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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)7508号 判決

原告

東京都

右代表者東京都知事

鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士

浜田脩

被告

佐野志づ

被告

大江渉

右両名訴訟代理人弁護士

鈴木一郎

錦織淳

浅野憲一

高橋耕

笠井治

佐藤博史

黒田純吉

主文

一  被告佐野志づは、原告に対し、別紙被告別滞納目録(一)の「滞納使用料等一覧・合計額」欄記載の金員及びこれに対する昭和五七年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告大江渉は、原告に対し、別紙被告別滞納目録(二)の「滞納使用料等一覧・合計額」欄記載の金員及びこれに対する昭和五七年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件各都営住宅の賃貸

原告は、公営住宅法(以下「公住法」という。)二五条一項、東京都住宅条例(以下「都条例」という。)三条に基づき、昭和二七年四月一日に被告佐野志づ(以下「被告佐野」という。)に対して別紙被告別滞納目録(一)の「所在地」欄記載の都営住宅につき、同年九月四日に被告大江渉(以下「被告大江」という。)に対して別紙被告別滞納目録(二)の「所在地」欄記載の都営住宅につき、それぞれ使用許可をなし、そのころ、右各都営住宅(いずれも昭和二六年度建設の第一種都営住宅、以下「本件各都営住宅」という。)をそれぞれ引き渡した。

2  昭和五一年の使用料改定

(一) 昭和五一年の使用料改定に至る背景事情(物価変動)

東京都統計年鑑昭和五五年版によつて昭和二六年と昭和五〇年を比較すると、消費者物価指数(総合)が二五・九から一〇〇へ、民間家賃指数が一一・一から一〇〇へ、設備修繕指数が一四・三から一〇〇へ、それぞれ上昇している。それにもかかわらず、本件各都営住宅の使用料は、昭和二六年度建設時に設定された当初使用料が昭和三五年に一度改定されただけで、それ以後は昭和五一年一一月に至るまで一度も増額改定されたことがなかつた。そのため昭和五〇年当時の全都営住宅の使用料別割合は、使用料一〇〇〇円以下の住宅が約二パーセント、同五〇〇〇円以下の住宅が約五〇パーセント、同一万円以下の住宅が約九〇パーセントとなり、入居者の収入に対する使用料の負担率も平均三・四パーセントと低下した。そして、都営住宅使用料は諸物価に比較し相対的に極めて低下した状態となつたので多くの都営住宅団地では使用料収入が維持管理費に追いつかず、修繕費が大幅に不足するなど、都営住宅の管理に多大の支障をきたすことになつた。

(二) 東京都住宅対策審議会への諮問

原告東京都の知事(以下「知事」という。)は、公住法一三条一項一号、都条例一〇条一項一号に基づき公住法一三条三項所定の限度額(以下「変更法定限度額」という。)の範囲内において使用料を改定することとし、昭和五〇年一一月一四日、東京都住宅対策審議会条例により知事の附属機関として設置された東京都住宅対策審議会(以下「住対審」という。)に対し、「都営住宅使用料(家賃)の是正」の可否、対象、改定額等について諮問した。

(三) 住対審の答申

住対審は、昭和五一年六月二二日、知事に対し、「既存住宅の使用料が諸物価の高騰、所得水準の上昇に伴なう経済、社会事情の変動により住宅資産の維持管理が困難になる等現状に著しく適合しなくなつていることから、適正妥当な額に是正する必要がある。是正対象は昭和四五年度建設計画分(昭和四五年度から昭和四七年度公募)及びこれと公募年度、基準使用料を同じくする住宅までとする。そのうち、本件各都営住宅の改定使用料については、変更法定限度額の範囲内において、金四四〇〇円を増額の基準としたうえ、住宅の立地、規模等、効用の格差を考慮して決定すべきである。」旨の答申(以下「本件五一年度答申」という。)をした。

(四) 知事による使用料額決定

知事は、昭和五一年一〇月一五日、右本件五一年度答申を尊重して使用料額を決定することとし、前記増額基準額四四〇〇円を別表一使用料改定経過表「51改定・事業主体の長による調整後の増額」欄記載のとおり金三六五〇円に減額調整し、この調整額に同表「51」改定・改定前使用料」欄記載の各金額をそれぞれ加え、公住法一三条一項一号、都条例一〇条一項一号(物価変動)に基づき、同表「51改定・改定使用料」欄記載の各金額を昭和五一年度の改定使用料額と決定した(以下「本件五一改定」という。)。

(五) 改定使用料額の告示

知事は、昭和五一年一〇月一五日付東京都広報において、同年一二月一日から実施することとして右改定使用料額の告示をし、さらに別紙被告別滞納目録(一)及び(二)の各「使用料・通知日」欄記載のとおり、被告らに右改定使用料額の個別通知をした。

3  昭和五五年の使用料改定

(一) 昭和五五年の使用料改定に至る背景事情(物価変動及び不均衡是正)

東京都統計年鑑昭和五五年版によつて昭和五〇年と昭和五四年を比較すると、消費者物価指数(総合)が一〇〇から一二八・一へ、民間家賃指数が一〇〇から一三六・六へ、設備修繕指数が一〇〇から一三四・五へ、それぞれ上昇しており、本件五一改定後の三年間の物価変動もかなりなものとなつた。また、昭和五一年までの使用料改定では、都営住宅毎の効用(規模、立地条件、設備等)の差がほとんど反映されていなかつた。しかも、一度設定された使用料は簡単に改定できないため、異なる住宅間では住宅効用差や物価変動に伴なう使用料の負担格差が反映されないまま固定され、住宅相互間で均衡を失する状態となつた。

(二) 住対審への諮問

知事は、公住法一三条一項一号、二号、都条例一〇条一項一号、二号に基づき変更法定限度額の範囲内において使用料を改定することとし、昭和五四年一月二九日、住対審に対し、「居住水準に見合つた都営住宅の適正な使用料(家賃)の負担はどうあるべきか」について諮問した。

(三) 住対審の答申

住対審は、昭和五四年一二月二四日、知事に対し、答申を行つた。その内容は、「使用料についてはインフレの亢進などによつて建設年次の古い住宅ほど使用料は低廉となつており新規入居者の使用料との間で著しい負担の不均衡が生じているから、新規住宅及び既存住宅を統一的に評価し、その住宅の規模、経年及び立地条件の違い等によつて調整すべきである。実施対象は昭和四九年度公募対象住宅(昭和四八年建設の一部)及びこれと基準使用料を同じくする住宅(合計約二〇万三〇〇〇戸)までとする。その具体的方策として、毎月の収入基準の中間値に一六パーセントを乗じて決定した昭和五五年公募の新規住宅の基準使用料金三万六五〇〇円を既存の第一種住宅の基準使用料とし、これに規模、経年、立地条件及び設備の調整指数合計を乗じた額をもつて個別団地の適正使用料とする。但し、急激な負担増にならないように、そのうち第一種住宅においては、増額が金三〇〇〇円以内のものはその金額を、増額が金三〇〇〇円を超えるものは金三〇〇〇円にその超えた金額の二分の一を加算した額を、以上の計算による増額が金五〇〇〇円を超えるものは金五〇〇〇円を、それぞれ増額金額とする。」というものであつた(以下「本件五四年度答申」という。)。

(四) 知事による使用料額決定

右答申によれば、本件各都営住宅の適正使用料額は、第一種住宅の基準使用料金三万六五〇〇円に別表二55改定に関する調整指数表「合計指数」欄記載の数字を乗じた額、即ち、別表一「五五改定・住対審答申による適正使用料」欄記載の金額となる。

知事は、昭和五五年五月一九日、右本件五四年度答申を尊重して使用料額を決定することとし、右住対審による適正使用料額から別表一「55改定・調整減額」欄記載の金額を減額し、公住法一三条一項一号、二号、都条例一〇条一項一号(物価変動)、二号(住宅相互間の不均衡是正)に基づき、同表「55改定・改定使用料」欄記載の各金額を昭和五五年度の改定使用料額と決定した(以下「本件五五改定」という。)。

(五) 改定使用料額の告示

知事は、昭和五五年五月一九日付東京都広報において、同年七月一日から実施することとして右改定使用料額の告示をし、さらに別紙被告別滞納目録(一)及び(二)の各「使用料・通知日」欄記載のとおり、被告らに右改定使用料額の個別通知をした。

