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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)14651号 判決

原告(反訴被告) 日本モールド株式会社

右代表者代表取締役 渡辺和彦

右訴訟代理人弁護士 服部正敬

同 村本道夫

被告(反訴原告) 東洋電装株式会社

右代表者代表取締役 小出功

右訴訟代理人弁護士 鈴木義廣

同 横内淑郎

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金四四七万七〇一六円及びこれに対する昭和六〇年四月一六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  被告(反訴原告)の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴について生じた費用は原告(反訴被告)の負担とし、反訴について生じた費用は被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は原告(反訴被告)勝訴部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴請求)

一  請求の趣旨

1 被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金一億七八九一万四八六一円及び内金一億一八九一万四八六一円につき昭和六〇年四月一六日から、内金四〇〇〇万円につき昭和六〇年一二月一七日から各支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告(反訴被告)の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

(反訴請求)

一  請求の趣旨

1 原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し、金二〇五一万八九四〇円及びこれに対する昭和六一年一二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

3 仮執行宣言

第二当事者の主張

(本訴請求)

一  請求原因

1 原告(反訴被告・以下「原告」という。)はプラスチック用金型及びプラスチック製部品を製造販売する会社であり、被告(反訴原告・以下「被告」という。)は車両用電装品及び部品の製造販売をする会社である。

2(一) 被告は、昭和五四年五月ころ、原告に対し、自動車用プラスチック製部品等の製造を委託し、原告がこれを承諾して、ここに原、被告間に請負契約が成立して取引が開始し、昭和六〇年四月まで右取引が継続した。

(二) 被告は資本金四億九六一二万円、原告は資本金三〇〇〇万円の法人であるから、被告は原告との関係では下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)二条三項一号にいう親事業者に該当する。

3 (主位的請求原因)

(一) 原告は、被告との間で、別表(一)製品欄記載の各製品につき、昭和五八年九月までに同表合意単価欄記載のとおりの単価で同表数量欄記載の数量の製品を受注生産することを合意した。

右合意単価は、原告が被告所有の量産型(四個取り)金型を使用し始めたときに、被告が原告に支払った単価か、量産を前提として原告が被告に対し提出した見積単価のどちらか安い単価である。

(二) 原告は、同表製品欄記載の各製品につき、同表時期欄記載の時期に同表数量欄記載の数量を納品したが、被告は、一方的に同表買取単価欄記載の単価に引下げをし、右単価による代金しか支払わなかった。

(三) したがって、原告は被告に対し、請負代金請求権に基づき、同表の買取単価が合意単価より低い製品につき合意単価と買取単価との差額にその納品数量を乗じた金額から、合意単価より買取単価が高い製品につきその差額に納品数量を乗じた金額を控除した差額金合計一億四一六〇万四八四一円の支払を求める権利を有するところ、その内金一億一八九一万四八六一円の支払いを求める。

4 (予備的請求)

(一) 前記のとおり、被告は下請法にいう親事業者であり、原告は同法にいう下請事業者であるところ、同法四条一項では、親事業者は下請事業者に対し、製造委託又は修理委託をした場合は、次の各号に掲げる行為をしてはならないとして、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を減ずること」(一項三号)、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請け代金の額を不当に定めること」(同項五号)を禁止している。

そして「下請代金支払遅延等防止法第四条第一項第三号・第四号・第五号に関する運用基準について」と題する通達(以下「運用基準」という。)によると、発注時に親事業者と下請事業者との間で決定された下請代金の額から発注後に親事業者が下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、一定額を減ずる行為を不当な値引きといい、不当な値引きの例示として、

(1) 発注時までに申入れ等を理由に減額する場合で、

「発注時までに下請事業者との間に、下請代金を減額することについて合意があったが、その内容が具体的でなく又減額することについて、下請事業者が納得し得るに足る合理的理由がない場合に当該合意に基づいて下請代金の額を減ずること」

(2) 単価引下げ等を理由に減額する場合で、「合理的理由がないにもかかわらず、発注時に正式単価を決定せず、仮単価等により下請代金の額を算定し、じ後に正式単価を決定したことを理由にその額を減ずること」

を挙げている。

また、同運用基準によると、親事業者と下請事業者との間で、下請代金の額が決定される際に親事業者が下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し、通常支払われる対価に比し、著しく低い下請代金の額を不当に定める行為を買いたたきといい、不当に定める行為の例示として

(1) 一律に一定比率で単価を引下げる場合

(2) 一方的に下請代金の額を定める場合で、「一方的に親事業者の予算単価により下請代金の額を定めること」

を挙げる。

(二)(1) 被告は、別表(二)記載の製品欄記載の製品だけを抽出しても同表単価欄記載のとおり一方的に単価を不当に引下げ、別表(三)の1ないし53の製品についてみると、昭和五八年九月以降の被告の買取単価は別表(三)の原告の主張・買取単価欄記載のとおりとなった。

(2) 被告は、原告の量産型(四個取り)金型使用開始後九月(M四六一一、四六一二は八月から)及び一二月からほぼ一斉に一方的に単価引下げを行っているが、その経緯は次のとおりである。

