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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)5514号 判決

原告

金子物産株式会社

右代表者代表取締役

金子昌夫

右訴訟代理人弁護士

津田玄児

安藤朝規

被告

右代表者法務大臣

遠藤要

右指定代理人

杉山正己

外二名

被告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

小林紀歳

外二名

主文

一  被告国は、原告に対し、金六八六万円及びこれに対する昭和五八年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告国に対するその余の請求及び被告東京都に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の五分の四と被告国に生じた費用の合算額を四分し、その一を被告国の負担とし、その余を原告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告東京都に生じた費用を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、被告国は、金二九四〇万円、被告東京都(以下「被告都」という。)は、金九八〇万円及びこれらに対するいずれも昭和五八年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告国)

1 原告の被告国に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行免脱宣言

(被告都)

1 原告の被告都に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(土地登記簿の偽造)

半田進(以下「半田」という。)及び山岸某(以下「山岸」という。)は、藤田光義(以下「藤田」という。)及び伊藤某(以下「伊藤」という。)と共謀の上、不動産を担保とする借用名下に、金員を騙取することを企て、昭和五七年五月六日午後三時一〇分ころ、東京法務局城北出張所に赴き、別紙物件目録記載の両土地(以下「本件両土地」という。)の登記のある登記簿の閲覧申請を行い、バインダー式の当該簿冊を担当登記官より受領し、閲覧場所において、本件両土地の登記簿原本をバインダーからはずし、これを外へ持ち出して、別紙偽造目録一記載のとおり、「藤田光義」に所有権が移転した旨偽造した上、同日午後四時五〇分ころ、これを閲覧場所に持ち帰り、再びバインダーに収めて、その簿冊を担当登記官に返還した。

2(固定資産課税台帳の偽造)

半田及び山岸は、1と同様の目的で、昭和五七年五月一九日午前一〇時三〇分ころ、東京都足立都税事務所に赴き、本件両土地の固定資産課税台帳の閲覧申請を行い原簿を担当事務官から受領し、本件両土地の台帳をはずして、これを持出し、別紙偽造目録二記載のとおり、「藤田光義」が所有者である旨偽造した上、一〇分ほどで閲覧場所へ持ち帰り、原簿に収めて担当事務官に返還した。

3(詐欺を受けたことによる貸付―その一)

(一)  半田は、原告(但し、被欺罔者は原告代表者、以下同様)に対し、昭和五七年四月二三日ころ、土地を担保に金を貸してくれるようあらかじめ打診しておき、同年五月四日、本件両土地の公図を示した上で現地を案内し、本件両土地は他人の所有であり、これを担保に入れても法的には効力がなく、かつ返済の意思も能力もないのに、これを秘し、藤田の所有であると申し欺き、これを担保に金を貸してくれるよう申し込み、同年五月七日、東京法務局城北出張所から、1記載の偽造のある登記簿原本に基づいて作成された登記簿謄本の交付を受け、翌八日、原告にこれを示し、さらに同年五月一二日、金を貸してくれるよう申し込み、偽造した登記済証や藤田の印鑑登録証明書、実印及び白紙委任状を原告に渡した。

(二)  そのため、原告は、本件両土地の所有者が藤田であると誤信し、本件両土地を担保とするのであれば、確実に返済が受けられるものと考えて、昭和五七年五月一二日、半田及び「藤田」を名乗る男(実は山岸であることが後日判明した。)に対し、一九六〇万円を、弁済期同年五月二五日の約定にて貸し渡し、これを騙取された。

4(詐欺を受けたことによる貸付―その二)

(一)  半田は、昭和五七年五月二五日、東京都足立都税事務所から、2記載の偽造のある固定資産課税台帳に基づいて作成された固定資産課税台帳登録証明書の交付を受け、同年五月二九日、本件両土地は他人の所有であり、これを売却しても所有権を移転させることはできず、かつ返済の意思も能力もないのに、これを秘し、藤田本人と共に、原告に対し、3記載のとおり原告に渡してあつた登記簿謄本や登記済証等に加えて、右登録証明書を渡した上、「土地を売つて、前に借りた分と一緒に返すから、あと一〇〇〇万円貸してほしい」と申し欺いた。

(二)  原告は、本件両土地が藤田の所有であると誤信したまま、本件両土地の売却により確実に返済が受けられるものと考えて、同年五月二九日、さらに九八〇万円を貸し渡し、これを騙取された。

5 (登記官の過失)

(一)(登記簿閲覧監視義務違反)

登記官は、国の公権力の行使にあたる公務員に該当し、登記簿の偽造を防止するため、閲覧にあたり、改ざんや持出がなされないよう監視し、さらに、閲覧が終わり、簿冊の返還を受けるにあたり、異常の有無を調査する注意義務があるにもかかわらず、1記載の偽造の際、これを怠つた。

(二)(登記簿謄本作成・交付の際の注意義務違反)

登記官は、登記簿の原本に何人かによつて偽造または変造された記載のあることが、職務上の知識・経験をもつてすれば一見して容易に知りうる場合、これを発見し、訂正すべき注意義務があり、1記載の偽造により、本件両土地の登記簿原本に、

(1) 表題部については、宅地の場合には小数点以下二桁までなされるべき地積の記載が、小数点以下の記載がない

(2) 表題部については、地番及び地積は変更があるときだけ記載されるのに、同じ地番及び地積が重複して二回記入されている

(3) 重複して記載された表題部の地番及び地積は、いずれかが朱抹されるはずなのに、重複して記載されたままになつている

(4) 甲区欄については、受付番号が第参弐五九四号及び第参弐五九五号となつているが、昭和五六年九月受付で、番号が三万番台ということはありえない

(5) 甲区欄のタイプが登記所のタイプと異なる

(6) 本件両土地の表題部において地目変更の登記がなされたとする昭和五六年二月四日当時、高橋という登記官は担当登記官として在籍していなかつた

(7) 高橋登記官の印影が本物と違う

という一見して明らかに看取できる偽造の記載があつたにもかかわらず、これを看過し、登記簿謄本を漫然と作成・交付した。

6(都税事務所の担当官の過失)