4  本件各使用料改定における変更法定限度額の規制の遵守

(一) 変更法定限度額の規制とその計算方法

本件各都営住宅の昭和五一年度及び昭和五五年の各使用料改定(以下「本件各使用料改定」という。)については、公住法一三条二項所定の手続を経ないものであるから、変更法定限度額を超えないものであることが必要である。その変更法定限度額は、公住法一二条一項、一三条三項、公営住宅法施行令四条の四、四条に基づき別表三「変更法定限度額の算出方法」記載の算出方法によつて算出することになつている。

(二) 変更法定限度額最小値の計算方法とその範囲内での変更

本件各使用料改定時における変更法定限度額の最小値は、別表一中の「変更法定限度額」欄記載の各金額のとおりであつて、本件各使用料改定の改定額(以下「本件各使用料改定額」という。)は、いずれも右変更法定限度額の構成要素の一つである地代相当額の最小値すら超えていない。

(三) 地代相当額の最小値の計算方法

右各地代相当額の最小値の計算方法は、次のとおりである。

(1) 固定資産税評価額相当額(別表三及び四)

イ 公営住宅法施行令四条の四第三項によれば、地代相当額算出の要素となる固定資産税評価額相当額は、近傍類似の土地の固定資産税評価額に相当する金額となる。

ロ そこで、知事は、近傍類似の土地として、左記の各土地を選定した。

関町四丁目第四住宅につき、

練馬区関町北二丁目甲五四三番

宅 地 二六四・四六平方メートル

評価額 昭和五〇年度 金二四〇〇万円

昭和五四年度 金三〇四一万二九〇〇円

関町六丁目第二住宅につき、

練馬区関町北四丁目甲二八一番九号

宅 地 二二〇・六九平方メートル

評価額 昭和五〇年度 金九六八万〇二〇〇円

昭和五四年度 金一二三五万八六四〇円

ハ 右各土地の評価額を基礎に本件各使用料改定時の固定資産税評価額相当額を算出すると、それぞれ別表四中の「51改定・固定資産税評価額相当額」欄及び「55改定・固定資産税評価額相当額」欄記載の各金額(同表中の右各土地の各「m2当り固定資産税評価額」欄記載の各金額を本件各都営住宅の一戸当り敷地面積である同表中の「戸当り敷地面積欄」記載の面積に乗じて得た金額)となる。

(2) 土地取得造成費及び土地取得造成費補助額―補助金率(別表三)

イ 土地取得造成費は、土地取得に要した費用及び宅地造成に要した費用の実際額である。

ロ 昭和四四年法律第四一号改正前の公住法(以下「旧公住法」という。)七条一項、三項、二条五号によれば、当該公営住宅の建設費用は、第一種住宅についてはその費用の二分の一を国が事業主体に対し補助する(但し、建設大臣の定めた標準建設費の二分の一を限度とする。)ものとされ、その建設費の中には土地取得造成費を含むものとされていた。

ハ しかしながら、建設大臣の定めた標準建設費は、その内訳である主体工事費、物置設置費、附帯工事費及び土地取得造成費がそれぞれ実費より常に低廉に定められ、しかも国の補助は標準建設費の内訳項目毎の費用(補助基本額)の二分の一ずつを基準として各項目毎の補助額が決定されて交付されていたため、土地の取得造成費について言えば実際の補助金率(土地取得造成費補助額を土地取得造成費で除したもの)は二分の一より小さい値となり補助金率の最大値は二分の一となる。

(3) ところで、別表三中のE「地代相当額」欄中、「固定資産税評価相当額×{土地取得造成費補助額÷土地取得造成費}(補助金率)×0.06」の計算式による数値は、全体式の控除要素であるから、補助金率が大きければ大きいだけその控除数値が大きくなり、補助金率が最大値のときに地代相当額が最小値になるという関係にある。したがつて、補助金率の最大値二分の一のときに地代相当額が最小値となる。

(4) 地代相当額最小値(別表四)

そこで、補助金率の最大値二分の一の数値をもつて仮に算出の基礎と考え、本件各使用料改定時の地代相当額の最小値を算出すると、別表四中の「51改定・地代相当額最小値」及び「55改定・地代相当額最小値」の各欄記載の金額となり、本件各都営住宅の地代相当額はこの金額を下回ることはない。

(四) 家賃収入補助額について(別表三)

家賃収入補助額についての制度は、公住法一二条の二によつて認められるものであるが、同条は、昭和四四年法律第四一号により、土地の取得造成費についての国の援助の方式が補助から地方債による融資に改められたために創設されたものであつて、右改正法施行日以降建設の公営住宅にだけ適用されるものであるから、昭和二六年度建設の本件各都営住宅については家賃収入補助はなかつた。

(五) まとめ

以上によれば、本件各使用料改定は、いずれも、変更法定限度額の構成要素の一つである地代相当額の最小値すら超えないものであり、変更法定限度額の範囲内の変更であるから、公住法一二条一項、一三条三項、公営住宅法施行令四条、四条の四に照らし、適法である。

5  付加使用料

(一) 付加使用料額の決定

知事は、被告大江の昭和五一年一二月一日から同五七年三月三一日までの年間総収入額を別表五の一及び六の一の各「収入認定月額及び付加使用料計算式」の各「年間総収入」欄記載のとおり、右期間中の同居扶養親族数、老人扶養数を別表五の四及び六の一の各「同居・扶養親族数等一覧」記載のとおりに、それぞれ認定し、別表五の一ないし三及び六の一ないし三の各計算式に基づき、別表五の一及び六の一の各中の「付加使用料」欄記載のとおり付加使用料を決定した。

(二) 付加使用料額の通知

知事は、別紙被告別滞納目録(二)の「付加使用料・通知日」欄記載の日に、被告大江に対し、右付加使用料額を通知した。

6  よつて、原告は、被告佐野に対し、別紙被告別滞納目録(一)の「滞納使用料等一覧・合計額」欄記載の金員及びこれに対する昭和五七年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を、被告大江に対し、別紙被告別滞納目録(二)の「滞納使用料等一覧・合計額」欄記載の金員及びこれに対する昭和五七年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)のうち、本件各都営住宅の使用料は、昭和二六年度建設時に設定された当初使用料が昭和三五年に一度改定されただけで、それ以後は昭和五一年一一月に至るまで一度も増額改定されなかつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同2(二)の事実は認める。

(三)  同2(三)の事実は認める。

(四)  同2(四)の事実は認める。

(五)  同2(五)の事実のうち、知事が昭和五一年一〇月一五日付東京都広報において同年一二月一日から実施することとして改定使用料額の告示をしたことは認めるが、知事が別紙被告別滞納目録(一)及び(二)の各「使用料・通知日」欄記載とおり被告らに個別の通知をしたことは否認する。

3(一)  同3(一)の事実は否認する。

(二)  同3(二)の事実は認める。

(三)  同3(三)の事実は認める。

(四)  同3(四)の事実は認める。

(五)  同3(五)の事実のうち、知事が昭和五五年五月一九日付東京都広報において同年七月一日から実施することとして改定使用料額の告示をしたことは認めるが、知事が別紙被告別滞納目録(一)及び(二)の各「使用料・通知日」欄記載のとおり被告らに個別の通知をしたことは否認する。

4(一)  同4(一)の事実は認める。

(二)  同4(二)の事実は否認する。

(三)(1)  同4(三)(1)のうち、イ及びロの事実は認めるが、ハの事実は不知。

(2)  同4(三)(2)のうち、イ及びロの事実は認めるが、ハの事実は否認する。

(3)  同4(三)(3)の事実は否認する。

(4)  同4(三)(4)の事実は否認する。

(四)  同4(四)の事実は認める。

(五)  同4(五)の主張は争う。

5(一)  同5(一)の事実は認める。

(二)  同5(二)の事実は否認する。

三  被告らの主張及び抗弁

1  使用料改定を知事に委任した都条例一〇条一項の無効性

公住法一三条一項は、公営住宅の家賃の改定は条例の形式によるべきものと定めている。しかるに都条例一〇条一項は、都知事が都議会の議決を経ずに右家賃(使用料)を改定できるものと定めて公住法一三条一項の委任事項を包括的に知事に再委任しており、公住法一三条一項に違反しているから、無効な規定というべきである。そして、本件各使用料改定は、このように無効な都条例一〇条一項に基づいて行われたもので、公住法が定める条例の法形式によつて行われていないから、無効な使用料改定というべきである。

