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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)16035号 判決

原告 クイーン電子株式会社

右代表者代表取締役 伴野光雄

右訴訟代理人弁護士 楠田直樹

被告 株式会社 ケンウッド

右代表者代表取締役 石坂一義

右訴訟代理人弁護士 河合弘之

同 竹内康二

同 西村國彦

同 井上智治

同 栗宇一樹

同 堀裕一

同 青木秀茂

同 安田修

同 長尾節之

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

(一) 原告は、電気通信機器及び電気音響機器の製造組立て等の業務を目的とする株式会社である。

(二) 被告は、電気通信機器及び電気音響機器の製造販売等の業務を目的とする株式会社である。

2  (継続的委託加工取引契約の成立)

原告は、昭和四五年ころ、被告との間で、被告からの発注に従って支給される原材料、半製品、前加工品等を対象として、原告が被告の販売する無線通信機器の組立て及び加工を施工することを内容とする委託加工取引基本契約を締結した。

右契約の期間は一年間と定められていたが、右昭和四五年ころから昭和五九年まで約一五年間、原被告間の委託加工取引基本契約は、毎年更新され続け、更新の度に従前のとおりの契約関係が継続されてきた。

3  (被告による一方的取引停止)

被告は、昭和六〇年四月二三日、同日付けの書面(甲第二号証)をもって、原告に対し、同年六月期の生産をもって右委託加工取引を停止する旨通告した。右取引停止の通告は、原被告間の委託加工取引基本契約書中の、被告は原告との右基本契約を一箇月以上の予告期間を定めて解約することができる旨の解約条項を理由としてされたものである。

被告は、右通告に係る六月期の発注を行うことなく、同年五月期の経過をもって同年六月期以降の取引を一方的に停止した。

4  (一方的取引停止の違法性――債務不履行ないし不法行為)

(一) (被告による本件解約の無効)

(1) (基本契約書中の解約条項に関する合意の不存在)

前記解約条項(被告は右委託加工取引基本契約を一箇月以上の予告期間を定めて解約することができる旨の条項)が記載されている原被告間の委託加工取引基本契約書は、原告以外の多数の下請事業者との間の契約においても用いられているものであり、初めから被告の都合のよいように被告によって全文面が作成され、原告は求められるままに形式的にこれに署名押印していたにすぎず、原告の意向は全く反映されていない。現に原告は、被告による前記の一方的取引停止の通知を受けてから驚いて右契約書を調べた結果、初めて右解約条項の存在に気付いたものである。このように、原被告間の委託加工取引基本契約は附合契約であって、以下に述べるような原被告間の取引の実態及び契約の性格に照らし合理性のない右解約条項に拘束力はない。

(2) (原被告間の取引及び契約関係の実態)

原告は、昭和四五年ころから昭和六〇年五月に至るまでの約一五年間、前記2の継続的契約関係に基づき、専ら被告の製品の製造だけを行う下請事業者として、被告製造の無線機器の生産に寄与するとともに、その存立を被告との取引に全面的に依存させられてきた。

すなわち、原告の生産設備及び工程は、すべて被告の直接的指示に基づいて被告の特定製品の組立て及び加工専用に設定され、使用されてきたものであり、製品の製造は、被告から支給される原材料、半製品、前加工品等を対象として、被告の指示する作業方法に沿って行われてきた。そして、原告は、被告の意向に従って、随時多額の資本を投下し、必要な人的・物的設備を拡充整備してきた。また、各製品の生産量、納期、完成品の取引単価等も一切被告の一方的な通告によって決定されてきた。

現に前記の一方的取引停止通告の直前である昭和六〇年三月にも、被告は原告に対し新たにリニア・アンプの製造を指示し、原告をして右製品製造のための生産設備及び工程を新設拡大させていた。

被告以外の同種企業との取引は、契約書中の「類似品」の製造販売を禁止する条項によって実質的に厳禁されており、原告の生産工程がすべて被告の特定製品の組立て及び加工専用に設定されていることから、事実上も不可能な状態であった。

このため、原告は必然的に被告との取引から生ずる売上げに依存せざるを得ず、収益の大部分は被告に対する製品の売上げから得られたものであった。現に原告の昭和五七年度の決算書類によれば、総収入一億六〇〇〇万円余のうち製品売上げは合計一億二九八九万一一二〇円であり、そのうちの一億二〇五九万八九六五円が被告に対する売上げで占められている。

被告は、資本金五五億円余を要し、国際的に音響・通信機器等の製造販売・輸出入を手がける強大な企業であるのに対し、原告は、昭和六〇年当時において資本金四〇〇万円、従業員約三〇名で年商一億円台の弱小企業であって、原告と被告との間には隔絶した力の差が存する。

このように、原告の被告に対する服従関係は極めて顕著であり、原告の存立は被告との取引に全面的に依存させられていた。

(3) (相当の予告期間の設定義務及び解約条項の不当性)

右のとおり、原被告間の委託加工取引関係は継続的契約関係であって、原告の存立は被告との取引に全面的に依存させられていた。

このように両当事者(いわゆる親事業者と下請事業者)間の力関係に相当の隔絶がある継続的な委託加工取引契約においては、契約期間の定め及び解約条項の有無にかかわらず、雇傭、不動産賃貸借等の継続的契約関係の法理に準拠し、「正当事由」ないし「やむことを得ざる事由」がない限り、即時解約又は短期間の予告期間による解約を認めるべきではない。

けだし、かかる継続的委託加工取引において、親事業者の恣意による取引の停止を許すならば、相互の信義を著しく毀損するばかりでなく、直ちに下請業者の存続の基盤を剥奪することは必至である。かかる事態は、現行法秩序の下で許容されるべきものではない。当該契約関係が当事者間の信頼関係に基礎を置いていること、強者による恣意的な契約関係の停止が弱者の存続の基盤を脅かすことの二点においては、本件のような継続的な委託加工取引契約も雇傭、不動産賃貸借等と全く同様である。

右の趣旨は、下請中小企業振興法第三条第一項の規定に基づく振興基準(昭和四六年三月一二日通産省告示第八二号)においても、第2・7「取引停止の予告」として、「親事業者は、継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止しようとする場合には、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し、相当の猶予期間をもって予告するものとする。」と規定されている。