被告は、原告に安い見積りを出すよう命じ、昭和五八年八月二八日付で原告が見積書を提出すると、被告は単価が高いとの理由でこれを無視し、同年九月二九日には見積書なしで一方的に単価を決定し、これに基づき暫定的に支払をし、その後一一月八日に右暫定単価をさらに引下げた単価を書き込んだ見積補足票を原告に送付して単価を指定し、原告から白紙の見積書用紙に原告の社印を押捺したものの交付を受けてこれに見積単価を被告が書き込んだうえ、一二月八日付見積書(乙第一ないし第五号証の各一、二)を作成して合意あるような外観を作出するというものであり、したがって、原告には製品を納品して被告から翌月に発行される支払明細書を見て初めて単価が分かるという状態であり、単価引下げの合意などありえない。

被告の単価引下げのやり方は、一応量産体制が出来上がり、生産をやめれば、原告にとって大きな打撃となり原告が引くに引けないような状況にしておいて単価の引下げを一方的に行うというものである。

(3) このため、原告の経営内容は悪化の一途をたどり、昭和六〇年三月末には倒産寸前に追い込まれた。

(4) 右被告の一連の行為は下請法四条一項三号、五号に該当する違法な行為である。

(三) ところで、原告は別表(三)記載の製品の同表原告の主張・数量欄記載の数量を納品したが、その正常単価は同表の原告の主張・正常単価欄記載のとおりである。

(四) したがって、原告は被告に対し、下請法四条一項三号及び五号に基づき(予備的に不法行為による損害賠償請求権に基づき)別表(三)の原告の主張・買取価格欄記載の単価と同表の原告の主張・正常単価欄記載の単価との差額に同表の原告の主張・数量欄記載の数量を乗じた金額(正常単価が買取単価より高い場合)から買取単価が正常単価より高い製品につき買取単価と正常単価との差額にその数量を乗じた金額を控除した差額金合計金一億一八九一万四八六一円の支払を求める。

5 原告が昭和六〇年四月八日右差額金のうち一億六八万八〇六円の請求をしたところ、被告が同年四月一一日、翌一二日に原告代理人事務所において話し合いを行うと約束しておきながら、一二日午前七時ころ、原告本社工場及び上越工場他の原告の工場に大勢で押し掛け、原告代理人が現場で指揮をとっていた被告の振木常務取締役に電話で自力救済を直ちに中止するよう申し入れたにもかかわらず、勝手に金型や製品を原告方から運び出したため原告の本社工場は閉鎖のやむなきに至った。

右被告の違法行為により、原告の金型の商事留置権が侵害されるとともに、原告の営業権が侵害され、このため原告は金四〇〇〇万円の損害を被った。

6 原告は被告の右違法行為により、弁護士服部正敬に公正取引委員会への申立て及び本件訴訟を委任し、昭和六一年一一月一日、着手金一〇〇〇万円、成功報酬一〇〇〇万円を支払う約束をした。

7 よって、原告は被告に対し、請負代金請求権に基づき(予備的に下請法四条一項三号、五号、又は不法行為による損害賠償請求権に基づき)金一億一八九一万四八六一円を、不法行為による損害賠償請求権に基づき金六〇〇〇万円を、内金一億一八九一万四八六一円に対する履行期の後である昭和六〇年四月一六日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の、内金四〇〇〇万円に対する不法行為の後である昭和六〇年一二月一七日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2(一)(二)の事実は認める。

3(一) 同3(一)の事実は否認する。原告の担当者と被告の担当者とが協議のうえ、原、被告間で、別表(三)原告の主張・買取単価欄記載のとおり単価引下げについて合意したものである。

(二) 同3(二)の事実のうち、被告が一方的に別表(一)の買取単価欄記載の単価に引下げたとの点は否認し、その余は認める。但し、別表(一)の1の製品(M四五七七他)の58・12~60・4の数量は五三万六三一一個であり、同表2の製品(M四六〇九他)の59・8~60・4の数量は八万五六二九個であり、同表5の製品(M四六一二他)の58・12~60・4の数量は九五万三三七五個であり、同表6の製品(M四五八〇他)の58・9~58・11、58・12~60・4、59・10~60・4の各数量はそれぞれ八万二五〇七個、三八万九三一七個、三万二三七八個である。

4(一) 同4(一)の事実は認める。

(二) 同4(二)(1)の事実のうち被告が一方的に単価を引下げたとの点は否認し、その余は認める。原告の担当者と被告の担当者が協議のうえ、原、被告間で別表(三)の原告の主張・買取単価欄記載のとおり単価引下げについて合意したものである。

同4(二)(2)の事実は否認する。

同4(二)(3)の事実は否認する。

同4(二)(4)の事実は否認する。

(三) 同4(三)の事実のうち、別表(三)の原告の主張・数量欄記載の数量(但し、同表中被告の主張・数量欄に数字が記入された分は除く。)を納品したことは認め、その余は否認する。

5 同5の事実のうち、原告が昭和六〇年四月八日被告に対し、差額金一億六八万八〇六円の請求をしたこと、被告が昭和六〇年四月一二日午前七時ころ原告本社工場、上越工場に赴き、金型、製品の一部を引き上げたことは認め、その余は否認する。