2  変更法定限度額算定上の誤りによる無効

(一) 地代相当額算定において敷地面積の中に児童遊園、通路を含めた誤り

公営住宅の使用料は公営住宅使用の対価に他ならないから、地代相当額は、公営住宅及びその附帯施設を含む各戸の敷地専用部分の面積のみを基礎として算定すべきであり、団地内通路及び児童遊園等の公共的施設または共同施設用地の面積をも含めて算定すべきではない。また、被告らも含めて一般に区民税、都税等が徴収されているのであるから、公営住宅の団地内通路及び児童遊園等を地代相当額算定の基礎となる敷地面積の中に含めるのは、被告らに二重支払いをさせる結果になるので、相当でない。しかるに、本件各使用料改定は、団地内通路及び児童遊園等の公共的施設または共同施設用地の敷地面積をも含めて地代相当額を算定している。これらを除外して敷地専用部分の面積のみを基礎として算定すれば、本件各使用料改定は、変更法定限度額を超える改定になるので、無効というべきである。

(二) 固定資産税評価額相当額の基準年度の誤り

昭和三九年三月三一日建設省住発九一号通達(以下「本件三九年通達」という。)は、公営住宅の家賃の構成要素である公住法一二条及び一三条三項所定の地代相当額の算定にあたつては、「当分の間、昭和三八年度分の固定資産税に係る固定資産税評価額を用いること」としている。昭和四四年六月三〇日建設省住発一二三号通達(以下「本件四四年通達」という。)においても、同通達は昭和三八年建設以前の公営住宅につき不均衡是正を理由とする場合にのみ当該変更年度の固定資産税評価額を用いるものとしているだけであるから、それ以外は本件三九年通達は廃止されていない。したがつて、公住法一三条一項二号の不均衡是正を目的とする家賃変更については本件四四年通達が適用されて当該変更年度の固定資産税評価額を用いることになるけれども、公住法一三条一項一号の物価の変動に伴う家賃変更については本件三九年通達によつて、依然昭和三八年度分の固定資産税評価額を用いることになる。本件五一改定は公住法一三条一項一号の物価の変動を伴う家賃変更であるから、本件五一改定時の変更法定限度額は、昭和三八年度分の固定資産税評価額を要素として算定すべきことになるはずである。また、物価の変動をも家賃変更理由としている本件五五改定についても同様である。

しかるに、本件各使用料改定は、改定直前の年度の固定資産税評価額を要素として変更法定限度額を算定しているので固定資産税評価額相当額の基準年度に誤りがあり、用いるべき昭和三八年度の固定資産税評価額を要素として算定すれば変更法定限度額を超えた変更となるので、無効な使用料改定であるというべきである。

また、公住法施行令四条五号、四条の四第三項の固定資産税評価額相当額とは、地代家賃統制令告示が「価格とは地方税法三四九条に規定する固定資産課税台帳に登録された価格(当該価格が…固定資産税の課税標準となるべき額を超えるときは当該課税標準となるべき額とする。)」としているのと同趣旨に解すべきである。

(三) 土地の利回りを定めた公住法施行令四条の四の無効

公住法施行令四条の四は、地代相当額の算定につき、固定資産税評価額相当額に六パーセントもの利回りを乗じているが、継続地代の利回りは、民間においても〇・五から〇・六パーセントが通常であつて最高でも二パーセント程度なのであるから、土地の価格に六パーセントの利回りを乗ずること自体全く不合理である。右の利回りは、固定資産税評価額の著しい高騰と相まつて、変更法定限度額を青天井にしておよそ限度額としての機能を喪失せしめている。したがつて、公住法施行令四条の四は、低廉な家賃を保障した公住法一条に違反して無効であり、右無効な規定に基づく本件各使用料変更も、変更法定限度額の算定に誤りがあることになるので、無効といわなければならない。

(四) 補助金率の最大値を二分の一とした誤り

土地取得造成費補助額を土地取得造成費で除した補助金率については、実際の土地取得造成費が標準建設費のうちの土地取得造成費補助基本額を超えているのが常態であるという前提自体に疑問がある。また、原告は土地取得造成費補助金を水増しして補助を受けている疑いがあるので、実際の補助金率は、二分の一を超えている可能性もある。従つて、原告主張の簡易な立証方法は、その前提自体に疑問があり、本件各使用料変更は、変更法定限度額を超えている疑いが残るので、無効なものというべきである。

(五) まとめ

本件各使用料改定は、右(一)ないし(四)のとおり変更法定限度額の算定に誤りがあるので、公住法一三条に反して無効である。

3  借家法七条による適正な増額賃料

(一) 公営住宅に対する借家法七条の適用

公営住宅家賃も、建物賃貸借契約に基づく建物の使用の対価であり、その性格は一般の民間借家の家賃と変わるところはない。従つて、公住法に特別の定めがない限り、公営住宅の家賃増額には借家法七条が適用される。しかるところ、公住法は、一条において「低廉な家賃」であるべきことを定め、一三条において変更限度額を超える場合には手続上公聴会を開催し建設大臣の承認を得なければならないことを定めているだけであり、家賃の増額金額の増額方式については特別の定めをもうけていない。従つて、公営住宅の家賃の増額については、借家法七条が適用されるというべきである。その結果、次の(二)以下で述べるとおり、鑑定理論及び判例上の合理的な算定方式を基本としたうえ、公営住宅としての特徴をその算定要素又は補正率の中に組み入れた算定をすべきであり、そのような算定をしていない本件各使用料変更は不当である。

(二) 公営住宅の特殊性を考慮した適正な増額賃料の算定方式

(1) 継続家賃の算定

家賃は、建物及びその敷地の価格に期待利回りを乗じた純賃料と、減価償却費その他の必要経費とによつて成り立つているが、新規家賃と継続家賃の二種類を明確に区別すべきである。新規家賃は、契約当事者が自由に決定することができ、基本的には目的物の価値に見合つた経済合理性を有する賃料であり、土地建物の価格に期待利回りを乗じて求めた純賃料と必要経費を加えたものによつて構成される。これに対して、継続家賃は、従前の賃料が不相当になつたときに相当な額まで増額請求する場合の家賃であつて(借家法七条)、継続家賃は増額請求権行使の要件及び増額の決定について借家法の規制を受けることになる。この場合の相当な額とは、増額請求時における当該賃貸借の目的物の価値に見合つた適正な額である必要はなく、当該賃貸借において相当な額であれば足り、その算定方式は、継続家賃の本質から、通常、スライド方式又は差額配分方式によつて求められる。

本件各使用料変更は、長年居住を継続してきた入居者に対して家賃の増額をしようとするものであるから、当然継続家賃を算定すべきである。

(2) スライド方式の採用

借家法七条に基づく継続家賃を算定するには、差額配分方式及びスライド方式による試算賃料を比較考量して鑑定時における適正賃料を求め、各値上げ時点にスライドさせる。

差額配分方式においては、まず、建物及び土地の基礎価格を通常の不動産鑑定手法に従つて算出し、そのそれぞれに期待利回りを乗じて純賃料を算出し、その純賃料に減価償却費等の必要諸経費を加えて建物及び敷地の経済価値に即応した賃料を求める。そのうえで右賃料と実際の支払賃料との差額について借家人が負担すべき割合を従前の支払賃料に加算する。

スライド方式においては、総合物価指数に近似するといわれる消費者物価指数と卸売物価指数を加重平均した指数を従前の家賃に乗じて継続家賃を算定する。

右の両方式による継続家賃を比較すると、差額配分方式においては、土地建物の現在の時価をそのまま反映し、かつ、通常の経済賃料の期待利回りに従うので、相当に高額な家賃額とならざるを得ない。従つて、スライド方式による低額な家賃額が借家法七条に基づく継続家賃であるものというべきである。

(3) 公営住宅の特殊性を考慮した継続家賃の算定

イ 建物及び土地の基礎価格

土地については、公営住宅は本来地方自治体又は国の所有する土地を用いて住宅を建設するのが原則であるから、公営住宅建設のために土地を購入しなければならない場合でも、土地を取得した原価が回収されれば良いはずであつて、地方自治体又は国がその後の土地の値上り分まで儲ける必要性はない。従つて、土地の基礎価格については、家賃変更時の時価を基準にするのではなく、土地の取得原価を回収する原価主義を採用すべきである。また、土地の取得原価といつても、取得時と家賃変更時とでは貸幣価値が異なるので、土地の取得原価に家賃変更時までの貸幣価値変動率(卸売物価指数)を乗じた額を土地の基礎価格とすべきである。しかし、本件においては原告が土地の取得原価を明らかにしないので、時価から地価変動率を用いて取得時の価格を推定すべきことになる。

これに対し建物については、それが土地のように永久財ではないこと、都営住宅では居住者が修繕補修を行なつてきていること等から、変更時の時価を基礎価格とすべきである。

ロ 建物及び敷地の基礎価格に乗ずべき期待利回り

一般民間人が期待するであろう利回り、即ち一般市中金利を用いることは、公営住宅の特殊性からみて不当である。そこで、不動産の現実利回り、即ち、長期間賃貸借が継続している場合の現実の支払賃料の土地建物価格に対する割合を統計的に処理した利回りを基準とし、公営住宅の特殊性を充分に考慮したうえで、期待利回りを求めるべきである。