したがって、本件のような事案においては、被告の側に前記の「正当事由」ないし「やむことを得ざる事由」がない以上、被告の側からの契約関係の解消については、契約期間の定め及び解約条項の有無にかかわらず、下請事業者である原告の存続を保つのに必要な相当の予告期間ないし準備期間の設定を要件とすべきである。本件においては、原被告間の力関係の差異、取引の実態及び経緯、原告の人的物的設備の状況、昨今の通信機器製造業界の動向などに照らし、健全な社会常識によって判断すれば、原告が新たに他の製造業者と通信機器の委託加工取引を開始するか、あるいは業種を変更して別途に新たな事業を開始することにより企業としての存立を図っていくためには、最低でも六箇月の予告期間ないし準備期間が必要とみるべきである。

しかるに、前記のような本件の取引実態及び契約の性格を考慮することなく、わずか一箇月の予告期間をもって取引を停止することは、その間に原告において被告以外の企業から仕事の発注を受けることも他の業種に転換することも不可能である以上、零細企業である原告に倒産を強いるに等しく、かかる解約条項は、余りにも被告の一方的利益のみを求めた条項であり、商取引上の道義に反したものといわざるを得ず、右条項に基づく被告の一方的解約は無効である。

(二) (被告の発注義務)

被告は、本件委託加工取引基本契約の有効期間中は、原告の企業としての存続に最低限必要な範囲で原告に対し一定水準の発注をすべき義務を負うものである。

確かに、右基本契約は、基本契約のほかに個々の個別具体的な契約の締結を予定しているし、右基本契約書の条項中には被告の側の発注義務について触れた明文の規定は存しない。しかしながら、右基本契約は、一般の商品の供給を目的とする継続的取引契約と同様、個別の取引(契約)に当たって別途契約書を作成することを予定しておらず、基本契約書自体において注文書の交付、納品方法、代金の支払方法等を定めている。仮に右基本契約が被告の側の発注義務を全く予定していないものであるとすれば、個別的にその都度原告との間で委託加工契約を締結すれば事足りるはずである。それにもかかわらず、原被告間で右基本契約を締結したのは、その前提として被告の側の一定水準の発注義務が明示ないし黙示に合意されているからにほかならない。

前記(一)(2)のとおり、原被告間の取引関係においては、被告が圧倒的優位にあり、原告は、被告が原告の企業としての存続に必要な一定水準の発注をなす義務を負担するのと引換えに、その生殺与奪の権を被告に付与したものであり、被告もまた一定水準の発注を行う約束をすることによって、自らの優位な地位を確保し、安定した委託加工取引を実現し得たのである。

(三) (債務不履行ないし不法行為)

以上のとおり、被告は、本件の継続的な委託加工取引契約を解約するについては、少なくとも六箇月の予告期間(準備期間)を定め、この期間中は取引を継続して原告に対し一定水準の発注をすべき義務を負っていたにもかかわらず、これに違反し、右契約書中の合理性のない前記解約条項を理由として、わずか一箇月の予告期間の経過をもって直ちに取引を停止したのである。かかる一方的な取引停止(少なくとも昭和六〇年六月期以降の五箇月間分の発注の不実施)は、被告の右発注義務の不履行として債務不履行を構成するとともに、商取引上の道義に著しく反し圧倒的優位な立場を利用して原告の生存権を剥奪する違法な行為として不法行為を構成するというべきである。

5  (損害)

原告は、被告の一方的取引停止により昭和六〇年六月期以降発注を受けることができず、そのため少なくとも五箇月分の得べかりし利益の喪失による損害を被った。右逸失利益の額は、原告が昭和五九年五月から昭和六〇年五月までの間被告から支払を受けた委託加工代金の月額平均金九八三万七六一〇円の五箇月分合計金四九一八万八〇五〇円を下回らない。

6  よって、原告は、被告に対し、債務不履行ないし不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害金のうち金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年一月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、過去において被告から原告に対しアマチュア無線機器の組立加工の委託をしたことがあり、原告が被告からの発注に応じて右無線機器の組立加工業務を行ったことがあることは認める。なお、委託加工取引基本契約書は昭和五七年以後にも取り交わされており、最後に契約書が取り交わされて新たに基本契約が締結されたのは昭和五八年五月二一日である。

3  同3のうち、被告が昭和六〇年四月二三日に同日付け書面により原告に対し同年六月期の生産をもって原告との委託加工取引を停止する旨通知したこと、原被告間の基本契約書中に原告主張のような解約条項が存することは認め、その余は否認する。

4(一)(1) 同4(一)(1)のうち、原被告間の委託加工取引基本契約書中に原告主張のような解約条項が存することは認めるが、その余は否認し、争う。

右契約書は、原被告間で合意の上取り交わし、原告の代表取締役自ら記名押印したものであって、原告はその内容をよく承知していた。

(2) 同4(一)(2)のうち、被告が資本金五五億円余の会社であり、国際的に音響・通信機器等の製造販売・輸出入を手がける企業であることは認めるが、その余は否認し、争う。

原告は他にも電気通信関係の会社との取引を行っていたほか、芸能プロモーションの事業をも行っていた。また、原告が有している生産設備及び工程は、別段被告製品に特有のものではなく、一般に無線機器の組立て加工全般に使用できるものである。

(3) 同4(一)(3)は争う。

借地法、借家法及び労働法に原告主張のような解釈ないし規定があることは認めるが、本件とは前提事実、前提条件を全く異にするものである。

(二) 同4(二)は争う。

(三) 同4(三)は争う。

5  同5は否認し、争う。

三  被告の主張

1  (本件解約の正当性)

(一) (本件解約に至った経緯及び理由)

(1) 昭和六〇年四月当時、無線機器市場の需要は全体的に低落化し、被告の市場占有率も低下していたため、被告に対する無線機器の発注量は極端に減少しており、爾後も無線機器部門に関しては外部注文の減少が確実に予想される状況にあった。その結果、現状の生産量及び生産体制を維持していくことは非常に困難となったため、被告としては、そのような情勢に見合う生産部門の系列の縮小整理による合理化の必要に迫られた。