(一)(課税台帳閲覧監視義務違反)

都税事務所の担当官は、都の公権力の行使にあたる公務員に該当し、課税台帳の偽造を防止するため、閲覧にあたり、改ざんや持出がなされないよう監視し、さらに、閲覧が終わり原簿の返還を受けるにあたり、異常の有無を調査する注意義務があるにもかかわらず、2記載の偽造の際、これを怠つた。

(二)(固定資産課税台帳登録証明書作成・交付の際の注意義務違反)

都税事務所の担当官は、固定資産課税台帳の原簿に何人かによつて偽造または変造された記載のあることが、職務上の知識・経験をもつてすれば一見して容易に知りうる場合、これを発見し、訂正すべき注意義務があり、2記載の偽造により、本件両土地の固定資産課税台帳の原簿に、

(1) 地目欄の登記現況の両方に押捺された宅地のゴム印が、都税事務所使用のものより書体が小さい

(2) 沿革欄が、都税事務所の扱いでは「昭和  年  月  日現況地目変換」というゴム印が押捺されそれに日付を記入することになつているのに、全部手書きでなされている

(3) 登記原因欄の「売買」というゴム印の記入は、売買の両文字の間が都税事務所使用のものよりあきすぎている

(4) (別紙物件目録二記載の土地につき)空欄をあけないことになつているのに、二桁目の登記欄と所有者欄が空欄になつている

という一見して明らかに看取できる偽造の記載があつたにもかかわらず、これを看過し、固定資産課税台帳登録証明書を漫然と作成・交付した。

7(原告の損害)

(一)  原告は、前記のとおり、偽造された登記簿原本に基づいて作成された登記簿謄本の記載を真実であると誤信したため、昭和五七年五月一二日に一九六〇万円を貸金名下に騙取され損害を被つたものであり、右損害と5記載の登記官の過失との間には因果関係がある。

(二)  原告は、前記のとおり、偽造された登記簿原本及び固定資産課税台帳に基づいてそれぞれ作成された登記簿謄本及び固定資産課税台帳登録証明書の記載をいずれも真実であると誤信したため、昭和五七年五月二九日に九八〇万円を貸金名下に騙取され損害を被つたものであり、右損害と5記載の登記官の過失及び6記載の都税事務所の担当官の過失との間には因果関係がある。

よつて、原告は、国家賠償法一条による損害賠償請求権に基づき、被告国に対し二九四〇万円、被告都に対し九八〇万円及びこれらに対するいずれも損害発生後である昭和五八年六月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認容

1(被告国)

(一)  請求原因1(土地登記簿の偽造)の事実のうち、別紙偽造目録一記載のとおり偽造がなされた事実は認め、その余の事実は不知。

(二)  同3(詐欺を受けたことによる貸付―その一)の事実は不知。

(三)  同4(詐欺を受けたことによる貸付―その二)の事実は不知。

(四)  同5(登記官の過失)(一)(登記簿閲覧監視義務違反)の事実は否認する。

なお、昭和五七年五月六日ころの東京法務局城北出張所三階における足立区の不動産登記簿閲覧の監視状況は、次のとおりであり、閲覧監視義務を尽していたのであつて、これに対し、半田及び山岸の偽造は、あらかじめ周到に計画、準備された上で、監視の目をくぐり抜けて巧妙に行われたものであるから、登記官に過失があつたとはいえない。

(1) 閲覧場所は、事務室内の職員が監視しやすいように、同室のほぼ中央部分に設けられ、これを囲むようにして、閲覧等の事務担当係(権利第四係、旧認証係)のほか、他の諸係の職員が配置されていた。

(2) 閲覧場所には閲覧席が三〇席ほど用意されていたが、閲覧時間内はいつもほぼ満員の状態が多かつた。

(3) 閲覧者は、閲覧等の事務担当係の職員がいる貸出・返却場所の方に向かつて着席することとされていた。

(4) 閲覧に際しての注意事項として、登記簿を汚損しないこと、筆記するときは、登記簿、図面を下敷にしないこと、鉛筆を使用し、ペン類を使用しないこと、喫煙をしないことなどを記載した掲示板を閲覧者の見やすい位置に設置して、閲覧者の注意を喚起していた。

(5) 閲覧者が筆記用具以外の鞄、コートなどを閲覧場所に持ち込まないようにするためロッカーを設置し、閲覧者に対し、その利用を協力依頼していた。

(6) 閲覧の監視については、一次的には閲覧等の事務担当係の職員五名が常時あたることとし、通常右職員がいる貸出・返却場所からは閲覧場所内に見通しのきかない部分はなかつた。また、他の諸係の職員もその本来の職務の傍ら随時監視をすることとするほか、事務室の責任者(総括第一登記官)が一日数回閲覧場所を巡視することとしていた。

(7) 他の登記所に先駆けて、昭和五七年二月以前に閲覧監視用の電動式回転ミラーを設置し、職員が配置されていない方向からも閲覧場所の動静が監視できるようにしていた。

(五)  同5(二)(登記簿謄本作成・交付の際の注意義務違反)の事実のうち、本件両土地の登記簿原本に原告主張の(1)ないし(7)の改ざんの跡があつたことは認めるが、それが容易に知りうるものであり、それを看過した登記官には過失があるとの主張は否認する。

(六)  同7(原告の損害)(一)(二)の各事実は否認する。仮に登記官に過失があつたとしても、その過失と原告の損害との間には相当因果関係がない。

(1) (昭和五七年五月一二日の一九六〇万円の貸付について)

