大判例

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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)4659号 判決

原告

福岡政宏

被告

日本検査株式会社

右代表者代表取締役

小池輝一

右訴訟代理人弁護士

新壽夫

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  原告と被告との間に雇用契約関係が存在することを確認する。

2  被告は、原告に対して、金四万二四九七円及び昭和六〇年一月一日以降毎月二五日限り月額金一八万八三〇〇円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び第二項につき仮執行の宣言を求める。

二  被告

主文と同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、鉄鋼、非鉄金属等の品質、数量の検査等を業とする株式会社であるが、原告は、昭和五五年一一月一〇日被告会社の従業員として採用された。

2  被告会社の賃金支払日は毎月二五日であるが、昭和五九年一一月当時の原告の賃金月額は、本給一六万四五〇〇円、業務手当九八〇〇円、技能手当二〇〇〇円、住宅手当九一〇〇円、家族手当二八〇〇円、積立奨励金一〇〇円、合計一八万八三〇〇円であった。

3  被告会社は、昭和五九年一一月二二日、原告に対して、原告が就業規則六二条二号の「精神もしくは身体に故障があるか、または虚弱、老衰、疾病等のため業務に堪えられないと認められたとき」及び同条三号の「勤務成績または業務能率が甚しく不良であるとき」に該当するという理由により、同年一二月二四日付けで解雇する旨の予告をし、更に、同日、原告に対し、右と同一の理由で解雇する旨の意思表示をし、以後、原告を従業員として取り扱わず、賃金の支払もしない。

4  しかし、原告には就業規則の右条項に該当する事実は存しないから、右解雇は無効である。

5  よって、原告は被告に対して、雇用契約関係の存在の確認並びに昭和五九年一二月二五日から同月末日までの賃金四万二四九七円及び昭和六〇年一月一日から毎月二五日限り一八万八三〇〇円の割合による賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

請求原因第一項から第三項までの事実は認める。同第四項の事実は否認する。

三  抗弁

次に述べるように、原告には奇矯な行動が多く、被害妄想による暴言、大音響の発生等により職場の秩序維持を困難にし、また、原告は、自己流の執務方法、執務場所に固執し、他との共同作業は不可能であった。被告会社は、原告に対し粘り強い説得を行ったが、矯正不可能であったため、やむを得ず解雇したものである。

1  経理部在勤中の行動

原告は、昭和五五年一一月一〇日被告会社に入社し、経理部に配属された。原告は同年末ころから異常な言動が目立ち始め、日常顔を接している坂井経理部長に葉書を出し、自分の席を奥の静かなところに移してくれ等と言い出した。また、原告は、経理部の同僚に対して、原告が優秀すぎて同僚が自分をねたんでいるとか、自分が命じられた仕事をさておき、被告会社の関連会社である輝業サービス株式会社の経理事務を他人に干渉されることなくやりたいとか、また、坂井部長は自分をだしに使っているとか、年齢に応じた収入を得られず、後輩の男性がいないと人間関係が無理であるというなど特異な言動が目立ち始めた。

更に、原告は、坂井部長や被告会社の小池社長に葉書を頻繁に出して非常識な訴えをし、また、その職務である経理事務にしても自己流で処理をし、自己の固定観念に基づき仕事のやり方や職場の同僚を非難するのみで、職場秩序の維持の面からみても、このまま放置することは不可能となった。

2  総務部付としての勤務

被告会社は、原告の前記のような勤務ぶりからみて、経理部においておくことは不可能となったので、昭和五七年九月九日、原告を総務部付として被告会社の分室に配置換えをした。分室では、被告会社の役員二名、部長一名、事務員二名(原告を含む)のほか、関連会社である信和興産株式会社(以下「信和興産」という)の従業員若干名が執務しており、被告会社の従業員は、コンピューター管理その他の特命事項を取り扱っている。被告会社としては、分室の上司や総務部長において原告に異常な言動をやめるよう説得に努めたが、原告の行動は次に述べるようにますます極端となっていった。

(一) 原告は、仕事中ロッカーの開閉や引出しの出し入れで発生する通常の音に対して異常に反応し、衝立てやくず入れの缶を力まかせにぶつけたり机の引出しを力まかせに閉めたりして大騒音を発し、注意をされると、自分は静かにしているのに周りがうるさいとか、「目には目を、歯には歯を、これが常識だ」といった。

(二) 原告は、出勤簿の記入間違いを注意されると、「誤記の原因は若い奴らがうるさいからだ。自分は若い者にあいさつする必要はない。自分はコンピューターの仕事をする契約だから雑用をさせるのは契約違反だ」などと大声でわめいた。

