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東京簡易裁判所 昭和29年(ハ)944号 判決

原告 古川浩

右訴訟代理人弁護士 岡部庄次

被告 帝国産金興業株式会社

右代表取締役 石川博資

被告 帝産オート株式会社

右代表取締役 石川博資

右両名訴訟代理人弁護士 中沢喜一

椎津盛一

丁野暁春

主文

被告帝国産金興業株式会社は原告に対し同会社のろ第〇六七五号十株券及びろ第〇六七六号十株券の株式を原告名義に書換手続をなすべし。

被告帝産オート株式会社は原告に対し同会社の第二四〇六号五十株券、第二四〇七号五十株券、第一一〇八号五十株券及び第〇五七四〇号五十株券の株式を原告名義に書換手続をなすべし。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求原因として

一、被告帝国産金興業株式会社に対するもの

(イ)  原告は訴外広田証券株式会社を通じ昭和二十九年七月二十七日被告会社の、訴外米井節次郎名義、ろ第〇六七五号十株券及びろ第〇六七六号十株券の二枚の株式を前記米井節次郎の譲渡証書付で買受けた。

(ロ)  原告は昭和二十九年七月二十九日右株券二枚、その譲渡証書原告の印鑑届及び株式名義書換請求書を被告会社に提出して原告名義に書替を求めた。

(ハ)  しかるに被告会社は昭和二十九年十一月二十二日名義書換をしないで原告が提出しておいた株券その他の書類を原告に返送してきた。よつて被告会社にその名義書替を求める。

二、被告帝産オート株式会社に対するもの

(イ)  原告は訴外広田証券株式会社を通じて昭和二十八年七月、被告会社の訴外塚平三禧夫名義第二四〇六号五十株券及び第二四〇七号五十株券の二枚を右塚平三禧夫の譲渡証書付で買受けた。又原告は訴外昭和証券株式会社を通じて昭和二十八年十二月被告会社の訴外柴田徳三名義第一一〇八号五十株券及び第〇五七四〇号五十株券の二枚を訴外柴田徳三の譲渡人としての裏書捺印があり、且つ同人の譲渡証書付をもつて買受けた(右訴外柴田徳三の譲渡証書は会社名、株数、譲受人名、年月日等は右株券の所持人にその補充を委せられ空欄のままになつていたので、原告においてこれを補充した。)。

(ロ)  原告は昭和二十八年七月右塚平三禧夫名義の株券を、同二十九年一月右柴田徳三名義の株券二枚を、いずれもその譲渡証書、原告の印鑑届、株式名義書換請求書と共に被告会社に提出して原告名義に書替を求めた。

(ハ)  しかるに被告会社は昭和二十九年十一月二十二日名義書替をしないで、原告が提出しておいた株券その他の書類を原告に返送してきた。よつて原告は被告会社に対しその名義書換を求める。

なお被告等の抗弁に対し

第一につき

原告が被告等主張の意味における会社荒しの日本屈指の巨魁であることは否認する。原告が大小五百以上の会社の株主であること昭和日日新聞を発行主宰し、会社問題の理論考察、株主読本、続株主読本を発行し、これを配布販売したことは認めるが、その余の事実中原告がなしたと主張する行為は否認、その余は不知、

第二につき

訴外亀掛川が死亡したこと、訴外御喜家安太郎はもと原告の使用人であつたことは認めるが、原告がなしたと主張する行為は否認その余は不知、

第三につき

本件が会社荒しを目的とする株式の譲受であることは否認する。

その余は不知、法が株主に対し原告主張のように多くの権利又は権限を認めているのは会社の公正健全な発展を図るためである。

原告のいわゆる会社荒しのみを目的とし不当の利得を貪ぼることだけを目的として株式を譲受ける者というのが原告の本件株式譲受を指すものとすればそれは否認する。被告等主張の権利濫用の問題は被告等会社が株式の名義書換をした後その株主がその権利を行使したときに、それが権利の濫用であるかどうかの問題であつて、それ以前において、株式の名義書替を拒否し得る理由とは考えられない。次に原告が被告会社の株式を譲受けその名義書換を求めたことが会社荒しの意図をもつてなされたものであるとの主張は否認する。又名義書換を拒否し得る自衛権云々の問題は賛成できない。

第四につき

原告は被告等に対し社会悪を行つたことはない。将来行うかも知れないというようなことによつて株式の名義変更を拒否し得るものとは思われない。被告主張のような理由で株式名義変更を拒否する被告等会社の態度こそ社会の秩序を破り、株主の権利を違法に蹂するものと思料すると述べた。