6 同6の事実は不知。

三  抗弁

被告は、昭和六〇年四月一一日原告から、過去において納入した製品の下請代金が不当に低廉であったから正当な単価との差額金一億六八万八〇六円の支払を要求しその支払があるまで今後の出荷を停止する旨の口頭及び書面による通告を受けたが、自動車生産においては、部品の一つでも揃わなければ生産ライン全体が止まってしまい、原告からの納品が停止されれば、自動車生産に係わる関係業者全体に莫大な損害を及ぼすことになり、これを防止するために、原告の従業員と交渉の末、その承諾を得て、被告が原告に貸渡していた金型及び治具の一部の引上げを開始したが、原告代表者が同日九時三〇分ころ出社して右作業の中止を求めたため、右作業はその場で中止した。

右の経過に照らすと、被告の金型等の引き上げは自救行為として違法性が阻却される。

四  抗弁に対する認否

主張の差額金の請求をしたこと及び出荷停止の口頭及び書面による通告をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。なお、原告は出荷停止の現実の措置はしていない。

(反訴請求)

一  請求原因

1 本訴請求原因1、2記載と同旨であるから、これを引用する。

2 債務不履行

(一) 原告は、昭和六〇年四月一一日、被告に対し、突然過去において納入した製品の下請代金が不当に低廉であったから正当な単価との差額金合計一億六八万八〇六円の支払を要求し、その支払があるまで、今後の出荷を停止する旨の口頭及び書面による通告をした。被告は原告に話し合いを申し入れたが、原告代表者は誠実な対応をしなかった。

そこで、被告は、自動車、オートバイ等の部品の大部分の納入先である本田技研工業株式会社の自動車及びオートバイ生産ラインの停止にもなりかねないことから、被告に自社生産又は他の下請業者に依頼してその納品すべきプラスチック製部品の調達をなすため、原告に従来から無償で貸与していたプラスチック製部品製造用の金型及びその用具の返還をうけるため原告方に赴き係従業員の承諾を得てその一部の金型を引上げた。

しかし、原告から引上げた金型は原告が金型の保管義務に違反してこれを十分に保管しなかったため、四個取り金型ではそのうち一、二個が使用できなかったり、また損傷のため修理のうえでないと使用できない状況であった。

(二) 右原告の金型保管義務の不履行により被告が被った損害は次のとおりである。

(1) 原告が被告に納品する予定の製品を左記の下請業者に下請に出すにつき、金型の修理費及び四個取りの金型が十分に機能しなかったための能率低下補償金合計一〇一〇万八六〇四円の支払を余儀なくされ、右同額の損害を被った。

イ 三喜産業分

昭和六〇年五月から同六一年二月まで 金三九万三四七一円

ロ 三洋ケミカル分

昭和六〇年五月から同六一年二月まで 金二六三万四一六七円

ハ 精工エンジニアリング分

昭和六〇年五月 金五二万五三四九円

ニ 新田工業分

昭和六〇年五月から同年一〇月まで 金一七万一七一四円

ホ 日製産業分

昭和六〇年五月から同六一年三月分 金二一六万四〇八三円

へ 吉田精密分

昭和六〇年五月から同六一年三月まで 金四二一万九八二〇円

(2) 原告が突然出荷停止するという債務不履行により、被告従業員が残業、休日出勤を余儀なくされ、その手当てとして次の金員を支払い、右同額の損害を被った。

金一八九万八六三六円

(3) 原告の出荷停止という債務不履行により、被告は金型の引き上げを余儀なくされ、そのために次の費用を支払い、同額の損害を被った。

① 金型引き上げ等に要した車両チャーター料 金一三万〇四五〇円

② 金型引き上げ等に要した被告従業員の給与相当額

(昭和六〇年四月一二日分) 金五〇万六二五〇円

③ 原告下請け工場に金型引き上げに赴いた際の被告従業員の給与相当額 金三七万五〇〇〇円

(4) 雑費(被告従業員の交通費、食費、宿泊手当相当額) 金五〇万円

3 不法行為

(一) 原告は、昭和六〇年四月一六日付文書で被告の最大の納入先である本田技研工業株式会社に対し、製品単価を一方的かつ不当に低額に決定しているなどと被告があたかも違法行為をしているかのような虚偽の事実を告知し、また被告の下請先数社に対し電話で「お宅も気をつけたほうがよい。」などと右同旨のことを言いふらすなどし、さらに、原告は公正取引委員会に同旨のことを申告し、これらにより被告は業界内の信用はもちろん一般社会の信用を著しく毀損された。

(二) 右原告の不法行為により被告は金七〇〇万円の損害を被った。

4 よって、被告は原告に対し、債務不履行に基づく損害金一三五一万八九四〇円及び不法行為に基づく損害金七〇〇万円の合計金二〇五一万八九四〇円の支払を求めるとともに、これに対する反訴状到達の日の翌日である昭和六一年一二月三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2(一) 同2(一)の事実のうち、原告が昭和六〇年四月一〇日、被告に対し、過去において納入した製品の下請代金が不当に低廉であったから正当な単価との差額金合計一億六八万八〇六円の支払を要求し、その支払があるまで、今後の出荷を停止する旨の口頭及び書面による通告をしたこと、被告が原告に従来から無償で貸与していたプラスチック製部品製造用の金型及びその用具の返還を受けるため原告方に赴き、一部の金型を引上げたことは認め、その余は否認する。

(二) 同2(二)の事実は不知。

3(一) 同3(一)の事実のうち、原告が本田技研工業株式会社に対し、被告が製品単価を一方的に決めて勝手に支払ってくる旨の通告をしたこと、公正取引委員会に同旨のことを申告したことは認め、その余は否認する。

