大判例

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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)4329号 判決

原告

株式会社アカカンバン百貨店

原告

豊洋ベントナイト株式会社

原告

アカカンバン佐野慎株式会社東京本社

右三社代表者代表取締役

佐野雅巳

右三社訴訟代理人弁護士

播麿幸夫

川岸伸隆

原田次郎

被告

株式会社よしや

右代表者代表取締役

小泉長三

右訴訟代理人弁護士

尾崎行信

桃尾重明

原田進安

松尾真

難波修一

野村憲弘

被告補助参加人

グリーンコンサルテイング株式会社

右代表者代表取締役

春日節雄

右訴訟代理人弁護士

菅谷幸男

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告株式会社アカカンバン百貨店に対し、別紙物件目録記載一のロ及びハの建物を、原告豊洋ベントナイト株式会社に対し、同目録記載一のイの建物を、原告アカカンバン佐野慎株式会社東京本社に対し、同目録記載二及び三の建物を明渡し、原告らに対し、昭和五二年一月一九日から明渡ずみまで一か月金三二〇万円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の申立て)

主文同旨

(本案の申立て)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告株式会社アカカンバン百貨店は、別紙物件目録記載一のロ及びハの建物を、原告豊洋ベントナイト株式会社は、同目録記載一のイの建物を、原告アカカンバン佐野慎株式会社東京本社は、同目録記載の二及び三の建物(以下併せて「本件建物」という。)を、それぞれ、もと所有していた。

2  被告は、昭和五二年一月一九日から本件建物を占有しているが、右建物の同日以降の相当賃料額は、一か月金三二〇万円である。

よつて、原告らは、被告に対し、所有権に基づき、本件建物の明渡を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、昭和五二年一月一九日から右明渡ずみまで一か月金三二〇万円の割合による損害金の支払を求める。

二  被告の本案前の主張(信義則違反)

1(一)  原告らは、訴外グリーンスタンプ株式会社(以下「グリーンスタンプ」という。)から本件建物及びその敷地(以下「本件建物等」という。)を譲り受けた補助参加人に対し、昭和五四年、所有権に基づき、本件建物等の所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第一〇六三四号事件、以下「前訴」という。)。

(二)  原告らは、前訴において、原告らからグリーンスタンプへの本件建物等の売買(以下「本件売買」という。)は原告らの全く関知しないもので無効であると主張したのであるが、一、二審判決とも次のとおり認定して原告らの請求を棄却し、右は、昭和六一年三月二〇日最高裁判所の上告棄却判決により確定した。

(1) 本件建物等はもと原告らの所有であつたが、昭和五一年ころから原告らの経営が悪化したため、同年一二月二六日グリーンスタンプに売り渡され、その代金額は、原告らの金融機関及び工事業者に対する債務総額をグリーンスタンプが原告らに代つて弁済する方法によつて支払うこととし、右弁済が完了したときにグリーンスタンプが本件建物等の所有権を取得することとした。

(2) その後、グリーンスタンプは右弁済を完了し、本件建物等の所有権を取得した。

(3) 補助参加人は、グリーンスタンプから本件建物等の転売を受け、原告らから中間省略による所有権移転登記を受けた。

2(一)  前訴においては、第一審で二四回、控訴審で八回の口頭弁論期日が開かれたが、攻防の対象は、専ら原告らとグリーンスタンプとの間で本件売買がなされたか否かであり、双方とも右の点に集中して立証活動を行つた。ところで、本件訴訟の争点も前訴と同一であつて、この点において本件訴訟はまさしく前訴のむし返しであり、このような訴訟を認めることは、紛争の解決をいたずらに遅延させ、被告及び補助参加人の地位を不当に不安定にするものである。