(ア) 偽造された登記と原告の損害との間に因果関係があるというためには、当該偽造にかかる登記名義人を真実の権利者と信じたために原告が損害を被つたことが必要であると解されるが、本件では、原告が金を貸し付けた相手方は登記名義人たる藤田ではなく、山岸であり、原告は登記名義人を真実の権利者と信じたために損害を被つたわけではなく、原告自ら登記名義人でない者を登記名義人であると誤信したために損害を被つたにすぎない。

(イ) 原告は、登記名義人である藤田と名乗る男(実は山岸)について、運転免許証の提示を求める等の本人確認の措置をとらなかつたが、もしこの措置をとつておれば、その男が藤田でないことが判明し、そのように契約当事者を偽るような融資の申込みには応じないのが通常であるから、損害を未然に防止しえたはずである。

(ウ) 本件両土地は、抵当権等が設定されておらず、更地で極めて担保価値が高い(時価二億円以上)もので、事業資金が必要であれば銀行融資を受けられるのが通常で、原告のような高利貸業者から融資を受ける必要はないし、約八か月前に購入したとされている際にも銀行借入をしていないなど、登記簿の記載や半田らの説明に照らし、本件融資の申込みには不審な点が多々あつたのであるから、これらの点についてさらに調査、検討すべきであつたにもかかわらず、全くこれをすることなく融資に応じた。

(2) (昭和五七年五月二九日の九八〇万円の貸付について)

この貸付にあたつては、以下に述べるように、多くの不審、不自然な点があつたのであるから、これらの点についてさらに調査、検討すべきであつたにもかかわらず、原告は全くこれをすることなく、融資に応じた。

(ア) 原告は、前記一九六〇万円の貸付後に、藤田と名乗つた男が実は藤田でなかつたことを知つたが、このように契約当事者を偽るような者とは、それ以後取引に応じないのが通常であるにもかかわらず、原告は漫然とさらに九八〇万円の貸付をした。

(イ) 契約当事者である藤田は、見るからに貧相な男であり、名刺や印鑑の取扱にも不慣れで、どう見ても本件両土地の所有者には見えない者であつた。

(ウ) 藤田は、昭和五七年五月二五日に原告と会つた際、一九六〇万円の貸付を受けていることも知らず、その借入金を返せないなどと言つていた。また、契約交渉にあたつては、ほとんど半田が話をして、藤田から話すことはなかつた。

(エ) 半田と藤田は、原告の面前で、本件についてはすべて藤田が山岸にまかせてあり、これに基づき一九六〇万円の貸付を受けた旨話しているのであるから、昭和五七年五月二九日の貸付等の交渉にあたり、山岸が原告に会えない理由はないのに、山岸が偽名を使つたということで、以後原告に会つていない。

(オ) 原告が、半田に対し、本件両土地の所有者について尋ねると、半田は、本件両土地は藤田の父親が藤田のために購入したものであるという従前の説明と全く異なり、本件両土地の真実の所有者は別人(伊藤)で、山岸が処分を任せられ、税金対策上藤田の名義にした旨説明したにもかかわらず、原告は、本件両土地の売買等の交渉をする際にも伊藤や山岸と接触しようとすらしなかつた。

(カ) 藤田の名刺に記載された電話番号は、名刺記載の会社のものではなく、貸電話のものであり、名刺の記載は全くでたらめなものであり、原告自身これを知つたが、その疑問点については全く解明しなかつた。

(キ) 一九六〇万円の返済期限が昭和五七年五月二五日であり、これが返済されない理由も分からないのに、追加融資に応じた。

以上のように、本件の原告のような立場におかれた通常の取引人であれば、本件融資の申込みには到底応じなかつたはずであるから、仮に登記官に過失があつたとしても、その過失と原告の損害との間には相当因果関係がない。

2(被告都)

(一)  請求原因2(固定資産課税台帳の偽造)の事実のうち、別紙偽造目録二記載のとおり偽造がなされた事実は認め、その余の事実は不知。

(二)  同4(詐欺を受けたことによる貸付―その二)の事実は不知。

(三)  同6(都税事務所の担当官の過失)(一)(課税台帳閲覧監視義務違反)の事実は否認する。

足立都税事務所における課税台帳の監視方法については、専任の監視職員こそ置いてはいないものの、課税台帳への不正記入・汚損・抜き取り等を防止するため、監視しやすい場所である固定資産税第一課事務室中央に閲覧台を設けるとともに、右窓口係の職員四名を配置して、閲覧者に対して、鉛筆以外の筆記具の使用や閲覧台にむやみに物を置くことを禁じ、また、閲覧席を通る場合には、随時、閲覧者の動向をも注視する等の必要な注意を払つている。

しかし、右窓口担当職員は、課税台帳閲覧の監視事務のほか、課税台帳の閲覧申請の受付事務(閲覧申請件数は一日平均二〇〇件を超えている。)、課税台帳登録証明事務、右事務に関する電話、文書照会に対する応答、外部からの苦情に対する応答及び来庁者の案内等の事務も担当しているため、右各事務の処理に追われて、常に閲覧者の動静に注意を向けていることができない実情にある。

本件課税台帳の偽造は、半田らによつて、担当職員の監視の目をくぐり、計画的かつ極めて巧妙な手口によりなされたものであり、かかる事件は、都税事務所において過去に一度も発生したことがなく、担当者はこのような事件を経験しなかつたばかりでなく、他府県における例さえ仄聞しておらず、本事件の発生を予測することすら困難であつた。

したがつて、都税事務所の担当官に、閲覧者に対する監視義務を怠つた過失があつたとはいえない。

(四)  同6(二)(固定資産課税台帳登録証明書作成・交付の際の注意義務違反)の事実のうち、本件両土地の固定資産課税台帳の原簿に原告主張の(1)ないし(4)の改ざんの跡があつたことは認めるが、それが容易に知りうるものであり、それを看過した都税事務所の担当官には過失があるとの主張は否認する。