生産部門の系列の縮小整理に当たっては、被告は、自社系列の関連会社の工場を閉鎖して整理したが、そのほかに、外注の系列をも整理の対象とすることに踏み切り、右外注の系列の中から整理の対象とすべき会社を選択すべく検討した。右検討の結果、被告は、プリント板加工の外注会社二社を整理したほか、次のとおりの事情から原告を整理の対象として選択したものである。

すなわち、過去において、被告が従前原告から納入を受けてきた製品には品質管理に少なからぬ問題が存し、そのため被告の担当者から原告に対しては品質管理の改善をたびたび要請していたが、原告は善処を約束はするものの、原告の加工製品の品質管理は一向に改善されなかったという経緯があった。

(2) このような計画生産及び合理化のための努力は、現在のような経済情勢の下では不可欠のものであり、生産の必要もないのに原告への発注を続けることは、被告自体の存続を危うくすることにほかならない。

(二) (解約告知に対する原告の対応)

原告の代表取締役伴野光雄(以下「伴野」という。)は、昭和六〇年四月二三日に被告の担当社員訴外大平劭孝(以下「訴外大平」という。)が原告会社を訪れて前記書面を交付の上基本契約の解約を通知した際、右解約につき何ら異議を申し出ることなく、かえって、かかる事態は平素から予測しており、交渉中の他の仕事の話が進めば被告との仕事は原告の方から途中で打ち切ることもあり得る旨回答している。

そして、被告から原告に対して貸与されていた計測器等の引揚げについても、被告が申し出た予告期間の発注の終了を待たずして、原告の方から引揚げの要請があり、右要請に従って原告の協力の下円満に右引揚げが行われている。このため、被告としては、原告において他の加工取引等の仕事が入り業務も順調であるとの認識を有していた。

(三) (原被告間の基本契約の性質及び解約手続の履践)

前記のような本件の基本契約の性質上、製品の加工を委託するか否かは、市場における需要を踏まえた生産計画に基づき、注文者である被告の自由な意思に委ねられており、市場において需要がなく製品を製造する必要がないような場合にまで被告に発注の義務が生ずるものではなく、現に原被告間の基本契約書中に一箇月以上の予告期間による被告の解約権が明文で規定されている。したがって、右(一)に述べたとおりの経緯及び理由(需要の減少、生産合理化の必要性等)に基づき、右(二)に述べたとおりの状況の下で、右契約条項に従いその手続を履践してされた本件解約に何ら違法な点はないというべきであって、原被告間の基本契約は右解約の予告通知の日(昭和六〇年四月二三日)から右予告期間の経過をもって終了したものである。

2  (発注義務の不存在及び因果関係の欠如)

本件委託加工取引は、市場の需要がある場合に初めて行われるものであって、市場に需要がない場合あるいは被告の社内方針等によって需要がない場合には、製品を製造する必要はなく、生産の必要がない以上は製造の委託を発注する義務もないのである。したがって、原被告間の委託加工取引において、被告は原告に対して製品の製造を継続的に発注する義務は何ら負うものではない。

すなわち、原被告間の委託加工取引基本契約は、あくまでも加工の委託がされる場合の準則となる基本契約であるにすぎず、実際の委託加工に際しては更に原被告間における別途の個別契約の締結が当然の前提とされているのである。このように、右基本契約の定めるところは、個別契約の締結によって発注が行われる場合の当事者間の関係を規律する準則以上のものではない。

したがって、右基本契約が存続していると否とにかかわらず、個別の発注がない以上は原告の行うべき義務はなく、被告の負うべき義務も存しないのであるから、右基本契約に関する解約の成否と本件損害賠償請求そのものとの間には何ら因果関係はないというべきである。

四  被告の主張に対する答弁

1(一)  同1(一)の(1)は否認し、(2)は争う。

(二) 同1(二)は否認する。

(三) 同1(三)は争う。

2  被告の主張2は争う。

五  抗弁

1  (期間満了による契約の終了)

(一) 原被告間の昭和五八年五月二一日付け委託加工取引基本契約書中には、契約締結の日から一年間を有効期間とし、期間満了の一箇月前までに文書による契約変更ないし終了の申出のないときは同一の条件で更に一年間継続する(更新される)ものとする旨の条項が記載されており、契約期間は一年間と明確に定められている。

(二) 被告は、前記昭和六〇年四月二三日付け書面による取引停止の通知をもって、原告に対し、原被告間の右基本契約書中の契約期間及び更新に関する右条項に基づき、契約不更新の通知をしたものである。

(三) したがって、原被告間の昭和五八年五月二一日付け委託加工取引基本契約は、契約期間の満了によって昭和六〇年五月二〇日をもって終了したものである。

2  (合意解除)

原告の代表取締役伴野は、昭和六〇年四月二三日、被告の代理人(担当社員)訴外大平が原被告間の昭和五八年五月二一日付け委託加工取引基本契約の解約を申し入れたのに対し、右申込みを承諾し、もって同日右基本契約を合意解除する旨の約定が原被告間に成立した。

六  抗弁に対する答弁

1(一)  抗弁1(一)は認める。

(二) 同1(二)は否認する。昭和六〇年四月二三日付け文書による取引停止の通知は、原被告間の右基本契約書中の前記解約条項に基づいてされたものであり、期間満了に伴う不更新の通知としてされたものではない。

(三) 同1(三)は争う。

2  抗弁2のうち、昭和六〇年四月二三日、被告の担当社員である訴外大平が原告の代表取締役伴野に対して同日付け書面を交付した上、委託加工取引の停止を通告したことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(当事者)は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2(継続的委託加工取引契約の成立)のうち、過去において被告から原告に対してアマチュア無線機器の組立加工の委託をしたことがあり、原告が被告からの発注に応じて右無線機器の組立加工業務を行ったことがあることは、当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