ハ 控除すべき必要経費

一般に建物賃貸借において計上されるべき必要経費は、減価償却費、修繕費、管理費、公租公課、損害保険料、貸倒準備費、空室等損失相当額等である。これらのうち、減価償却費については、収益を発生させる必要のない公営住宅においては、建物建築の原価を回収すれば良いのであるから、建物推定取得原価に貸幣価値変動率としての卸売物価指数を乗じて計算すべきである。管理費については、公営住宅においては本来地方自治体が予算を計上して自ら負担すべきものであつて、居住者が負担すべきものではない。公租公課については、地方自治体所有の不動産であるから、現実には存在しない。また、家賃不払や空室の損失分に関する貸倒準備費、空室等損失相当額も、公営住宅においては居住者に負担させるべきものではない。

以上の(1)ないし(3)の算定方式が、公営住宅の特殊性を考慮した適正な増額家賃の算定方式である。

(三) まとめ

本件各都営住宅の使用料の変更に際しては、公営住宅に借家法七条を適用したうえで、右(二)のとおり、公営住宅の特殊性を考慮して増額使用料を算定すべきであつた。従つて、右(二)のとおり算定した鑑定書(乙第八号証)の賃料鑑定額こそ、借家法七条による適正な増額賃料である。右賃料鑑定額は、本件五一改定時において被告大江につき金六三三〇円、被告佐野につき金四〇三〇円、本件五五改定時において被告大江につき金七六八〇円、被告佐野につき金四八九〇円であるから、右各賃料額を超えるような本件都営住宅の使用料の変更をするのは、不当である。

4  各使用者に対する個別通知の必要性

前項で述べたとおり、公営住宅家賃の性格は、一般の民間借家の家賃と変わるところはないから、公住法に特別の定めがない限り、公営住宅の家賃増額には借家法七条が適用され、その増額の意思表示が相手方に到達しなければ賃料増額請求は効力を生じない(民法九七条一項)。しかるところ、公住法には、家賃増額の意思表示について告示で足りる旨の特別の定めがないのであり、逆に都条例施行規則八条の三が「知事は、条例一〇条の規定により使用料を変更しようとするときは、当該住宅の使用者に対して、使用料を変更しようとする時期及びその額その他必要な事項を通知する」と定めている。従つて、各使用者に対する個別通知が本件各使用料変更の効力発生要件であるものというべきである。

5  本件五一改定の公住法一条違反

(一) 住対審答申の誤り

住対審は、本件五一年度答申において、地代相当額について地代の当初法定限度額に消費者物価指数(家賃)の上昇倍率を乗じた数値と固定資産税評価額に地代率として固定資産税率を乗じた数値の平均値を調整した額を地代相当額としたが、この方式自体に何らの合理的根拠もない。また、右の消費者物価指数は、統計上新規家賃のそれであることは公知の事実であり、その数値をそのまま乗ずることは誤りである。

(二) 住対審答申を歪曲した原告の誤り

右(一)の算定方式のうち地代の当初法定限度額は、当初の土地取得費によつて算出されたから、地域、例えば二三区内の港区と保谷市や東久留米、その中間の練馬、杉並などでは数十倍の差異があり、また現固定資産税評価額についても同様に著しい高低がある。従つて、地代相当額は地域によつて大きく異なつてくるのであり、住対審も地域別の個別的実施を期待していた。しかるに、知事は、建設年度別に一律に全部平均化して増額使用料を決定しており、不当である。

(三) 修繕費

原告は、木造都営住宅は将来建替える予定であるとして基本的には修繕しない(特に計画修繕は全くしない。)方針を採用しているのであるから、本件五一改定が修繕費の値上げを含んでいることは、不当である。

(四) 償却費、管理費などその余の構成要素

当該公営住宅の建築に要した費用(工事費)は地域、団地及び年度によつて異なり、従つて償却費等はすべて個別(団地別)に算出されるべきである。ところが、知事は、団地別にではなく、一律に建設年度別の標準建設費を用いているので、不当である。

(五) まとめ

本件五一改定は、右(一)ないし(四)のとおりの誤り又は不当な点があり、家賃の低廉性を定めた公住法一条に違反するので、効力を生じない。

6  本件五五改定の公住法一条違反

(一) 収入基準に一六パーセント(第一種)を乗ずることの誤り

(1) 建設省の住宅宅地審議会の答申をそのまま採用した誤り

建設省の住宅宅地審議会は、昭和五〇年八月九日、「今後の住宅政策の基本的体系について」と題する答申において、「全世帯を年間収入の状況に応じて低位から順次五等分した所得五分位階層のうち第一分位における標準世帯(夫婦と子供二人の四人世帯)の家賃負担限度を世帯収入のおおむね一五パーセント程度とし、世帯の収入階層別、世帯人員別等に応じ調整する。」旨の答申をした。本件五四年度答申は、本件五五改定の際、右住宅宅地審議会答申を借用したものと認められる。

しかしながら、「家賃負担限度率」はあくまでも家賃負担の限界率であつて適正負担率ではないのであるから、低廉であるべき公営住宅の家賃の変更に「家賃負担限度率」をそのまま用いることは、不当である。また、「家賃負担限度率」は、民間住宅を主とした全借家についての数値であり、かつ、民間住宅の家賃は相当高額であるからその分当然負担限度率も高くならざるをえない。そのような高い「家賃負担限度率」を乗じることは、公営住宅の家賃変更においては、相当でない。さらに、前記住宅宅地審議会答申は、応能家賃制度の問題として一般賃貸住宅の家賃について適正家賃を政府が決めたうえ、それと負担限度額との差額については公的補助対象にすべきであるとしている。その結果、家賃負担限度率は予算の算定上も高めに設定される傾向があるので、この意味においても右限度率を用いることは不適当である。

(2) 実際負担率との比較

東京都の「事業概要」によれば、公営住宅居住者の負担率は五・六パーセント、民営でも一二・七パーセントと報告されている。また、東京都の住対審においても、公営、民営の平均で五・五八パーセント、公営で三・三五パーセント、民営で一〇・一パーセントと報告されている。原告主張の一六パーセントは、これらと比較しても高すぎる。

(3) 低所得者の家賃負担限度率

原告は、第一種住宅の場合には収入基準の「中間値」金七五〇〇円に一六パーセントを乗じて基準家賃を算出している。そうすると収入基準の下限値である金五五〇〇円の収入しかない者にとつては、当該基準家賃は、収入に対し二一・八パーセントの負担となり、前記住宅宅地審議会による「家賃負担限度率」を五・八パーセントも超えることになる。また、収入が下限値から中間値しかない者すべてにとつて、家賃負担率が右の「家賃負担限度率」を超えることになる。このような基準家賃は、公住法施行令五条に定められている、第一種公営住宅入居者には収入の六分の一以上の家賃を負担させるべきではないとの趣旨に違反するし、家賃の低廉性を定めた公住法一条にも違反する。

(二) 公社住宅との比較

公営住宅が低所得者層に対応するのに対し、公社住宅はその上の所得階層に対応するのであるから、当然公社住宅の家賃よりも公営住宅の家賃の方が低廉でなければならない。仮に、それを逆転させるような家賃変更がなされれば、その家賃変更は公住法一条に違反するというべきである。

しかるところ、昭和五五年当時の公社住宅の戸当り平均家賃は、昭和二五年建設から同四六年建設までの住宅をみると前者が平均七七九四円、後者が平均一万七四〇九円であり、その間はなだらかな線を描いて上昇している。これに対し、都営住宅の戸当り平均家賃は、昭和二五年建設の第一種住宅の平均が九四四三円であり、年度が新しくなると徐々に高くなり、同四六年建設の第一種住宅の平均が二万〇八六二円となつている。このように本件五五改定を行なえば、昭和二五年度から昭和四六年建設の住宅まですべての年度の第一種都営住宅の平均家賃が、おおよそ金二〇〇〇円から金三〇〇〇円も公社住宅より高くなつて、逆転現象を生じさせる。従つて、本件五五改定は公住法一条に違反する。

