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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)7183号 判決

原告 株式会社 横建

右代表者代表取締役 横山茂

右訴訟代理人弁護士 大谷文彦

同 守屋文雄

同 柴田龍太郎

被告 社団法人 不動産保証協会

右代表者理事 野田卯一

右訴訟代理人弁護士 鈴木一郎

同 錦織淳

同 深山雅也

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一月二八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、宅地建物取引業法六四条の二に基づいて指定を受けた宅地建物取引業保証協会であり、また、訴外三和総合住宅株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和六〇年二月当時、被告の社員であった。

2  被告は、宅地建物取引業法六四条の七に基づいて、訴外会社に係る弁済業務保証金として金三〇〇万円を東京法務局に供託した(以下「本件供託金」という。)。

3(一)  宅地建物取引業者である原告(被告とは別の保証協会の社員である。)は、昭和六〇年二月一八日、訴外米屋治夫(以下「米屋」という。)に対し、別紙物件目録一及び二記載の不動産(以下「東狭山ヶ丘の物件」という。)を代金三六〇〇万円で売却した。

(二) 米屋は、同月一九日、訴外会社に対し、別紙物件目録三及び四記載の不動産(以下「桜田の物件」という。)を代金一七〇〇万円で売却した。

(三) 米屋は、同日、原告に対し、(一)の代金債務の内金一七〇〇万円の債務の支払のため、(二)の売主の地位を譲渡し、訴外会社は、同日、原告に対し、右地位の譲渡を承諾した。

(四) 仮に、(三)の事実が認められないとしても、米屋は、同日、原告に対し、同(一)の代金債務の内金一七〇〇万円の債務の支払のため、同(二)の代金債権を譲渡した。

4  訴外会社は、原告に対し、桜田の物件の売買代金として金一三〇〇万円を支払っただけで、残金四〇〇万円を支払わなかった。そこで、原告は、昭和六〇年八月五日、被告に対し、本件供託金三〇〇万円の弁済を受ける権利を実行するため、認証を申し出た。しかるに、被告は、昭和六一年一月二八日、原告の右申し出を拒否して、原告の次順位で認証を申し出た訴外菊地弘義に対し、同年三月一九日認証した。右菊地が、同年五月二八日、右三〇〇万円の還付を受けたため、本件供託金はなくなり、原告は、弁済業務保証金の弁済を受けることができなくなった。

5  被告の原告に対する認証拒否は、正当な理由のないものであり、被告は、故意もしくは過失により原告に損害を被らせたものである。

よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償請求として金三〇〇万円及びこれに対する認証を拒否した昭和六一年一月二八日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因第1及び第2項の事実は認める。

2  同第3項のうち、(一)及び(二)の事実は認め、(三)及び(四)の事実は否認する。

米屋は、昭和六〇年二月一九日、訴外会社に対し、桜田の物件を下取りさせ、同日、訴外会社に米屋の原告に対する東狭山ヶ丘の物件の売買代金債務の内金一七〇〇万円の債務を引き受けさせ、原告よりその承諾を得たものである。もしくは、訴外会社は、同日、原告に対し、米屋の原告に対する東狭山ヶ丘の物件の売買代金債務の内金一七〇〇万円の債務について、保証したものである。

従って、原告は、被告の弁済業務規約一二条の「宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者」には該当せず、また、原告の訴外会社に対する債権は、「宅地建物取引により生じた債権」にも該当しないから、被告のなす弁済業務の対象となり得ない。それ故、原告は、被告に対し、本件認証請求をなし得なかったものである。

3  同第4項のうち、原告が、昭和六〇年八月五日、被告に対し、本件供託金三〇〇万円の弁済を受ける権利を実行するため、認証を申し出たこと、被告が、昭和六一年一月二八日、原告の右申し出を拒否して、原告の次順位で認証を申し出た訴外菊地弘義に対し、同年三月一九日認証したこと、右菊地が、同年五月二八日、右三〇〇万円の還付を受けたため、本件供託金はなくなり、原告が弁済業務保証金の弁済を受けることができなくなったことは認め、その余の事実は知らない。

4  仮に、原告が本件弁済業務保証金の弁済を受ける権利を有したとしても、それは、被告の弁済業務規約一二条四項の「業者間の債権」に該当する。桜田の物件は、原告が米屋に対し東狭山ヶ丘の物件を売却するに際し、原告自ら下取りすべき物件であったにもかかわらず、訴外会社に第三者への売却を依頼する趣旨で米屋から訴外会社へ売却する形をとることにしたのだから、原告において、右売買契約の立会人になるなどして、売買代金完済と同時に所有権移転登記を完了する等売買代金債務の履行を確保して、損害の発生を未然に防止すべき義務を負っていたのに、これを怠り、何ら右売買契約に関与することなく、単に売買代金債権のみを譲り受けている。従って、原告は、同条同項の「専門業者として相当の注意を払った」ということはできない。