原告と被告とは、昭和四三年ころから、被告からの発注に従って支給される原材料、半製品、前加工品等により原告が被告の販売する音響、無線等の電気機器の組立て及び加工を施工することを内容とする委託加工取引を開始した。その後、原告は、組立て及び加工のみならず調整検査による製品の完成に至るまでの業務を担当することとなり、右業務の拡大に伴って、安定した受注を確保するために、基本的な契約を締結することを被告に要請した。そこで、昭和四五年ころ原被告間に最初の委託加工取引基本契約が締結された。右基本契約は有効期間を一年間と定めていたが、その後、右基本契約及びこれに基づく委託加工取引は毎年有効期間をおおむね一年間と定めて継続され、昭和四八年、昭和五三年、昭和五七年、昭和五八年等、数回にわたって契約書が作成された。右基本契約は、その有効期間中において被告から原告に対して製品の組立加工の委託(発注)を行うことを前提として、個別にその都度行われる委託加工取引(発注)によって成立する個々の委託加工契約(個別契約)において各当事者が負うべき権利義務関係を包括的、統一的に定めたものである。

昭和五三年九月二一日付け契約書においては、契約期間満了の一箇月前までに原被告いずれか一方から変更、終了の申出のない限り従前と同一の条件で更に一年間契約が継続される旨の条項が定められ、昭和五七年及び昭和五八年の各契約書(いずれも五月二一日付け)においても、右契約の更新に関する条項はほぼそのまま維持された。そして、右昭和五八年の基本契約は、昭和五九年の期間満了時において原被告のいずれからも契約不更新の通知がなかったため、右条項に従って昭和五九年五月二一日以降更に一年間更新されて昭和六〇年当時に至っていた。

以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

三  請求原因3(被告による一方的取引停止)のうち、被告が昭和六〇年四月二三日に同日付けの書面(甲第二号証)により原告に対し同年六月期の生産をもって委託加工取引を停止する旨通告したこと、原被告間の委託加工取引基本契約書中に、被告は原告との右基本契約を一箇月以上の予告期間を定めて解約することができる旨の解約条項が存することは、当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すると、被告による右取引停止の通告は、昭和五八年五月二一日付けの契約書中の右解約条項(第三〇条九号)に基づく解約の通知としてされたものであり、前記契約の更新に関する条項(第三三条一項)に基づく契約不更新の通知としてされたものではないことが認められ、右認定に反する証拠はない。このことは、右通告の書面である甲第二号証の文面自体にその趣旨が明記されているばかりでなく、契約不更新の通知は契約期間満了の一箇月前までになさなければならないものであるところ、右通告がされた昭和六〇年四月二三日の時点においては右期限(同月二〇日)は既に経過していたことからも明らかである。

《証拠省略》を総合すると、昭和五七年以降の原被告間の基本契約書においては、被告から原告に対する製品の発注は原則として毎月二〇日までに翌月一日からの一箇月分を一括して行うことと定められていたこと、実際の取引においても、当該月の製品の発注は、右契約の定めのとおり、その前月の二〇日までに作業日程管理表と題する書面により各製品の数量、作業日程、納期等の細目を通知する方法によって行われ、前月の二一日から当該月の二〇日までの期間を当該月の「期」と呼んでいたこと、したがって、被告による前記取引停止の通告において予告期限として表示されていた「六月期」とは、昭和六〇年五月二一日から六月二〇日までの期間を指すものであること、被告は、右取引停止の通告後、同年四月二九日付けで右六月期分(ただし六月一三日作業分まで)の作業日程管理表を原告に提出して製品の発注を行ったこと、原告は、既に提出されていた五月期分の作業日程管理表及び右六月期分の同表に従い製品の加工を行ったことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上認定のとおり、被告は、基本契約書中の前記解約条項に基づき、原告に対し一箇月以上(約二箇月弱)の予告期間を定めて原被告間の基本契約を解約する旨通知するとともに、右通知のとおり、予告に係る六月期分までの製品の発注を実際に行い、右通知後一箇月以上(約二箇月弱)の期間原告との取引を継続したのであるから、被告は、右解約条項所定の手続に準拠して右基本契約を解約したものというべきである。

四1  請求原因4(一)(被告による本件解約の無効)について判断する。

(一)  原告は、被告から解約の通告を受けるまで基本契約書中の前記解約条項の存在に気付いていなかった旨主張する(請求原因4(一)(1))ので、この点についてみるに、《証拠省略》によると、昭和五八年五月二一日付け基本契約書中の右解約条項は、昭和五七年五月二一日付け基本契約書から新たに挿入された条項であり、それ以前の契約書には定められていなかったものであることが認められるところ、原告代表者は、右昭和五七年の契約書は被告から郵送されてきたものに記名押印して送り返しただけで、その際には右解約条項が新たに挿入されていることに気付かなかった旨供述している。しかし、原告代表者は、他方で、その後昭和五七年中には右解約条項の存在に気付いた旨供述しているのであって、このことと、右昭和五七年の契約書と昭和五八年の契約書とは文面が全く同一であること(《証拠省略》により認める。)とを合わせると、原告代表者は、少なくとも昭和五八年五月二一日付け基本契約書に記名押印する際には右解約条項の存在を認識した上で右契約の締結に応じたものと認めるのが相当である。

原告は、右基本契約が附合契約であることをも根拠として右解約条項の無効を主張するが、いわゆる附合契約においては、不特定多数の者が、定型的かつ大量に印刷した契約書等によりあらかじめ画一的に定められた内容の契約(約款)を一括して承認する形で締結するのが通例であるため、その者に契約内容を決定する自由がないこと、あるいは事実上契約を締結しない自由すらないこと等が問題とされることがあるのであるが、さきにみた事実関係に照らすと、本件にはこのような附合契約に特徴的な事実は何ら存しないことが明らかであるから、右基本契約の効力を附合契約の面から論ずる余地はなく、右主張は採用することができない。

以上みたように、被告による本件解約の通告は、契約当事者双方合意の上契約書中に設けた解約条項に基づき所定の手続に準拠して行われたものであるから、その限りにおいて有効というに妨げはないが、原、被告間の取引の経緯、実態、解約に至った事情、解約に際しての原被告双方の対応等、事実関係のいかんによっては、信義則違反又は権利の濫用に当たるものとして、所定の予告期間の経過による契約の終了という効果の発生を否定するのを相当とすべき場合もあり得ると考えられるので、この点につき以下原被告双方の主張に即して判断することとする。

(二)  原告は、原被告間の契約関係は継続的関係であるばかりでなく、原告は被告の下請工場であって、被告の指示に従って長期間にわたって随時設備の拡充等を行ってきたものであり、原被告間には完全な支配服従関係が存在し、原告はその存立を全面的に被告に依存してきた旨主張する(請求原因4(一)(2))ので、この点について判断する。

