大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京家庭裁判所 昭和46年(家)6223号 審判

申立人 下田沢陽子(仮名)

被相続人亡 下田沢あい(仮名)

主文

被相続人亡下田沢あいの清算後残存すべき相続財産である別紙財産目録記載の宅地に対する一三五分の四五の共有持分権を申立人に与える。

理由

一  当裁判所昭和四四年(家イ)第一、九五五号遺産分割事件記録昭和四四年(家)第一〇、八九二号相続財産管理人選任事件記録、昭和四五年(家)第七、六〇一号相続人捜索の公告事件記録並びに本件記録中の各戸籍謄本および申立人に対する当裁判所の審問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

1  被相続人亡下田沢あいは、昭和二八年一一月三日東京都新宿区○○△丁目△△番地の一において死亡したが、同人には相続人たるべき配偶者、子およびその代襲者並びに直系尊属、兄弟姉妹およびその代襲者のいずれも存在しないこと。

2  被相続人亡下田沢あいの相続財産としては、先に昭和二六年二月一〇日に死亡した夫である亡下田沢幸之助の所有した別紙目録記載の宅地に対する三分の一すなわち一三五分の四五の共有持分権のみであるが、当裁判所は昭和四五年一月二一日相続財産管理人として弁護士伊地知重厚を選任し、同管理人は、同年四月一一日相続債権者および受遺者に対する請求申出の催告(同年六月一一日催告期間満了)をしたところ、催告期間内に相続債権者および受遺者として請求申出をした者はなく、次いで当裁判所は同年八月一七日相続人捜索の公告(昭和四六年三月一〇日公告期間満了)をしたところ、公告期間内に相続権を主張する者はなく、右公告期間満了と同時に相続人の不存在は確定したこと。

3  申立人は、前記亡下田沢幸之助と亡安中みきとの間の長男である亡下田沢栄治(昭和四三年七月五日死亡)およびその妻亡下田沢扶美江(昭和四三年九月三〇日死亡)の間の長女であり、被相続人は、前記亡下田沢幸之助が大正一五年三月二〇日安中みきと協議離婚した後、同年三月二四日右亡下田沢幸之助と婚姻した同人の後妻であること。

4  被相続人は、右亡下田沢幸之助と婚姻した後は、夫亡下田沢幸之助の長男である前記亡下田沢栄治、その妻下田沢扶美江夫婦と長く同居して生活し、右亡下田沢栄治夫婦と実親子同然の関係にあり、その後昭和四年二月一七日右夫婦の間の長女として生まれた申立人を実の孫同様にいつくしみ、右夫婦とともに養育に当つたこと。

5  右亡下田沢栄治夫婦は、亡下田沢幸之助、被相続人夫婦が老齢に達した後は、それぞれその死亡するまで扶養に努め、また申立人は実の祖父である亡下田沢幸之助のほか、被相続人をも祖母同然に取り扱い、父母とともにその身の廻りの世話をし、とくに祖父下田沢幸之助が死亡した後は、病気がちであつた被相続人の療養看護をその死亡するまで約二年九箇月間担当したこと。

6  右下田沢幸之助は、前記の如く昭和二六年二月一〇日に死亡し、その相続が開始し、同人の遺産である別紙目録記載の宅地を、配偶者として相続人である被相続人が三分の一すなわち九分の三、長男として相続人である亡下田沢栄治(昭和四三年七月五日死亡)が九分の二、長女として相続人である亡下田沢はま(昭和三七年三月二三日死亡)が九分の二、下田沢はまの夫で右下田沢幸之助の養子として相続人である亡下田沢杉造(昭和四四年二月五日死亡)が九分の二の各持分をもつて、共有することとなつたが、右各共同相続人間で遺産分割の協議をすることなく、それぞれ前記の如く死亡したこと。