(三) 女子事務員が誤って原告の椅子につまづいたりすると、原告は、「気をつけろ、すぐあやまれ、このババアー」等と怒鳴り、女子事務員は恐怖のあまり会社を休むこともあった。

(四) 信和興産の人が席にいないときに、同社に電話がかかったときには、原告は、「信和興産は甘えている、留守にすると自分が電話を取らなければならないから留守にするな」などといい、また、信和興産の役員等が被告会社の資料等をみると、「無断で扱っては困る、非常識ではないか」などと怒鳴り、更には自分の屑入れに他人がゴミを捨てたりすると暴言を吐いた。

(五) 原告は、新聞ばかり読んでいるので注意をされると、経理部に対する不満を大声で言い、上司同僚の悪口を言い続けた。

3  是正のための被告会社の努力

被告会社においては、原告が何とか態度を改めるように上司同僚より機会あるごとに注意をし、また、上司は時間をかけて原告の不満を聞き、態度を改めるように説得を続けた。しかし、原告は、終始周囲の者が嫌がらせをするので反抗しただけだとか、経理部へ復帰させることが会社の義務だとか、同室の者が自分の能力の優秀さをねたんで排斥するとか繰り返すのみであった。

4  被告会社外における原告の行動

(一) 原告は、昭和五六年一月東京地方裁判所八王子支部において裁判官の命令に従わず七日間の監置処分に処せられた。

(二) 原告は、昭和五九年三月二二日、女性につきまとったとして警察に取り調べられた。原告の言い分によれば、女性の方から自分を誘ったというが、そのことはともかく、警察においても自己の主張のみを繰り返し、要領を得ないので、警察が近親者に連絡しようとしたが、自宅がすぐ近くにあるのにこれを告げず、深夜遠方に住んでいる被告会社の総務部長に連絡せざるを得なかった。

5  以上のような実情であるので、被告会社としては、本来ならば職務怠慢、職場秩序破壊により懲戒解雇とすべきところであるが、原告が必ずしも平常の心理状態にないとの可能性もあるので、就業規則六二条二号及び三号により通常解雇をした。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁冒頭記載の事実は否認する。

2  抗弁1の事実中、原告が昭和五五年一一月一〇日被告会社に入社し、経理部に配属されたこと及び原告が坂井経理部長や小池社長に葉書を出したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  抗弁2の事実中、原告が昭和五七年九月九日総務部付として被告会社の分室に配置換えされたこと及び分室には被告会社の役員二名、部長一名、女性事務員一名のほか信和興産の従業員若干名が勤務していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  抗弁3の事実は否認する。

5  抗弁4(一)の事実は認める。4(二)の事実のうち原告が昭和五九年三月二二日に警察の取調べを受けた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

6  抗弁5の事実は否認する。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1から3までの事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告に就業規則六二条二号及び三号に該当する事実があるか否かについて判断する前提として、原告の解雇に至る事実関係について検討する。

原告が昭和五五年一一月一〇日被告会社に入社し、経理部に配属されたこと、原告が昭和五七年九月九日総務部付として被告会社の分室に配置換えされたこと及び分室には被告会社の役員二名、部長一名、女性事務員一名のほか信和興産の従業員若干名が勤務していたことは、当事者間に争いがない。右の争いのない事実に、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない(書証・人証略)を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する原告本人尋問の結果(第一、二回)の一部並びに(書証略)の記載は信用することができず、他にこの認定に反する証拠はない。

1  原告は、昭和四五年三月に大学を卒業後、ディーゼル機器株式会社、フランスベット販売株式会社、ヒグチ産業株式会社等で主として販売の仕事に従事したが、いずれも自己の適性に合わないとして、短期間で退社し、その後、経理事務に従事することを希望して高橋税務会計事務所で会計事務の手伝いをしていたが、被告会社の小池輝一社長の旧知である原告の父の紹介で昭和五五年一一月一〇日に被告会社へ入社した。

2  原告は、被告会社へ入社後経理部へ配属され、大林義保主任の下で経理事務を担当することとなったが、同部配属中に次のような異常な言動があり、他の経理部員から疎んじられるようになり、また他の関係部課との間も円滑を欠くようになった。

