大判例

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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)4539号 判決

原告 菅原妙子

右訴訟代理人弁護士 鈴木稔

被告 株式会社東名小山カントリー倶楽部

右代表者代表取締役 松本梅次郎

同 平野豊一

右訴訟代理人弁護士 富永義政

同 高梨孝江

同 荒井俊通

同 斎藤芳則

主文

一、被告は、原告に対し、金一八〇万円及び内金一〇〇万円に対する昭和五九年六月七日から、内金八〇万円に対する昭和六〇年九月三〇日からいずれも支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二、被告は、原告に対し、別紙手形目録(二)記載の約束手形二〇通を引き渡せ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 被告の商人性

被告は、株式会社である。

2. ゴルフクラブ入会契約

原告は、被告との間で、昭和五九年六月上旬ころ、次の内容のゴルフクラブ入会契約(以下「本件入会契約」という。)を締結した。

(一)  被告は、「東名小山カントリー倶楽部」なる名称のゴルフ場(一八ホール、以下「本件ゴルフ場」という。)を静岡県駿東郡小山町竹之下新柴地区の土地に造成し、原告に会員として利用させる。

(二)  被告は、昭和五九年一二月末日までに本件ゴルフ場を完成させる。

(三)  原告は、被告に対し、本件ゴルフ場の会員の入会金及び保証金として、合計三五〇万円の金員を次の支払方法で支払う。

(1) 昭和五九年六月七日限り 一〇〇万円

(2) 昭和五九年六月から昭和六二年五月まで毎月末日限り各五万円宛(但し、最終回は七五万円)

(3) 原告は、被告に対し、右(2)の割賦金の支払のため、別紙手形目録(一)及び(二)の約束手形合計三六通を振り出し、交付する。

3. 金員支払と手形振出

(一)  原告は、被告に対し、右2(三)の約定に基づき、昭和五九年六月七日一〇〇万円を支払い、同月一八日に、別紙手形目録(一)及び(二)の約束手形合計三六通を振り出し、交付した。

(二)  原告は、別紙手形目録(一)の約束手形一六通については、その支払期日に各金額(合計八〇万円)を支払って決済した。

4. ゴルフ場の完成時期の経過

(一)  本件ゴルフ場完成時期である昭和五九年一二月末日が経過した。

(二)  予備的

右期日から社会通念上遅延が許容される相当期間が経過した。

5. 契約解除の意思表示

(一)  原告は、被告に対し、昭和六〇年一〇月二九日本件入会契約を解除する旨の意思表示をした。

(二)  予備的

原告は、被告に対し、昭和六一年一二月一八日の本件口頭弁論期日において、本件入会契約を解除する旨の意思表示をした。

よって、原告は、被告に対し、契約解除による原状回復請求権に基づき、原告が被告に支払ずみの一八〇万円及び内金一〇〇万円に対するその支払の日である昭和五九年六月七日から、内金八〇万円に対する割賦金の最終支払日である昭和六〇年九月三〇日から、各支払ずみまで商事法定利率の年六分の割合による法定利息並びに原告が被告に振り出し交付した別紙手形目録(二)記載の約束手形二〇通の引渡を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1(被告の商人性)の事実は認める。

2. 同2(本件入会契約)のうち、(二)(完成時期の約定)の事実は否認するが、その余の事実は認める。

なお、ゴルフ場を建設するには、資金繰り、用地買収、官庁の許認可手続、天候の不順等の不確定な要素があるので、ゴルフ場の完成、オープンの時期は、あくまで一応の予定、目安ないし努力目標であるにすぎない。

3. 同3(金員支払と手形振出)の事実は認める。

4. 同4(ゴルフ場完成時期の経過)の各事実は否認する。

5. 同5(一)の事実は認める。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因1(被告の商人性)の事実は、当事者間に争いがない。

二、請求原因2(本件入会契約)のうち(二)(完成時期の約定)の事実を除き、その余の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、完成時期の約定の有無について検討する。