よって、原告の訴外会社に対する債権は、弁済業務の対象となり得ず、被告の認証拒否は正当なものであった。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因第1及び第2項の事実は、当事者間に争いがない。

二1  同第3項のうち、(一)及び(二)の事実は、当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》を総合すれば、以下のような事実を認めることができる。

(一)  米屋は、昭和五九年一〇月末ころ、原告に対し、東狭山ヶ丘の物件の購入を申し込んだ。その際、米屋は、桜田の物件を金一七〇〇万円で原告に下取りしてもらったうえで、東狭山ヶ丘の物件を購入したい旨申し入れたが、原告が桜田の物件を金一三〇〇万円と査定したため、同物件の下取り価格の点で折り合わず、いったん東狭山ヶ丘の物件の購入を取りやめた。

(二)  米屋は、同じころ、訴外会社に対しても、適当な物件の購入方を依頼していたが、原告との商談が壊れてから約一か月たったころ、同会社から同じ原告所有の東狭山ヶ丘の物件の売買を紹介された。米屋が訴外会社に対し、原告との間での同物件についての前記交渉の経過を説明すると、同会社は、自社が米屋から同人の希望価格である金一七〇〇万円で桜田の物件を直接下取りし、その代金で、原告に対する頭金に充当する旨返答した。そこで、米屋と訴外会社との間だけで桜田の物件の下取りの話がまとまり、昭和六〇年一月ころ、訴外会社は、仲介業者として、原告に対し、米屋を紹介し、同人は原告に対し、改めて東狭山ヶ丘の物件の購入を申し込むに至った。

(三)  原告と米屋は、昭和六〇年二月一八日、訴外会社の仲介によって、東狭山ヶ丘の物件を代金三六〇〇万円で売買する旨の契約書(甲第一号証)を作成したが、住宅金融公庫のローンの手続等の都合に合わせて、東狭山ヶ丘の物件の引渡及び所有権移転登記の期限を昭和六〇年五月三一日までとした。そして、米屋は、同年二月一八日、原告に対し、右手付金三〇〇万円を支払った。

(四)  米屋は、原告に対する米屋の東狭山ヶ丘の物件の売買代金債務の一部を決済するため、訴外会社に桜田の物件を下取らせ、同会社をして米屋に代わって原告に対し下取り代金相当の金一七〇〇万円を直接支払う義務を負わせるべく、訴外会社との間で、同年二月一九日、桜田の物件の売買契約書(甲第二号証)を作成した。その際、米屋と訴外会社は、下取り物件の換価が予想どおり進捗しない場合もあることを危惧し、昭和六〇年六月二〇日を代金支払、同物件の引渡及び所有権移転登記の期限と定めた。そして、米屋は、原告から東狭山ヶ丘の物件の売買代金のうち右金一七〇〇万円の債務については、右のとおり決済してもらうことを確実にするため、原告及び訴外会社に対し、右の決済方法を了承する趣旨の書面を作成するよう要求した。この意向を受けて、原告と訴外会社は、同年二月一九日、「右物件(桜田の物件)を別紙契約書(甲第二号証)、売主(株)横建、買主米屋治夫との売買契約の残余に充当するに対し三和総合住宅(株)が責任を持って支払います。但し公庫、年金、銀行融資決定日又は昭和六〇年六月二〇日までとする」と記載した書面(甲第三号証)を作成し、訴外会社が桜田の物件を転売して得た金銭をもって、原告に金一七〇〇万円の支払を行うこととし、米屋は右支払には今後一切関係しないこととした。また、原告は、同日、訴外会社に対し、東狭山ヶ丘の物件の売買仲介手数料として金五五万円を支払った。

(五)  米屋が住宅金融公庫から融資を受ける場合、先行登記をする必要があったことから、原告は、訴外会社との間の前記合意を信頼し、物件代金を得ていないにもかかわらず、同年五月一日、米屋に対し、東狭山ヶ丘の物件の所有権移転登記の手続を行い、訴外会社に対しては、同物件の売買仲介手数料として残金五九万円を支払った。また、米屋は、そのころ、訴外会社に対し、司法書士事務所において、桜田の物件の権利証、鍵、印鑑証明書、委任状を手渡した。そして、米屋は、同月一七日、住宅金融公庫のために、東狭山ヶ丘の物件に抵当権設定登記手続を行い、同月二五日、同公庫から金六二〇万円の融資を受けた。また、米屋は、同物件の鍵をもらい、同月中旬、右物件に引越してきた。

(六)  訴外会社は、原告に対し、前記債務金一七〇〇万円の内金一三〇〇万円を二回に分けて、一回は同月二〇日より前に、もう一回は右同日より後に支払い、その都度、原告は、同会社に対し、領収書を発行した。しかし、残債務金四〇〇万円については支払いがないため、原告は、訴外会社に対し、電話で何度も支払いを催促し、原告の従業員も出向かせたが、同会社社長は行方不明となっていて、結局現在にいたるまで原告は右金四〇〇万円の支払を受けていない。