被告等は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、その答弁として

一、被告帝国産金興業株式会社(以下帝国産金という)の答弁

(イ)  原告の請求原因第一項(イ)の事実は全部争う。

(ロ)  同項(ロ)記載の事実は認める。

(ハ)  同項(ハ)の記載事実中原告に対し昭和二十九年十一月二十四日株券を返還した事実は認めるが、その余は否認する。

二、被告帝産オート株式会社(以下オートという)の答弁

(イ)  第二項の(イ)記載の事実は全部争う。

(ロ)  同項の(ロ)記載の事実は認める。

(ハ)  同項(ハ)の記載事実中被告オートが原告に対し昭和二十九年十一月二十四日株券を返還した事実は認めるが、その余は否認する。

なお抗弁として

第一、原告はいわゆる会社荒しを業とする者であり、日本における屈指の巨魁である。

一、ここに会社荒しというのは総会屋、会社ゴロ、一株株主とも別称され、多数会社に株主として入り込み、法律が予想している通常の株主としてその権利を行使するのではなく、株主としての地位を利用否濫用して会社に対しイヤガラセ、恐喝、脅迫等をなし、特に株主総会に際しては会社の帳簿書類等の閲覧権又は議決権を悪用して、総会の正常な運営進行を乱し、或はかかる行為に及び又はかかる結果を惹起せしむべき旨威嚇することにより会社より不当の利益を貪り、更にまた平素においても右のような会社荒しであることを自ら誇示することにより、自己の取得せる株式を会社側に高価で売りつけ、或は自己の経営している新聞、雑誌、通信、各種研究会(甚だ奇怪な研究会であるが)等に会社をして止むを得ず協力せしめて広告料、賛助料その他の名義で金員を出捐せしめ若し意に満たないときは右新聞等において痛烈なる非難攻撃を加える等、要するに会社の株主たる地位につき、かくあるべしと法律の予想せるところより全然逸脱して、これを自己のみの不正不当の利益のために行使することを常習又は業とする者を指すのである。

右のような会社荒しは今次の敗戦前においても存在したが、戦後の会社法の改正により株式譲渡の自由が認められ、一方この自由のもたらす弊害につき、これを防止する法規に欠くるところあつたため、彼等の跋扈跳梁は益々増大し、今や彼等は会社株主のみならず一般社会に対しても深刻広大な脅威と損害を与えつつある。

二、原告は右の意味に於ける会社荒しの日本屈指の巨魁であり、日本各地に亘る大少五百以上の会社の株主である。

なお原告は既に恐喝罪により五度、名誉毀損罪により二度、銃砲火薬取締法違反により一度というように八犯に及ぶ前科を有する者であり、又自ら昭和日々新聞を発行主宰し、会社問題の理論考察、株主読本等を発行して自己に服せず、或は刃向う者に対しては右新聞紙上において罵詈ざんぼうを浴せて筆誅を加えるのみならず前示の書冊を普く配布又は販売する等まことに徹底したやり方をしている。

第二、原告は本件株式を会社荒しをなす目的のために譲渡を受けたものである。

一、原告が本件株式を譲受けるに至つたのは、原告と同職の訴外亡亀掛川紀夫がその頃原告に対し「被告等会社の株式を買えさえすれば自分が仲に入つて、君が経営する昭和日々新聞の輪転印刷機の一台位(当時の価額七十万円位)を買わしてやる」と提言したことに基き、右亀掛川と通謀して被告等会社を脅迫し、右資金を被告等会社から強取せんとしたものである。

被告等会社は右のような裏面の事情を知らず、唯原告の悪名を聞き、ひたすら原告の株主としての入社を恐怖していたところ、たまたま右亀掛川が来社し「自分が何とか解決するから、しばらく名義書換をしないでくれ」といつたので、その解決を同人に依頼し、その斡旋を待つことにしたのである。

しかるところ右亀掛川は昭和三十年頃死亡し、本件株式の問題は遂に本件訴訟に発展したが、この間昭和二十九年五、六月頃原告は訴外御喜家安太郎(昭和二十九年頃迄原告の使用人として原告の東京方面の総会屋に関する仕事を担当していた者)から右の事実を知るに至つたため、はじめて本訴においてこれを主張するに至つたわけであつて、原告の本件株式の取得は正に右のような不正の目的に基くものである。

なお右のような事実と被告等会社は何れも年来無配当で業績の上らない会社であり、又その株式は上場もされていない程のものであること、原告のような五百以上もの会社の株式を持つている者が、単なる通常の株式取得者として本件のような僅少な株式を取得することは絶対に考えられないことを併せ考えると原告は正にその本業遂行の一端として本件株式を取得したものといわざるを得ない。

第三、右のような株式譲渡の法的評価について

一、本件の場合のような会社荒しを目的とする株式の譲受行為がどんな効力をもち得るかは問題であるが、先ず想起されることは新商法の新理論である株式譲渡自由の原則により、かかる譲受も有効であるとの考え方である。

しかしながらいわゆる株式譲渡の自由の原則にも必ずその適用の限度があり、問題となるのはその限度如何である。而して限度を定めるにつき最も重要なことはいわゆる会社荒し行為なるものは法律上いかに評価さるべきかということである。

