末ころ完成したが、右許可申請については、許可のおりる時期が通常の場合に比してかなり遅延し、同年七月三一日に至り、ようやく指令環第三八九三号をもつて許可がおりた。そこで、原告会社は、さつそく本件土地において、「トルコハワイ」という名称で、トルコ風呂営業を開始した。

(四) 原告会社が本件土地において浴場営業を開始するや、県警察当局は、本件土地が児童福祉施設たる本件児童遊園の敷地の周囲二〇〇メートルの区域内にあるので、風営法四条の四第一項によつて、同所ではトルコ風呂営業を営むことができないところ、原告会社及びその代表者である原告庄市は、右営業を営み、同法七条二項、八条の罪を犯しているとして、捜査を開始した。その捜査方法としては、本件土地付近に捜査員が張り込み、自動車で来た入浴客については、そのナンバーから所有者を割り出し、徒歩で来た入浴客については、尾行してその住所氏名を確かめたうえ、後に、これら入浴客を警察署や派出所に呼び出したり、あるいは捜査員がその勤務先や自宅を訪ねたりして、取調のうえ供述調書をとる等のことが行われた。そして、同年一二月一七日、原告庄市は逮捕され、酒田区検察庁検察官に送致された。

右送致を受けた検察官は、同月一九日、酒田簡易裁判所裁判官に対し、原告庄市の勾留を請求し、同原告は、同裁判所裁判官の発した勾留状により、同月二六日までその身柄を拘束された。

次いで、翌昭和四四年二月上旬ころ、原告会社の女子従業員五名が警察の取調を受け、うち三名が逮捕勾留された。

そして、同月一四日、酒田区検察庁検察官は、原告会社を風営法違反の罪で酒田簡易裁判所に起訴した。右起訴は、本件土地が児童福祉施設たる本件児童遊園の敷地の周囲二〇〇メートルの区域内にあるのに、同所において、原告会社の女子従業員が、原告会社の営業に関し、個室で異性の客に接触する役務を提供して、風営法四条の四第一項の規定に違反し、同法七条二項の罪を犯したとして、同法八条の両罰規定を根拠になされたものである。

さらに、山形県公安委員会は、同月二五日、原告会社に対し、原告会社が風営法四条の四第一項の規定に違反してトルコ風呂営業を営んだことを理由に、翌二六日から六〇日間営業の停止を命じた(以下「本件営業停止処分」という。)。

なお、本件認可処分、県警察の行つた捜査活動、原告庄市の逮捕及び勾留、原告会社の起訴並びに本件営業停止処分等原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業に関する一連の事実経過は、新聞、テレビ、ラジオ等において報道された。

(五) 原告会社は、昭和四四年三月、本件営業停止処分を不服として、その取消を求める訴を山形地方裁判所に提起したが、右訴訟係属中、営業停止期間が満了したので、山形県に対し本件営業停止処分による損害賠償を求める訴(本件営業停止処分に係る営業停止期間中の得べかりし利益金九〇万円のうち金一〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴)に変更した。同裁判所は、昭和四七年二月二九日、本件認可処分及び本件営業停止処分は適法であるとして原告会社の請求を棄却する旨の判決を言渡したので、原告会社は、右判決を不服として、仙台高等裁判所に控訴を提起したところ、同裁判所は、昭和四九年七月八日、本件認可処分は違法であるとして、原判決を取消し、原告会社の請求をすべて認容する旨の判決を言渡した。山形県は、右判決を不服として、最高裁判所に上告を提起したが、同裁判所は、昭和五三年五月二六日、右判決の判断を正当として、右上告を棄却する旨の判決を言渡した。

原告会社に対する前記風営法違反被告事件について、酒田簡易裁判所は、昭和四七年一〇月二三日、本件認可処分は有効であるとして、原告会社を罰金七〇〇〇円に処する旨の判決を言渡したので、原告会社は、右判決を不服として、仙台高等裁判所秋田支部に控訴を提起したが、同支部は、昭和四九年一二月一〇日、同じく本件認可処分は有効であるとして、右控訴を棄却する旨の判決を言渡した。そこで、原告会社は、さらに右判決を不服として、最高裁判所に上告を提起したところ、同裁判所は、昭和五三年六月一六日、本件認可処分は違法であり、原告会社によるトルコ風呂営業に対する関係においては無効であるとして、第一、二審判決を破棄し、原告会社を無罪とする旨の判決を言渡した。

2  関係公務員の行為の違法性

右に述べたところから明らかなとおり、本件認可処分は、原告会社によるトルコ風呂営業を阻止、禁止することを直接の動機、目的としてなされたものであつて、行政権の著しい濫用によるものとして違法である。

したがつて、また、本件認可処分は、原告会社によるトルコ風呂営業に対する関係においては無効であつて、原告会社によるトルコ風呂営業を禁止する根拠とはなりえず、原告会社、原告庄市及び原告会社の従業員には、風営法違反の犯罪事実はなかつたわけであるから、山形県警察の行つた前記捜査活動及び原告庄市の逮捕は違法である。そもそも、県警察当局は、原告会社によるトルコ風呂営業を阻止する意図を持つていたのであつて、右意図の下に右捜査活動及び逮捕行為に及んだものである。しかも、前記のような捜査方法をとつたのは、右意図の下に、警察による取調を受けるのを嫌つて原告会社が本件土地において経営する浴場(以下「本件浴場」という。)に客が寄り付かなくなるようにするためであつた。

同様に、酒田区検察庁検察官の行つた原告庄市の勾留請求及び原告会社の起訴も違法である。右検察官は、県行政当局及び県警察当局と共謀のうえ、原告会社によるトルコ風呂営業を阻止する意図の下に右各行為に及んだものである。仮にそうでないとしても、右検察官は、当時、新聞、テレビ、ラジオ等の報道によつて本件認可処分に至る経緯を承知していたのであるから、右処分が原告会社によるトルコ風呂営業に対する関係においては違法かつ無効であり、したがつて、右処分を根拠として原告庄市を勾留し、原告会社を起訴してはならないことを十分認識しえたのに、これを看過した点において過失がある。

同様に、本件営業停止処分も違法であつて、山形県公安委員会は、原告会社によるトルコ風呂営業を阻止する意図の下に、右処分を行つたものである。

また、前記新聞、テレビ、ラジオ等における報道は、県行政当局及び県警察当局が、原告庄市ないしは原告会社によるトルコ風呂営業を阻止する意図のもとに、原告庄市ないしは原告会社があたかも違法行為を行つているかのような印象を県民に与えようとして積極的にマスコミ操作を行つた結果である。

3  被告らの責任原因

被告山形県は、本件認可処分については、国家賠償法三条一項に基づき(右処分は知事に対する機関委任事務であるところ、同被告は、右事務の執行に当たる知事に俸給、給与を支払い、所要の経費を負担する者である。)、県警察の行つた前記捜査活動及び原告庄市の逮捕、本件営業停止処分並びに前記マスコミ操作については、同法一条一項に基づき、賠償責任を負い、被告国は、酒田区検察庁検察官の行つた原告庄市の勾留請求及び原告会社の起訴について、同法同条項に基づき、賠償責任を負う。