(1) 《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

原告は、被告との取引開始の当初から、電気通信機器の製造業務のほかに、芸能プロモーション業務の営業をも行っており、電気通信機器の製造部門においても、昭和五八年ころからは被告以外に訴外株式会社富士通(以下「訴外富士通」という。)との取引を行っていた。

昭和五七年及び昭和五八年に作成された各基本契約書中には、原告は被告の文書による承諾を得ずして被告の貸与文書をもって製品を製造し第三者に販売してはならない旨及び一部を変更した類似品等についても同様である旨を定めた条項が存するが、右は、製造の委託に際して被告から原告に対して交付されていた被告製品の図面、仕様書、作業指導票等の資料の盗用ないしこれを一部変更しただけの方法による狭義の類似品の製造販売に限定してこれを禁止しているにすぎず、かかる類似品を除いては、被告以外の企業との間における無線通信機器全般の製造等の取引までをも禁ずるものではなく、現に原告においては被告以外の企業との取引を右のとおり実際に行っていた。

原被告間の取引は基本契約の更新又は新規の契約により約一五年間継続され、その間、原告の総収入のうちの相当部分を被告との取引による売上げが占めていた(昭和五七年度から昭和五九年度にかけては約七割前後)。

被告は、取引先の経営状況を把握しこれに対して責任ある配慮を行う必要から、取引先全般に対して決算書類等の提出を求めていたが、原告は、被告からの再三の提出及び開示の要請にもかかわらず、これを拒絶していたため、被告の担当者の側では、原告が電気通信機器の製造業務のほかにも別の業務を行っていること及び電気通信機器の製造業務による収入の中では被告からの売上げが約九割を占めていることを原告代表者の言により聞いていただけで、原告における別の業務の内容及び規模、被告からの売上げの原告の営業全体の中で占める割合等については全く知ることができなかった。

原告の生産設備及び工程に関しては、そのすべてが被告の特定製品の組立加工専用にしか使用し得ないものではなく、被告以外の企業との取引に転用することが可能なものも含まれており、現に原告は被告との取引の終了後訴外富士通との取引のために従前の生産設備の一部を転用している。また、被告製品のの組立加工専用にしか使用し得ない性質の機械等に関しては、原告は、昭和四五年ころ原告が被告製品の調整検査による完成までの業務をも担当することになった際に被告から右検査用の中古の機械類一式を比較的安価で購入して以降は(右代金の支払は毎月の売上げの一部と相殺する形により四、五年で完了している。)、その大半を被告からの貸与品によってまかなっており、右貸与に当たっては、賃貸料を一般の条件に比べて相当低価格に設定するとともにこれを取引の継続に伴い逓減させていくという便宜を得ていたものであり、原告の決算書類の数字に現れているように、原告固有の資産として購入され保有されている設備は僅少であり、右賃貸料等が営業上の諸経費全体の中に占める割合は比較的小さかった。

なお、被告による取引停止の通知の約二箇月前である昭和六〇年二月一八日ころ、従前他社の工場に発注していた被告の製品(リニア・アンプ)につき、右工場の廃止に伴い、被告から原告に対して新たに同年三月期以降における組立加工の委託がされたが、右製品の製造のための設備の整備に関する原告の対応については、右に示したところと同様である。また、原告の従業員の数は、取引開始の当初において約五〇名であったのに対し、昭和六〇年四月当時は約三七名であり、取引開始の当初に比べてむしろ減少している。

原被告間の取引において、各製品の作業方法、生産量、納期、取引価格等の諸事項に関しては、被告の提供する原材料、半製品、前加工品等を対象として被告の規格に適合した製品を製造するという当該業務の性質上、原告の側からの特段の異議のない限り、被告から交付される図面、仕様書、作業指導票等に記載された作業方法に依拠し、毎月の各期ごとに被告から提出される作業日程管理票に記載された生産量、納期等に従って委託加工の業務が行われていた。各製品の取引単価は、取引開始の当初は原告から見積書を提出の上双方の協議を経て決定されていたが、取引の拡大に伴い、部品等を含む多種多様な大量の製品につき継続的に委託加工が行われる当該取引の性質にかんがみ、次第に逐一かかる手続を経ることなく原告からの特段の異議のない限り被告の側からの申出に係る金額をもって各製品の取引単価とする扱いがされるようになっていた。そして、これらの諸事項につき原告の側から特段の異議が出されたことはなかった。原被告間の基本契約書において、各製品の取引単価等の諸事項については原被告間の協議によって定めるものと規定されていたが、右のような実務的な取扱いは、原告の側からの特段の異議のない限りにおいて実施されていたのであって、基本的にはかかる協議の枠内において行われていたものである。

以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(2) 以上認定に係る原告の経営の実情、原被告間の取引の態様及び経緯等にかんがみると、原被告間の取引上の関係は原告主張のような支配服従関係ないし全面的な依存関係にあったということはできず、また、原告の設備に関しても、原告主張のような随時の多額の投資による人的・物的設備の拡充整備の事実があったとみることはできない。

確かに、原被告間の取引は基本契約の更新又は新規の契約により約一五年間継続され、その間、原告の総収入のうちの相当部分(前記のように約七割前後の時期もあった。)を被告との取引による売上げが占めていたことは事実であるが、他方、前記事実関係によれば、原告は、被告からの要請にもかかわらず、事業全体中被告との取引の占める割合その他業務内容等につき資料を提出して開示するなどのことをせず、そのため、被告はこれらの事実を知り得ないままに経過していたことが明らかであり、このことからすると、原告は、自らの経営に関しては被告から独立した決定権を有し、他の企業との関係で右の比率を変えていく自由をも確保していたものとみるべきである(現に後記(四)のとおり、原告代表者は昭和六〇年四月当時において既に他の企業との取引の拡大を検討していたものであり、実際に被告との取引終了後訴外富士通との取引及びプロモーション事業による収入は著しく増加し、業務内容の比率は大幅に変化を遂げている。)。したがって、前記のような収入の割合のみをもって直ちに原被告間の関係を支配服従関係ないし全面的な依存関係と評することは適当ではない。なお、被告が資本金五五億円余の会社であり国際的に音響通信機器等の製造販売・輸出入を手がける企業であることは当事者間に争いがないけれども、このような会社の規模等による単純な比較をもって直ちに原被告間の当該取引関係を支配服従関係等と評することが適当でないことは、いうまでもない。