成立に争いのない甲第二号証(パンフレット)によれば、本件ゴルフ場の会員募集のために作成されたパンフレットには、完成予定は昭和五九年末であり、作業工程も予定どおり進行している旨の記載のあることが認められるが、全立証によっても、右が確定的な完成時期の約定であったことを、認めるに足りる証拠はない。

三、請求原因3(金員支払と手形振出)の事実は、当事者間に争いがない。

四、そこで、前記認定の完成予定時期の合意の趣旨及びその経過時期について検討する。

思うに、ゴルフクラブ入会契約を締結し、入会金等を支払って会員となる者は、当該ゴルフ場を会員として優先的に利用して、ゴルフプレーを楽しむことを目的としているから、その完成、オープン予定時期は、右契約を締結するか否かを決する重要な要素であるといえる。一方、ゴルフ場の建設には、広大な用地と莫大な資金を必要とし、各種の法令上の制約も多く、用地の買収や行政庁の許認可を得るために相当長い期間が必要であり、その間種々の事情の変化が生ずるおそれもあり、完成が予定時期を多少遅延することは、入会者としても当然予想すべきところといえる。しかし、ゴルフクラブの企業主体が、一旦完成予定時期を定めてこれを明示し、入会申込者とゴルフクラブ入会契約を締結した以上は、その完成予定時期から、社会通念上その遅延が相当として許容される期間内は、企業主体は、履行遅滞の責を問われないが、その期間を超えてゴルフ場を完成することができないときは、右企業主体は、履行遅滞の責を負うものというべきである。

これを本件についてみるに、弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和四七年一一月四日に設立された株式会社であるが、その当時ゴルフ場の建設を計画し、昭和五〇年三月一二日に都市計画法の事前審査の承認を受け、昭和五二年四月五日その本審査の承認を受け、昭和五八年一一月二二日には静岡県知事より都市計画法上の開発行為の許可を得て、本件ゴルフ場の造成工事を本格的に開始したことが認められるが、昭和六一年七月二五、六日ころ本件ゴルフ場付近を撮影した写真であることに争いのない乙第二号証の一ないし六によれば、昭和六一年七月末ころ現在で、本件ゴルフ場の造成の程度は、いまだ完成には程遠く、クラブハウスの建設の着工すらないことが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、本件口頭弁論終結の日である昭和六一年一二月一八日当時、いまだ本件ゴルフ場の完成の明確な時期が決定されていない状況にあることが認められる。

以上の各事実を併せ考えると、被告は、前記完成予定時期を二年を超えて、なお本件ゴルフ場を完成するに至っていないが、二年を経過した時点、すなわち、昭和六一年一二月ころには、ゴルフクラブの企業主体として、社会通念上許容される相当期間を超えたものと評価することができ、したがって、被告は、履行遅滞による責を負うに至ったものと解するのが相当である。

五、請求原因5(契約解除の意思表示)のうち、(一)(昭和六〇年一〇月二九日の意思表示)の事実は、当事者間に争いがないが、前記四に判示したとおり、右時点においては、いまだ社会通念上許容される相当期間の範囲にとどまっていたものと解される。しかし、原告が予備的に主張する(二)(昭和六一年一二月一八日の意思表示)の事実は、当裁判所に顕著な事実であるところ、前記四に判示したとおり、この時点においては、すでに履行遅滞の責を負うべき時期に至っていたものと解され、したがって、本件入会契約は、この解除の意思表示によって遡って効力を失ったものということができる。

なお、原告は、別紙手形目録(二)の約束手形については、その支払期日に各金額を支払ったことを主張立証していないが、その支払期日は、いずれも昭和六〇年一〇月三一日以降であるところ、その時期は、本件ゴルフ場の完成予定日をすでに一〇か月以上遅れている時期であることが明らかであるから、契約関係にある当事者間の信義則に照らして、その支払なくしても、右解除の効力を認めるのが相当であり、したがって、この点は右解除の判断を左右しないというべきである。

六、以上の事実によれば、本訴請求は、すべて理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小倉顕)

〈以下省略〉

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