(五)  同7(原告の損害)(二)の事実は否認する。仮に担当官に過失があつたとしても、その過失と原告の損害との間には相当因果関係がない。

(1) 課税台帳は、都税事務所において、固定資産税の課税事務をより迅速・効率的に行うために、固定資産の状況及び固定資産税の課税標準額、納税義務者を明らかにするため備えているものであつて(地方税法第三八〇条)、原告主張のように、真実の所有者を公示するために備えているものではない。

したがつて、固定資産課税台帳登録証明書は、一般に、不動産登記の登録免許税の課税標準額を算定する場合(登録免許税法附則第七条)、訴訟物の価額の算定の資料として添付する場合(昭和三三年九月一〇日自治庁税務局長通達)、地代・家賃算定の基礎資料とする場合などに利用されているのであつて、当該不動産の真実の所有者であることを推定するための証明資料としては利用されていない。

(2) また、原告の損害は、以下に述べるとおり、原告自らの行為によつて生じたものというべきであり、都税事務所の担当官の行為との間には相当因果関係がない。

(ア) 原告は、昭和五七年五月一二日に一九六〇万円を貸付けた相手が、実は藤田本人ではなく、藤田を名乗つた山岸であつたことを後に知つたが、このように契約当事者を偽るような者とは、それ以後取引に応じないのが通常であるにもかかわらず、漫然とさらに九八〇万円の貸付をした。

(イ) 右一九六〇万円の貸付の際に、藤田を名乗る山岸は、原告に対し、藤栄建設の代表者であり、右借入金は、同会社の事業資金として必要である旨説明していたが、実は、同会社の事務所は、しばしばパクリ屋が利用するといわれている共同事務所であり、しかも同会社の名で同事務所を借りたのは、つい一か月ほど前の昭和五七年四月中旬であつた。

(ウ) 右一九六〇万円の貸付にあたり、半田らは、右借入金の担保に供する本件両土地は、藤田の父親が藤田のために購入したものである旨述べていたが、その後、昭和五七年五月二五日には、従前の説明と全く異なり、本件両土地は、山岸の親戚で叔父にあたる伊藤なる人物が購入したものであるなどと説明するに至つている。

(エ) 金融業を営む原告としては、遅くとも昭和五七年五月二九日、半田に対して、あらたに九八〇万円の貸付を行うに際しては、伊藤なる人物等にあたるなどしてその権利の帰属について調査すべきであり、もし調査していれば、容易に本件両土地の所有者が藤田や伊藤ではないことが明らかになり、貸付に至ることは到底ありえなかつたにもかかわらず、調査をしないまま、漫然と九八〇万円の貸付をした。

三  抗弁(過失相殺)

1(被告国)

仮に被告国の責任が認められるとしても、原告には、以下のとおり、通常の取引人として当然になすべき注意義務を怠つた極めて重大な過失があつたのであるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。

(一)  (昭和五七年五月一二日の一九六〇万円の貸付の際の過失)

前記二1(六)(1)(ア)ないし(ウ)と同旨。

(二)  (昭和五七年五月二九日の九八〇万円の貸付の際の過失)

前記二1(六)(2)(ア)ないし(キ)と同旨。

2(被告都)

仮に被告都の責任が認められるとしても、原告には、前記二2(五)(2)(ア)ないし(エ)記載の、金融業者として当然なすべき注意義務を怠つた重大な過失があつたのであるから、損害額の算定にあたつては、相当額の過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1(一)(二)及び2の各事実はいずれも否認し、過失相殺がなされるべきとの被告らの主張は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(土地登記簿の偽造)の事実につき判断するに、いずれも〈証拠〉によれば、半田と山岸が、藤田及び伊藤と共謀の上、不動産の売買代金名下もしくは不動産を担保とする借用名下に、金員を騙取することを企て、昭和五七年五月六日午後三時一〇分ころ、東京法務局城北出張所に赴き、偽名を用いて、本件両土地の登記簿を含む登記簿冊三冊と公図の閲覧を申請し、それらを担当登記官より受領し、閲覧場所において、半田が監視の目を逃れるため、借りた公図を広げて手元を隠して、本件両土地の登記簿原本をバインダーからはずし、あらかじめ用意していたレポート用紙にはさんで、隣席で閲覧していた山岸にこれを手渡し、同人がこれを外へ持ち出して、右原本に別紙偽造目録一記載のとおり、タイプ印字で「藤田光義」に所有権が移転した旨の虚偽の内容の記入等をした上、同日午後四時五〇分ころ、これを閲覧場所に持ち帰り、これを半田に手渡し、同人がすばやく元通り簿冊に挿入、編綴して、担当登記官に返還した事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二請求原因2(固定資産課税台帳の偽造)の事実につき判断するに、〈証拠〉によれば、半田と山岸は、原告に、本件両土地の固定資産課税台帳登録証明書を取りにいかれ、本件両土地が藤田の所有でないことが露見してしまうことを恐れ、昭和五七年五月一九日午前一〇時三〇分ころ、東京都足立都税事務所に赴き、本件両土地の固定資産課税台帳の閲覧申請を行い、原簿を担当事務官から受領し、閲覧場所において、半田が監視の目を逃れるため、台帳の上にあらかじめ用意していた足立区の地図を広げて、手元を隠して、本件両土地の台帳を引き抜き、用意していたレポート用紙にはさんで、山岸にこれを手渡し、同人がこれを外へ持ち出して、別紙偽造目録二記載のとおり、「藤田光義」が所有者である旨の虚偽の内容を記入した上、一〇分ほどで閲覧場所へ持ち帰り、これを半田に手渡し、同人がすばやく元通り原簿に差し込み、担当事務官に返還した事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三請求原因3(詐欺を受けたことによる貸付―その一)(一)(二)の各事実につき判断するに、〈証拠〉(いずれも登記簿謄本)、〈証拠〉(いずれも登記申請書)、〈証拠〉(いずれも委任状)、〈証拠〉(領収証)によれば、半田が、原告に対し、昭和五七年四月二三日ころ、土地を担保に金を貸してくれるよう話をもちかけ、同年五月四日、本件両土地の公図を示した上で現地を案内し、これを担保に金を貸してくれるよう申し込み、同年五月七日、東京法務局城北出張所から、別紙偽造目録一記載の偽造のある登記簿原本に基づいて作成された登記簿謄本の交付を受け、翌八日、原告にこれを示し、さらに同年五月一二日、山岸が藤田になりすまして、半田とともに原告の事務所に赴き、本件両土地は他人の所有であり、これを担保に入れても法的には効力がなく、かつ返済の意思も能力もないのに、これを秘し、藤田の所有であると申し欺き、これを担保にして金を貸してくれるよう申し込み、偽造した登記済証や藤田の印鑑登録証明書、実印及び白紙委任状を原告に渡し、そのため、原告は、本件両土地の所有者が藤田であると誤信し、本件両土地を担保とするのであれば、確実に返済が受けられるものと考えて、右同日、藤田と名乗る山岸に対し、一九六〇万円を、弁済期同年五月二五日の約定にて貸し渡し、これを騙取された事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