(二)  原告ら主張(後記七)にかかる取締役会決議の存否は、原告ら自身がもつともよく知つている事柄であり、前訴で主張することが極めて容易であつたにもかかわらず、原告らは全く主張していない。わずかに、訴訟提起後五年以上経過した控訴審の弁論終結後に原告らから提出された書面に、取締役会決議に関して若干の記載があるにすぎない。

本件訴訟は、前訴において原告らの怠慢によつて主張しなかつた事実を主張するためにむし返されたものであり、時機に後れた攻撃防御方法に関する民事訴訟法上の規制を潜脱するものであつて、許されない。

三  被告の本案前の主張に対する原告らの認否

1  右主張のうち、1(一)、(二)の事実は認める。

2  同2は争う。

本件訴訟における主要な争点は、本件売買について、原告ら各会社の取締役会で承認決議が有つたか否かであり、右の点については、前訴では審理の対象となつていなかつたのであるから、本件訴訟をもつて前訴のむし返しということはできない。

四  請求の原因に対する認否

請求の原因1、2の事実は認める。

五  抗弁(所有権喪失)

原告らは、昭和五一年一二月二六日、代金額及びその支払方法を次のとおり定めて、本件建物等をグリーンスタンプに売り渡した。

原告らの金融機関からの借入債務約六億一八〇〇万円及びこれに対する利息債務並びに株式会社熊谷組に対する工事代金債務約一億二〇〇〇万円を、売買代金として、原告らに代つて支払う。

六  抗弁に対する認否

抗弁の事実は否認する。

七  再抗弁(取締役会決議不存在による無効)

本件建物等は、原告らにとつて極めて重要な会社財産であり、その処分行為たる本件売買契約締結のためには、原告ら各会社の取締役会の承認決議を必要とするところ、右各売買契約の締結については、いずれの原告会社においても取締役会の承認決議を経ておらず、買主のグリーンスタンプは、右事実を知悉していたから、本件売買はいずれも無効である。

八  再抗弁に対する認否

再抗弁の事実は知らない。

取締役会の承認決議のない取引行為について、第三者が利害関係を有するに至つたときには、外形を信頼した第三者は直接の相手方より更に保護されるべきであるから、右第三者に対する関係では、取引の相手方のみならず第三者も悪意であつたときに始めて取引行為が無効になると解すべきであるが、被告は、本件売買について取締役会の承認決議を経ていないことなど全く知らなかつた。したがつて本件売買は、被告との関係では有効である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一まず、被告の本案前の主張について判断する。

被告本案前の主張1(一)、(二)の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

1(一)  原告らは、昭和五四年、本訴補助参加人に対し、所有権に基づき、本件建物等の所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した。

(二)  前訴の争点は、所有権喪失の抗弁、すなわち原告らとグリーンスタンプとの間で、昭和五一年一二月二六日に締結された本件建物等の売買契約の成否であり、前訴被告が土地建物売買契約書を証拠として提出したのに対し、原告らは、右契約書は、当時グリーンスタンプが保管していた原告らの会社印、登録印及び原告会社代表者の実印を冒用して偽造されたものであると主張して争つた。

(三)  昭和五八年二月二八日に言渡された第一審判決は、前訴被告の抗弁を認めて原告らの請求を棄却した。

2(一)  控訴審においても、もつぱら右契約書が真正に作成されたものであるか否かが争われたが、昭和五九年一二月二六日、控訴棄却の判決が言渡された。

(二)  控訴審は、第八回口頭弁論期日(昭和五三年一〇月二九日)に終結し、第九回口頭弁論期日(同年一二月二六日)に判決が言渡されたが、前訴原告ら訴訟代理人(本訴原告ら訴訟代理人とほとんど同一)は、第八回口頭弁論期日における弁論終結後に、本件売買契約については取締役会の承認決議がなくグリーンスタンプは右事実を知つていたから売買は無効であるとの主張を記載した準備書面を提出したが、弁論は再開されず、結局、訴訟上右主張はなされていない。