7  右亡下田沢杉造の四男である下田沢広幸は、他の共同相続人を相手方として昭和四四年四月一二日当裁判所に対し別紙目録記載の宅地の遺産分割を求める旨の調停申立(昭和四四年(家イ)第一、九五五号)をし、同事件の調停は現に係属中であるが、現在右宅地は、申立人、その夫で不田沢栄治の養子である下田沢留吉、下田沢杉造、同はまの孫である下田沢喜好、下田沢杉造、はまの三女相川もと、下田沢杉造、同はまの四男である下田沢広幸が、それぞれ一三五分の一五、下田沢杉造、同はまの孫である小宮春男、本間育子、河合道子、原四京子、松岡恵がそれぞれ一三五分の三、並びに被相続人亡下田沢あいの相続財産法人が一三五分の四五の持分をもつて共有していること。

二  前記認定事実によれば、申立人が分与を求めている相続財産は、別紙目録記載の宅地に対する一三五分の四五の共有持分権であるが、かかる共有持分権が、民法第九五八条の三による特別縁故者への分与の対象となるか否かについては、疑問の存するところである。民法第二五五条によれば、共有者の一人がその持分を抛棄したとき、または相続人なくして死亡したときは、その持分は他の共有者に帰属するのであつて、したがつて本件においても、相続人の不存在が確定した昭和四六年三月一〇日をもつて、被相続人が別紙目録記載の宅地に対して有する共有持分権は、他の共有者にそれぞれの持分の割合をもつて当然に帰属し、特別縁故者に対する分与の対象とはなりえないのではないかとの疑問があるのである。

しかしながら、もともと民法第二五五条後段が、共有者の一人が相続人なくして死亡したとき、その持分が他の共有者に帰属すると規定しているのは、本来相続人の不存在が確定すると、相続財産は国庫に帰属することになり(旧民法第五編一、〇五九条第一項、昭和三七年法律第四〇号による改正前の民法第九五九条)、したがつて共有持分権も相続財産として国庫に帰属し、その結果国と他の共有者との共有関係が生じ、徒らに権利関係が複雑になり、不便であるので、むしろ他の共有者に帰属させる方がよいという政策的配慮から、とくに国庫帰属に対する例外を設けたものと解せられる。

ところが、昭和三七年法律第四〇号は、民法第九五八条の三の規定を新設し、家庭裁判所は、相当と認めるときは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があつた者が相続人捜索の公告期間満了後三箇月以内に、請求をしたときは、これらの者に対し、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができることとし、この相続財産分与のため、相続財産の国庫帰属の時期を、相続人の捜索の公告期間満了時すなわち相続人不存在の確定の時期としていた民法第九五九条の規定を改め、右民法第九五八条の三の規定によつて処分されなかつた相続財産が国庫に帰属する、すなわち相続人捜索の公告期間満了後三箇月以内に特別縁故者からの分与請求がないときは、三箇月の期間満了の時、分与請求があつても、申立を却下したときは、申立却下の審判が確定した時、一部分与したときは、その分与の審判が確定した時に、処分されない相続財産は国庫に帰属するものとしたのである。

そうだとすると、民法第二五五条後段の規定も、民法第九五八条の三の規定も、いずれも相続入不存在による相続財産の国庫帰属の原則に対する例外を認めたものではあるが、その例外となる相続財産や権利取得者の範囲において後者の規定が遙かに広く、特別縁故者をとくに保護しようとする配慮が窺われる点、しかも民法第九五八条の三の規定の新設に伴い、民法第九五九条の国庫帰属の時期が、相続人不存在確定の時から、相続財産を処分しないことが確定する時期まで延ばされた点等からして、右民法第九五八条の三の規定は明言していないが、民法第九五八条の三の規定は民法第二五五条後段の規定に優先し、被相続人の有した共有持分権もただ単に清算の対象となるだけでなく、特別縁故者に対する分与の対象ともなり、民法第九五八条の三の規定により処分されなかつたときのみ、民法第二五五条により他の共有者に帰属するものと解するのが相当である。

三  当裁判所は、右の見解に立ち、一に認定した事実からすると、申立人は、被相続人と長年生計を同じくし、事実上祖母と孫との関係にあつて、かつ被相続人の療養看護に努めた者というべく、したがつて、清算後残存すべき相続財産の全部である別紙目録記載の宅地に対する一三五分の四五の共有持分権を申立人に対し分与するのが相当である。

よつて主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com