ところで、本件認可処分、県警察の行つた前記捜査活動及び原告庄市の逮捕、酒田区検察庁検察官の行つた原告庄市の勾留請求及び原告会社の起訴並びに本件営業停止処分は、互いに密接不可分の関係にあつて、全体として一個の不法行為を形成しており、したがつて、右不法行為は、知事、警察官、検察官及び公安委員会委員による共同の不法行為とみるのが相当であるから、被告山形県及び同国は、各自連帯して右不法行為によつて原告らが被つた損害を賠償すべき責任を負う。

4  原告らの損害

原告らは、右不法行為によつて、次のとおりの損害を被つた。

(一) 原告会社の損害 合計金二億〇五三一万一八五九円

(1) 逸失利益 金一億九一一五万二二九一円

本件浴場には、営業開始から原告庄市が逮捕された日の前日である昭和四三年一二月一六日まで、一日平均四一人の入浴客があつたが、翌一七日以降は入浴客が激減し、原告会社に対する風営法違反被告事件の上告審判決が言渡された昭和五三年六月一六日までの実際の入浴客数は、別表(一)「実入浴客数」欄記載のとおりである(ただし、昭和四三年一二月一七日から昭和四四年五月三一日までの期間のうち、営業停止期間である昭和四四年二月二六日から同年四月二六日までの六〇日間の入浴客数はゼロであり、右六〇日間を除いたその余の一〇六日間については、原告会社に記録がないので、同年六月一日から三年間の実入浴客数を基にして一日当たりの平均値を算出し、これをもつて右一〇六日間の一日当たりの入浴客数とみなした。)。

前記不法行為がなければ、昭和四四年二月一七日以降も一日平均四一人の入浴客があつたはずであるのに、右不法行為の結果、右のとおりの入浴客数しか得られなかつたのであつて、右入浴客数の減少は、右不法行為の結果もたらされたものにほかならない(右得べかりし入浴客数及びこれと実入浴客数との差は、別表(一)「得べかりし入浴客数」及び「逸失入浴客数」各欄記載のとおりである。ただし、営業停止期間である昭和四四年二月二六日から同年四月二六日までの六〇日間については、本訴において逸失利益の請求をしないので、右期間については、得べかりし入浴客数を計上していない。)。

ところで、本件浴場の入浴料は、営業開始時は金一〇〇〇円であつたが、その後、昭和四六年七月一日金一五〇〇円に、昭和四七年五月一日金二〇〇〇円に、昭和四八年六月一日金二五〇〇円に、昭和四九年一月一日金三〇〇〇円に、同年六月一日金四〇〇〇円に、昭和五一年一月一日金五〇〇〇円にそれぞれ値上げされた。

したがつて、前記不法行為によつて原告会社が失つた入浴料収入は、右各入浴料に各期間ごとの逸失入浴客数を乗じた額となる(右計算及びその結果は、別表(一)「備考」及び「逸失入浴料収入」各欄記載のとおりである。)。

そこで、次に、本件浴場営業の必要経費についてみるに、右は、固定費(入浴料収入の増減にかかわらず増減しない費用)と変動費(入浴料収入の増減に応じて増減する費用)とから成つているところ、昭和四三年一二月一七日以降昭和五三年六月一六日までの実入浴料収入に対応する必要経費は支出済みであり、そのうちの固定費は入浴料収入が増加しても不変であるから、逸失入浴料収入からこれに対応して増加する変動費を控除すれば、原告会社の逸失利益が得られるはずである。そして、固定費と変動費への費用分解は、各費目の性格に着目してこれを固定費と変動費とに分類整理する方法(勘定科目法)によつて行うのが相当であり、右方法によつて、右期間における実入浴料収入に対応する変動費を各年度ごとに算出し、その実入浴料収入に対する割合を各年度ごとに求め、さらに各年度の数値の合計を年度数で除してその平均値を求めれば、41.7パーセントという数値が得られる。しかして、逸失入浴料収入に対応して増加する変動費の右収入に対する割合もまた、同様に41.7パーセントとみることができるから、原告会社の逸失利益は、逸失入浴料合計金三億二七八七万七〇〇〇円から41.7パーセントの変動費を控除した残額金一億九一一五万二二九一円となる。

(2) 裁判費用 合計金一四一五万九五六八円

(ア) 風営法違反被告事件関係

交通費 金二五万円

ただし、原告庄市の出廷及び準備活動に要した費用

弁護士費用 金二〇〇万円

原告会社は、右事件の弁護を弁護士安達十郎に依頼し、その報酬(手数料、日当及び謝金等一切を含む。)として金二〇〇万円を支払うことを約した。

(イ) 前記本件営業停止処分取消請求(後の損害賠償請求)事件関係

原告会社は、右訴訟の提起及び追行を弁護士安達十郎に委任し、その報酬(手数料、日当及び謝金等一切を含む。)として金二〇〇万円を支払うことを約した。

(ウ) 本件訴訟関係

原告会社は、本件訴訟の提起及び追行を弁護士圓山潔及び同阿部博道に委任し、同弁護士らに手数料として金四〇万円を支払い、また、報酬として金九五〇万九五六八円を支払うことを約した。

(二) 原告庄市の損害 合計金一一〇〇万円

(1) 慰藉料

原告庄市は、前記不法行為によつて、著しく名誉を侵害され、甚大な精神的、肉体的苦痛を被つた。これに対する慰藉料としては、金一〇〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用

原告庄市は、右慰藉料請求訴訟の提起及び追行を弁護士圓山潔及び同阿部博道に委任し、その報酬として右慰藉料額の一〇パーセントに当たる金一〇〇万円を支払うことを約した。

よつて、原告らは、被告ら各自に対し、国家賠償法に基づき、原告会社については、同原告の損害額合計金二億〇五三一万一八五九円(ただし、原告会社の逸失利益は、昭和四四年二月二六日から同年四月二六日までの六〇日間のそれを除いて請求するものである。)、原告庄市については、同原告の損害額合計金一一〇〇万円及び右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五三年八月三日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

l(一) 請求原因1(一)の事実は認める。

(二) 同1(二)の事実のうち、山形県東田川郡余目町大字常万字常岡に児童遊園があり、本件土地から右児童遊園までの距離が約134.5メートルであること、余目町当局が、昭和四三年五月二七日、臨時町議会を開いて原告主張の条例を制定したこと、本件児童遊園を「余目町立若竹児童遊園」として町営に移管したこと、同年六月四日、山形県知事に対し、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請をしたこと、これを受けた知事が、同月一〇日、その旨認可したことは認め、その余は否認する。

(被告山形県)

当時本件児童遊園を管理していた常万部落では、部落の財政能力の点から、かねてより余目町みずから本件児童遊園を維持管理することを希望し、その旨町当局に対し懇請していたものであつて、町営移管の措置は、このような従前からの部落民の意向を汲んだものにすぎず、さらに、余目町当局としては、無資格遊園地を町立にすることは相当でないし、町としても財政負担の軽減を図る必要があつたので、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請に及んだものであつて、当時本件児童遊園を認可施設とする必要があつた。