四請求原因4(詐欺を受けたことによる貸付―その二)(一)(二)の各事実につき判断するに、〈証拠〉(いずれも登記簿謄本)、〈証拠〉(いずれも印鑑証明)、〈証拠〉(いずれも評価証明)並びに〈証拠〉(いずれも委任状)、〈証拠〉(借用証書)、〈証拠〉(領収証)、〈証拠〉(いずれも売買契約書)、〈証拠〉(借用証書)及び〈証拠〉(領収証)によれば、半田は、昭和五七年五月二五日、東京都足立都税事務所から、別紙偽造目録二記載の偽造のある固定資産課税台帳に基づいて作成された固定資産課税台帳登録証明書の交付を受け、翌二六日、前記三に判示したとおり原告に渡してあつた登記簿謄本、登記済証、印鑑登録証明書、実印及び白紙委任状に加えて、右固定資産課税台帳登録証明書及び新たに交付を受けた印鑑登録証明書を渡した上、本件両土地は他人の所有であり、これを売却しても所有権を移転させることはできず、かつ返済の意思も能力もないのに、これを秘し、(本件両土地を売つて、前に借りた分と一緒に返すから、あと一〇〇〇万円貸してほしい」と申し欺き、原告は、昭和五七年五月二四日に自ら本件両土地の登記簿謄本を取り寄せて、藤田の所有名義であることを確認しており、本件両土地が藤田の所有であるものと誤信したまま、本件両土地の売却により、確実に返済が受けられるものと考えて、同年五月二九日、さらに九八〇万円を、弁済期同年六月一五日の約定にて貸し渡し、これを騙取された事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

五請求原因5(登記官の過失)(一)(登記簿閲覧監視義務違反)につき判断するに、登記簿を閲覧させる事務は、不動産登記という公証事務に密接に関連する国の事務であるから、これを管掌する登記官は、国の公権力の行使にあたる公務員に該当し、一方、不動産登記法施行細則九条は、登記官の注意義務として「登記官ハ登記用紙ノ脱落ノ防止其他登記簿ノ保管ニ付キ常時注意スヘシ」、同細則三七条は、閲覧の方法として「登記簿若クハ其附属書類又ハ地図若クハ建物所在図ノ閲覧ハ登記官ノ面前ニ於テ之ヲ為サシムヘシ」と規定し、昭和四六年三月一五日法務省民事局長通達民事甲第五五七号不動産登記事務取扱手続準則二一二条は、閲覧させるにあたつての留意事項として「登記簿若しくはその附属書類又は地図若しくは建物所在図を閲覧させる場合には、次の各号に留意しなければならない。一 登記用紙又は図面の枚数を確認する等その抜取、脱落の防止に努めること。二 登記用紙又は図面の汚損、記入及び改ざんの防止に厳重に注意すること。三 閲覧者が筆記をする場合には、毛筆及びペンの使用を禁ずること。四 筆記の場合は、登記用紙又は図面を下敷にさせないこと。」と定めていることなどを勘案すると、登記官は、登記簿を閲覧させるにあたつては、閲覧場所を登記官の面前の常時監視できる場所に設置し、閲覧者が、登記簿冊のバインダーをはずして登記用紙を抜き取り、持ち去るとか、登記用紙に改ざんを加えるなどの行為をしないよう厳重に監視すべき注意義務を負つているものといわなければならない。

そこで、本件において、担当登記官に登記簿閲覧監視義務違反があつたか否かについて検討する。

〈証拠〉によれば、本件両土地の登記簿の偽造がなされた昭和五七年五月六日当時の東京法務局城北出張所三階における足立区の不動産登記簿閲覧の監視態勢は、以下のとおりであつたことが認められ、これに反する証拠はない。

1 閲覧場所は事務室内のほぼ中央部分に設けられ、そこに三〇席ほどの閲覧席が用意されており、これを囲むようにして権利第一係(受付係)、権利第二係、総括第一登記官及び閲覧・認証等の事務を担当する権利第四係等の職員が配置されていた。

2 閲覧者は、権利第四係の職員がいる貸出・返却場所の方に向かつて着席することとされており、貸出・返却場所の方からは見通しがよかつた。

3 権利第四係の職員五名が常に閲覧の監視にあたることとされ、他の職員も本来の職務を遂行しつつ随時監視をし、さらに、同室の責任者(総括第一登記官)である小室が、午前中二回・午後二回程度閲覧場所を巡視していた。