(二) 同3(二)の事実は不知。

第三証拠《省略》

理由

(本訴請求について)

一1  請求原因1、2(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。

2  原告が別表(一)の1ないし6の製品欄記載の各製品につき、同表時期欄記載の時期に同表数量欄記載の数量(同表1記載の製品の58・12~60・4の数量、同表2記載の製品の59・8~60・4の数量、同表5記載の製品の58・12~60・4の数量、同表6記載の製品の58・9~58・11、58・12~60・4、59・10~60・4の各数量を除く。)の製品を被告に納品し、被告が同表買取価格欄記載の単価で買取ったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同表(一)1記載の製品の58・12~60・4の数量は五三万六三一一個であり、同表2記載の製品の59・8~60・4の数量は八万五六二九個であり、同表5記載の製品の58・12~60・4の数量は九五万三三七五個であり、同表6記載の製品の58・9~58・11、58・12~60・4、59・10~60・4の各数量はそれぞれ八万二五〇七個、三八万九三一七個、三万二三七八個であることが認められる。

3  別表(二)記載の製品欄記載の各製品につき、同表数量欄記載の数量の製品を原告が被告に納品し、これに対し被告が同表単価欄記載の単価で支払をしてきたこと、別表(三)記載の1ないし53の各製品につき、同表時期欄記載の時期に原告の主張・数量欄記載の数量の製品を原告が被告に納品し、これに対し被告が原告の主張・買取単価欄記載の単価で支払をしてきたこと(但し、別表(三)中被告の主張・数量欄に数字が記載されている部分は除く。同表被告の主張・数量欄に数字が記載されている部分は数量について原告との間に争いがある部分であり、この部分は《証拠省略》により同表裁判所の認定・数量欄記載のとおりの数量であることが認められる。)は当事者間に争いがない。

二1  右争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、以下の事実が認められる(一部争いのない事実を含む。)。

(一) 原告は資本金三〇〇〇万円のプラスチック用金型及びプラスチック製部品を製造販売する会社であり、被告は資本金四億九六一二万円の車両用電送品等を製造販売する会社であるが、原告は、昭和五四年五月ころ、被告との間で自動車用プラスチック製部品等の製造請負契約を締結して取引を開始し、次第に被告からの受注量が増大したため、原告工場の生産設備を被告からの受注生産に適応するような仕様に統一した。その結果、昭和五八、九年ころには原告の全売上に占める被告に対する売上はほぼ八〇パーセントを占めるようになった。

(二) 原告と被告の取引の流れについてみると、まず、被告は、原告に対し、製造を委託するプラスチック製部品の金型の製作を委託し、原告が製造した金型を被告が買取り、それを原告に無償で貸与し、次いで被告から原告に具体的に部品製造の発注をし(なお、被告の発注書には単価は記載されていない。)、これに基づき原告は受注したプラスチック製部品の製造をして所定の納期に納品することとなる。原告と被告との代金の決済方法についてみると、原告からの納品を毎月二〇日に締め、原告は毎月二〇日ころ前月二一日から当月二〇日までの納品分の代金の請求書を被告あて発送し、被告は翌月上旬ころ右納品分の支払明細書を原告あて送付し、翌月二〇日代金が決済されることとなる。

(三) 別表(三)の1ないし53の製品のうち、同表の1ないし6、14ないし18、26、30、35、40の各製品(これらの製品は別表(四)の1ないし6の製品によって代表され、その単価も右1ないし6の製品の単価がきまれば自動的に決まる関係にあり、別表(四)の1の製品の単価について述べるところは、別表(三)の1ないし6の製品についても妥当する。この関係は別表(四)の2の製品と別表(三)の40の製品、別表(四)の3の製品と別表(三)の26の製品、別表(四)の4の製品と別表(三)の14ないし18の製品、別表(四)の5の製品と別表(三)の30の製品、別表(四)の6の製品と別表(三)の35の製品にも同様に当てはまる。したがって以下では別表(四)の1ないし6についてその単価の推移と決定手続きを検討することとする。)の単価につき単価の推移とその決定手続きをみると、原告は、別表(四)の1、4、3の製品の四個取りの金型を被告のために制作し、これを被告において検収した後、昭和五八年五月二一日貸与を受け、同表2の製品の四個取り金型も同じく同年六月二一日貸与を受け、同表5の製品の四個取りの金型もそのころ検収が終わり、貸与を受けた。右四個取りの金型の検収、貸与後もしばらく金型の修正が続き、ようやく同年七、八月ころに本格的な四個取りの製造工程が原告側で定着したため、被告は従前の一個取り金型による製造の場合の単価(別表(四)A欄記載の単価)を見直すこととし、原告に四個取りの工程を前提とした見積書の提出を求め、これに対し、同年八月二七日、原告は被告に、別表(四)B欄記載のとおりの単価を記載した見積書を提出したが、被告が予定していた単価と大きく乖離していたため、被告の顧慮するところとならず、被告担当者関根進は原告の田中営業課長に対し、見積りの再検討を命じて右見積書を原告に返還したが、その後原告からは新たな見積書は提出されなかった。このため、被告の担当者関根進は、原告の田中課長と話をつめたうえで原告からの見積書に基づく正式単価の決定という処理ができなかったため、暫定的に同年九月二九日同表C欄記載のとおりの単価を算出した見積補足票を作成し、これを社内の稟議に回すとともに、これに基づき、同日昭和五八年八月二一日から同年一一月二〇日までの暫定単価として右見積補足票と同じ単価を記載した単価承認願を作成して稟議に回し、同年一〇月一日資材部長の決裁を経て同表C欄記載の単価が決定された。

