大判例

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東京地方裁判所 昭和59年(刑わ)1354号 判決

主文

1  被告人を懲役二年八月に処する。

2  未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

理由

(認定事実)

被告人は、昭和四六年ころから右翼活動に従事するようになり、昭和五七年一二月ころ結成された日本自由民主党と称する団体に属していたものであるが、

第一  日本自由民主党の実質的党主である古賀隆助は、昭和五八年三月下旬ころ、東北歯科大学理事長影山四郎(大正一〇年一二月生)が女子学生の売春の相手方となった旨を聞知し、これを理由に右影山から金員を喝取しようと考え、同年四月一一日ころ、東京都港区赤坂三丁目一七番八号土橋ビル六階日本自由民主党事務所において、被告人に対し、「東北歯科大学の影山という理事長は、女子学生の売春の相手方となっている。影山理事長を攻めてくれ。」という趣旨の指示をしたところ、被告人は、右古賀の前記意図を察知しながらこれを了承し、ここに被告人と右古賀との間に右影山から前記のような理由で金員を喝取することの共謀が成立し、翌四月一二日ころ、前記日本自由民主党事務所から福島県郡山市富田町字三角堂三一番地一の前記大学に電話をかけ、右影山に対し、「理事長が女を金で買っていいのか。」「教育者として失格だ。」などと怒号し、さらに、同日、右古賀が同党党員の岡宮睦雄に対し、右事務所において、右影山から前記の理由で金員を喝取する意図であるから被告人らの犯行に加担するよう指示し、右岡宮もこれを了承し、ここに右岡宮も被告人らの共謀に加わり、同日、右影山を東京都千代田区永田町二丁目一四番三号赤坂東急ホテル三階コーヒーハウスに呼び出したうえ、被告人及び右岡宮が右影山に対し、「女を買うような理事長は即刻辞めろ。」「文部省に街宣をかけて補助金を貰えないようにしてやる。」「大学へも街宣をかける。」などと語気鋭く申し向け、引き続き、前記日本自由民主党事務所において、同人に対し、暗に金員の交付を要求し、若し右要求に応じなければ同人の不行跡を公表し、同人及び東北歯科大学の名誉及び信用を著しく失墜しかねない態度を示して脅迫し、同人をしてその旨困惑畏怖させ、よって、同月一五日ころ、前記赤坂東急ホテル三階コーヒーハウスにおいて、同人から現金二、〇〇〇万円の交付を受けて、これを喝取し

第二  同年九月ころ、古賀隆助と対立し、日本自由民主党を離党したものであるが、右古賀が右翼関係者らに自己の悪口をいいふらしている旨聞き及び、右古賀に会って話をつけたいと考えていたところ、同時期に離党した松村敏が彦右古賀との間に金銭貸借に関し争いがあって一度同人と会って話をつけたいと思っていることを知ったが、同人の行方が知れなかったので、同人との連絡を同人の実兄である古賀邦平(昭和一七年九月生)に依頼したものの、古賀隆助の配下の者らにいやがらせを受けたので、これは古賀邦平が古賀隆助に連絡してさせたものと考えて憤慨し、松村敏彦と共謀のうえ、古賀邦平らが両国予備校から金員を脅し取ったりあるいは同人が院長をつとめる大学進学予備校「東京医進学院」がいわゆる裏口入学の斡旋をしているなどと因縁をつけて同人から金員を喝取しようと企て、昭和五九年二月二八日、東京都豊島区東池袋三丁目一番五号サンシャインシティプリンスホテル一階ロビー喫茶室において、被告人が主として発言し、松村敏彦が話の合間に相槌を打ったりなどして、右古賀邦平に対し、「私達は、あんたのことは何でも知っているんだ。両国予備校から金を取ったでしょ。」、「あんたが書いた原稿もあるんですよ。これを使って両国予備校から金を脅し取ったでしょ。」、「このことをポスターやビラや街宣車で宣伝しますよ。ポスターやビラは、教育を食いものにする予備校ということで、他校を恐喝したとか、ほかに裏口入学しているなどと書いたもので、もう準備してある。」、「僕らはあんたを恐喝してるんだから。とにかく三、〇〇〇万円出してもらいましょう。」、「金を出さないなら、もうやるだけですよ。」、「警察に言うなら言ってもいいですよ。一緒に刑務所へ行きますか。」という趣旨のことを申し向け、更に、同年三月五日、前同所において同人が一、〇〇〇万円で許してもらいたい旨被告人らに申し出たところ、右古賀邦平に対し、松村敏彦が「それじゃ全然話にならない。せめて二、〇〇〇万円出せ。出さないなら、もうやるだけだね。」という趣旨のことを申し向けて金員を要求し、右古賀邦平をして、もし右要求に応じなければ、両国予備校からの恐喝、裏口入学の斡旋をしているとして宣伝されることによって同人及び右東京医進学院の名誉・信用を失墜されるものと困惑畏怖させ、同年三月六日、同都千代田区九段南三丁目九番一一号マートルコート麹町一階喫茶店「雪華堂」において、同人から現金二〇〇万円及び株式会社東京医進学院振出額面一、八〇〇万円の小切手一通の交付を受けようとしたが、同人が警察署に届け出たため、喝取の目的をとげなかったものである。

