大判例

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東京地方裁判所 昭和62年(合わ)212号 判決

主文

被告人を懲役四年六月及び罰金六〇万円に処する。

未決勾留日数中三〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、昭和六二年九月八日、東京都台東区谷中七丁目一六番地天王寺墓地において、Aに対し、覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶約一〇〇グラムを代金二六万円で譲り渡したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(補足説明)

被告人は、公判廷で、Aに覚せい剤一〇〇グラムを代金二六万円で譲り渡した事実は認めながらも、その経緯は、かつて付き合いのあつたAに会い、身の上の相談などに乗つてやつていたところ、右譲り渡しの三日前ころ、Aから転売して金を作りたいから覚せい剤を世話してほしいと懇請されたので、知人に当たつて三〇万円で入手したが、Aが代金三〇万円を調達できなかつたため、損を承知で二六万円で売却したものであり、かつ、覚せい剤を譲り渡したのはこの一回だけであるから、営利の目的はなく、また、譲り渡した日時場所も公訴事実のそれとは異なると供述している。

しかしながら、証人Aは、公判廷で、本件譲り渡しの経緯について、昭和六二年一月覚せい剤の譲渡と使用による前刑を終了した後の同年五月中旬以降、知人のBから覚せい剤を購入して再び使用しているうち、自分も覚せい剤の密売をしようと考えるに至つたが、同年六月に入つてBが逮捕されたため、以前覚せい剤を譲り受けたことのある被告人から仕入れようと考え、被告人と連絡を取つて同月七日ころに会い、覚せい剤の取引を申し入れたところ、被告人も了解し、その日から同年九月二日ころまでの間七回にわたり、合計一五〇グラムの覚せい剤を、一回の量は一〇グラムから三〇グラム、代金は一グラム当たり三〇〇〇円から四〇〇〇円で、駒込の喫茶店や判示認定の墓地などにおいて被告人から譲り受けたこと、本件譲り渡しについては、当日の同月八日に被告人から電話があり、早急に金が必要なので安くすると言われて一〇〇グラムの覚せい剤を買うこととし、代金を知人から借入して用意したうえ、前記喫茶店で被告人と落ち合つて同所で代金を渡し、タクシーに乗つて判示認定の墓地へ行き、被告人が同所の垣根から取り出してきた覚せい剤を受け取つたこと等の事実を明確に供述しているところ、Aの供述は、同女が当時覚せい剤取引の経過等を逐一記帳していたメモ帳(昭和六二年押第一三九四号の4)に基づいて記憶を喚起しつつ、個々の取引の経緯や日時、場所、代金その他の状況について詳細に述べたものであつて、具体的かつ自然であり、また、Aが殊更に事実に反した供述をして被告人を陥れるような理由も見当たらないから、十分に信用することができる。

これに対し、被告人の公判廷での供述は、それまで全く覚せい剤の件では関わり合いのない被告人に突然Aが覚せい剤の入手方を依頼し、被告人が極めて短期間で覚せい剤を入手して渡したとするなど極めて不自然な点があり、また、本件覚せい剤の入手経路についても明らかでないうえ、被告人の所持していたはかりや大量のビニール袋について、覚せい剤を小分けする道具と推認されるのに、郵便物の重さを計るためであるとか、硬貨を入れるためであるとか著しく不合理な弁解をしており、さらに、本件譲り渡しの日時場所が判示認定と異なる根拠についても何ら合理的な理由を付していないなど不自然なところが多いので、仕入代金が譲渡代金より高い三〇万円であつたという点を含めて、到底これを信用することはできない。

そうすると、被告人は、かねてから仕入価格と売却価格の差額を利得することを目的として、覚せい剤を入手し、継続的にこれをAに売却していたことが本件証拠上優に推認することができ、本件譲り渡しもこうした一連の取引の一環としてなされたものであることは明白であるから、被告人が本件の譲り渡しで実際に利益を得たかどうかにかかわらず、被告人が本件の譲渡行為についても営利目的を有していたことに疑いの余地はない。また、本件譲り渡しの日時場所も判示認定のとおりと認められる。

(法令の適用)

被告人の判示行為は覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項二号、一七条三項に該当するところ、情状により所定刑中懲役刑と罰金刑の併科刑を選択し、その所定刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役四年六月及び罰金六〇万円に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中三〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官香城敏麿 裁判官出田孝一 裁判官大野勝則)

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