(三) 同1(三)の事実のうち、原告主張の許可申請については許可のおりる時期が通常の場合に比してかなり遅延したとの点は否認し、その余は認める。

(四) 同1(四)の事実は認める。

(五) 同1(五)の事実は認める。

2 同2は否認ないし争う。

3 同3は争う。

4 同4は不知ないし争う。

三  被告らの主張及び被告山形県の抗弁

1  (被告山形県)

本件認可処分は適法である。すなわち、行政処分が本来の趣旨、目的以外の目的でなされた場合にも、それが行政権の濫用によるものとして違法となるには、当該処分が、それを行う必要性、合理性が何ら存しないにもかかわらず、もつぱら他の目的のために行われたことを要するものというべきところ、先に述べたとおり、本件認可処分については、当時これを行うべき十分な必要性、合理性が存したのであり、換言すれば、本件認可処分は、原告会社によるトルコ風呂営業の阻止、禁止を主たる目的として行われたものではないから、何ら違法と評されるいわれはない。

また、県警察の行つた捜査活動及び逮捕行為並びに本件営業停止処分は、いずれも本件認可処分を前提としてなされたものであるところ、本件認可処分が存在する以上、右のような行為を行うことは、行政機関たる県警察及び県公安委員会にとつて、当然果たすべき職責であり、何ら非難さるべきいわれはない。

2  (被告山形県)

仮に、本件認可処分等が違法であつたとしても、被告が賠償すべき原告会社の損害は、営業停止期間中の休業損害に限定されるべきであつて、本件認可処分等とその余の原告会社の損害との間には相当因果関係がない。また、原告は、一日平均四一人をもつて得べかりし入浴客数とするが、これは開店直後という特殊な状況下における数値であつて、一般に、その後の恒常的な利用客数に比してかなり高い数値を示しているものと考えられる。現に、本件認可処分が違法である旨判示した前記最高裁判所の民刑両判決が言渡され、そのことが新聞、テレビ、ラジオ等において報道された後も、本件浴場の入浴客数は引き続き低位の水準にとどまり、原告主張の水準にまで回復していないことは、そもそも原告主張の因果関係が存在せず、また、一日平均四一人という入浴客数が過大な数値であることの証左にほかならない。

また、原告は、勘定科目法に依拠しつつ、昭和四三年一二月一七日以降昭和五三年六月一六日までの期間における入浴料収入に対する変動費の割合(変動経費率)は41.7パーセントであるとするが、勘定科目の性格に着目して費用を分解することは必ずしも経理の実態に即しているとはいえず、費用の分解は最小二乗法に依るべきであつて、右方法によつて原告会社の変動経費率を算出すれば、93.8パーセントという数値が得られ、原告が主張する逸失利益の額が過大なものであることは明らかである。

3  (被告国)

酒田区検察庁検察官の行つた原告庄市の勾留請求及び原告会社の起訴は適法である。すなわち、後に刑事事件において無罪の判決が確定したからといつて、そのことから直ちに起訴前の勾留請求や起訴が違法となるわけではなく、勾留請求は、その時点において犯罪の嫌疑につき相当な理由があり、かつ、必要性が認められれば適法であり、起訴は、その時点における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるのである。これを本件についてみるに、原告会社に対する前記風営法違反被告事件について、第一、二審裁判所がいずれも本件認可処分は有効であるとして有罪の判決を下していることに徴しても、勾留請求時、さらには起訴時において、それぞれそれ相当の嫌疑が存したことは明らかであり、また、事件の性質上、その立証は関係者の供述に俟たなければならないところ、原告会社は原告庄市の個人企業であつて、同原告は関係者に対し極めて強い影響力を有していたことからすれば、原告庄市については、罪証を隠滅するおそれが多分にあつたといわざるをえず、勾留の必要性が存したことも明らかである。

4  消滅時効の抗弁(被告山形県)

(一) 原告会社は、請求原因1(五)記載のとおり、昭和四四年三月、本件営業停止処分の取消を求める訴を提起し、その後、同年六月一一日付「訴変更申立書」によつて、右訴を山形県に対する損害賠償請求訴訟に変更したが、右書面には、本件認可処分を違法としつつ、これを前提とする本件営業停止処分も違法であるとして、これによつて、原告会社の被つた損害の賠償を求める旨の主張が記載されている。しかして、右訴変更申立書が作成された日の翌日から既に三年を経過した。

(二) ところで、国家賠償法四条により、本訴請求債権についても民法七二四条の規定が適用されるべきところ、ここに損害を知るとは、単に損害の発生という客観的事実を知るだけでは足りず、併せてそれが不法行為によつて生じたものであることまで知るを要し、行政処分によつて生じた損害の賠償請求権については、当該処分が違法であることまで知るを要するが、右認識は確定的なものであることを要せず、被害者において損害賠償の請求をなしうると判断しうる程度に知れば足りると解するのが相当である。これを本件についてみるに、右(一)のとおりであるから、原告会社の代表者である原告庄市は、遅くとも昭和四四年六月一一日には、本件認可処分及び本件営業停止処分のみならず、原告が本訴において問題としている県警察の行つた捜査活動や原告庄市の逮捕、勾留請求及び原告会社の起訴等がいずれも違法であることを右の程度には知つていたというべきであり、したがつて、右行為によつて生じた損害の賠償を求める本訴請求債権は、右同日の翌日から三年の経過によつて時効消滅した。

(三) 被告山形県は、本訴において右時効を援用する。

四  原告の反論及び抗弁に対する認否

1  被告らの主張2に対する原告の反論

本件浴場には、既に県警察による前記営業妨害行為が始まつていたにもかかわらず、一日平均四一人の入浴客があつたのであつて、右妨害行為がなければ、県内唯一の独占企業であるから、一日平均一〇〇人を超える入浴客を確保することも十分可能だつたのである。しかも、一般に、浴場業にあつては、営業の継続に伴い、次第に固定客が増加していく傾向がみられ、商品小売業や飲食業のように、開店当初にふだんより多くの客が集まるという現象はない。したがつて、一日平均四一人という入浴客数は、過小でこそあれ、到底過大な数値とはいえない。前記最高裁判所の両判決が言渡され、そのことが新聞、テレビ、ラジオ等において報道された後も、本件浴場の入浴客数が引き続き低位の水準にとどまり、右水準にまで回復しないのは、右判決後も、県行政当局及び県警察当局が、引き続きマスコミを操作して、県民が本件浴場を利用しないように仕向け、さらに、県警察が直接種々の営業妨害を行つているからにほかならない。

また、被告山形県は、変動経費率の算出につき、最小二乗法に依るべきであるとするが、右方法をとるには、その前提として、商品の販売価格(本件では入浴料)や固定費が一定で異常な出費がないことなどの条件が備わつていることが必要であつて、これらの条件が欠けるときは、右方法によつては正確な数値は得られない。しかるに、本件にあつては、前記のとおり、入浴料が数回にわたつて値上げされているなど右条件は満たされておらず、右方法をとることは相当でない(ちなみに、一般実務においても、右方法は用いられておらず、もつぱら勘定科目法が用いられている。)。