(証拠の標目)《省略》

(恐喝未遂と認定した理由)

本件判示第二の公訴事実は、被告人は松村敏彦と共謀のうえ、古賀邦平に対し、昭和五九年二月二八日及び同年三月五日の両日判示のように申し向けて金員を要求し、同人をして判示のように困惑畏怖させ、よって、同月六日判示「雪華堂」において、同人から現金二〇〇万円及び額面一、八〇〇万円の小切手一通の交付を受けてこれを喝取したという恐喝既遂の事実である。

しかしながら、取調済の関係各証拠を総合すれば、次の事実を認めることができる。

古賀邦平は、昭和五九年三月五日前記サンシャインシティプリンスホテルの一階ロビー喫茶店において、被告人及び松村敏彦に対し翌三月六日午後一時に判示「雪華堂」で二、〇〇〇万円を交付する旨約束したが、二、〇〇〇万円を渡したあとのことが心配になり、同日朝になって酒井伸一弁護士に電話で相談したところ、警察へ届出た方が良いと助言され同日午前一一時半ころ麹町警察署へ行って届けた。古賀邦平が警察官に事情を話したところ、警察官から、現場に警察官を張り込ませるからとにかく現場に行くようにいわれ、右古賀邦平は、同日午後一時ころ、現金二〇〇万円及び額面一、八〇〇万円の小切手一通を持って、判示「雪華堂」に赴き、同所で被告人及び松村敏彦に対し右現金二〇〇万円及び小切手を交付したところ、その場に張り込んでいた警察官八名により、被告人及び松村敏彦は、恐喝の現行犯人として逮捕された。

右事実によれば、警察官は、被告人らを現行犯人として逮捕するために、古賀邦平に対し現場に行くように指示するとともに、現場に張り込んで被告人らを逮捕する手筈をととのえていたものということができ、古賀邦平は、被告人らが現金や小切手を受取ってうまく逃げるかも知れないという心配はあったとも述べるが、警察官の対応に安心したと述べており、被告人及び松村敏彦の外には共犯者がいることを述べてもいないことをも併せ考えると、古賀邦平が右現金及び小切手を被告人らに交付したのは、被告人らを逮捕してもらうためではなかったかとの疑いを払拭することができず、従って、古賀邦平の右交付行為が同人の判示困惑畏怖に基づくものであると認定するには、なお合理的疑いが残るといわざるを得ない。

以上の理由により、本件は恐喝未遂であると認定したわけである。

(法令の適用)

被告人の判示第一の行為は、刑法六〇条、二四九条一項に、判示第二の行為は、同法六〇条、二五〇条、二四九条一項にあたる。

右両罪は、同法四五条前段により併合罪であるので、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をする。

同法二一条(主文2)。

刑訴法一八一条一項但書(訴訟費用は負担させない。)。

(量刑について)

判示第一の事実は、日本自由民主党を名乗る被告人らが、東北歯科大学の理事長に対し、女子学生の売春の相手方になったことに因縁をつけ、判示のような脅迫文言を申し向け、現金二、〇〇〇万円を喝取した事案であり、その態様は計画的かつ執拗であり、被害額も極めて多額であり、犯情は非常に悪質といわざるを得ない。

判示第二の事実は、予備校の学院長である被害者に対し、恐喝をしたり裏口入学の斡旋をしていると因縁をつけ、判示のような脅迫文言を申し向け、二、〇〇〇万円を喝取しようとした事案であり、その態様も計画的かつ執拗であり、喝取しようとした額も極めて多額であり、犯情は同様に非常に悪質というべきである。

たしかに、本件各犯行においては、いずれも被害者側に被告人らから因縁をつけられるような弱味のあったことが認められるが、被害者の弱味につけ込み、社会一般の人からは想像することもできないほど多額の金員を喝取しかつ喝取しようとした被告人らの行為は、卑劣であり、右翼政治団体を名乗りながら、その実質は、組織暴力団の組員による犯行となんら変わるところがないというべきである。しかも、喝取した金員については、なんらの弁償がなされていないばかりか、各被害者に対し慰藉の方法も講じていないのであって、この点も、刑の量定にあたり看過することができない。また、被告人には、懲役刑の前科六犯、罰金刑の前科三犯がある。

以上のような本件各犯行の態様、経過、被害の程度、被告人の生活態度、前科等に照らせば、被告人の責任は非常に重いといわなければならない。

しかし他方、判示第一の事実においては、主犯は古賀隆助であり、被告人は分け前を受け取っていないこと、判示第二の事実においては、未遂のため実害が発生しなかったこと、被告人が事実を素直に認め反省していること、判示第一の事実については、日本自由民主党時代の悪事を清算するため、自ら進んで捜査官に対し犯罪事実を供述したことなど有利な情状が存する。

そこで、その他の情状をも全て斟酌し、主文の刑が相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀籠幸男)

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