(四) 被告は、同年八月二一日から同年九月二〇日までに納品された製品(九月分)の代金支払につき、これらは右単価引き下げの決定前の発注にかかるものであるにもかかわらず、右新単価を遡及適用して支払をしたのをはじめ、以後一〇月分、一一月分の代金を右新単価に基づき支払をなした。原告は九月分支払明細書(同年一〇月四日付け)が送付され、同月二〇日に代金が支払われてはじめて確定的に単価が引下げられ、新単価(同表C欄記載の単価)となったことを知った(なお、原告が同年八月二一日から同年九月二〇日までに納品した製品(九月分)についての同年九月二〇日付け原告の請求書では別表(二)の58/8該当欄の単価欄記載の単価に基づき代金請求し、九月二一日から一〇月二〇日までに納品した製品(一〇月分)についての同年一〇月二四日付け原告の請求書では別表(二)の58/9該当欄の単価欄記載の単価(別表(四)のC欄記載の単価)で請求している。)。

(五) その後前記暫定単価の有効期限の終期(一一月二〇日)も近くなってきたので、同年一一月八日被告の担当者関根進は原告の田中課長あてに、コスト検討会の結果現行の単価より四パーセントダウンのコストで購入せざるを得なくなったので、一一月一五日までに見積書を提出してほしい、右返事のない場合には了承したものとして処理する旨の依頼文書を発し、同時に別表(四)D欄の単価を記載した見積補足票を作成して右田中に送付した。しかし、原告からは一一月一五日までに見積書の提出がないまま、同表C欄記載の単価の有効期限が経過したが、その後、同年一二月八日付で同表E欄記載の単価が記載された原告名義の見積書(乙第一ないし第五号証の各一)が作成され、被告担当者関根進はこれに基づき決定単価として同表F欄記載の単価を部品単価検討票に記載し、同年一二月一五日振木取締役の決裁を経て承認された。

ところで、別表(四)のE欄記載の単価(見積書の単価)は、前記見積依頼書で被告が要望していたとおり同表C欄記載の現行単価のほぼ九六パーセント(四パーセント引き)に相当するものであり、同表F欄記載の決定単価は同表E欄記載の単価の一銭単位の端数を切り捨てただけのものである。

(六) そこで、被告は右単価決定前の発注にかかる同年一一月二一日から同年一二月二〇日まで(一二月分)に納品された製品の代金につき、同表F欄記載の新単価を遡及適用して代金決済したのをはじめ、以後昭和五九年一月分以降の納品分の代金につき右の単価を基準に決済してきた。

(七) その後被告は、右の単価を同表G欄記載のとおり引下げ、これに基づき以後昭和五九年九月分から昭和六〇年四月分の納品分の代金につき右単価で決済してきた(なお、右単価引下げの際の見積書はなく、単価引下げの理由も判然としない。)。

(八) 別表(三)1ないし53の製品のうち別表(四)の1ないし6の製品についてのべるところが妥当する製品以外の製品の単価決定、単価引下げの手続き、経緯は証拠上不明であり、別表(四)の5、6記載の製品につき昭和五八年八月分納品分が単価八〇円から五四・八〇円に引下げられた手続き、経緯も不明である。

2  以上の事実を総合すると次のように判断される。

(一) 別表(三)の1ないし6、14ないし18、26、30、35、40の各製品に関し、昭和五八年九月二九日付けの単価補足票、単価承認願による単価の引下げにつき、右時点またはそれ以前において原告と被告との間に別表(四)C欄記載の単価で決済する旨の合意があったとは認め難いが、原告が同年一〇月初旬に同年九月分の納品分の新単価を被告の支払明細書によって知り、同年二〇日には九月分の納品分が新単価を基準に支払われた後にも受注、生産を継続していることや、原告が一〇月分の代金請求を一〇月二四日付けで、引下げられた新単価で行っていることから、遅くとも一〇月二〇日時点では、一〇月分以降の納品分につき新単価で決済することにつき合意が成立したものと認めるのが相当である。

(二) また、右各製品につき、乙第一ないし第五号証の各一の見積書が原告名義で被告に提出されていることに照らすと、被告との単価交渉の権限を与えられていた原告の担当者である田中課長は、昭和五八年一一月八日ころ、現行単価を四パーセントダウンしてもらいたいとの被告のかねてからの要望に従って同年一二月八日付けの見積書(乙第一ないし五号証の各一)の内容を承認するとともに、右単価引下げ前の発注にかかる一一月二一日から一二月二〇日までの納品分の代金についても右新単価によることを承認したものと推認するのが相当である(現実に右見積書の記載をしたのは被告の担当者であったかもしれないが、仮にそうであったとしてもこの点は右認定に消長をきたさない。)。

