大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)7号 判決

東京都港区南青山三丁目一五番一三号

原告

周星曾

右訴訟代理人弁護士

岩原武司

右訴訟復代理人弁護士

大山健児

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判署長

小酒禮

右指定代理人

野崎守

大原豊実

曽根原邦重

加藤広治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和六一年一月三〇日付けでした原告の昭和五七年分所得税につき麻布税務署長によつてされた決定及び無申告加算税賦課決定に対する審査請求についての東裁(所)六〇第一〇六号裁決(ただし、右決定のうち納付すべき税額七五三万七五〇〇円及び右無申告加算税賦課決定のうち無申告加算税の額七五万四六〇〇円をそれぞれ取り消した部分を除く。)は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件裁決の存在

原告は、昭和五八年八月二〇日、麻布税務署長に対し、同税務署長が同年六月二〇日付けでした原告の昭和五七年分所得税につき総所得金額を〇円、分離長期譲渡所得金額を九億四九〇〇万円、納付すべき税額を三億四二二六万六二〇〇円とする決定及び無申告加算税の額を三四二二万六六〇〇円とする賦課決定(以下、併せて「原処分」という。)に対して、異議申立てをし、これに対して同税務署長は、同年一二月五日、右申立てを棄却した。原告は、同月二八日、被告に対し、審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたが、これに対して被告は、昭和六一年三月一三日、原処分を一部(分離長期譲渡所得金額九億二八九〇万円を超える二〇一〇万円及び納付すべき税額三億三四七二万八七〇〇円を超える七五三万七五〇〇円並びに無申告加算税野額三三四万二〇〇〇円を超える七五万四六〇〇円の部分)取り消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

2  本件裁決の無効事由

(一) 手続上の違法

(1) 原告は、本件審査請求を申し立てた当時、昭和五七年分の所得の内容である東京都港区赤坂四丁目二二一番ないし二二四番の四筆の宅地(以下「本件宅地」という。)の譲渡に関して株式会社清峰堂から仲介手数料請求訴訟(以下「第一事件」という。)を提起され、係争中であつたことを、本件審査請求を担当した被告の支部である東京国税不服審判所の担当職員むくた某ら(以下「本件担当職員ら」という。)に伝えていた。昭和五九年九月二五日、本件審査請求に係る事件の審理が行われ、原告からの事実聴取がされたが、その際、本件担当職員らは、原告に対し、審理はこれが最終回ではないから、原告が主張する事由に係る証拠書類を揃えておくようにとの教示及び後日呼び出す旨の教示をし、原告はこれを受け入れる態度をとつた。

原告は、右の教示を受けて、第一事件に関する和解調書(なお、同事件についてて、昭和六〇年一一月二九日和解が成立した。)等の書類の外、本件宅地の譲渡に関して親和商事株式会社から提起されていた仲介手数料請求訴訟(以下「第二事件」という。)に関し、仲介手数料及びこれに対する遅延損害金の合計二四六七万八三五六円を同年七月三〇日に東京法務局に供託した旨の供託書及び弁護士柿沼映二に支払つた第二事件に関する弁護士費用に関し、既に被告に提出済みの領収書に係る支払い以外の支払いに係る領収書五枚を、被告に提出すべく用意していた。

しかるに、被告は、右の審理以降、原告を呼び出して審理をすることなく本件裁決をした。

原告が本件担当職員らの右の教示を受け入れた態度は、口頭で意見を述べる機会を黙示的に要求したものというべぎであるが、被告は、右のとおり、原告に口頭意見陳述の機会を付与しないで本件裁決を行つたものであるから、本件裁決には、国税通則法一〇一条一項、八四条一項に違反するとともに、憲法によつて保障された原告の審査請求に係る事件の審理における告知と聴聞を受ける権利を充分に保障していないという手続上重大かつ明白な違法があり、本件裁決は無効である。

(2) 被告は、本件審査請求に係る事件の審理において、本件宅地の取得価格に関して前所有者田中正一及び工事請負をした会社の代表者井口但(以下併せて「本件参考人」という。)から事情を聴取しているが、右の者らの供述は本件裁決書以外に原告の知るところではなかつた。

憲法三一条は当事者以外の者の供述を証拠とするときは反対尋問の機会を与えることを保障しているものというべきであり、同条及びその精神は行政手続においても類推適用されるものであるから、被告は、原告に対し、本件参考人に対する反対尋問の機会を付与し、又は少なくとも本件参考人の供述を告知し、それにつき原告に意見陳述の機会を付与すべきである。

しかるに、被告は、原告に対して本件参考人に対する反対尋問の機会の付与も、本件参考人の供述の告知及び意見陳述の機会の付与もせず、本件裁決を行つたのであるから、本件裁決には手続上憲法三一条ないしその精神に反する重大かつ明白な違法があり、本件裁決は無効である。

(3) 本件裁決は、原告が本件宅地の取得に関して借入れたと主張する金員について本件宅地の購入代金に当られたものとは認められないとし、その理由として、使途及び借入時期をあげるが、原告に対して右の理由の内容を告知して弁明を求めれば、原告は右の理由が根拠のないことを説明して被告を納得させることができた。