以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

3(一)  原告は、米屋が原告に対し桜田の物件の売主の地位を譲渡した旨主張するので、まずこれを検討する。

前記認定事実によれば、米屋は、原告と訴外会社との間で甲第三号証を作成させ、前記金一七〇〇万円の支払の責任を訴外会社に負わせ、自分は原告から今後一切右金員を請求されないこととしたこと、桜田の物件の権利証、鍵、印鑑証明書、委任状の訴外会社への交付については、原告は、米屋から一旦取り上げて自分を経由するとか、米屋に右交付につき米屋を拘束するとか格別の配慮を示さずに、米屋に任せていたこと、同物件の所有権移転登記についても同様であることが認められる。従って、金一七〇〇万円の支払以外に、桜田の物件についての引渡義務や登記移転義務を含む契約上の個々の権利義務関係、更には契約に伴う取消権、解除権をも包括した権利義務を原告が承継したものとは認め難く、米屋が原告に対し売主の地位を譲渡したとの主張は、到底容認できない。

(二)  また、原告は、米屋が原告に対し桜田の物件の代金債権を譲渡した旨も主張するので、次にこれについて検討を加える。

訴外会社が原告に対し支払義務を負った金一七〇〇万円は、米屋と訴外会社との間の桜田の物件の下取り売買契約の代金に相応するものであり、このことからすれば、事情によっては、米屋が原告に対し、右下取り売買代金債権を譲渡し、訴外会社において右債権譲渡につき承諾したと推測する余地もないではない。

しかしながら、前記認定事実によれば、甲第三号証が作成される前に原告と米屋との間で桜田の物件の売買代金の処理について本格的な折衝が行われたことがなく、前記甲第三号証の書面にも、米屋が当事者として署名押印せず、原告、米屋、訴外会社の三者の代金決済の合意という形式をとっていないことが明らかである。そうであってみれば、原告と米屋との間の金一七〇〇万円の支払に関する合意書面あるいはその取扱趣旨を明確にする合意は全く認められないから、原告が桜田の物件の代金債権の譲渡を受けたと推認することは困難である。他にこれを認めるに足る証拠はない。

むしろ、前記認定事実によれば、米屋の要求に基づいて、原告と訴外会社との間において、原告と米屋との間の東狭山ヶ丘の物件の売買代金債務のうち金一七〇〇万円につき訴外会社が免責的に債務を引き受ける旨の合意をなし、その前提として、米屋と訴外会社との間において、右債務引受の対価として、桜田の物件の下取り売買契約を締結し、金銭関係を清算したものと認めるのが、本件一連の取引の実態に最も即応するものと解せられる。

4(一)  ところで、宅地建物取引業法六四条の八第二項にいう認証とは、宅地建物取引業保証協会が弁済業務保証金の弁済(還付)を受ける権利の存在及びその額を確認し証明することである。また、認証請求とは、弁済業務保証金還付請求権の存在及びその額を確認し証明すべきことを宅地建物取引業保証協会に申し立てる行為をいう。宅地建物取引業法六四条の八第一項は、弁済業務保証金還付請求権の発生要件を規定し、そして、同第二項は、「前項の権利を有する者がその権利を実行しようとするときは」認証を受けなければならない旨規定している。従って、右両項の関係からは、弁済業務保証金還付請求権を有する者ならば宅地建物取引業保証協会に対し認証請求をすることができると解される。

(二)  そこで、原告は弁済業務保証金の弁済を受ける権利を取得したか否か判断する。

(1) 請求原因第4項の事実中、原告が、昭和六〇年八月五日、被告に対し、本件供託金三〇〇万円の弁済を受ける権利を実行するため、認証を申し出たこと、被告が、昭和六一年一月二八日、原告の右申し出を拒否して、原告の次順位で認証を申し出た訴外菊地弘義に対し、同年三月一九日認証したこと、右菊地が、同年五月二八日、右三〇〇万円の還付を受けたため、本件供託金はなくなり、原告が弁済業務保証金の弁済を受けることができなくなったことは当事者間に争いがない。

(2) 原告と米屋との間の東狭山ヶ丘の物件の売買契約は、被告の社員でない者同士の取引であることが明らかである。従って、原告が、右取引によって生じた債権について、被告に対し本件供託金の弁済を受ける権利を直接取得する余地はない。原告が米屋に対する売買代金債権の一部につき被告の社員である訴外会社に債務引受をしてもらったものであることは先に認定したとおりであるが、訴外会社の債務引受した債務が、もともと被告の弁済業務の対象となっていなかったものであるから、訴外会社がその債務引受をした一事をもって、原告の訴外会社に対する右債権が被告の弁済業務の対象に転化するものではない。それ故、原告は、被告に対し本件供託金の弁済を受ける権利を取得したものではない。

(三)  よって、原告は、被告に対し、弁済業務保証金の弁済を受ける権利を取得したものとは認められないから、被告の認証拒否が不法行為になるということはできない。

三  以上によれば、原告の請求はその余の事実について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 揖斐潔 櫻庭信之)

〈以下省略〉

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