大判例

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東京高等裁判所 平成11年(ネ)2590号 判決

控訴人

株式会社霞台カントリークラブ

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

関谷巌

宗像雄

加々美博久

長島良成

野崎晃

望月真

被控訴人

株式会社サム・エンタープライズ

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

野中信敬

久保田理子

土井智雄

設楽公晴

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

一  本件は、被控訴人が、C(以下「C」という。)から原判決別紙株式目録記載の控訴人会社の株式(以下「本件株式」という。)を買い受けたと主張して、控訴人に対し、株主名簿の名義書換手続を求めた事案である。原判決は、被控訴人の請求を認容したので、これに対して控訴人が不服を申し立てたものである。

二  右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

1 原判決は、Cが、平成八年四月五日、被控訴人に対し、本件株式を二億円で譲渡する旨の売買契約(以下「本件売買」という。)を結び、同月二六日ころ、売買の履行として株券を引き渡したと認定したが、事実を誤認したものである。

控訴人は、定款を変更して株式譲渡制限の定めを設けたが、これに伴い、旧株券の提出期限を平成八年五月七日と定め、株主名簿上の株主に通知した。被控訴人は、上記の提出期限までに株主名簿を自己名義に書き換えるため、Cと通謀して、売買契約がないのに、あるように仮装して売買契約書を作成したものである。また、Cの代理人D弁護士(以下「D弁護士」という。)が被控訴人の代理人野中信敬弁護士(以下「野中弁護士」という。)に株券を交付したとしても、これは、売買契約の外形を整えて名義書換請求をするために預託されたにすぎないものであって、売買の履行としてされたものではない。

2 仮にC・被控訴人間に合意があったとしても、その時点では、株券の交付も代金の支払もなかったから、売買契約ではなく、売買の予約契約にすぎないものである。被控訴人がCに売買代金の一部一億円を払ったのは、平成八年五月二三日であるから、それより前に本件株式が被控訴人に移転したとは考えられない。したがって、被控訴人は、控訴人に名義書換請求をした同月二日の時点では、まだ株主でなかったから、控訴人が名義書換請求を拒否したことは、正当である。また、控訴人の株式譲渡制限の定めは同月七日の経過により効力を生じたから、その後に本件株式の譲渡を受けた被控訴人は、控訴人の取締役会の承認がない以上、控訴人に対し本件株式の譲受を対抗することはできない。

3 仮に被控訴人がCから本件株式を取得したとしても、その後、被控訴人は、E(以下「E」という。)に対し、本件株式を担保提供した。そして、Eは、担保権を実行して本件株式を取得し、さらに第三者に譲渡した。したがって、被控訴人は、もはや株主ではないから、名義書換を請求することはできない。

(被控訴人の当審における主張)

1 被控訴人は、平成八年四月五日、Cから本件株式を二億円で買い受ける旨の本件売買の合意をし、売買契約書を作成した。Cは、それより前、本件株式を第三者に譲渡していたが、これを合意解約して、本件売買をした当日、被控訴人に対し、指図による占有移転により本件株券を引き渡した。また、Cの代理人D弁護士は、平成八年四月二六日、被控訴人の代理人野中弁護士に対し、本件株券を現実に引き渡した。そして、被控訴人は、平成八年五月二三日、D弁護士に小切手で売買代金の内金一億円を支払った。残代金一億円は、名義書換が完了したら支払う約束になっている。

このように、被控訴人は、Cとの本件売買により、本件株式を取得したものである。代金の支払が後日になったからといって、当初の本件売買が虚偽のものであるということにはならない。被控訴人及びCは、売買を仮装しなければならない事情などない。

2 被控訴人は、平成八年五月二日当時、株主であったのに、控訴人は、正当な理由もなく、名義書換を拒絶したものである。

3 被控訴人は、本件株式を取得後、これをEに担保として預けたが、担保権の実行はされていない。また、Eは、第三者に対し、本件株式を担保提供したにすぎない。したがって、本件株式の所有者は、現在でも、被控訴人である。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、被控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。