(三) まとめ

本件五五改定は、右(一)及び(二)のとおりの誤りがあり、家賃の低廉性を定めた公住法一条に違反するので、効力を生じない。

7  付加使用料を考慮した場合の本件各使用料変更の違憲、違法性

(一) 付加使用料とは、公住法二一条の二第二項の割増賃料のことであるが、同条によつて、第一種公営住宅にあつては公住法一三条三項の月割額(家賃)の〇・四倍、第二種公営住宅にあつてはその〇・八倍を限度として徴収することができるものとされている。そして都条例一九条の三は、右限度額を第一種都営住宅にあつては〇・三倍、第二種都営住宅にあつては〇・五倍と定めている。

(二) しかし、付加使用料は、公営住宅の使用に対する対価であるから、家賃の低廉性を要請している公住法一条の制約を受け、基本使用料と付加使用料を合計した額の低廉性が要求される。しかも、その合計額は、公営住宅が低所得者に対する住宅供給を目的にしていることからすると、公社、公団住宅の家賃を超えてはならないものというべきである。具体的に言えば、第一種都営住宅の基本家賃は公社、公団の家賃の〇・七六九倍(一・三の逆数)以下、第二種都営住宅のそれは同じく〇・六六七倍(一・五の逆数)以下でなければならない。

(三) しかるに、本件各使用料変更にあたつては、付加使用料を考慮せず、しかも基本使用料でさえ公社・公団の家賃を上回つているのであるから、憲法二五条、公住法一条に違反している。

8  短期消滅時効の採用

本件各都営住宅の使用料は月決めの家賃であり、民法一六九条が適用されるところ、本訴提起の日である昭和五七年六月一八日の五年前である昭和五二年六月の前月である昭和五二年五月末日以前に支払うべき家賃は、いずれも時効により消滅したので、本訴において右時効を援用する。

四  被告の主張に対する反論及び抗弁に対する認否

1  被告の主張1は争う。

公営住宅の家賃の変更は、公住法一三条一項によれば条例の形式によるとされているが、その趣旨は必ずしも個々の具体的な家賃額まで条例に規定しなければならないとするものではない。公営住宅の家賃の算出は、運用上の政策要素を含み、技術的、個別的、かつ、大量的であるから、実際の家賃額までそれぞれ条例で規定することは、運用の円滑を欠くことになる。従つて、公住法の委任を受けた条例が、事業主体の長に対し、公住法及び同施行令に規定する変更法定限度額の範囲内で家賃を変更できる旨を再委任することは、適法なものと解すべきである。

2(一)  同(一)2は争う。

公住法二条八号、同施行令三条にいう「共同施設」とは、国の補助を受けたものをいうが、実際には予算上の制約のため、国の補助を受けた共同施設は、存在しない。従つて、団地内の児童遊園等の公共的施設は、公住法上の「共同施設」ではなく、公営住宅の附帯施設というべきであり、これを地代相当額算定の基礎となる敷地面積に含めることは、適法である。なお、団地内通路についても、公道(道路法上又は道路交通法上の道路)は含まれておらず、団地内居住者の通路として利用されている部分であるから、地代相当額算定の基礎となる敷地面積に含めることは、適法である。なお、仮に、団地内通路、児童遊園を敷地面積から除いたとしても、別紙「地代相当額最小値算定表」のとおり、本件各都営住宅の本件五一改定における地代相当額最小値は、改定使用料の約三・八倍と約七・五六倍であり、また、本件五五改定のそれらは、改定使用料の約二・五九倍と約五・二九倍であるから、本件各使用料変更が変更法定限度額を超えることはない。

(二)  同(二)のうち、本件三九年通達が、公営住宅の家賃の構成要素である地代相当額の算定にあたつては、「当分の間、昭和三八年度分の固定資産税に係る固定資産税評価額を用いること」としたことは認めるが、その余の事実は否認又は争う。

本件三九年通達は、当該家賃変更年度の固定資産税評価額を用いるべきものとした本件四四年通達によつて廃止された。

(三)  同(三)は争う。

(四)  同(四)は否認する。

(五)  同(五)は争う。

3  同3は争う。公住法一三条は借家法七条に対する特別規定である。従つて、公営住宅の家賃変更については専ら公住法一三条が適用され、借家法七条は適用されない。そして、公住法一三条によると、事業主体は、法定の変更事由があるときには、変更法定限度額の範囲内である限り、条例で自由裁量によつて家賃を変更できるものと解される。従つて、被告らの主張は、借家法七条が適用されるという前提に誤りがあるので、その余の点について反論するまでもなく理由がない。

4  同4は争う。

公住法二五条は、事業主体な公営住宅の管理について必要な事項を条例で定める旨規定する。都条例二四条は、条例施行について必要な事項は知事が定める旨規定する。さらに知事が定めた都営住宅条例施行規則一条は、使用料の変更を告示事項と定めている。従つて、賃料増額の意思表示については、特別規定である右都営住宅条例施行規則一条が適用され、右告示によつて本件各使用料変更の効力が生じる。

5  同5は争う。前記のとおり、変更法定限度額の範囲内である限り、使用料変更は、知事の政策的判断に基づく自由裁量であるから、違法の問題を生じない。なお、本件五一改定を物価上昇率に対比すると別表七「物価上昇率と使用料値上げとの比較」のとおりであり、昭和二六年と昭和五一年を比較すると家賃は九・八四倍になつているのに、本件各都営住宅の改定使用料は最大五・〇四倍であるから、本件五一改定が妥当なことは明白である。

6  同6は争う。前記のとおり、変更法定限度額の範囲内である限り、使用料変更は、知事の政策的判断に基づく自由裁量であるから、違法の問題を生じない。

7  同7は争う。

8  同8のうち、本件各都営住宅の使用料が月決めの家賃であることは認めるが、その余の主張は争う。

五  原告の再抗弁(催告による時効中断)

1  原告は、昭和五六年一二月二一日ころ、被告らに対し、それまでの滞納使用料及び滞納付加使用料(被告佐野については滞納使用料のみ)の支払を催告した。

2  原告は、右催告後六か月以内である昭和五七年六月一八日本訴を提起した。

六  原告の再抗弁(催告による時効中断)に対する認否

原告の再抗弁1の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(本件各都営住宅の賃貸)の事実は、当事者間に争いがない。

二請求原因2(本件五一改定)について

1  請求原因2(一)(本件五一改定に至る背景事情)について

本件各都営住宅の使用料は昭和二六年度建設時に設定された当初使用料が昭和三五年に改定されたが、それ以後は昭和五一年一一月に至るまで一度も増額改定されなかつたことは、当事者間に争いがない。

また、〈証拠〉によれば、東京都統計年鑑昭和五五年版によつて昭和二六年と昭和五〇年とを比較すると、消費者物価指数(総合)が二五・九から一〇〇へ、民間家賃指数が一一・一から一〇〇へ、設備修繕指数が一四・三から一〇〇へ、それぞれ上昇していることが認められる。

〈証拠〉を総合すれば、昭和五〇年当時の全都営住宅の使用料別割合は、使用料一〇〇〇円以下の住宅が約二パーセント、同五〇〇〇円以下の住宅が約五〇パーセント、同一万円以下の住宅が約九〇パーセントとなり、入居者の収入に対する使用料の負担率も平均三・四パーセントに低下したこと、そして都営住宅使用料全体が諸物価に比較し相対的に極めて低額化した状態となつたので昭和五〇年当時の使用料収入では維持管理費に不足していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  請求原因2(二)(住対審への諮問)、同(三)(住対審の答申)及び同(四)(知事による使用料額決定)の各事実は、当事者間に争いがない。

3  請求原因2(五)(改定使用料額の告示)の事実について

原告が昭和五一年一〇月一五日付東京都広報において同年一二月一日から実施することとして本件五一改定の改定使用料額を告示したことは、当事者間に争いがない。

また、〈証拠〉を総合すれば、知事は被告らに対し別紙被告別滞納目録(一)及び(二)の各「使用料・通知日」欄記載のころ右改定使用料額の個別通知をしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三請求原因3(本件五五改定)について

1  請求原因3(本件五五改定に至る背景事情)について

〈証拠〉によれば、東京都統計年鑑昭和五五年版によつて昭和五〇年と昭和五四年とを比較すると、消費者物価指数(総合)が一〇〇から一二八・一へ、民間家賃指数が一〇〇から一三六・六へ、設備修繕指数が一〇〇から一三四・五へ、それぞれ上昇しており、本件五一改定後の三年間の物価変動もかなりなものとなつたことが認められる。