(三) さらに、右各製品につき昭和五九年九月分以降別表(四)のF欄記載の単価で決済されるようになった経緯、別表(三)の1ないし53の製品のうち、右各製品を除く製品についての単価決定、単価引下げの経緯については、見積書等がないため交渉の有無、経過等が判然としないが、別表(三)の原告の主張・買取単価欄記載の単価による代金支払が平穏に継続し、これについて昭和五九年一二月ころまでは原告側で格別異議を唱えた形跡が窺えないことに照らすと、特段の反証がない以上右単価決定または単価引下げを了承してきたものと推認するのが相当である。

3  ところで、原告代表者本人尋問の結果中、原告は別表(四)C、F、G欄記載の単価を合意したことはない旨、とりわけF欄記載の単価決定の基礎となる見積書(乙第一ないし第五号証の各一)は原告の会社印を押捺した白紙の見積書用紙に被告が勝手に書き込んだものである旨の供述は、前記認定の経過に加えて原告代表者は被告との単価の交渉に直接あたっていないことや被告が原告の担当者に無断で白紙の見積書用紙に勝手に見積金額を書くというのも取引の通常の経過からしていささか不自然であることに照らすと、にわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三  以上の認定事実に基づき、原告の主張を検討する。

1  被告が下請法にいう親事業者であり、原告が同法にいう下請事業者であることは当事者間に争いがないところ、原告は、被告の単価引下げは下請法四条一項第三号、五号に該当する旨主張するので検討する。

(一) 下請法四条一項では、親事業者は、下請事業者に対し製造委託又は修理委託をした場合は、次の各号に掲げる行為をしてはならない、として下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること(三号)及び下請事業者の給付内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること(五号)を禁止している。

そして、《証拠省略》の運用基準によると、発注時に親事業者と下請事業者との間で決定された下請代金の額から発注後に親事業者が下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず一定額を減ずる行為を不当な値引きといい、その例示として

(1) 発注時までの申入れ等を理由に減額する場合

① 発注時までに、下請代金の額から減ずる額を定めないで、じ後減額することがあり得るとの申入れを行い、これに基づいて下請代金の額を減ずること。

② 発注時までに下請事業者との間に、下請代金を減額することについて合意があったが、その内容が具体的でなく、又減額することについて下請事業者が納得し得るに足る合理的理由がない場合に、当該合意に基づいて下請代金の額を減ずること。

(2) 単価引下げ等を理由に減額する場合

① 下請事業者との間に単価引下げについて合意が成立した場合、当該合意の成立前に既に発注されている給付に新単価を遡及適用して下請代金の額を減ずること。

② 合理的理由がないにもかかわらず、発注時に正式単価を決定せず仮単価等により下請代金の額を算定し、じ後に正式単価を決定したことを理由にその額を減ずること。

を挙げる。

さらに、同運用基準によると、親事業者と下請事業者との間で下請代金の額が決定される際に親事業者が「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定める」行為を不当な買いたたきといい、「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(市価という。)をいうとし、「不当に定める」行為に該当すると認められる親事業者の行為の例示として

(1) 一律に一定比率で単価を引き下げる場合

親事業者が、すべての種類の下請取引又は特定の種類の下請取引における下請事業者に対して一律に一定比率で単価を引き下げて、下請代金の額を定めること。

(2) 一方的に下請代金の額を定める場合

① 一方的に、協力依頼等の名目で一定額を割り当て、当該金額を減じて下請代金の額を定めること。

② 一方的に、親事業者の予算単価により下請代金の額を定めること。

を挙げる。

(二) ところで、下請法四条一項三号(不当な値引き)に関し、親事業者が合意された下請代金の額を一方的に減額する場合には、請負契約に基づき、下請事業者が親事業者に対して合意金額と支払金額との差額金を請求しうることは明らかであるが、不当値引きの例示として挙げている単価引下げについて合意が成立した場合に当該合意の成立前に既に発注されている給付に新単価を遡及適用して下請代金の額を減ずる場合には、右新単価を遡及適用するにつき合意がなければ、前段に述べたことと同じこととなるが、遡及適用につき合意が成立している場合には、遡及適用の期間、新単価との差額等を勘案して同法四条一項三号の趣旨に照らして不当性の強い場合には右遡及適用の合意が公序良俗に違反して無効となる場合があり得るとしても、そうでない場合には下請法四条一項三号に抵触するということだけで右合意が無効となることはないと解するのが相当である。また、同条一項五号(不当な買いたたき)に関し、親事業者がその優越的地位を濫用して下請事業者に対し、運用基準にいう市価に比して著しく低い下請代金を合意のもとに定めた場合にも同法四条一項五号の趣旨に照らして不当性の強い場合には右合意が公序良俗に違反して無効となる場合があり得るとしても、そうでない場合には同条一項五号に抵触するということだけで右合意が無効となることはないと解するのが相当である。したがって、値引きや代金の決定につき合意がある場合には、親事業者の行為が下請法四条一項三号、五号に該当することから直ちに親事業者に運用基準にいう市価との差額金の支払義務が生じると解することは相当でなく、また、不当性が強く、合意の効力が否定されるなどの特段の事情のない限り、右条項違反を理由に不法行為による損害賠償義務が生じると解することも相当でない。