1  原判決挙示の証拠によれば、次の二点を除き、原判決の第三の一に記載の事実が認められる。

(一) D弁護士が平成八年四月二六日ころ野中弁護士に対し本件株券を交付した事実が認められる。原判決は、これを「本件売買の履行としてされたもの」と認定したが、当裁判所は、「本件売買の履行としてされたものではない」と事実認定する。その理由は、後記4のとおりである。

(二) 被控訴人代表者Bが、野中弁護士の事務所を訪ねて、同事務所で、本件株券を受け取り、Eから本件株券を担保に二億円を借り受けた上、この二億円をFに渡したのは、原判決は、「平成八年四月あるいは五月ころ」と認定した。しかし、当裁判所は、右の時期は、「野中弁護士及びCが控訴人に対し名義書換請求をして拒絶された平成八年五月二日の後である同月二〇日すぎころ」と事実認定する。その理由は、野中弁護士が陳述書(≪証拠省略≫)でこれは平成八年五月二四日のことであると述べていることと、Fは、二億円を受け取った直後、そのうちの一億円をCに払い、残りの一億円は、名義書換の問題が解決したら払うとの約束があったというのであるから、Fが二億円を受け取ったのは、野中弁護士らが控訴人に対し名義書換請求をした後のことであると考えられるからである。

2  右1の認定事実によれば、Cと被控訴人とは、平成八年四月五日、本件株式を二億円で売買するとの合意をしたものと認められる。

このときに株券の交付や代金の支払がなかったからといって、売買契約が仮装のものであると認めるに足りる証拠はなく、また、予約契約にすぎないとの証拠もない。この点に関する控訴人の主張は、採用することができない。

3  株式の譲渡には、その旨の合意のほか、株券の交付が必要である。被控訴人は、本件売買の合意をした平成八年四月五日、Cから指図による占有移転により本件株券の引渡しを受けたと主張する。

しかし、売買契約書(≪証拠省略≫)では、株券交付と代金二億円の支払とは引換えである旨定められており、代金の一部一億円が支払われたのは、平成八年五月二三日になってからである。また、原審でのCの証言によれば、Cは、Gら数名の者に対する借金の代物弁済として本件株券を交付していたが、その後、被控訴人からの売買代金でGらに対する借金を返済することにしたこと、しかし、Gらは、Cから実際に貸金の返済を受けるまでは、なおCに対する債権の担保として本件株券を預かっていたことが認められる。そして、被控訴人の代理人野中弁護士は、平成八年四月二六日、Cの代理人D弁護士から本件株券の交付を受けているのであって(交付の趣旨については、次の4のとおりである。)、Gらから直接交付を受けたわけではない(指図による占有移転があれば、Gらから直接交付を受けるはずである。)。そうすると、CとGらとの間の本件株券についての代理占有関係は、被控訴人が占有移転があったという平成八年四月五日以降もなお存続していたものと認められる。したがって、被控訴人主張の指図による占有移転の事実を認めることはできない。

4  次に、被控訴人は、D弁護士が平成八年四月二六日野中弁護士に本件株券を現実に引き渡したと主張する。そして、被控訴人主張のとおり本件株券の引渡しがあったことは、前記1で認定したとおりである。

しかし、前記1の認定事実と証拠(≪証拠省略≫)によれば、次の事実が認められる。

被控訴人は、平成八年四月五日、Cから本件株式を二億円で買い受ける旨の合意をした。しかし、被控訴人は、二億円をなかなか準備することができなかったので、株券の交付を受けることができなかった。ところが、控訴人は、平成八年三月二六日、定款を変更して、株式譲渡には取締役会の承認を要する旨の譲渡制限の定めを新設する旨の株主総会決議をし、旧株券の提出期限を平成八年五月七日と定めた。したがって、同日の経過によって、株式譲渡制限の定めが効力を生ずることになっていた。被控訴人の代理人野中弁護士は、このことを承知しており、株式譲渡制限の定めが効力を生ずる前に名義書換をしておかないと、被控訴人の株主資格が問題にされるので、とりあえず名義書換をしてしまうことが先決であると考えた。そこで、野中弁護士は、平成八年四月二六日、Cの代理人であり、同人から株券を預かっていたD弁護士に対し、事情を説明した上、金は必ず払うからと述べて本件株券の交付を求めた。D弁護士も弁護士仲間である野中弁護士を信頼して、野中弁護士に本件株券を交付した。野中弁護士は、D弁護士に預り証を交付した。野中弁護士は、平成八年五月二日、控訴人に対し、この株券を提示して名義書換を請求したが、拒絶された。