3  原告らは、右2(二)の事情をとらえて重大な審理不尽の違法がある等と主張して上告したが、昭和六一年三月二〇日、上告棄却の判決が言渡され、原告らの敗訴が確定した。

4  被告は、昭和五二年一月二五日、グリーンスタンプから本件建物を賃借し、前訴被告は、昭和五三年八月二四日、グリーンスタンプから本件建物を買受け、賃貸人たる地位を承継したものであるが、原告らは、昭和六一年四月九日、被告に対し、所有権に基づき本件建物の明渡を求める本訴を提起し、前訴被告は、被告から訴訟告知を受け、昭和六一年六月二五日、本訴に補助参加した(右のうち、本訴提起、訴訟告知、補助参加の事実は、本件記録上明らかである)。

二右の事実によれば、前訴と本訴は、被告及び訴訟物を異にするとはいえ、いずれも原告らとグリーンスタンプ間の売買契約の存否ないし効力を争うものであり、その紛争の実体は同一であると認められる。もつとも、本件売買について取締役会の承認決議があつたか否かという点については、前訴で攻防を尽くしたとは言いがたいが、原告らは、前訴において同一の主張をすることに何らの支障もなく、現に事実審の口頭弁論終結後ではあるが、右主張を記載した準備書面を提出しているのであるから、本訴は実質的に前訴のむし返しであるというほかない。

また、原告らが、前訴当時本訴被告をも相手方として、本訴と同一の請求をすることが不可能であつたとは言えないこと、原告らとグリーンスタンプ間の売買契約締結から本訴提起までに九年余りが経過しており、その間約七年間にわたつて前訴で争われたのち、その終了直後に本訴が提起されたものであつて、今度更に本案の審理を継続すれば、前訴被告及び同人から本件建物を賃借している本訴被告の地位を不当に長く不安定な状態におくことになることをも考慮すれば、本訴の提起は、信義則に照らし、許されないものと解するのが相当である。

よつて、原告らの本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官吉崎直彌 裁判官都築弘 裁判官後藤眞知子)

別紙物件目録

一(一棟の建物の表示)

東京都新宿区原町壱丁目六番地壱、同番地八、同番地九地上

鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造壱部木造陸屋根及亜鉛メッキ鋼板葺地下壱階付壱四階建

床面積

壱階 七五参・五〇平方メートル

弐階 七七八・八四平方メートル

参階 五弐九・七壱平方メートル

四階乃至壱〇階共 四弐四・〇五平方メートル

壱壱階 参四九・七九平方メートル

壱弐階壱参階共 弐六五・八九平方メートル

壱四階 弐五五・〇九平方メートル

地下壱階 参参八・九壱平方メートル

(専有部分の建物の表示)

イ 家屋番号原町壱丁目壱六番壱の壱

鉄骨木造亜鉛メッキ鋼板葺弐階建店舗

床面積

壱階部分 壱九四・〇四平方メートル

弐階部分 弐壱九・八参平方メートル

ロ 家屋番号原町壱丁目壱六番壱の弐

鉄骨鉄筋コンクリート造地下壱階付壱階建店舗倉庫

床面積

壱階部分 四七九・六参平方メートル

地下壱階部分 壱五四・参七平方メートル

ハ 家屋番号原町壱丁目壱六番壱の参

鉄骨鉄筋コンクリート造壱階建店舗

床面積

弐階部分 四七九・六参平方メートル

二 東京都新宿区神楽坂六丁目壱壱番地壱、壱弐番地、壱四番地、壱六番地参地上

家屋番号壱壱番壱の弐

鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺弐階建店舗

床面積

壱階弐階共 四四九・〇弐平方メートル

三 東京都新宿区市谷柳町四壱番地壱、原町壱丁目壱六番地壱地上

家屋番号四壱番壱の壱

鉄骨造陸屋根壱部亜鉛メッキ鋼板葺平屋建車庫

床面積 壱八三・七弐平方メートル

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