(三) 原告は主位的に別表(一)製品欄記載の各製品につき、昭和五八年九月までに同表合意単価欄記載のとおりの単価で同表数量欄記載の数量の製品を受注生産することを合意した旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、かえって右各製品のうち別表(三)の1ないし6、14ないし18、26、30、35、40の各製品については、前記二で認定したとおりの経緯で単価の引下げが合意されたものと認められる。

なお、原告の右主張は右の各製品につき数次にわたる単価引下げの合意があったとしても右合意は下請法四条一項三、五号に違反して無効であるとの主張をも含んでいるものと善解してさらに検討を進めると、別表(四)A、C、F、G欄記載のとおり順次単価が引き下げられ、これにつき原告と被告との間に一応の合意があったと認められることは前記のとおりであるが、前記二で認定した単価引下げの経緯及び引下げ幅、原告の被告に対する経済的依存度に照らすと、証人振木順義及び同関根進が証言するように、原、被告協議し、被告が原告の意見を十分聞いたうえで(代金決定や値下げの際は下請法の趣旨から親事業者に下請事業者の意見を十分聞くことが要求される)、双方納得のうえで合意されたとは認め難く、むしろ親事業者たる被告がその経済的優越的地位を利用して経済的劣位にある下請事業者たる原告に対し、半ば一方的に被告に有利な取引条件の承諾を迫り、原告はその従属的立場から右条件を不本意ながら承諾したものと推認される。

しかしながら、《証拠省略》によると、いずれも被告の下請業者である精工エンジニアリング株式会社に製造委託しているライティング・ノブM四五七六の単価、有限会社吉田精密に製造委託しているライティング・レバーM七一五五(M四五七七と印刷の部分だけがちがうもの)の単価、日本ネームプレート工業株式会社に製造委託しているワイパーレバーM四六〇九―〇二の単価と比較して原告が合意した前記各製品の単価は格別安いとは認められないことに別表(四)C欄記載の単価への大幅な引下げは原告の量産体制が軌道に乗ったことに伴うものであって、右の単価引下げが格別不合理であるともいえない事情があることなどを考え併せると、数次にわたる単価引下げが、下請法四条一項五号にいう、下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めたということはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。そうすると、別表(四)のA、C、F、G欄記載のとおりの単価の合意の効力は原告が不本意ながら単価の引下げを飲まざるを得なかったことによっても何ら消長を来さないというべきである。

次に前記二で認定したところによれば、別表(三)の1ないし6、14ないし18、26、30、35、40の各製品につき別表(四)のC欄記載の新単価についての合意が成立したのは早くとも右製品の九月分支払明細書が原告に送付されたころである昭和五八年一〇月四日ころと認められるところ、被告は、一〇月四日ころまでに原告に発注した製品について新単価を遡及適用して下請代金の額を減じている(但し、別表(三)の30、35の製品については、同年九月分の支払代金の単価が八月分の単価より高く、その限りでは代金を減じていないが、八月分の単価が七月分の単価に比して大幅に減額されているものの、その減額の経緯、手続きは不明であるから、右製品については右新単価の遡及適用の合意の有無、その内容等を判断できない)ことになり、また右各製品につき別表(四)F欄記載の新単価の合意が成立したのは早くとも昭和五八年一二月八日と認められるところ、被告は一二月八日以前に原告に発注した給付について右新単価を遡及適用して下請代金の額を減じていることになるから、右被告の行為は下請法四条一項三号で禁止する不当な値引きに該当するというべきであるが、昭和五八年九月分の代金(この分については、新単価の遡及適用の合意は認められない。)を除いては、前記のとおり新単価について一応遡及適用の合意が推認されるうえ、遡及適用の期間、単価引下げの幅等を勘案すると、右合意が下請法の趣旨に照らして公序良俗に違反すると認められるだけの不当性の強い事情が窺えないから、右遡及適用の合意の効力に消長を来さない。

そこで、残る五八年九月納品分(同年八月二一日から九月二〇日までの納品分)については新単価の遡及適用の合意は認められないから、従前の合意単価と新単価との差額に納品数量を乗じた金額につき、被告は原告に対し請負契約に基づき、支払義務があるというべきところ、前記二の認定事実に《証拠省略》を総合すると、別表(五)の1ないし4記載の各製品につき昭和五八年九月納品分の合意単価は同表合意単価欄記載のとおり(原告の主張は原告主張単価欄記載のとおり)であり、現実の支払代金の単価は同表58・9分支払単価欄記載のとおりであり、その納品数量は59・9分納品数量欄記載のとおりであることが求められるから、被告は原告に右合意単価(但し、右認定の合意単価より原告主張の合意単価が安い場合には原告主張の合意単価)から被告の支払代金の単価との差額に納品数量を乗じた金額を未払い請負代金として原告に支払うべき義務があるところ、右差額合計は四四七万七〇一六円となる。

したがって、被告は原告に対し、別表(五)の1ないし4の製品の昭和五八年九月分の請負残代金として、右差額合計金四四七万七〇一六円及びこれに対する弁済期ののちである昭和六〇年四月一六日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。

(四) 最後に原告は、別表(三)記載の買取単価と正常単価との差額に同表の数量を乗じた金額の請求権が下請法四条一項三、五号または不法行為に基づき発生する旨主張するが、その理由がないことは前記説示のとおりである。