しかるに、被告は、右の理由の内容を原告に告知してその弁明を聞くということをせず、本件裁決を行つたものであるから、本件裁決には手続上重大かつ明白な違法があり、本件裁決は無効である。

(二) 内容上の違法

(1) 原告は、弁護士菊池博に対し、第一事件に関する弁護士費用及び立退費用を支払つた。また、原告は、本件宅地について現状回復及び通行妨害禁止の仮処分並びに任意競売申立て及び競売手続停止の仮処分を申請し、弁護士中井宗夫及び同泥谷伸彦に対してそれぞれ報酬を支払つた。さらに、原告は、右(一)の(1)で述べたとおり、弁護士柿沼映二に対し、第二事件に関する弁護士費用を支払つている。

右各金員は本件宅地の取得費用又は譲渡費用に該当するところ、本件裁決には、右各金員を本件宅地の取得費用又は譲渡費用として認定しなかつた違法があり、右違法は重大かつ明白であるから、本件裁決は無効である。

(2) 原告は、株式会社清峰堂に対し、第一事件に関して三〇〇万円の仲介手数料を支払つた。また、原告は、親和商事株式会社に対し、第二事件に関して仲介手数料二〇〇〇万円及びこれに対する年六分の割合の遅延損害金の合計二四六七万八三五六円を支払つた。

右の仲介手数料及び遅延損害金は本件宅地の譲渡費用に該当するところ、本件裁決には、右各金員を譲渡費用として認めなかつた違法があり、右違法は重大かつ明白であるから、本件裁決は無効である。

3  よって、原告は、請求の趣旨1記載の範囲で、本件裁決が無効であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の反論

(認否)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2について

(一) (一)の(1)の第一段は、昭和五九年九月二五日本件審査請求に係る事件の審理が行われ、原告からの事実聴取をしたことは認め、その余の事実は否認し、第二段の事実は知らず、第三段の事実は認め、第四段の主張は争う。

(一)の(2)の第一段は、被告が本件審査請求に係る事件の審理において本件参考人から事情を聴取したことは認め、その余の事実は知らず、第二段及び第三段の各主張は争う。

(一)の(3)の第一段は、被告が本件宅地の取得に関して原告が借り入れたと主張する金員について本件宅地の購入代金に充てられたものとは認められないとしたことは認め、その余の事実は知らず、第二段の主張は争う。

(二) (二)の(1)の第一段の事実は知らず、第二段の主張は争う。

(二)の(2)の第一段の事実は知らず、第二段の主張は争う。

3 同3は争う。

(反論)

1 請求原因2の(一)の(1)について

(一) 被告が審査請求に係る事件について審理をする際、審査請求人に呼出手続をとることは法の要求しているところではなく、この手続を採らなかつたことをもつて本件裁決に瑕疵があるということはできない。

(二) また、審査請求人は、担当審判官に対し、随時、審査請求人の主張を裏付ける書面あるいは証拠書類又は原処分庁の主張に対する反論の裏付けとなる反論書あるいは証拠書類の提出をすることができる(国税通則法九五条)のであるから、原告の主張に係る証拠書類等が被告に提出されなかつたことをもつて、本件裁決に、原告の主張立証を聴取、審理しなかつた瑕疵があるということもできない。

2 同2の(一)の(2)について

審査請求手続は、職権主義を基調としており、対審的構造をとつていないのであるから、被告は、審査請求人に対し、参考人に対する反対尋問の機会等を与える必要はなく、またそのような実体法上の規定も存しない。

3 同2の(二)について

原告が請求原因2の(二)で主張する内容上の違法事由は、いずれも本件裁決固有の瑕疵を主張するものではないので、失当である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(本件裁決の存在)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件裁決の無効事由について検討する。

1  手続上の違法(請求原因2の(一))について

(一)  まず、原告は、本件裁決には、原告が要求した口頭意見陳述の機会を付与せず、また、その審理において告知と聴聞とを受ける原告の権利を充分に保障しなかつた違法があると主張する。

国税通則法一〇一条、八四条一項によれば、審査庁は、審査請求人から「申立てがあつたとき」は、審査請求人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならないとされている。原告は、右の申立てとして、昭和五九年九月二五日に行われた本件審査請求に係る事件の審理の際、本件担当職員らが後日呼び出しをする等の教示を行い、原告がこれを受け入れた態度をとつたことをとらえて、口頭意見陳述の機会の付与を黙示的に申し立てたものというべきであると主張する。

しかし、右規定の「申立てがあつたとき」とは、その方式はともかく、いやしくも客観的に見て「申立て」と認められるようなものでなければならないが、原告主張の「申立て」は、その主張自体から、原告が主観的に「申立て」をしたと考えるという程度のものであつて、到底客観的に見て「申立て」があつたと解することはできない。