4 昭和五七年二月ころ、柱に電動式回転ミラーを設置して常時作動させ、閲覧の監視に供していた。

5 閲覧に際しての注意事項として、登記簿を汚損しないこと、筆記するときは、登記簿・図面を下にしないこと、鉛筆を使用してペン類は使用しないこと、喫煙をしないこと等を記載した掲示板を貸出・返却場所の上部に設置して、閲覧者の注意を喚起していた。

6 閲覧者が筆記用具以外の物を閲覧場所に持ち込まないようにするため、階段を上つてきたところにロッカーを設置し、閲覧者に対し、その利用を極力要請していた。

右に判示したとおり、閲覧の監視については、権利第四係の職員が常時これにあたり、他の職員も本来の職務の傍ら随時監視していたのであるが、証人小室の証言によれば、専門の監視員は一人も置いていなかつた事実が認められる。

そして、〈証拠〉によれば、足立区の不動産登記等の閲覧申請は一日に三〇〇件から六〇〇件程度あり、割合は登記簿が七割、公図が三割程度であり、職員はその本来の職務がかなり忙しく、当時同出張所の所長であつた梶川貞男も、本件のような改ざんがなされる恐れがあることは知りつつも、職員が手薄でなかなか監視が行き届かなかつたことを憂慮していたことが認められる。

さらに証人小室の証言によれば、半田らが登記簿を抜き取つた机は、柱のそばにあり、その陰になつて総括第一登記官の方からは見えにくいので、本件事故発覚後に右机を撤去した事実及び同出張所の四階にいる所長と第一権利登記官が、午前・午後交替で閲覧場所を巡視するという、より厳重な監視体制を本件事故発覚後にとるようになつた事実を認めることができる。

そして、前記一に認定した事実によれば、本件両土地登記簿の偽造は、半田が公図を広げて手元を隠して、本件両土地の登記簿原本を登記簿冊のバインダーからはずし、あらかじめ用意していたレポート用紙にはさんで山岸に手渡し、同人がこれを外に持ち出して本件偽造をした上、これを持ち帰り、半田に手渡し、同人が元の簿冊に挿入、編綴することによつて敢行したのであるが、右のように登記簿冊の上に公図を広げ、その下に手を入れて登記簿冊のバインダーをはずすという異常な行動をしたことが明らかであるところ、登記官としては、登記簿冊と公図(証人小室の証言によれば、横九〇センチメートル、縦六〇センチメートルの大きさであることが認められる。)とを同時に閲覧させているときには、右のような異常な行動のあることも十分に予測できるのであるから、厳重な監視をして本件のような偽造行為が行われるのを防ぐ注意義務があつたというべきである。しかし、本件においては、前記のように監視が必ずしも十分にゆき届かない位置にも閲覧机を置いたままにして十分な監視を怠つた過失により、本件偽造行為を見逃す結果となつたものといわなければならない。

また、登記簿の改ざんについては、本件以前にも同種の事故が発生しており(広島地裁昭和四二年(ワ)第二四三号、第二五二号同四三年三月六日判決、京都地裁昭和五五年(ワ)第一三六八号同五七年一二月二四日判決、盛岡地裁昭和五七年(ワ)第二六号同六一年八月二一日判決の各事例参照。)、本件のような事故の発生も予想しえないではなかつたのであり、現代社会において不動産登記が不動産の権利関係の確認や証明のために果たしている役割の重大性、国民が抱いている登記簿上の記載に対する信頼性及び国が行政施策の一環としてそのような不動産取引上重要な役割を果たす登記簿の閲覧を認めていることに鑑みれば、登記簿の管理は厳重かつ慎重な注意の下になされなければならないのであり、職員が手薄なことをもつて閲覧監視義務違反を否定する根拠とはなしえず、本件において、半田らの犯行が計画的かつ巧妙で、その発見が容易でなかつたことを十分考慮しても、なお担当登記官に閲覧監視義務違反があつたといわざるをえない。

よつて、請求原因5(一)は理由がある。

六次に、請求原因7(原告の損害)(一)(二)の各事実及び被告国の責任の有無について検討する。

被告国は、登記官の過失と原告の損害との間には相当因果関係がない旨主張するので、その点につき判断する。

まず、請求原因に対する認否1(六)(1)(昭和五七年五月一二日の一九六〇万円の貸付について)(ア)の事実につき判断するに、前記三に判示したとおり、原告は、昭和五七年五月一二日、藤田本人ではなく、藤田と名乗る山岸に対し、一九六〇万円を貸し付けたのであるが、それは藤田名義の本件両土地の登記簿謄本、登記済証、印鑑登録証明書、実印及び白紙委任状の交付を受けて債権回収の手段を確保した上でのことであり、さらに前掲甲第二六、第二七号証及び原告代表者尋問の結果によれば、原告は、昭和五七年五月二五日、あらためて藤田本人に右貸付についての借用証書や領収証を作成させて山岸の行為を追認させたことが認められるのであるから、原告は登記名義人を真実の権利者と信じたために損害を被つたわけではなく登記名義人でない者を登記名義人と誤認したために損害を被つたにすぎないとする被告国の主張は理由がない。

本件では、前記判示のとおり、登記官の過失により実体上の権利を伴わない不実の登記が生じ、原告は、真実は権利を有しない登記名義人を真の所有者と信じ、当該不動産を担保として金を貸し付けて損害を被つたものであり、その損害は、もし登記官が前記注意義務を尽くし偽造が看過されなかつたならば、当然生じなかつたものであるから、登記官の過失と原告の損害との間には相当因果関係があるといえる。