(一)  昭和五五年一二月一日に坂井雪寿経理部長に対して座席の位置を代えてほしいとの葉書を出したのをはじめ、昭和五七年一月一七日に坂井部長に対して、「私が現在の職務に従事しているのがまずいような気配を感じるが、そうであるとすれば輝業サービスの経理を一人でやらせてほしい、それが駄目ならカーゴサービスの経理を一人でやらせてほしい」との趣旨の葉書を出した。また、原告は、小池輝一社長に対して、昭和五七年四月から八月の間に四度にわたり、「坂井部長は異常で非常識であって、自分を経理部からいびり出そうとしている、自分は経理部にいても主任になれないし、収入も増えないが、実力的にみて主任昇格は全く問題がないはずである、主任昇格と機械本部の企画と業務関係をやらせてもらえるなら、経理部を出ても良い」等と坂井部長を非難し、自己の昇格、配転を希望する趣旨の葉書を提出した。

(二)  原告は、経理事務の処理方法について自己の意見に固執し、被告会社の従前の慣行に耳を傾けることがなかった。

(三)  原告は支払伝票の処理等をめぐり、関係部課との間に問題を起こすことが多かった。

(四)  原告は、昭和五六年五月一三日、坂井部長に対して、「大林から昼食を一緒に食べたくないと言われたので、今後は大林とは別に昼食を取ることとする」旨を記載した書面を提出した。

(五)  原告は、他の者は特段気にもとめない金庫やロッカーの開閉をする音に対して、極めて神経質であり、「うるさい」と怒鳴ることがしばしばあり、逆に自らは、スチールの机の引出しを強い音を出して閉めることがしばしばであった。

3  以上のように、原告は、非常識な行動が多く、上司、同僚との間が円滑を欠き、経理部の業務の正常な運営に支障を来たすようになったので、被告会社においては原告を他へ配置換えすることを考えたが、原告を引き取ろうとする部署はなかった。そこで、被告会社は、昭和五七年九月九日、職業人としての心構え等再教育をすべく、原告を総務部付として分室に配置換えし、そこで日下部久取締役及び嶋田芳造監査役の下で自己研さんをさせるとともにコンピューター担当の日下部取締役の補助をすることを命じた。

4  原告の勤務態度は、分室へ移ってからも以前と変ることはなく、次のような異常な言動を示し、上司、同僚との人間関係は良好ではなかった。

(一)  原告は、昭和五七年に一回、五八年に二回、小池社長に対して、「分室の上司はコンピューターの仕事を与えてくれず、雑用ばかりやらせている、当社はレベルが低い、機械か鉄鋼の本社業務をやらせてほしい、分室ではけんかを売られたり、言い掛りをつけられることが多くなった」等の趣旨の葉書を出した。

(二)  原告は、他の従業員が全く問題ともしないロッカーを開閉したり、机の引出しを開閉する音にうるさいといいがかりをつけ、自らはことさらに大きな音を立てることがしばしばあった。

(三)  女子の事務員が原告の椅子につまづくと「気をつけろ、あやまれ」と怒鳴ったことがしばしばあった。

(四)  分室の同じ部屋で仕事をしている信和興産の従業員が被告会社の資料を見ると勝手に見るなと怒鳴りつけた。

(五)  他の従業員が原告の屑かごに屑を捨てると強く抗議をすることがしばしばであった。

(六)  上司は、再三にわたり、原告の異常な言動を注意したが、原告は、「自分は悪くない。悪いのは相手である」とまくし立て、注意をきき入れようとする態度がみられなかった。

(七)  以上のような原告の態度から、原告は分室においても上司、同僚から疎んじられ、その結果原告には安心して仕事を委せることができないため、原告は仕事らしい仕事をすることもなかった。

5  被告会社は、以上のような原告の勤務の態度からみて、原告を被告会社でこれ以上勤務させておくことはできないと考えて、原告の母親(原告の父親は病気のため)や入社時の保証人である小俣定男や高橋義夫に連絡をとって、原告を退職させるように説得してほしい旨依頼したが、同人らはいずれも原告は自分は悪くないといっているので説得は不可能であると断ったので、被告会社はやむを得ず、原告を解雇することを決断した。

三  以上に認定したような原告の被告会社における勤務の態度からみると、原告には社会人として組織の中で職業生活を営むについての基本的な心構えに欠けるところが大きく、組織の一員として職務を遂行する能力が欠けているといわざるを得ず、しかも上司の再三の注意にもかかわらず、これを是正しようとする態度も見受けられず、却って自己の態度を正当化しようとしているのであって、近い将来これが是正される見通しもないというべく、就業規則六二条二号に定める「精神もしくは身体に故障があるか、または虚弱、老衰、疾病等のため業務に堪えられないと認められたとき」及び六二条三号に定める「勤務成績または業務能率が甚しく不良であるとき」に該当するものといわなければならない。

四  よって、被告会社のした解雇はその理由があり、有効であるから、右解雇の無効を前提とする原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 今井功)

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