そうすると、原告が口頭意見陳述の機会の付与を要求したことを前提とする右手続上の違法の主張は失当である。

(二)  また、原告は、本件担当職員らが行つた教示を信じて主張及び証拠書類等の提出を準備していたのに、被告は、右の教示後、原告を呼び出して聴取、審理をせず、右書類等の提出を求めないで本件裁決を行つた旨主張し、このことを右(一)の主張と並んで本件裁決の手続上の違法事由としてあげているものと解される。

しかし、右主張の前提となる本件担当職員らが原告に対し、原告主張の教示をした事実を認めるに足りる証拠はない。のみならず、国税通則法九五条は、「審査請求人は、第九三条第四項(答弁書の送付)の規定により送付された答弁書に対する反論書または証拠書類若しくは証拠物を提出することができる。この場合において、担当審判官からその提出をすべき相当の期間を定めてときは、その期間内にこれを提出しなければならない。」と規定しており、この規定によれば、担当審判官が特に提出期間を定めない限り、審査請求人は、いつでもその主張及びそれを証する証拠書類等を提出できるのであり、本件において担当審判官が右の提出期間を定めてとの点は原告の主張しないところである。そうすると、審査請求人である原告は、被告から要求されるまでそれらの提出ができないわけではないところ、原告が請求原因2の(一)で主張する各証拠書類については、成立に争いのない甲第八号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証、第七号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四、第九ないし第一三号によれば、第一事件は昭和六〇年一一月二九日に和解が成立し、その頃和解調書が作成されていること、第二事件に関する仲介手数料の支払いに係る供託は昭和六〇年七月三〇日にされ、同日供託書が作成されていること、弁護士柿沼映二に対する支払いに係る領収書五枚は、作成日付が昭和五七年五月三一日から昭和六〇年七月二九日の間のものであることが認められるから、右各書類はいずれも原告において本件裁決がされた昭和六一年一月三〇日以前に被告に提出することが可能であつた書類等であるといえるものである。以上のことからすると、仮に原告が主張する教示の事実が認められるとしても、被告が原告を呼び出して聴取、審理せず、原告に右の書類等の提出を求めなかつたからといつて、本件裁決を無効とするまでの重大な違法があるとはいえないというべきである。

したがつて、請求原因2の(一)の(1)の主張は理由がない。

(三)  次に、原告は、憲法三一条に基づき、本件宅地の取得価格に関して被告が事情を聴取した本件参考人に対する反対尋問の機会又は参考人の供述の告知及びこれに対する意見陳述の機会を原告に付与しなかつた違法があると主張する。

憲法三一条の規定は、その表現等から考えて、直ちに行政手続に適用があるものと解することはできないが、行政手続についても、その性質に応じた適正手続の要請があると解される。

ところで、課税処分に対する審査請求に係る事件の審理手続を定める国税通則法第八章及び行政不服審査法等の規定によれば、審査請求に係る事件の審理手続は職権主義を基調とし、対審構造をとつておらず、審査請求人に対して、審査請求の審理において調べた関係人又は参考人に対する反対尋問権を付与することを定める規定あるいはその者の供述内容を知らしめてそれに対する意見陳述の機会を付与することを定める規定はないので、同法は、右調査結果に対し、審査請求人に反論又は反証の機会を付与するかどうかについては被告の裁量に委ねられているものと解される。

そして、このような同法の建前は、課税処分の審査請求に係る事件の審理手続の性質に照らし、右の適正手続の要請に反するということはできない。

しかるところ、本件審査請求に係る事件の審理において、被告が右に関し裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたとの点については主張も、立証もないから、被告が本件参考人に対する反対尋問の機会又は本件参考人の供述の告知及びこれに対する意見陳述の機会を原告に付与しなかつたからといつて、直ちに本件裁決に違法があるということはできない。

したがつて、請求原因2の(一)の(2)の主張は理由がない。

(四)  さらに、原告は、本件裁決には本件宅地の取得に関する借入金に関し原告の弁明を聞かなかつた違法があると主張する。

しかし、前記(二)のとおり、原告は、本件審査請求において裁決がされるまでいつでも主張、立証することができたのであり、他方、審査庁である被告が裁決をするに際して原告主張の点について弁明を求めなければならないとする規定はないから、この点について本件裁決に違法があるとは認められない。

したがつて、請求原因2の(一)の(3)の主張は理由がない。

2  内容上の違法(請求原因2の(二))について

原告は、請求原因2の(二)の(1)及び(2)において掲げる費用について、これを被告が本件宅地の取得費用又は譲渡費用と認めなかつたことを本件裁決の内容上の違法として主張する。

しかし、本件裁決については、行政事件訴訟法第三八条二項、一〇条二項により原処分の違法を理由としてその無効確認を求めることができないものであるところ、原告が主張する内容上の違法はいずれも課税標準額の算定に関する事項についてのものであり、これらは原処分の違法であつて、本件裁決固有の違法ではないから、これを理由として本件裁決の無効確認を求めることはできない。

したがつて、請求原因2の(二)の主張(内容上の違法)は、いずれも失当である。

三  よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 中山顕裕 裁判官 青野洋士)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com