そして、前掲各証拠によると、以上のような原被告間の取引の実情に関しては、昭和五八年五月二一日付け契約書による新規の契約締結時と昭和六〇年四月二三日の解約の通知の時点との間において別段相違がないことが認められる。

原告は、原被告間の契約関係を講学上の継続的契約関係に該当するものと主張するが、前認定によれば、原被告の契約関係は、事実上毎年契約の更新又は新規の契約によって約一五年間継続されてきてはいたものの、当該契約の内容自体は、数回にわたる契約書の書替えにもかかわらず常に契約期間を一年間と短期に限定し、原被告いずれか一方からの不更新の通知により契約関係は終了するものと定めており、諸般の事情の変化によっては原被告のいずれからも契約関係及び取引を終了させ得る余地を残し、一年ごとに双方において契約関係及び取引を継続するか否かについての経営上の判断を行うことを前提とした形態をとっていたことが明らかであり、不動産賃貸借、雇傭や一般の継続的売買契約等のように、契約期間を相当長期に定め、あるいは期間を定めないことによって契約関係が相当長期にわたって継続することを契約締結の当初からその形態自体において予定しているいわゆる講学上の継続的契約関係とは、その態様及び性格を異にするものというべきである。しかも、昭和五七年以降においては、前記のように一箇月以上の期間を定めた上での被告からの解約により契約関係を終了させる旨の解約条項が双方合意の上で契約書中に明文によって定められており、右契約関係の態様及び性格の相違は一層明確になっているのである。したがって、前記認定の原被告間の取引関係の実情に照らしても、原被告間の契約関係を講学上の継続的契約関係と評することは当を得ていないものというべきである。

(三)  本件解約に至った経緯及び理由についてみると、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

すなわち、無線機器の需要は、市場全体において昭和五七年ころから逓減化の傾向にあったが、昭和五九年ころからは被告の占有率(シェア)も徐々に低下しており、昭和六〇年三月当時の業界の需要予測においても昭和六〇年度に関しては需要の停滞及び低落が予測されていた。かかる状況の下で、被告に対する無線機器の発注量は相当減少しており、爾後も被告の無線機器生産部門に関しては外部注文の減少が予想される状況にあったため、同部門における生産計画の金額も減少を余儀なくされ、昭和六〇年四月初めころに決定された同年五月二一日から同年一一月三〇日までの期間(第五六期上期)の生産計画の金額をその前の期と比較して十数億円減縮するという大規模な減産が会社の方針として決定された。かかる大規模な減産の決定を受けて、被告の無線機器生産部門においては、従来の生産量及び生産体制を維持していくことは非常に困難であると判断し、生産部門の系列工場の縮小整理による合理化を決定した。当時、被告の生産部門の系列工場としては、被告の関連会社一社(五工場)のほか、原告を含む本体加工の外注会社三社(各社とも一工場ずつ)、プリント板加工の外注会社二社(各社とも一工場ずつ)があったが、その中から右関連会社の五工場のうち一工場が整理されたほか、右プリント板加工の外注会社二社との取引が打ち切られた。さらに本体加工の外注会社三社の中から原告との取引が打ち切られることとなったのは、他の二社については被告において特定の製品の製造を全面的に委託していたために設備や技術(ノウハウ)等の点で直ちに自社での製造に切り替えることは困難であったのに対し、原告に委託していた製品については被告の関連会社の工場においても製造が可能であったこと、従前の取引において、被告が原告から納入を受けてきた製品に関しては、品質管理についてしばしば販売店等から被告に対してクレームが寄せられるなどの問題が生じ、被告の担当者から原告に対しては品質管理の改善をたびたび要請していたが、必ずしも十分な対応が行われなかったという経緯があったことなどの諸事情を被告社内において総合的に検討した結果である。このようにして、原告との取引の停止及び基本契約の解約は、昭和六〇年四月中旬ころ被告の内部において決定された。右のような関連会社の工場の整理及び原告を含む外注会社三社との取引の打切りによって、被告の生産体制の合理化及び生産量の縮小は第五六期上期の生産計画のとおり実現され、その後の各期の生産計画においても、その金額は第五六期上期と同規模に抑えられている。

以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(四)  被告による解約申入れの前後における原被告双方の対応等の事実経過についてみるに、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

すなわち、前記のとおり昭和六〇年四月中旬ころ被告の内部において原告との取引の停止及び基本契約の解約が決定されたのを受けて、原告との取引関係を従前から担当していた被告の担当社員訴外大平は、同月二三日、その上司である訴外中島某(以下「訴外中島」という。)と共に原告の事務所に赴いて原告の代表取締役伴野と面談し、減産に伴い生産体制の縮小の必要に迫られたため原告との取引を中止せざるを得なくなった結果契約書中の解約条項に基づき取引中止を通知する旨を記載した「委託加工取引中止について」と題する同日付け書面(甲第二号証)を同人に交付するとともに、被告の生産計画の金額の減少、生産体制の縮小による合理化の必要等、原告との取引停止を決定するに至った経過を直接口頭で説明した。ところで、前記のような事情(前記(二)(1)認定)から、被告においては、原告の業務内容、規模、原告の営業全体の中で被告との取引の占める割合等について知ることができなかったため、訴外大平としては、右解約の申入れに臨むに当たって、取引の停止が原告に与える影響及び右申入れに対する原告の側からの反応については必ずしも十分に予測することができなかったが、原告の対応ないし要望いかんによっては、協議の上、被告において若干の部品の取引ないし機械の貸与等を暫時継続するなどして、原告の経営に対し一定の配慮、協力をする余地もあるものと考えていた。ところが、原告の代表取締役伴野は、訴外大平及び同中島からされた解約の申入れに対し、何ら異議を申し出ることなく、かえって、電気業界は波があるのでかかる事態は経営者として平素から予測しており、現在他の仕事も交渉中であって、その仕事の話が順調に進めば被告との取引は原告の方から途中で打ち切ることもあり得る旨回答し、被告に対して別段の要求もしなかった。そのため、爾後の問題について特段の協議がされることもないまま当日の面談が終了し、訴外大平は、かかる原告代表者の対応から、前記のような措置については別段必要がないものと判断するに至った。また、右面談の数日後に、被告から原告に対して貸与されていた計測器等につき、原告の方から被告に対して引揚げの要請があったため、被告は原告の協力の下にこれを引き揚げた。かかる経緯にかんがみ、被告の側としては、原告に関して、右解約申入れの際に原告代表者が言及していた他の仕事の話が成立し業務も順調であるとの認識を抱くとともに、原告において取引の停止及び基本契約の終了に同意しているものと理解していた。しかるに、同年五月一〇日ころ、同月九日付けの内容証明郵便をもって、原告から被告に対して、約二箇月弱の予告期間による前記解約申入れを不当として六箇月の猶予期間及びその間における取引の継続を求める旨の通知がされた。被告の側では、かかる原告の対応の変化を予測しておらず、既に計測器等の引揚げも終了するなど原告も同意の上で取引の停止及び基本契約の終了が確定されたものと理解していたことから、前記解約により原被告の基本契約は同年六月期をもって終了する旨回答してこれに応じなかった。