したがつて、同(1)(イ)(ウ)の各事実及び同(2)(昭和五七年五月二九日の九八〇万円の貸付について)(ア)ないし(キ)の各事実は、仮にこれらが認められたとしても、過失相殺を基礎づける事実にはなりうるが、これらをもつて登記官の過失と原告の損害との間に相当因果関係がないとはいえず、被告国は、原告に対し、損害賠償責任を負う。

七そこで、被告国が原告に対して賠償すべき金額について検討するに、被告国は、抗弁1(一)(二)で過失相殺を主張するので、この点につき判断する。

1  (昭和五七年五月一二日の一九六〇万円の貸付について)

原告代表者尋問の結果によれば、原告は昭和五六年春ころから金融業を営むようになつた事実が認められるところ、前記判示のとおり、原告は一九六〇万円の貸付にあたり、半田及び藤田と名乗る山岸から、本件両土地の登記簿謄本、登記済証、印鑑登録証明書、実印及び白紙委任状の交付を受けたものの、前掲甲第九号及び原告代表者尋問の結果によれば、原告はその際、藤田と名乗る男が本当に藤田本人であるか否かの確認をしていない事実が認められる。

これに対し、〈証拠〉によれば、昭和五七年五月二八日、藤島住宅が藤田から本件両土地を買い受ける話がまとまりそうになつたが、藤島住宅が、藤田が本人であるかどうか確認するために免許証の提示を求めたところ、藤田は免許証を紛失してしまつた旨返答したので不審に思い、売買の話を延期し、結局、藤島住宅としては、売買代金名下に金員を騙取されることを免れた事実を認めることができる。

さらに、〈証拠〉によれば、土地の売買の場合に限らず、金融の場合でも免許証で本人かどうか確認するケースが多いことが認められ、本件では、原告がこの措置をとつておれば、藤田本人ではないことが判明し、原告は警戒して貸付を断る等して損害を未然に防止することが可能であつたと解される。

また、〈証拠〉によれば、本件両土地の時価は二億円以上であり、抵当権等が全く設定されていない更地であつて、非常に担保価値の高いものであつたが、原告は、半田らに、銀行の融資を受けない理由や事情を全く確かめず、貸付日(昭和五七年五月一二日)からわずか二週間足らずの同年五月二五日に他から融資を仰いで返済するという話を聞いただけで、どこからどのように融資を受けるのか等については全く確認していない事実が認められるが、これは金融業者が一九六〇万円もの大金を貸し付ける際の調査としては極めて杜撰であつたといえる。

以上の事実によれば、原告は金融業者として通常払うべき注意を著しく欠いたものといわざるをえず、原告の右過失を斟酌すれば、昭和五七年五月一二日の詐欺による貸付につき被告国に負わせるべき賠償額は、原告の被つた損害一九六〇万円の三割である五八八万円にとどめるのが相当である。

2  (昭和五七年五月二九日の九八〇万円の貸付について)

〈証拠〉によれば、以下の各事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告が、1の一九六〇万円の貸付の際藤田と名乗る男から受け取つた「藤栄建設株式会社代表取締役 藤田光義」の名刺に記載された電話番号に電話をしたところ、そこは共同事務所(貸電話)であり、しかも一か月前に借りたばかりであつたことが判明した。

(二)  そこで原告が、半田に問い合わせたところ、半田は、昭和五七年五月二五日、藤田本人を連れて原告の事務所へ行き、「この間の貸付のとき藤田と名乗つたのは実は山岸である。今日連れてきたのが藤田本人だが、風貌が悪いので、見掛けのいい山岸にした」などという極めて不自然な説明をした。

(三)  右同日、原告が藤田に一九六〇万円の貸付につき確認したところ、藤田は貸付を受けたことを知らず、驚いた顔をしており、原告は貸し付けた金員が藤田本人の手に渡つていないことを知つた。

(四)  しかも藤田は右金員を返せないなどと言うので、原告が「返せないのなら詐欺も同じだから警察を呼ぶ」と言うと、半田が「本件両土地を売却して返済する」と答えるなど、ちぐはぐなやりとりがなされた。

(五)  さらに原告が、半田に対し、本件両土地の所有者について尋ねると、半田は、本件両土地は藤田の父親が藤田のために購入したものであるとの従前の説明とは全く異なり、本件両土地の真実の所有者は山岸の親戚の伊藤という人物であり、山岸に処分を任せており、税金対策上藤田の名義にしたらしいと説明したが、原告は右伊藤や山岸にあたつて本件両土地の所有権の帰属について調査しなかつた。

(六)  原告は、貸付金が返済されさえすればよいと考え、本件両土地の売買に必要な書類は交付されており、藤田本人も確認できたので、安心してしまい、(一)の藤田が共同事務所(貸電話)を使つていたことに対する疑問を解かないまま放置した。

右に判示したとおり、本件において、半田らは、契約当事者を偽つたり、そのことにつき極めて不自然な理由を述べたりしており、また、担保たる土地の所有権の帰属に関する話も変遷したりしていたのであるから、原告としては、新たな貸付にあたつては十分警戒して調査すべきであつたにもかかわらず、これを怠つたものということができる。

したがつて、原告は金融業者として通常払うべき注意を著しく欠いたものといわざるをえず、しかもその過失は、昭和五七年五月一二日の一九六〇万円の貸付の際の過失以上に重大なものであり、原告の右過失を斟酌すれば、昭和五七年五月二九日の詐欺による貸付につき被告国に負わせるべき賠償額は、原告の被つた損害九八〇万円の一割である九八万円にとどめるのが相当である。