〈証拠〉を総合すれば、原告は昭和四一年度から都営住宅の新規入居者の使用料について入居時の収入を基準にして第一種都営住宅においては収入の一六パーセントを、第二種都営住宅においては収入の一五パーセントを使用料とするいわゆる政策家賃方式を採用していたこと、都営住宅においては建設費特に用地費の著しい高騰の結果新規入居者の使用料が高額化していたこと、他方において、都営住宅の使用料は昭和五四年までの三〇年間に昭和三五年と昭和五一年の僅か二回だけしか改定されなかつたために、古い住宅ほど使用料が低廉になつていたこと、それにも拘らず収入の方は逆に古い住宅の入居者ほど高額であり、昭和五四年当時の都営住宅入居者に占める収入超過者の割合は入居者全体の三分の一を占める状態となつていたこと、特に昭和二〇年代及び三〇年代に供給された各建設年度の木造住宅入居者の平均家賃負担率は収入の一ないし二パーセントにすぎず、それより低所得者の多い新規入居者の家賃負担率が一五ないし一六パーセントであるのと比較すると、著しく均衡を失つていたこと、本件五一改定までの使用料改定は、都営住宅ごとの規模、立地条件、設備等の効用差がほとんど反映されていなかつたので都営住宅相互間において実質的に不均衡であつたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  請求原因3(二)(東京都住宅対策審議会への諮問)、同(三)(住対審の答申)及び同(四)(知事による使用料額決定)の各事実は、当事者間に争いがない。

3  請求原因3(五)(改定使用料額の告示)の事実について

知事が昭和五五年五月一九日付東京都広報において同年七月一日から実施することとして本件五五改定の改定使用料額を告示したことは、当事者間に争いがない。

また、〈証拠〉を総合すれば、知事は被告らに対し別紙被告別滞納目録(一)及び(二)の各「使用料・通知日」欄記載のころ右改定使用料額の個別通知をしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

四請求原因5(付加使用料)について

1  請求原因5(一)(知事による付加使用料額決定)の事実は、当事者間に争いがない。

2  請求原因5(二)(付加使用料額の通知)について

〈証拠〉によれば、知事が別紙被告別滞納目録(二)の「付加使用料・通知日」欄記載のころに被告大江に対し右付加使用料額を通知したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

五使用料改定を知事に委任した都条例一〇条一項の効力について

公住法一三条一項は、一定の変更事由があるときには事業主体が条例によつて変更法定限度額の範囲内で公営住宅の家賃を変更できる旨定めている。これを受けて、都条例一〇条一項は、知事に対し、一定の変更事由があるときには変更法定限度額の範囲内で公営住宅の家賃を変更できる旨再委任している。

〈証拠〉によれば、昭和五四年において原告が管理する都営住宅の戸数は約二三万戸にも及んでおり、弁論の全趣旨によれば、都営住宅の使用料変更に際して必要な限度額を決定するには別表三の「使用料構成要素」を考慮する必要がありその範囲内での適正賃料を決定するには右各要素のほか政策的要素を考慮するのが合理的であり、そのためには大量の調査及び複雑かつ技術的な算出手続が必要となつてくることが認められる。このような調査及び手続を事業主体である地方公共団体の議会の審理に任せることは必ずしも相当とは言えない。従つて、これらの調査及び手続を住民の直接選挙によつて選出された知事に再委任することは合理的である。委任事項も、当初から変更事由が限定され、変更法定限度額算出の基礎となる項目について知事に裁量がないほどに限定されている。従つて、このような委任の合理性、委任を受ける主体の地位及び委任事項の限定に照らすと、都条例一〇条一項は何ら公住法一三条一項に反するものではなく、知事に対する家賃変更権限の再委任は適法なものというべきである。被告らの主張1(再委任の無効の主張)は容認できない。

六変更法定限度額の規制の遵守について

1  変更法定限度額の規制の存在について

本件各使用料改定が公住法一三条二項所定の手続を経ていないものであることは当事者間に争いがない。従つて、本件各使用料改定については、変更法定限度額を超えないものであることが必要であり、その変更法定限度額は、公住法一二条一項、一三条三項、公住法施行令四条の四、四条に基づき別表三「変更法定限度額の算出方法」記載の算出方法によつて算出することになつている。

そこで、順次本件各使用料改定に際して原告が行なつた変更法定限度額の算出過程について検討する。

2  固定資産税評価額相当額について

(一)  請求原因4(三)(1)イ(固定資産税評価額相当額の算出方法)及びロ(近傍類似土地の選定)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  地代相当額算定において敷地面積に児童遊園、通路を含むことの適否

公住法一三条三項は、変更法定限度額の構成要素の一つとして「地代に相当する額」をあげるとともに、変更法定限度額に関し必要な事項は政令で定める旨規定している。それを受けた公住法施行令四条の四第三項は、「公営住宅を建設するために必要な土地の所有権を取得した場合」においては、「固定資産税課税評価額(略)に一〇〇分の六を乗じた額」から一定の法定額を控除した年額をもつて地代相当額とする旨定めている。従つて、「固定資産税評価額」の基礎となる敷地面積は、公住法二条五号所定の「公営住宅を建設するために必要な土地」の面積をいうものであつて、公住法二条九号所定の「共同施設を建設するために必要な土地」の面積は右の「固定資産税評価額」の基礎となる敷地面積には含まれないものと解される。

しかるところ、〈証拠〉を総合すれば、公住法二条八号、同法施行令三条にいう「共同施設」についてはその建設費の二分の一以内の補助を国より受けうることになつていたが、実際には予算上の制約のため国の補助を受けた共同施設は存在しなかつたこと、本件各都営住宅の中にある児童遊園及び団地内通路は、いずれも原告が本件都営住宅の建設当初において財源上「共同施設」(公住法二条八号)として設置したものではなく、原告が「公営住宅を建設するために必要な土地」(同条五号)として所有権を取得した土地を利用して専ら団地内居住者が使用するために都営住宅建設の財源支出費用又は都営住宅管理費用の一部でもつて設置した施設等であることが認められる。従つて、本件各都営住宅の中にある児童遊園及び通路等は、公住法二条二号の「附帯施設」又はこれに類するものというべきであるから、それらの敷地を公住法二条五号所定の「公営住宅を建設するために必要な土地」として地代相当額算定の基礎となる敷地面積に含めることは、相当なものというべきである。これを敷地面積に含めることを違法とする被告らの主張2(一)は容認できない。

(三)  固定資産税評価額相当額の基準年度について

(1) 本件三九年通達が公営住宅の家賃の構成要素である公住法一二条及び一三条三項所定の地代相当額の算定にあたつては当分の間昭和三八年度分の固定資産税に係る固定資産税評価額を用いるべきものとしていたことは、当事者間に争いがない。

(2) しかし、〈証拠〉によれば、本件四四年通達が家賃の不均衡是正のため家賃変更する際には地代相当額算定の基礎として当該家賃変更年度の固定資産税評価額を用いるべきものと定めていること、同通達が公住法一三条一項一号及び三号の事由による家賃変更の場合については何ら言及していないことが認められる。

ところで、公住法一三条、公住法施行令四条の四第三項の法意によれば、物価変動等を理由とする家賃変更はあくまでも当該変更時の物価等を基準にして変更の適否、程度を判断するものであるところ、物価変動の要素として地価の変動や地代を決定する一因子である固定資産税も考慮されるのが通常であるから、当該変更の法定限度額を算定する際に用いる地代相当額(固定資産税評価額)についても当該変更年度の固定資産税評価額を用いるのが合理的であり、また本件三九年通達の趣旨ももともと「当分の間」同通達の基準の使用を予定していたものであつて長期に亘つて右基準によらしめることを合理的としていた訳のものではない。従つて、公住法一項二号の場合に関しては本件三九年通達は本件四四年通達によつて変更されたものであることが明らかであり、また同項一号及び三号の場合に関しては遅くとも本件三九年通達時から一〇年以上経過した本件五一改定時において本件三九年通達によるべき合理性は失われていたものというべきであり、右通達は事実上廃止されていたものと解して差し支えない。

また、被告らは、固定資産税課税評価額を地代家賃統制令告示に規定されている「価格」と同一に解すべきだと主張するが、そのように解すべき法律上の根拠はない。

よつて、被告らの主張2(二)は容認できない。

(四)  本件各使用料改定時の固定資産税評価額相当額について

〈証拠〉を総合すれば、前記近傍類似の土地の評価額を基礎に本件各使用料改定時の固定資産税評価額相当額を算出すると、それぞれ別表四中の「51改定・固定資産税評価額相当額」欄及び「55改定・固定資産税評価額相当額」欄記載の各金額(同表中の右各土地の各「m2当り固定資産税評価額」欄記載の各金額を本件各都営住宅の一戸当り敷地面積である同表中の「戸当り敷地面積」欄記載の面積に乗じて得た金額)となることが認められる。

