大判例

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東京家庭裁判所 昭和32年(家)4831号 審判

申立人 大原はる(仮名)

相手方 大原一郎(仮名)

参加人 大原次郎(仮名)

主文

申立人は参加人と同居のままとする

相手方は由立人に対し昭和三一年七月一七日から申立人の生存中扶養料として毎月金三、〇〇〇円の割合による金員を毎月末日限り支払え。

理由

一、昭和三一年七月二日なされた本件申立の理由の要旨は、相手方は申立人の長男で、参加人は二男である。申立人はもと相手方と同居していたが、相手方は申立人の眼が悪くなつて働けなくなつたら申立人を邪魔にするようになり、参加人方に連れ出して置いて行つたまま面倒をみてくれない。申立人は無資産、無収入で相手方及び参加人の世話になるほかないが、参加人の生活も苦しいので、相手方に対し扶養料の支払いを求めるため本件調停申立に及んだ。と言うのである。

二、そこで審案すると本件記録中の戸籍謄本および大原時子審問の結果及び申立人(第一、二回)、相手方(第一、二回)、参加人各本人審問の結果並びに家庭裁判所調査官の調査を総合すると次のとおり事実が認められる。

申立人と相手方及び参加人の身分関係は申立人主張のとおりであつて、申立人は本年満七二才の高齢に加えて眼を悪くしてほとんど目が見えないような状態にある。申立人はもと相手方に同居し、相手方の扶養を受けていたが、相手方と参加人との間に参加人が建築した家屋の敷地の所有権をめぐつて紛争を生じた際昭和三一年四月二三日相手方が申立人を連れて参加人方におもむき参加人にも扶養の義務がある旨述べ申立人を置き去りにした。爾来申立人は参加人方に同居している。

申立人は無資産、無収入であるが申立人の生活費としては金五、〇〇〇円必要である。ところが参加人は現在会社員として金一八、〇〇〇円を得ているが妻と幼児二人をかかえていつぱいの生活をしており、申立人が同居して以来毎月金二、〇〇〇円の赤字を生じているので、参加人は申立人の生活費全額を負担することはできない状態にある。

一方相手方は肩書地附近に相当の宅地、農地等の不動産を所有して農業に従事し、年額約四〇〇、〇〇〇円の収入を得ており、昭和三二年九月現在○○銀行○○支店に九一、二二七円、○○信用金庫○○支店に四九〇、〇〇〇円の預金残高を有する。相手方の家族としては妻と二男三女と妹春代(申立人の長女)を扶養しており、相手方の長女美代子が精神分裂症で昭和三三年五月三〇日より約二ヶ月病院に入院し、当時月約一六、〇〇〇円を支出していたが、退院後は自宅療養しているので相手方の経済事情は右二ヶ月間を除いては申立人が同居中とさして変動はない。

以上の事実が認められる。

右認定のとおり申立人は扶養を必要とし、相手方、参加人は申立人の子であるから、いずれも申立人を扶養する義務のあることは明らかである。そこで扶養の方法としては申立人も参加人方に留まることを希望しているのでそのまま参加人方に同居することとし、相手方が申立人に扶養料を支払うのが相当と考えられる。

次に扶養料であるが、前記認定の諸事実並びに調査官の調査により認められる申立人には他に二女石川文子、三女小山スズ子があるが、文子は結婚し、スズ子は未亡人となり、いずれも経済的余裕のない生活をしていること及び相手方は申立人の夫たる亡父の資産を家督相続により取得したが、新民法施行後に相続が開始したならば当然申立人は配偶者相続権を有し、現在相手方所有の資産の一部は申立人に帰属していたであろうこと等を考え合わせると、相手方が申立人に支払うべき額は月三、〇〇〇円が相当であると判断される。

ところで扶養義務の性質については、旧法時の学説判例により扶養権利者が扶養義務者に対し扶養義務の履行を求めたときにおいて抽象的扶養義務が具体化するものと解釈されていた。この扶養請求権が具体化する時期については民法改正により、扶養の方法程度の決定が第一次的に当事者の協議、第二次的に家庭裁判所の審判に委ねられることになつた後においても旧法時と同様に解すべく、また扶養請求の手続が訴訟手続によると、家事審判手続によるとによつて、その実体上の権利の性質に変化をもたらしたものと考えるべきではなかろう。

然るときは相手方は申立人に対し、本件記録上相手方に申立人の扶養請求の意思表示が到達したものと認められる本件第一回調停期日の翌日である昭和三一年七月一七日より申立人の生存中毎月金三、〇〇〇円の割合による金員を毎月末日限り支払うべきものとする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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