なお、≪証拠省略≫には、野中弁護士が、平成八年四月二六日、D弁護士に対し、本件株券と交換に担保の趣旨で被控訴人振出の一億円の小切手を渡したが、後日依頼返却された旨の記載部分がある。しかし、被控訴人は、平成八年五月二〇日すぎころにEから二億円を借り受けるまでは、資金繰りの目処がついていなかった。D弁護士の陳述書(≪証拠省略≫)では、一億円の小切手の交付を受けた時期を明確には述べていない。また、訴え取下げ前の第一審原告Cが、売買代金の一部として受け取り、その後依頼返却した被控訴人振出の一億円の小切手であるとして提出した≪証拠省略≫は、平成八年五月二一日振出のものである。これらのことを考えると、野中弁護士が平成八年四月二六日D弁護士に対し本件株券と引き換えに一億円の小切手を交付したとの右記載部分は、採用することができない。

右の認定事実によれば、D弁護士が平成八年四月二六日野中弁護士に本件株券を交付した趣旨は、被控訴人が株式譲渡制限の定めが効力を生ずる平成八年五月七日の前に名義書換をするために株券が必要であったので、弁護士同士の信頼関係に基づき、名義書換手続に使用するとの目的のために一時的に預けたにすぎないものと認めるのが相当である。

被控訴人は、売買契約の履行として本件株券が引き渡されたものである旨主張する。しかし、当事者間で二億円で売買するとの合意をしたのに、売主の代理人が売買代金を一銭も受け取らず、しかも、代金支払の履行確保の措置を講ずることもなく、目的物である本件株券を「売買契約の履行として」買主の代理人に引き渡してしまうということは、通常考えられない。野中弁護士は、D弁護士に対し、本件株券と引換えに「預り証」を交付している。D弁護士も、野中弁護士は必要が生じたら本件株券をCに返還するといっていたと述べている(≪証拠省略≫)。これらのことは、右の引渡しによって株主の地位の移転が生じないことを、売買当事者間で了解していた事実を示すものである。

以上の次第であって、被控訴人の右主張は、いずれも採用することができない。

5  そうすると、前記1の認定事実によれば、Cが被控訴人に本件株券を交付したのは、被控訴人代表者Bが、Fに二億円を渡して、本件株券を受け取った平成八年五月二〇日すぎころであると認められる。

したがって、Cから被控訴人への本件株式の譲渡が行われたのは、平成八年五月二〇日すぎころであるということになる。そうすると、控訴人が、平成八年五月二日のC及び野中弁護士からの名義書換請求を拒絶したことは、正当な理由がある。

そして、本件株式の譲渡について控訴人の取締役会の承認があったとの主張立証はないから、本件株式の譲渡は、当事者間では有効であるが、控訴人との関係においては、効力を生じていないものである。

したがって、被控訴人は、控訴人に対して、本件株式についての名義書換を請求することはできない。

なお、本件株式の譲渡を受けた被控訴人は、控訴人に対し、譲渡を承認しないときは、本件株式の買受人を指定すべきことを請求することにより、買受人に対し時価で本件株式を譲渡することができる(商法二〇四条ノ五)。仮に控訴人が株式譲渡を承認しなくとも、被控訴人は、この手続により、本件株式の時価相当額を回収することができるものである。

二  したがって、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるからこれを取り消し、被控訴人の請求を棄却すべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 菊池洋一 江口とし子)

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