2  抗弁に対する認否

(一) 抗弁(一)の事実は認める。

(二) 同(二)は争う。

請求原因1(五)記載のとおり、原告会社の提起した訴について、山形地方裁判所は、昭和四七年二月二九日、本件認可処分及び本件営業停止処分は適法であるとして、原告会社の請求を棄却する旨の判決を言渡したが、右事実からも明らかなとおり、被告山形県主張の時点から本訴請求債権の消滅時効が進行するとすることは相当でない。

五  原告の反論に対する被告山形県の再反論

県行政当局及び県警察当局が、原告主張のようなマスコミ操作を行い、あるいは、県警察が直接種々の営業妨害を行つているとの事実は全く存しない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一まず、本件の事実経過について検討するに、請求原因1(一)の事実は、当事者間に争いがない。

〈証拠〉並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  昭和四三年五月初めころ、本件土地において、原告庄市がトルコ風呂営業を始めるとの噂が広まると、常万部落、余目町、さらには山形県下の婦人団体を中心に、右トルコ風呂営業を阻止すべきであるとの気運が急速に高まり、余目町当局及び山形県当局に対し、各種団体から、町や県として右トルコ風呂営業を阻止するための方策をとるよう陳情や請願が活発に行われた。このような動きを受けて、まず、余目町当局が、右トルコ風呂営業を阻止する方針を打ち出し、さらに、山形県当局においても、県警察本部を中心に、次第に右トルコ風呂を好ましからざる施設としてその営業を阻止すべきであるとの意見が強まり、右トルコ風呂営業を阻止する方針をとるに至つた。そのころ、関係者の間では、余目町においてトルコ風呂営業を営むことを阻止・禁止するには、同町の区域をトルコ風呂営業の指定禁止地域に追加指定する条例改正を行うのが正道であるが、県議会の召集時期の関係上、右条例改正を早急に実現することは事実上困難であり、したがつて、右条例改正によつては、原告庄市によるトルコ風呂営業を阻止することができないため、原告庄市によるトルコ風呂営業を阻止する方策としては、本件土地から約134.5メートルの距離にある本件児童遊園(本件土地と本件児童遊園との間の距離は、同月一〇日ころ、余目警察署員の手によつて測定され、既に県警察本部防犯課に報告済であつた。)に対し、山形県知事において、児童福祉法七条にいう児童福祉施設として同法三五条三項所定の認可を与える方法以外にない(すなわち、本件土地は本件児童遊園の敷地の周囲二〇〇メートルの区域内にあるため、本件児童遊園が児童福祉施設として認可されれば、風営法四条の四第一項によつて、本件土地においてはトルコ風呂営業を営むことができなくなるわけである。)との考え方が支配的になつていた。そこで、県行政当局としても、今後は本件児童遊園を児童福祉施設に格上げする方向で対策を推し進めることとし、余目町当局に対し、右認可の申請を早急に行うよう積極的に指導し、働きかけた(以上の事実のうち、本件土地から本件児童遊園までの距離が約134.5メートルであることは、当事者間に争いがない。)。

2  同月二三日には、前記建物について建築確認がおりたが、右1のような動きがあつたことから、原告庄市に対する右建築確認の通知書には、近く本件児童遊園を児童福祉施設とする動きもあり、右児童遊園が児童福祉施設になつた場合には、自動的に本件土地でトルコ風呂営業を営むことは風営法の規制に牴触することになる旨県警察本部防犯課から連絡があつたとの注意書が付された(以上の事実のうち、同月二三日に前記建物について建築確認がおりたことは、当事者間に争いがない。)。

3  同月二五日には、県議会厚生常任委員会が開かれ、本件土地において開業が予定されている原告庄市によるトルコ風呂営業の問題について討議が重ねられたが、席上、吉村県民生部長は、「県としては好ましくない施設という立場から余目町に指導を行つてきた。しかし、去る二三日、建築確認済であり、今後公衆浴場の許可も認められる公算が強い。残された対策は、建設予定地から約一三〇メートルの距離にある本件児童遊園を一刻も早く整備したうえ、これを認可施設に昇格させること以外にはない。そうすれば、風営法の規制によつて、同所ではトルコ風呂営業を営むことはできなくなる。町当局も、近く本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請をしてくれる方針である。」旨県行政当局の態度を表明し、同委員会は、右県行政当局の姿勢を了承したうえ、今後は本件児童遊園を児童福祉施設にする方向で対策を推し進めるよう、県行政当局及び余目町当局に対する意見を取りまとめた。同委員会の審議を傍聴していた富樫余目町長は、委員会終了後記者会見を行い、「二七日に臨時町議会を開いて、本件児童遊園を町営に移管したうえ、直ちに県知事に対し認可の申請をしたい。さつそく必要な工事にとりかかる予定だが、一週間もあれば認可を受けるに必要な遊具などを完備できる。」旨町当局の方針を明らかにした。

4  県行政当局の指導、働きかけを受けた余目町当局は、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請を早急に行う方針を決定し、まず、本件児童遊園につき、常万部落から水道、便所及び砂場等の設備の寄附を受けるなどして認可基準に合致するよう一応の整備を行うとともに、同月二七日、臨時町議会を開いて、「余目町児童遊園設置条例」を制定し、本件児童遊園を「余目町立若竹児童遊園」として町営に移管する旨議決したうえ(右条例は、翌二八日、公布施行された。)、翌二八日、山形県知事に対し、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請をした。右認可申請については、県の担当者から、申請書に一部不備の点があるうえ、認可を受けるに必要な施設も未だ完成していないとの指摘を受けたので、余目町当局は、これを一旦取下げ、申請書の不備を補正したうえ、同年六月四日、知事に対し、改めて認可の申請を行つた(以上の事実のうち、余目町当局が、同年五月二七日、臨時町議会を開いて、「余目町児童遊園設置条例」を制定したこと、本件児童遊園を「余目町立若竹児童遊園」として町営に移管したこと、同年六月四日、山形県知事に対し、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。)。

ところで、昭和三八年に余目町内の小中学校が統廃合された結果、常万小学校は廃校となり、同校の校舎及び敷地は民間に払下げられることになつたが、余目町当局は、昭和四〇年、同校の敷地の一部を子供達の遊び場として残して欲しいとの常万部落民の要望を容れ、同校の敷地の一部を払下げの対象から除外し、昭和四一年四月一日、これを部落会長に児童遊園として無償で貸与したのが本件児童遊園の始まりである。常万部落としては、かねてより、余目町当局に対し、本件児童遊園の維持管理費を同部落で負担するのは、その財政能力からみて過重であるため、これを町営に移管して欲しい旨の希望を持つていたが、余目町当局としては、当時、学校統廃合事業の執行による財政難の折から、当面本件児童遊園を町営に移管する意向は持つていなかつたし、ましてや、児童福祉施設として認可を受けるには、それに必要な一定の条件を満たすためさらに出捐を要したので、これを認可施設にする考えは毛頭なかつた。しかるに、本件児童遊園を児童福祉施設にすれば、原告庄市によるトルコ風呂営業を阻止できるから、その旨の認可申請を早急に行うよう県行政当局の指導、働きかけを受けるや、当時、余目町として、早急に本件児童遊園を町営に移管し、これを認可施設にする格別の必要はなかつたのに、急遽、町営移管のうえ認可申請に及んだものである。

