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東京地方裁判所八王子支部 昭和62年(ワ)154号 判決

主文

一  被告は原告に対し、昭和六二年一二月二五日かぎり、原告から金八五〇九万八八八〇円の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録一記載の土地及び同目録二記載の建物を引き渡し、かつ、右土地及び建物について、それぞれ昭和六一年二月二八日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告と被告とは、昭和六一年三月一日、別紙物件目録一、二記載の土地・建物(以下「本件土地・建物」「本件土地」「本件建物」等という。)につき、同年二月二八日付けで、被告を売主、原告を買主として、左の約定で売買契約(以下「本契約」という。)を締結し、原告は、契約と同時に代金内金一〇〇万円を支払った。

(一) 売買代金 八五〇〇万円

(二) 代金の支払方法 契約締結時 一〇〇万円

昭和六二年一二月二五日 八四〇〇万円

(三) 売主は、所有権移転登記申請のときまでに、本件土地の境界を買主立ち会いにより確定させる。

(四) 本件土地・建物の売買面積は、実測によるものとし、契約後、買主の費用で土地を実測し、登記簿上の地積との差については、後記の第一回内入金支払時に、一坪一〇六万四〇〇〇円の割合で精算する。

(五) 売主は、本契約締結後、別に居住用住宅を探すこととし、その希望する物件が決まったときは、右希望物件についての契約締結日までに、買主は、(二)の定めにかかわらず、内入金として七〇〇万円を売主に支払い、更に契約締結日より一か月以内に残代金を支払う。

(六) 本件土地・建物の所有権は、代金完済時に買主に移転し、右所有権移転と同時に、売主は、本件土地・建物を買主に引き渡すが、売主は、右引渡を五か月間延期することができるものとし、買主は、その期間無償で売主に使用させることとする。ただし、右延期は、昭和六二年一二月二五日を過ぎないものとする。

2  実測の結果、本件土地の地積は、二六七・五一平方メートル(八〇・九二坪)であることが明らかとなり、売買代金総額は、

一〇六万四〇〇〇円×八〇・九二坪=八六〇九万八八八〇円

に確定した。

3  被告は、その後本契約の解除を主張し、期限までに契約を履行する意思のないことが明らかである。

よって、原告は被告に対し、売買契約に基づき、昭和六二年一二月二五日かぎり、原告から売買残代金八五〇九万八八八〇円の支払を受けるのと引換えに、本件土地・建物の引渡及びこれについて昭和六一年二月二八日売買を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実は全部認める。

三  抗弁

1  本契約締結に際し、原告は、被告に対して手付金一〇〇万円を交付した。

2  被告の代理人である訴外堀静は、昭和六一年一〇月二九日、原告に対して、手付倍戻しにより本契約を解除する旨の意思表示をした。

3  原告は、本契約の手付倍戻しによる解除を拒否していたところ、被告代理人木村峻郎及び同池原毅和は、昭和六一年一一月一四日原告に到達した書面により、手付の倍額の金員を支払うとの口頭の提供をした上で、本契約を解除する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

訴外堀静は、被告の代理人ではない。また同訴外人は、被告が解約の意向を持っていることを原告に伝えて調整を図ろうとしただけであり、解除の意思表示をした事実はない。

3  同3の事実は認める。

五  再抗弁

1  本契約には、次の事情から、売主である被告が手付倍戻しによる契約解除権を有しないとする旨の特約があったというべきである。

(一) 本契約締結の際、被告の解除権は全く話題にもならず、契約書にも、原告に交付された重要事項説明書にも、原告即ち売主の解除権については記載されているが、被告が解除権を留保する旨の記載はない。

(二) 原・被告双方とも、手付放棄又は手付倍返しにより本契約が解除される事態は、全く予想していなかった。

被告は、新たに取得する不動産の購入資金に、原告から支払われる本件売買代金を充てることを前提として、本契約を締結したのである。仮に、本件手付が解除手付であるとすれば、被告が買換物件について売買契約を締結し、その代金支払期限の直前に至って原告が手付放棄により本契約を解除することができることとなる。そうすると、被告は、買換不動産の売主との関係で契約違反となり、不測の損失を受ける結果となるが、その責任を原告に問えないこととなる。

被告がこのようなことを前提として本契約を締結したことはありえない。

(三) 手付の額が、売買代金額の約一・一六パーセントであり、解除権が留保されている場合としては低過ぎる。このような低額な手付によって自由に解除できるとすることは、不動産取引の慣行に著しく反する。本契約には、債務不履行の場合の違約金の定めがあり、その額は売買代金の一割である。理由を問わない解除権を留保する解約手付の額は、通常売買代金の二割程度とされることが多い。

(四) 契約の内容、特に目的物の引渡時期及び代金支払方法が被告の利益に偏している。仮に被告に解除権が留保されているとすれば、原告は、一年一〇か月の間、約八五〇〇万円を即座に支払可能の状態で準備しておく必要があり、かつ昭和六二年一二月二四日に至って被告が一〇〇万円を支払えば解除できることとなるが、この結果は極めて不当である。

2  原告は、左のとおり本件契約の履行に着手した。

(一) 原告は、昭和六一年三月八日、本件契約に基づいて、本件土地の境界の確定に立ち会い、かつ売買代金額を確定するために本件土地の実測を訴外早乙女照夫に依頼し、これにより地積及び売買代金額が確定し、同年六月、右早乙女に測量代金を支払った。

(二) 原告は、契約締結依頼引き続きいつでも売買代金支払可能な状態で待機し、かつ昭和六一年一〇月三〇日被告に到達した書面により本契約の履行を催告した。

(三) 原告は、被告を債務者として当庁に本件土地・建物の処分禁止の仮処分を申請し、昭和六一年一一月一一日仮処分決定を得、同月一三日仮処分登記がなされた。また原告は、昭和六二年一二月四日、本訴を提起した。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1は争う。

本契約締結の際に、原・被告間において、被告が手付倍戻しによる解除権を有しないこととする旨の話しは全く行われなかったし、契約書にも、本件手付が解約手付ではないとの文言はない。

契約書に、買主の手付放棄による解除権の記載があるのに、売主の手付倍返しによる解除権の記載がないのは、仲介業者がたまたまそのような不動文字を印刷した契約書を使用したからにすぎず、売主の解除権を否定する趣旨ではない。また被告は、手付額が低いために手付放棄による解除を心配していたのであり、被告が解約手付としない意思を有していた事実はない。本件手付の額が低いのは、本件土地・建物の引渡期日までの期間が異例に長いことを考慮したためであり、それなりの合理性があるのである。

2  同2冒頭部分は否認する。

同2(一)の事実は認める。

履行の着手があったというためには、代金の提供が必要であり、測量の事実をもって履行の着手があったということはできない。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因事実については当事者間に争いがない。

二  再抗弁2(一)の事実については当事者間に争いがない。

被告は、本件土地の境界の確定・測量が行われ、右境界確定・測量にかかった費用を原告が支払った程度では、なお本契約の履行に着手したものということはできないと主張するが、右はいずれも本契約の条項に基づき、本契約の履行として行われたことが明らかであるから、右事実をもって本契約の履行の着手があったといわなければならない。

三  以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

一 所在 東京都多摩市桜ヶ丘一丁目

地番 五七番九

地目 宅地

地積 二六四・〇七平方メートル

二 所在 東京都多摩市桜ヶ丘一丁目五七番地九

家屋番号 五七番九

種類 居宅・共同住宅

構造 木造瓦亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積 一階 一一五・〇九平方メートル

二階 六三・六〇平方メートル

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