四  原告代表者本人尋問の結果によれば、原告が昭和六〇年四月一一日、被告に対し、過去において納入した製品の下請代金が不当に低廉であったから、正当な単価との差額金合計一億六八万八〇六円の支払を要求し、その支払があるまで今後の出荷を停止する旨の口頭及び書面による通告をした(この点は当事者間に争いがない)ところ、翌一二日午前七時ころ、被告の社員延べ五〇名程がトラック三台とともに原告の本社工場、上越工場及び山梨の原告の協力工場に赴き、原告代表者の承諾なしに、原告が被告から貸与を受けている金型の一部、製品及び仕掛かり品等を引き上げる作業を始めたこと、その後同日午前八時三〇分ころ、原告代理人である服部弁護士が本社の現場にきて制止したため、被告は右作業を中止したが、金型の一部と製品及び仕掛かり品を持ち帰ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

原告は、右被告の行為は違法に原告の金型の留置権及び営業権を侵害するものであるから、被告はこれによって原告が被った損害を賠償すべき義務がある旨主張するところ、なるほど、原告は被告からの返還請求があった場合にはすみやかに返還するとの約定のもとに金型の無償貸与を受けたものである(《証拠省略》によって認められる。)ことを考慮しても、原告代表者の承諾も得ずにこれを持ち去ることは違法な行為というべきであるが、原告はこれによって被った損害につき、何ら具体的に主張、立証をしないから、結局原告の右主張は採用できない。

五  原告は、被告の不法行為により、弁護士服部正敬に公正取引委員会への申立て及び本件訴訟の提起を委任せざるを得なかったから、弁護士費用として被告は原告に金二〇〇〇万円の損害を賠償すべき義務がある旨主張するが、被告に不法行為に基づく損害賠償義務が認められないことは前記説示のとおりであるから、右弁護士費用の請求もまた理由がない。

(反訴請求について)

一  被告は、原告が昭和六〇年四月一一日、被告に対し、過去において納入した製品の下請代金について正常な代金と現実の支払代金との差額金一億余円の支払を要求して、右支払がなければ、一二日以降の出荷を停止する旨の通告をしたことが原告の債務不履行である旨主張するかのようであるが、《証拠省略》によれば、原告代表者には話合い次第では、現実の出荷停止の翻意の可能性があり、原告としてはいつでも出荷できる体制を整え、実際にも同月一二日被告に納品している製品もあること、原告の債務不履行(現実の出荷停止)の事態が生じる前に被告の方で一方的に原告工場の金型を引き上げていること、一二日以降原告から被告への出荷(一二日の一部の出荷を除く。)がないことの各事実が認められるところ、右事実によると、一二日以降の出荷がなくなった直接の原因は被告の金型の引き上げによるものと認められるから、いまだ原告に債務不履行はなく、被告が金型引き上げに費やした費用や被告が出荷を確保するために余分に支払った費用を原告が賠償すべき理由はない。

また、被告は、原告から引き上げた金型が修理を要する状態であったり、四個取りが十分機能しなかったのは、原告の金型の保管義務の不履行に起因するから、原告はこれによって被った損害の賠償をすべきである旨主張するが、《証拠省略》によれば、引き上げた金型の中には修理を要するものや四個取りが十分機能しないものがあったこと、原告は被告から金型の貸与を受けるに際し、被告に対し金型を発錆、破損なきよう整備保管する旨約束していることが認められるが、右事実以上に破損の具体的状況、原告の使用、保管状況、通常の使用態様のもとで生ずる破損の程度等の具体的な事情が証拠上全く窺えないから、右事実だけから原告に金型の管理義務違反があるとして、債務不履行の責任を負わせることは困難である。

したがって、被告の反訴請求原因2の損害賠償請求は理由がない。

二  次に、被告は、原告が本田技研工業株式会社、被告の下請会社、公正取引委員会に対し、被告が下請代金を一方的かつ不当に低額に決定しているかのような虚偽の事実を告知して、被告の信用を毀損した旨主張するところ、《証拠省略》によれば、原告は、昭和六〇年四月一六日付けで、被告が一方的に値段を決めて勝手に支払ってくること、このため原告の経営が悪化したこと、原告が被告に対し一億余の差額金を請求すると、被告は同年四月一二日原告方に赴き金型を引き上げる実力行使に出たことをその内容の骨子とする書類を送付したことが認められ、右の内容には原告の事実の評価にやや誇張した部分や一方的な部分も窺えなくはないが、本訴について認定したところによれば、右書類の内容はその大筋において事実と齟齬してるとは認められないから、原告が虚偽の事実を故意に本田技研工業株式会社に告知したということはできない。

また被告は、原告が公正取引委員会にも本田技研工業株式会社と同様の虚偽の事実を告知した旨主張するところ、公正取引委員会に対して本田技研工業株式会社に対するものと同様の告知をしたことは当事者間に争いがないが、その内容が虚偽と認められないことは前説示のとおりである。

さらに、被告は、原告が被告の下請会社に電話で「お宅も気をつけた方がよい。」旨言いふらしたと主張するが、これに沿う証人振木順義の証言は原告代表者本人尋問の結果に照らし措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。

したがって、被告の反訴請求原因3の不法行為の主張は採用できない。

(結論)

以上の次第で、原告の請求は主文一項の限度で理由があるから、認容し、その余は失当であるから棄却することとし、被告の反訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本史郎)

〈以下省略〉

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