5  原告庄市は、本件土地におけるトルコ風呂営業を会社組織で営むこととし、昭和四三年六月六日、右営業を目的として原告会社を設立し(資本金 金一〇〇万円、取締役 原告庄市他一名、代表取締役 同原告)、右同日、山形県知事に対し、改めて原告会社名義で公衆浴場の許可申請をした(以上の事実は、当事者間に争いがない。)。

6  前記認可申請を受けた山形県知事は、現地に係員を派遣して、本件児童遊園が認可に必要な条件を満たしているかどうかを調査させたうえ、同月一〇日、異例の早さで、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨認可した(以上の事実のうち、前記認可申請を受けた山形県知事が、同月一〇日、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨認可したことは、当事者間に争いがない。)。

7  前記2のとおり、前記建物について建築確認がおりたので、原告庄市は、直ちに建物建築工事に着手し、右工事は、同年六月末ころ完了した。その後、同年七月一一日、完成建物について工事完了検査が行われ、同月一三日付で、右建物が法令に適合していることを証明する旨の検査済証が発行された(以上の事実のうち、前記建物が同年六月末ころ完成したことは、当事者間に争いがない。)。

8  浴場業の許可に関する事務は、県衛生部環境衛生課の管掌するところであつたが、原告会社による前記5の許可申請については、県警察本部が、本件土地から約134.5メートルの距離に児童福祉施設たる本件児童遊園があるから、同所でトルコ風呂営業を営むことは、風営法四条の四第一項の規定に違反し、同法七条二項の罪に当たるとして、不許可が相当であるとの立場をとつたため、環境衛生課としても、許可を出す方向で手続を進めることができない状態にあつた。

その後、同年七月二五日、県警察本部は、原告庄市に対し、環境衛生課を通じて同本部公安委員会室に出頭を求めたうえ、完成済の右トルコ風呂営業用建物を個室付でない構造に改め、異性の客に接触する役務を提供する営業は営まないよう再三勧告するとともに、右勧告に応じることなくトルコ風呂営業を営むときは、風営法違反として取締る旨警告した。これに対し、原告庄市は、右勧告には応じられないとしてこれを拒否した。

さらに、同年七月二九日、県警察本部の指示を受けた余目警察署員は、原告会社に対し、トルコ風呂営業は営まない旨の文書の提出を求めた。原告会社としては、トルコ風呂営業を断念する意思は全くなかつたけれども、当時、同年八月上旬にも、余目町の区域をトルコ風呂営業の指定禁止地域に追加指定する旨の条例改正が行われる状勢であつたため、この際、一刻も早く許可を得なければ、結局営業を断念せざるをえなくなつてしまうと考えるに至り、右同日、余目警察署長に対し、トルコ風呂営業は営まない旨記載した「営業方針誓約書」を、翌三〇日、環境衛生課長に対し、同趣旨を記載した「営業内容説明書」を、それぞれ提出した。右文書が提出されたことで、県警察本部も不許可相当との意見を変更するに至り、翌三一日、指令環第三八九三号をもつて右許可申請に対する許可がおりた(以上の事実のうち、同年七月三一日、指令環第三八九三号をもつて原告会社による前記5の許可申請に対する許可がおりたことは、当事者間に争いがない。)。

9  右8のとおり、同年七月三一日に公衆浴場の許可がおりたので、原告会社は、さつそく本件土地において「トルコハワイ」という名称でトルコ風呂営業を開始した(以上の事実は、当事者間に争いがない。)。

以上の各事実が認められる。〈証拠〉中、右認定に反する部分は信用しない。

請求原因1(四)及び(五)の各事実は、当事者間に争いがない。

二以上の事実に基づき、まず、被告山形県の損害賠償責任の有無について判断するに、右責任の原因に関する原告らの主張は、要するに、本件認可処分、県警察の行つた捜査活動及び原告庄市の逮捕、本件営業停止処分並びに県行政当局及び県警察当局が行つたとするマスコミ操作が、いずれも違法な公権力の行使に当たるというに帰する。

そこで、まず、本件認可処分について検討するに、前記一で認定したところから明らかなとおり、県行政当局は、本件土地における原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業を阻止する方針のもとに、本件児童遊園を認可施設に格上げするという間接的な手段を用いて、右営業ができない状態を作出することとし、余目町当局に対して、本件児童遊園を児童福祉施設とする旨の認可の申請を早急に行うよう積極的に指導し、働きかけたものであり、また、同じく右営業を阻止する方針をとつていた余目町当局は、県行政当局による右指導、働きかけを受けるや、当時、早急に本件児童遊園を認可施設にすべき格別の必要もなかつたのに、さつそく、本件児童遊園を町営に移管したうえ、右認可申請に及んだものであつて、このような本件認可処分に至る経緯に照らすと、山形県知事は、余目町当局と意思相通じて、本件土地における原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業を阻止するため本件認可処分を利用したものといわざるをえない。してみると、本件認可処分は、右営業を阻止、禁止することを直接の動機、主たる目的としてなされたものというべきところ、本来、児童福祉施設たる児童遊園の設置の認可は、同施設が児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操を豊かにすることを目的とする施設であることに鑑み、その趣旨に沿つてなさるべきものであるから、前に認定した事実関係のもとでなされた本件認可処分は、行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、本件土地における原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業を規制しうる効力を有しないものといわなければならない。

次に、県警察の行つた捜査活動及び原告庄市の逮捕について検討するに、前記一で認定したところから窺えるとおり、県警察当局は、当初から原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業を阻止する方針にのつとり、これを最も積極的に推進したものであつて、本件認可処分が右営業の阻止、禁止を直接の動機、主たる目的としてなされたことも十分承知していたのであるから、県警察の行つた捜査活動及び原告庄市の逮捕は、原告会社によるトルコ風呂営業を阻止ないしは妨害する意図のもとになされたと評されても致し方ないというべきであり、これに、本件認可処分が、前説示のとおり、原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業を規制しうる効力を有しないものであることをあわせ考えれば、これまた、捜査権の濫用によるものとして違法である。

さらに、本件営業停止処分について検討するに、先にも述べたとおり、本件認可処分は、行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、権限ある機関の取消をまつまでもなく、原告会社によるトルコ風呂営業を規制しうる効力を有しないのであるから、原告会社には風営法違反の事実はなかつたことになる。したがつて、本件営業停止処分は、処分の前提たる違反事実が存しないのになされた処分といわなければならない。そのうえ、山形県公安委員会も、知事の所轄のもと、県警察当局の一翼を担う機関として、原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業を阻止する方針にのつとり、本件認可処分が右営業の阻止、禁止を直接の動機、主たる目的としてなされたものであることを十分承知のうえで、本件営業停止処分に及んだものであるから、仮に同委員会がかかる措置の違法性につき明確な認識を欠いていたとしても、これもまた、違法な公権力の行使というを妨げない。