(イ)  そもそも株主は会社に対し株主総会の議決権、右決議の取消又は無効確認の訴権、新株発行差止請求権等その他商法上種々多様な権利又は権限をもつているのである。

(ロ)  右の権利又は権限は株主の会社に対する社員又は機関たる重大な地位に応じて法律が認めたものであり、それも会社を管理支配することを内容とする非財産的のものであつて、決して株主個人のために個人的特殊の財産的利益を確保擁護せんとするものではない。即ち法がかかる権利又は権限を認めたのは会社そのものの公正健全なる発展を図るためであるから、株主はこれを自己の特別の利益のため行使すべきではなく、これを会社自体の利益のために行使すべきである。

換言すれば、株主は株主たる地位又は機関たる地位に即応して会社の利益のために権利又は権限を行使すべきであつて、かかる株主たる地位を離れて唯自己のみの利益のためにこれを行使すること、即ち株主権に名を借りて純個人的な自己のみの利益をはかるような行為は許されないものである。

(ハ)  以上の考え方に立つて本件を見ると、唯会社荒しをなすことにより不当の利益を貪ることのみを目的とする株式の譲受及びその必然の結果である名義書替の請求については直ちに株式譲渡自由の原則が適用されることに大いなる疑いがあるといわなければならない。否その適用は却つて公共の福祉を害し、不道徳者を擁護する結果を生ずるものと思う。

二、次に会社の自衛という立場からみて、会社荒しの法的評価を試みたい。

(イ)  思うに人間はある目的を達するため各種の復数人の団体を組織するものであるが、右の団体の存立又は目的遂行は各構成員の誠実な協力を前提とするものであるから、一旦成立した団体に第三者の加入を許すかどうかは、まことに重大な問題である筈である。故に公益社団においてはその定款の冒頭に必ず社員たる資格の得喪変更に関する規定を記載すべきことが要請されており、又組合については新加入者と総組合員との合意が必要だとされている。即ち第三者の加入は決して自由ではないことを原則としている。

(ロ)  なお、一方において団体中に団体の存立目的を害するような異分子が存在することは一般にいやしくも団体である以上不当な新団体員の加入の拒否乃至現団体員の除斥をなし得るを原則とする。而してこのことは社団の一種である株式会社についても無視又は軽視することができない原理であると思う。

従つて株主たる立場を悪用して会社を喰物にしようとするため株式を譲受けた者に対しては、右株式譲渡自由の原則は少くとも当該会社に対する関係においては全然無関係であり、当該会社としては前示団体の自衛の理念に従つてその名義変更を拒むことが許されることと思う。

第四、被告等会社が本件名義変更を拒否する理由

一、前述したところを綜合すると会社荒しを目的とする本件譲渡は国家社会の一般的な利益又は倫理観念(支配的な国民意識乃至公正な考え方をするあらゆる人の道義感情)に著しく反するものというべきであるから民法第九十条により無効というべきである。但しその譲渡人が善意であるときは取引の安全保護の必要上当該譲渡行為は有効であるが、譲受人はこれを会社に対し対抗できないもの即ち会社に対する関係において無効と解すべきものと思う。従つて原告の本件株式の譲受は被告等会社に対する関係においては無効であるので、被告等会社は原告の本件名義書替請求を拒絶し得るわけである。

二、仮りに原告の本件株式の譲受が被告等に対し無効でないとしても、原告が前記のような意図をもつて被告会社の株主となるため、本件名義変更を求めることは民法第一条にいわゆる公共の福祉に遵わないものであり、又信義誠実の原則に反し権利の濫用となることは明白であるから、被告等会社はこれに応ずる義務はないと述べた。

理由

原告本人の尋問の結果と右によつて成立を認めることができる甲第二号証の四≪省略≫を綜合すると、原告がその主張の頃に原告主張の被告帝国産金興業株式会社の十株券二枚の株式を株券の名義人である訴外米井節次郎から譲渡証書によつて譲り受けたこと並に右同様原告主張の頃に原告主張の被告帝産オート株式会社の五十株券四枚の株式を右株券の名義人である訴外塚本三禧夫及び柴田徳三からいずれも譲渡証書によつて譲り受けたことを認めることができる。而して原告はその主張の頃に被告等会社に対し前記の株券を譲渡証書、原告の印鑑届、株式名義書替請求書と共に提出し、原告名義に書換を求めたけれども被告等会社がこれに応じなかつたことは被告等会社の争わないところである。

よつて被告等会社の抗弁につき判断するに

被告等会社の提出に係る乙号各証を綜合すると、大旨被告等会社の主張事実を肯定することができるし、その所論は傾聴に値いする多くのものを含んでいることを否定しがたいところである。而して被告等会社が原告の前歴等から考えて、本件株式の名義書換に応じないことも或る程度無理からぬことと思われるし、現行商法が絶対的な株式譲渡自由を原則としていることについては少からぬ批判もあるけれども、結局現行法の下においては本件原告の株式譲受行為はその効力を否定し難いものと考える。

従つて前記のように原告が本件株券を印鑑届、株式名義書換請求書と共に被告等会社に提出し、その株式の名義書換を請求した以上、被告等会社はこれを拒むことはできないものと考える。

よつて原告の本訴請求を認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木佐治彦)

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