3  土地の利回りを定めた公住法施行令四条の四の有効性について

公住法施行令四条の四は、地代相当額の算定につき固定資産税評価額に六パーセントの利回りを乗ずる方式を採用しているが、民間における継続地代の算定の場合と異なりその資本価格を地価とせず、またその算定方式も異なつているのであるから、利回りが六パーセントとして計算されていることの一事をもつて右施行令四条の四が直ちに公住法一条に違反するものとは到底言えず、被告らの主張2(三)は採用できない。

4  補助金率の最大値と変更法定限度額の関係について

(一)  請求原因4(三)(2)イ(土地取得造成費内訳)及びロ(土地取得造成費補助金の補助率法定)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  〈証拠〉を総合すれば、建設大臣の定めた標準建設費は、主体工事費、物置設置費、附帯工事費及び土地取得造成費からなつていたところ、それらはそれぞれ実費より低廉に定められていたのが常態であつたこと、国の補助は標準建設費を右項目毎に分けて補助基本額を定め、その補助基本額の二分の一ずつを補助する形で各項目毎の補助額が決定され、結果として標準建設費の二分の一が補助、交付されることになつていたことが認められる。右事実によれば、土地取得造成費について言えば、その補助額を実費で除した補助金率は、二分の一より小さい値となり、従つて、その補助金率の最大値は二分の一となることが明らかである。

乙第一号証中には国の土地取得造成費補助金として土地取得造成費の二分の一を超えるかのような数字の部分がある。しかし、弁論の全趣旨によれば、同書証中の「補助額」は「土地取得造成費補助金を土地取得造成費で除したものを固定資産税評価額相当額に乗じた額」を記載したものと推認され、国の補助金の実額を記載したものと解するには他の数額との対比上無理がある。従つて、右乙第一号証をもつて前記認定を覆すことはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、被告らの主張2(四)は理由がない。

(三)  別表三中のE「地代相当額」欄中、「固定資産税評価相当額×{土地取得造成費補助額÷土地取得造成費}(補助金率)×0.06」の計算式による数値は、全体式の控除要素であるから、補助金率が大きければ大きいだけその控除数値が大きくなり、補助金率が最大値のときに地代相当額が最小になり、変更法定限度額は地代相当額の最小値を下回ることはない。〈証拠〉を総合すれば、補助金率の最大値二分の一の数値をもつて仮に算出の基礎と考え、本件各使用料改定時の地代相当額の最小値を算出すると、別表四中の「51改定・地代相当額最小値」及び「55改定・地代相当額最小値」の各欄記載の金額となること、本件各使用料は本件各使用料改定時における右の「地代相当額最小値」を大幅に下回つていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

5  請求原因4(四)(家賃収入補助の不存在)の事実は、当事者間に争いがない。

6  まとめ

以上によれば、本件各使用料改定額は、いずれも右「地代相当額最小値」さえ超えていないので、論理上右「地代相当額最小値」を上回つている変更法定限度額の範囲内における改定であることが明らかである。従つて、本件各使用料改正は、公住法一二条一項、一三条三項、公住法施行令四条、四条の四に照らし、適法なものというべきである。

七本件各使用料改定と借家法七条の適用の有無について

1 公営住宅の事業主体と入居者との間の法律関係は、基本的には私人間の賃貸借契約関係と異なるところはなく、原則として一般法である民法及び借家法が適用されるけれども、公住法及びこれに基づく条例に特別の定めがあるときにはそれが特別法として民法及び借家法に優先して適用されると解すべきである。

2 ところで、家賃変更の事由については、公住法一三条一項が物価変動、家賃不均衡等を挙げ、借家法七条所定の家賃増減事由と類似の限定をしている。また家賃変更の手続については、公住法一三条一項が変更の主体を事業主体とし、当事者の協議を前提とする借家法七条と異なる定め方をしているが、その法意は大量の公営住宅について家賃を事業主体と個々の入居者との協議によつて決めることは画一性、経済性、迅速性の見地からみて相当ではないという点にあるものと解される。また公住法一三条二項及び三項は、家賃変更する場合には公聴会の開催と建設大臣の承認が必要であると制約し、右手続を経ない場合には家賃変更の額についてその限度額を法定して事業主体の変更権限を制約している。さらに右変更法定限度額(公住法一三条三項)の構成要素である修繕費、管理事務費、損害保険料及び地代相当額は、借家法七条において裁判手続で増減額を決定する際の考慮事由とも共通している。

このように公住法の諸規定は、公営住宅の家賃変更について、事業主体が一定の要件及び手続のもとに画一的、経済的かつ迅速に事業を施行しうるようにするとともに、家賃変更について公聴会の開催と建設大臣の承認の手続又は変更法定限度額による規制、変更法定限度額の構成要素による借家法七条類似の考慮をしている。また、仮に右の規制のほかに借家法七条を重畳的に適用し個々の入居者が借家法七条の考慮事由を主張して個々的に家賃変更額を裁判上争いうるものとすると公営住宅制度の運用上の画一性、経済性、迅速性の要請を阻害するところ、このような事態を公住法が容認しているものとは解されない。従つて、事業主体の長である知事が公住法一三条、都条例一〇条一項に基づいて都営住宅の家賃を変更するためには、前記公住法の要件及び手続を充足するほかに、借家法七条所定の要件を具備することを要しないものと解するのが相当である。

よつて、借家法七条を適用したうえ公営住宅の特殊性を考慮して増額家賃を算定すべきであるという被告らの主張3は、容認できない。

八公住法一条との関係について

(一)  〈証拠〉(鑑定書)によれば、昭和六一年一月二四日における本件各都営住宅の経済価値に即応した賃料(新規家賃)は被告大江につき月額約金一〇万五九〇〇円、被告佐野につき月額約金七万五九〇〇円が相当であること、消費者物価指数(全国総合)に〇・八、卸売物価指数(投資財)に〇・二を乗じて加重平均したスライド指数を計算すると本件五一改定時が八二・九、本件五五改定時が一〇〇・六、鑑定時が一一三・五となり、このスライド指数をもつて本件各使用料改定時の新規家賃相当額を逆算すると、被告大江につき月額約金七万七三四八円(本件五一改定時)、同九万三八六三円(本件五五改定時)、被告佐野につき月額約金五万五四三七円(本件五一改定時)、同六万七二七三円(本件五五改定時)となること、差額配分方式によつて継続家賃を計算すると、被告ら主張のように差額の四割を入居者の負担分とみても、被告大江につき月額約金三万二〇六四円(本件五一改定時)、同三万八九一〇円(本件五五改定時)、被告佐野につき月額約金二万二九三四円(本件五一改定時)、同二万七八三一円(本件五五改定時)となることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかるに、本件各使用料改定額は、被告大江につき付加使用料も合計して月額約金七九三〇円(本件五一改定時)、同一万五五四〇円(本件五五改定時)、被告佐野につき月額約金五四〇〇円(本件五一改定時)、同一万円(本件五五改定時)というのである。

従つて、これらの本件各使用料改定額と前記民間の新規家賃額又は差額配分方式による継続家賃額とを比較すると、本件各使用料改定額が民間家賃額よりも著しく低廉であることは明らかである。それ故、被告らの主張6(一)の事由のみで公住法一条に違反するとは言えない。

(二)  また、〈証拠〉によれば、本件五一改定を物価上昇率に対比すると別表七「物価上昇率と使用料値上げとの比較」のとおりとなり、昭和二六年と昭和五一年を比較すると、家賃の上昇率は九・八四倍にもなつているのに、本件各都営住宅の改定使用料の上昇率は、被告大江につき四・〇三倍、被告佐野につき五・〇四倍にとどまつており、民間家賃の上昇率を大きく下回つていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  被告らは公営住宅の家賃が公社住宅の家賃よりも常に低廉でなければならないのに逆転しているから公住法一条に違反すると主張するが(被告らの主張6(二))、一時的にも公社住宅の家賃を超えることができない旨定めた法律の規定はなく、その点のみをとらえて本件五五改定が公住法一条に違反するとは言えない。

(四)  まとめ

以上(一)ないし(三)のとおり、本件各使用料改定が家賃の低廉性を定めた公住法一条に違反するという被告らの主張は、いずれも容認できない。

九付加使用料を考慮した場合の公住法一条との関係について

前記認定八(一)によれば、被告大江の使用料総額は付加使用料を含めても民間家賃と比較して著しく低廉であることが明らかである。従つて、付加使用料を含めた場合の本件各使用料改定が憲法二五条及び公社法一条に違反するという被告らの主張7もまた容認できない。