なお、原告は、請求原因2において、県行政当局及び県警察当局が、原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業を阻止する意図のもとに、原告庄市ないしは原告会社があたかも違法行為を行つているかのような印象を県民に与えようとして、積極的にマスコミ操作を行つた旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はなく、この点に関する原告の主張は理由がない。

以上のとおり、本件認可処分、県警察の行つた捜査活動及び原告庄市の逮捕並びに本件営業停止処分は、いずれも故意又は過失(関係公務員が、その採つた措置の違法性につき、明確な認識を欠いていたとしても、少なくとも、その点につき過失があつたというべきである。)に基づく違法な公権力の行使であるから、被告山形県は、本件認可処分については、国家賠償法三条一項に基づき(右処分は知事に対する機関委任事務であるところ、被告山形県は、右事務の執行に当たる知事に俸給、給与を支払い、所要の経費を負担する者である。)、県警察の行つた捜査活動及び原告庄市の逮捕並びに本件営業停止処分については、同法一条一項に基づき、右各行為によつて原告らが被つた損害を賠償すべき責任を負う。

三被告山形県の消滅時効の抗弁について

1  抗弁(一)の事実は当事者間に争いがなく、同(三)の事実は、訴訟上顕著である。

2  ところで、国家賠償法四条により、本訴請求債権についても民法七二四条の規定が適用されるところ、ここに損害を知るとは、損害が発生したこと及び当該加害行為が違法であることを知ることをいうと解される。この点について、被告山形県は、原告会社の昭和四四年六月一一日付「訴変更申立書」に、本件認可処分を違法としつつ、これを前提とする本件営業停止処分も違法であるとして、これによつて原告会社が被つた損害の賠償を求める旨の主張が記載されている事実を捉え、これを根拠に、原告会社の代表者である原告庄市は、遅くとも右同日には、本件認可処分及び本件営業停止処分のみならず、原告が本訴において問題としている県警察の行つた捜査活動や原告庄市の逮捕、勾留請求及び原告会社の起訴等がいずれも違法であることを知つていたとして、右同日の翌日から本訴請求債権について三年の短期消滅時効が進行する旨主張する。そこで判断するに、確かに、昭和四四年六月一一日付の右書面には、右のような主張が記載されているけれども、本件認可処分や本件営業停止処分が法律的に違法であるか否か、さらには、原告庄市ないし原告会社のトルコ風呂営業を規制しうる効力を有するか否かを判断することは容易でなく(このことは、本件営業停止処分取消請求(後の損害賠償請求)事件について、第一審裁判所が、本件認可処分及び本件営業停止処分は適法であると判断し、また、原告会社に対する風営法違反被告事件について、第一、二審裁判所が、いずれも本件認可処分は有効であると判断したことに照らしても、明らかというべきである。)、たとえ原告庄市において当時既に本件認可処分等が原告会社によるトルコ風呂営業を阻止、禁止することを直接の動機、主たる目的としてなされたものであるとの認識を有していたとしても、そのような事実を知つていたからといつて、一般人ないしは通常人において、本件認可処分等が違法であるとの判断に達することができるとはいい切れないから、原告庄市は昭和四四年六月一一日には本件認可処分等が違法であることを知つていたとして、右同日の翌日から消滅時効が進行するとするのは相当でない(また、原告会社は、本訴において、昭和四三年一二月一七日以降昭和五三年六月一六日までの営業停止期間六〇日間を除く九年四か月にわたる期間の入浴客の減少による営業損失の賠償を求めているところ、昭和四四年六月一一日の時点において、右のような長期間にわたつて入浴客の減少という事態が生ずることを予見することができたとは認められないから、右賠償請求権については、右同日の時点において既に損害が発生したことを知つていたということもできない。)。

よつて、抗弁は理由がない。

四次に、被告国の損害賠償責任の有無について判断するに、右責任の原因に関する原告らの主張は、要するに、酒田区検察庁検察官の行つた原告庄市の勾留請求及び原告会社の起訴が、違法な公権力の行使に当たるというに帰する。

そこで検討するに、前記二で述べたとおり、本件認可処分は原告会社によるトルコ風呂営業を規制しうる効力を有しないのであるから、原告庄市及び原告会社の女子従業員には、それぞれ、右勾留請求ないし起訴の対象たる風営法違反の犯罪事実はなかつたことになる。しかしながら、後日刑事事件において無罪が確定するなど(本件では、原告会社に対する風営法違反被告事件につき、原告会社の無罪が確定している。)、後に犯罪事実が存しないことが客観的に明らかになつたとしても、そのことから、直ちに起訴前の勾留請求や起訴が違法となるわけではない。勾留請求は、その時点において、罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があり、かつ、その必要性が認められるかぎり適法であり、また、起訴は、その時点における諸々の証拠資料を総合勘案して、合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、適法と解するのが相当である。そこで、かかる基準に従い、当時の時点に立つて、酒田区検察庁検察官の行つた原告庄市の勾留請求及び原告会社の起訴の適否についてみるに、まず、酒田区検察庁検察官が、県行政当局ないしは県警察当局と意思相通じて、原告庄市ないしは原告会社のトルコ風呂営業を阻止する方針をとり、この方針にのつとつて、本件認可処分が右営業を阻止、禁止することを直接の動機、主たる目的としてなされたものであることを十分承知のうえで、右勾留請求及び起訴に及んだものと認めるに足りる証拠はない。そうすると、確かに、右検察官としても、新聞、テレビ、ラジオ等の報道を通じ、本件認可処分に至る経緯につきある程度の事情は知つていたのではないかと考える余地もないではないが、たとえそうであつたとしても、当時の時点において、警察から被疑事件の送致を受けた検察官に対し、本件認可処分が行政権の濫用によるものとして違法であり、原告会社によるトルコ風呂営業を規制しうる効力を有しないとの判断に達するよう期待することは、原告会社に対する風営法違反被告事件について、第一、二審裁判所が、いずれも本件認可処分は有効であつて、原告会社によるトルコ風呂営業を禁止する根拠たりうると判断したうえ、原告会社に対し有罪判決を言渡したことに照らしても、酷に失するものといわざるをえない。したがつて、本件認可処分が存在する以上、一応その存在を前提にして、原告庄市及び原告会社の女子従業員につき風営法違反の犯罪事実があると判断することは、被疑事件の送致をうけた検察官として合理的な判断過程を踏んだものということができる。しかして、本件にあつては、当時、勾留請求に当たつて必要とされる嫌疑はもちろんのこと、起訴に当たつて必要とされる嫌疑も存したというべきである。さらに、勾留請求の必要性についてみるに、トルコ風呂営業が営まれているとの事実の立証は、事柄の性質上、関係者の供述に依存せざるをえないところ、前記争いのない事実によれば、原告会社は原告庄市の個人企業であつて、同原告が原告会社の従業員に対して強い影響力を有していたと考えざるをえず、したがつて、原告庄市においてこれら従業員に対し右影響力を及ぼしてその供述内容を偽らせる虞れがあつたということができるから、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があつたというべきであつて、右必要性も肯定される。そうすると、酒田区検察庁検察官の行つた原告庄市の勾留請求及び原告会社の起訴は、違法な公権力の行使とはいえず、被告国の責任に関する原告の主張は理由がない。