なお、被告との取引の停止後、原告においては、昭和六〇年中において既に訴外富士通を取引先とする電気通信機器の製造業務及びプロモーション業務による収入が著しく増加し、その後も増加を続けて現在に至っており、業務内容の比率は大幅に変化を遂げている。

以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(五)  原告は、継続的契約関係の法理、下請中小企業保護に関する通産省の告示の趣旨並びに右主張に係る原被告間の従前の取引の実態等を根拠として、原被告間の基本契約を被告からの解約によって終了させるには最低六箇月間の猶予期間を設けなければならず、最低一箇月の期間をもって契約終了の効果を発生させるとする本件解約条項による解約は無効である旨主張する(請求原因4(一)(3))。

(1) しかし、原被告間の契約関係を継続的契約関係に当たるとみることが相当でないことは、前記(二)(2)において判示したとおりである。

(2) また、下請中小企業保護に関する通産省の告示についてみるに、原告の主張に係る下請中小企業振興法第三条第一項の規定に基づく振興基準(原告主張の昭和四六年三月一二日通産省告示第八二号は、昭和六一年六月一一日同省告示第二〇九号によって廃止され、現在右昭和六一年の告示が通用しているが、本件解約告知の時点において適用されるのは、右昭和四六年の告示であり、また、両者の内容は、右昭和六一年の告示において取引停止の場合のほかに「又は大幅に取引を減少しようとする場合には」という文言が捜入されただけで、その余は全く同様である。)は、第2・7「取引停止の予告」において、親事業者に対し、継続的な取引関係を有する下請事業者との取引停止に際して、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し、相当の猶予期間をもって予告をすべきことを要求しているが、右告示は、右「相当の猶予期間」の具体的期間についてまでは規定しておらず、その具体的期間に関しては、当該親事業者と下請事業者との間の各取引の状況、経緯等の個別具体的な事情に即して、下請事業者の経営への影響に対する配慮を基調とする親事業者の適切な判断にゆだねられているものと解せられる。ところで、原被告間の基本契約においては、前記のように一箇月以上の期間を定めた上での被告からの解約により契約関係を終了させる旨の解約条項が双方合意の上で契約書中に明文によって定められている以上、かかる解約条項に基づく解約の成否を判断するに当たっては、右告示の趣旨からも、原被告間の実際の取引の状況、解約の前後における経緯、被告の側における解約の動機及び理由等にかんがみてこれを信義則違反又は解約権の濫用と評し得るような特段の事情が認められるか否かという観点から検討すれば足り、右告示の規定によって右判断の基準に別段差異を生ずるものではないというべきである。

(3) そこで、前記(二)ないし(四)において認定した事実関係に基づき、被告による本件解約権の行使が信義則違反又は権利の濫用に当たるとみられるかどうか、また、原告主張のように右解約条項の規定にかかわりなく最低でも六箇月の予告期間(準備期間)を設けなければ右解約の効力を認めるべきではないといえるか否かについて判断する。

原被告間の従前の取引の状況及び経緯(特に原告の経営の実情)並びに解約の前後における原被告双方の対応等の経緯に関しては、前記(二)及び(四)のとおり、原告は、原告が主張するような専ら被告製品の製造だけを行う下請事業者ではなく、被告以外の企業との取引のほか、異なる種類の営業をも遂行しており、自らの経営に関しては被告から独立した決定権を有していたものであって、原被告間の取引上の関係を原告主張のような支配服従関係ないし全面的な依存関係とみることはできないこと、原告の生産設備及び工程に関しても、そのすべてが被告の特定製品の組立加工専用に設定されていたわけではなく、他社製品の製造に利用可能なものも含まれており、現に被告との取引終了後にその一部が転用されていること、被告製品の製造に特に必要な設備の整備に関する原告側の実質的な負担はそれほど大きなものではなく、原告主張のような随時の多額の投資による人的・物的設備の拡充整備の事実を認めることはできないこと、原被告間の取引の継続期間中において原告の総収入のうちの相当部分を被告との取引による売上げが占めていたとはいえ、原告は被告に対してかかる事業全体における比率等につき一切開示に応じなかったため被告の側ではかかる事情を知ることはできなかったこと、原告は、狭義の類似品の製造が禁止されていただけで、自らの経営権に基づき他の企業との取引を拡大し右の比率を変更することも可能であったものであり、現に昭和六〇年四月当時においては既に他の企業との取引の拡大を検討していたこと、そのため、被告からの解約申入に対しても、原告代表者は、何ら異議を申し出ることなく、かえって、かかる事態は経営者として平素から予測しており、現在他の仕事も交渉中であって、その仕事の話が順調に進めば被告との取引は原告の方から途中で打ち切ることもあり得る旨回答し、被告に対して別段の要求もしなかったこと、被告の側では、右解約申入れに際して、原告が前記のとおり経営内容の開示に応じなかったために取引の停止が原告に与える影響については必ずしも十分に予測することができなかったため、原告からの要請によっては原告の経営に配慮して若干の製品の取引ないし機械貸与の継続等の措置を検討する余地があるものと考えていたが、かかる原告代表者の対応からこれも不要であると考えたこと、その後、被告から原告に対して貸与されていた計測器等の返還についても、被告が申し出た予告期間の発注の終了を待たずして、右面談の数日後に原告の方から被告に対して引揚げの要請があり、右要請に従って原告の協力の下に右引揚げが行われたこと、このため、被告の側としては、右解約申入れの際に原告代表者が言及していた他の仕事の話が成立し業務も順調であるとの認識を抱くとともに、原告において取引の停止及び基本契約の終了に同意しているものと理解していたこと、右取引の終了後、原告においては、訴外富士通との電気通信機器製造の取引及びプロモーション業務による収入が昭和六〇年中において既に著しく増加し、業務内容の比率が大幅に変化して現在に至っていること等の諸事情が認められる。