よつて、原告の損害につき被告国に負わせるべき賠償額の総額は、六八六万円となる。

八次に、被告都の責任の有無について検討する。

被告都は、仮に都税事務所の担当官に原告主張の過失があつたとしても、その過失と原告の損害との間には相当因果関係がない旨主張するので、その点につき判断する。

そもそも固定資産課税台帳は、都税事務所において固定資産税の課税事務を迅速・効率的に行うべく、固定資産の状況及び固定資産税の課税標準である固定資産の価格を明らかにするため備え付けられているものであつて(地方税法三八〇条)、不動産登記簿のように不動産の権利関係を公示するために備え付けられているものではない。

そして、固定資産課税台帳登録証明書は、一般に、売買等に伴う不動産登記の登録免許税の課税標準額を算定する場合(登録免許税法附則七条)や訴訟当事者が訴訟物の価額の算定のための資料として添付する場合(昭和三三年九月一〇日自治庁税務局長通達)等に利用されているものであり、不動産の所有関係を証明するために交付されているわけではない。

そこで本件の昭和五七年五月二九日の九八〇万円の貸付にいたつた経緯をみるに、前記判示のとおり、同年五月一二日の一九六〇万円の貸付の際、原告は藤田名義の登記簿謄本、登記済証、印鑑登録証、実印及び白紙委任状を渡され、また、同年五月二四日に自ら本件両土地の登記簿謄本を取り寄せて、藤田の所有名義であることを確認し、藤田が本件両土地の所有者であると誤信していた。

原告代表者尋問の結果によれば、原告は右九八〇万円の貸付に先立つて、同年五月二六日、半田に固定資産課税台帳登録証明書を持つて来させたが、それは売却にあたり所有権移転登記のために必要だつたからであり、ちなみに右一九六〇万円の貸付の際には、土地売却の話もしていないのに固定資産課税台帳登録証明書を要求するのは失礼だと考えてこれを要求しなかつたことが認められる。

さらに原告代表者尋問及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三二号証(土地買付証明写)によれば、原告は、本件両土地を売却して右一九六〇万円の貸付金を回収しようとして、永興産業と藤島住宅に売買の話を持ちかけたところ、両社とも積極的な態度を見せ、約二億七〇〇〇万円の価額を示し、藤島住宅は同年五月二八日に約一億七〇〇〇万円の預手を持参したほどであり、永興産業も買付証明を出したので、原告は、県下で一流の不動産業者が買いに入つたのだから間違いないと考え、登記済証や白紙委任状を預つていたので一〇〇〇万円くらい新たに貸し付けてやる義務があるだろうという気持ちになり、また、新たに一〇〇〇万円を貸し付けても必ず回収できるものと信じたこと、そして右九八〇万円を最終的に貸そうと決めたのは、半田から固定資産課税台帳登録証明書を受け取つた同年五月二六日ではなく、永興産業が買付証明を出し、両社とも買受の意思をはつきりさせた同年五月二九日であつたことが認められる。

以上の事実を併せ考えると、都税事務所の担当官の過失により固定資産課税台帳の偽造がなされたという事実の有無にかかわらず、昭和五七年五月二九日の詐欺による貸付の損害は発生し、損害の程度(九八〇万円)も変わらないものと解され、したがつて、仮に都税事務所の担当官に原告主張の過失があつたとしても、その過失と原告の損害九八〇万円との間には相当因果関係が存在しないというべきである。

よつて、被告都に対する請求は理由がない。

九結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、被告国に対し、国家賠償法一条による損害賠償請求権に基づき、金六八六万円及びこれに対する損害発生後である昭和五八年六月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、被告国に対するその余の請求及び被告都に対する請求はすべて失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を適用し、仮執行宣言の申立についてはその必要がないものと認めこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小倉 顕 裁判官渡邉了造 裁判官岩坪朗彦)

別紙物件目録

一 所在 東京都足立区舎人三丁目

地番 八番六

地目 田

地積 一〇四九平方メートル

二 所在 東京都足立区舎人三丁目

地番 八番七

地目 田

地積 九七五平方メートル

偽造目録

一 登記簿について

(イ) 別紙物件目録一記載の土地について

1 表題部の三行目の行の、次の「 」部分

地番 「八番六」

地目 「宅地」

地積 「壱〇四九m2」

原因及びその日付 「昭和五四年六月七日地目変更」

登記の日付 「昭和五六年弐月四日  」

2 甲区第参番の欄の、次の「 」部分

順位番号 「参」

事項欄

「所有権移転

昭和五六年九月四日受付

第参弐五九四号

原因 昭和五六年八月参〇日売買

所有者 中野区弥生町五丁目壱〇番弐号

藤 田 光 義  」

(ロ) 別紙物件目録二記載の土地について

1 表題部の三行目の行の、次の「 」部分

地番 「八番七」

地目 「宅地」

地積 「九七五m2」

原因及びその日付 「昭和五四年六月七日地目変更」

登記の日付 「昭和五六年弐月四日  」

2 甲区第弐番の欄の、次の「 」部分

順位番号 「弐」

事項欄 「所有権移転

昭和五六年九月四日受付

第参弐五九五号

原 因 昭和五六年八月参〇日売買

所有者 中野区弥生町五丁目壱〇番弐号

藤 田 光 義  」

二 土地課税台帳について

(イ) 別紙物件目録一記載の土地について

・ 上から三行目の行の、次の「 」部分

地目 登記 「宅地」

現況 「宅地」

地積 「1049」m2

沿革 「昭和56年2月4日現況地目変換」

登記年月日 「昭和56年9月4日」

登記原因 「売買」

所有者 住所 「中野区弥生町5−10−2」

氏名又は名称 「藤 田 光 義」

(ロ) 別紙物件目録二記載の土地について

・ 上から三行目の行の、次の「 」部分

地目 登記 「宅地」

現況 「宅地」

地積 「975」m2

沿革 「昭和56年2月4日現況地目変換」

登記年月日 「昭和56年9月4日」

登記原因 「売買」

所有者 住所 「中野区弥生町5−10−2」

氏名又は名称 「藤 田 光 義」

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