なお、原告は、請求原因3において、本件認可処分、県警察の行つた捜査活動及び原告庄市の逮捕、酒田区検察庁検察官の行つた原告庄市の勾留請求及び原告会社の起訴、本件営業停止処分並びに県行政当局及び県警察当局が行つたとするマスコミ操作は、互いに密接不可分の関係にあつて、全体として一個の不法行為を形成しているとして、被告山形県及び同国は、右不法行為による損害につき連帯責任を負うべきである旨主張するが、たとえ右各行為が相互に密接不可分な関係にあつたとしても、被告国の公権力の行使たる検察官の行為に違法性がなく、被告国が右行為につき責任を負わない以上、他の行為によつて生じた損害について被告国が賠償責任を負うべきいわれはない。

五そこで、さらに進んで、被告山形県の賠償すべき損害の範囲及びその額について判断するに、前記二に判示したとおり、被告山形県は、本件認可処分、県警察の行つた捜査活動及び原告庄市の逮捕並びに本件営業停止処分によつて、原告らが被つた損害を賠償すべき責任を負うところ、本件認可処分や県警察の行つた捜査活動及び原告庄市の逮捕、さらには本件営業停止処分等が行われたときには、原告庄市が勾留され、原告会社が起訴され、さらに原告庄市ないしは原告会社の営業に関する一連の事実経過が新聞、テレビ、ラジオ等において報道されるに至ることは、通常生ずべき事態であつて、県知事、県警察当局及び県公安委員会は、それぞれ、右各行為の当時、右のような事態が招来されるであろうことを十分予見できたということができるから、被告山形県は、原告庄市の勾留、原告会社の起訴及び新聞、テレビ、ラジオ等における報道によつて原告らが被つた損害についても(ただし、報道による損害については、通常行われることが予想される程度の報道による損害の限度で)賠償責任を負わなければならないというべきである。

以下、順次検討していくこととする。

1  原告会社の逸失利益

(一)  〈証拠〉によれば、昭和四三年八月八日から同月三一日までの二四日間、同年一一月一日から同月三〇日までの三〇日間及び同年一二月一日から同月一六日までの一六日間における本件浴場の実際の入浴客数は、それぞれ、九四四人、一二三〇人及び七三五人であつたことが認められ、右事実によれば、右各期間ごとの一日当たり平均実入浴客数は、それぞれ、39.3人、四一人及び45.9人(小数点以下第二位四捨五入。一日当たりの平均実入浴客数については、以下同様とする。)であつて、右各期間を通じての一日当たり平均実入浴客数は、41.5人であるから、本件浴場には、営業開始から昭和四三年一二月一六日まで、少なくとも一日平均四一人の入浴客があつたことを推認することができ、〈証拠〉によれば、営業停止期間である昭和四四年二月二六日から同年四月二六日までの六〇日間の入浴客数はゼロであつたことが認められる。また、〈証拠〉によれば、昭和四四年六月一日から昭和五三年六月一六日までの間における本件浴場の月ごとの実際の入浴客数は、別表(二)「実入浴客数」欄記載のとおりである別表(一)「期間」欄記載の各期間ごとの実際の入浴客数は、同表「実入浴客数」欄記載のとおりである)ことが認められる(右事実によれば、右期間中の月ごと及び年ごとの一日当たり平均実入浴客数は、それぞれ、別表(二)「月ごとの一日当たり平均実入浴客数」及び「年ごとの一日当たり平均実入浴客数」各欄記載のとおりである。)。なお、昭和四三年一二月一七日から昭和四四年五月三一日までの期間のうち、営業停止期間六〇日間を除いたその余の一〇六日間における本件浴場の実際の入浴客数については、直接的な証拠はないが、〈証拠〉によれば、原告庄市が逮捕勾留されていた間は、本件浴場の営業は続けられていたものの、開店休業の状態にあつたこと、営業停止期間が終了して営業を再開した後は、客足が遠のいたことが認められ、また、前記のとおり、昭和四四年二月上旬ころ、原告会社の女子従業員五名が警察の取調を受け、うち三名が逮捕勾留されたところ、前記認定のとおり、昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日までの月ごとの及び一年を通じての一日当たり平均実入浴客数は、別表(二)各欄記載のとおりであることからすれば、右一〇六日間における一日当たり平均実入浴客数は一〇人であり、したがつて、右期間における実際の入浴客数は一〇六〇人と推認することができる。さらに、〈証拠〉によれば、本件浴場の入浴料は、営業開始から昭和四六年六月三一日までが金一〇〇〇円、同年七月一日から昭和四七年四月二四日までが金一五〇〇円、同月二五日から昭和四八年五月三一日までが金二〇〇〇円、同年六月一日から同年一二月三一日までが金二五〇〇円、昭和四九年一月一日から同年五月三一日までが金三〇〇〇円、同年六月一日から昭和五〇年一二月三一日までが金四〇〇〇円、昭和五一年一月一日以降が金五〇〇〇円であることが認められる。

(二)  ところで、原告は、請求原因4(一)(2)において、被告山形県が責任を負うべき前記違法な公権力の行使がなければ、昭和四三年一二月一七日以降昭和五三年六月一六日に至るまで、本件浴場には一日平均四一人の入浴客があつたはずであり、右のとおり入浴客が減つたのは、右違法な公権力の行使によつてもたらされた結果にほかならない旨主張する。

確かに、県警察が行つたような捜査活動が行われると、本件浴場に入浴すれば警察の取調を受け、また、そのことが地域で噂の対象にされるなど、一定の不利益を被ることが予想されるわけだから、一たび警察の取調を受けるなどした者はもちろんのこと、新聞、テレビ、ラジオ等の報道によつて本件浴場につき警察の捜査が行われていることを知り、あるいは、口伝えにその捜査方法を知つた者も、そのような不利益をおそれて、本件浴場への入浴を差し控えるに至るであろうことは、経験則上肯定することができ、また、本件浴場につき警察の捜査が行われたばかりか、原告庄市が逮捕、勾留され、原告会社が起訴され、さらには原告会社が営業停止処分を受け、そしてこれらの事実が新聞、テレビ、ラジオ等を通じて広く報道されると、原告庄市ないしは原告会社が違法行為を行つているのではないかとの疑念がひろまり、そのゆえに本件浴場から客足が遠のく事態も、社会通念上通常起こりうべきことというべきであつて、前記違法な公権力の行使が本件浴場の入浴客の減少にあずかつて力あつたことは否定すべくもない。