また、解約に至った被告側の動機及び理由に関しては、前記(三)のとおり、原告との取引停止及びこれに伴う基本契約の解約は、市場における無線機器に対する需要及び被告の市場占有率の低落化に対応した大規模な減産計画を遂行するための生産体制の縮小による合理化という企業としての合理的な理由に基づいて決定されたものであり、被告の関連会社の工場も一部整理の対象となったほか、取引停止の対象となった取引先は原告以外にもいくつか存すること、複数の取引先の中から取引停止の対象を選択するについても技術的な問題等に関する一定の合理的な検討を経て決定されたものであることが認められる。

これらの諸事情のほか、前記三において認定したとおり、被告は、右解約権の行使に当たって、解約条項の規定上必要最小限の期間である一箇月を超えて約二箇月弱の予告期間を設け、実際にその間原告に対する発注を継続し、右期間の経過と共に原告との取引を最終的に停止したものであること、また、原被告間の基本契約それ自体の性質、すなわち、前記のとおり、右基本契約自体は、数回にわたる契約の更新及び契約書の書替えにもかかわらず常に契約期間を一年間と短期に限定し、原被告いずれか一方からの不更新の通知により契約関係は終了するものと定めており、諸般の事情の変化によっては原被告のいずれからも契約関係及び取引を終了させ得る余地を残し、一年ごとに双方において契約関係及び取引を継続するか否かについての経営上の判断を行うことを前提とした形態をとっていること、そして、右解約の告知は、契約期間の中途ではなく右期間満了の約一箇月前に行われ、基本契約上当事者のいずれかが契約関係を終了させようとする場合に不更新の通知をすべき時期(契約関係及び取引を継続するか否かについての経営上の判断を行うべき時期)とほぼ接近して(右期限の三日後)行われたこと、したがって、実質的には契約期間の満了の際の不更新と同様の経過となり、しかも契約期間満了後も約一箇月間取引を継続した形となっていること、したがって、契約の中途で解約を行った場合及び契約不更新の通知を行った場合のいずれと比べても原告に与える影響はより少ない態様のものであったこと、さらに、右解約条項を含む昭和五八年五月二一日付け契約書による新規の契約締結時と右解約告知のされた昭和六〇年四月二三日の時点との間において前記の原被告間の取引の状況に別段変化は存しないことなどをも併せ考えると、本件における被告の解約権の行使に関しては、原告に対する関係において別段信義則に反するものということはできず、解約権の濫用とみるべき特段の事情の存在を認めることはできないものというべきである。したがって、右予告期間の経過によって解約の効力は完全に有効に発生したものと解すべきであって、右解約条項の存在にもかかわらずその予告期間(準備期間)を六箇月以上と定めなければ解約の効力が認められないとする原告の主張は、理由がない。

したがって、原被告間の基本契約は、被告による右解約の告知に係る予告期間の経過によって昭和六〇年六月期(その最終日である同月二〇日)をもって終了したものであり、同月二一日以降の期間については右基本契約の効力は消滅したものである。

2  原告は、本件解約の無効及び原被告間の基本契約の有効な存続を前提として、右基本契約の存続中においては被告は原告に対して一定水準の発注義務を負担する旨主張し(請求原因4(二))、被告による解約の告知時から少なくとも六箇月を経過する以前の期間における取引の停止について、被告の右発注義務の不履行による債務不履行ないし原告の生存権の不当な剥奪による不法行為を構成する旨主張する(請求原因4(三))。

しかしながら、さきに判示したとおり、昭和五八年五月二一日付け契約書をもって締結された原被告間の委託加工取引基本契約は、右契約書中に定められた解約条項に基づく被告による解約の結果、右通知に係る予告期間の経過によって昭和六〇年六月期(その最終日である同月二〇日)をもって終了したものであり、被告が原告との取引を実際に停止した同年七月期以降の期間においては、既に基本契約の効力は消滅していたものである。また、被告は、右通知のとおり、予告に係る六月期分までの製品の発注を実際に行い、その間原告との取引を継続している。したがって、右基本契約に基づく被告の発注義務の成否のいかんにかかわらず、被告は、基本契約の効力が消滅した右七月期以降の期間及び基本契約の有効期間中である右六月期以前の期間のいずれにおいても、何ら債務不履行の責めを負うものではないというべきである。

不法行為の主張については、右のとおり、被告は右予告に係る六月期分までの期間においては製品の発注を実際に行いその間原告との取引を継続していることから、右期間につき不法行為を構成する余地のないことは明らかであり、また、被告が原告との取引を実際に停止した同年七月期以降の期間に関しては、さきに判示したとおり、原被告間の基本契約は前記解約の告知に係る予告期間の経過によって終了しその効力は既に消滅していたものであること、右解約は前記のとおり被告の側における合理的理由によって行われたものであって信義則違反ないし権利濫用とみるべき特段の事情は認められないこと、さらに、さきに前記(二)ないし(四)において認定したとおりの原被告間の従前の取引の状況及び経緯、解約の前後における原被告双方の対応等の経緯、解約に至った被告側の経緯等の諸事情にかんがみると、被告による右解約及びこれに基づく取引の停止について原告の主張するような違法性を認めることはできないというべきである。

したがって、被告による基本契約の解約及びこれに伴う原告との取引の停止について、これを債務不履行及び不法行為に問擬する原告の主張は、いずれも理由がない。

五  結論

右の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 近藤崇晴 岩井伸晃)

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