一〇各使用者に対する個別通知の必要性

公住法二五条は、事業主体は公営住宅の管理について必要な事項を条例で定める旨規定し、それに基づく都条例二四条は、知事が条例施行について必要な事項を定める旨規定する。さらに右条例に基づく都条例施行規則は、一条において、使用料の変更を告示事項とするとともに、八条の三において、知事は当該住宅の使用者に対して使用料の変更時期及びその額その他必要な事項を通知するものと定めている。ところで、使用者に対する個別通知を本件家賃変更の効力発生要件とすると、その到達時期によつて各使用者の家賃額が異なることになり、通知不到達の使用者は従前の家賃のまま据え置かれるという極め不合理、不均衡な結果を招くこととなる。公住法二五条は、右のような不合理、不均衡な結果を回避するため、公営住宅制度の画一性、経済性、迅速性の要請に沿うべく、家賃変更の効力を生じさせる時期についても借家法七条の方式によることなく「管理に必要な事項」として事業主体の定める条例に一任したものと解される。そして都条例二四条に基づく都条例施行規則一条は、右画一性、経済性、迅速性の要請から告示の定めた時期及び金額において使用料変更の効力が発生する旨を定めたものと解され、都条例施行規則八条の三は、告示の定めた時期及び金額をその効力の発生する以前に各住宅の使用者に対して使用料支払準備の便宜上通知することを規定したものと解される。

従つて、使用料変更の意思表示については、借家法七条の特別規定である都条例施行規則一条が適用され、本件各使用料の変更の効力は、告示によつてその定めた時期において一律に生じたものというべきである。

一一原告の再抗弁(催告による時効中断)について

(一)  〈証拠〉を総合すれば、原告が被告大江に対して昭和五六年一二月一九日にそれまでの滞納使用料及び滞納付加使用料の、被告佐野に対しては昭和五六年一二月二一日にそれまでの滞納使用料の、それぞれ支払いを催告したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  原告が右催告後六か月以内である昭和五七年六月一八日に本訴を提起したことは当裁判所に顕著である。

よつて、原告の各被告に対する本訴請求権は、中断があるので、時効消滅していない。一二結論

以上によれば、原告の本訴各請求はいずれも理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鬼頭季郎 裁判官生田瑞穂 裁判官齊木教朗)

別紙

被告別滞納目録(一)

被告氏名

佐野志づ

建物

所在地

練馬区関町北四―一五―六

都営関町六丁目第二住宅一号

建設年度

昭和二六年度

使用許可年月日

昭和二七年四月一日

付加使用料

期間

月額

通知日

使用料

期間

月額

通知日

入居時~三五年三月

金一〇七〇円

三五年四月~五一年一一月

金一七五〇円

五一年一二月~五五年六月

金五四〇〇円

五一年一〇月一六日

五五年七月以後

金一万〇〇〇〇円

五五年五月二七日

滞納使用料等一覧

区分

滞納期間

滞納月数

月額

A×B

使用料

五一年一二月

五五年六月

四三

金五四〇〇円

金二三万二二〇〇円

同右

五五年七月

五七年三月

二一

金一万〇〇〇〇円

金二一万〇〇〇〇円

同右

五七年四月

五九年六月

二七

金一万〇〇〇〇円

金二七万〇〇〇〇円

合計額

金七一万二二〇〇円

別紙

被告別滞納目録(二)

被告氏名

大江渉

建物

所在地

練馬区関町北二―三一―二二

都営関町四丁目第四住宅一号

建設年度

昭和二六年度

使用許可年月日

昭和二七年九月四日

付加使用料

期間

月額

通知日

使用料

期間

月額

通知日

五一年一二月

~五二年三月

金一八三〇円

五一年一〇月二五日

入居時~三五年三月

金一五一〇円

五二年四月

~五二年一一月

同右

五二年四月一日

三五年四月

~五一年一一月

金二四五〇円

五二年一二月

~五三年一一月

同右

五二年一〇月二五日

五一年一二月

~五五年六月

金六一〇〇円

五一年一〇月一六日

五三年一二月

~五四年一一月

同右

五三年一〇月二五日

五五年七月以後

金一万一一〇〇円

五五年五月二七日

五四年一二月

~五五年六月

同右

五四年一〇月二五日

五五年七月

~五五年一一月

金四四四〇円

五五年五月二七日

五五年一二月

~五六年一一月

同右

五五年一〇月二五日

五六年一二月

~五七年三月

同右

五六年一〇月一九日

五七年四月

~五七年七月

同右

五六年一〇月一九日

五七年八月

~五七年一一月

同右

五七年七月三一日

五七年一二月

~五八年一一月

同右

五七年一〇月二五日

五八年一二月

~五九年六月

同右

五九年二月二五日

滞納使用料等一覧

区分

滞納期間

滞納月数

月額

A×B

使用料

五一年一二月

五五年六月

四三

金六一〇〇円

金二六万二三〇〇円

同右

五五年七月

五七年三月

二一

金一万一一〇〇円

金二三万三一〇〇円

同右

五七年四月

五九年六月

二七

金一万一一〇〇円

金二九万九七〇〇円

小計

金七九万五一〇〇円

付加使用料

五一年一二月

五五年六月

四三

金一八三〇円

金七万八六九〇円

同右

五五年七月

五七年三月

二一

金四四四〇円

金九万三二四〇円

同右

五七年四月

五九年六月

二七

金四四四〇円

金一一万九八八〇円

小計

金二九万一八一〇円

合計額

金一〇八万六九一〇円

別表一

使用料改定経過表

住宅名

種別

規模

51改定

55改定

住対審答申による是正使用料の増額基準

事業主体の長による調整後の増額

改定前使用料

改定使用料

=+

変更法定限度額

(法13条3項)

住対審答申による適正使用料

調整減額

改定使用料

=-

変更法定限度額

(法13条3項)

構造

関町四丁目第4住宅

1種

m2

41.25

4,400

3,650

2,450

6,100

88,751

13,307

2,207

11,100

111,324

木造

関町六丁目第2住宅

1種

29.7

4,400

3,650

1,750

5,400

41,954

11,625

1,625

10.000

52,368

木造

別表二

55改定に関する調整指数表

住宅名

種別

規模

調整指数

規模

経年

立地条件

設備

(浴室の有無)

専用庭

合計指数

関町四丁目第4住宅

1種木造

m2

41.25

0.1646

0.0400

0.1100

-0.0500

0.1000

0.3646

関町六丁目第2住宅

〃〃

29.7

0.1185

0.0400

0.1100

-0.0500

0.1000

0.3185

別表三

変更法定限度額の算出方法(公営住宅法第13条3項)

使用料構成要素

算出方法

備考

A償却費

※1 ※2

※1. 法第13条3項の規定により建設大臣が定める率すなわち、

建設大臣が住宅宅地審議会の意見を聞き、毎年建築物価

の変動を考慮して地域別に定める率

※2. 法施行令第4条1号及び2号に基づく率

※3. 法施行規則第6条により建設大臣が定める率

※4. 法施行令第4条3号に定める率

※5)

B修繕費

※3 ※4推定再建築費

C管理事務費

※3 ※5推定再建築費

D損害保険料

E地代相当額

月額使用料

A+B+C+D+E=変更法定限度額

別 紙被告別滞納目録(一)、(二)〈省略〉

別 表

一 五五改定に関する調整指数表〈省略〉

二 使用料改定経過表〈省略〉

三 変更法定限度額の算出方法(公営住宅法第一三条三項)〈省略〉

四 地代相当額最小値算定表〈省略〉

五の一 収入認定月額及び付加使用料〈省略〉

五の二 施行令に基づく収入の区分及び割増賃料倍率(公営住宅法施行令第六条の二第二項による)〈省略〉

五の三 収入認定月額算出計算式及び付加使用料付加率〈省略〉

別紙1 年所得金額の算出方法〈省略〉

2 特別控除額一覧〈省略〉

3 条例に基づく収入の区分及び付加使用料付加率(東京都営住宅条例第一九条の三別表による)〈省略〉

五の四 同居・扶養親族数等一覧〈省略〉

六の一 収入認定月額及び付加使用料計算式〈省略〉

六の二 施行令に基づく収入の区分及び割増賃料倍率(公営住宅法施行令第六条の二第二項による)〈省略〉

六の三 収入認定月額算出計算式及び付加使用料付加率〈省略〉

別紙1 年所得金額の算定方法〈省略〉

2 特別控除額一覧〈省略〉

3 条例に基づく収入の区分及び付加使用料付加率(東京都営住宅条例第一九条の三別表による)〈省略〉

七 物価上昇率と使用料値上との比較〈省略〉

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