しかしながら、他方、〈証拠〉によれば、昭和四四年三月以降は、原告会社によるトルコ風呂営業について、婦人団体等による反対運動は起きていないこと、昭和四四年三月以降昭和五三年五月二六日前記最高裁判所の民事判決が言渡されるまで、右営業に関する報道が新聞、テレビ、ラジオ等を賑わしたことはないこと、前記本件営業停止処分取消請求(後の損害賠償請求)事件及び前記原告会社に対する風営法違反被告事件の審理を住民が傍聴したことはないことが認められ、また、〈証拠〉によれば、県警察は、原告会社によるトルコ風呂営業について、昭和四四年三月以降も暫くは同様の捜査を続けたものの、その後は一度も原告庄市や原告会社の従業員を取調べたことはないことが認められる(その他、県当局が原告会社によるトルコ風呂営業を阻止するため何らかの方策をとつたことを認めるに足りる証拠はない。)ところ、前記認定のとおり、昭和四四年六月から昭和四九年五月までの五年間の一年ごとの一日当たり平均実入浴客数は、それぞれ、10.1人、9.5人、10.0人、10.0人及び9.2人で、一日平均九人ないし一〇人の水準で安定し、同年六月から昭和五三年五月までの四年間の一年ごとの一日当たり平均実入浴客数は、それぞれ、7.5人、7.1人、6.4人及び7.5人で、一日平均六人ないし七人の水準で安定しており、増加していないこと、また、本件認可処分が違法かつ無効である旨判示した前記最高裁判所の民刑両判決が言渡され、そのことが新聞、テレビ、ラジオ等において報道された後も、本件浴場の入浴客数は引き続き低位の水準にとどまり、一日平均四一人の水準には回復していないこと(以上の事実は、当事者間に争いがない。なお、原告は、このように入浴客数が回復しないのは、右判決後も、山形県行政当局及び県警察当局が、マスコミを操作して県民が本件浴場を利用しないように仕向け、さらに、県警察が直接種々の営業妨害を行つているからである旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。)など、前記違法な公権力の行使と前記入浴客の減少との間の因果関係を肯定することに疑問を感じさせるような事情も存し、さらに本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すれば、本件にあつては、前記違法な公権力の行使のために、一日平均四一人の入浴客を確保することができなかつたのは、営業停止期間が終了して、右違法な公権力の行使が一応終了したということができる昭和四四年四月末日から二年が経過した昭和四六年四月末日までとみるのが相当である。

(三)  そうすると、前記認定事実によれば、昭和四三年一二月一七日から昭和四六年四月末日までの本件浴場の実際の入浴客数は、七九〇八人であるところ、右期間のうち、営業停止期間六〇日間を除いた(営業停止期間については、逸失利益の請求はされていないので)その余の八三六日間、一日平均四一人の入浴客があつたとすると、得べかりし入浴客数は、三万三〇〇五人となり、したがつて、逸失入浴客数は、二万五〇九七人となる。そして、前記認定のとおり、右期間中の入浴料は金一〇〇〇円であるから、結局、前記違法な公権力の行使によつて原告会社が失つた入浴料収入は、金二五〇九万七〇〇〇円となる。

(四)  そこで、本件浴場営業の必要経費について検討する。まず、必要経費は、固定費(入浴料収入にかかわらず増減しない費用)と変動費(入浴料収入の増減に応じて増減する費用)とから成つているところ、昭和四三年一二月一七日以降昭和五三年六月一六日までの実入浴料収入に対応する必要経費は支出済みであり、そのうちの固定費は入浴料収入が増加しても不変であるから、前記違法な公権力の行使によって原告会社が失つた入浴料収入からこれに対応して増加する変動費を控除すれば、原告会社の逸失利益が得られるはずである。ところで、固定費と変動費への費用分解は、本件にあつては、各費目の性格に着目してこれを固定費と変動費とに分類整理する方法(勘定科目法)によつて行うのが相当である(この点につき、被告山形県は、最小二乗法に依るべきである旨主張する。しかし、右方法をとるには、その前提として、商品の販売価格(本件では入浴料)や固定費が一定で異常な出費がないことなどの条件を必要とし、これらの条件が欠けるときは、正確な数値は得られない。しかるに、本件にあつては、前記認定のとおり、入浴料が数回にわたつて改定されているなど右条件は満たされていないので、右方法をとることは相当でない。)。そこで、右方法によつて、右期間における実入浴料収入に対応する変動費についてみるに、〈証拠〉によれば、昭和四四年六月一日から昭和五三年五月三一日までの九年間の実入浴料収入に対応する変動費を一年ごとに算出したうえ、右各期間の実入浴料収入に対する変動費の割合を求め、さらに右各数値の合計を年数九で除した数値は0.417であることが認められる。しかして、右数値は、昭和四三年一二月一七日から昭和五三年六月一六日までの期間における実入浴料収入に対応する変動費の実入浴料収入に対する割合の平均値とみることができるところ、逸失入浴料収入に対応して増加する変動費の右収入に対する割合もまた、同様に41.7パーセントであるとみることができるはずである。そうすると、原告会社の逸失利益は、逸失入浴料収入金二五〇九万七〇〇〇円から41.7パーセントの変動費を控除した残額金一四六三万一五五一円となる。

2  原告会社の裁判費用

(一)  〈証拠〉によれば、原告会社は、同原告に対する前記風営法違反被告事件の関係で、同原告代表者原告庄市の出廷及び準備活動に要する費用として、少なくとも金二五万円の支払を余儀なくされたことが認められるところ、これもまた、前記違法な公権力の行使によつて社会通念上通常生ずべき損害ということができる。

(二)  〈証拠〉によれば、原告会社は、弁護士安達十郎に対して、同原告に対する前記風営法違反被告事件の弁護を依頼し、また、前記本件認可処分取消請求(後の損害賠償請求)訴訟の提起及び追行を委任し、その報酬(手数料、日当及び謝金等一切を含む。)として、各事件につき金二〇〇万円ずつ支払うことを約したことが認められるところ、各事件の内容や難易、審理経過等諸般の事情に鑑みれば、原告会社が右両事件に関して被告山形県に対し損害賠償として請求しうる弁護士費用は、各事件につき金五〇万円ずつが相当である。また、弁論の全趣旨によれば、原告会社は、本件訴訟の追行を弁護士圓山潔及び同阿部博道に委任し、同弁護土らに手数料として金四〇万円を支払い、報酬として金九五〇万九五六八円を支払うことを約したことが認められるところ、本件事案の内容や難易、審理経過、認容額等諸般の事情に鑑みれば、原告会社が本件訴訟に関して被告山形県に対し損害賠償として請求しうる弁護士費用は、金一〇〇万円が相当である。

3  原告庄市の慰藉料

前記違法な公権力の行使の態様、それによつて原告庄市が受けた苦痛の態様及び程度その他本件口頭弁論に顕われた一切の事情を総合考慮すれば、右苦痛に対する慰藉料としては、金一〇〇万が相当である。

4  原告庄市の弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告庄市は、本件訴訟の追行を弁護士圓山潔及び同阿部博道に委任し、その報酬として金一〇〇万を支払うことを約したことが認められるところ、本件事案の内容や難易、審理経過、認容額等諸般の事情に鑑みれば、原告庄市が被告山形県に対し損害賠償として請求しうる弁護士費用は、金一〇万円が相当である。

六以上によれば、原告らの本訴請求は、被告山形県に対し、原告会社については金一六八八万一五五一円、原告庄市については金一一〇万円及び右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五三年八月三日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、同被告に対するその余の請求及び被告国に対する請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項を、同免脱宣言について同条三項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(佐久間重吉 池田克俊 山口裕之)

別表(一)、(二)〈省略〉

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